説明

土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方の浄化組成物及び浄化方法

【課題】広範囲の処理対象に対して短期間で嫌気性雰囲気を形成することができ、且つ中間生成物が残留して蓄積することなく効率的な汚染物質の分解を促進することができる土壌・地下水浄化組成物及び土壌・地下水の浄化方法を提供する。
【解決手段】汚染土壌・地下水中に含有される有機ハロゲン化合物の微生物分解を促進する組成物において、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、好適には脂肪族カルボン酸(塩を含む)とを含み、好適には前記三糖以上の糖類の含量が、全糖類の固体重量に対して固体重量にして60%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物により汚染された土壌・地下水(汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方)を浄化する際に使用する土壌・地下水浄化組成物、及びこの組成物を用いた土壌・地下水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境破壊の要因又は生物体に対して悪影響を及ぼす要因となる汚染物質が土壌や地下水において検出されており、これらの物質による環境汚染が問題とされている。汚染土壌・地下水の浄化には様々な方法が用いられており、従来は汚染土壌・地下水を掘削、吸引、或いは揚水して外部で水や溶媒により洗浄又は熱処理して無害化する方法等の物理化学的方法が多く用いられていた。しかし、このような物理化学的方法ではコストが高く、操作性が低いため、高濃度でかつ狭域の汚染帯の浄化に限られていた。また、汚染土壌・地下水の上に操業中の施設がある場合は、土壌を掘削するなどの方法が不可能な場合も多々ある。
汚染地域が広範囲に亘る場合にはオンサイトでの処理が望まれており、近年は汚染物質で汚染された土壌の浄化方法として、安価でかつ簡単に浄化処理が可能である生物処理が提案、実用化されている。
【0003】
生物学的な浄化方法は、微生物の化学物質分解能力を利用して汚染土壌を修復する浄化技術である。これは、汚染土壌、地下水中に元々存在する微生物を利用して汚染物質を減衰させる方法であり、汚染土壌の掘削や汚染物質の抽出の必要がなく、原位置において土壌を浄化できることから低コストで広範囲に利用できるため汚染土壌の浄化に有効な技術として近年注目されている。このとき、土壌・地下水中に栄養剤を供給して元々土壌中に存在していた微生物を活性化し、汚染物質の減衰を促進させる技術が知られている。微生物の増殖及び生存に必要な栄養剤などを土壌・地下水中に注入することにより、汚染土壌・地下水に土着している微生物の分解活性を高め汚染土壌・地下水を浄化し、効率良く汚染物質の分解除去を行なえることが判っている。特に、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素による土壌・地下水汚染に対しては、栄養剤を与えて嫌気性微生物の自然浄化機能を高めることが有効である。
【0004】
土壌・地下水の浄化に有効な栄養剤として、特許文献1(特許第3538643号公報)には、微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質として酵母と、嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質としてプロピオン酸と、嫌気状態を造成する物質として乳糖とからなる添加剤が開示されている。この添加剤は、まず修復対象を嫌気状態となるように土着の微生物を活性化させた後、有機ハロゲン化合物の分解を促進させる作用を有する。
【0005】
また、特許文献2(特開平2005−81158号公報)には、炭素源をゲル状で止めた土壌、地下水浄化組成物について開示されており、これによれば炭素源を長期間にわたって土壌、地下水に供給することを可能としている。
さらに、特許文献3(特開平2005−66425号公報)には、炭素源と陰イオン性界面活性剤および/または非イオン性海面活性剤とを有し、前記炭素源は、炭素数が14以上の脂肪酸、炭素数が14以上のアルコール、炭素数が12以上の脂肪族アミン、または炭素数が12以上の脂肪酸アマイドのうち少なくとも1種類から選択される土壌と地下水の浄化組成物について開示されている。このような炭素数の炭素源を用いることにより長期間炭素を供給でき、さらには炭素源の溶解度を向上させ、少ない添加ポイントで広範囲の浄化ができる。また界面活性剤により炭素源を効果的に乳化することができる。
【0006】
【特許文献1】特許第3538643号公報
【特許文献2】特開平2005−81158号公報
