説明

固定装置及び固定構造

【課題】 複数の積層部材積層体など二つ以上の部材を加圧固定する際に、簡潔な機構で被固定部材に対する加圧力の均一性を確保し、必要に応じて増し締め等加圧力の増減調整を適宜容易に行うことができるとともに、被固定部材の加圧固定の工数を低減でき、その後で被固定部材を廃棄する場合などの分解、分別を簡単に行なうことが可能な固定装置及び固定構造を提供する。
【解決手段】 二つ以上の部材を固定するための装置であって、ボルトに噛み込むねじ駒と、ねじ駒が縮径方向に移動するように付勢する付勢部材とを備え、ボルトが内部に挿入されることによりねじ駒がボルトに噛み込むナットと、前記被固定部材に対して押圧を行うための押え部材とを備え、少なくとも一つのナットが前記押え部材に回転可能に取付けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両端のプレート間に複数のセルを積層してなる燃料電池や、一次電池、二次電池等、複数の積層部材が積層された状態の積層体を積層方向に加圧して固定したり、二つの部材を接着剤で接着するときに仮固定したり、あるいは二つの部材を突き合せた状態で保持したりするような用途の、いわゆる二つ以上の部材を固定するための固定装置及び固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単位電池を複数積層してなる燃料電池のセルの積層方向両端に締付け用の一対の板材を設け、この板材間に複数のボルトを通し、個別にナットで締結する締付け構造が開示されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1及び3においては、各ナットがばね又は皿ばねを介して各ボルトに締付けられる構造である。
特許文献2においては、電池スタックの積層部材の一つとして、一定応力下で、経時的に塑性変形する樹脂からなる応力緩衝板を少なくとも1枚使用し、又は電池スタックの締結部材の一つとして、各ナットが上記樹脂からなるワッシャを介して各ボルトに締付けられる構造である。
【特許文献1】特開平09−270267号公報
【特許文献2】特開2003−338306号公報
【特許文献3】特開2005−011742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1〜3など従来の締付け構造では、セル積層体の積層方向両端が締付け用の一対の板材により挟まれた状態でセル積層体を加圧するには、各ボルトに個別にナットを蝶合しその後所要の締付け力が得られるまで個別にナットを回さなければならないとともに、各ボルト・ナットの締結部位間のバランスをとりながらの煩雑な締付け作業が必要となる。このため、セル積層体に対する締付け力(加圧力)の不均一性が出易いとともに、組付けに多くの工数が掛かるという問題点があった。
【0005】
また、二つの部材を接着剤で接着するときに仮固定したり、あるいは二つの部材を突き合せた状態で保持したりするような場合においては、これらの被固定部材を例えば複数の万力等を利用した治具などを用いて固定しているため、煩雑な上、組付けに多くの工数が掛かるという問題点があった。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、複数のセル等の積層部材の積層体を積層方向に加圧して固定したり、二つの部材を接着剤で接着するときに仮固定したり、あるいは二つの部材を突き合せた状態で保持したりする際に、簡潔な機構で積層体などを含む二つ以上の部材(以下、被固定部材という)に対する加圧力の均一性を容易に確保し、必要に応じて増し締め等締め付け力(加圧力)の増減調整を適宜容易に行うことができるとともに、被固定部材の加圧固定の工数を低減し、さらにその後で被固定部材を廃棄する場合などの分解、分別を簡単に行なうことが可能な固定装置及び固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明の固定装置は、二つ以上の部材(以下、被固定部材という)を加圧固定するための装置であって、ボルトに噛み込むねじ駒と、ねじ駒が縮径方向に移動するように付勢する付