説明

固形剤形

情報を表す既定の磁気パターン(2)を含む固形剤形(1)。剤形(1)は、経口剤形、たとえば錠剤又はカプセルであることができ、磁気パターン(2)は見えなくてもよい。磁気パターン(2)に含まれる情報はコード化されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項に記載の固形剤形に関する。
【0002】
固形剤形は、世界中で十分に受け入れられている従来からの剤形である。本明細書における「固形剤形」とは、すべてのタイプの固形剤形(たとえば錠剤、カプセル、座剤など)及びすべてのタイプの用途(たとえば化粧品、医薬、診断、栄養補給、食事などの用途)を包含することを意図するが、固形剤形は、医薬品有効成分、化粧品成分、診断用試薬、栄養又は補助食品などを含有する経口剤形として特に重要である。
【0003】
特に医薬品の分野では、各国内市場への医薬品の許認可を管理する規制当局が、製造者に対し、自社の医薬品が偽造に対する何らかの防護を有しなければならないという責務をいっそう嫁しているため、偽造防護がますます重大な特徴になっている。理由は、国によっては、相当な量の偽造された非合法医薬品が市場に浸透していることがわかっているからである。特に生命を維持するための医薬品の場合、これは患者にとって重大な結果を招くおそれがある。
【0004】
錠剤の外面への製造者名のロゴの押印がその錠剤の出所を特定するための従来の措置であるが、この措置によって提供される偽造防護は低いレベルでしかない。他方、供給者(たとえば薬局、医師など)は、消費者に配給する際、(たとえば法的責任の理由のために)それが指定の製造者からの純正品であることを確信することを望む、又は確信する必要がある。
【0005】
また、固形剤形の実体は、製造工程全体を通じて、また貯蔵及び流通の過程で保証され、記録されなければならない。これは普通、押印、色又は形のような剤形に特徴的な視覚的特徴を評価することにより、非破壊的な方法で実施される。これらの特徴は、人間によって評価することもできるし、機械によって読み取ることもできる。しかし、剤形と読み取り装置との間に機械的接触を設けることなくこれらの特徴を評価又は判読することは、剤形が適切な光又は放射線の外部供給源に暴露される場合を除き、不可能ではないとして少なくとも困難である。また、品質管理を容易に実施することはできない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、前述の欠点を解消する固形剤形を提供することである。
【0007】
この目的は、独立請求項の特徴を有する本発明の固形剤形によって達成される。固形剤の有利な実施態様は、従属請求項の特徴から明らかになる。
【0008】
特に、本発明の固形剤形は既定の磁気パターンを含む。
【0009】
一つの実施態様で、本発明は、情報を表す既定の磁気パターンを含む固形剤形を提供する。
【0010】
US5,079,006は、適切な検出器が利用可能である場合でさえ検出可能な磁気信号を発しない所定の形状の磁性材料を含有する医薬固形剤形を開示している。
【0011】
「既定の磁気パターン」とは、制御された磁化処理によって、たとえば図1及び2に示すような磁性材料の部分の選択的磁化によって製造される磁気パターンである。これは、磁化された材料の空間的分散を特徴とする。
【0012】
「磁化処理」とは、所与の磁場によって磁性材料又は物質中に正味磁化を発生させる物理的処理をいう。これにより、磁性材料は磁化された材料に転換される。
【0013】
「磁性材料」とは、何らかの磁性を示す材料をいう。すべての公知の元素が何らかの磁性を示す。したがって、すべての公知の材料が磁性材料である。もっとも一般的な磁性は、反磁性、常磁性及び強磁性である。磁性材料は、全体として非磁化状態に見えるかもしれない。すなわち、自らは正味磁化を有しないかもしれない。磁性材料は、磁場を自動的には発生させない。
【0014】
「磁化された材料」とは、磁性材料又は物質から物理的磁化処理によって製造される。したがって、磁化された材料又は物質は、それぞれの磁性材料と同じ化学組成を有する。
【0015】
「磁気共鳴」とは、特定の外部磁場の印加に応答しての、電子又は原子核による電磁放射線の吸収又は放出をいう。
【0016】
「磁場」は、磁石、電流又は変化する電場に隣接する、磁力が認められるところの領域である。磁場は、ベクトルと呼ばれる量によって数学的に表すことができる。
【0017】
