説明

固形化粧料を含む化粧品

【課題】単一組成の固形化粧料の表面に、明度が異なる2以上の表面部分が形成された新規な形態の化粧品、及びこのような化粧品を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】収容皿2に収容された固形化粧料3の表面に、その表面形状が互いに異なる少なくとも2種の表面部分を形成する。そのため、固形化粧料3の外観色と塗布色とのかい離を販売者や顧客に認識させることを可能にする。また、塗布される肌の色に応じて、塗布色により近い明度となる表面部分を提示することを可能にし、固形化粧料3の外観色をもって、販売者や顧客に、塗布色をより適切に認識させることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収容皿とこれに収容された固形化粧料とを含む化粧品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション等の固形化粧料が収容皿に収容された形態を有する化粧品は、一般的に、化粧料粉体基材を収容皿に充填した後、押し型で押圧して、固形化粧料を成型することにより製造される。
【0003】
化粧料粉体基材として乾燥した状態の原料粉体を用いる、いわゆる乾式法による固形化粧料の成型においては、衝撃に強く型崩れしにくい固形化粧料を得るために、収容皿内の空気を抜き出しながら、原料粉体を押し型で押圧することが行われている(特許文献1)。
【0004】
この場合、原料粉体を充填した収容皿と押し型との間に多孔性シートを介在させ、押し型で原料粉体を押圧すると同時に、多孔性シートを通して収容皿内の空気を収容皿外へ逃がすことが行われている。このような多孔性シートとしては、その厚みと織目により、押し型と原料粉体との間に空気の逃げ道を作ることができる布が使用されている。この場合、成型された固形化粧料の表面に、布の規則的な織目が転写され、凹凸が形成される。また、布と化粧料粉体基材の間にさらに紙を介在させることが行われている。紙の繊維は細く、その配列は不規則であるため、固形化粧料の表面には凹凸が形成されにくく、布のみを介在させた場合に比して、その表面は滑らかな形状となる。
【0005】
他方、化粧料粉体基材として原料粉体を揮発性油剤に分散させた揮発性油剤スラリーを用いる、いわゆる湿式法による固形化粧料の成型においては、揮発性油剤スラリーから効率良く揮発性油剤を除去するために、収容皿内の揮発性油剤を抜き出しながら、揮発性油剤スラリーを押し型で押圧することが行われている(特許文献2)。
【0006】
この場合、揮発性油剤スラリーを充填した収容皿と押し型との間に多孔性シートを介在させ、押し型で原料粉体を押圧すると同時に、多孔性シートに揮発性油剤を吸収させ、押し型に設けられた吸引孔を通して、多孔性シート内に保持された揮発性油剤を吸引除去することが行われている(特許文献3)。このような多孔性シートとしては、一般的に、吸油性に優れる紙や不織布が使用されている。この場合、固形化粧料の表面は凹凸のほとんどない滑らかな形状となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−326792号公報
【特許文献2】特開2006−199616号公報
【特許文献3】特開2008−222675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、単一組成の固形化粧料の表面に、明度が異なる2以上の表面部分を形成する技術を提供することを課題とする。より具体的には、単一組成の固形化粧料の表面に、明度が異なる2以上の表面部分が形成された新規な形態の化粧品、及びこのような化粧品を効率よく製造する方法を提供すること課題とする。
また、固形化粧料の中には、構成成分の光学特性によって、成型した固形化粧料の表面の外観色と、その固形化粧料を皮膚に塗布したときの塗布色とがかい離する傾向のものがあり、固形化粧料の外観色から、種々の色の肌に塗布した場合の塗布色をイメージしにくいものがある。