勢部材とを備え、ボルトが内部に挿入されることによりねじ駒がボルトに噛み込むナットと、前記被固定部材に対して押圧を行うための押え部材とを備え、少なくとも一つの前記ナットが押え部材に回転可能に取付けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明の固定構造は、二つ以上の部材(以下、被固定部材という)を支持する支持部材と、請求項1記載の固定装置の押え部材又は支持部材と前記被固定部材との間に配置された加圧部材とを備え、前記ボルトが前記支持部材に立ち上り状に設けられており、このボルトが前記ナットに挿入されることにより前記噛み込みを行うとともに、前記加圧部材による被固定部材への加圧を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2記載の固定構造であって、前記加圧部材は、一方向に湾曲又は屈曲された板ばね、皿ばね、コイルばね、もしくはゴム又は樹脂のいずれかからなる弾性部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、ボルトが内部に挿入されることによりねじ駒がボルトに噛み込むナットが押え部材と回転可能に一体化されているので、ナットのボルト挿入穴位置をボルトの頭部に合せ、次いで一気にナットに所要の加圧力を加えるだけのワンタッチ操作で二つ以上の部材(被固定部材)を複数のボルトに対しても同時に締結して加圧固定することができる。このため、簡潔な機構で被固定部材に対する加圧力の均一性を容易に確保し、必要に応じてナットを回転することにより増し締め等締め付け力(加圧力)の増減調整を適宜容易に行うことができるとともに、被固定部材の加圧固定の工数を低減することができる。
さらに、ナットを緩める方向に回転してボルトから取り外すか、又は解除部材によりねじ駒が拡径してワンタッチ操作で簡単にボルトから引き抜いて取り外しができるナットを使うことにより、前記被固定部材を廃棄する場合などの分解、分別を簡単に行なうことができるという従来にない優れた効果がある。
【0011】
請求項2の発明によれば、前記二つ以上の部材と請求項1記載の固定装置の押え部材又はボルトが立ち上り状に設けられた支持部材との間に配置された加圧部材により、請求項1の発明と同様な効果を有するのに加えて、被固定部材への適宜な加圧力を確保する信頼性を一層向上させることができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様な効果を有するのに加えて、加圧部材として押え部材又は支持部材と被固定部材との間に一方向に湾曲又は屈曲された一体型の板ばね、皿ばね、コイルばね、もしくはゴム又は樹脂のいずれかからなる弾性部材を用いることにより、従来の各ナットに個別にばね部材を用いた締付け構造に比べて簡潔でコンパクトな固定構造とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図示する実施例により具体的に説明する。なお、各実施例において、部分的に形状が異なっていても同一の機能を有する部材には同一の符号を付して対応させてある。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1の固定構造を示す側面図、図2はその上から見た平面図すなわち上面図である。
実施例1は、本発明の基本的な固定構造の例であって、複数(図示では8本)のボルト30が立ち上り状に設けられ、複数の燃料電池セルなどの積層部材Sが積層された状態の積層体を支持する板状の支持部材40と、積層体に対して押圧を行うための板状の押え部材20と、押え部材20に回転可能に取付けられ、ボルト30が内部に挿入されることにより内部に設けられたねじ駒(ここでは図示しないが後述する)がボルト30に噛み込むように構成されたナット10と、押え部材20と積層体との間に配置された望ましくは弾性部材からなる加圧部材50とから大略構成されている。
【0015】
すなわち、この固定構造は、前記積層体の両端面を挟み込むように加圧部材50を介して一対の板状の押え部材20と支持部材40とが設けられており、ボルト30がナット10に挿入されることによりねじ駒がボルト30に噛み込みを行うとともに、加圧部材50による積層体への加圧を行う構成となっている。
