説明

土壌サンプルホルダ

【課題】土壌サンプルについての計測に適した土壌サンプルホルダを提供する。土壌サンプルの比抵抗、熱伝導率、弾性波速度の測定を可能にする。
【解決手段】非導電性の容器1と、土壌サンプルに差し込まれた熱伝導率計測用プローブ3と、土壌サンプルに接触する発振側振動子6と、土壌サンプルに向けて取り付けられた受振側振動子7と、一対の電流電極8と、一対の電位電極9を備え、容器1は熱伝導率計測用プローブ3の周囲に少なくとも土壌サンプルの熱伝導率の計測に必要な厚さの土壌サンプルを存在させる内部空間19を有しており、且つ、容器1は、発振側振動子6から土壌サンプル中を伝播して受振側振動子7に到達する弾性波の方が、少なくとも経路の一部において容器1の壁板を伝播して受振側振動子7に到達する弾性波よりも先に受振側振動子7に到達する形状を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌サンプルホルダに関する。更に詳しくは、本発明は、土壌の比抵抗、熱伝導率、弾性波速度を計測可能な土壌サンプルホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
岩石試料の比抵抗を計測するために使用するサンプルホルダとして、例えば図7に示すように、岩石試料101の両端を電流電極102及び電位電極103を介してキャップ104で支持するものがある(非特許文献1)。電流電極102及び電位電極103として銅製ネットを使用すると共に、導電性確保のために電解質溶液を含ませた濾紙105を岩石試料101と電流電極102との間、電流電極102と電位電極103との間、電位電極103とキャップ104との間に挟み込んでいる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】千葉昭彦・熊田政弘,「花崗岩及び凝灰岩試料の比抵抗測定−間隙水の比抵抗が岩石比抵抗に及ぼす影響について−」,物理探査,第47巻,第3号,p.161−172
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のサンプルホルダでは、岩石試料の両端をキャップ104によって挟持して支持する構成であるため、土壌試料については使用することができない。また、物性値として比抵抗しか測定することができない。
【0005】
本発明は、土壌試料についての計測に適した土壌サンプルホルダを提供することを目的とする。また、本発明は、土壌の比抵抗の他に、熱伝導率、弾性波速度の測定も可能な土壌サンプルホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の土壌サンプルホルダは、土壌サンプルを収容する非導電性の容器と、容器の壁板に設けられた挿入口と、挿入口から土壌サンプルに差し込まれた熱伝導率計測用プローブと、容器の対向する一対の壁板に設けられた第1及び第2の振動子取付部と、第1の振動子取付部に取り付けられて土壌サンプルに接触する発振側振動子と、第2の振動子取付部に土壌サンプルに向けて取り付けられた受振側振動子と、容器の対向する一対の壁板に取り付けられ、土壌サンプルに比抵抗計測用電流を流す一対の電流電極と、比抵抗計測用電流が流れている状態の土壌サンプルの2箇所の電位差を計測する一対の電位電極を備え、容器は熱伝導率計測用プローブの周囲に少なくとも土壌サンプルの熱伝導率の計測に必要な厚さの土壌サンプルを存在させる内部空間を有しており、且つ、容器は、発振側振動子から土壌サンプル中を伝播して受振側振動子に到達する弾性波の方が、少なくとも経路の一部において容器の壁板を伝播して受振側振動子に到達する弾性波よりも先に受振側振動子に到達する形状を有するものである。
【0007】
したがって、土壌サンプルを容器内に充填して計測が行なわれる。土壌サンプルの充填によって、電流電極と電位電極は土壌サンプルに接触する。土壌の比抵抗の計測は、一対の電流電極を使用して土壌サンプルに比抵抗計測用電流を流し、一対の電位電極間の電位差を計測することで行なわれる。また、土壌の熱伝導率の計測は、挿入口から土壌サンプルに差し込まれている熱伝導率計測用プローブを使用することで行なわれる。土壌サンプルの充填によって、熱伝導率計測用プローブの周囲には熱伝導率の計測に十分な厚さの土壌サンプルが存在する。したがって、周囲の空気の影響を排除して熱伝導率を計測することができる。さらに、土壌の弾性波速度の計測は、発振側振動子から発振された弾性波が受振側振動子に最初に到達するまでの時間を計測することで行なわれる。発振側振動子から発振された弾性波は、容器形状により、土壌サンプルのみを伝播したものが最初に受振側振動子に到達するので、受振側振動子に最初に到達した弾性波の到達までの時間を計測することで、土壌の弾性波速度を計測することができる。
