説明

固定砥粒ワイヤおよびその製造方法

【課題】ダイヤモンド砥粒よりも安価なGC砥粒やC砥粒などの炭化ケイ素系砥粒を用いて、長寿命な固定砥粒ワイヤを得ること可能にするとともに、その他の砥粒においてもより高精度な加工を行うことが可能な固定砥粒ワイヤを得ること。
【解決手段】ワイヤ芯線2上にバインダ3を介して砥粒4が固定された固定砥粒ワイヤ1であって、砥粒が、主として断面のアスペクト比が1.2〜1.6の砥粒4であり、断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き出させて固定されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥粒をワイヤに固着した固定砥粒ワイヤであり、太陽電池、半導体シリコン、磁性体、サファイアやSiCなどの結晶系材料のスライス加工に用いられる固定砥粒ワイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池や半導体用シリコンのスライス方法としては、GC砥粒を研削液に混入させてスラリ状に供給して加工する遊離砥粒方式が最も多く採用されている。しかしながら、この遊離砥粒方式では、(1)加工速度が遅い、(2)スラリ供給側の加工溝が大きくなり、ウェーハの厚みのばらつきが大きくなる、(3)スラリがウェーハ上に残り、洗浄に時間が掛かるなどの問題がある。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1〜3には、ダイヤモンド砥粒を電着やレジンボンドで固着したシリコンスライス用の固定砥粒ワイヤが提案されている。また、特許文献4,5には、GC砥粒を電着や樹脂により固着した固定砥粒ワイヤが提案されている。また、特許文献6には、バインダを兼ねた接着剤に砥粒を混合させておいた砥粒分散容器内に芯線を通すことにより、芯線表面に接着剤を介して砥粒を付着させ、乾燥固化させることや、砥粒分散容器を電着槽として芯線表面に電着させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−150314号公報
【特許文献2】特開平11−245154号公報
【特許文献3】特開平11−320379号公報
【特許文献4】特開2000−218504号公報
【特許文献5】特開2000−288902号公報
【特許文献6】特開平8−126953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献4〜6に提案されている方法では、GC砥粒を用いるため安価であるが、特許文献1〜3のようなダイヤモンド砥粒と比較して柔らかいため、摩耗が早く、ワイヤからの砥粒の突き出し高さがすぐに小さくなる。そのため、研削油の循環が悪くなり、切れ味の低下が激しく、固定砥粒ワイヤの寿命が短くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明においては、ダイヤモンド砥粒よりも安価なGC砥粒やC砥粒などの炭化ケイ素系砥粒を用いて、長寿命な固定砥粒ワイヤを得ることを可能にするとともに、その他の砥粒においてもより高精度な加工を行うことが可能な固定砥粒ワイヤを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の固定砥粒ワイヤは、ワイヤ芯線上にバインダを介して砥粒が固定された固定砥粒ワイヤであって、砥粒が、主として断面のアスペクト比が1.2〜1.6の粉体であり、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定されたものである。この固定砥粒ワイヤは、ワイヤ芯線上にバインダを介して固定された粉体の断面の長辺側が砥粒の突き出し高さ方向となるので、砥粒の突き出し高さが大きい固定砥粒ワイヤとなる。
【0008】
なお、本発明に係る粉体としては、ダイヤモンドやCBNなどの超砥粒や、アルミナ系砥粒(アランダム)、炭化ケイ素系砥粒(カーボランダム)や炭化ホウ素系砥粒などの一般砥粒を用いることができる。アルミナ系砥粒としては、A、GA、KA、WA、PA、SA、6AやVA等を用いることができる。炭化ケイ素系砥粒としては、CやGC等を用いることができる。炭化ホウ素系砥粒としては、B4C等を用いることができる。