なお、1枚の押え部材20に1つ又は複数のナット10が回転可能に取付けられたものを固定装置100というが、この詳細な構造については後述する。
【0016】
ナット10は、締付けを行うボルト30に対して、回転することなく挿入できるとともに、必要に応じて増し締めが行えるものである。ナット10として、例えば本発明者の発明により本出願人が先に出願した特開平7−197922、特開2001−214918、特開2005−163881等に記載の「簡易締結装置」と同様の構造を適用することができる。
【0017】
図7は、特開平7−197922の簡易締結装置の一例を説明するための説明図である。
図7において、ベース1はその下部が六角形状部であって、その上部は凸部となって円形状部となっている。そして、ベース1には穴1cが設けられるとともに、この穴1cには対面した斜面1e及び1e’をそれぞれ有するすり鉢状穴1dと1d’が設けられている。ここで、このすり鉢状穴1dと1d’とは、後述するねじ駒2の雌ねじ部2aに設けられたねじピッチの半分(P/2)だけ軸方向へずれている。
ベース1のすり鉢状穴1dと1d’のそれぞれの中にねじ駒2が挿入され、その上に段付きワッシャ9及びばね3、さらにこれらを押えるキャップ4がベース1に嵌め込まれている。ここで、段付きワッシャ9は、厚さの異なる半円弧部9a及び9bからなり、その厚さの差はねじ駒2の雌ねじ部2aに設けられたねじピッチの半分(P/2)である。ねじ駒2は半ドーナツ形状をしており、内側には雌ねじ部2aが形成され、外側にはベース1のすり鉢状穴1dと1d’の斜面1e及び1e’に対応した円弧状円錐形状部2bが設けられている。
【0018】
キャップ4は穴の明いたコップ形状をしており、その内側にはばね3を受ける円筒部4aが形成され、さらにその内側にはボルト挿通孔4bが形成されている。また、下端内周には凸部4cが設けられており、この凸部4cがベース1の円形状部の凹溝に嵌合してキャップ4はベース1に取付けられる。このような構成なので、同一のねじ駒2が2個使われているが、ボルトに対してねじ部の食い違いを補正するために、軸方向にねじピッチ分を考慮し、その分ずらしているから一つの雌ねじとして作用をする。
【0019】
このような簡易締結装置においては、図7の(a)、(b)、(c)及び(d)に示すように、ボルト30に対して簡易締結装置をE′方向へ挿入していく。すると、ボルト30の動きにつれてねじ駒2がそれぞれベース1の斜面1e及び1e’に沿ってa′及びa″方向へ摺り上がる(すなわち拡径する)。この時、ねじ駒2の雌ねじ部2aとボルト30とは噛み合わないので、簡易締結装置を回すことなく挿入することができる。簡易締結装置を対象物31に当るまで挿入した後、通常のねじを締める要領でF′方向に回すと、ねじ駒2がそれぞれb′及びb″方向へ摺り下がり(すなわち縮径し)ボルト30と噛み合い締付けが完了する。尚、簡易締結装置をボルト30から抜き取る場合はねじを緩める要領でF′と逆方向に回して外す。
以上により、ボルト30への簡易締結装置の挿入は、いちいち簡易締結装置′又はボルト30を回す必要がなく、ただ差し込むだけで簡単に行うことができる。
【0020】
図8は、特開2001−214918の簡易締結装置の一例を説明するための説明図である。
図8において、ベース1はその下部が六角形状部であって、その上部は凸となって円形状部となっている。そして、ベース1には穴1cが設けられるとともに、この穴1cとつながった半ドーナツ形状部1dが設けられており、さらにこの半ドーナツ形状部1dと対面して斜面1eを有するすり鉢状穴が設けられている。すり鉢状穴の斜面1eはボルト30の挿入方向の矢印E方向に向かって径が漸減している。
【0021】
ベース1のすり鉢状穴の中には1個のねじ駒2が配設されており、これにより半ドーナツ形状部1dはねじ駒2と対面している。この場合も、ねじ駒2はベース1に嵌め込まれたキャップ4に押さえられた付勢部材としてのばね3によってすり鉢状穴の斜面1eに押圧されている。従って、ねじ駒2はばね3によって、縮径方向に付勢されている。
