説明

固形粉末化粧料

【課題】形状に制約のない、経済的に有利な固形粉末化粧料の提供。
【解決手段】固形粉末化粧料10は、平面視して略矩形の輪郭を有し、略平坦な表面を有する。固形粉末化粧料の平均表面硬度よりも、該固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を高くした。特に以下の式(1)で定義される耐衝撃性指数RIを15超40未満とすることが好適である。RI=Hm+(L/D)ΔH(1)式中、Hmは、固形粉末化粧料の平均表面硬度を表し、Lは表面硬度の測定位置のうち固形粉末化粧料の中心位置から最も離れた位置と、該中心位置との間の距離を表し、Dは、固形粉末化粧料の厚みを表し、ΔHは、Hc−Hm(Hcは、固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を表す。)を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形粉末化粧料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウ等の固形粉末化粧料は、例えば粉体と結合剤を含む混合物を加圧成形して固形状態とし、皿状の薄底容器に充填することにより製造される。混合物を加圧成形するための装置としては、上面側を開口面として形成された成形用凹部とこれに対して上方から挿入される上杵を有し、必要に応じて成形用凹部内に皿状の薄底容器を取り付けてからこの成形用凹部に混合物を供給し、しかる後に上杵と成形用凹部との間に供給された混合物を加圧圧縮するものが用いられる。
【0003】
このような加圧装置では、混合物を例えば上杵と成形用凹部の下方に設けられた下杵によって加圧してプレス品を製造する。しかし、このような加圧装置を用いると、得られたプレス品の耐衝撃性を高くすることと、粉体の取れ量を高くすることとの両立が難しい。両者は相反する要求特性だからである。一般にプレス品の耐衝撃性を高めるためには、加圧圧縮時の加圧を大きくしてプレス品の硬度を高くする必要がある。一方、粉体の取れ量はプレス品の硬度に依存し、硬度が高い場合には粉体の取れ量が少なくなり、逆に硬度が低い場合には粉体の取れ量が多くなる。プレス品の耐衝撃性を高めるためにプレス時の加圧を大きくしてプレス品の硬度を高くすると、粉体の取れ量が少なくなり、必要な取れ量を確保できない場合がある。一方、粉体の取れ量を多くするためにプレス時の加圧を小さくしてプレス品の硬度を低くすると、プレス品の耐衝撃性が低下し、必要な耐衝撃性を確保できない場合がある。
【0004】
プレス品の耐衝撃性と粉体の取れ量との両立を図った従来の技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。同文献には、底板の外周に側壁を立設した中皿内に、底板中央部に粉末固形化粧料側が凸弧状をなす空間を残して、粉末固形化粧料をドーム状に充填してなる中皿充填化粧料が記載されている。この化粧料は、底板中央部に空間を有するドーム構造であるから衝撃力に強く、また化粧料が上方に突出しているので化粧料を拭い取って使用しやすい、と同文献には記載されている。
【0005】
この技術とは別に、本出願人は先に、全体にわたって均一でかつ高い硬度を有するとともに、使用時の粉体の取れ性に優れた固形粉末化粧料を提案した(特許文献2参照)。この固形粉末化粧料は、上面に凸状部を備えた略扁平な形状の固形粉末化粧料であって、上面の基準面から凸状部の最高位置までの高さH1と、該最高位置を通り、かつ平面視において粉末化粧料の横断長が最小となるように引かれた直線における該横断長D1との比(H1/D1)を0.05〜0.4とし、かつ粉末化粧料の高さ方向の硬度差を20%以内としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−77801号公報
【特許文献2】特開2010−53082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、充填形状をドーム状となし、かつ化粧料の厚み方向の充填密度の分布をコントロールすることで、耐衝撃性を向上させている。したがって、得られる化粧料の形状に制約があり、様々なデザイン性が要求される化粧料を製造するには設計の自由度を高くすることができない。
【0008】
特許文献2に記載の技術では、プレス品の耐衝撃性と粉体の取れ性との両立を図る手段として超音波を付与しながらの特殊なプレス法を採用している。したがって、通常のプレス成形法に比較して経済的に有利とは言えない場合がある。
