説明

土圧式シールド工法用添加剤

【目的】化学的処理での地盤改良、特に水ガラスあるいは珪酸ソーダ−酸系と称される珪酸ソーダ−酸を硫酸と反応させ、シリカゲルと硫酸ソーダ−を生成させ固化させような地盤改良を施された軟弱地盤での土圧シールド工法において、強アルカリ性や強酸が残存していても、加泥剤の粘度低下が少なく、良好な切羽安定性やポンプ圧送性を保持する土圧シールド工法用加泥剤を得る
【構成】水溶性高分子と特定のアルカリ土類金属塩及びゼオライトとを組み合わせる。特に、水溶性高分子がセルロースエーテル及び/又はポリアクリルアミドの1種又は2種以上を組み合わせたものが好適に用いることができる。またセルロースエーテルはカルボキシメチルセルロースが好ましく用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性高分子、アルカリ土類金属塩とゼオライトとで構成されている土圧式シールド工法用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
機械堀りシールド工法とはシールド機より地中を掘削しながら推進する工法であり、現在の主流を大別すると二種類の技術がある。一つの工法は泥水加圧シールド工法で、加圧した泥水によって切羽の安定を図り、掘削土砂を流体輸送することを特色とする。この工法は水位下のトンネルでも大気圧下で作業できること、滞水砂層や含水比の高い粘性土層、高水圧砂礫層等で施工可能で、土質に対する適応範囲が広い。但し、土砂分離装置が必要で、設備費とかなり広い設置面積が必要となる。また、加圧する設備も必要で大掛かりな装置となる。
【0003】
もう一つの工法は泥土圧式シールド工法と称せられるものであり、シールド機内の土圧室に掘削土砂を充満させ、この土圧によって切羽土圧及び地下水圧等に対抗させて切羽を安定させることを特色とする。この工法は高水圧砂礫層等での止水性は泥水加圧シールドに比べ劣るため土質に対する適応範囲は若干劣るものの、土砂分離装置が不要なため設置面積確保が難しい都市開発等で実績が増えてきている。又、従来不可能であった排土のポンプ圧送も添加剤の改良等で行われるようになってきている。
このような泥土圧式シールド工法は、更に二種類の技術に分けられる。一つの工法は気泡シールド工法と称されるものであり、特殊起泡材により作られた気泡を注入しながら掘削する工法である。
【0004】
この気泡シールド工法では、気泡のベアリング効果により掘削土砂の流動性が確保され、また気泡の保持による止水性能が優れるなどの利点がある。もう一つの工法は、土圧シールド工法と称せられるものであり、添加剤(材)または加泥材(剤)とも称されるものを添加した土砂により、切羽を安定化させる工法である。気泡シールド工法での特殊発泡剤は、発泡させるため及び発泡した気泡を安定化させ、気泡の保持時間を長くするために添加される。土圧シールド工法においては、土圧室に充満された掘削土砂はコンベアやポンプなどを用いて土圧室外から排土されるが、気泡シールド工法においては、その掘削土砂の粘度が高く、掘削土のポンプ圧送はできない。一方、土圧シールド工法においては、掘削された土砂を容易にポンプ圧送することができる。この点において土圧シールド工法は気泡シールド工法より優れている。
【0005】
このような土圧シールド工法において、粘土、シルトなどの微細粒子で構成された粘性地盤では、掘削、排土は比較的容易である。一方、砂や砂礫などの粒子が互いに拘束し合っている砂礫地盤においては、その止水性が低いため、掘削の際にカッターチャンバー上部に空洞が生じ、この空洞部に湧水とともに土砂が崩落し、その結果切刃の安定が保てなくなる。また、砂礫地盤においては、掘削土砂の流動性が悪いため、ポンプ圧送ができず、容易に排土出来ない。そのため、従来は砂礫地盤の掘削及び排土において、手掘りシールドや機械式シールドが用いられ、ベルトコンベアやトロッコにより排土運搬が行われてきた。しかし、経済的観点や作業効率の点からも好ましくない。
そこで、現在は流動性及び止水性に乏しい砂礫地盤を掘削、排土する場合、掘削土砂に添加剤(加泥材あるいは加泥剤とも称される)を加えることにより、その粘性を増加させ、移送性又は搬送性を改善する方法が主流になっている。このため、泥土圧シールド工法においては、掘削地盤への適用性に優れ、かつ掘削土砂の流動性を確保できる添加剤が求められている。
【0006】
