説明

圃場作業車両

【課題】圃場における機体旋回の際に、旋回内側の前輪と隣接植付条との干渉を小さく抑えつつ、機体を容易に転向することができる圃場作業車両を提供する。
【解決手段】圃場作業車両は、左右の支持輪(3)および左右のサイドクラッチを介設して旋回駆動可能な左右の駆動輪(2)によって走行可能に支持された機体(4)に圃場作業装置(6)を搭載して構成され、上記左右の支持輪(3)には、それぞれの支持高さ位置を変更する支持調節部(3a)を設け、この支持調節部(3a)により左右のサイドクラッチの一方の遮断動作に応じて同じ側の支持輪(3)を他側に対して高く支持するクラッチ連動手段(18)を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体旋回用のサイドクラッチ付き走行機構を有する圃場作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、圃場作業車両は、左右の前輪および左右の後輪によって圃場走行可能に機体を支持し、左右の走行伝動系に機体旋回用のサイドクラッチを備えるとともに、苗株移植装置等の圃場作業装置を搭載する。圃場において、並行する植付条に沿う往復作業走行においては、植付条の端部に達した際に方向転換して次の植付条に移行するために、左右の伝動系に介設したサイドクラッチにより旋回内側動力を遮断して旋回半径を抑えて方向転換することができる。
【特許文献1】特開2000−116213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、機体旋回の際は、旋回内側の前輪が隣接する植付条の領域を通過せざるを得ないことから、乗用作業機の場合は植付条端の旋回領域の前輪通過跡の補修を伴う周回走行作業や手作業が別途必要なり、また、歩行作業機の場合は後部ハンドルの押し下げ操作によって隣接植付条の高さを超えて機体前部を高く保持しつつ旋回操作するための作業者の負担増加を招くという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、圃場における機体旋回の際に、旋回内側の前輪と隣接植付条との干渉を小さく抑えつつ、機体を容易に転向することができる圃場作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、左右の支持輪および左右のサイドクラッチを介設して旋回駆動可能な左右の駆動輪によって走行可能に支持された機体に圃場作業装置を搭載した圃場作業車両において、上記左右の支持輪には、それぞれの支持高さ位置を変更する支持調節部を設け、この支持調節部により左右のサイドクラッチの一方の遮断動作に応じて同じ側の支持輪を他側に対して高く支持するクラッチ連動手段を設けたことを特徴とする。
【0006】
上記圃場作業車両は、左右の支持輪および左右の駆動輪により植付条を跨ぐようにして圃場走行可能に機体が支持され、また、植付条の端部等において機体を旋回する場合において、旋回内側のサイドクラッチが遮断動作すると、クラッチ連動手段により支持調節部が対応する側の支持輪を他側に対して高く支持することから、3輪支持状態で旋回内側の支持輪と隣接植付条との干渉を小さく抑えつつ、機体を容易に旋回走行することができる。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の構成の圃場作業車両は、片側のサイドクラッチ遮断に伴い、対応する側の支持輪が連動して他側に対して上昇することから、機体旋回の際に3輪支持状態で旋回内側の支持輪と植付条との干渉が小さく抑えられる。その結果、支持輪の通過跡の補修や、乗用作業機による植付条端における旋回領域について別途必要であった周回走行作業や手作業の負担を抑え、また、歩行作業機の旋回操作のための作業者の負担を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明を適用した圃場作業車両の1例としての作業座席を備えた歩行作業機の要部斜視図である。圃場作業車両は、左右の前輪3、3を機体の先端側を案内支持する支持輪とし、左右の後輪2、2を駆動輪として備えた機体フレーム4により圃場走行が可能な走行機体を構成し、機体フレーム4には、周回テーブル等による苗株搬送部5と、その苗株を受けて圃場に苗株を植付ける植付部(不図示)とからなる移植装置6を機体後部に装荷する。また、苗株搬送部5の前側に作業者用の座席8を設ける。
【0009】
詳細には、機体フレーム4は、座席8の下方のエンジン一体の変速伝動機構11と一体的に構成する。この変速伝動機構11の両側に配置されて左右の後輪2、2を高さ調節可能なスイングアーム状に支持しつつ駆動力を伝動する左右の後輪伝動支持部16,16を備え、また、機体前部にスイングアーム状に軸支されて左右の前輪3,3を高さ調節可能に支持した左右の前輪アーム3a、3aによる支持調節部を設ける。機体フレーム4の後部には歩行操作用のハンドル14(図7参照)を延設し、このハンドル14の押し下げ動作によって機体前部を浮かすことにより機体の方向転換操作を可能に構成するとともに、走行クラッチ、エンジンスロットル、植付クラッチ等の操作のために、左右のクラッチレバー15,15を含む操作系を集中配置する。