【0009】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る固形粉末化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、平面視して略矩形の輪郭を有し、略平坦な表面を有する固形粉末化粧料において、該固形粉末化粧料の平均表面硬度よりも、該固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を高くした固形粉末化粧料を提供することで前記の課題を解決したものである。
【0011】
また本発明は、平面視して略矩形の輪郭を有し、略平坦な表面を有する固形粉末化粧料の製造方法において、
以下の式(1)で定義される耐衝撃性指数RIが15超40未満となるように原料粉末をプレス成形する固形粉末化粧料の製造方法を提供することで前記の課題を解決したものである。
【0012】
RI=Hm+(L/D)ΔH (1)
式中、
Hmは、固形粉末化粧料の平均表面硬度を表し、
Lは表面硬度の測定位置のうち固形粉末化粧料の中心位置から最も離れた位置と、該中心位置との間の距離を表し、
Dは、固形粉末化粧料の厚みを表し、
ΔHは、Hc−Hm(Hcは、固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を表す。)を表す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐衝撃性と粉体の取れ性との両立が図られた固形粉末化粧料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の固形粉末化粧料の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、固形粉末化粧料の表面硬度の分布を示すグラフであり、図2(b)は、表面硬度の測定部位を示す図である。
【図3】図3は、規格化された表面硬度と、固形粉末化粧料の中心位置から表面硬度の測定部位までの距離の二乗との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、固形粉末化粧料における表面硬度の測定部位を示す図である。
【図5】図5は、固形粉末化粧料を製造するために用いられる好ましい装置を示す模式図である。
【図6】図6は、プレス成形時における中皿と上杵との位置関係を示す模式図である。
【図7】図7は、プレス成形時における中皿の底部の下面と下杵との位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の固形粉末化粧料の一実施形態が示されている。同図に示す固形粉末化粧料10は、一般に中皿等と呼ばれる合成樹脂製又は金属製の浅底の皿状の形状を有する容器20内に収容されている。固形粉末化粧料10は、その上面からの平面視で、隅部が丸みを帯びた略矩形の輪郭を有している。ここで略矩形とは、隅部の円弧の半径が矩形形状の短径の三分の一以下の形状をいう。また、固形粉末化粧料10は、その表面(上面)が略平坦になっている。ここで略平坦とは、隅部の円弧の中心4箇所と矩形形状の中心の合計5箇所から求める平面度が2.0以下の形状をいう。図示していないが、固形粉末化粧料10の底面も略平坦になっているので、該化粧料10は、その厚みが略一定になっている(ただしエッジを除く。)。中皿20は、平坦な底部(図示せず)及び該底部の周縁から鉛直上方へ起立した壁部21を有している。中皿20は、壁部21の上端において開口している。中皿20の開口の形状は、平面視での固形粉末化粧料10の輪郭と一致している。平面度は、JIS B 0419に定義されている。
【0016】
本発明者らは、固形粉末化粧料の耐衝撃性と粉体の取れ性との両立を図るために、まず固形粉末化粧料の耐衝撃性と表面硬度との関係に注目した。その結果、固形粉末化粧料の表面硬度の分布が耐衝撃性と関係していることを知見した。図2(a)はそのことを表したものであり、横軸が固形粉末化粧料における表面硬度の測定位置(図2(b)参照)を表し、縦軸は表面硬度を表している。同図に示す結果は、耐衝撃性の高い固形粉末化粧料を測定対象としたものである。同図に示す結果から、この固形粉末化粧料は、周縁域での表面硬度が内部域よりも高くなっていることが観察される。つまり、測定位置が1、8、14、15、21、22、28、29及び35の位置における表面硬度がその他の測定位置よりも高くなっている傾向が読み取れる。このことは、耐衝撃性の高い固形粉末化粧料は、内部域よりも周縁域での表面硬度が高いことを示唆している。
【0017】