そこで、本発明は、単一組成の固形化粧料の表面に、明度が異なる2以上の表面部分を形成する技術を用いて、固形化粧料をある色の肌に塗布した場合の塗布色に近いイメージの色をその固形化粧料の表面の一部に表現した化粧品、及びこのような化粧品を効率よく製造する方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、同一組成の化粧料粉体基材を用いた場合でも、固形化粧料の成型の際に、収容皿と押し型の間に介在させる多孔性シートの種類によって、成型された固形化粧料の表面の明度が異なるものとなることを見出した。そして、明度の違いは、成型された固形化粧料の表面(押し型により押圧された面)の微細な形状の違いにより生じることを見い出した。
具体的には、例えば、固形化粧料の表面に凹凸が存在する場合には、凹凸が存在しない場合に比して、その表面の明度が小さくなること、固形化粧料の表面に存在する凹凸の大きさが大きくなるほど、その表面の明度は小さくなること、固形化粧料の表面に存在する凹凸の規則性が変われば、その表面の明度が変わることを見い出した。
【0010】
また、本発明者らは、固形化粧料の成型において、化粧料粉体基材を充填した収容皿と押し型との間に介在させる多孔性シートとして、織目の有無、織目の規則性等の表面形状が互いに異なる複数の多孔性シートを重ねたものを用いた場合には、成型された固形化粧料の表面の明度が、各多孔性シートを単独で用いた場合に形成される表面の明度の何れとも異なる明度となることを見い出した。
そして、本発明者らは、これらの知見をもとに、以下の新規な形態の化粧品、及びその製造方法を発明した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
第一の発明は、収容皿と、該収容皿に収容された固形化粧料とを含む、化粧品であって、前記固形化粧料の表面は、その表面形状が互いに異なる、少なくとも2種の表面部分を有することを特徴とする化粧品である(以下、「本発明の化粧品」ともいう。)。
前記少なくとも2種の表面部分は、その表面形状の違いによって異なる明度を有する。
【0012】
固形化粧料は、いわゆる乾式法を用いて成型されるものであっても、いわゆる湿式法を用いて成型されるものであってもよい。固形化粧料の表面とは、押し型による押圧により形成される面、すなわち成型後に収容皿の開口から露出している面をいう。
【0013】
本発明において、固形化粧料の「表面形状が互いに異なる」とは、表面の明度、色相、彩度の少なくとも一つに差異を生じる程度に表面形状が互いに異なることをいう。表面形状が互いに異なることは、例えば、光学顕微鏡下で確認することができる。
表面形状が互いに異なる例としては、凹凸の有無の違いがあること、凹凸の規則性の違いがあること、及び凹凸の大きさの違いがあること等が挙げられる。凹凸の規則性の違いがあることとは、凹凸の規則性の有無の違いがあること、及び凹凸の規則性の種類(凹部と凸部の出現パターン)に違いがあることの両者を含む概念である。凹凸の大きさの違いがあることとは、凹部の深さと凸部の高さの違いがあること、及び凹部と凸部の間隔の違いがあることの両者を含む概念である。
【0014】
第1の表面部分と第2の表面部分の表面形状の組み合わせの概念としては、以下が例示できる。
【0015】
【表1】

【0016】
表1の(1)〜(3)の組み合わせでは、第1の表面部分が第2の表面部分より大きい明度を有する。(4)、(5)の組み合わせでは、各表面部分の凹凸の規則性(凹部と凸部の出現パターン)、凹凸の大きさによって、何れの表面部分がより大きい明度となるか決まる。
第1の表面部分と第2の表面部分それぞれの表面形状は、化粧品の利用目的に応じて選択できる。例えば、第1の表面部分はある色の肌に塗布した場合の塗布色の明度に近い明度となるような表面形状とし、第2の表面部分は別の色の肌に塗布した場合の塗布色の明度に近い明度となるような表面形状とすることが挙げられる。
第1の表面部分と第2の表面部分の明度値の差(ΔL値)は、例えば、0.01〜4.0程度の範囲である。また、固形化粧料を標準的な色の肌に塗った状態での明度を基準として、第1の表面部分と第2の表面部分の明度値は、例えば、−2.0〜+2.0程度の範囲にある。
【0017】
固形化粧料の表面における、第1の表面部分と第2の表面部分の面積比は特に限定されない。例えば、表1の(1)〜(5)の組み合わせにおいて、第1の表面部分を第2の表面部分より小さい面積、例えば、第1の表面部分を、表面全体の10〜40%程度とすることができる。
【0018】
本発明の化粧品において、固形化粧料の表面は、第1の表面部分及び第2の表面部分の何れの表面形状とも異なる表面形状を有する表面部分(第3、第4・・・第nの表面部分)をさらに有していてもよく、その場合の表面形状、面積等も任意である。