【0010】
変速伝動機構11は、動力伝達を断接する左右のサイドクラッチを備えて左右の後輪2、2に対する動力伝達をハンドルの左右のクラッチレバー15,15によって制御可能に構成するとともに、走行系と同期して動力を移植装置6に供給するべく連結する。左右の後輪伝動支持部16,16は、そのスイング軸16a、16aに設けた後輪昇降アーム16b、16bとスイング動作用のイコライザ17aとを連結し、メインシリンダ(不図示)による進退駆動によって車高調節する機体リフト機構を備える。
【0011】
また、前輪アーム3a、3aは、スイング支持する支軸3b、3bの間に差動ギヤ機構18を設けてその左右のサイドギヤ軸18b、18bと接続するとともに、そのピニオンギヤ18aを電動駆動によって回動方向制御することにより左右のクラッチレバー15,15の一方の操作と対応して左右の前輪3,3の対応する側を上昇させつつ他側を下降するクラッチ連動手段を構成する。
【0012】
上記圃場作業車両は、上述のように構成することにより、左右の前輪3,3および左右の後輪2,2により植付条を跨ぐようにして圃場走行可能に機体が支持されて直進走行し、植付条の端部等において機体を旋回する場合は、必要により車高上昇、作業装置上昇させた上で、旋回内側のクラッチレバー15を操作して変速伝動機構11のサイドクラッチを切り、次いで移植装置6等の作業装置を停止する。この時、クラッチ連動手段により旋回内側のクラッチレバー15の操作に伴い差動ギヤ機構18によって左右の支持調節部3a、3aが左右の前輪3,3の対応する側を他側より相対的に高く支持することから、3輪支持状態で旋回内側の前輪と隣接植付条との干渉を小さく抑えつつ、機体を容易に旋回走行することができる。
【0013】
このように、上記圃場作業車両は、隣接植付条との干渉を小さく抑えて旋回走行することができることから、前輪の通過跡の補修や、乗用作業機による植付条端における旋回領域について別途必要であった周回走行作業や手作業の負担を抑え、また、歩行作業機の旋回操作のための作業者の負担を抑えることができる。
【0014】
また、上記差動ギヤ機構18は、そのデフケース18c自体を回動して前輪スイングに使用することにより、車高調節手段を簡易に構成することができる。さらに、差動ギヤ機構18のデフケース18cに後輪昇降アーム16bと連結する連結ロッド19を取付けることにより、機体上昇時に限定して左右の前輪3,3を差動昇降させることができ、さらに加えて差動ギヤ機構18の差動動作の都度、逆転回動するように制御構成することにより、左右の前輪上昇を交互に自動切替えすることができる。
【0015】
つぎに、左右のクラッチレバー15,15について説明すると、そのケーブル15a、15aは、図2の要部斜視図(2)に示すように、差動ギヤ機構18の左右のサイドギヤ軸18b、18bに設けた前輪スイング用の入力アーム18d、18dと連結し、その中間部において、レバー側のガイドチューブ15b、15bをそれぞれイコライザ17a部に取付けて機体側15cとの間でケーブルを弛ませた遊び部21,21を形成する。この遊び部21,21は、後輪スイングによる機体上昇時のイコライザ17aの動作と連動してケーブル15a、15aが緊張するように構成することにより、機体上昇時におけるクラッチレバー15,15の操作に限定して差動ギヤ機構18を作動することができる。
【0016】
差動ギヤ機構18には、図3の要部斜視図(3)に示すように、デフケース18cおよびサイドギヤ軸18b、18bのアウタチューブを一体に揺動可能に支持するスイングアーム31を設けることにより、前輪のリフトとスイングの機能を分離することができる。したがって、左右前輪3,3の上下動作より4輪上下動作が優先して作動するように構成することができ、通常作業時の作業性能を向上することができる。
【0017】
上記左右の前輪アーム3a、3aの支軸3b、3bは、差動ギヤ機構18を介設することにより、左右の前輪アーム3a、3aが互いに逆方向にスイングして左右の支持高さを変更するするローリング機構による前輪リフト手段をコンパクトで簡単に構成することができるので、軽量化およびコストダウンを図ることができる。差動ギヤ機構18の左右のサイドギヤ軸18b、18bは、伸縮可能なスライドチューブによって形成し、そのインナチューブとして前輪アーム3a、3aの支軸3b、3bを接続することにより、後輪2,2と同様に前輪3,3のトレッド調節が可能となる。
【0018】