【0008】
また、請求項2記載の土壌サンプルホルダは、発振側振動子と受振側振動子を、超磁歪振動子としたものである。したがって、強い弾性波を発生させることができ、土壌サンプルを伝播しながら減衰される弾性波を受振側振動子に良好に到達させ易くなる。
【0009】
さらに、請求項3記載の土壌サンプルホルダは、受振側振動子の受振部を土壌サンプルに接触させている。したがって、土壌サンプル中を伝播してきた弾性波を直接受振することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の土壌サンプルホルダでは、容器内に土壌サンプルを充填して計測を行なうので、崩れやすい土壌についての計測が容易である。また、土壌が水分を含むものであっても水分を含んだ状態で計測することができると共に、水分の蒸発を防ぎながらの計測も可能である。さらに、1つの土壌サンプルホルダを使用して、土壌サンプルの比抵抗と熱伝導率と弾性波速度をそれぞれ計測することができる。そのため、計測を効率的に行うことができると共に、同一条件下における3種類の物性値を測定することができる。また、それぞれの測定の為に専用のサンプルホルダを別々に準備する必要がなく、便利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の土壌サンプルホルダの第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のII−II線の沿う土壌サンプルホルダの断面図である。
【図3】同土壌サンプルホルダの平面図である。
【図4】本発明の土壌サンプルホルダの第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図5】本発明の土壌サンプルホルダの第3の実施形態を示す縦断面図である。
【図6】条件3についての検討を行なうための土壌サンプルホルダの概念図である。
【図7】従来のサンプルホルダの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1〜図3に、本発明の土壌サンプルホルダの実施形態の一例を示す。なお、図1,図2は土壌サンプルを入れる前の状態を示している(図4,5も同様である。)。土壌サンプルホルダは、土壌サンプルを収容する非導電性の容器1と、容器1の壁板に設けられた挿入口2と、挿入口2から土壌サンプルに差し込まれた熱伝導率計測用プローブ3と、容器1の対向する一対の壁板に設けられた第1及び第2の振動子取付部4,5と、第1の振動子取付部4に取り付けられて土壌サンプルに接触する発振側振動子6と、第2の振動子取付部5に土壌サンプルに向けて取り付けられた受振側振動子7と、容器1の対向する一対の壁板に取り付けられ、土壌サンプルに比抵抗計測用電流を流す一対の電流電極8と、比抵抗計測用電流が流れている状態の土壌サンプルの2箇所の電位差を計測する一対の電位電極9を備えている。
【0014】
容器1の形状は、例えば直方体であり、底板10aと4枚の側板10b,10c,10d,10eより成る容器本体10に蓋板11を被せる構造となっている。蓋板11は例えばねじ20等の固定手段を使用して容器本体10に固定される。ただし、容器1の形状は直方体に限るものではない。本実施形態では、アクリル板によって形成することで容器1を非導電性としている。ただし、アクリル板以外の非導電性の板材、例えばポリプロピレン板、ポリエチレン板等を使用して容器1を形成しても良い。また、容器1をアクリル板によって形成することで容器1を透明にすることができ、充填した土壌サンプルを視覚によって外から確認することができる。容器本体10には例えば4本の脚12が取り付けられており、受振側振動子7を配置する空間を確保している。
【0015】