【0022】
ねじ駒2はナットを分割した形状をしており、内側には雌ねじ部2aが形成されるとともに、外側にはベース1のすり鉢状穴内の斜面1eに対応した半円錐形状部2bが形成されている。また、上部には、ばね3を受ける段付き部2cが形成されている。上述したようにねじ駒2と対面するように半ドーナツ形状部1dがベース1に形成されることにより、半ドーナツ形状部1dの端面1hとねじ駒2の端面とが当接している。従って、斜面1eと半ドーナツ形状部1dの端面1hとによって、ボルト30との嵌合時の位置となるようにねじ駒2の位置が規定されており、ねじ駒2はベース1の穴1cの内径側に不用意に突出することがない。これにより、ベース1へのボルト30の挿入の際に、ねじ駒2がボルト30に干渉したり、引っ掛かったりすることがなく、ボルト30を円滑に挿入することができる。
【0023】
キャップ4は前記特開平7−197922のものと同様のコップ形状をしており、ベース1に取付けられている。
【0024】
このような簡易締結装置においては、図8の(a)、(b)、(c)及び(d)に示すように、ボルト30に対して簡易締結装置をE方向へ挿入して行く。このとき、ねじ駒2がベース1の半ドーナツ形状部1dの端面1hに当接して、下方への移動が規制されてボルト30との干渉がないため、ボルト30を円滑に挿入することができる。そして、ボルト30の挿入による動きにつれてねじ駒2がベース1の斜面1eに沿ってa方向へ摺り上がる(すなわち拡径する)。この拡径時、ねじ駒2の雌ねじ部2aとボルト30とは噛み合わないので、簡易締結装置を回すことなく挿入することができる。簡易締結装置を対象物31に当るまで挿入した後、通常のねじを締める要領でF方向に回すと、ねじ駒2がb方向(ばね3が付勢する方向)へ摺り下がり(すなわち縮径し)ボルト30と噛み合い、締付けが完了する。
【0025】
簡易締結装置をボルト30から抜き取る場合は、ねじを緩める要領で簡易締結装置TをFと逆方向に回して外す。このように、ボルト30への簡易締結装置の挿入は、いちいち簡易締結装置又はボルト30を回す必要がなく、ただ差し込むだけで簡単に行うことができる。
【0026】
図9は、特開2005−163881の簡易締結装置の一例を説明するための説明図、図10(a)、(b)、(c)、(d)は図9の簡易締結装置の締結作動状態を説明するための説明図である。
この例の簡易締結装置は、ケース1、ねじ駒(ロック駒ともいう)2、付勢部材としてのばね3の他に、特に解除部材5を備えている。
【0027】
ケース1は、全体の外形が平面から見て六角形状に成形されており、これにより、ボルト30への締め付けを行う際の回転の操作性が向上している。ケース1の内部には、ボルト30が挿通するための挿通孔1aが略中央部分に上下方向に沿って貫通している。この挿通孔1aに対し、テーパ部1bが対向するように形成されている。テーパ部1bは、円筒形状の挿通孔1aの下部から上部に向かって径が漸増する傾斜面となっており、これによりボルト30の挿通方向に沿ってボルト30から徐々に遠ざかる傾斜となっている。また、挿通孔1aにおけるテーパ部1bと対向する円筒状の面は、挿通孔1a内のボルト30にねじ駒2が係合したときにボルト30の外面を支承する支承壁部となっている。
【0028】
ケース1の外側面は、上下端部よりもくびれた形状となっており、この外側面に平行となった一対のガイド溝1gが形成されている。一対のガイド溝1gは、挿通孔1aが延びる方向(すなわち、ボルト30の挿通方向)と直交状に交差するように形成されている。このガイド溝1gには、後述する解除部材5のガイドアーム部5bが摺動する。このように、ガイドアーム部5bがガイド溝1gを摺動することにより解除部材5の移動を安定して行うことができる。
【0029】
さらに、ケース1には、後述するばね3を受け入れるばね受け孔1mが形成されている。ばね受け孔1mは、挿通孔1aが延びる方向(ボルト30の挿通方向)と直交状に交差するようにケース1の外側面に形成されるものであり、挿通孔1aとは遮断された有底孔構造となっている。
【0030】