以上の状況より、添加剤としては、流動性及び止水性を付与するために、現在までに様々なものが提案されている。例えば、特開平7−82559号公報にはセルロースエーテルからなる水溶性高分子化合物と粘度土を混入した加泥剤が提案されている。また特開2000−26848号公報においては、特定の粘性を示すベントナイトとカルボキシメチルセルロース又はその塩からなる添加剤が提案されている。
さらには、無機粉末、水溶性高分子、高吸水性樹脂等が単体或いは2種以上を組み合わせて使用される技術も開示されている。例えば、特開平5−59886号公報には高級水性樹脂及びセピオライト、アタパルジャイト、クレイおよびベントナイトからなる郡より選ばれた一つの成分とカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーター及びポリアクリルアミドからなる分群より選ばれた一つ成分からなる組成物を水で膨潤させてなる加泥材が開示されている。
【0007】
また特開平7−305060号公報においては、1%粘度が8000〜9500cpsという高粘度のカルボキシメチルセルロース又はその塩とポリアクリル酸等の高吸水性樹脂からなるシールド工法用添加剤が開示されている。
特開平10−219238号公報には、特定の粘度からなるカルボキシメチルセルロースナトリウムとポリアクリルアミドの混合物からなる土圧系シールド工法添加剤が開示されている。この技術によるとシールド工法で掘削した掘削土砂を材料分離を引き起こすことなく、長距離のポンプ圧送が可能となった。
【0008】
このように、無機粉末としては、ベンナイト、粉末粘土等の鉱物粉末が使用され、水溶性高分子としては、グアーガム、澱粉等の天然系、セルロースエーテルのような半合成系、ポリアクリルアミドやポリアクリル酸ソーダのような合成系が使用され、高吸水性樹脂としては、ポリアクリル酸ソーダの部分架橋品等が主に使用され、土圧式シールド工法の大型化、さらには掘削土砂のポンプ圧送の長距離化に効果を上げている。
【0009】
しかしながら、土圧シールド工事の大型化、掘削土砂のポンプ圧送の長距離化に伴い、臨海地域、特に埋立地あるいは河川下などの地域で用いられるようになってきた。これらの港湾部の都市再開発やウォーターフロント部においては地盤は軟弱であり、このような軟弱地盤を地盤改良技術で改良することが通常行われる。この地盤改良した地盤を土圧シールド工法で掘削する機会が相対的に増加しするに伴い、あらたな問題点が発生し、その解決を求められている。
【0010】
すなわち、化学処理での地盤改良に付随する問題点である。一般的に、軟弱地盤の主な改良工法としては、改良する地盤に縦穴をかなりの密度で施工し、その穴に砂を詰めることにより排水することによる地盤の圧密化、機械(重機)によるローラ掛けを繰り返す圧縮化、セメント系、珪酸ソーダ−酸系による固化を利用した化学的処理等が上げられる。特に都市部においては設備がコンパクトで済むことと、振動および騒音が少ない、工期が短期間で済むなどの特長から、通常は化学的処理での地盤改良が行われる。
【0011】
このような化学処理での地盤改良技術においては、一般的に二種類の地盤改良技術が用いられる。一つはセメント系の薬剤により、セメントの固化反応を利用して地盤を改良するものであり、もう一つは水ガラスあるいは珪酸ソーダ−酸系と称される珪酸ソーダ−酸を硫酸と反応させ、シリカゲルと硫酸ソーダ−を生成させ固化させるものである。このような地盤改良技術においては、使用される薬材がセメント系の場合にあっては、強アルカリ性でカルシウムイオンを主体とする金属イオンが残存することが問題となる。他方、珪酸ソーダ−酸系の場合あっては、理論上生成するものはシリカゲルと硫酸ソーダのみであり、問題を生じないはずであるが、現実には完全に混合できないことから、強アルカリである珪酸ソーダや中和されない強酸の硫酸が改良地盤の一部地盤に残存(偏在あるは局在)していることが問題になる。
【0012】
そのため、このような改良地盤を土圧シールド工法で掘削した場合、土圧シールド工法用加泥剤は強アルカリ、強酸或いは金属イオンの影響を受けることになり、特に水溶性高分子等はその影響が大きく、粘度低下により流動性や止水性に支障が発生し、掘削トラブルの原因になる。特に、対象となる区間が比較的把握しやすいセメント系改良地盤にあっては、耐セメント性のある加泥剤に変更して対応することも可能であるが、、珪酸ソーダ−酸系での改良地盤は、同一の工事区間であっても主材である未反応の珪酸ソーダが残存している可能性もあるし、或いは固化材である酸の残存している場合もあり、これらの強アルカリと強酸の双方に対して安定性を示す添加剤が求められてきた。
