説明

固形有機性廃棄物のメタン発酵装置

【課題】固形有機性廃棄物を無希釈で効率的にメタン発酵処理できるメタン発酵装置を提供する。
【解決手段】発酵液Lを貯えた嫌気性発酵槽2の内側を有孔隔壁3により上下に仕切り、隔壁3の上方に固形有機性廃棄物Aを取り入れ、ポンプ11付き還流路10により発酵槽2内の発酵液Lを隔壁3の下方の底部から引き抜き発酵槽2の外側を介して隔壁3の上方の頂部に戻して循環させることにより固形有機性廃棄物Aをメタン発酵させる。発酵槽2の底部に発酵液Lを槽外の液面対応高さhまで上昇させて溢流させる溢流路15を設ける。更に好ましくは、発酵槽2内の隔壁3の下方に発酵液Lが透過可能な嫌気性微生物の固定床20を設ける。また、発酵槽2内の隔壁3の上方又は隔壁3上に有機性廃棄物Aの撹拌手段30を設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固形有機性廃棄物のメタン発酵装置に関し、とくに低含水率の固形有機性廃棄物を無希釈又は低希釈率でメタン発酵処理する装置に関する。本発明は、生ごみ、食品残渣、家畜廃棄物、脱水汚泥等の固形有機性廃棄物をメタン発酵微生物群(以下、嫌気性微生物という)との接触によりメタン発酵させ、発酵により生成するバイオガスをエネルギー源として回収する廃棄物再資源化型のメタン発酵施設等に有効に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
生ごみ、食品残渣、家畜廃棄物、脱水汚泥等の低含水率(例えば含水率65〜80%程度)の有機性廃棄物は、従来ほとんど埋立て・焼却処分されてきたが、近年は循環型社会を構築するという観点から再資源化処理することが求められている。有機性廃棄物から堆肥・飼料等を回収して再資源化することも可能であるが、再資源化物の活用範囲が限られていることから、より活用範囲の広い再資源化技術として、有機性廃棄物を微生物分解してエネルギー源として利用可能なバイオガス(約70%のメタンガス、約30%の二酸化炭素ガス、少量の硫化水素等を含む)を回収するメタン発酵処理が注目され実用化が進められている。
【0003】
従来から有機性廃棄物をメタン発酵処理する方法として、湿式メタン発酵法と乾式メタン発酵法とが知られている。湿式メタン発酵法は、例えば特許文献1及び2が開示するように、有機性廃棄物を混入異物と分別して微粉砕し、TS濃度(有機固形物濃度)5〜15%程度のスラリー状にしたうえでメタン発酵槽(以下、嫌気性発酵槽という)に投入し、発酵槽内で有機物スラリーを嫌気性微生物と接触させてメタン発酵させる方法である。低含水率の固形有機性廃棄物も、微粉砕して水で希釈することにより湿式メタン発酵法で処理することができる。
【0004】
しかし湿式メタン発酵法は、微粉砕した有機性廃棄物に対して少なくとも1〜2倍程度の希釈水を加えてTS濃度を下げる必要があるため、希釈に応じて発酵槽の容量が大きくなり、処理後に生じる液状残渣(以下、発酵済液ということがある)の量も増える。発酵済液中には未分解の有機物が残留しているので、環境中へ放流する前に残留有機物を更に浄化する二次処理(排水処理等)が必要となる場合があり、発酵済液の量が増えると二次処理施設の大型化や二次処理費用の増大を招く。とくに下水道等が完備されていない農村地域等では、公共用水域に放流するために高度な二次処理が要求されるので、コスト削減等の観点から二次処理の必要な残渣量をできる限り少なくすることが望まれている。
【0005】
これに対し乾式メタン発酵法は、例えば特許文献3〜5が開示するように、有機性廃棄物をTS濃度20〜40%程度で嫌気性微生物と接触させてメタン発酵させる方法である。乾式メタン発酵法は、低含水率の固形有機性廃棄物を無希釈又は低希釈率でメタン発酵することができるので、湿式メタン発酵法に比し希釈水分だけ処理対象総量を少なくして発酵槽の小型化を図り、処理後に生じる残渣量も少なくなるため二次処理コストも低く抑えることが期待できる。
【0006】