そこで次に本発明者らは、表面硬度の測定位置を、固形粉末化粧料の中心位置からの距離で表し、該距離の二乗と表面硬度との関係に着目した。その結果、図3に示すように、耐衝撃性の高い固形粉末化粧料では、表面硬度は、中心位置からの距離の二乗に対して一次の相関関係を有していることが判明した。なお、同図における縦軸は表面硬度を規格化した値である。これまで、当該技術分野においては、固形粉末化粧料のいずれの位置においても表面硬度を同じ値にして、かつその値自体を高くすることが、耐衝撃性の向上の点から重要であると考えられていたので、図3に示す結果は極めて意外なものである。
【0018】
以上のとおり、固形粉末化粧料の耐衝撃性を高くするためには、表面硬度を単に高くするだけでは足りず、該化粧料の周縁域での表面硬度を中央域よりも高くすることが必要である。つまり、固形粉末化粧料の平均表面硬度よりも、該固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を高くすることが必要である。この観点から、耐衝撃性の程度を表面硬度によって記述できる関数を本発明者らが鋭意検討した結果、以下の(1)で表される耐衝撃指数RIによって、耐衝撃性の程度を表面硬度で精度良く記述できることを見いだすに至った。
【0019】
RI=Hm+(L/D)ΔH (1)
式中、
Hmは、固形粉末化粧料の平均表面硬度を表し、
Lは表面硬度の測定位置のうち固形粉末化粧料の中心位置から最も離れた位置と、該中心位置との間の距離を表し、
Dは、固形粉末化粧料の厚みを表し、
ΔHは、Hc−Hm(Hcは、固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を表す。)を表す。
【0020】
式(1)中、右辺第一項のHmは、固形粉末化粧料の平均表面硬度を表し、この値の大小が、耐衝撃性の高低を決定する主たる要因となる。すなわち、Hmの値が大きくなるほど、耐衝撃性は高くなる。この平均表面硬度とは、固形粉末化粧料の表面の測定位置のうち、4つの隅部以外のすべての部位で測定された表面硬度の平均値である(図4参照)。
【0021】
式(1)中、右辺第二項の(L/D)ΔHは、右辺第一項に対する補正項であり、固形粉末化粧料の4つの隅部における表面硬度を他の部位よりも高くするという意味合いが含まれる。右辺第二項のΔHはHc−Hmで定義されるので、Hc>Hmである場合、すなわちΔHが正である場合には、固形粉末化粧料の4つの隅部における表面硬度が他の部位よりも高くなっていることを意味する。したがって、ΔHが正となるように、換言すればHc>Hmとなるように固形粉末化粧料を成形すれば、その固形粉末化粧料は耐衝撃性の高いものとなる。
【0022】
右辺第二項の(L/D)は、固形粉末化粧料のサイズ因子である。固形粉末化粧料のサイズが小さい場合には、4つの隅部における表面硬度が、他の部位の表面硬度に比べてそれほど大きくなくても、耐衝撃性の低下はあまり問題とはならない。しかし、固形粉末化粧料のサイズが大きい場合には、4つの隅部における表面硬度を、他の部位の表面硬度に大きくしないと、耐衝撃性を向上させることはできない。そこでΔHにLを乗じることで、固形粉末化粧料のサイズが大きい場合には、式(1)における補正項の寄与の割合を高くしている。
【0023】
一方、D、すなわち固形粉末化粧料の厚みに関しては、この値が大きくなるほど耐衝撃性が向上するので、補正項の寄与の割合を低くして差し支えない。この観点から、ΔHをDで除すことで、固形粉末化粧料の厚みが大きい場合には、式(1)における補正項の寄与の割合を低くしている。
【0024】
上述の式(1)によって、固形粉末化粧料の耐衝撃性の程度を表面硬度によって精度良く記述することができる。そこで、この式に従い種々の固形粉末化粧料を評価したところ、同式で定義される耐衝撃性指数RIが15超40未満である場合には、粉体の取れ性が損なわれることなく、十分な耐衝撃性が得られることが判明した。耐衝撃性指数RIが15以下である場合には、粉体の取れ性に支障は生じないが、耐衝撃性が十分なものとはならない。一方、耐衝撃性指数RIが40以上である場合には、十分な耐衝撃性は得られるが、粉体の取れ性に支障を来す。これらの観点から、固形粉末化粧料の耐衝撃性と粉体の取れ性とを一層バランスさせるためには、耐衝撃性指数RIは、20超35未満であることが好ましく、25超30未満であることが更に好ましい。
【0025】
本発明において、表面硬度は次のようにして測定される。高分子計器株式会社製のマイクロゴム硬度計(型式:MD−1capa)に、固形粉末化粧料を設置する。そして、略平坦な表面の4つの隅部を含む、固形粉末化粧料の長手方向を等間隔に分割する線分と、固形粉末化粧料の短手方向を等間隔に分割する線分との交点が、マイクロゴム硬度計の押針の直下になるようにし、マイクロゴム硬度計の加圧脚を降下量6mmの条件で降下させてセンサ加圧面を固形粉末化粧料の表面に5秒間接触させて、固形粉末化粧料の表面硬度を測定する。
【0026】