【特許文献1】特開平7−82559号公報
【特許文献2】特開平5−59886号公報
【特許文献3】特開平7−305060号公報
【特許文献4】特開2000−26848号公報
【特許文献5】特開平10−219238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
解決しようとする問題点は、珪酸ソーダを主材とし、硫酸等の酸を固化材として用いた化学処理による改良地盤を土圧式シールド工法用で掘削する場合において、改良地盤に局在する未反応の強アルカリや強酸による粘度低下の少ない土圧式シールド工法用添加剤が存在しなかったことである。
更に、本発明が解決しようとする問題点は化学処理による改良地盤であっても、大きなコストアップや加泥剤の変更に伴う手間を掛けずに円滑に掘削ができる安価な加泥剤が存在しなかったことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討の結果、土圧式シールド工法用添加剤として、水溶性高分子と特定のアルカリ土類金属塩及びゼオライトとを組み合わせることにより、改良地盤に残存している未反応の珪酸ソーダ及び酸の影響による粘度低下が少ない添加剤として、円滑に掘削できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の土圧式シールド工法用添加剤は、グアーガム、セルロースエーテル、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子群の中の一種又は二種以上と、アルカリ土類金属塩及びゼオライトを組み合わせてなるものである。
すなわち本発明は、
(1)水溶性高分子、アルカリ土類金属塩及びゼオライトとからなる土圧式シールド工法用添加剤を提供する。更に本発明は、
(2)水溶性高分子がセルロースエーテル及び/又はポリアクリルアミドの1種又は2種以上を組み合わせた(1)に記載の土圧式シールド工法用添加剤を提供する。更に本発明は、
(3)アルカリ土類金属塩が水酸化アルカリ土類金属からなる(1)に記載の土圧式シールド工法用添加剤を提供する。更に本発明は、
(4)ゼオライトが人工ゼオライトからなる(1)記載の土圧式シールド工法用添加剤を提供する。更に本発明は、
(5)水溶性高分子/(アルカリ土類金属塩とゼオライトとの合計)の重量比が40/60〜90/10である上記(1)から(4)に記載の土圧式シールド工法用添加剤を提供する。更に本発明は
(6)アルカリ土類金属塩/ゼオライトの重量比が20/80〜80/20である(5)に記載の土圧式シールド工法用添加剤を提供する。更に本発明は、
(7)その1%水溶液粘度が500〜5000mPa・sである(5)乃至(6)記載の土圧式シールド工法用添加剤を提供する。
【0015】
本発明におけるセルロースエーテルとは、セルロースにエーテル結合で官能基が導入された誘導体であり、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを含むものである。またこれらのセルロースエーテルにはノニオン系のものとアニオン系のものが存在しており、アニオン系の場合においては、それらのセルロースエーテルの金属塩を含むものである。また、アルカリ土類金属塩とは実質的にアルカリ土類金属を主体とするものであれば良く、本発明の目的を損なわない範囲で、他の金属を含有しても構わないものである。また1%水溶液粘度とは重量%濃度で1%の濃度に本発
明の添加剤を溶解した場合に,25℃でB型粘度系で60回転で測定した場合の粘度である。
【0016】
また人工ゼオライトとは主な成分が珪素とアルミニウムからなる鉱物性の物質で、人工的に製造されたゼオライトであり、陽イオン交換機能を有しているゼオライトである。人工ゼオライトには、担持された陽イオン種により、カルシウム型、ナトリウム型、アンモニウム型など多様な型が存在するが、一価の陽イオン型が好ましく用いられ、これらの中でも特にアルカリ金属担持型が好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の添加剤は改良地盤に残存している未反応の珪酸ソーダ及び酸などの、強アルカリ成分または強酸成分が混入してきた場合の土圧シールド工法用添加剤の粘度低下が少なくなる。その結果、土圧式シールド工法での添加剤の粘度低下による逸水や泥土圧の低下、泥土の流動性低下などの掘削トラブル発生が少なくできる。また、本発明の添加剤は低コストであるので、耐セメント性が優れる高コストの特殊な添加剤を用いる必要がなく、添加剤の品種換えを頻繁に行う必要も、工期の短縮や建設コストの低減を図ることができる。