【0019】
固形化粧料の表面の複数の表面部分のうち、その外観色、特に明度が塗布色の色により近い表面部分は、好ましくは、該表面部分の外観色が塗布色に近い色であることを示す表示手段を有する。その一態様として、固形化粧料の表面の各表面部分は、その外観色が、所定の肌色に塗布した場合の塗布色に近い色であることを示す表示手段を、それぞれ有することができる。このような表示手段を有することにより、販売者や顧客が、固形化粧料の外観色から、より容易にかつ適切にその固形化粧料の塗布色をイメージすることが可能となる。表示手段としては、例えば、固形化粧料の表面への刻印が挙げられる。
【0020】
本発明の化粧品は、ファンデーション、アイシャドウ、チークカラーなどとすることができる。また、本発明の化粧品は、詰め替え化粧品(いわゆるレフィル)に好適である。
【0021】
本発明の化粧品は、例えば、収容皿に充填された化粧料粉体基材を、その表面形状が互いに異なる少なくとも2種のプレス面部分を有する押し型で、押圧することにより製造することができる。
本発明において、「化粧料粉体基材」とは、いわゆる乾式法による成型に用いられる原料粉体(任意で少量の油性成分を含んでいてもよい)、及びいわゆる湿式法による成型に用いられる原料粉体の揮発性油剤スラリーの両者を含む概念である。
また、本発明の化粧品は、例えば、化粧料粉体基材を充填した収容皿と押し型との間に多孔性シートを介在させ、該多孔性シートを通して収容皿内の空気又は揮発性油剤を抜きながら、押し型で、前記化粧料粉体基材を押圧することにより、製造することができる。
【0022】
本発明において、「介在」とは、収容皿の開口の少なくとも半分を、何れかの多孔性シートが覆う状態をいう。
多孔性シートとしては、布、紙、不織布が挙げられる。布は、固形化粧料の成型に通常用いられるものであればよい。例えば、布の織り方は、平織り、綾織り等である。また、布の織目の大きさ(目開き)は、例えば、10〜1500メッシュ、好ましくは30〜1200メッシュ程度である。また、布の厚みは0.01〜0.5mm程度、好ましくは0.05〜0.45mmである。布や不織布を構成する繊維は、ナイロン、アセテート、コットン、PET等、任意の繊維を用いることができる。また、紙も固形化粧料の成型に通常用いられるものであればよい。斤量は、例えば、10〜40g/m2であり、厚さは、例えば、0.02〜0.04mmである。
【0023】
多孔性シートの介在のさせ方(配置の仕方)は、上記本発明の化粧品を製造し得る限りにおいて、特に制限されない。
例えば、1種の多孔性シートで収容皿の開口の一部を覆うことにより、該多孔性シートの表面形状に対応した形状の第1の表面部分と、押し型のプレス面の表面形状に対応した形状の第2の表面部分を、その表面に有する固形化粧料を成型することができる。
【0024】
また、表面形状が互いに異なる2種の多孔性シートで、それぞれ収容皿の開口の異なる部分を覆うことにより、第1の多孔性シートの表面形状に対応した形状の第1の表面部分と、第2の多孔性シートの形状に対応した形状の第2の表面部分を、その表面に有する固形化粧料を成型することができる。
【0025】
ここで、多孔性シートの「表面形状が互いに異なる」とは、上記押し型による押圧による成型により、上述した固形化粧料の「表面形状が互いに異なる」状態を実現しうる程度に、表面形状が互いに異なることをいう。
表面形状が互いに異なる例としては、織目の有無の違いがあること、織目の規則性の違いがあること、織目の大きさの違いがあること、糸の太さの違いがあること、繊維の表面形状の違いがあること、繊維の太さの違いがあること、繊維の密度の違いがあること等が挙げられる。
例えば、布は織目を有するが、紙及び不織布は織目を有しない。また、布の織目の規則性は、平織、綾織、朱子織等の織り方によって異なる。
【0026】
さらに、収容皿の開口の少なくとも一部を覆う第1の多孔性シートの上に、第1の多孔性シートと表面形状の異なる第2の多孔性シートを部分的に重ねることにより、第1の多孔性シート又は第2の多孔性シートの表面形状に対応した形状の第1の表面部分と、第1の多孔性シートと第2の多孔性シートを重ねて所定の圧力をかけた時の表面形状に対応した形状の第2の表面部分を有する固形化粧料を得ることができる。この方法によれば、第1の表面部分と第2の表面部分の境界の不連続性を小さくすることができる。