例えば特許文献3の乾式メタン発酵法では、低含水率の有機性廃棄物を粒径2cm未満の粒子状又はスラッジ状に粉砕し、通気性及び流動性を与えるために廃棄物より大粒径の粒状通気性副資材(木質系チップ、小枝・葉、乾燥鶏糞ペレット等)と混合してTS濃度25〜35%程度に調整したうえで嫌気性発酵槽に投入し、発酵槽内で有機物・副資材の混合物をピストンフロー的に押し出すように撹拌しながら嫌気性微生物と接触させてメタン発酵させる。また特許文献4の乾式メタン発酵法では、副資材に代えて、発酵処理後に生じる汚泥状残渣の脱水汚泥の一部を有機性廃棄物と混合し、脱水汚泥との混合により有機性廃棄物のTS濃度を調整したうえで発酵槽に投入してメタン発酵させる。
【0007】
【特許文献1】特許第2708087号公報
【特許文献2】特許第3064272号公報
【特許文献3】特開11−309493号公報
【特許文献4】特開2004−017024号公報
【特許文献5】特開2003−053309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3及び4の乾式メタン発酵法は、嫌気性微生物による分解速度が比較的速い易分解性の有機固形物(以下、易分解性固形物という)と比較的遅い難分解性の有機固形物(以下、難分解性固形物という)とを混合して同じようにメタン発酵処理するので、難分解性固形物が分解不十分なまま嫌気性発酵槽から流出してしまう問題点がある。一般に嫌気性微生物による分解速度の異なる難分解性有機物と易分解性有機物とを同時にメタン発酵処理することは困難であるが、特許文献3及び4の方法では発酵槽内のTS濃度調整のために難分解性固形物(副資材や脱水汚泥等)を混合する必要があるため、発酵槽から流出する残渣中に未分解の難分解性固形物が多量に残ってしまう。
【0009】
このため上述した乾式メタン発酵法では、嫌気性発酵槽から流出する残渣中の難分解性固形物を二次的に分離回収して分解処理する工程・施設が必要となり、二次処理コストを削減することが難しい。例えば特許文献3の発酵法では、発酵槽から流出する汚泥状残渣を篩にかけて未分解の副資材を分離回収し、未分解の副資材を発酵槽へ返送して循環利用している。しかし、分離回収コストが嵩むと共に、メタン発酵処理により多少なりとも分解される難分解性固形物を篩だけで全て回収することは困難であるため、回収できない難分解性固形物に対する二次処理が必要となる。また特許文献4の発酵法では、汚泥状残渣を脱水して一部を発酵槽に返送しているが、残りの脱水汚泥中にも多量の難分解性固形物が含まれているので、やはり残りの脱水汚泥に対する二次処理が必要となる。
【0010】
また、特許文献3及び4の乾式メタン発酵法は、難分解性固形物を嫌気性発酵槽内において十分にメタン発酵しないまま流出させてしまうので、発酵槽のメタン発酵率(バイオガスの回収率)を高めることが難しく、非効率的な処理システムになるおそれもある。更に、従来の乾式メタン発酵法は有機性廃棄物を流動性が低い低含水状態のまま撹拌しており、有機性廃棄物と嫌気性微生物とが均一に接触するように撹拌することが難しいことも、効率的なメタン発酵が得にくい原因となっている。有機性廃棄物を無希釈で又は低希釈でメタン発酵する方法の実用化を図るためには、残渣中に含まれる未分解の有機物量が少なく、従来の湿式メタン発酵法と同程度のメタン発酵率が得られる技術を開発する必要がある。
【0011】
そこで本発明の目的は、固形有機性廃棄物を無希釈で効率的にメタン発酵処理できるメタン発酵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
図1の実施例を参照するに、本発明による固形有機性廃棄物のメタン発酵装置は、発酵液Lを貯える嫌気性発酵槽2、発酵槽2内を上下に仕切る有孔隔壁3、発酵槽2の隔壁3の上方に設けた固形有機性廃棄物Aの取入口5、及び発酵槽2内の発酵液Lを隔壁3の下方の底部から引き抜き発酵槽2の外側を介して隔壁3の上方の頂部に戻して循環させるポンプ11付き還流路10を備えてなるものである。
【0013】
好ましくは、発酵槽2の底部に発酵液Lを槽外の液面対応高さhまで上昇させて溢流させる溢流路15を設ける。また図4に示すように、発酵槽2内の隔壁3の上方又は隔壁3上に撹拌手段30を設けることができる。望ましくは、図5に示すように、還流路10上に、発酵液Lを一端側から流入させ所要時間滞留させたのち他端側から流出させる一時滞留槽40を設ける。この場合は、同図に示すように、一時滞留槽40と発酵槽2とを同じ高さに設け、発酵槽2の底部に代えて一時滞留槽40の底部に発酵液Lを槽外の液面対応高さhまで上昇させて溢流させる溢流路15を設けることができる。