【0018】
また、合成人工ゼオライトは石炭灰すなわちフライアッシュと呼ばれるものから得ることができ、合成人工ゼオライトの用途を拡大することにより、石炭灰の有効利用を図ることができ、資源を有効に再利用できる。更に、人工ゼオライトは人工物ではあるが天然に存在する無機物と実質的には異ならないため、水溶性高分子がセルロースエーテルから選ばれたものを組み合わせたものである場合には、セルロースエーテルは生分解性があるため、掘削土を埋土などに再利用した場合でも環境負荷を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(水溶性高分子)
本発明の添加剤に含有される水溶性高分子(以下(A)成分と省略する。)は、添加剤すなわち加泥剤(材)の主成分となる成分である。(A)成分としては、所謂一般的な水溶性高分子であれば何れも用いることができる。水溶性高分子とは、分子中に水と強く相互作用する極性基(イオン性基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、エーテル基など)を数多く含み水に溶解する高分子である。このような水溶性高分子としては、デンプン質、マンナン、海藻類、植物粘性質、たんぱく質のような天然高分子系のもの、及びカルボキシメチルセルロース及びナトリウム塩、カルボキシメチルデンプンのような半合成系のものを挙げることができる。本発明における(A)成分としては、水に溶解するものであれば、グルカン誘導体からなる天然および半合成系の水溶性高分子、およびポリアクリルアミドなどの合成系水溶性高分子の何れもが用いることができる。
【0020】
本発明においては、このような水溶性高分子の中から1種類以上のものを選択して用いることができる。そして、このような水溶性高分子の中から、複数の種類の水溶性高分子を組み合わせることもできる。本発明における(A)成分としては、複数種類のグルカン誘導体からなる水溶性高分子を組み合わせて用いることもできる。またカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とグアガム、デンプン、デンプン質のようなαグルコシド結合からなる多糖類の水溶性高分子あるいは水溶性ポリマーを組み合わせることもできる。
【0021】
上記のグルカン誘導体からなる半合成系の水溶性高分子としては、セルロースを骨格とするセルロース系のセルロース誘導体の水溶性高分子とデンプン類を骨格とするデンプン系のデンプン誘導体の水溶性高分子があるが、本発明においては、その水溶性高分子の水溶液の粘性挙動からセルロールを骨格とするセルロース誘導体の水溶性高分子がより好ましく用いることができる。
【0022】
これらのセルロース誘導体の水溶性高分子はアニオン性であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とノニオン性であるメチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)に大きく分類される。本発明においては、これらセルロース誘導体の水溶性高分子の中でも特にアニオン性の水溶性高分子であるセルロース誘導体が好適に用いることができる。アニオン性の水溶性高分子であるセルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を例示することができる。
【0023】
また本発明における(A)成分とその他の水溶性高分子を組み合わせることもでき、たんぱく質のような天然高分子系とポリアクリル酸ナトリウムのような合成系のものを組み合わせて使用しても良いし、(A)成分と天然高分子系と半合成系を組み合わせても良い。また、(A)成分として半合成系と合成系のものを組み合わせて使用することもできる。
更には、(A)成分として、天然高分子系と半合成系と合成系の組み合わせでも使用することができる。
【0024】
本発明の(A)成分として用いられる合成系の水溶性高分子として好ましいのは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムを挙げることができ、特に好ましいおものとしてポリアクリルアミドが挙げられる。そして、本発明における(A)成分として最も好ましいものは、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩とポリアクリルアミドの組み合わせを用いた場合である。