表面硬度を測定する固形粉末化粧料の表面上の各交点の位置は、固形粉末化粧料の硬度分布と耐衝撃性及び粉体の取れ性との相関の再現性を確保するために必要な表面の範囲を網羅することが望ましい。例えば、4つの隅部を含む線分のうち、長手方向に延びる線分の長さは、中皿20の長手方向内径の70%以上で、かつ長手方向に延びる線分の本数は4以上であることが望ましく、短手方向に延びる線分の長さは、中皿20の短手方向内径の70%以上で、かつ短手方向に延びる線分の本数は5以上であることが望ましい。長手方向内径とは、中皿20を平面視したときの略矩形の輪郭において、互いに平行な一対の辺の中点を結んで得られる二本の線分のうち、長いほうの線分の長さをいい、短手方向内径とは、二本の線分のうち、短いほうの線分の長さをいう。
【0027】
表面硬度の測定に用いるマイクロゴム硬度計の押針の直径及び加圧脚の外径は、隣り合う交点の測定における事前の測定の影響を最小化するために、押針径及び加圧脚径は交点間の距離に対して十分に小さいことが望ましく、例えば押針径は直径0.2mm以下、加圧脚径は外径4.0mm以下であることが望ましい。
【0028】
表面硬度のうち、Hcの測定位置は、図4に示すように、固形粉末化粧料の平面視での4つの隅部である。Hcはこれら4箇所で測定し、その平均値を算出する。一方、Hmの測定位置は、Hcの測定位置以外の位置である。Hmの測定位置は、可能な限り均等となるように割り付け、少なくとも16箇所を測定対象とする。
【0029】
Lは、上述したとおり、表面硬度の測定位置のうち固形粉末化粧料の中心位置から最も離れた位置と、該中心位置との距離(mm)であり、通常は、平面視での固形粉末化粧料10に引いた2本の対角線の交点と、Hcを測定する位置との間の距離とみなすことができる(図4参照)。Dの厚み(mm)は、例えばJIS K6250のゴム物理試験方法通則に準拠し、(株)テックロック社製の定圧厚さ測定器(PG−18J)によって測定する。なお、固形粉末化粧料の中心と4つの隅部とで厚みが異なる場合には、中心域の厚みと4つの隅部の厚みとの平均をもって厚みDとする。
【0030】
本発明の固形粉末化粧料が、上述した耐衝撃性指数RIを満たすようにするためには、例えば固形粉末化粧料の平面視における長辺及び短辺の長さを20〜70mm、特に30〜60mmの範囲から選択することが好ましい。厚みDに関しては、1〜15mm、特に2〜10mmに設定することが好ましい。
【0031】
本発明の固形粉末化粧料は、原料粉末をプレス成形することで製造される。原料粉末としては、該化粧料の具体的な用途に応じて適切なものが選択される。固形粉末化粧料が例えばファンデーションやチークである場合には、粉末成分が好ましくは75〜95質量%、更に好ましくは85〜90質量%含有される。この粉末成分は、例えばタルク、マイカ、セリサイト、カオリン等の体質顔料、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄等の着色顔料、パール顔料などの光輝顔料を包含する。粉末成分に加え、固形粉末化粧料は、油剤、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、殺菌剤などを適宜含有することができる。
【0032】
図5には、本実施形態の固形粉末化粧料10を製造するために用いられる好ましい装置の模式図が示されている。装置30は成形用凹部31を有している。成形用凹部31は貫通孔からなる。貫通孔の上下の位置には上杵32及び下杵33が配されている。上杵32は、駆動手段(図示せず)によって昇降可能になっており、かつ貫通孔内に挿入可能になっている。下杵33についても同様である。
【0033】
図5に示す装置を用いて固形粉末化粧料10を製造するには、まず下杵33を上昇させて貫通孔内に挿入する。上杵32は貫通孔の上方に待機させておく。次に、下杵33の上面に中皿20を載置する。そして中皿20内に固形粉末化粧料10の原料となる原料粉末10’を所定量充填する。充填が完了したら、粉末原料10’の上を布34で覆う。そして、上方に待機させてあった上杵32を降下させた後に下杵を上昇させて、布34を介して原料粉末10’をプレス圧縮する。原料粉末10’のプレス圧は、目的とする固形粉末化粧料10の具体的な用途にもよるが、2〜20MPa、特に5〜15MPaとすることが好ましい。
【0034】
プレス条件として、図6に示すように、中皿20の開口端内縁(すなわち壁部21の内面)22と、上杵32の外縁との間のクリアランスt1が、0mm超0.4mm未満、特に0.1mm超0.3mm未満となる条件下にプレス成形を行うことが好ましい。こうすることによって、得られる固形粉末化粧料10の耐衝撃性指数RIを、容易に上述した範囲内にすることができる。この場合、中皿20の開口端内縁のすべての部位及び上杵32の外縁のすべての部位において、前記のクリアランスt1の範囲が満たされることが好ましい。