本実施形態では、側板(壁板)10bに熱伝導率計測用プローブ3を挿入する挿入口2を、蓋板(壁板)11に発振側振動子6を取り付ける第1の振動子取付部4を、底板(壁板)10aに受振側振動子7を取り付ける第2の振動子取付部5をそれぞれ設けている。また、挿入口2を設けた側板10bの両側の側板(壁板)10c,10dに電流電極8が取り付けられている。即ち、蓋板11と底板10aが第1及び第2の振動子取付部4,5が設けられる一対の対向する壁板であり、側板10cと側板10dが一対の電流電極8が取り付けられる一対の対向する壁板である。このように本実施形態では、熱伝導率計測用プローブ3、発振側振動子6及び受振側振動子7、一対の電流電極8,8を別々の壁板に取り付けるようにしている。
【0016】
挿入口2は側板10bを貫通する孔であり、側板10bの中央に設けられている。熱伝導率計測用プローブ3は挿入口2から容器1内に挿入されている。挿入口2には例えばゴム製のスリーブ13が取り付けられている。スリーブ13は熱伝導率計測用プローブ3がぐらつかないようにしっかりと保持すると共に、側板10bと熱伝導率計測用プローブ3との間の隙間を塞いでシールする。熱伝導率計測用プローブ3を有する測定器として、例えばクリマテック株式会社製の土壌熱伝導率測定器(TP08)の使用が可能である。熱伝導率計測用プローブ3は側板10bから取り外し可能となっている。
【0017】
第1の振動子取付部4は蓋板11の上面の中央に設けられている。第1の振動子取付部4には蓋板11を貫通する孔14が設けられている。孔14の内径は発振側振動子6の発振部6aの外径とほぼ同一寸法になっており、発振部6aによって孔14を塞ぐことができる。第1の振動子取付部4には発振側振動子6の軸部6bを挟持する一対の支持片15,15が取り付けられている。即ち、一対の支持片15,15で発振側振動子6の軸部6bを挟持し、発振部6aを孔14に挿入し、一対の支持片15,15を第1の振動子取付部4に取り付けることで、発振側振動子6を第1の振動子取付部4に取り付けている。発振側振動子6は第1の振動子取付部4から取り外し可能となっている。
【0018】
各支持片15,15には軸部6bの形状に対応する半円状の窪み15aが設けられており、2つの支持片15,15の窪み15a,15aによって軸部6bをしっかりと挟み込んでいる。窪み15a,15aの大きさは軸部6bを挟み込んだ状態で2つの支持片15,15の間に若干の隙間が生じる大きさとされており、2つの支持片15,15によって発振側振動子6の軸部6bをしっかりと挟み付け、保持することができる。2つの支持片15,15は軸部6bを挟持した状態で例えばボルト16によって結合されている。結合された2つの支持片15,15は、例えばねじ17によって第1の振動子取付部4に固定されている。発振側振動子6の発振部6aの先端面は、蓋板11の裏面と面一になっており、土壌サンプルと接触可能となっている。
【0019】
第2の振動子取付部5は底板10aの下面の中央に設けられている。第2の振動子取付部5には底板10aを貫通する孔18が設けられている。孔18の内径は受振側振動子7の受振部7aの外径とほぼ同一寸法になっており、受振部7aによって孔18を塞ぐことができる。第2の振動子取付部5には一対の支持片15,15を使用して受振側振動子7が取り付けられている。受振側振動子7の取付構造は上述の発振側振動子6の取付構造と同一であり、その説明を省略する。
【0020】
本実施形態では第2の振動子取付部5に貫通孔18を設けると共に、当該貫通孔18に挿入した受振側振動子7の受振部7aの先端面を底板10aの内面と面一にすることで、受振部7aを突出させることなく土壌サンプルに接触させている。受振部7aを土壌サンプルに接触させることで、土壌サンプル中を伝播してきた弾性波を直接受振することができる。
【0021】
発振側振動子6と受振側振動子7は超磁歪振動子である。超磁歪素子を使用することで、土壌サンプルのみを伝播して受振側振動子7に到達できるような強い弾性波を発生するのが容易になる。
【0022】
電流電極8は例えば板状の電極で、側板10c,10dの内側面にほぼ全面に亘って設けられている。電流電極8には図示しないリード線が接続されている。リード線は容器本体10と蓋板11との間から外に引き出されている。電流電極8は土壌サンプルに接触している。ただし、電流電極8の位置はこれに限るものではなく、土壌サンプルに比抵抗計測用の電流を流すことができる位置であれば特に制限されるものではない。
【0023】
電位電極9は例えば細長い板状の電極で、例えば側板10b,底板10a,側板10eの内面に電流電極8との間に若干の隙間をあけて設けられている。電位電極9には図示しないリード線が接続されている。リード線は容器本体10と蓋板11との間から外に引き出されている。電位電極9は土壌サンプルに接触している。ただし、電位電極9の位置はこれに限るものではなく、土壌サンプルの2箇所の電位差を計測することができる位置であれば特に制限されるものではない。