以下、この製造方法(第二の発明)について、詳細に説明する。
【0027】
すなわち、第二の発明は、化粧料粉体基材を充填した収容皿と押し型との間に多孔性シートを介在させる工程Aと、該多孔性シートを通して収容皿内の空気又は揮発性油剤を抜きながら、押し型で前記化粧料粉体基材を押圧して固形化粧料を成型する工程Bとを有する化粧品の製造方法であって、前記工程Aでは、前記収容皿の開口の少なくとも一部を覆う第1の多孔性シートの上に、第1の多孔性シートと表面形状の異なる第2の多孔性シートを部分的に重ねて介在させることを特徴とする、化粧品の製造方法である。
【0028】
各用語の意味については、上述したとおりである。
第1の多孔性シートと第2の多孔性シートの組み合わせの概念としては、以下が例示できる。
【0029】
【表2】

【0030】
第1の多孔性シートは、好ましくは、空気を抜くためのフィルターの役目をするものである。好ましくは、紙、不織布、若しくは30〜1200メッシュの布である。これにより、化粧料粉体基材中の粉体の多孔性シートへの入り込みを極力防止することができる。
湿式法による固形化粧料の成型においては、第1の多孔性シートは、好ましくは、紙又は不織布である。これにより、化粧料粉体基材中の揮発性油剤の多孔性シートへの吸収を促進し、効率よく揮発性油剤を抜くことができる。
第1の多孔性シートが紙又は不織布の場合には、第2の多孔性シートは、好ましくは布である。これにより、固形化粧料の表面に、表面形状が互いに異なる表面部分を容易に形成することができる。また、乾式法による固形化粧料の成型においては、第2の多孔性シートとして布を用いることより、第1の多孔性シートと押し型との間に、空気の逃げ道を確保し、効率よく固形化粧料の空気抜きを行うことができる。
【0031】
第1の多孔性シートと第2の多孔性シートの重ね方は、任意に選択することができる。例えば、第1の多孔性シートが収容皿の開口を覆う面積を、第2の多孔性シートが収容皿の開口を覆う面積よりも大きくすることも(図1(a)参照)、その逆にすることもできる(図1(b)参照)。図1(a)及び図1(b)の形態では、収容皿の開口は、何れかの多孔性シートで完全に覆われているが、図1(c)に示すように、必ずしも収容皿の開口が何れかの多孔性シートで完全には覆われない形態の採用も可能である。
【0032】
第1の多孔性シートと第2の多孔性シートの、収容皿を覆う部分の面積比は特に限定されない。例えば、表2の(1)〜(3)の組み合わせにおいて、第1の多孔性シートの収容皿を覆う部分の面積を、収容皿全体の面積に対して80〜100%程度、第2の多孔性シートの収容皿を覆う部分の面積を、収容皿全体の面積に対して50〜80%程度とすることができる。
【0033】
第1の多孔性シートは、好ましくは、前記収容皿の開口の全部を覆う(図1(a)参照)。これにより、第2の多孔性シートの端の転写されて形成される線状の溝の深さが小さくなり、固形化粧料の表面の表面部分の境界を滑らかに形成することができる。
【0034】
また、固形化粧料を乾式法を用いて成型する場合に、第1の多孔性シートとして紙又は不織布を用い、第2の多孔性シートとして布を用いる場合には、第2の多孔性シートは、好ましくは、前記収容皿の開口の半分より大きい面積、さらに好ましくは60%以上、更に好ましくは75%以上覆う。これにより、十分な空気の逃げ道を確保でき、効率よく空気を抜くことができる。
【0035】
本発明の製造方法において、収容皿と押し型の間に、第1の多孔性シート及び第2の多孔性シートの何れの表面形状とも異なる表面形状を有する多孔性シート(第3、第4・・・第nの多孔性シート)をさらに重ねて介在させてもよく、その場合の表面形状、介在のさせ方等も任意に設定できる。
【0036】
本発明の製造方法は、ハンドタイプのプレス装置、又は自動プレス装置を用いて実施することができる。ハンドタイプのプレス装置は、固形化粧料の成型に通常用いられるものを用いることができる。
【0037】
自動プレス装置としては、例えば、化粧料粉体基材を、収容皿に供給する供給ホッパーと、前記供給ホッパーによって化粧料粉体基材が供給された収容皿を載置する基台と、前記収容皿の開口の少なくとも一部を覆う位置に、第1の多孔性シートを移送する第1の移送手段と、前記第1の多孔性シートの上方であって、前記収容皿の開口の少なくとも一部を覆い、かつ第1の多孔性シートと部分的に重なる位置に、第2の多孔性シートを移送する第2の移送手段と、前記第1の多孔性シートと前記第2の多孔性シートが重なった状態で、その上から前記収容皿内の化粧料粉体基材を押圧する押し型とを備える装置を用いることができる。