これに加えて、ケース1には、後述するスプリングピン7が挿通するピン孔1kが形成されており、ケース1におけるガイド溝1gの形成側面に対となって形成されている。このピン孔1kは、テーパ部1bの傾斜と同じ傾斜を有した長孔となっており、スプリングピン7の動きを規制するように作用する。なお、ケース1の上部外面には、キャップ8を係止するための係止溝が形成されている。
【0031】
ねじ駒2は、ボルト30に噛合することによりボルト30と係合するものであり、このため、ボルト30と対向する面に係合歯2aとしての雌ねじ部が形成されている。このねじ駒2は、ケース1のテーパ部1b上を摺動するものであり、テーパ部1bとの対向部位には、テーパ部1bと同傾斜の摺動面2bが形成されている。また、ねじ駒2には、スプリングピン7が貫通するピン孔2cが横方向に貫通している。ピン孔2cは、スプリングピン7が圧入されるものであり、このためピン孔2cはスプリングピン7よりも若干小さな径を有した円形状に形成されている。この例において、ねじ駒2は1個が使用されるものである。
【0032】
ばね3は、ケース1の外側面に形成されたばね受け孔1E内に挿入される。ばね3としては、コイルばねが使用されているが、皿ばね等の他の弾性部材であってもよい。このばね3は、挿通孔1aが延びる方向(ボルト30の挿通方向)と略直交する方向に解除部材5を付勢するものである。また、ばね3は解除部材5を介してボルト30と係合する方向にねじ駒2を付勢している。
【0033】
解除部材5は、中央のアーム部5aの両端からガイドアーム部5bが略直交状に屈曲した形状となっており、これにより平面から見てコ字形に形成されている。解除部材5はそのガイドアーム部5bがケース1のガイド溝1gに摺動自在に挿入されることによりケース1の外側に取付けられるものであり、アーム部5aにおけるケース1との対向面には、筒部5cが形成されている。筒部5cは、ケース1のばね受け孔1mに挿入されるものであり、ばね受け孔1m内への挿入によって、筒部5cはばね受け孔1m内のばね3を受けるようになっている。これにより、解除部材5に対し、ばね3の付勢力を作用させることができる。このような解除部材5は、ボルト30の挿通方向と略直交状に交差する方向に直線移動可能となってケース1に取付けられるものであり、その一方向(右方向)への直線移動によってボルト30との締結を解除するように作用する。
【0034】
さらに、解除部材5には、ピン孔5dが形成されている。ピン孔5dは、一対のガイドアーム部5bの先端側(図示右端側)に位置するように形成されるものであり、この例では、垂直方向(ボルト30の挿通方向)に延びた長孔となっている。このピン孔5dは、スプリングピン7が挿入されるものであり、この挿入によりスプリングピン7の動きを規制するように作用する。
【0035】
スプリングピン7は、ねじ駒2、ケース1及び解除部材5に亘って挿入される。このようなスプリングピン7の挿入により、解除部材5とねじ駒2とが連結され、これにより解除部材5へのばね3の付勢力が解除部材5を介してねじ駒2に作用することができる。
【0036】
キャップ8は、ケース1と同一サイズの六角形状に形成されており、ケース1の上部に嵌合状態で取付けられる。この嵌合を行うため、キャップ8には、ケース1の上部外面の係止溝に係止する係止凸部8aが形成されている。また、キャップ8には、ボルト30が貫通する円形の孔部8bが略中央部分に形成されている。かかるキャップ8は、ケース1内のねじ駒2が外部から見えないようにするためのカバー部材である。
【0037】
図10(a)で示すように、ケース1の挿通孔1aがボルト30と対向するようにケース1とボルト30との相対位置決めを行う。その後、図10(b)で示すように、スプリングピン7及びばね3に抗した力で簡易締結装置を矢印I方向に移動させてボルト30を挿通孔1aに押し込む。これにより、ねじ駒2がテーパ部1bに沿って上方に移動して、ボルト30から退避(すなわち拡径)する。このような拡径では、ねじ駒2の雌ねじ部2aがボルト30と噛合しないため、簡易締結装置を回すことなく押し込むだけで挿通が完了する(図10(c))。挿通が完了した状態では、ねじ駒2がばね3の付勢力によりテーパ部1bに沿って下方に移動(すなわち縮径)するため、ねじ駒2とボルト30とが係合する。その後あるいは係合の前に、ケース1をねじの締め付けと同様な要領で回すことにより、ねじ駒2とボルト30とが噛合して締結が完了する。