【0025】
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩)
上記の通り、(A)成分としてはカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含むことが好ましい。
(A)成分としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いる場合最も好ましいカルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、特定の置換度(エーテル化度またはDSと記載することもある。)と分子量を有するものである。置換度(エーテル化度=DS)は、一般にセルロースの水酸基がどの程度エーテル化(カルボキシメチル化)されるいるかを示す数値であるため、0〜3の数値のものが存在するが、本発明で用いられる(A)成分として用いられるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、0.5〜2.0の置換度を有するものが適しており、好ましくは0.5〜1.5、さらに好ましくは0.7〜1.0のものが望ましい。
置換度が1.5から2.0のものを用いた場合には、耐セメント性に優れる添加剤が得られる。
置換度が0.5より低いと、水溶性が不十分であり、均一な加泥材が得られない。一方、置換度が2.0より高いとままこなどを発生させて、添加剤の溶解に問題を生じる。
【0026】
(A)成分のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の分子量は、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の1重量%水溶液をB型粘度計(回転型粘度計)にて60r.p.mで測定した25℃における粘度が、100〜10000mPa・sであるものが適している。好ましくは200〜10000mPa・s、さらに好ましくは500〜10000mPa・s、より好ましくは1000〜10000mPa・s、特に好ましくは2000〜10000mPa・s、最も好ましくは4000〜10000mPa・s、のものである。
その際、粘度が100mPa・sより小さいと、加泥材の強度が低下する。一方、粘度が10000mPa・sより大きいと、調整した加泥材の粘度が非常に高くなり、流動性に問題点を生ずる。
【0027】
(ポリアクリルアミド)
本発明で言うポリアクリルアミドとは、苛性ソーダーの存在下、加水分解により一部ポリアクリル酸ソーダーに変性したポリアクリルアミドを示す。この加水分解率としては20〜40%のものが好適に用いることができる。ポリアクリルアミドは、一般的に水処理剤として使用されている高分子凝集剤であり、安全性の高い物質である。使用される。使用されるポリアクリルアミドは、高粘性品が望ましい。詳しくは、ポリアクリルアミドの0.1%水溶液の粘度( 25℃、B型粘度計No.2ローター、60rpm)が50〜400cps、分子量が100万〜1700万のものが望ましい。
【0028】
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩とポリアクリルアミドの組み合わせ)
本発明の(A)成分としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とポリアクリルアミドの組み合わせを用いた場合は更に、本発明の効果を得ることができる。すなわち、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩のみを(A)成分として用いた場合ではではブリージング(離水現象)が起こるために限界があったが、高分子の凝集剤として使用されているポリアクリルアミドとカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とを複合することにより、シールド機の切羽の安定した掘削と排土の長距離パイプ輸送を可能とできる。
このような様態で(A)成分を用いる場合には、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、掘削土砂のブリージングを防ぐ目的から、高粘品であることが望ましい。詳しくは、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の1%水溶液の粘度(2510 ℃、B型粘度計)が4000〜12000cpsであることが望ましく、さらには8000〜12000cpsであることがより望ましい。またDS(グルコース1個当たりの置換割合)=0.7〜1.2のものが望ましい。