【特許文献3】特開平2005−66425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来より微生物の分解作用を利用して汚染土壌の浄化を行なう方法において、栄養剤を土壌中に供給することにより分解反応を促進することが提案されているが、これを実現化するためには以下の問題点がある。
栄養剤の注入による土壌、地下水の汚染物質の分解工程は、汚染物質が有機塩素化合物である場合を例に採ると、(1)栄養剤の供給により通性嫌気性微生物又は好気性微生物が活性化し、土壌、地下水中の酸素が消費され、対象土壌・地下水が嫌気状態になる、(2)嫌気状態によって嫌気性微生物が活性化する、(3)嫌気性微生物である脱塩素化細菌等有機ハロゲン化合物の分解に関わる細菌が栄養剤により活性化して還元脱塩素化反応が促進される、という3つのステップが達成される必要がある。還元脱塩素化反応における汚染物質の分解は、例えばテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素(CAHs)の場合、テトラクロロエチレン(PCE)→トリクロロエチレン(TCE)→ジクロロエチレン(cis−DCE)→塩化ビニル(VC)→エチレンの順に分解されていく。
【0008】
高効率で以って汚染物質を分解するためには、上記した各工程が短時間で且つ円滑に行なわれる必要がある。
しかしながら、従来の栄養剤ではPCE、TCEの分解速度が速く、cis−DCEのような中間生成物が蓄積されてしまい、環境基準を超過してしまうという問題があった。またこの中間生成物が蓄積すると微生物環境に悪影響を及ぼし、微生物の活性に阻害を与える恐れもある。
【0009】
また、特許文献1では栄養剤の成分として酵母を用いているが、酵母は高価であり浄化対象が広範囲である場合には酵母を大量に必要とし、コストが嵩んでしまう。特許文献2ではゲル状に形成した炭素源を用いており、ゲル状とすることにより供給速度は調整できるが、ゲル状であるため土壌中局部的に偏在してしまう可能性が高く、広範囲にわたって均等に炭素源を行き渡らせることは困難である。さらに、特許文献3では界面活性剤を用いているが、この界面活性剤は微生物の活性を阻害する惧れがあり好ましくない。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、広範囲の処理対象に対して短期間で嫌気性雰囲気を形成することができ、且つ中間生成物が残留して蓄積することなく効率的な汚染物質の分解を促進することができる土壌・地下水浄化組成物及び土壌・地下水の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
第1の発明として、汚染土壌・地下水中に含有される有機ハロゲン化合物の微生物分解を促進する組成物において、
澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質とを含むことを特徴とする。
また、第2の発明として、汚染土壌・地下水中に含有される有機ハロゲン化合物の微生物分解を促進する組成物において、
澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、脂肪族カルボン酸またはその塩とを含むことを特徴とする。
【0011】
これらの発明によれば、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質は好気性で分解が速いため該物質の作用により通性嫌気性微生物や好気性微生物を活性、増殖させて、土壌・地下水を速やかに嫌気性雰囲気にすることができる。また糖類は好気性で分解が遅く、嫌気性雰囲気になるまで土壌、地下水中に残存する。残存した栄養が嫌気性雰囲気で長期間持続するため、嫌気性微生物が長期間にわたって活性化され、有機ハロゲン化合物の分解が安定的に促進される。
また、本発明の組成物では三糖以上の糖類を用いることにより、少なくとも3ヶ月以上の長期間に渡る持続性を持たせることが可能となる。これにより、地下の汚染域を長期間安定して嫌気的雰囲気にすることが可能になったため、従来の栄養剤では蓄積しやすかった中間生成物を確実に分解できる。
【0012】
また、第2の発明に示される脂肪族カルボン酸も蛋白分解物と同様に、好気性で分解が速いため通性嫌気性微生物や好気性微生物を活性、増殖させて、土壌・地下水を速やかに嫌気性雰囲気にする作用を有する。脂肪族カルボン酸を共存させる場合には、PCE、TCEの分解が始まる時期が早くなる。cis−DCE等の中間生成物の分解については、脂肪族カルボン酸を含まない第1の発明の方がその初期の分解速度が速くなるが、第2の発明ではPCE、TCEの分解が始まる時期が早いため、全処理速度において、第1の発明と第2の発明とで同程度の処理速度の短縮化が達成できるものである。
さらに、本発明では糖類や水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質、脂肪族カルボン酸のような安価で安全な物質を原料としているため、低コストで安全な組成物を製造することができる。
【0013】