【0038】
かかる締結状態では、ボルト30におけるねじ駒2の係合側との反対側が挿通孔1aの支持壁部に当接して支承される。このため、ボルト30に強固に締結することができ、安定して締結を行うことができる。
【0039】
ボルト30を取り外すときは、簡易締結装置を少し緩めた(例えば、締め付けと反対方向に回転させる)後、解除部材5をケース1に対して矢印R方向に押し込むことにより、解除部材5をばね3の付勢力に抗してボルト30の挿通方向と略直交する方向に直線移動させる。この移動につれてスプリングピン7が押されるため、スプリングピン7を介してねじ駒2がテーパ部1bに沿って上方へ移動する。すなわち、ねじ駒2はボルト30から離隔する方向に移動して拡径する。かかるねじ駒2の拡径により、ねじ駒2とボルト30とが係合から外れるため、ボルト30への締結が解除される。これにより、図10(d)で示す矢印J方向に移動させることにより、ボルト30から簡易締結装置を引き抜くことができる。
【0040】
このような簡易締結装置では、ボルト30との締結解除を解除部材5への直線移動操作だけで行うことができるため、回転操作を行う必要がなく、締結解除の操作性が向上する。
【0041】
また、解除部材5がばね3によって付勢されているとともに、解除部材5とねじ駒2とがスプリングピン7によって連結されているため、ボルト30の引き抜き後においては、ばね3の付勢力によって解除部材5及びねじ駒2が元の位置に自動的に復帰(すなわち縮径)して待機状態となる。従って、そのままでボルト30への再締結を行うことができる。このため、ボルトへの抜き差しの都度、待機状態とするための操作が不要となり、極めて良好な使い勝手とすることができる。
【0042】
また、ボルト30の締結解除は、解除部材5をボルト30の挿通方向と略直交する交差方向に直線移動させることにより行われるため、解除部材5がボルト30と干渉することがなく、解除の操作性が向上する。
【0043】
また、ボルト30の締結及び締結解除のいずれにおいても、ねじ駒2がテーパ部1bを摺動するため、ねじ駒2の移動を確実に行うことができ、締結及びその解除の作動が安定する。
さらに、スプリングピン7が貫通するケース1のピン孔1k及び解除部材5のピン孔5dが長孔となっているため、スプリングピン7の移動を円滑に行うことができ、これに伴うねじ駒2の移動も円滑に行うことが可能である。
【0044】
図3の(a)は本発明のナット10の側面図、(b)はその上面図、(c)はその下面図で、図4の(a)は本発明の実施例1の固定装置100の側面図、(b)はその下面図である。
固定装置100は、1個又は複数(図示では8個)のナット10が1枚の押え部材20に回転可能に取付けられたもので、前記図1、2等の固定構造において複数の積層部材Sが積層された状態の積層体を加圧固定するための装置である。
【0045】
ナット10は、前記特開平7−197922、特開2001−214918、特開2005−163881等に記載の簡易締結装置に相当する(すなわちこれらを適用した)簡易締結部11のボルト30挿入側にボルト30が挿通可能な円筒部12を、また円筒部12にEリング溝13を設けた構造である。
【0046】
押え部材20には、図示では4隅及びその中央に各1個の計8個のナット10の円筒部12が挿通される穴(図示せず)が設けられており、この穴に円筒部12を挿通し、Eリング60をEリング溝13に係止することにより、押え部材20に対しそれぞれナット10を回転可能に取付けることができる。
【0047】
このように、ナット10が押え部材20と回転可能に一体化された固定装置100を用いることによって、ナット10のボルト挿入穴位置をボルト30の頭部に合せ、次いで一気に固定装置100に所要の加圧力を加えることにより、図示では8個のナット10が同時に8本のボルト30に噛合して、すなわちワンタッチ操作で締結される。
【0048】