「磁石」とは、鉄を引き寄せ、それ自体の外側に磁場を発生させることができる材料をいう。磁石は、磁性材料から磁化処理によって製造される。たとえば、強磁性材料である鉄は普通、磁化されていない限り、鉄製の他の物体を引き寄せることはできない。
【0018】
磁気パターンは、潜在的偽造者によって容易に検出することはできず、たとえ検出された場合でも、コピーすることは困難である。他方、適切な磁気パターンは、比較的製造し易い。また、適切な手段により、供給者(たとえば薬局、医師など)は、消費者に配給しているものが純正品であるということを容易に立証することができる。また、磁気パターンは、光又は放射線の外部供給源の必要なく、品質管理及び剤形の実体評価を可能にする。
【0019】
特に、本発明の固形剤形の磁気パターンは、生理学的に許容可能な磁化補助物質によって提供される。生理学的に許容可能な磁化補助物質は、磁気パターンが消費者にとって害ではないことを保証する。
【0020】
固形剤形は、医薬品有効、化粧品、診断、栄養補給、食品などの剤形、特に、医薬品有効成分、化粧品成分、診断試薬、栄養又は補助食品など(これは、そのような成分の組み合わせを含むことをも意図する)を含有する経口剤形(たとえば錠剤、たとえばコーティング錠、多層錠剤、糖衣錠、丸剤、顆粒、粉末又はカプセル)であることができる。これらのタイプの剤形は普及しており、消費者によって十分に受け入れられている。
【0021】
磁気パターンに含まれる情報は、有利には、別個の検出(たとえば可視化)手段をもたない人間にとっては検出不可能である。たとえば、磁気パターンは、剤形の内部に設けて、潜在的偽造者が、見た目では、まさか剤形に含まれる偽造防護があるということを認識できないようすることができる。
【0022】
情報は、いかなる形態で含まれてもよく、たとえば、製造者のロゴの簡単な表示であることができるが、磁気パターンに含まれる情報がコード化されているならば、さらに有利であるかもしれない。偽造者は、コードに含まれる情報を容易にデコードすることはできず、ひいては偽造がさらに困難になるため、コード化された情報は偽造に対する防護のレベルを高める。
【0023】
特に、生理学的に許容可能な磁化補助物質は、鉄(Fe)、酸化鉄(II)(Fe23)又は酸化鉄(III)(Fe34)から選択される。これらの補助物質は、磁気パターンを形成するために物理的に許容可能であり、磁化性であることが知られている。
【0024】
固形剤形は、磁気パターンを担持するコア及びそのコアを被覆する少なくとも一つのコーティングを含むことができる。特に、コアを被覆するコーティングは、コアによって担持される磁気パターンが特殊な検出(たとえば可視化)手段なしでは人間にとって検出不可能(たとえば見えない)であるように不透明であることができる。
【0025】
あるいはまた、コアではなくコーティングが磁気パターンを有することができる。また、この場合、磁気パターンは、人間にとって検出可能であってもよいし、検出不可能であってもよい。必要ならば、磁気パターンが検出不可能である(たとえば見えない)ことを保証するために、不透明であってもよいさらなるコーティングを設けてもよい。
【0026】
一つの実施態様では、固形剤形はまた、磁気パターンを担持する、固形剤形に貼付された別々に製造されたフィルムを含むことができる。この実施態様は、未処理の剤形と磁気パターンを担持するフィルムとを別々に製造することを可能にする。そして、このフィルムを未処理の剤形に貼付して最終剤形を形成する。たとえば、フィルムは、別々に製造されたのち未処理の剤形に付着されるポリマーフィルムであってもよい。ここでもまた、フィルムに含まれる磁気パターンは、人間にとって検出可能(たとえば見える)であってもよいし、検出不可能(たとえば見えない)であってもよい(たとえば、特定の可視化手段を用いてのみ見えるものでもよい)。
【0027】
本発明のさらなる有利な特徴は、図面を参照する本発明の実施態様の以下の詳細な説明から明らかになる。
【0028】