【0024】
容器1は熱伝導率計測用プローブ3の周囲(径方向外側及び前方)に少なくとも土壌サンプルの熱伝導率の計測に必要な厚さの土壌サンプルを存在させる内部空間19を有している。つまり、熱伝導率を正確に計測するためには、熱伝導率計測用プローブ3の周囲に熱が伝わる土壌サンプルが存在することが必要である。熱伝導率計測用プローブ3の周囲に厚さtの土壌サンプルが必要であるとすると、容器1は熱伝導率計測用プローブ3の周囲に少なくとも厚さtの土壌サンプルを存在させることができる広さの内部空間19を有している(条件1)。また、容器1内の内部空間19は熱伝導率計測用プローブ3を収容できる大きさであることが必要である(条件2)。
【0025】
容器1は、発振側振動子6から土壌サンプル中を伝播して受振側振動子7に到達する弾性波(P波)の方が、少なくとも経路の一部において容器1の壁板を伝播して受振側振動子7に到達する弾性波(P波)よりも先に受振側振動子7に到達する形状を有している(条件3)。つまり、土壌サンプルの弾性波速度を計測するためには、発振側振動子6から土壌サンプル中を伝播して受振側振動子7に到達した弾性波(以下、土壌サンプルのみを伝播した弾性波という)と、少なくとも経路の一部において容器1の壁板を伝播して受振側振動子7に到達する弾性波、即ち一部区間において容器1の壁板を伝播して又は容器1の壁板のみを伝播して受振側振動子7に到達した弾性波(以下、容器1の壁板を伝播した弾性波という)とを区別し、前者が受振側振動子7に到達するまでの時間を計測する必要がある。前者を後者とは区別して計測するためには、前者が受振側振動子7に先に到達するようにし、受振側振動子7の検出信号の立ち上がり時を検出すれば良い。弾性波が土壌サンプル中を伝播する速度V1は、容器1の壁板を伝播する速度V2よりも遅い(V1<V2)。したがって、単純に前者の伝播距離を後者の伝播距離よりも短くするだけでは条件3を満たすことはできない。容器1は、伝播速度と伝播距離とを考慮して、前者を後者よりも先に受振側振動子7に到達させる形状、即ち高さH、幅W、奥行きDを有している。
【0026】
容器1は上記3つの条件1〜3を満足するように形成されている。以下、蓋板11と底板10aの間隔を高さH、電流電極8が取り付けられている側板10c,10dの間隔を幅W、熱伝導率計測用プローブ3が取り付けられている側板10bと当該側板10bに対向する側板10eとの間隔を奥行きDとして、条件1〜3を満たす容器1について検討する。なお、ここでの高さH、幅W、奥行きDは、容器1の内側の寸法とする。
【0027】
先ず、条件1について検討する。熱伝導率計測用プローブ3の周囲に少なくとも厚さtの土壌サンプルが必要であるため、熱伝導率計測用プローブ3の直径を2rとすると、高さHと幅Wを〔t+2r+t〕=〔2t+2r〕よりも大きくする必要がある。若干の余裕をα1とすると、高さHと幅Wは数式1,2となる。
<数1> H≧2t+2r+α1
<数2> W≧2t+2r+α1
【0028】
次に、条件2について検討する。熱伝導率計測用プローブ3の容器1内への挿入部分の長さをL4とすると、奥行きDをL4よりも大きくする必要がある。若干の余裕をα2とすると、奥行きDは数式3となる。ただし、条件1を考慮すると、α2≧tである。
<数3> D≧L4+α2
【0029】
次に、図6に基づいて、条件3について検討する。ここで、土壌サンプルを伝播する弾性波の速度:V1、容器1の壁板を伝播する弾性波の速度:V2である。また、発振側振動子6と受振側振動子7は幅Wの中央に設けられている。
【0030】
(1) 容器1の壁板を伝播する弾性波が、スネルの法則に従って伝播する場合
いま、スネルの法則(全反射が成り立つならば):sinθ=V1/V2である。
図6の土壌サンプル中を伝播する区間aの長さL1は、cosθ=(W/2)/L1より、数式4となる。
<数4> L1=W/2cosθ
【0031】
また、土壌サンプル中を伝播する区間cの長さL3は、L3=L1より、数式5となる。
<数5> L3=W/2cosθ
【0032】
容器1の壁板を伝播する区間bの長さL2は、数式6となる。
<数6> L2=H−L1sinθ×2
=H−(W/2cosθ)×sinθ×2
=H−Wtanθ
【0033】