このとき、ナット10は、加圧力と加圧部材50の反力とが釣り合う位置まで押え部材20を介して加圧部材50を撓ませながらボルト30に挿通される。その後、加圧力を除去して積層部材Sの積層体への締め付けによる加圧固定が完了する。
また、この際必要に応じてナット10を回すことにより積層体への締め付け力(加圧力)の増減調整を適宜容易に行うことができる。
【0049】
さらに、前記解除部材5により簡単に取り外しができる特開2005−163881の簡易締結装置をナット10の簡易締結部11に適用することにより、積層部材Sの積層体を廃棄する場合などの分解、分別を一層簡単に行なうことができる。
【0050】
なお、ナット10の簡易締結部11として、上記した特開平7−197922、特開2001−214918、特開2005−163881に記載の簡易締結装置の例の他、これら特許文献等に記載の種々の構造を有する各種の簡易締結装置と同様の構造を適用することができることは言うまでもない。
【0051】
また、実施例1では加圧部材50は、複数のコイルばねとしているが、その他板ばねや皿ばねあるいはゴム又は樹脂のような弾性作用を有する弾性部材を用いることができる。
【0052】
さらに、加圧部材50は、押え部材20と積層部材2の積層体との間の他、支持部材40と積層体との間に設けてもよい。
【実施例2】
【0053】
図5の(a)は本発明の実施例2の固定構造を示す側面図、(b)はその上面図である。
実施例2においては、実施例1の固定構造における固定装置100が押え部材20の略中央部に1個のナット10が回転可能に設けられている点と、1本のボルト30及び複数(図示では2本)のガイドロッド70がそれぞれ支持部材40の略中央部、両端部に立ち上り状に設けられている点と、加圧部材50として板ばねが用いられている点とが異なっており、ナット10の構成は実施例1と同じである。
【0054】
そして、押え部材20の両端部には、ガイドロッド70が挿通可能なガイド孔22が穿設されている。
【0055】
図6の(a)はこの実施例の加圧部材50として板ばねの側面図、(b)はその平面図である。
加圧部材50としての板ばねは、図6(a)に示すように、略中央部が一方向に湾曲する単純な弓なり形状となっており、中央部にボルト30、両端部にガイドロッド70がそれぞれ挿通する穴51及び52が穿設されている。
なお、板ばねは、中間部に2山、3山など必要に応じて複数山に屈曲された形状とすることもできる。さらに、加圧部材50として板ばねに代えて、複数の皿ばね又はコイルばねあるいはウレタンゴムなどの硬質高分子材料のような弾性作用を有する弾性部材を用いることもできる。
【0056】
したがって、この例の固定構造においては、押え部材20の両端部のガイド孔22をガイドロッド70の頭部に合せるとともに、ナット10のボルト挿入穴位置もボルト30の頭部に合せられ、次いで一気に固定装置100に所要の加圧力を加えることにより、1個のナット10が1本のボルト30に噛合してワンタッチ操作で締結される。
【0057】
この際にも、ナット10は、加圧力と加圧部材50の反力とが釣り合う位置まで押え部材20を介して加圧部材50を撓ませながらボルト30に挿通される。その後、加圧力を除去して積層部材Sの積層体への締め付けによる加圧固定が完了する。
また、この際必要に応じてナット10を回して積層体への締め付け力(加圧力)の増減調整を適宜容易に行うことができる。この例では、ナット10が1個であることから、一層簡潔な構造で積層体の加圧固定の工数をさらに低減させることができる。
【0058】
なお、この例ではガイドロッド70を2本としたが、片方を省いた1本とすることもできる。この場合は、1本のボルト30が他方のガイドロッドの役割を兼務することになる。
【0059】
このように、実施例1及び2においては、ボルト30にナット10のボルト挿入穴位置をボルト30の頭部に合せ、次いで一気に固定装置100に所要の加圧力を加えるだけのワンタッチ操作で積層部材Sの積層体をボルト30に対して(複数の場合も同時に)締結して加圧固定することができるとともに、必要に応じてナット10を回転することにより増し締め等締め付け力(加圧力)の増減調整を適宜容易に行うことができることから、簡潔な機構でセル等の積層部材Sの積層体に対する加圧力の均一性を容易に確保するとともに、積層体の加圧固定の工数を低減することができる。