【0014】
更に好ましくは、図1及び図5に示すように、発酵槽2内の隔壁3の下方及び/又は一時滞留槽40内に発酵液Lが透過可能な嫌気性微生物の固定床20を設ける。また、図3及び図5に示すように、発酵槽2及び/又は一時滞留槽40の頂部の気相部4、43には、気相部4、43から発酵による生成ガスGを抜き出してアンモニア捕集装置37へ送ると共に捕集装置37の出力ガスを気相部4、43へ戻す循環ガス流路36を設けることが望ましい。更に、発酵槽2及び/又は一時滞留槽40の頂部の気相部4、43には、発酵による生成ガスGを回収する回収口18を設けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による固形有機性廃棄物のメタン発酵装置は、発酵液Lを貯えた嫌気性発酵槽2の内側を有孔隔壁3により上下に仕切り、隔壁上方に固形有機性廃棄物Aを取り入れ、ポンプ11付き還流路10により発酵槽2内の発酵液Lを隔壁下方の底部から引き抜き発酵槽2の外側を介して隔壁上方の頂部に戻して循環させることにより固形有機性廃棄物Aをメタン発酵させるので、次の顕著な効果を奏する。
【0016】
(イ)有孔隔壁3の上方に取り入れた固形有機性廃棄物Aを徐々に可溶化させて有孔隔壁3の下方に抽出し、可溶化した有機物を発酵液Lと共に循環させながら嫌気性微生物と均一に接触させるので、流動性の低い状態で撹拌する従来の乾式メタン発酵法に比してメタン発酵率を向上させることができる。
(ロ)また、固形有機性廃棄物Aのうち易分解性固形物は比較的早期に可溶化するのに対し、難分解性固形物は有孔隔壁3の上方で時間をかけて可溶化するので、難分解性有機物と易分解性有機物とが混合している場合でも、それぞれを効率的にメタン発酵することができる。
(ハ)還流路10上に一時滞留槽40を設けることにより、可溶化した有機物を発酵槽2の内部だけでなく還流路10上においても効率的にメタン発酵させることができ、装置の全体的なメタン発酵率を高めることができる。
(ニ)発酵槽2内の隔壁3の下方や一時滞留槽40内に嫌気性微生物の固定床20を設けることにより、メタン発酵率を更に向上させることができ、従来の湿式メタン発酵法と同程度にまでメタン発酵率を高めることが可能である。
【0017】
(ホ)発酵槽2の底部に連通する発酵済液の溢流路を設けることにより、難分解性固形物等が分解不十分のまま発酵槽から流出するのを抑制し、発酵済液中に含まれる未分解有機物の量を削減できる。
(ヘ)発酵槽2内に隔壁上方まで発酵液Lを貯えることにより、隔壁上方に取り入れた固形有機性廃棄物Aを撹拌することも可能となり、固形有機性廃棄物Aの可溶化の促進と共に隔壁3の目詰まりの防止も期待できる。
(ト)低含水率の固形有機性廃棄物Aを無希釈でメタン発酵できるので、処理後に生じる発酵済液量を大幅に削減することができ、二次処理コストの低減による経済的なメタン発酵処理が可能である。
(チ)また、固形有機性廃棄物A中に固形異物が混入していても、可溶化しない異物は隔壁上方に残り隔壁下方のメタン発酵を阻害しないので、発酵槽2へ取り入れる前段階で有機性廃棄物Aから異物を除去する必要性がなくなり、前処理コストの低減による経済性も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明のメタン発酵装置1の実施例を示す。図示例のメタン発酵装置1は、発酵液Lを気密に貯留させる嫌気性発酵槽2、発酵槽2の内側を上下に仕切る有孔隔壁3、発酵槽2内の有孔隔壁3の上方空間P1と下方空間P2とを発酵槽2の外側を介して接続するポンプ11付き還流路10、及び発酵槽2の底部に接続され発酵槽2の外側の液面対応高さhに溢流口16を設けた溢流路15を有する。ただし、溢流路15は必ずしも発酵槽2に接続する必要はなく、後述するように溢流路15を還流路10上に設けてもよい(図5参照)。発酵液Lの一例は嫌気性微生物を含有させた水であるが、必要に応じて中和剤や微量栄養剤等の分解処理添加剤を加えてもよい。
【0019】