また、汚染土壌・地下水中に含有される有機ハロゲン化合物の微生物分解を促進する組成物において、
澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、脂肪族カルボン酸またはその塩とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の組成物を、元々嫌気性雰囲気である土壌・地下水や、予め水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質や、アミノ酸、ペプチドのうち少なくとも何れか一方からなる蛋白分解物などを含む水溶液を注入して嫌気性雰囲気とした土壌・地下水中に注入すると、土壌・地下水中に糖類が残存し、栄養が嫌気性雰囲気で長期間持続するため、嫌気性微生物が長期間にわたって活性化され、有機ハロゲン化合物の分解が安定的に促進される。
また、脂肪族カルボン酸を共存させることで、PCE、TCEの分解が始まる時期が早くなり、処理速度の短縮化が達成できるものである。
【0015】
また、前記三糖以上の糖類の含量が、糖類の重量に対して固体重量にして60%以上であることを特徴とする。
本発明のごとく、三糖以上の糖類を60%以上含有する糖類を含む組成物とすることにより、浄化対象の嫌気化後、有機ハロゲン化合物の分解促進に十分な栄養剤を長期にわたって浄化対象に供給することができる。
【0016】
さらに、前記三糖以上の糖類のうち四糖以上の糖類の含量が、糖類の重量に対して固体重量にして50%以上であることを特徴とする。
このとき、好ましくは四糖から二十糖の糖類の含量が、糖類の重量に対して固体重量にして50%以上とする。
このように、分子量の大きい糖類を多く含有させることにより、組成物の分解が緩慢となり、土壌・地下水中に長期間残存するため嫌気性雰囲気を長期間持続することが可能となる。
【0017】
また、汚染土壌・地下水中に含有される有機ハロゲン化合物を微生物により分解して浄化する土壌・地下水の浄化方法において、
水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類とを含む水溶液を前記土壌・地下水に注入することを特徴とする。
また、汚染土壌・地下水中に含有される有機ハロゲン化合物を微生物により分解して浄化する土壌・地下水の浄化方法において、
水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、脂肪族カルボン酸またはその塩とを含む水溶液を前記土壌・地下水に注入することを特徴とする。
これにより、土壌・地下水を嫌気性雰囲気に維持しつつ有機ハロゲン化合物の分解を促進することができ、処理時間を効率的に短縮化することが可能となる。また、栄養剤の注入が一度で行えるため手間が省けて作業が簡易化する。
【0018】
さらに、汚染土壌・地下水中に含有される有機ハロゲン化合物を微生物により分解して浄化する土壌・地下水の浄化方法において、
水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質を含む水溶液を前記汚染土壌・地下水中に注入して該土壌・地下水を嫌気性雰囲気にした後、時間差を有して、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類を含む水溶液を前記土壌・地下水に注入して有機ハロゲン化合物の分解を促進することを特徴とする。
さらにまた、汚染土壌・地下水中に含有される有機ハロゲン化合物を微生物により分解して浄化する土壌・地下水の浄化方法において、
水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質を含む水溶液、を前記汚染土壌・地下水中に注入して該土壌・地下水を嫌気性雰囲気にした後、時間差を有して、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類および脂肪族カルボン酸またはその塩を含む水溶液を前記土壌・地下水に注入して有機ハロゲン化合物の分解を促進することを特徴とする。
このように、時間差を有して栄養剤を注入することにより、嫌気性雰囲気にする工程と、汚染物質を分解する工程とを確実に行うことができる。さらに、必要なタイミングで必要な物質を注入することができるため、土壌・地下水中に注入する量を必要最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
上記記載のごとく本発明によれば、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質および脂肪族カルボン酸は好気性で分解が速いため、該物質および/または脂肪族カルボン酸の作用により好気性微生物を活性、増殖させて速やかに嫌気性雰囲気にすることができ、また糖類は好気性で分解が遅く、嫌気性雰囲気になるまで土壌、地下水中に残存するため、糖類により嫌気性微生物が長期間にわたって活性化され、有機ハロゲン化合物の分解が安定的に促進される。