【0060】
また、実施例1及び2においては、加圧部材50として押え部材20又は支持部材40と積層部材Sの積層体との間に一方向に湾曲又は屈曲された一体型の板ばねを用いることにより、従来の各ナットに個別にばね部材を用いた締付け構造に比べて一層簡潔でコンパクトな固定構造とすることができる。
【0061】
なお、本発明の固定装置及び固定構造は、図1〜6に示した実施例以外にも組合せは自由に設定でき、ナット10、押え部材20、支持部材40及び加圧部材50等の構成部材について、任意に形状を変更したり、組合せを変更したりして、簡易な構造で、セル等の積層部材Sの積層体など前記したような二つ以上の部材(被固定部材)に対する加圧力の均一性を容易に確保し、被固定部材の加圧固定の工数を低減することができるとともに、その後で被固定部材を廃棄する場合などの分解、分別を簡単に行なうことができるという新たな効果が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1の固定構造の側面図である。
【図2】図1の上面図(平面図)である。
【図3】(a)は本発明のナットの側面図、(b)は(a)の上面図、(c)は(a)の下面図である。
【図4】(a)は本発明の実施例1の固定装置の側面図、(b)は(a)の下面図である。
【図5】(a)は本発明の実施例2の固定構造の側面図、(b)は(a)の上面図である。
【図6】(a)は本発明の実施例2の加圧部材(板ばね)の側面図、(b)は(a)の平面図である。
【図7】(a)、(b)、(c)、(d)は、ナットの構造の一例を説明するための説明図である。
【図8】(a)、(b)、(c)、(d)は、ナットの構造の別の例を説明するための説明図である。
【図9】ナットの構造のさらに別の例を説明するための説明図である。
【図10】(a)、(b)、(c)、(d)は、図9のナットの締結作動状態を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ベース
1a 挿通孔
1b テーパ部
1c 支承壁部
1d すり鉢状穴又は半ドーナツ形状部
1e 斜面
1g ガイド溝
2 ねじ駒
3 ばね
4、8 キャップ
4a 基端部
5 解除部材
7 スプリングピン
10 ナット
20 押え部材
30 ボルト
40 支持部材
50 加圧部材
60 Eリング
70 ガイドロッド
100 固定装置
S 積層部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つ以上の部材(以下、被固定部材という)を固定するための装置であって、
ボルトに噛み込むねじ駒と、ねじ駒が縮径方向に移動するように付勢する付勢部材とを備え、ボルトが内部に挿入されることによりねじ駒がボルトに噛み込むナットと、
前記被固定部材に対して押圧を行うための押え部材とを備え、
少なくとも一つの前記ナットが押え部材に回転可能に取付けられていることを特徴とする固定装置。
【請求項2】
二つ以上の部材(以下、被固定部材という)を支持する支持部材と、
請求項1記載の固定装置の押え部材又は支持部材と前記被固定部材との間に配置された加圧部材とを備え、
前記ボルトが前記支持部材に立ち上り状に設けられており、このボルトが前記ナットに挿入されることにより前記噛み込みを行うとともに、前記加圧部材による被固定部材への加圧を行うことを特徴とする固定構造。
【請求項3】
前記加圧部材は、一方向に湾曲又は屈曲された板ばね、皿ばね、コイルばね、もしくはゴム又は樹脂のいずれかからなる弾性部材であることを特徴とする請求項2記載の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−113707(P2007−113707A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306452(P2005−306452)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】