【0029】
1%水溶液の粘度が4000cps未満であると、掘削土砂をパイプ輸送する際にブリージングが起こりやすくなり好ましくない。又高粘度のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩が望ましいが、実際には12000cpsより高い粘度を有するCMCは得られない。更にこの様態で使用されるポリアクリルアミドは、掘削土砂のブリージングを防ぐため、高粘品が望ましい。詳しくはポリアクリルアミドの0.1%水溶液の粘度( 25℃、B型粘度計No.2ローター、60rpm)が200〜400cps、分子量が800万〜1700万のものが望ましい。加水分解度は20〜40%が適当である。そして、(A)成分のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とポリアクリルアミドの重量比は、50/50〜90/10の範囲で混合されることが好ましい。更に、良好な掘削を実現させる止水性と潤滑性及び良好なポンプ圧送を実現させる保水性と流動性の点からカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とポリアクリルアミドの重量比が60/40〜80/20の範囲のものがより望ましい。
【0030】
(アルカリ土類金属塩)
本発明で言うアルカリ土類金属塩(以下(B)成分と略す。)とはアルカリ土類金属化合物で炭酸塩、あるいは塩化物複塩、硫酸複塩などの酸素酸塩、酸化物および複酸化物(スピネル型鉱物)、珪酸塩、リン酸水素塩などである。具体的な酸化物としてはMO,M(OH)2,MAl204,(Mはアルカリ土類金属元素を指し示す)である。これらの内でもアルカリ土類金属の水酸化物が最も好適に用いることができる。本発明での(B)成分として好ましく用いることができるものは、水に対して難溶、より好ましくは不溶のアルカリ土類金属塩である。尚、本発明において以後用いられる、「難溶」、「不溶」、「溶解」あるいは「易溶」という用語は、日本化学学会編集「化学便覧」基礎編I 3.化合物の性質 3.2無機化合物・錯体・有機金属化合物の性質 の「溶解度」欄に記載されている区分けに従うものとする。
【0031】
本発明での(B)成分としてより好ましいものは、水に対して不溶また難溶であり、かつ酸に対しては溶解か易溶である塩類である。このような塩類を用いると本発明の効果を発揮できる。以上のような性質を備えているアルカリ土類金属塩類の化合物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ベリリウム、リン酸水素マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム二水和物などが例示されるが、これらの中でも、アルカリ土類金属の水酸化物を用いた場合は、本発明の使用時においてこれらのアルカリ土類金属水酸化物が強酸と反応した場合でも、酸塩基反応に伴う遊離基が水であり、他に影響をしない点で好ましい。尚、本発明の(B)成分に変えて、アルカリ金属塩類を用いても、本発明の効果は期待できない。そして、本発明の(B)成分としては、これらのアルカリ土類金属の水酸化物でも水酸化マグネシウムが最も好ましく用いることができる。なお、アルカリ土類金属塩類は不純物を含み易く、本発明の(B)成分としては、本願発明の効果を妨げない範囲内で工業的な製造工程の中で含まれる不純物を含有していても構わない。
【0032】
(ゼオライト)
一般的に、ゼオライトというものは、「天然ゼオライト」、「人工ゼオライト」、「合成ゼオライト」に分類することができる。本発明でいうゼオライト(以下(C)成分と略す。)には「天然ゼオライト」、「合成ゼオライト」、「人工ゼオライト」の全てを用いることができる。ゼオライトとは、主にアルミニウムとケイ素からなっている化合物である。「天然ゼオライト」は、火山灰から生成したケイ酸アルミが主体の多孔質鉱石で、邦名を沸石とも称されている。またカルシウム・マグネシウム・鉄・ナトリウム・カリウムなど種々のイオンが含まれている。構造としては、オングストローム単位の連続した空洞を有し、その中には水分子が存在し、加熱によって脱水してもゼオライト自体の構造は破壊されず、脱水後に空いた空洞に再びガスや水分を強力に吸着する特性がある。比表面積はおよそ20〜350m2/grである。粒子形状は不定