図2は発酵槽2内に設置する有孔隔壁3の一例を示す。例えば、発酵槽2の内周断面形状と同じ外縁形状であって全面又は一部に小孔3aが穿たれた多孔板を有孔隔壁3とし、発酵槽2の内周面の所定部位に多孔板の外縁を密着させて嵌め込むことにより発酵槽2の内側を上方空間P1と下方空間P2とに仕切る。有孔隔壁3で仕切られた発酵槽2の上方空間P1には固形有機性廃棄物Aの取入口5を設け、固形有機性廃棄物Aを取入口5から発酵槽2の上方空間P1に投入する。固形有機性廃棄物Aは、適当な大きさに粗粉砕して投入することが望ましい。上方空間P1に投入された固形有機性廃棄物Aは有孔隔壁3により固液分離され、比較的粒径の大きい固形有機物は有孔隔壁3の上方空間P1に溜まり、小孔3aより粒径の小さい有機物は有孔隔壁3の下方空間P2に移行する。
【0020】
ポンプ11付き還流路10により、発酵槽2内の発酵液Lを有孔隔壁3の下方空間P2の底部から引き抜き上方空間P1の頂部に戻して循環させることにより、発酵槽2内の液層に緩やかな下降流を形成する。図示例の発酵装置1は、溢流路15の溢流口16の高さhによって発酵槽2内の発酵液Lの液面位を定める構造となっており、溢流口16を上方空間P1の固形有機性廃棄物Aが冠水する高さhに設けている。発酵液L中に冠水した上方空間P1の固形有機性廃棄物Aは、発酵液L中の嫌気性微生物との接触により徐々に分解されて可溶化し、粒径の小さい有機物となって発酵液Lの下降流により有孔隔壁3の下方空間P2に移行する。有孔隔壁3の下方空間P2に移行した有機物は、発酵液Lの下降流によって均一に撹拌されながら、更に嫌気性微生物との接触によりバイオガスGに分解(メタン発酵)される。
【0021】
ただし、発酵槽2内の発酵液Lの液面位は必ずしも固形有機性廃棄物Aが冠水する高さhとしなくてもよく、発酵槽2に投入する固形有機性廃棄物Aの種類・粒径等の条件によって適宜選択することができる。例えば有機性廃棄物Aが易分解性である場合は、図3に示すように、溢流路15の溢流口16を有孔隔壁3とほぼ同じ高さhとして有孔隔壁3の下方空間P2にだけ発酵液Lを充填し、還流路10の戻り口10bから上方空間P1の頂部に戻す発酵液Lを固形有機性廃棄物A上に散布することにより、発酵液Lに冠水していない固形有機性廃棄物Aを徐々に分解して可溶化することができる。この場合は、還流路10の戻り口10bにスプレー等の分散吐出器12等を取り付け、分散吐出器12の複数の出口13から発酵液Lを固形有機性廃棄物Aの全体に均等に供給し、上方空間P1内の微生物反応が不均一になるのを防ぐことが望ましい。なお、分散吐出器12は図1の還流路10の戻り口10bに取り付けることもできる。
【0022】
有孔隔壁3の小孔3aの孔径、孔間ピッチ、形状、配列等も、発酵槽2に投入する固形有機性廃棄物Aの種類・粒径等の条件に応じて適宜選択することができる。例えば小孔3aの孔径を0.1mm〜50mmの範囲から選択し、形状を丸孔・角孔等から選択し、配列を並列配列・千鳥配列等から選択し、例えば千鳥配列を選択した場合は図2(A)に示すように千鳥抜きの角度θ等を更に選択することができる。また、有孔隔壁3の開孔率も固形有機性廃棄物Aの種類・粒径等の条件に応じて例えば10〜60%の範囲から選択することができ、図2(B)に示すように有孔隔壁3上に無孔部3cを適宜設けることもできる。例えば、有機性廃棄物Aが易分解性である場合は有孔隔壁3の開口率や小孔3aの孔径を比較的大きくし、難分解性固形物を含む場合は有孔隔壁3の上方空間P1で時間をかけて可溶化させるために開口率や小孔3aの孔径を比較的小さくすることができる。必要に応じて、表1に示すように複数の有孔隔壁3を用意し、固形有機性廃棄物Aの条件に応じて発酵槽2内の有孔隔壁3を交換してもよい。
【0023】
【表1】

【0024】
図示例の溢流路15は、取出口15aから下方空間P2の底部の発酵液Lを進入させ、液面対応高さhまで上昇させて溢流口16から発酵槽2の外に溢流させるものである。有孔隔壁3の上方空間P1から下方空間P2に移行した有機物は、下方空間P2において嫌気性微生物との接触によりメタン発酵が進んで粒径が小さくなるが、発酵の進んでいない比較的粒径の大きな有機物は発酵液Lの下降流に乗って移動しやすく、還流路10の引抜口10aに引き抜かれて更に循環する。このため、図示例のように下方空間P2の底部に還流路10の引抜口10aと溢流路15の取出口15aとを設けることにより、発酵の進んだ比較的粒径の小さい有機物だけを取出口15aから溢流路15に進入させ、発酵の進んでいない有機物が発酵槽2から流出するのを抑制し、溢流口16から溢流させる発酵済液C中に含まれる未分解の有機物量を抑制することができる。