また、本発明の組成物では三糖以上の糖類を用いることにより、長期間に渡る持続性を持たせることが可能となる。これにより、地下の汚染域を長期間安定して嫌気的雰囲気にすることが可能になったため、従来の栄養剤では蓄積しやすかった中間生成物を確実に分解できる。
本発明の組成物の注入方法として、上記した成分を含有する水溶液を一度に土壌・地下水に注入することにより、土壌・地下水を嫌気性雰囲気に維持しつつ有機ハロゲン化合物の分解を促進することができ、処理時間を効率的に短縮化することが可能となるとともに、栄養剤の注入が一度で行えるため手間が省けて作業が簡易化する。
また、別の注入方法として、時間差を有して栄養剤を注入することにより、嫌気性雰囲気にする工程と、汚染物質を分解する工程とを確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本発明の土壌・地下水浄化組成物は、
・三糖以上の糖類と、アミノ酸、ペプチドのうち少なくとも何れか一からなる蛋白分解物と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質からなる組成物
・三糖以上の糖類と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質とからなる組成物
・三糖以上の糖類と、アミノ酸、ペプチドのうち少なくとも何れか一からなる蛋白分解物と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、脂肪族カルボン酸若しくはその塩とからなる組成物
・三糖以上の糖類と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、脂肪族カルボン酸又はその塩とからなる組成物
の何れかである。
前記土壌・地下水浄化組成物は、浄化対象である土壌若しくは地下水に注入される。この栄養剤のうち主として蛋白分解物、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質、脂肪族カルボン酸又はその塩の何れか1以上により通性嫌気性微生物又は好気性微生物が活性化し、土壌、地下水中の酸素が消費され、浄化対象を嫌気性雰囲気とする。そして、嫌気性雰囲気により活性化した嫌気性微生物は、栄養剤のうち主として糖類を用いて増殖し、有機ハロゲン化合物を分解する。
【0021】
前記三糖以上の糖類としては、次の(1)〜(3)で分類される糖類が挙げられる。
(1)澱粉分解物
(2)三糖以上のオリゴ糖
(3)三糖以上の糖アルコール
本発明の栄養剤は、上記した(1)〜(3)から選択される少なくとも一種類を含む。また、(1)の澱粉分解物としては、澱粉酵素分解物、澱粉酸分解物があり、例えば、デキストリン、水飴等が挙げられる。(2)の三糖以上のオリゴ糖としては、例えばオリゴ糖シラップ、シクロデキストリン、糖蜜(廃糖蜜)等が挙げられる。(3)の三糖以上の糖アルコールとしては、例えば還元糖等が挙げられる。
【0022】
尚、本発明の組成物に使われる糖類材料は、通常食品または食品添加物として使われるものが好ましく、糖類材料には、通常一糖、二糖が含まれることが多いため本発明の組成物中には、使用材料由来の一糖、二糖が含まれることがある。
本発明の組成物に含まれる糖類中、三糖以上の含量が60%以上が好ましい。さらに、四糖以上、好ましくは四糖から二十糖の糖類の含量が50%以上であることが好ましい。
【0023】
前記蛋白分解物は、蛋白質を酸および/または酵素を用いて分解したものである。蛋白質としては、動物性でも良いし、植物性でも良い。動物性蛋白質の例としては、牛、豚、鶏等を原料としたもの、魚を原料としたもの、蚕等の昆虫を原料にしたもの等が挙げられる。植物性蛋白質の例としては、大豆、トウモロコシ、小麦、落花生等が挙げられる。
蛋白分解物中の有効成分は、アミノ酸、ペプチドである。本発明の組成物に含まれる蛋白分解物含有量は、10〜80%が好ましい。
前記脂肪族カルボン酸(塩を含む)としては、酢酸、酪酸のような飽和脂肪族カルボン酸またはその塩、マレイン酸、フマル酸のような不飽和脂肪族カルボン酸またはその塩、乳酸、リンゴ酸、クエン酸のようなヒドロキシカルボン酸またはその塩等が挙げられる。
【0024】
前記水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質の例としては、乳清(ホエイ)、コーンスティープリカー、肉エキス、魚エキス等が挙げられる。
【0025】
蛋白分解物および水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質は好気性で分解が早いため、該蛋白分解物および/または水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質の作用により好気性微生物を活性、増殖させて速やかに嫌気性雰囲気にすることができる。糖類は好気性で分解が遅く、嫌気性雰囲気になるまで土壌、地下水中に残存する。残存した栄養が嫌気性雰囲気で長期間持続するため、嫌気性微生物が長期間にわたって活性化され、有機ハロゲン化合物の分解が安定的に促進される。