従って、容器1の壁板を伝播する弾性波の伝播時間T2は、数式7となる。
<数7> T2=(L1+L3)/V1+L2/V2
=W/V1cosθ+(H−Wtanθ)/V2
【0034】
一方、土壌サンプルのみを伝播する弾性波の伝播時間T1は、数式8となる。
<数8> T1=H/V1
【0035】
T1>T2であれば、容器1の壁板を伝播する弾性波が先に受振側振動子7に到達することになる。
【0036】
ここで、T1=T2の時の幅Wを求めると、H/V1=W/V1cosθ+(H−Wtanθ)/V2より、数式9となる。
<数9> W=Hcosθ(V2−V1)/(V2−V1sinθ)
【0037】
また、スネルの法則より、数式10,11を数式9に代入すると、数式12となる。
<数10> sinθ=V1/V2
【数11】

【数12】

【0038】
土壌サンプルのみを伝播する弾性波が容器1の壁板を伝播する弾性波よりも先に受振側振動子7に到達するには、幅Wが数式12のWよりも大きければ良いので、数式13となる。
【数13】

【0039】
(2) 容器1の壁板を伝播する弾性波が、壁板のみを伝播するものである場合
容器1の壁板を伝播する弾性波の伝播時間T3は、数式14となる。
<数14> T3=(W/2+H+W/2)/V2
【0040】
T1=T3のときのWは、H/V1=(W/2+H+W/2)/V2より、数式15,15となる。
<数15> W=(V2/V1−1)×H
【0041】
土壌サンプルのみを伝播する弾性波が容器1の壁板を伝播する弾性波よりも先に受振側振動子7に到達するには、幅Wが数式15のWよりも大きければ良いので、数式16となる。
<数16> W>(V2/V1−1)×H
【0042】
(3) なお、発振側振動子6と受振側振動子7を基準に考えると、幅Wと奥行きDは容器1を見る方向の違いであり、弾性波の伝播経路としては同等である。したがって、W≦Dの場合は数式13、16を採用し、条件3に関しては奥行きDを考慮しなくても良いが、W>Dの場合には、数式13,16のWをDに置き換えた数式17((1)の場合),数式18((2)の場合)を採用し、条件3に関しては幅Wを考慮しなくても良い。この関係を表1に示す。
【数17】

<数18> D>(V2/V1−1)×H
【0043】
【表1】

【0044】
条件1〜3を纏めると、高さHは、条件1の数式1を満たす必要がある。幅Wは、条件1の数式2と、条件3の該当する数式13,16を満たす必要がある。奥行きDは、条件2の数式3と、条件3の該当する数式17,18を満たす必要がある。
【0045】
なお、土壌サンプルを伝播する弾性波速度V1として考えられる値を考慮して幅Wを決定すると、幅W=奥行きD(又は幅W≒奥行きD)とすることができる。そして、高さH(条件1)に厚さtを考慮した実用的な数値(例えば厚さt=2cm)を当てはめ、奥行きD(条件2)に長さL4を考慮した実用的な数値(例えば長さL4=8cm,α2=4cm)を当てはめ、さらに幅W=奥行きD(又は幅W≒奥行きD)とすることで、条件3も満たされると考えられる。したがって、条件1,2を考慮し、幅W=奥行きD(又は幅W≒奥行きD)となるように容器1を形成するのが実用的である。
【0046】
このような観点から土壌サンプルホルダを製作すると、容器1は幅Wと奥行きDに比べて高さHが小さい扁平形状の直方体となる。例えば、高さH:5cm、幅W:12cm、奥行きD:12cmとなる。ただし、これらの値に限るものではなく、条件1,2,3を満足するものであれば変更可能である。また、土壌サンプルホルダの充填量を少なくするという観点からは容器1をできるだけ小さくすることが好ましい。
【0047】
次に、土壌サンプルホルダを使用した計測について説明する。
【0048】
容器本体10に熱伝導率計測用プローブ3と受振側振動子7を取り付けた後、容器本体10内に土壌サンプルを充填する。熱伝導率計測用プローブ3の取り付けによって側板10bの挿入口2が塞がれ、受振側振動子7の取り付けによって底板10aの孔18が塞がれるので、たとえ土壌サンプルが水分を含んでいても漏水することはない。土壌サンプルを充填すると、受振側振動子7の受振部7aが土壌サンプルに接触する。また、熱伝導率計測用プローブ3の周囲に計測に十分な厚さの土壌サンプルが充填される。そして、土壌サンプルを所定の高さまで充填した後、発振側振動子6を取り付けた蓋板11を容器本体10に被せて固定する。蓋板11を被せることで発振側振動子6の発振部6aが土壌サンプルに接触する。