このような装置を用いることで、製品の生産性を挙げることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の化粧品は、その固形化粧料の外観色と塗布色とのかい離を販売者や顧客に認識させることを可能にする。また、本発明の化粧品は、塗布される肌の色に応じて、塗布色により近い明度となる表面部分を提示することを可能にし、固形化粧料の外観色をもって、販売者や顧客に、塗布色をより適切に認識させることを可能にする。
また、本発明の化粧品の製造方法は、本発明の化粧品を効率よく生産することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の製造方法の工程Aにおける多孔性シートと収容皿の位置関係を表す平面図である。
【図2】本発明の化粧品の形態を表す平面図である。
【図3】本発明の製造方法に用いる装置の形態を表す正面図である。
【図4】前記装置を使用した本発明の製造方法の工程図である。
【図5】前記装置を使用した本発明の製造方法におけるロール紙、ロール布及び収容皿の位置関係を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図2を参照して、本発明の化粧品の形態について説明する。
図2(a)に示す、詰め替え化粧品(ファンデーションのレフィル)1は、アルミ製の収容皿2と、固形化粧料(ファンデーション)3を含む。固形化粧料3の表面は、第1の表面部分41及び第2の表面部分42を有する。第1の表面部分41の面積は、表面全体の面積の約15%程度を占める。
第1の表面部分41は、肉眼で視認できる範囲では凹凸を有さず、第2の表面部分42は、布の織目が転写されたような格子状の連続的な凹凸を有する。
第1の表面部分41と第2の表面部分42では、第1の表面部分のほうが明度が高く、明度差(ΔL値)は、0.4〜0.5程度である。
【0041】
図2(b)に示す、詰め替え化粧品(ファンデーションのレフィル)1は、図2(a)に示す化粧品と、各表面部分の表面形状においてのみ異なる。第1の表面部分43は、布の織目が転写されたような格子状の連続的な凹凸を有し、第2の表面部分44は、布の織目が転写されたような格子状の連続的な凹凸であって、第1の表面部分43に形成される凹凸より大きな凹凸を有する。
第1の表面部分43と第2の表面部分44では、第1の表面部分のほうが明度が高く、明度差(ΔL値)は、0.6〜0.7程度である。
【0042】
以下、図3及び図4を参照しながら、自動プレス装置を用いた本発明の製造方法の一形態について説明する。なお、本実施形態においては、化粧料粉体基材Qは、いわゆる湿式法に用いられる原料粉体(主成分:タルク、天然マイカ、合成金マイカ、合成金雲母、酸化チタン、セリサイト)である。
図3に示すように、自動プレス装置5は、化粧料粉体基材Qを充填するための収容皿2を載置する基台6と、化粧料粉体基材Qを収容皿2内に供給する供給ホッパー7とを備えている。
また、同装置は、収容皿2の開口の少なくとも一部を覆う位置に、幅約70〜100cmのロール紙(第1の多孔性シート)Mを移送する、第1の繰り出しローラ81、第1の巻き取りローラ82、1対のガイドローラ83、83を備えている(第1の移送手段)。第1の繰り出しローラ81は、ロール紙Mを繰り出し、第1の巻き取りローラ82は第1の繰り出しローラにより繰り出された長さ分のロール紙Mを巻き取る。1対の第1のガイドローラ83、83は、基台6の上方でロール紙Mを把持して、収容皿2に対するロール紙Mの位置を決める。
また、同装置は、ロール紙Mの上方であって、ロール紙Mと部分的に重なる位置に、幅約30〜50cmロール布(第2の多孔性シート、アセテート製の平織布)Nを移送する、第2の繰り出しローラ91、第2の巻き取りローラ92、1対のガイドローラ93、93を備えている(第2の移送手段)。第2の繰り出しローラ91は、ロール布Nを繰り出し、第1の巻き取りローラ92は第2の繰り出しローラにより繰り出された長さ分のロール布Nを巻き取る。1対の第2のガイドローラ93、93は、基台6の上方でロール布Nを把持して、収容皿2及びロール紙Mに対するロール布Nの位置を決める。