【0025】
好ましくは、発酵槽2内の下方空間P2に発酵液Lが透過可能な嫌気性微生物の固定床20を設け、下方空間P2における有機物のメタン発酵を促進する。例えば図6に示すような中空筒状の微生物担体21を、各担体21の中心軸線が発酵液Lの下降流方向と一致するように下方空間P2に規則的に並べて固定床20を形成する。図示例の中空筒状の微生物担体21は、炭素繊維又はガラス繊維製の多孔質周壁22を例えばエポキシ樹脂製の枠体23に保持して中空筒状に成形したものである。炭素繊維又はガラス繊維の織布又は不織布で形成した多孔質周壁22は、内部に数μm〜数百μm径の無数の小空隙を有し、その空隙に微生物が付着して高濃度に増殖するので嫌気性微生物を効率よく担持できる。ただし、固定床20の種類及び形状は図示例に限定されるものではなく、嫌気性微生物が高濃度に付着可能な適当な微生物担体を用いることができる。
【0026】
また、発酵槽2内の上方の固形有機性廃棄物Aを発酵液L中に冠水させた場合は、図4に示すように、上方空間P1に撹拌手段30を設けて固形有機物を流動させながら可溶化を促進することができる。同図(A)では、発酵槽2の上方空間P1に配置した撹拌翼31を撹拌手段30とし、発酵槽2の上部に設けた回転モータ32で撹拌翼31を回転させることにより上方空間P1の固形有機性廃棄物Aを撹拌している。固形有機性廃棄物Aを発酵液L中に冠水させながら撹拌することにより、従来の乾式メタン発酵法に比し流動性の高い状態で有機性廃棄物Aを容易に撹拌することができる。また、同図(B)に示すように撹拌手段30を、有孔隔壁3の中央部3b(図2(A)参照)に形成した無孔部と、還流路10の戻り口10bに有孔隔壁3の中央無孔部3bに向けて取り付けた案内管34とにより構成することもできる。案内管34により発酵液Lの戻り流を有孔隔壁3の中央無孔部3bに案内して下向きに噴き付けることにより、上方空間P1に発酵液Lの液循環を生じさせて固形有機性廃棄物Aを撹拌する。
【0027】
図示例の発酵槽2は、固形有機性廃棄物Aの取入口5の他に、頂部の気相部4に設けたバイオガスGの回収口18と、有孔隔壁3の上側面に隣接する排出口9とを有する。発酵槽2内の下方空間P2のメタン発酵で生成したバイオガスGは、有孔隔壁3を通過して頂部の気相部4に移行するので、回収口18からガス回収路17を介してエネルギー変換装置(図示せず)等に回収できる。下方空間P2で発生したバイオガスGが有孔隔壁3を通過する際に、そのガス圧によって有孔隔壁3の小孔3aの目詰まりを防止する効果も期待できる。また、上方空間P1に設けた固形有機性廃棄物Aの撹拌手段30は、有孔隔壁3上への有機性廃棄物Aの蓄積・沈着を防止する作用があり、有孔隔壁3の小孔3aの目詰まり防止にも有効である。
【0028】
発酵槽2に設けた排出口9は、固形有機性廃棄物A中に混入することのある固形異物Bを排出するためのものである。可溶化しない固形異物Bは下方空間P2に移行せず有孔隔壁3上に滞留するため、有孔隔壁3上に溜まった固形異物Bを排出口9から適宜取り出して回収する。図示例の発酵槽2に取り入れる有機性廃棄物Aは、前処理段階で粗粉砕すれば十分であり、しかも固形異物Bが混入していても有孔隔壁3上に滞留して下方空間P2のメタン発酵を阻害しないので、必ずしも前処理段階で固形異物Bを分別する必要もない。従って、従来のメタン発酵法に比し、本発明の発酵装置1は固形有機性廃棄物Aの前処理を極めて簡単化できる利点を有している。
【0029】
メタン発酵装置1には、発酵槽2内の発酵液Lを嫌気性微生物が活性を示す温度(例えば、37℃又は55℃)に保温する保温装置26を含めることが望ましい。図示例では、例えば熱交換器である保温装置26を還流路10上に設け、保温装置26に高温水又は蒸気等の温熱媒体Hを送り込むことにより発酵槽2内の発酵液Lを嫌気性微生物の活性温度に保持している。図示例の保温装置26に代えて、発酵槽2の周壁にジャケット型の熱交換器又はヒータ等を取り付けて保温装置26としてもよい。発酵槽2の下方空間P2において上方空間P1から移行した有機物を活性温度において嫌気性微生物と接触させてメタン発酵させることにより、本発明のメタン発酵装置1のメタン発酵効率を、従来の湿式メタン発酵法と同程度にまで高めることが可能である。
【0030】
