説明

固定治具

【課題】建造物の基礎に形成される貫通孔内に管体を固定するための固定治具であって、モルタル等のシーリング材を用いることなく、管体と基礎との間に生じる隙間部分を容易に遮蔽することのできる固定治具を提供する。
【解決手段】建造物の基礎に形成される貫通孔内に管体を固定するための固定治具1は、弾性材料により形成される筒状の部材であり、第1端部2から第2端部3に至るスリット状の接離部5を備えるとともに、接離部5を離間状態とすることで、管体の径方向外方から管体の外周面に装着可能となっている。固定治具1の外周面には、第1端部2側から第2端部3側へ向かって縮径するテーパ面4が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の基礎に形成される貫通孔内に管体を固定するための固定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の基礎の施工時において、給排水用の配管やケーブル類を収容する案内管等の管体を基礎に貫通させて設置する場合がある。この場合、予め案内管の外径よりも大きな貫通孔を基礎に形成しておき、同貫通孔に管体を挿通させることにより、基礎に管体が設置される。また、貫通孔内において、管体と基礎との間に生じる隙間部分は、屋内側への白蟻の進入経路となり得ることから、隙間部分全体にモルタル等のシーリング材を充填して隙間部分を遮蔽するということが一般的になされている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される施工方法では、次のようにして基礎の構築、及び基礎に対する管体の設置がなされている。まず、基礎用の型枠内の所定位置に貫通スリーブを配置した状態で型枠内にコンクリートを打設することにより、貫通孔を有する基礎を構築する。次いで、管体と基礎との間に生じる隙間部分にスポンジやウレタン材からなるバックアップ部材を詰め込むことにより基礎に対して管体を固定し、さらに隙間部分にシーリング材を充填して隙間部分を遮蔽する。特許文献1の施工方法によれば、管体と基礎との間に生じる隙間部分にバックアップ部材が詰め込まれることから、シーリング材の使用量を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−047952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の施工方法は、シーリング材の使用量を低減できるという利点があるものの、上記隙間部分の最終的な遮蔽はシーリング材の充填によって行われている。基礎に形成される貫通孔内の所定位置に管体を固定した状態で、上記隙間部分にシーリング材を充填する作業は非常に煩雑な作業であるとともに、シーリング材が固化するまでの放置時間が必要となることから作業性が悪いという問題がある。
【0006】
この発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、建造物の基礎に形成される貫通孔内に管体を固定するための固定治具であって、モルタル等のシーリング材を用いることなく、管体と基礎との間に生じる隙間部分を容易に遮蔽することのできる固定治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の固定治具は、建造物の基礎に形成される貫通孔内に管体を固定するための固定治具であって、弾性材料により形成される筒状の部材であり、第1端部から第2端部に至るスリット状の接離部を備えるとともに、前記接離部を離間状態とすることで、前記管体の径方向外方から前記管体の外周面に装着可能とし、前記第1端部側から前記第2端部側へ向かって縮径するテーパ面を外周面に備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の固定治具は、建造物の基礎の貫通孔内に挿通された管体の外周面と貫通孔の内周面との間に、弾性変形しつつ圧入されることにより、貫通孔内における管体の位置決めを行うとともに、管体と基礎との間に生じる隙間部分の遮蔽を行うものである。本発明の固定治具の構成によれば、スリット状の接離部を離間させて固定治具を開環状態とすることが可能であり、これにより、基礎の貫通孔内に挿通された管体の外周面に対して、その径方向外方から容易に固定治具を装着することができる。
【0009】
また、管体の外周面と貫通孔の内周面との間に固定治具を圧入する際、固定治具の外周面に形成されるテーパ面が案内面となって固定治具を容易に圧入することができる。このように、上記構成によれば、基礎に形成される貫通孔内に管体を固定しつつ、且つモルタル等のシーリング材を用いることなく、管体と基礎との間に生じる隙間部分を容易に遮蔽することができる。
【0010】
請求項2に記載の固定治具は、請求項1に記載の発明において、前記接離部は、前記固定治具の半径線に対して傾斜するように形成されていることを特徴とする。
貫通孔内に挿通された管体の外周面と貫通孔の内周面との間に固定治具を圧入した状態では、固定治具を径方向の内外に圧縮する力が作用する。具体的には、固定治具の外周面側には固定治具を径方向内方側へ押し付ける力が作用するとともに、同内周面側には固定治具を径方向外方側へ押し付ける力が作用する。このとき、固定治具の半径線に対して傾斜するように接離部が形成されていると、接離部が形成されている部位においては、上記圧縮する力は接離部を圧接する力として作用する。これにより、貫通孔の内周面と管体の外周面との間に固定治具を圧入した状態において、接離部が強固に当接した状態となる。よって、接離部が形成された部位においても、固定治具の遮蔽機能を好適に確保することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固定治具によれば、モルタル等のシーリング材を用いることなく、管体と基礎との間に生じる隙間部分を容易に遮蔽することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】固定治具の斜視図。