例えば、有機塩素化合物を含有する土壌の場合、本発明の組成物を土壌中に注入することで、PCE、TCEの分解が2〜3週間で殆ど時間差なく進行する。そして、従来の栄養剤で分解しにくいcis−DCEが1〜3ヶ月で分解できる。
【0026】
従来、乳糖やブドウ糖などの一糖、二糖は地下水浄化用の栄養剤として使われた例があるが、これらは微生物に資化されやすいので、微生物増殖に対して速効性があるが、持続性のある栄養としては適していない
本発明の組成物では、三糖以上の糖類を用いることにより、少なくとも3ヶ月以上の長期間に渡る持続性を持たせることに成功した。
これにより、地下の汚染域を長期間(2〜3ヶ月以上)、安定して嫌気的雰囲気にすることが可能になったため、従来の栄養剤では分解中間体として蓄積しやすかったcis−DCEを、確実に分解できるようになった。
【0027】
前記組成物の注入方法としては、以下の方法が挙げられる。
三糖以上の糖類と水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質を含む混合水溶液、若しくは三糖以上の糖類と蛋白分解物と水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質を含む混合水溶液を生成し、この混合水溶液を地下の汚染箇所に注入する。このとき、汚染土壌に注入井を複数掘削し、この注入井に混合水溶液を注入するとよい。このように、これらの成分を含む混合物を生成し同時に土壌中に注入することにより手間が省けて作業が簡易化する。
また、別の注入方法として、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質を含む水溶液または蛋白分解物と水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質を生成し、この水溶液を汚染土壌中に注入するようにしてもよい。この方法では、地下水の電位が下がって嫌気性雰囲気になった後に、三糖以上の糖類を含む水溶液を注入する。このように、時間差を有して栄養剤を注入することにより、嫌気性雰囲気にする工程と、汚染物質を分解する工程とを確実に行うことができる。
【実施例1】
【0028】
本発明の一実施例につき説明する。尚、本実施例はこれらに限定されるものではない。
有機塩素化合物により汚染された地下水を用い、本実施例及び従来の栄養剤を注入した場合、注入しない場合において以下の実験を行った。浄化対象としては、有機塩素化合物により汚染された地域から採取された地下水を使用した。
実施例1−1の栄養剤の組成は、三糖以上の糖類を60%以上含み四糖以上の糖類を50%以上含むように調製した糖類を25gと、蛋白分解物と水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質である乳清との混合物を25g用い、これを水に溶解して100mLとした。実施例1−1の糖類原料として、澱粉分解物、オリゴ糖シロップ、還元糖を用いた。また蛋白分解物と乳清の混合物として、蛋白分解物と乳清とを重量比で60:40で混合したものを用いた。
【0029】
実施例1−1は、0.2Lの地下水に、本実施例の組成物を0.5g/Lの濃度になるように添加した。
従来例1−1は、同様の地下水に、酵母を含む従来の栄養剤(A社栄養剤)を0.5g/Lの濃度になるように添加した。
従来例1−2は、同様の地下水に、何れの栄養剤も添加しない場合である。
20℃遮光下に静置した後、PCE、TCE、cis−DCEの推移をガスクロマトグラフィーを用いて調べた。尚、現在の地下水環境基準では、PCE 0.01mg/L、TCE0.03mg/L、cis−DCE 0.04mg/Lである。
【0030】
図1に実施例1−1、従来例1−1、従来例1−2の実験結果の表を示す。
実施例1−1では、従来の土壌浄化用栄養剤に比べて早くも14日目でPCE、TCEの大きな減少が見られ、環境基準濃度よりも低い値を示した。さらに、従来例1−1では、cis−DCEが7日目、14日目でほとんど減少せずに、28日目で減少しはじめ70日目でも地下水環境基準以下まで到達しなかったのに対して、本実施例では、14日目からcis−DCEが減少し続けて、cis−DCEは70日目で地下水環境基準より低い値を示した。また、従来例1−2においてはcis−DCEがほとんど減少せず、70日目においても地下水環境基準以下まで到達しなかった。
【0031】
次に、実施例1−2、比較例1−1、1−2において、後述する組成物を調整し、実施例1−1と同様の実験を行なった結果を前記実施例1−1の結果とともに図2に示す。
【0032】
実施例1−2の栄養剤の組成は、実施例1−1と同様の糖類を25g、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質である乳清及びコーンスティープリカーの当重量混合物を25g用い、これを水に溶解して100mLとした。