図1は、医薬品有効成分を含む錠剤1の形態の本発明の固形剤形の実施態様を示すが、錠剤は、必ずしも、医薬品有効成分を含有しなくてもよく、代わりに、他の有効成分、たとえばビタミン又は美容効果を得るための成分、診断用成分、栄養補給又は食事成分などを含有してもよいし、異なるタイプの有効成分の組み合わせを含有してもよい。錠剤1は磁気パターン2を含む。磁気パターン2は、特定の製造者のロゴ(たとえば出願人のロゴ)の一部を構成することができる特定の六角形を有している。ロゴは、錠剤1の製造者を特定するのに役立つが、複雑なコードを表すものではない。したがって、本明細書ですでに記載したように、磁気パターン2は、より複雑なコード、たとえばバーコードの形態に見えるものでもよい。この場合、情報(たとえば製造者、薬の名称、製造ロット番号、製造日などに関する情報)を特定のバーコードに含めることができ、それが、偽造者にとって、バーコードを正確にコピーすることを、たとえ可能であるとしても、相当に困難にする。さらなる代替態様として、ロゴは、ロゴ上に正確に配置された異なる点を含むことができ、それらの点が、ロゴ上に配置された点の残りによって発生される磁場よりも相当に強い磁場を発生させる。これらの正確に配置された点では、磁場は、既定のしきい値よりも強い。このような特定のコードは、偽造者が検出することは実質的に不可能であるが、消費者に配給される最終製品の立証の際には、供給者(たとえば薬局)は、たとえば適切な装置(磁気パターンを検出し、正確に配置された点の磁場強度をしきい値と比較するもの)を用いて、消費者に配給しているものが、偽造品ではなく、純正品であることを容易に立証することができる。
【0029】
図1で斜め線によって示すように、磁気パターン2は、特殊な可視化(すなわち検出)手段を用いない限り、錠剤1の外から人間には見えない(すなわち検出不可能である)。これを達成するためには、磁気パターン2を錠剤1のコアに含めることができる。コアは、磁気パターン2を見えないようにするため、少なくとも一つの不透明なコーティング(図1には示さない)によって被覆されることができる。
【0030】
あるいはまた、磁気パターン2は、コーティングに含めることもできる。コーティングは、磁気パターン2が人間には見えないよう、不透明であってもよい。磁気パターン2を含有するコーティングが不透明ではない場合、磁気パターン2が見えないことを保証するため、コーティングそのものをさらなる不透明コーティングによって被覆してもよい。
【0031】
さらには、磁気パターン2は、別々に製造することができるフィルム、たとえばポリマーフィルム(たとえば、磁化性補助物質を含有するポリマーフィルム)に含めたのち、それを未処理の錠剤に貼付(たとえば接着)して、最終錠剤1を形成することもできる。
【0032】
磁気パターン2は、少なくとも一つの生理学的に許容可能な磁化補助物質、たとえば鉄(Fe)、酸化鉄(II)(Fe23)又は酸化鉄(III)(Fe34)によって錠剤1の中に設けることができる。これらの補助物質は、生理学的に許容可能であると知られている。
【0033】
磁気パターン2は、生理学的に許容可能な磁化性インクを使用してパターンをコア又はコーティングにプリントしたのち、インクを乾燥させることによって製造することもできる。インクは、インクに含有される磁化性粒子がただちに磁化されるよう、磁場に塗布することもできるし、塗布し、乾燥させたのち、たとえば適切な磁場を発生させる可動書き込みヘッドを用いて磁化を実施することもできる。また、上にかぶせた見えない磁気パターンを担持する見える(非磁気)パターンを設けてもよい。
【0034】
図1に示す錠剤1に含まれる磁気パターンを製造するための設備3の一つの実施態様が図2に示されている。設備3は、鉄製のコア30の脚部300に設けられた巻き線32によって発生する磁束31を誘導するための鉄製のコア30を含む。巻き線32は、それに接続された電源33によって電流が供給される。巻き線32を通過して流れる電流は、図2に示す各矢印によって示される磁束31を発生させる。鉄コア30のさらなる脚部301に設けられたエアギャップには、錠剤1を担持する非磁性担体34が設けられている。エアギャップの寸法は、図2では、はっきりと見せるため、大きく誇張して示されている。簡潔に示すため、磁化性補助物質が錠剤1にすでに設けられているが、まだ磁化されていないものと仮定する。電源33のスイッチを入れると、磁束31が発生し、鉄コア30の中を誘導される。錠剤1又は担体34の両側には、図1に示す磁気パターン2の形状に合致するテンプレート35、36がそれぞれ設けられている。テンプレート35及び36は鉄(又は、空気に比べて高い磁気透過率μを有する材料)でできているため、本質的に、磁束全体がテンプレート35及び36中を誘導される。その結果、磁化性補助物質が磁化されて、図1に示す形状を有する磁気パターン2を形成する。
【0035】
上記のように固定されたテンプレート35及び36を設ける代わりに、可動書き込みヘッドをロゴの輪郭に沿って動かして磁気パターン2を製造することもできる。また、他の方法(さらに上記を参照)を適用して磁気パターン2を生成してもよい。