また、同装置は、ロール紙Mとロール布Nとが部分的に重なった状態で、その上から前記収容皿内の化粧料粉体基材を押圧する押し型10を備えている。
【0043】
第2のガイドローラ93、93は、押し型10を保持する押し型ホルダ11に支持されていて、押し型10の中心を通る垂直な軸線回りに回動可能に構成されている。該ガイドローラは、ガイドローラの軸方向にスライド可能に構成されている。
【0044】
さらに、自動プレス装置5は、供給ホッパー7の下方から押し型10の下方に向かう方向へ基台6を移送するコンベヤ装置12を有している。このコンベヤ装置12は、基台6にセットされた収容皿2を供給ホッパー7の下方から押し型10の下方(図3の矢印A方向)へと搬送する。
【0045】
図4(a)〜(d)に、本実施形態の各工程の状態図を示す。まず、基台6に収容皿2をセットし、コンベヤ装置12により収容皿2を供給ホッパー7の下方まで搬送する。そして、供給ホッパー7により、収容皿2内に化粧料粉体基材Qを供給し、収容皿2内を化粧料粉体基材Qで充填する(図4(a))。
【0046】
化粧料粉体基材Qが充填された収容皿2は、さらにコンベヤ装置12によりロール紙Mとロール布Nの下方の所定位置まで搬送される(図4(b))。
この時点で、ロール紙Mとロール布Nは、第1のガイドローラ83、83、及び第2のガイドローラ93、93により、収容皿の開口の上方で、部分的に重なるように配置されている。
例えば、一形態では、ロール紙Mはその長辺が基台6の移送方向と平行になるように、第1のガイドローラ83、83により固定され、ロール布Nは、その長辺が基台6の移送方向に対して約30〜45℃の角度となるように、第2のガイドローラ93、93により固定されている。そして、4角形の収容皿2が、その一辺が基台6の移送方向と平行になるように搬送される。この形態におけるロール紙M、ロール布N、収容皿2の位置関係を図5(a)に示す。
また、他の形態では、ロール紙M及びロール布Nはその長辺が基台6の移送方向と平行であるが、部分的に重なるように、第1のガイドローラ83、83及び第2のガイドローラ93、93により固定されている、そして、4角形の収容皿2が、その一辺が基台6の移送方向に対して約30〜45℃の角度となるように搬送される。この形態におけるロール紙M、ロール布N、収容皿2の位置関係を図5(b)に示す。
【0047】
続いて、押し型10にて、化粧料粉体基材Qを押圧する(図4(c))。押圧は、通常、固形化粧料の成型に用いられる範囲の圧力で行えばよく、例えば、成型用シリンダー径60φ〜80φにて、15〜50kg/cm2程度の範囲、トータル圧力として400Kg〜2500Kgの範囲である。
【0048】
続いて、押し型10が化粧料粉体基材から離れ、化粧品が完成する(図4(d))。完成した化粧品は、図2(a)に示す形態を有する。図2(a)において、第1の表面部分41は、収容皿2と押し型10との間にロール紙Mのみが介在することで形成された部分であり、第2の表面部分42は、収容皿2と押し型10との間にロール紙Mの上にロール布Nが重なって介在することで形成された部分である。第1の表面部分41は、肉眼で視認できるような大きさの凹凸を有さず、第2の表面部分42は、ロール布Nの表面形状に対応する凹凸を有する。すなわち、第2の表面部分42には、ロール紙Mの上からロール布Nの織目が転写されている。
上述したとおり、第1の表面部分41と第2の表面部分42では、第1の表面部分のほうが明度が高い。
なお、ロール紙M及びロール布Nの化粧料粉体基材及び押し型に接触した部分は、必要に応じて、第1の巻き取りローラ82、第2の巻き取りローラ92により巻き取られ、これと同時に、第1の繰り出しローラ81、第2の繰り出しローラ82により新しいロール紙M、ロール布Nが繰り出されて、次の固形化粧料の成型に備える。
【実施例】
【0049】
以下に、収容皿と押し型の間に介在させる多孔性シートを様々な組み合わせて重ねた場合に、成型された固形化粧料の表面の明度がどのように変化するか調べた。
タルク、天然マイカを主成分としたファンデーションの原料粉体を用いて、いわゆる乾式法により、ハンドタイプのプレス装置によって固形化粧料の成型を行った。続いて、固形化粧料の表面の特定の表面部分の明度を色差計により測定した。表3に、使用した多孔性シート、及び表面部分の明度(L値)の、コントロールに対する差(ΔL値を示す。
