説明

土中適合電波吸収体

【課題】土中に埋設して使用する場合に適した電波吸収性能を確保することができる電波吸収体を提供する。
【解決手段】土や砂に対し、0.05〜5.00mass%の導電性炭素繊維と、水ガラス、フラン樹脂、フェノール樹脂などの結合バインダーとを混合し、角錐または円錐などの型枠の中に鋳込んだ後、硬化剤の添加または反応硬化を促すガスを通気させ、空中よりも地中でより反射減衰量の大きい電波吸収体を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土中(以下、地中とも記す)で安定した性能を発揮することができる電波吸収体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な電波吸収体では、空気中を伝搬してきた電波を電波吸収体内部に誘導するために、電波の損失剤の配合を調整したり形状を工夫したりして、空気のインピーダンスに近づけるように制御している。
【0003】
例えば、広帯域の電波吸収体を角錐や円錐などの形状に成形して、誘電率が急激に変化するような界面を持たないようにしているが、電波吸収体の誘電率が大きければ、その分、角錐や円錐形状の電波吸収体の高さ方向のサイズを大きくする必要がある。
【0004】
一般的な電波吸収体は、空気中を伝搬してきた電波を吸収することを目的としているため、極力空気に近い誘電率を持つ発泡体材料、例えば、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリスチレンなどを基材とし、それに、損失剤である導電性炭素(導電性カーボン)などを混合して成形されている。
【0005】
一方、地中に埋設されている水道管やガス管の他に地雷などを効率よく探すためには、電波による探索が有効であるが、電波による地中埋設物の探索装置を開発する場合には、外来電波の影響を少なくするために、若しくは自身が発信する電波が漏洩しないようにするために、電波暗室で測定試験を行う必要がある。
【0006】
電波暗室内で地中埋設物の探索試験を行うためには、電波暗室内に土槽を設ける必要があるが、土槽自体も電波が漏洩しないようにシールド構造とする必要があるので、埋設された試験体の下方のシールド面、つまり底面から反射してくる電波を抑制するために、シールド底面に電波吸収体を設置する必要がある。
【0007】
土中埋設物の下方に設置される電波吸収体は、土中を伝搬してきた電波を吸収しなければならないので、従来の電波吸収体と異なり、土砂のインピーダンスに近づける必要がある。
【0008】
つまり、従来使用されている電波吸収体は、空気中を伝搬してきた電波とインピーダンスの整合を行うように設計されているため、土中に埋設した場合、自由空間で使用する目的で作られた従来の電波吸収体をそのまま使用しても、必要な性能が得られない場合があるが、これまでは、土中での使用に適合する電波吸収体が開発されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、従来の電波吸収体と異なり、空気中ではなく、土中を伝搬してきた電波を効率よく吸収することができる電波吸収体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る電波吸収体は、導電性炭素繊維を地質構成材料に混合して、錐状に成形され、電波渡来方向に頂点を向けて配置されることを特徴とする。
【0011】
また、前記地質構成材料がケイ砂または粘土を含み、前記地質構成材料に対して、導電性炭素繊維を0.05〜5.00mass%混合してもよい。
【0012】
また、前記地質構成材料がケイ砂または粘土を含み、前記地質構成材料に対して、ケイ酸ソーダ、セメント、フェノール樹脂、フラン樹脂、およびウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類の固結剤を、0.1〜10mass%混合して成形してもよい。
【0013】
また、前記導電性炭素繊維のアスペクト比を100以上としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、地中埋設物を探索する装置を開発するための土槽を有した電波暗室において使用される、地中での電波吸収特性が優れた電波吸収体を、容易にかつ連続的に製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る電波吸収体の製造方法を説明するための断面図である。
【図2】本発明の一実施例に係る電波吸収体の電波吸収特性を示すグラフである。
【図3】アスペクト比が小さい導電性炭素繊維を用いた場合の電波吸収体の電波吸収特性を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施例に係る電波吸収体を土中に埋設した場合の電波吸収特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
電波吸収体としての性能をあげるためには、電波が伝搬してきた媒体と電波吸収体との間で誘電率の差が大きくならないようにする、つまり、伝搬媒体と電波吸収体との間の誘電率の急激な変化を極力抑える必要がある。
【0018】
電波吸収体の性能をあげるためには、電波が伝搬してきた媒体との誘電率の差を小さくする必要があるので、広帯域用の電波吸収体は、通常、電波の渡来方向(錐体の頂点から底面に向かって延びる垂線の方向)に対し傾斜を持つ、角錐や円錐形状などのような形状をしているが、電波が伝搬してきた媒体と電波吸収体との間の誘電率の差が大きければ大きいほど、電波の渡来方向における傾斜材料の長さを大きくしなくてはならない。
【0019】
従来の電波吸収体では、空中を伝搬してきた電波を吸収することを目的としているため、空気の誘電率に近いものを用いることが望ましいことから、極力空気を多く含んだ、発泡ポリウレタン、発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレンなどの基材が多く使用されている。