【0009】
また、本発明の固定砥粒ワイヤは、砥粒がワイヤ芯線の周囲に1層のみ固定されたものであることが望ましい。この固定砥粒ワイヤによれば、砥粒が重なって複数層となった固定砥粒ワイヤと比較して、加工面に接触する砥粒の固定砥粒ワイヤの単位長さ当たりの数が多くなる。
【0010】
ここで、砥粒のバインダ上の突き出し高さは、砥粒の高さの40%〜80%であることが望ましい。これにより、砥粒の突き出し高さが大きく、かつ砥粒がバインダ上に安定して固着された固定砥粒ワイヤが得られる。なお、突き出し高さが砥粒の高さの40%未満の場合、突き出し高さが低すぎて、断面の短辺側をワイヤ芯線に向けてバインダに固定した効果が薄れてしまう。一方、突き出し高さが砥粒の高さの80%超の場合、砥粒のバインダへの固定が不十分となり、砥粒がバインダから脱落しやすくなる。
【0011】
また、本発明の固定砥粒ワイヤは、ワイヤ芯線上のバインダの表面積の20%〜95%、より好ましくは、40%〜60%に砥粒が固定されたものであることが望ましい。バインダの表面積の20%〜95%に砥粒が固定されたことにより、バインダの表面に研削油の通路となる隙間が確保され、研削油の循環が良くなるので、切れ味の低下が防止される。特に、40%〜60%に砥粒が固定されたものであれば、研削油の流れと切粉排出が最適となるため、さらに良い。
【0012】
また、砥粒は、炭化ケイ素系が100%、または、50%以上が炭化ケイ素系、残りがダイヤモンドを含むものとすることが可能である。安価な炭化ケイ素系の砥粒を100%とすることで、最も安価な固定砥粒ワイヤが得られる。一方、50%以上を炭化ケイ素系、残りを、炭化ケイ素系よりも硬いダイヤモンドを含むものとすることによって、切れ味が向上するとともに、50%以上が安価な炭化ケイ素系の砥粒であることにより低コストの固定砥粒ワイヤを実現できる。
【0013】
本発明の固定砥粒ワイヤの製造方法は、ワイヤ芯線上にバインダを介して砥粒が固定された固定砥粒ワイヤの製造方法であって、ワイヤ芯線上にバインダを塗付すること、断面のアスペクト比が1.2〜1.6の炭化ケイ素系の砥粒を、粉体の状態で断面の短辺側からバインダの表面に突き出させることを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の固定砥粒ワイヤの製造方法によれば、断面のアスペクト比1.2〜1.6の炭化ケイ素系の砥粒の粉体を、例えば飛翔させることによって、飛翔する砥粒は、断面の短辺側をバインダの表面に向け、この断面の短辺側からバインダの表面に突き刺さり、バインダにより固定される。これにより、断面の長辺側が砥粒の突き出し高さ方向となるので、砥粒の突き出し高さが大きい固定砥粒ワイヤが得られる。
【0015】
なお、アスペクト比が1.2未満の場合には、砥粒が飛翔によって向きを変えにくく、砥粒の向きが揃いにくくなる。一方、アスペクト比が1.6超の場合には、砥粒が折れやすくなり、固定砥粒ワイヤの寿命を縮める可能性がある。
【0016】
また、この方法により製造される固定砥粒ワイヤでは、バインダの表面に突き刺さった砥粒の粉体のみがバインダに固定されるため、砥粒が重なって複数層となることがなく、ワイヤ芯線の周囲に1層のみが固定された固定砥粒ワイヤが得られる。また、この固定砥粒ワイヤには、砥粒の粉体が断面の短辺側からバインダの表面に突き刺さらせているため、長辺側から突き刺さらせた場合よりも数多くの砥粒がワイヤ芯線の周囲に配置された固定砥粒ワイヤを実現できる。
【0017】
ここで、砥粒の飛翔は、静電塗装法によることが望ましい。静電塗装法によりマイナスに帯電させた砥粒を飛翔させることで、砥粒は、静電気力によってワイヤ芯線上のバインダに向かって強く引き寄せられる。そして、砥粒は、この間に、その断面の短辺側をバインダの表面に向け、この断面の短辺側からバインダの表面に突き刺さるようになる。
【0018】
また、砥粒は、ワイヤ芯線に対して複数の異なる方向から、それぞれ互いに離れた位置へ飛翔させることが望ましい。ワイヤ芯線に対して複数の異なる方向から飛翔させることで、ワイヤ芯線の周囲に満遍なく砥粒を突き出させることができる。また、それぞれ互いに離れた位置へ飛翔させることにより、互いのノズルから砥粒を飛翔させるためのエアーの干渉を防止することができ、砥粒の向きを、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させる方向に揃えることができる。