【0050】
【表3】

【0051】
ナイロン布を化粧料基材側に配置し、これにアセテート布を重ねたものを介在させた試験番号2〜4では、アセテート布のみを介在させたコントロールに比して、成型された固形化粧料の表面の明度が小さくなった。また、試験番号2〜4の結果の比較から、化粧基材側に配置される布の織目が大きくなるほど、成型された固形化粧料の表面の明度が大きくなることが判った。これらの固形化粧料の表面を観察すると、コントールでは、格子状の微細な凹凸が形成されていた。また、試験番号2、3では、コントロールに比して幅広くかつ深い格子状の凹凸が形成されていた。また、これらの例では、コントロールに対して凹凸の規則性も異なっていた。試験番号2、3の結果を比べると、試験番号2のほうが、より幅広くかつ深い凹凸を有していた。試験番号4では、コントロールと同等の幅及び深さの格子状の微細な凹凸が形成されていたが、コントロールの凹凸とは、その規則性が異なっていた。
これより、固形化粧料の表面に存在する凹凸の幅や深さが大きくなるほど、その表面の明度は小さくなること、固形化粧料の表面に存在する凹凸の規則性が変われば、その表面の明度が変わることが判った。また、固形化粧料の凹凸の幅や深さは、押し型による押圧の際に化粧料基材に接触する多孔性シートの織目の大きさを大きくしたり、糸の太さを太くすることで、幅広く、かつ深くすることができることが判った。
【0052】
紙を化粧料基材側に配置し、これにアセテート布を重ねて介在させた試験番号5、6では、アセテート布のみを介在させたコントロールに比して、成型された固形化粧料の表面の明度が大きくなった。
また、試験番号5と6の結果の比較から、紙が厚いほうが明度が高くなることが判った。同様の傾向は、試験番号7と8、試験番号10と11、試験番号13と14の結果を比較することからも判る。これは、紙が厚いほうが、押し型による押圧により重ねる布の織目が固形化粧料の表面に転写されにくいためであると考えられる。これらの固形化粧料の表面を観察すると、試験番号5の例では、格子状の微細な凹凸が形成されていたが、その深さは小さかった。試験番号6の例では、同様の凹凸が形成されていたが、その深さは、試験番号5の例に比べて、さらに小さかった。
これより、上記知見に加え、紙を化粧料基材側に配置することは、明度を大きくする方向に作用すること、その作用は、紙が厚いほど顕著に得られることが判った。
【0053】
ナイロン布(超薄)を化粧料基材側に配置し、これにナイロン布(薄又は厚)を重ねて介在させた試験番号9、12では、ナイロン布(超薄)の代わりに薄紙を用いた試験番号8又は試験番号11に比して明度が小さかった。これは、ナイロン布(超薄)は、紙に比べて明度を小さくする方向に作用することに加え、その薄さ及び柔らかさゆえ、重ねる布の織目を固形化粧料表面に転写しやすいためであると考えられる。ナイロン布(超薄)が、重ねる布の織目を転写しやすいことは、試験番号9のナイロン布(超薄)にナイロン布(厚)を重ねた場合には、試験番号12のナイロン布(超薄)にナイロン布(薄)を重ねた場合に比して、固形化粧料の表面に幅広く深い凹凸が形成されたことによっても裏付けられた。
【0054】
これより、第1の多孔性シート又は第2の多孔性シートと、成型される固形化粧料の表面の明度の関係に着目すると、紙や不織布を用いた場合のほうが布を用いた場合よりも高い明度となること、紙や不織布の場合は厚い紙を用いるほど高い明度となること、布の場合は薄い布を用いるほど高い明度となること、第1の多孔性シートが薄くなればなるほど、第2の多孔性シートが明度に与える影響が顕著になることが判った。
【0055】
以上の結果から、固形化粧料の成型において、化粧料基材を充填した収容皿と押し型との間に、表面形状が互いに異なる多孔性シートを重ねて介在させることによって、成型される固形化粧料の表面の明度を調節できることが判った。
そして、固形化粧料の成型において、化粧料基材を充填した収容皿と押し型との間に、表面形状が互いに異なる多孔性シートを部分的に重ねて介在させることによって、単一組成の固形化粧料の表面に、明度が異なる2以上の表面部分を形成することができることが判った。
【0056】