【0049】
次に、土壌サンプルの比抵抗の計測について説明する。この土壌サンプルホルダは2つの電流電極8と2つの電位電極9を使用する4極法に使用される。電流電極8のリード線と電位電極9のリード線を図示しない比抵抗計測器に接続する。そして、電流電極8間に矩形波の電流を流し、その際に生じる土壌サンプルの2箇所の電位差を電位電極9を用いて計測する。容器1は非導電性であるため、電流は土壌サンプルを流れる。計測器としては、例えば応用地質株式会社製のミニオームの使用が可能である。
【0050】
次に、土壌サンプルの弾性波速度の計測について説明する。発振側振動子6を図示しない振動子発振用ドライバアンプ(例えば、日本地下探査製振動子発振用ドライバアンプ )に接続すると共に、発振側振動子6及び受振側振動子7を図示しないオシロスコープに接続する。発振側振動子6の発振部6aから、弾性波(パルス波)を発振させ、土壌サンプル中を伝播した弾性波を受振側振動子7の受振部7aで受振することで、P波の初動到達時刻を計測し、土壌サンプルのP波速度を計測する。オシロスコープによって受振波形と発振波形も読み取り、発振時刻と受振時刻との時間差を読み取ることで弾性波速度を計測する。
【0051】
次に、土壌サンプルの熱伝導率の計測について説明する。熱伝導率計測用プローブ3に一定の熱量を加えることで周囲の土壌サンプルを加熱し、その温度変化を観察することで温度の上昇の仕方(温度の傾き)から熱伝導率を求める。また、熱伝導率を求めることで、その逆数である固有熱抵抗も求めることができる。
【0052】
このように、1つの土壌サンプルホルダを使用して比抵抗、弾性波速度、熱伝導率という3つの物性値を計測することができる。土壌サンプルを詰め替えることなく3つの物性値を連続的に計測することができるので、非常に効率的である。また、それぞれの物性値を計測するために専用の土壌サンプルホルダを個別に製作する必要がない。
【0053】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0054】
例えば、上述の説明では、蓋板11と底板10aに発振側振動子6と受振側振動子7を取り付け、側板10bに熱伝導率計測用プローブ3を取り付け、側板10cと側板10dに電流電極8を取り付けていたが、必ずしもこれに限るものではなく、例えば図4に示すように、側板10dと側板10cに発振側振動子6と受振側振動子7を取り付け、側板10bに熱伝導率計測用プローブ3を取り付け、蓋板11と底板10aに電流電極8を取り付けても良く、例えば図5に示すように、側板10bと側板10eに発振側振動子6と受振側振動子7を取り付け(側板10eと発振側振動子7の図示省略)、蓋板11又は底板10a(図5では蓋板11)に熱伝導率計測用プローブ3を取り付け、側板10cと側板10dに電流電極8を取り付けても良く、その他でも良い。
【0055】
また、上述の説明では、受振側振動子7の受振部7aを土壌サンプルに接触させていたが、土壌サンプルのみを伝播した弾性波の受振が可能な場合には必ずしも受振部7aを土壌サンプルに接触させなくても良く、底板10aの外側に取り付けても良い。この場合には、容器本体10の底板10aに孔18をあける必要がなくなり、漏水を完全に防止することができる。ただし、受振側振動子7の受振部7aを取り付ける部分では底板10aの厚みを薄くし、弾性波をより受振し易くすることが好ましい。
【実施例1】
【0056】
条件1〜3を満たす容器1について設計を行なった。
【0057】
高さHについては、厚さtとして例えば2cm程度必要であり、熱伝導率計測用プローブ3の直径2rと余裕α1を合わせて例えば1cm程度とすると、条件1の数式1より高さHは5cm以上となる。土壌サンプルの充填量を少なくするという観点から高さHは小さい方が好ましいので、高さHを5cmとした。なお、条件1においては、幅Wも高さHと同じ5cmとなる(数式2)。
【0058】
奥行きDについては、熱伝導率計測用プローブ3の容器1内への挿入部分の長さL4は例えば8cmであり、条件2の数式3より、奥行きDは8cm+α2以上となる。土壌サンプルの充填量を少なくするという観点から、奥行きDは小さい方が好ましいので、奥行きDを8cm+α2とした。また、土壌サンプルを伝播する弾性波速度V1として考えられる値を考慮して幅Wを決定すると、幅W=奥行きDとすることができるので、幅Wも8cm+α2とした。
【0059】