【0020】
一方、電波吸収体を土中で使用するためには、地質構成材料である砂や土などの誘電率に近いものを用いることが望ましいため、砂や土などに電波の損失剤を混合し、電波の渡来方向に対して傾斜する側面を有する角錐や円錐形状などに成形する。
【0021】
砂や土などに電波の損失剤を混合して成形する場合、従来の電波吸収体において電波の損失剤として使用されている導電性炭素の粉体を使用し、一定以上の性能を持たせるために必要な量を添加すると、導電性炭素の粉体がブロッキング防止剤のような効果を起こすようになるため、基材とした砂や土などの成形が困難、若しくは不可能になってしまう。
【0022】
そこで、導電性炭素の粉体の代わりに、導電性炭素繊維を損失剤として使用すると、導電性炭素の粉体の100分の1程度の添加量で、十分な電波吸収性能を得ることができる。
【0023】
ただし、電波吸収体の損失剤として使用される導電性炭素のアスペクト比(繊維の直径に対する繊維長の比)は、100以上が必要である。アスペクト比が100未満のものを使用すると、十分な電波吸収性能が得られない。
【0024】
また、炭素繊維以外の導電性繊維も、電波吸収体の損失剤として使用することはできるが、特に、土中でも化学的安定性の高い導電性炭素繊維を使用するのが好ましい。基材に対する導電性炭素繊維の混合割合は、0.05〜5.00mass%であるのが好ましい。
【0025】
また、砂や土などを基材として電波吸収体を成形する場合、ケイ酸ソーダ、セメント、フェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂などのうち、1種または2種以上を固結剤として成形すれば、土中での使用に適合する電波吸収体を連続的に製造することが出来る。基材に対する固結剤の割合は、0.1〜10mass%であるのが好ましい。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
図1は、本発明の一実施例に係る電波吸収体の製造方法を説明するための断面図である。まず、乾燥粘土6.5kgに対し130gの繊維長6mm(アスペクト比400)の導電性炭素繊維を加え、株式会社チヨダマシナリー社製のオムニミキサーで30分間混合し、その後、フラタリー(Flattery)珪砂6.5kgを加えてさらに10分間混合した後、結合バインダー(固結剤)として200gの水ガラスを加えたものを、底辺200×200mm、高さ500mmのピラミッド型枠1に鋳込み、炭酸ガスを2分間通気して電波吸収体2を成形した。
【0027】
次に、成形した電波吸収体を200℃の乾燥器内で1時間乾燥させ、導波管及びアーチ法により500MHz〜5GHzまでの反射減衰量を測定したところ、−25dB以上の減衰量を示した。図2は、実施例1に係る電波吸収体の電波吸収特性(反射減衰量)を示すグラフである。
(比較例1)
乾燥粘土6.5kgに対し130gの繊維長0.7mm(アスペクト比50以下)の導電性炭素繊維を加え、株式会社チヨダマシナリー社製のオムニミキサーで30分間混合し、その後、フラタリー珪砂6.5kgを加えてさらに10分間混合した後、結合バインダーとして200gの水ガラスを加えたものを、底辺200×200mm、高さ500mmのピラミッド型枠に鋳込み、炭酸ガスを2分間通気して電波吸収体を成形した。
【0028】
成形した電波吸収体を200℃の乾燥器内で1時間乾燥させ、導波管及びアーチ法により500MHz〜5GHzまでの反射減衰量を測定したところ、500MHz〜1.5GHzまでは、−10dB以下の減衰量を示した。図3は、比較例1に係る電波吸収体の電波吸収特性(反射減衰量)を示すグラフである。
(実施例2)
実施例1で製造した電波吸収体の性能確認のため、底辺が金属の箱に砂のみを入れた場合と、吸収体のみを入れた場合と、吸収体を入れてから砂を入れた場合との反射減衰量を比較したところ、図4のグラフに示すように、吸収体を砂に混合させた場合、砂のみの場合よりも、底面からの反射を抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0029】
1 型枠
2 吸収体原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素繊維を地質構成材料に混合して、錐状に成形され、電波渡来方向に頂点を向けて配置される電波吸収体。
【請求項2】
前記地質構成材料がケイ砂または粘土を含み、前記地質構成材料に対して、導電性炭素繊維を0.05〜5.00mass%混合した請求項1記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記地質構成材料がケイ砂または粘土を含み、前記地質構成材料に対して、ケイ酸ソーダ、セメント、フェノール樹脂、フラン樹脂、およびウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類の固結剤を、0.1〜10mass%混合して成形した請求項1記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記導電性炭素繊維のアスペクト比が100以上である請求項1記載の電波吸収体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−245097(P2010−245097A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89025(P2009−89025)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【出願人】(593194410)E&Cエンジニアリング株式会社 (3)
【Fターム(参考)】