発酵槽2内の発酵液Lは溢流路15からの溢流により減少するが、廃棄物A中の水分によって発酵液Lが補われるので、基本的には発酵液Lを補給する必要はない。必要が生じた場合にのみ取入口5から水等を追加すれば足りる。従って、取入口5から低含水率の固形有機性廃棄物Aを無希釈のまま投入してメタン発酵することが可能であり、従来の湿式メタン発酵法に比し溢流路15から流出する発酵済液Cの量を大幅に削減することができる。また、上方空間P1に投入した固形有機性廃棄物Aのうち易分解性固形物は比較的早期に可溶化するのに対し、難分解性固形物は上方空間P1において時間をかけて可溶化されるため、難分解性有機物と易分解性有機物とが混合している場合でも、それぞれを効率的にメタン発酵することができる。
【0031】
[実験例1]
本発明のメタン発酵装置1によるメタン発酵効率を確認するため、図7に示す有効容積10リットルの嫌気性発酵槽2を用いて試作し、固形有機性廃棄物Aの投入量に対するバイオガスGの発生量を計測する実験を行った。本実験では、固形有機性廃棄物Aとして食堂残渣を粉砕処理した含水率70%の生ごみを用いた。この生ごみの全化学的酸素要求量(T-CODcr)は400,000mg/kgであった。
【0032】
発酵槽2の内部を孔径1mmの小孔3aが穿たれた有孔隔壁3で上下に仕切り、取入口5又は溢流口16から発酵槽2内に上方空間P1の固形有機性廃棄物Aが冠水する高さhまで発酵液Lを充填し、更に発酵槽2内に充填した発酵液Lをポンプ11付き還流路10により下方空間P2から上方空間P1へ循環させて発酵槽2内に緩やかな下降流を形成した。発酵槽2の下方空間P2には図6の中空筒状の微生物担体21を規則的に並べて固定床20を形成し、発酵槽2の上部空間P1には撹拌翼31を配置し、還流路10上の保温装置26により発酵槽2内の発酵液Lを嫌気性微生物(高温菌)の活性温度である55℃に保持した。
【0033】
図6の発酵槽2に固形有機性廃棄物Aを250g/日の割合で連続的に投入し、撹拌翼31で撹拌しながらバイオガスGの発生量の経日変化を計測した。本実験結果を図8のグラフに示す。同グラフから分かるように、60日間にわたりバイオガスGの発生量は安定しており、従来の乾式メタン発酵のように有機性廃棄物と嫌気性微生物との不均一な接触による微生物反応の効率低下が見られないことから、本発明の発酵装置1により固形有機性廃棄物Aを均一にメタン発酵できることを確認できた。また、固形有機性廃棄物Aの供給量に対するバイオガスGの発生量から有機物分解率を算出したところ、本発明の発酵装置1では従来の湿式メタン発酵法とほぼ同程度の高効率で固形有機性廃棄物Aがメタン発酵されていることを確認できた。
【0034】
[実験例2]
また、本発明のメタン発酵装置1により難分解性有機物と易分解性有機物とが混合している場合も効率的にメタン発酵できることを確認するため、実験例1と同様に図6の嫌気性発酵槽2を用いて実験を行った。本実験では、原料として実験例1の生ごみと紙ごみ(オフィス排出シュレッダー排紙)とを混合した固形有機性廃棄物Aを用いた。紙ごみは難分解性物質、生ごみは易分解性物質であり、生ごみと紙ごみとの混合比が重量比で19:1になるように固形有機性廃棄物Aを調整した。生ごみのT-CODcrは400,000mg/kg、紙ごみのT-CODcrは1,086,000mg/kgであった。
【0035】
図6の発酵槽2に上述した固形有機性廃棄物Aを200g/日(生ごみ190g+紙ごみ10g)の割合で連続的に投入し、撹拌翼31で撹拌しながらバイオガスGの発生量の経日変化を計測した。本実験結果を図9のグラフに示す。同グラフから、紙ごみが約10日で分解され、紙ごみの分解と共にバイオガスGの発生量が徐々に増加していることが分かる。10日以降の定常状態において固形有機性廃棄物Aの供給量に対するバイオガスGの発生量から有機物分解率を算出したところ約80%であり、難分解性有機物と易分解性有機物とが混合した固形有機性廃棄物Aをも本発明の発酵装置1により効率よくメタン発酵できることを確認できた。また、溢流路15の溢流口16から溢流する発酵済液C中の有機物量を計測したところ、残留有機物量は従来の湿式メタン発酵法とほぼ同程度であり、難分解性有機物と易分解性有機物とをそれぞれ効率的にメタン発酵できていることを裏付けることができた。
【0036】