【発明の効果】
【0019】
(1)本発明の固定砥粒ワイヤは、砥粒の突き出し高さが大きく、被削材に食い込みやすいため、高精度な加工を行うことが可能となる。また、研削油の循環が良くなるので、切れ味が向上し、長寿命である。
【0020】
(2)また、安価な炭化ケイ素系の砥粒を使用しても長寿命を実現することが可能であるため、ダイヤモンド固定砥粒ワイヤと比較してコストを大幅に削減できる。そのため、往復サイクルにより加工する必要がなくなり、研削条痕が形成されなくなるので、面粗さが向上する。また、安価であるため、ダイヤモンド固定砥粒ワイヤと比較して多くの固定砥粒ワイヤを使用でき、断線前に余裕を持って交換できるので、加工面品位とウェーハ厚み精度が向上する。また、柔らかい炭化ケイ素系の砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであるため、この固定砥粒ワイヤを使用する装置の消耗部品であるローラやローラガイドの摩耗量を低減できる。
【0021】
(3)ワイヤ芯線の周囲に1層のみ砥粒が固定された固定砥粒ワイヤが得られ、砥粒が重なって複数層となった固定砥粒ワイヤと比較して、加工面に接触する砥粒の固定砥粒ワイヤの単位長さ当たりの数が多くなる。また、砥粒の粉体が断面の短辺側からバインダの表面に突き出させているため、長辺側から突き出させた場合よりも数多くの砥粒がワイヤ芯線の周囲に配置された固定砥粒ワイヤとなる。これにより、砥粒の摩滅までの時間が長くなり、長寿命の固定砥粒ワイヤが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤの縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤの横断面図である。
【図3】砥粒の吹き付け工程を示す概略図である。
【図4】(a)はウェーハ内厚みばらつきを示す図、(b)はウェーハそりを示す図、(c)は面粗さを示す図である。
【図5】製品寿命を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤの縦断面図、図2は横断面図である。図1および図2に示すように、本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤ1は、ワイヤ芯線2上にバインダ(固着材)3を介して砥粒4が固定されたものである。ワイヤ芯線2は、ピアノ線、高張力線や高抗張力の非金属繊維線(ファイバ)等の線材であり、線径はφ10μm〜φ300μmである。なお、ワイヤ芯線2の断面形状は円形であるが、多角形とすることも可能である。
【0024】
バインダ3は、熱硬化樹脂やUV硬化樹脂などの合成樹脂系の接着剤である。バインダ3のワイヤ芯線2上への塗付は、電着塗装、静電塗装、吹き付けやディッピングなどの方法による。
【0025】
砥粒4は、GCやCなどの炭化ケイ素系砥粒である。砥粒4は、平均粒径が2μm〜40μm、断面のアスペクト比が1.2〜1.6のものを用いる。ここで、断面のアスペクト比は、砥粒4を取り囲む最小容積の直方体を構成する辺のうち最も長い辺(長辺a)と最も短い辺(短辺b)により構成される断面の長辺aと短辺bとの比(長辺a/短辺b)である。
【0026】
この断面のアスペクト比が1.2〜1.6の砥粒4を、粉体の状態でワイヤ芯線2上に向かって吹き付けや静電塗装法などにより飛翔させると、砥粒4は、前述の砥粒4を取り囲む最小容積の直方体を構成する6面のうち、抵抗が小さくなる面積のより小さい面をバインダ3の表面に向けるようになる。すなわち、砥粒4は、この飛翔中に断面の短辺b側をバインダ3の表面に向け、長辺a側がワイヤ芯線2の法線方向に揃うようになり、この断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き刺さるようになる。
【0027】
特に、静電塗装法によりマイナスに帯電させた砥粒4を飛翔させることで、砥粒4は、静電気力によってワイヤ芯線2上のバインダ3に向かって強く引き寄せられる。そして、砥粒4は、この間に、その断面の短辺b側をバインダ3の表面に向け、この断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き刺さるようになる。これにより、長辺a側が突き出し高さ方向となるように砥粒4をバインダ3上に配置することができる。