次に、条件3について検討する。例えば、V1:1000m/s、V2:2730m/sとすると、上述のように、高さHは5cm(0.05m)、W=Dであることから、幅Wは、(1)の場合は0.034m(数式13)、(2)の場合は0.087m(数式16)となる。
【0060】
つまり、(1)のスネルの法則に従って弾性波が容器1の壁板を伝播する場合は幅W=0.034m(=3.4cm)となり、これは条件1の数式2による5cmよりも小さいので、条件1を考慮することで条件3を考慮する必要がなくなる。
【0061】
また、(2)の弾性波が容器1の壁板のみを伝播する場合は幅W=0.087m(=8.7cm)となり、これは条件1の数式2による5cmよりも大きくなるが、条件2の8cm+α2(数式3,W=Dの場合)とほぼ同じであることから、条件2を適切に設定することで、条件3を考慮する必要がなくなる。
【0062】
ここで、(1)の場合の幅W:5cmと(2)の場合の幅W:8cm+α2とを比較すると、「(1)の幅W」<「(2)の幅W」であるため、(2)の場合を考慮することで(1)の場合を考慮する必要がなくなる。したがって、(2)の場合を考慮して幅Wを決定すると、結局、幅Wについては、条件2を適切に設定することで、条件1,3を考慮する必要がなくなる。ここでは、条件2のα2を例えば4cmとし、数式3(W=Dの場合)より、W≧12cm(=8cm+4cm)となる。そして、土壌サンプルの充填量を少なくするという観点から、幅Wを12cmとした。
また、W=Dであることから、奥行きDも12cmとした。
【0063】
なお、条件3において、特に(2)の場合は、土壌サンプルを伝播する弾性波の速度V1が遅くなることで、容器1の壁板のみを伝播する弾性波の方が受振側振動子7に先に到達することも考えられる。しかしながら、本願発明のように土壌サンプルを計測対象にするのであれば、α2を4cmに設定して弾性波が容器1の壁板のみを伝播する場合の伝播経路を十分に長くすることで、土壌サンプルのみを伝播する弾性波よりも容器1の壁板のみを伝播する弾性波の方が受振側振動子7に先に到達するという事態を防止することができる。ただし、実際の計測データからは(2)の場合の弾性波は受振側振動子7に到達していないと推測される。
【0064】
以上より、容器1の形状を、高さH:5cm、幅W:12cm、奥行きD:12cmとした。
【符号の説明】
【0065】
1 容器
2 挿入口
3 熱伝導率計測用プローブ
4 第1の振動子取付部
5 第2の振動子取付部
6 発振側振動子
7 受振側振動子
7a 受振側振動子の受振部
8 電流電極
9 電位電極
10a 底板(壁板)
10b,10c,10d 側板(壁板)
11 蓋板(壁板)
19 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌サンプルを収容する非導電性の容器と、前記容器の壁板に設けられた挿入口と、前記挿入口から前記土壌サンプルに差し込まれた熱伝導率計測用プローブと、前記容器の対向する一対の壁板に設けられた第1及び第2の振動子取付部と、前記第1の振動子取付部に取り付けられて前記土壌サンプルに接触する発振側振動子と、前記第2の振動子取付部に前記土壌サンプルに向けて取り付けられた受振側振動子と、前記容器の対向する一対の壁板に取り付けられ、前記土壌サンプルに比抵抗計測用電流を流す一対の電流電極と、前記比抵抗計測用電流が流れている状態の前記土壌サンプルの2箇所の電位差を計測する一対の電位電極を備え、前記容器は前記熱伝導率計測用プローブの周囲に少なくとも前記土壌サンプルの熱伝導率の計測に必要な厚さの前記土壌サンプルを存在させる内部空間を有しており、且つ、前記容器は、前記発振側振動子から前記土壌サンプル中を伝播して前記受振側振動子に到達する弾性波の方が、少なくとも経路の一部において前記容器の壁板を伝播して前記受振側振動子に到達する弾性波よりも先に前記受振側振動子に到達する形状を有することを特徴とする土壌サンプルホルダ。
【請求項2】
前記発振側振動子と前記受振側振動子は、超磁歪振動子であることを特徴とする請求項1記載の土壌サンプルホルダ。
【請求項3】
前記受振側振動子の受振部は前記土壌サンプルに接触していることを特徴とする請求項1記載の土壌サンプルホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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