こうして本発明の目的である「固形有機性廃棄物を無希釈で効率的にメタン発酵処理できるメタン発酵装置」の提供を達成することができる。
【実施例1】
【0037】
図5は、発酵槽2の発酵液Lを循環させる還流路10上に、発酵液Lを一端側から流入させ所要時間滞留させたのち他端側から流出させる一時滞留槽20を設けた本発明のメタン発酵装置1の実施例を示す。還流路10上に一時滞留槽40を設けることにより、発酵槽2の高さを低くすることができると共に、可溶化した有機物を発酵槽2の内部だけでなく還流路10上においてもメタン発酵させることができるので、装置全体のメタン発酵率を更に高めることができる。
【0038】
図示例の発酵槽2は、比較的底部に有孔隔壁3を設けて固形有機性廃棄物Aを投入すると共に投入した固形有機性廃棄物Aの上方に有孔蓋27を設け、発酵槽2の外側から有孔隔壁3と有孔蓋27との間に連通する取入管7及び取入弁6を設けている。有孔隔壁3と有孔蓋27との間に投入された固形有機性廃棄物Aは、発酵液Lの下降流により徐々に分解されて可溶化し、還流路10の引抜口10aから引き抜かれて一時貯留槽20の流入口41へ送られる。一時貯留槽20の内側には孔空き受け台(グレーチング等)24が固定され、その受け台24上に適当な微生物担体を敷き詰めて固定床20が形成され、固定床10の上部に浮き上がり防止用の孔あき蓋(グレーチング)25が設けられている。流入口41から一時貯留槽20に流入した発酵液Lは、固定床20の間を上昇する間に嫌気性微生物により有機成分が分解され、固定床20上の流出口42aから流出路42を介して発酵槽2の頂部に戻されて循環する。
【0039】
なお図示例の発酵槽2では、有孔隔壁3と有孔蓋27との間に固形有機性廃棄物Aを投入しているので、ポンプ11付き還流路10により発酵液Lを逆向き(同図の矢印と逆向き)に循環させることも可能である。発酵液Lの逆向き循環によって発酵槽2内の発酵液Lの下降流を適宜に上昇流へ切り替えることで、有孔隔壁3及び有孔蓋27の小孔3aの目詰まりを効果的に防止できる。
【0040】
また図示例では、一時滞留槽40を発酵槽2と同じ水平高さに設け、発酵槽2の底部に代えて、一時滞留槽40の底部に発酵液Lを槽外の液面対応高さhまで上昇させて溢流させる溢流路15を設けている。一時滞留槽40内には発酵液Lの上昇流が形成されるので、発酵液L中の比較的粒径の大きな有機物は上昇流に乗って固定床20へ運ばれ、発酵の進んだ小粒径の有機物だけを溢流路15から溢流させることができ、発酵不十分な有機物の流出を一層効果的に抑制することができる。なお図示例では、発酵槽2の気相部4と一時滞留槽40の気相部43とを気相部連通路44で接続し、バイオガスGの回収口18を一時滞留槽40の気相部に設けている。
【実施例2】
【0041】
また図5及び図3の実施例では、発酵槽2の頂部の気相部4に、気相部4からバイオガスGを抜き出してアンモニア捕集装置37へ送ると共に捕集装置37の出力ガスを気相部4へ戻す循環ガス流路36を設けている。低含水率の有機性廃棄物Aを無希釈でメタン発酵する場合、メタン発酵に阻害を与えるアンモニア態窒素が発酵槽2内に蓄積するおそれがある。例えば循環ガス流路36上に設けたブロワ38により気相部4の分解生成ガスGを吸気端36aからガス流路36へ抜き出し、アンモニア捕集装置37によりバイオガスG中のアンモニアを除去し、アンモニア除去後のバイオガスGをガス流路36経由で排気端36bから気相部4へ吹き込むことにより気相部4のアンモニア分圧を下げ、発酵槽2の発酵液L中に溶解又は懸濁したアンモニアを気相部4へ移行させて発酵液L中のアンモニアを除去することができる。アンモニア捕集装置37の一例は、水や酸溶液(例えば希硫酸溶液)等の洗浄液を利用してバイオガスG中のアンモニアを捕集するスクラバ(洗浄集塵器)である。なお、このようなアンモニア阻害低減型のメタン発酵法は、本発明者による特願2005-117813号に詳述されている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】本発明で用いる有孔隔壁の一例の説明図である。
【図3】本発明の他の実施例の説明図である。
【図4】撹拌手段を設けた本発明の実施例の説明図である。
【図5】一時滞留槽を設けた本発明の実施例の説明図である。