【0028】
図3は静電塗装法による砥粒4の吹き付け工程を示す概略図である。図3に示すように、砥粒4の吹き付け工程では、バインダ3(図示せず。)の塗付後のワイヤ芯線2の上下に、静電塗装装置のノズル10a,10bをそれぞれ互いに離れた位置に配置し、移動中のワイヤ芯線2に対して異なる方向から砥粒4を飛翔させる。図示例では、ノズル10a,10bは、ワイヤ芯線2に対して180°異なる方向から、それぞれ互いに離れた位置へ砥粒4を飛翔させている。
【0029】
このように、ワイヤ芯線2に対して異なる方向から砥粒4を飛翔させることにより、ワイヤ芯線2の周囲に満遍なく砥粒4を突き出させることができる。また、それぞれ互いに離れた位置へ飛翔させるため、互いのノズル10a,10bから砥粒4を飛翔させるためのエアーの干渉を防止することができ、砥粒4の向きを、断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き出させる方向に揃えることができる。
【0030】
なお、ノズルの個数を増やし、ワイヤ芯線2に対してさらに異なる方向から砥粒4を飛翔させる構成とすることも可能である。この場合も、互いのノズルのエアーの干渉を防止するため、砥粒4はそれぞれ互いに離れた位置へ飛翔させるようにする。また、ノズル10a,10bはワイヤ芯線2に対して左右方向に配置したり、斜め方向に配置したりすることも可能である。
【0031】
そして、熱硬化やUV硬化により、砥粒4をバインダ3に固着させる。これにより、砥粒4の長辺a側が突き出し高さ方向となった砥粒4の突き出し高さが大きい固定砥粒ワイヤ1が得られる。また、この固定砥粒ワイヤ1では、突出している砥粒4の表面がバインダ3等の接着剤により被覆されていない。なお、砥粒4をバインダ3上に配置する際、それぞれの砥粒4のバインダ3上の突き出し高さhを、その砥粒4の高さh0の40%〜80%となるようにする。また、砥粒4は、ワイヤ芯線2上のバインダ3の表面積の20〜95%に配置されるようにする。
【0032】
こうして得られた固定砥粒ワイヤ1では、遊離砥粒方式に比べて加工速度が向上する。また、この固定砥粒ワイヤ1は、砥粒4の突き出し高さが大きく、研削油の循環が良くなるので、切れ味が向上し、長寿命である。また、安価な炭化ケイ素系の砥粒4を使用して長寿命を実現するため、ダイヤモンド固定砥粒ワイヤと比較してコストを大幅に削減できる。
【0033】
そのため、ダイヤモンド固定砥粒ワイヤのように、往復サイクルにより加工する必要がなくなり、研削条痕が形成されなくなるので、面粗さが向上し、加工変質層厚みも小さくなる。また、柔らかい炭化ケイ素系の砥粒4を固定した固定砥粒ワイヤ1であるため、この固定砥粒ワイヤ1を使用する装置の消耗部品であるローラやローラガイドの摩耗量を低減でき、ランニングコストを削減できる。
【0034】
また、この方法により製造される固定砥粒ワイヤ1では、バインダ3の表面に突き刺さった砥粒4の粉体のみがバインダ3に固定されるため、従来のダイヤモンド砥粒を電着したもののように砥粒4が重なって複数層となることがなく、ワイヤ芯線2の周囲に1層のみが固定されたものとなる(図2参照。)。そのため、加工面に接触する砥粒4の固定砥粒ワイヤ1の単位長さ当たりの数が多くなる。また、この固定砥粒ワイヤ1には、砥粒4の粉体が断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き刺さらせているため、長辺a側から突き刺さらせた場合よりも数多くの砥粒4がワイヤ芯線2の周囲に配置されたものとなる。したがって、砥粒4の摩滅までの時間が長く、長寿命の固定砥粒ワイヤ1となる。
【0035】
なお、本実施形態においては、砥粒4として炭化ケイ素系のもの100%としているが、50%以上を炭化ケイ素系とし、残りを、炭化ケイ素系よりも硬いダイヤモンドを含むものとすることが可能である。これにより、切れ味が向上するとともに、50%以上が安価な炭化ケイ素系の砥粒であることにより低コストの固定砥粒ワイヤを実現できる。
【0036】