【図2】(a)は固定治具の断面図、(b)は固定治具の後面図。
【図3】固定治具の取り付け状態を示す概略図。
【図4】取り付け状態にある固定治具の接離部周辺の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の固定治具1を図面に基づいて説明する。
固定治具1は弾性材料により筒状に形成されている。同弾性材料としては、弾性を有する材料であれば限定されないが、特にエラストマーを好適に用いることができる。エラストマーとしては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、及びポリアミド系エラストマーが挙げられる。これらの弾性材料は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせるポリマーブレンド又はポリマーアロイとして用いてもよい。また、これらの弾性材料には各種充填剤や可塑剤等を配合してもよい。
【0014】
図1及び図2(b)に示すように、固定治具1は、第1端部2から第2端部3に至るスリット状の接離部5を備えるとともに、接離部5を介して相対向する第1当接面5a及び第2当接面5bを備えている。なお、図2(b)は固定治具1を第1端部2側から見た図である。固定治具1は全体を撓ませることで接離部5の間隔を調整可能であり、第1当接面5a及び第2当接面5bが当接する環状状態と、第1当接面5a及び第2当接面5bが離間した開環状態との間で変形させることができる。
【0015】
図2(b)に示すように、接離部5は固定治具1の半径線r(軸線Pと第1当接面5aの先端とを結ぶ線)に対して傾斜するように形成されている。具体的には、第1当接面5aは内周面側が鋭角となる傾斜面状に形成されるとともに、第2当接面5bは外周面側が鋭角となる傾斜面状に形成されている。固定治具1の半径線rに対する接離部5の傾斜角θは、好ましくは30〜90度の範囲であり、より好ましくは40〜80度の範囲であり、さらに好ましくは60〜70度の範囲である。また、接離部5は固定治具1の軸線Pに対しても傾斜するように形成されている(図3参照)。
【0016】
図1及び図2(a)に示すように、固定治具1の外周面には、第1端部2から第2端部3へ向かって縮径するテーパ面4が形成されている。固定治具1におけるテーパ面4の最大径部の外径は、接離部5が当接した環状状態において、基礎に設けられる貫通孔の内径と等しい、又は同内径よりも大きくなるように設定されるとともに、テーパ面4の最小径部の外径は同貫通孔の内径よりも小さくなるように設定される。また、固定治具1の内周面は、内径を軸線Pの方向において一定とする曲面状に形成されている。そして、固定治具1の内周面の内径は、接離部5が当接した環状状態において、取り付け対象となる管体の外径と等しくなるように設定されている。
【0017】
本実施形態の固定治具1は、例えば、型成形により筒状部材を成形した後、この筒状部材の周壁の一部を切断して接離部5、第1当接面5a及び第2当接面5bを形成することによって製造することができる。また、型成形により断面円弧状の板部材を成形し、これを丸めて筒状とすることによって固定治具1とすることもできる。
【0018】
次に、本実施形態の固定治具1を用いて、基礎に形成される貫通孔内に管体を固定する方法について説明する。
図3に示すように、まず、地盤10上に設置される基礎11の貫通孔11aに対して、給排水用の配管やケーブル類を収容する案内管等の管体12が挿通される。この管体12としては、例えば塩化ビニル管が用いられる。また、基礎11の貫通孔11a内径は、管体12の外径よりも大きくなるように設定されている。
【0019】
次いで、基礎11よりも屋外側の管体12の外周面に対して固定治具1が、第2端部3を貫通孔11a側に向けた状態で取り付けられる。具体的には、接離部5を離間させて固定治具1を開環状態とし、この接離部5を管体12の外周面に当てて固定治具1を押し込むことによって、貫通孔11a内に挿通された状態の管体12に対して、その径方向外方から固定治具1を取り付けることができる。
【0020】
そして、固定治具1の接離部5を当接させて環状状態とするとともに、管体12に対して固定治具1を貫通孔11a側にスライド移動させ、固定治具1を貫通孔11a内に圧入する。このとき、固定治具1の外周面に形成されるテーパ面4が案内面となることにより、固定治具1を貫通孔11aと管体12との間の隙間部分へ容易に圧入することができる。また、固定治具1を貫通孔11a内に圧入した状態では、図4に示すように、固定治具1に対して径方向の内外に圧縮する力が作用する。具体的には、固定治具1の外周面側には固定治具1を径方向内方側へ押し付ける力F1が作用するとともに、同内周面側には固定治具1を径方向外方側へ押し付ける力F2が作用する。そして、第1当接面5a及び第2当接面5bが互いに強固に押し付け合って密に当接した状態となる。
【0021】
また、基礎11の屋内側の管体12にも同様に固定治具1を取り付け、貫通孔11a内に圧入することにより、基礎11に形成される貫通孔11aの中央部分に管体12が固定されるとともに、基礎11と管体12との間の隙間部分が遮蔽される。
【0022】
次に本実施形態における作用効果について、以下に記載する。