【0036】
錠剤1に含まれる磁気パターン2は、適切な手段によって検出することができる。最近、磁場の直接的な可視化のための薄い透明な磁気光学フィルムが利用可能になった(たとえば米国Kelvin社から商品名Kel-View(商標)として市販されているフィルム)。
【0037】
また、電磁誘導原理に基づく他の検出系が考えられる。たとえば、錠剤が検出系のセンサに対して動かされると、動く「磁石」(錠剤)が、経時的に変化する磁場を発生させ、その磁場が電流をセンサに誘導する。このタイプのセンサは、たとえばテープレコーダ又はカードリーダですでに使用されている。他のタイプの検出系はいわゆる「ホール効果」を利用する。すなわち、導体を通過する電流が静的磁場によって変化させられる(磁場が導体中を移動する電子に対して作用する)。このような検出系は、たとえば小切手の偽造検出にすでに使用されている。さらなるタイプの検出系は、磁気情報(たとえばバーコードなどの)を読み出すための手持ち式のペンを含む。このような検出系は複数の製造者、たとえば米国アトランタのStopfraud社から市販されている。前記検出系によって発された電気信号を変換すると、各画像を従来のスクリーン上に生成することができる。
【0038】
理解されるように、本発明の固形剤形は、製造し易いが偽造し難い措置(磁気パターンを提供するもの)を提供する。上記実施態様は本発明の例を示すためのものであり、保護の範囲は請求の範囲によって決定される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】情報を表す磁気パターンを担持する本発明の固形剤形の実施態様を示す図である。
【図2】図1の剤形の実施態様に含まれる磁気パターンを製造するための設備の実施態様を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既定の磁気パターン(2)を含む固形剤形(1)。
【請求項2】
情報を表す既定の磁気パターン(2)を含む、請求項1記載の固形剤形(1)。
【請求項3】
磁気パターン(2)が、少なくとも一つの生理学的に許容可能な磁化補助物質によって提供される、請求項1記載の固形剤形(1)。
【請求項4】
薬学的に有効、化粧品、診断又は食事剤形である、請求項1〜3のいずれか1項記載の固形剤形(1)。
【請求項5】
経口剤形である、請求項1〜4のいずれか1項記載の固形剤形(1)。
【請求項6】
経口剤形が錠剤又はカプセルである、請求項4記載の固形剤形(1)。
【請求項7】
磁気パターン(2)に含まれる情報が、別個の検出手段をもたない人間にとって検出不可能である、請求項1〜6のいずれか1項記載の固形剤形(1)。
【請求項8】
磁気パターン(2)に含まれる情報がコード化されている、請求項1〜7のいずれか1項記載の固形剤形(1)。
【請求項9】
生理学的に許容可能な磁化補助物質が、鉄(Fe)、酸化鉄(II)(Fe23)又は酸化鉄(III)(Fe34)から選択される、請求項2〜8のいずれか1項記載の固形剤形(1)。
【請求項10】
磁気パターン(2)を担持するコア及びコアを被覆する少なくとも一つのコーティングを含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の固形剤形(1)。
【請求項11】
コアを被覆するコーティングが不透明である、請求項1〜10のいずれか1項記載の固形剤形(1)。
【請求項12】
コア及びコアを被覆する少なくとも一つのコーティングを含み、コーティングが磁気パターン(2)を担持する、請求項1〜9のいずれか1項記載の固形剤形(1)。
【請求項13】
磁気パターン(2)を担持する、剤形に貼付された別々に製造されたフィルムを含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の固形剤形(1)。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−518501(P2007−518501A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549974(P2006−549974)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000268
【国際公開番号】WO2005/070367
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】