その他、デフケース18cはスイングアーム31に対して回動しないように固定し、ケーブル端のバランススプリング32,32に左右別々に荷重調節ノブ33,33を設けることにより、傾斜圃場で前輪のみが傾いて機体が谷側に流れるのを防止することができる。またデフギヤには左右のローリング規制を直接設ける。
【0019】
次に、上記差動ギヤ機構18に代わる構成について説明すると、前輪アーム3a、3aの支軸3b、3bとスライド可能に接続するアウタチューブ18bには、図4のギヤ部拡大斜視図に示すように、オフセットアーム41a、41aによりアウタチューブ18bの外周にそれぞれ設けた2つのギヤ41,41を直接噛み合わてケース41c内にギヤ機構を構成する。このギヤ機構は、前記差動ギヤ機構18のようなベベルギヤを要しない簡易な構成こより低コストで前輪アーム3a、3aを相反スイング動作させるように構成することができる。
【0020】
(乗用ねぎ平床移植機)
次に、乗用ねぎ平床移植機について説明する。この移植機は、その平面図を図5に、また、同図のA矢視図を図6に示すように、後輪2の外側方に作業座席51を付設したものであり、搭乗作業者が着座して側方から苗株を補給することができる。その座席支持を安定化するべく、後輪2の側方の後輪軸部52から延ばしてもう一つの補助車輪53を設け、その上に作業座席51を支持して構成する。補助車輪53はその車軸部54のスライド調節部54aにより伸縮可能に構成し、圃場面にタイヤ跡を付けることにより走行直進性を安定化することができる。
【0021】
補助車輪53の車軸部54は後輪軸部52と連結して後輪2と同様に駆動し、機体旋回等に際してワンタッチレバー52aの操作によってワンタッチで外せるように、着脱式に構成する。機体の他側の後輪軸部52も同様に構成する。また、畝幅に左右されずに苗株補給をしやすくするためにステップ55と補助車輪ブラケット56との間は分割してトレッド変更時もステップ55と作業座席51の位置を固定する。
【0022】
後輪2と補助車輪53の間には作溝板57を設けることにより、植付け位置に予め作溝することにより溝植えが可能となる。この作溝板57により、本機側に作溝器を要しないので、本機のコンパクト化が可能となる。作溝板57は、支持調節部57aにより、深さ調節および側方位置調節が可能に構成する。
【0023】
(ターンテーブ構成)
移植装置6の構成は、機体側面図および部分図付帯の平面図をそれぞれ図7、図8に示すように、搭乗作業者と歩行作業者が各々苗株補給できるように、横長の2つのターンテーブル61,62による苗株搬送部を前後に並べ、その中央位置の2つずつの苗株搬送カップ61a、62aの下方に苗株植付用のホッパ63を上下動作可能に配置する。このホッパ63は、図8に付帯する部分図のように、複数株集中型(図例では4株植付用の4股型)とすることにより、株間または条間が狭い状態で多数の苗株を同時に能率良く移植することができる。
【0024】
上記前側のテーブル61は機体中央から左右振り分けに配置してその前側に作業座席8を設け、また、後側のテーブル62は歩行作業者Wが苗株補給作業を容易にするべく機体左側部まで延ばし、これら前後配置の両テーブル61,61について回転方向を揃え、双方の苗株搬送カップ61a、62aの搬送路が近接する部分で対向送りすることにより、両ターンテーブル61,62の苗株同士が絡みにくくなり、植付欠株を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】歩行作業機の要部斜視図
【図2】要部斜視図(2)
【図3】要部斜視図(3)
【図4】ギヤ部拡大斜視図
【図5】乗用ねぎ平床移植機の平面図
【図6】図5におけるA矢視図
【図7】移植装置の構成を示す機体側面図
【図8】図7の機体についての部分図付きの平面図
【符号の説明】
【0026】
2 後輪(駆動輪)
3 前輪(支持輪)
3a 前輪アーム(支持調節部)
3b 支軸
4 機体フレーム
6 移植装置
8 作業座席
14 ハンドル
15 クラッチレバー
15a ケーブル
16 後輪伝動支持部
17a イコライザ
18 差動ギヤ機構(クラッチ連動手段)
18a ピニオンギヤ
18b サイドギヤ軸(アウタチューブ)
18c デフケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の支持輪(3)および左右のサイドクラッチを介設して旋回駆動可能な左右の駆動輪(2)によって走行可能に支持された機体(4)に圃場作業装置(6)を搭載した圃場作業車両において、上記左右の支持輪(3)には、それぞれの支持高さ位置を変更する支持調節部(3a)を設け、この支持調節部(3a)により左右のサイドクラッチの一方の遮断動作に応じて同じ側の支持輪(3)を他側に対して高く支持するクラッチ連動手段(18)を設けたことを特徴とする圃場作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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