(1)弾性材料により形成される筒状の固定治具1は、第1端部2から第2端部3に至るスリット状の接離部5を備えている。これにより、接離部5を離間させて固定治具1を開環状態とすることが可能となり、基礎11の貫通孔11a内に挿通された管体12の外周面に対して、その径方向外方から固定治具1を容易に装着することができる。
【0023】
(2)固定治具1の外周面には、第1端部2側から第2端部3側へ向かって縮径するテーパ面4が形成されている。これにより、管体12に装着された固定治具1をスライド移動させて、管体12の外周面と貫通孔11aの内周面との間に圧入する際に、テーパ面4が案内面となって固定治具1を容易に圧入することができる。管体12の外周面と貫通孔11aの内周面との間に固定治具1を圧入することで、管体12と基礎11との間に生じる隙間部分を遮蔽することができる。よって、屋内側への白蟻の進入を防止することができる。
【0024】
(3)接離部5は、固定治具1の半径線rに対して傾斜するように形成されている。これにより、基礎11の貫通孔11aの内周面と管体12の外周面との間に固定治具1を圧入した状態において、接離部5を強固に当接させることができる。よって、接離部5が形成された部位であっても、固定治具1の遮蔽機能を好適に確保することができる。また、固定治具1の半径線rに対して接離部5を傾斜するように形成した場合、同半径線rに一致するように接離部5を形成した場合と比較して、当接面の面積(第1当接面5a及び第2当接面5bの面積)をより大きく確保することができ、接離部5における遮蔽機能をより向上させることができる。
【0025】
(4)接離部5は、固定治具1の軸線Pに対して傾斜するように形成されている。これにより、固定治具1の軸線Pに対して平行となるように接離部5を形成した場合と比較して、当接面の面積(第1当接面5a及び第2当接面5bの面積)をより大きく確保することができ、接離部5における遮蔽機能をより向上させることができる。
【0026】
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。また、次の変更例を互いに組み合わせ、その組み合わせの構成のように上記実施形態を変更することも可能である。
【0027】
・ 接離部5を固定治具1の半径線rに一致するように形成してもよいし、固定治具1の軸線Pに対して平行となるように形成してもよい。
・ 接離部5を複数箇所に設けてもよい。この場合、固定治具1は円弧状をなす複数の部材から構成されることになり、各部材を周方向に組み合わせることによって筒状をなす。
【0028】
・ 上記実施形態では、第1当接面5a及び第2当接面5bは平坦面状に形成されていたが、凹凸面状に形成してもよい。この場合、接離部5における当接面(第1当接面5a及び第2当接面5b)の面積をより大きく確保することができる。
【0029】
・ 固定治具1の外周面に、外径を軸線Pの方向において一定とする同径部が設けられていてもよい。また、単数又は複数の同径部と単数又は複数のテーパ面4との組み合わせにより固定治具1の外周面が形成されていてもよい。
【0030】
・ 上記実施形態では、基礎11の屋内側及び屋外側の両側に固定治具1を取り付けたが、基礎11の一方側にのみ固定治具1を取り付けてもよい。
・ 固定治具1を形成する弾性材料中に公知の防蟻剤を適宜配合してもよいし、固定治具1の表面を公知の防蟻剤でコーティングしてもよい。
【0031】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記接離部を介して対向する第1当接面及び第2当接面を備え、前記第1当接面は内周面側が鋭角となる傾斜面状に形成されるとともに、前記第2当接面は外周面側が鋭角となる傾斜面状に形成されることを特徴とする前記固定治具。
【0032】
(ロ)建造物の基礎に形成される貫通孔内に管体を固定するための固定方法であって、前記貫通孔内に前記管体を挿通した後、前記管体の外周面における前記貫通孔を挟んだ両側に対して、請求項1に記載の固定治具をその第2端部を貫通孔側に向けて装着し、前記貫通孔の内周面と前記管体の外周面との間に前記固定治具を圧入することを特徴とする固定方法。
【0033】
(ハ)建造物の基礎に形成される貫通孔内に管体を固定する管体の固定構造であって、前記貫通孔内に挿通された前記管体の外周面と、前記貫通孔の内周面との間に、請求項1に記載の固定治具が圧入され、前記固定治具は前記貫通孔の開口部分の両側に圧入されていることを特徴とする固定構造。
【符号の説明】
【0034】
P…軸線、r…半径線、1…固定治具、2…第1端部、3…第2端部、4…テーパ面、5…接離部、5a…第1当接面、5b…第2当接面、11…基礎、11a…貫通孔、12…管体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の基礎に形成される貫通孔内に管体を固定するための固定治具であって、
弾性材料により形成される筒状の部材であり、
第1端部から第2端部に至るスリット状の接離部を備えるとともに、前記接離部を離間状態とすることで、前記管体の径方向外方から前記管体の外周面に装着可能とし、
前記第1端部側から前記第2端部側へ向かって縮径するテーパ面を外周面に備えることを特徴とする固定治具。
【請求項2】
前記接離部は、前記固定治具の半径線に対して傾斜するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214236(P2011−214236A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80842(P2010−80842)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】