また、上記の試験に用いたファンデーションをパネラーの手首内側に塗布し、明度を測定したところ、その明度は、試験番号6の固形化粧料の表面の明度とほぼ同じであった。これより、このファンデーションを、このパネラーの手首内側の色と同程度の色の肌に塗布した場合の塗布色を最も正確に表しているのは、試験番号6の固形化粧料であると判った。従って、固形化粧料の表面のうち、第1の表面部分を試験番号6の表面形状となるように成型することにより、第1の表面部分の外観色から、前記色の肌に塗布した場合の塗布色をイメージしてもらうことができ、また、第2の表面部分を試験番号6とは異なる表面形状となるように成型することによって、他の色の肌に塗布したときの塗布色を同時にイメージしてもらうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、ファンデーション、アイシャドウ、チークカラー等の種々の化粧品の製造に利用できる。
本発明は、単一組成の固形化粧料の表面に、2以上の異なる明度をある程度自由に表現することを可能にするため、顧客、販売者等への商品の効果的なアピールに幅広く活用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 詰め替え化粧品
2 収容皿
3 固形化粧料
41、43 第1の表面部分
42、44 第2の表面部分
5 自動プレス装置
M ロール紙
N ロール布
Q 化粧料粉体基材
6 基台
7 供給ホッパー
81 第1の繰り出しローラ
82 第1の巻き取りローラ
83 第1のガイドローラ
91 第2の繰り出しローラ
92 第2の巻き取りローラ
93 第2のガイドローラ
10 押し型
11 押し型ホルダ
12 コンベヤ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容皿と、該収容皿に収容された固形化粧料とを含む、化粧品であって、
前記固形化粧料の表面は、その表面形状が互いに異なる、少なくとも2種の表面部分を有することを特徴とする化粧品。
【請求項2】
前記表面形状が、凹凸の有無、凹凸の規則性、及び凹凸の大きさの少なくとも一つである、請求項1に記載の化粧品。
【請求項3】
前記2種の表面部分のうち、第1の表面部分は、第2の表面部分よりも小さい面積であり、かつ
前記第1の表面部分は凹凸を有さず、前記第2の部分は凹凸を有する、請求項1又は2に記載の化粧品。
【請求項4】
前記固形化粧料は、化粧料粉体基材を充填した収容皿と押し型との間に多孔性シートを介在させ、該多孔性シートを通して収容皿内の空気又は揮発性油剤を抜きながら、押し型で前記化粧料粉体基材を押圧することにより成型されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の化粧品。
【請求項5】
化粧料粉体基材を充填した収容皿と押し型との間に多孔性シートを介在させる工程Aと、
該多孔性シートを通して収容皿内の空気又は揮発性油剤を抜きながら、押し型で前記化粧料粉体基材を押圧して固形化粧料を成型する工程Bとを有する、化粧品の製造方法であって、
前記工程Aでは、前記収容皿の開口の少なくとも一部を覆う第1の多孔性シートの上に、第1の多孔性シートと表面形状の異なる第2の多孔性シートを部分的に重ねて介在させることを特徴とする、化粧品の製造方法。
【請求項6】
前記表面形状は、織目の有無、織目の規則性、織目の大きさ、糸の太さ、繊維の表面形状、繊維の太さ、繊維の密度の少なくとも一つである、請求項5に記載の化粧品の製造方法。
【請求項7】
第1の多孔性シートが紙又は不織布であり、第2の多孔性シートが布であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の化粧品の製造方法。
【請求項8】
第1の多孔性シートは、前記収容皿の開口の全部を覆うことを特徴とする、請求項5〜7の何れか一項に記載の化粧品の製造方法。
【請求項9】
前記固形化粧料は、乾式法を用いて成型されるものであり、
第2の多孔性シートは、前記収容皿の開口の半分より大きい面積を覆うことを特徴とする、請求項7又は8に記載の化粧品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−26238(P2011−26238A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173230(P2009−173230)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】