【0035】
また、プレス装置30の構造によっても、耐衝撃性指数RIを、上述した範囲内に容易に設定することができる。例えば、上杵32のプレス面である下面を、下方に向けた凸面となし、該凸面の凸度t2を、0.1mm超0.4mm未満、特に0.2mm超0.4mm未満とすることが好ましい。プレス面の凸面形状の具体例としては、下向きの錐体の形状、例えば下向きの扁平な円錐体や下向きの扁平な角錐体等を挙げることができる。また、凸度t2は、プレス面の高低差で定義される。したがって例えばプレス面が下向きの錐体の形状をしている場合、凸度t2は該錐体の高さに相当する。
【0036】
また、中皿20の構造によっても、耐衝撃性指数RIを、上述した範囲内に容易に設定することができる。例えば、図7に示すように、中皿20の周縁に、壁部21の下部から下方に垂下延出するリブ23を形成し、リブ23で取り囲まれた中皿20の底部24の下面24aを浮かせるようにする。下面24aを浮かせる程度を、該下面24aと下杵33のプレス面とのクリアランスt3が0.1mm超0.9mm未満、特に0.2mm超0.6mm未満となるように設定し、この条件下にプレス成形を行うことが好ましい。このようにすることで、プレスによって中皿20の壁部21が内側に若干傾斜し、原料粉末10’のうち、壁部21の近傍に位置する部位が相対的に強く圧縮されるようになる。その結果、固形粉末化粧料10の周縁域での表面硬度を中央域よりも容易に高くすることができる。前記のクリアランスt3は、リブ23で取り囲まれた底部24の下面24aの全域において満たされていることが好ましい。
【0037】
更に、原料粉末10’の充填量によっても、耐衝撃性指数RIを、上述した範囲内に容易に設定することができる。中皿20への原料粉末10’の充填量が少なすぎる場合、製造された固形粉末化粧料10の耐衝撃性指数RIが大きくなる傾向がある。一方、中皿20への原料粉末10’の充填量が多すぎる場合、製造された固形粉末化粧料10の耐衝撃性指数RIが小さくなる傾向がある。原料粉末10’の充填量は、原料粉末10’のプレス圧、中皿20の開口端内縁22と、上杵32の外縁との間のクリアランスt1の値等にもよるが、8.5〜10.5g、特に9〜10gとすることが好ましい。
【0038】
プレス成形が完了したら、上杵32を上昇待避させた後、下杵33を上昇させて、固形粉末化粧料10を中皿20ごと成形用凹部31から取り出す。このようにして、目的とする固形粉末化粧料10が得られる。以上の製造方法によれば、例えば特許文献1に記載されている超音波振動の照射といった特殊な操作を行うことなく、耐衝撃性と粉体の取れ性との両立が図られた固形粉末化粧料を容易に得ることができる。
【0039】
このようにして得られた固形粉末化粧料10は、例えばファンデーションやチーク、アイシャドウ等として用いられる。
【0040】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記の実施形態に制限されない。例えば前記の実施形態の固形粉末化粧料は、中皿20に収容されたものであったが、本発明の固形粉末化粧料は中皿に収容されたものでなくてもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味する。
【0042】
〔実施例1〕
本実施例では、固形粉末化粧料として、ファンデーションを製造した。この原料粉末として以下の表1に示す原料粉末Aを用いた。プレス成形の装置として図5に示す装置を用いた。この装置の成形用凹部に合成樹脂製の中皿を載置した。中皿は、平面視において内周の寸法が49mm×45mmの矩形ものであり、各隅部は丸みを帯びていた。深さは5mmであった。この中皿内に、原料粉末Aを、表2に示す量充填した。プレス条件として表2に示す条件を採用した。このようにして目的とする固形粉末化粧料を得た。
【0043】
〔実施例2〜4及び比較例1〜6〕
表2に示す条件を採用する以外は実施例1と同様にしてプレス成形を行い、目的とする固形粉末化粧料を得た。なお、表2における原料粉末Bの処方は表1に示すとおりである。
【0044】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた固形粉末化粧料について、上述した方法で平均硬度Hm、隅部の平均硬度Hc、距離L、厚みDを測定し、耐衝撃性指数RIを算出した。平均硬度Hm及び隅部の平均硬度Hcの測定においては、固形粉末化粧料の長手方向に延びる線分を仮想的に等間隔で5本引き、かつ短手方向に延びる線分を仮想的に等間隔で7本引いて、それらの線分の交点である合計35箇所の位置を測定位置とした(35箇所中、Hmは31箇所で測定し、Hcは4箇所で測定した。)。その結果を表2に示す。また、以下の方法で耐衝撃性の評価としての落下回数及び粉の取れ量を測定した。その結果も表2に示す。