形である。
【0033】
「合成ゼオライト」とは、この「天然ゼオライト」のもつ、吸着機能を向上させるため化学合成されたものであり、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)が酸素(O)を介して結合した構造をしている。代表的構造はA型ゼオライトである。上記の基本構造のため、ケイ素の周りは電気的に中性となり、アルミニウムの周りは-1価となり、この負電荷を補償するために、骨格中に陽イオン(例えばNa+)が必要とし、この陽イオンは、他の金属イオン(H+, K+, Ca2+・・・など)と容易に交換でき、イオン交換性能が発現する。「合成ゼオライト」は、能力が高く、例えば比表面積であれば400m2/gr以上のものが各種得られており、様々な用途が開発されている。また陽イオンの種類により様々な構造および性能のものが得られている。粒子形状は球状および円柱状、その他、構造固有の特定の形態を取る
【0034】
「人工ゼオライト」とは従来は産業廃棄物として処理されていた「石炭灰」すなわちフライアッシュなどの物質をアルカリ処理することにより得ることができる。
天然、合成、人工に関係なく多孔質物であり、細孔径が3から10Åの細孔を多数持っている。このため比表面積は20から400m2/gr以上と非常に大きいものである。として何れのゼオライトも、高い比表面積による吸着性能と電荷的に極性であるため、陽イオンの交換機能を有している。本発明の(C)成分としては、これらの二つの機能を兼ね備えているものであれば、用いることができるので、本発明の(C)成分としては、「天然ゼオライト」、「合成ゼオライト」、「人工ゼオライト」の全てを用いることができるが、最も好適なのは「人工ゼオライト」である。
【0035】
なぜならば、「合成ゼオライト」であれば、溶出pHは任意に設定することができ、また粒子径や細孔径も任意に設定することができるが、コストが高くなる問題点がある。一方、「天然ゼオライト」であると、溶出pHがほぼ中性域であり、また「天然ゼオライト」の約2〜3倍という高い陽イオン交換機能をもっている。さらに、この機能を活かすことで、酸性を中和することも可能であり、土壌中の金属イオン特にカルシウムイオンなどの添加剤の性能に妨げになるものの除去が可能になるからである。
本発明の(C)成分として用いることができる「人工ゼオライト」としては、粒子径上は球状のものが好ましく、また粒子径としては5〜100μmのものを用いることができ、好ましくは20から100μm、更に好ましくは20〜90μmのものが好適である。細孔径としては5〜10Åである。そして,溶質pHが7以上11程度のアルカリ性のものが好適である。そして、本発明の(C)成分は、陽イオンを担持されていることが必須ではないが、「人工ゼオライト」でナトリウムイオンを担持されているものが、イオン交換能力が高く本発明の目的に好適である。本発明に記載している「人工ゼオライト」を得る方法としては、特開昭59‐86687号公報に記載されている方法により得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
実施例1
(1)土圧式シールド工法用添加剤の調整
カルボキシメチルセルロース(<2280>、カルボキシメチル基の置換度;0.76、1%水溶液粘度9450mPa・s、ダイセル化学工業製)49重量%、ポリアクリルアミド(アコフロックA130、カルボキシ含量;30モル%、分子量;1,600×104、三井化学アクアポリマー製)21重量%、水酸化マグネシウム 15重量%、ナトリウム型人工ゼオライト(アルカリ型)15重量%をミキサーにて攪拌混合し、土圧式シールド工法用添加剤を得た。
(2)添加剤の調整
上記(1)で得られた土圧式シールド工法用添加剤6.6gを水道水593.4gを量り込んだ1Lポリエチ容器にセットした攪拌羽根(70mmΦ カイ型十字2段;3cm間隔)1000rpmで攪拌しているところへゆっくりと添加し、30分間攪拌溶解を行い、1.1重量%水溶液を作製する。溶解終了後、25℃に調整した恒温槽で90分間温度調整を行い、B型粘度計(60rpm)を用いて粘度を測定した。。
【0038】
実施例2
上記(2)と同じ方法を用いて、土圧式シールド工法用添加剤3.6gを水道水596.4gに溶解し、0.6重量%水溶液を作製した。。
【0039】
比較例1