【0033】
比較例1−1の栄養剤の組成は、組成物中、実施例1−1と同様の糖類を25g、蛋白分解物を25g用い、これを水に溶解して100mLとした。
比較例1−2の栄養剤の組成は、組成物中、蛋白分解物と乳清との混合物を100%とし、糖類は含有しないものとした。蛋白分解物と乳清の混合物を50g用い、これを水に溶解して100mLとした。蛋白分解物と乳清の混合物として、蛋白分解物と乳清とを重量比で60:40で混合したものを用いた。
【0034】
実施例1−2は、0.2Lの実施例1−1と同様の地下水に、本実施例の組成物を0.5g/Lの濃度になるように添加した。
比較例1−1は、同様の地下水に、本比較例の組成物を0.5g/Lの濃度になるように添加した。
比較例1−2は、同様の地下水に、本比較例の組成物を0.5g/Lの濃度になるように添加した。
20℃遮光下に静置した後、PCE、TCE、cis−DCEの推移をガスクロマトグラフィーを用いて調べた。
【0035】
図2の表を参照して、比較例1−2から分かるように、蛋白分解物と乳清との混合物のみの組成では、cis−DCEの分解が遅く、70日目でも地下水環境基準以下まで到達しなかった。
本実験において、蛋白分解物と乳清(又は蛋白分解物と、乳清及びコーンスティープリカーの混合物)との重量比は、実施例1−1は40:60、実施例1−2は0:100、比較例1−1は100:0であり、蛋白分解物、乳清及びコーンスティープリカーの混合物、又は蛋白分解物と乳清との混合物と、糖類との重量比は50:50である。
実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1では、何れも70日目にはPCE、TCE、cis−DCEともに地下水環境基準以下の濃度まで分解が進んでいることがわかる。
これより、蛋白分解物、乳清及びコーンスティープリカーの混合物、又は蛋白分解物と乳清との混合物の何れを使用しても栄養剤としての作用効果を十分有している結果となった。
しかし、蛋白分解物は乳清やコーンスティープリカーなどの水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも一を含む物質と比較すると入手が困難であるとともに価格も高い。そのため、実施例1−1、1−2で用いた、蛋白分解物と同等の栄養剤としての作用効果を有する乳清、コーンスティープリカーなどの水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも一を含む物質を使用する栄養剤は、栄養剤としての作用効果を十分に有し、しかも経済的にも優れているといえる。
【実施例2】
【0036】
次に、実施例2−1において、後述する組成物を調整し、実施例1−1、1−2と同様の実験を行なった結果を前記実施例1−1、実施例1−2の結果とともに図3に示す。
【0037】
実施例2−1の栄養剤の組成は、実施例1−1と同様の糖類を20g、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質である乳清及びコーンスティープリカーの当重量混合物を20g、脂肪族カルボン酸の塩である酢酸ナトリウムを10g用い、これを水に溶解して100mLとした。
【0038】
実施例2−1は、0.2Lの実施例1−1と同様の地下水に、本実施例の組成物を0.5g/Lの濃度になるように添加した。
20℃遮光下に静置した後、PCE、TCE、cis−DCEの推移をガスクロマトグラフィーを用いて調べた。
【0039】
図3の表を参照して、実施例2−1でも、28日目でPCE、TCEの大きな減少が見られ、更に70日目で検出限界以下になった。cis−DCEについては徐々に減少し、70日目で環境基準濃度まで減少した。
従って、酢酸ナトリウムを含む本実施例2−1の組成物についても、PCE、TCEだけではなく、従来分解が遅いとされていたcis−DCEの早期分解にも優れた効果があることが分かる
【0040】
なお、本発明の組成物の1mの土壌に対する好ましい添加量は、0.2〜1.0kg/mである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1−1、従来例1−1、従来例1−2の実験結果の表を示す。
【図2】実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1、1−2の実験結果の表を示す。
【図3】実施例1−1、実施例1−2、実施例2−1の実験結果の表を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される有機ハロゲン化合物の微生物分解を促進する浄化組成物において、
澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質とを含むことを特徴とする浄化組成物。