【図6】本発明の固定床に用いる微生物担体の一例の説明図である。
【図7】本発明の効果を確認する実験装置の説明図である。
【図8】本発明の効果確認実験の結果を示すグラフの一例である。
【図9】本発明の効果確認実験の結果を示すグラフの他の一例である。
【符号の説明】
【0043】
1…メタン発酵装置 2…嫌気性発酵槽
3…有孔隔壁 3a…小孔
3b…中央部(凹部) 3c…無孔部
4…気相部 5…取入口
6…取入管 7…取入弁
9…排出口 10…還流路
10a…引抜口 10b…戻り口
11…ポンプ 12…分散吐出器
13…吐出口 15…溢流路
15a…取出口 15b…通気口
16…溢流口 17…ガス回収路
18…回収口 19…排液槽
20…固定床 21…微生物担体
22…多孔質周壁 23…枠体
24…孔空き受け台 25…孔空き蓋
26…保温装置 27…有孔蓋
30…撹拌手段 31…撹拌翼
32…撹拌モータ 34…案内管
36…循環ガス流路 36a…吸気端
36b…排気端 37…アンモニア捕集装置
38…ブロア 40…一時滞留槽
41…流入口 42…流出路
42a…流出口 43…気相部
44…気相部連通路
A…固形有機性廃棄物(低含水廃棄物)
B…固形異物 C…発酵済液
L…発酵液 P1…上方空間
P2…下方空間 G…バイオガス
H…温熱媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵液を貯える嫌気性発酵槽、前記発酵槽内を上下に仕切る有孔隔壁、前記発酵槽の隔壁上方に設けた固形有機性廃棄物の取入口、及び前記発酵槽内の発酵液を隔壁下方の底部から引き抜き発酵槽の外側を介して隔壁上方の頂部に戻して循環させるポンプ付き還流路を備えてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。
【請求項2】
請求項1の発酵装置において、前記発酵液を嫌気性微生物含有水としてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。
【請求項3】
請求項1又は2の発酵装置において、前記発酵槽の底部に発酵液を槽外の液面対応高さまで上昇させて溢流させる溢流路を設けてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの発酵装置において、前記還流路上に、前記発酵液を一端側から流入させ所要時間滞留させたのち他端側から流出させる一時滞留槽を設けてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。
【請求項5】
請求項4の発酵装置において、前記一時滞留槽と発酵槽とを同じ高さに設け、前記一時滞留槽の底部に発酵液を槽外の液面対応高さまで上昇させて溢流させる溢流路を設けてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れかの発酵装置において、前記発酵槽内の隔壁上方又は隔壁上に撹拌手段を設けてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れかの発酵装置において、前記発酵槽内の隔壁下方及び/又は一時滞留槽内に発酵液が透過可能な嫌気性微生物の固定床を設けてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れかの発酵装置において、前記発酵槽及び/又は一時滞留槽の頂部の気相部に発酵による生成ガスを回収する回収口を設けてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れかの発酵装置において、前記発酵槽及び/又は一時滞留槽の頂部の気相部に、当該気相部から発酵による生成ガスを抜き出してアンモニア捕集装置へ送ると共に捕集装置の出力ガスを当該気相部へ戻す循環ガス流路を設けてなる固形有機性廃棄物のメタン発酵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−216135(P2007−216135A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39147(P2006−39147)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】