カルボキシメチルセルロース(<2280>、カルボキシメチル基の置換度;0.76、1%水溶液粘度9450mPa・s、ダイセル化学工業製)70重量%、ポリアクリルアミド(アコフロックA130、カルボキシ含量;30モル%、分子量;1,600×104、三井化学アクアポリマー製)30重量%をミキサーにて攪拌混合し、土圧式シールド工法用添加剤を得た。得られた土圧式シールド工法用添加剤4.2gを水道水595.8gにて実施例1の方法により、0.7重量%水溶液を作製し粘度の測定を行した。。
【0040】
比較例2
比較例1得られた土圧式シールド工法用添加剤2.4gを水道水597.6gにて実施例1の方法により、0.4重量%水溶液を作製し粘度の測定を行った。。
【0041】
比較例3
カルボキシメチルセルロース(<2280>、カルボキシメチル基の置換度;0.76、1%水溶液粘度9450mPa・s、ダイセル化学工業製)52.6重量%、ポリアクリルアミド(アコフロックA130、カルボキシ含量;30モル%、分子量;1,600×104、三井化学アクアポリマー製)22.5重量%、無機金属塩として炭酸ナトリウム(和光純薬株式会社製 1級試薬)24.9重量%をミキサーにて攪拌混合し、土圧式シールド工法用添加剤を得た。得られた土圧式シールド工法用添加剤6.6gを水道水495.0gにて実施例1の方法により、1.3重量%水溶液を作製し粘度の測定を行った。またpHの測定を行った。
【0042】
比較例4
カルボキシメチルセルロースを46.6重量%、ポリアクリルアミド20.0重量%、炭酸ナトリウム33.4重量%を用い、得られた土圧式シールド工法用添加剤7.5gを水道水495.0gにて実施例1の方法により、1.5重量%水溶液を作製し粘度の測定を行った。またpHの測定を行った。
実施例1〜2、比較例1〜2で作製した添加剤水溶液について、下記試験を行った。また、粘度を測定した。
【0043】
試験方法
地盤改良材である3号珪酸ソーダ原液及び2倍希釈水溶液、珪酸ソーダ用瞬結型固化材(商品名;NS2 硫酸と燐酸の混合物)及び2倍希釈水溶液、珪酸ソーダ用中結型固化材(商品名;NM2 硫酸)及び2倍希釈水溶液それぞれ実施例1〜2、比較例1〜2で作製した水溶液に対して1容量%を300rpmで攪拌中の水溶液に添加し、10分間攪拌する。攪拌後、25℃に調整された恒温槽中に10分間静置し粘度測定を行った。結果を表1〜3に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
表1〜3から明らかなように、比較例に比べ、実施例の添加剤は地盤改良材が混入してきた場合の粘度低下が少なく、土圧式シールド工法での掘削トラブル発生が少なくできる。また、表-4から明らかな通り、アルカリ金属塩を添加した場合は、水溶液濃度が高く、本来であれば実施例よりも高粘度と為らなければならないものにもかかわらず、添加剤調整勅度から同じpHであっても粘度低下が大きい。このため、珪酸ソーダ原液や珪酸ソーダ用中結型固化材を添加するまでもなく、粘度低下が発生しており土圧シールド工法の添加剤として機能を果たさない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子、アルカリ土類金属塩及びゼオライトとからなる土圧式シールド工法用添加剤。
【請求項2】
水溶性高分子がセルロースエーテル及びポリアクリルアミドを必須成分としたものである請求項1記載の土圧式シールド工法用添加剤。
【請求項3】
アルカリ土類金属塩がアルカリ土類金属の水酸化物である請求項1記載の土圧式シールド工法用添加剤。
【請求項4】
ゼオライトが人工ゼオライトからなり、かつ水溶性高分子がセルロースエーテルから選ばれた1種又は2種以上を組み合わせたものである請求項1記載の土圧式シールド工法用添加剤。
【請求項5】
水溶性高分子/(アルカリ土類金属塩とゼオライトとの合計)の重量比が40/60以上90/10以下である請求項1乃至4記載の土圧式シールド工法用添加剤。
【請求項6】
アルカリ土類金属塩/ゼオライトの重量比が20/80以上、80/20以下である請求項5に記載の土圧式シールド工法用添加剤。
【請求項7】
1%水溶液粘度が500〜5000mPa・sである請求項5乃至6記載の土圧式シールド工法用添加剤。

【公開番号】特開2006−182962(P2006−182962A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379925(P2004−379925)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】