【請求項2】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される有機ハロゲン化合物の微生物分解を促進する組成物において、
澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、脂肪族カルボン酸またはその塩とを含むことを特徴とする浄化組成物。
【請求項3】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される有機ハロゲン化合物の微生物分解を促進する組成物において、
澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、脂肪族カルボン酸またはその塩とを含むことを特徴とする浄化組成物。
【請求項4】
前記三糖以上の糖類の含量が、糖類の重量に対して固体重量にして60%以上であることを特徴とする請求項1若しくは2記載の浄化組成物。
【請求項5】
前記三糖以上の糖類のうち四糖以上の糖類の含量が、糖類の重量に対して固体重量にして50%以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の浄化組成物。
【請求項6】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される有機ハロゲン化合物を微生物により分解して浄化する浄化方法において、
水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類とを含む水溶液を前記土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方に注入することを特徴とする浄化方法。
【請求項7】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される有機ハロゲン化合物を微生物により分解して浄化する浄化方法において、
水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質と、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類と、脂肪族カルボン酸またはその塩とを含む水溶液を前記土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方に注入することを特徴とする浄化方法。
【請求項8】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される有機ハロゲン化合物を微生物により分解して浄化する浄化方法において、
水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質を含む水溶液を前記土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方に注入して該土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方を嫌気性雰囲気にした後、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類を含む水溶液を前記土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方に注入して有機ハロゲン化合物の分解を促進することを特徴とする浄化方法。
【請求項9】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される有機ハロゲン化合物を微生物により分解して浄化する浄化方法において、
水溶性蛋白質、ペプチド、アミノ酸のうち少なくとも何れか一を含む物質を含む水溶液、を前記土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方に注入して該土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方を嫌気性雰囲気にした後、澱粉分解物、オリゴ糖、糖アルコールのうち少なくとも何れか一からなる三糖以上の糖類および脂肪族カルボン酸またはその塩を含む水溶液を前記土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方に注入して有機ハロゲン化合物の分解を促進することを特徴とする浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−5570(P2010−5570A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169487(P2008−169487)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(508029343)国際環境ソリューションズ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】