【0045】
〔落下回数の測定〕
実施例1〜4及び比較例1〜6で得られた固形粉末化粧料をコンパクトケースに装填し、これを40cmの高さから厚み25mmの樹脂板上に繰り返し落下させ、かけや割れなどの異常が生じるまでの回数を測定した。各実施例及び各比較例につき、それぞれ5つのサンプルを用意した。5つのサンプルについてそれぞれ測定を行い、それらの測定値の平均値を求め、その平均値を落下回数とした。
【0046】
〔粉の取れ量〕
実施例1〜4及び比較例1〜6で得られた固形粉末化粧料を(株)新東科学製の表面性測定機に設置し、その表面に化粧用スポンジパフを接触させ、荷重300gを負荷する。スポンジパフを固定した状態下に固形粉末化粧料を、移動距離65mm、速度4000mm/minの条件で、30回往復させて粉末をとる。往復前の固形粉末化粧料の重量と、往復後の固形粉末化粧料の重量をそれぞれ測り、固形粉末化粧料の重量の減少量を測定した。各実施例及び各比較例につき、それぞれ3つのサンプルを用意した。用意した3つのサンプルについてそれぞれ測定を行い、それらの測定値の平均値を求め、その平均値を粉の取れ量とした。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例の固形粉末化粧料(本発明品)は、比較例の固形粉末化粧料に比べて、落下回数(すなわち耐衝撃性)と粉の取れ量とのバランスが図られていることが判る。
【符号の説明】
【0050】
10 固形粉末化粧料
10’ 原料粉末
20 浅底の容器(中皿)
21 壁部
22 開口端内縁
23 リブ
24 底部
24a 下面
30 製造装置
31 成形用凹部
32 上杵
33 下杵
34 布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視して略矩形の輪郭を有し、略平坦な表面を有する固形粉末化粧料において、該固形粉末化粧料の平均表面硬度よりも、該固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を高くした固形粉末化粧料。
【請求項2】
以下の式(1)で定義される耐衝撃性指数RIを15超40未満とした請求項1に記載の固形粉末化粧料。
RI=Hm+(L/D)ΔH (1)
式中、
Hmは、固形粉末化粧料の平均表面硬度を表し、
Lは表面硬度の測定位置のうち固形粉末化粧料の中心位置から最も離れた位置と、該中心位置との間の距離を表し、
Dは、固形粉末化粧料の厚みを表し、
ΔHは、Hc−Hm(Hcは、固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を表す。)を表す。
【請求項3】
平面視して略矩形の輪郭を有し、略平坦な表面を有する固形粉末化粧料の製造方法において、
以下の式(1)で定義される耐衝撃性指数RIが15超40未満となるように原料粉末をプレス成形する固形粉末化粧料の製造方法。
RI=Hm+(L/D)ΔH (1)
式中、
Hmは、固形粉末化粧料の平均表面硬度を表し、
Lは表面硬度の測定位置のうち固形粉末化粧料の中心位置から最も離れた位置と、該中心位置との間の距離を表し、
Dは、固形粉末化粧料の厚みを表し、
ΔHは、Hc−Hm(Hcは、固形粉末化粧料の隅部における表面硬度を表す。)を表す。
【請求項4】
浅底の皿状の形状を有する容器内に原料粉末を充填した状態下に、上杵の押し込みによるプレス成形を行い、
容器の開口端内縁と上杵の外縁との間のクリアランスt1が0mm超0.4mm未満となる条件下にプレス成形を行う請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
プレス面が下方に向けて凸面になっており、該凸面の凸度t2が0.1mm超0.4mm未満である上杵を用いる請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
容器の底部の下面と下杵のプレス面とのクリアランスt3が0.1mm超0.9mm未満となる条件下にプレス成形を行う請求項3又は4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−219063(P2012−219063A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86832(P2011−86832)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】