また、砥粒4としては、上記炭化ケイ素系のもの以外にも、アルミナ系砥粒や炭化ホウ素系砥粒などの一般砥粒を用いることも可能である。また、ダイヤモンド以外にもCBNなどの超砥粒を用いることも可能である。また、これらの砥粒の比率についても任意に設定することが可能である。
【実施例】
【0037】
本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤ1(実施例)と従来の遊離砥粒(比較例1)とダイヤモンド固定砥粒ワイヤ(比較例2)とを用いたウェーハのスライス加工試験を行った。ワークは、単結晶シリコン125φ×300Lである。加工条件を表1に、試験結果を図4および図5に示す。図4(a)はウェーハ内厚みばらつきを示す図、(b)はウェーハそりを示す図、(c)は面粗さを示す図である。図5は製品寿命を示す図である。
【0038】
【表1】

【0039】
図4の(a)に示すように、実施例1,2は、比較例1よりも厚みばらつきが非常に小さく、比較例2よりも小さい。実施例1,2の厚みばらつきが比較例2よりも小さいのは、比較例2では往復サイクルを多くして加工する必要があるため、研削条痕が形成されるためである。一方、実施例1,2では、安価であるため、往復サイクルにより加工する必要がなく、研削条痕が形成されないため、厚みばらつきは小さくなる。
【0040】
また、同図(b)に示すように、実施例1,2は、比較例1よりもウェーハそりが小さい。これは、比較例1の遊離砥粒では不規則に砥粒が付着したワイヤによってウェーハを加工するため、そりが悪くなるのに対し、実施例1,2では砥粒が一定方向に固着されているため、そりが良くなるからである。
【0041】
また、同図(c)に示すように、ウェーハ面粗さは、比較例2が最も良好であるが、実施例1,2でも比較例2に対して遜色なく、比較例1よりも良好であった。
【0042】
また、図5に示すように、使用前後の固定砥粒ワイヤの製品径を測定したところ、実施例1,2のものは、比較例1,2と比較して使用の前後で製品径の変化が少なく、比較例1,2よりも長寿命であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の固定砥粒ワイヤは、太陽電池、半導体シリコン、磁性体、サファイアやSiCなどの結晶系材料のスライス加工に有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 固定砥粒ワイヤ
2 ワイヤ芯線
3 バインダ
4 砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ芯線上にバインダを介して砥粒が固定された固定砥粒ワイヤであって、
前記砥粒は、主として断面のアスペクト比が1.2〜1.6の粉体であり、前記断面の短辺側から前記バインダの表面に突き出させて固定されたものである固定砥粒ワイヤ。
【請求項2】
前記砥粒は、前記ワイヤ芯線の周囲に1層のみ固定されたものである請求項1記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項3】
前記砥粒の前記バインダ上の突き出し高さが、前記砥粒の高さの40%〜80%である請求項1または2に記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項4】
前記ワイヤ芯線上のバインダの表面積の20%〜95%に前記砥粒が固定された請求項1から3のいずれかに記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項5】
前記砥粒は、炭化ケイ素系が100%、または、50%以上が炭化ケイ素系、残りがダイヤモンドを含むものである請求項1から4のいずれかに記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項6】
ワイヤ芯線上にバインダを介して砥粒が固定された固定砥粒ワイヤの製造方法であって、
前記ワイヤ芯線上にバインダを塗付すること、
断面のアスペクト比が1.2〜1.6の砥粒を、粉体の状態で前記断面の短辺側から前記バインダの表面に突き出させること
を含む固定砥粒ワイヤの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate