説明

土壌改良性肥料

【課題】安いコストで、煩雑な土壌管理や湛水管理を要せず、環境に対して大きな負荷をかけることなく、農作物へのカドミウムの吸収を抑制することができ、かつ土壌改良性と肥効性とを併せ持つ土壌改良性肥料を提供する。
【解決手段】リン酸塩鉱物とハロイサイトを含有するカオリン系粘土とを混練して固形化することによって土壌改良性肥料を得た。リン酸塩鉱物とハロイサイトを含有するカオリン系粘土との混合比は、リン酸塩鉱物100重量部に対してハロイサイトを含有するカオリン系粘土を30〜300重量部とする。土壌改良性肥料には、さらに、アロフェンや、消石灰や、苦土石灰や、珪酸カルシウムや、木炭を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウムが農作物へ吸収されるのを抑制することのできる土壌改良性肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウムを多量に摂取すると、腎機能が低下して骨軟化症などの疾患を発症しやすくなることが知られており、カドミウムを含有する農作物の流通は、世界各国で制限されている。例えば、わが国日本では、カドミウム濃度が1.0ppm以上の玄米は、汚染米として焼却処分されることになっている。また、カドミウム濃度が1.0ppm未満の玄米であっても0.4ppm以上のものは、準汚染米として食用に供することができなくなっている。
【0003】
農作物のカドミウム汚染は、植物に吸収されやすい状態のカドミウムが田畑の土壌に多く含まれていることが原因で引き起こされることが分かっている。土壌中に含まれるカドミウムは、鉱山や工場からの廃水が流入したものと考えられている。このような環境において農作物のカドミウム汚染を防ぐためには、表層の汚染土壌を取り除いて非汚染土壌を新たに入れる客土が最も有効であると云われている。
【0004】
しかし、客土は、膨大な費用(水稲栽培の場合で水田1ha当たり約5千万円)を要する、土壌管理に要する労力が増大する、汚染土壌を取り除いた部分よりも下層が汚染されていた場合には一時的な効果しか得ることができない、除去した汚染土壌の処分が困難である、非汚染土壌を採取した地域の自然環境を悪化させるおそれがある、などの欠点を有しており、必ずしも容易に普及させることのできる技術とはなっていなかった。
【0005】
このような実状に鑑みてか、熔成リン肥や珪酸質肥料や石灰質肥料など、カドミウムの植物への吸収を抑制する作用のある肥料を施肥したり、出穂期前後における湛水管理を徹底したりすることなどによって、農作物のカドミウム汚染を抑制することが行われている。
【0006】
このうち、熔成リン肥や珪酸質肥料や石灰質肥料などを施肥する方法は、pHを上昇させて酸化還元電位を低下させ、土壌中のカドミウムを不活性化することにより、カドミウムの植物への吸収を抑制するものとなっている。
【0007】
しかし、田畑、とくに水田の土壌は、それに含まれる腐植や粘土鉱物によって緩衝能が大きく、施肥のみでは、カドミウムの農作物(水稲)への吸収を十分に抑制することができる程度までpHを上昇させることは困難であった。また、pHを上昇させるために多量の肥料を投入すると、鉄やマンガンや亜鉛などの必須微量要素が欠乏していわゆるアルカリ障害が発生するおそれもあった。
【0008】
一方、田畑を湛水状態に保ち、空気中の酸素を遮断し、土壌を還元状態にしてカドミウムを不溶化する湛水管理による方法は、微妙な調節を行わなければ、十分なカドミウム吸収効果が得られなくなるだけでなく、根腐れを起こすおそれもあった。また、中干し(出穂前に3〜7日間落水して土壌を乾かす作業)など、従来の水稲栽培と異なる手法を採用しなければならず、農家に多大な労力を強いるものであった。
【0009】
ところで、特許文献1には、粉体状カドミウム吸収抑制資材としてALC粉末(軽量気泡コンクリート粉末)と炭酸カルシウムを1:2〜2:1の割合で混合して、水稲の土壌に、2000kg/10a〜5000kg/10aの量で施用することを特徴とする、水稲のカドウミウム吸収抑制方法が記載されている。しかし、この種の手法は、作業性に難があり、必ずしも低コストで容易に行うことがものとはなっていなかった。
【0010】
【特許文献1】特開平10−98955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、安いコストで、煩雑な土壌管理や湛水管理を要せず、環境に対して大きな負荷をかけることなく、農作物へのカドミウムの吸収を抑制することができ、かつ土壌改良性と肥効性とを併せ持つ土壌改良性肥料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、リン酸塩鉱物とハロイサイトを含有するカオリン系粘土との混合物を固形化したことを特徴とする土壌改良性肥料を提供することによって解決される。これにより、土壌中のカドミウムをリン酸塩鉱物の中に固溶体として取り込むことができるので、農作物へのカドミウムの吸収を抑制することが可能になる。また、この土壌改良性肥料は、田畑に直接散布するだけで使用することができるばかりか、散布後に特別な管理を行う必要もないなど、農家に煩雑な作業を強いることもない。また、汚染土の処分や非汚染土の採取といった問題も生じないので、環境に対する負荷も非常に少ないものとなっている。
【0013】
リン酸塩鉱物とハロイサイト含有カオリン系粘土との混合比は、リン酸塩鉱物やハロイサイト含有カオリン系粘土の種類などによっても異なり、特に限定されない。しかし、リン酸塩鉱物が多すぎたり、ハロイサイトを含有するカオリン系粘土が少なすぎると、pHが高くなりすぎてアルカリ障害が生じるおそれがあるばかりか、可塑性が低くなって土壌改良性肥料を成形しにくくなるおそれがある。このため、ハロイサイトを含有するカオリン系粘土は、通常、リン酸塩鉱物100重量部に対して30重量部以上となるように混合される。ハロイサイト含有カオリン系粘土は、リン酸塩鉱物100重量部に対して40重量部以上であると好ましく、50重量部以上であるとより好ましい。
【0014】
一方、リン酸塩鉱物が少なすぎたり、ハロイサイトを含有するカオリン系粘土が多すぎると、土壌改良性肥料がカドミウムを効率的に不溶化できなくなるおそれがある。このため、ハロイサイト含有カオリン系粘土は、通常、リン酸塩鉱物100重量部に対して300重量部以下となるように混合される。ハロイサイト含有カオリン系粘土は、リン酸塩鉱物100重量部に対して200重量部以下であると好ましく、150重量部以下であるとより好ましい。
【0015】
上記の土壌改良性肥料において、リン酸塩鉱物とハロイサイトを含有するカオリン系粘土との混合物に対し、苦土石灰、珪酸カルシウム、消石灰、アロフェン、木炭の中から選ばれた1種又は2種以上の添加物を混合することも好ましい。これにより、土壌改良性肥料を、以下のように、より好適なものとすることができる。
【0016】
例えば、苦土石灰を添加した場合には、土壌改良性肥料にカドミウムが固溶体としてより取り込まれやすくすることが可能になる。また、苦土石灰は、肥料性に優れているために、水稲などの農作物の旨味を増大させる作用をも有する。このため、消費者受けのよい農作物を生産することも可能になる。さらに、苦土石灰は、資材そのもののpHが9.6前後と比較的高いために、土壌改良性肥料のpHを高くする作用をも有している。
【0017】
苦土石灰の添加量は、特に限定されないが、少なすぎると、カドミウムが土壌改良性肥料に固溶体として取り込まれにくくなり、土壌改良性肥料のカドミウム吸着能が低下するおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対する苦土石灰の重量比は、通常、1%以上とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対する苦土石灰の重量比は、5%以上であると好ましく、7%以上であるとより好ましい。
【0018】
一方、苦土石灰が多すぎると、pHが過度に上昇して土壌が農作物の生育に適さなくなるおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対する苦土石灰の重量比は、通常、30%以下とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対する苦土石灰の重量比は、土壌20%以下であると好ましく、15%以下であるとより好ましい。
【0019】
珪酸カルシウムを添加した場合には、土壌改良性肥料にカドミウムが固溶体としてより取り込まれやすくすることが可能になる。また、珪酸カルシウムは、その主成分である珪酸がイネ科植物にとって必須の栄養素であるために、特に水稲においては、その正常な生育に大いに寄与する。さらに、珪酸カルシウムは、資材そのもののpHが9.9前後と比較的高いために、土壌改良性肥料のpHを高くする作用をも有している。
【0020】
珪酸カルシウムの添加量は、特に限定されないが、少なすぎると、カドミウムが土壌改良性肥料に固溶体として取り込まれにくくなり、土壌改良性肥料のカドミウム吸着能が低下するおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対する珪酸カルシウムの重量比は、通常、5%以上とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対する珪酸カルシウムの重量比は、10%以上であると好ましく、15%以上であるとより好ましい。
【0021】
一方、珪酸カルシウムが多すぎると、pHが過度に上昇して土壌が農作物の生育に適さなくなるおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対する珪酸カルシウムの重量比は、通常、50%以下とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対する珪酸カルシウムの重量比は、40%以下であると好ましく、30%以下であるとより好ましい。
【0022】
消石灰を添加した場合には、土壌改良性肥料のpHを容易に調整することが可能になる。消石灰は、資材そのもののpHが13.0前後と非常に高く、土壌改良性肥料に少量添加しただけでもpHを大きく上昇させるために、土壌改良性肥料のpHを調整するのに好適に使用することができるからである。
【0023】
消石灰の添加量は、特に限定されないが、少なすぎると、pHが上昇しにくくなり、カドミウムが土壌改良性肥料に固溶体として取り込まれにくくなるおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対する消石灰の重量比は、通常、1%以上とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対する消石灰の重量比は、3%以上であると好ましく、5%以上であるとより好ましい。
【0024】
一方、消石灰が多すぎると、pHが上昇しすぎて土壌が農作物の生育に適さなくなるおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対する消石灰の重量比は、通常、30%以下とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対する消石灰の重量比は、20%以下であると好ましく、15%以下であるとより好ましい。
【0025】
アロフェンを添加した場合には、pHの上昇に伴って発現する変異荷電によって土壌改良性肥料がカドミウムを吸着しやすくなると考えられる。
【0026】
アロフェンの添加量は、特に限定されないが、少なすぎると、pHが上昇しすぎて土壌が農作物の生育に適さなくなるおそれがある。また、カドミウムが土壌改良性肥料に固溶体として取り込まれて固定化される際の固定力が弱くなり、土壌改良性肥料のカドミウム除去能が低下するおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対するアロフェンの重量比は、通常、5%以上とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対するアロフェンの重量比は、10%以上であると好ましく、15%以上であるとより好ましい。
【0027】
一方、アロフェンが多すぎると、土壌の緩衝能が大きくなってpHが適度に上昇しないおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対するアロフェンの重量比は、通常、50%以下とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対するアロフェンの重量比は、40%以下であると好ましく、30%以下であるとより好ましい。
【0028】
木炭を添加した場合には、土壌改良性肥料を特に焼成しなくても水戻りしにくいものとすることが可能になり、緩効性の土壌改良性肥料を得ることが可能になる。これに対し、土壌改良性肥料に木炭を添加せずに焼成もしなかった場合には、土壌改良性肥料は水戻りしやすく速効性のものとなる。土壌改良性肥料を緩効性のものとするか速効性のものとするかは、土壌改良性肥料の用途などに応じて適宜決定する。
【0029】
木炭の添加量は、特に限定されないが、少なすぎると、土壌改良性肥料が水戻りしやすくなるおそれがあり、緩効性の土壌改良性肥料を得たい場合に不都合である。このため、土壌改良性肥料を緩効性のものとする場合には、土壌改良性肥料の全体重量に対する木炭の重量比は、通常、1%以上とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対する木炭の重量比は、2%以上であると好ましく、3%以上であるとより好ましい。
【0030】
一方、木炭が多すぎると、土壌改良性肥料の可塑性が低下して、土壌改良性肥料をペレット状に成形しにくくなるおそれがある。このため、土壌改良性肥料の全体重量に対する木炭の重量比は、通常、30%以下とされる。土壌改良性肥料の全体重量に対する木炭の重量比は、20%以下であると好ましく、15%以下であるとより好ましい。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によって、安いコストで、煩雑な土壌管理や湛水管理を要せず、環境に対して大きな負荷をかけることなく、農作物へのカドミウムの吸収を抑制することができ、かつ土壌改良性と肥効性とを併せ持つ土壌改良性肥料を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の土壌改良性肥料についてより詳しく説明する。本発明の土壌改良性肥料は、リン酸塩鉱物と、ハロイサイトを含有するカオリン系粘土との混合物を固形化したものとなっている。この土壌改良性肥料は、イオン化して溶出傾向にあるカドミウムを、常温下で、粘土鉱物からなる触媒のもとで、固溶体として取り込むことのできるものとなっている。粘土鉱物は、直径が2μm以下のコロイド物質の集合体であり、その微細な構造は、結晶格子内にカドミウムを取り込んで固溶化するなどの作用を有している。
【0033】
本発明の土壌改良性肥料に用いるリン酸塩鉱物の種類は、特に限定されず、骨リン酸カルシウム(以下、「骨リン」と略す)や骨灰などのほか、熔リンやボーンチャイナが例示される。しかし、熔リンは、土壌改良性肥料に用いるのに問題にならない量であるとはいっても、元々、少量のカドミウムを含有している。また、ボーンチャイナは、鉛を含有していることがある。このため、カドミウムの固溶化を目的とする本発明の土壌改良性肥料においては、熔リンやボーンチャイナ以外の骨リンなどを用いると好ましい。骨リンは、副産リン酸石灰を21重量%含有するもの(いわゆる21%骨リン)や副産リン酸石灰を35重量%含有するもの(いわゆる35%骨リン)が市販されており、入手が容易である。
【0034】
本発明の土壌改良性肥料に用いるカオリン系粘土は、ハロイサイトを含有するものであれば特に限定されないが、ハロイサイトの含有率が10%以上のものであると好ましい。これにより、土壌改良性肥料をカドミウムの固溶化にさらに適したものとすることが可能になる。ハロイサイトの含有率は、20%以上であるとより好ましく、30%以上であるとさらに好ましい。ハロイサイトの含有率が30%以上のカオリン系粘土としては、ベトナムカオリンやニュージーランドカオリンや中国カオリンが例示される。なかでも、ベトナムカオリンは、ハロイサイトの含有率が40〜60重量%程度と非常に高いだけでなく、安価で入手が容易であるために、本発明の土壌改良性肥料で用いるカオリン系粘土として適している。
【0035】
本発明の土壌改良性肥料の製造方法は、特に限定されないが、通常、粉砕されたリン酸塩鉱物や、ハロイサイトを含有するカオリン系粘土を、水を加えながらミキサーで混練して行う。土壌改良性肥料の造形は、ディスクペレッターで押出し成形したり、パン型造粒機で造粒したりすることなどによって行う。土壌改良性肥料は、造形を行った後に焼成してもよい。しかし、後述するように、土壌改良性肥料に木炭を添加した場合には、特に焼成しなくても水戻りしにくい土壌改良性肥料を得ることができる。
【0036】
本発明の土壌改良性肥料の各粒の大きさや形状は特に限定されない。しかし、その成形に際し、最も安価で一般的な押出し成形機を用いると、直径が4mm前後で、長さが6〜7mm程度の円柱形となる。そして、この程度の大きさであるならば、散布などの作業性が良く、好ましい。
【0037】
本発明の土壌改良性肥料は、土壌に直接散布でき、簡単に取り扱いが容易なものとなっている。また、安価に製造することも可能である。さらに、肥料性に優れたものとすることも容易である。さらにまた、有害物質を含まず、製造時や使用後においても廃棄物を生じないものとなっている。そして、製造時に特に焼成する必要もないので、省エネルギー化を推進することも可能なものとなっている。
【0038】
本発明の土壌改良性肥料は、各種の農作物を栽培するのに用いることができる。なかでも、水稲を栽培するのに用いると好適である。特に、秋田県など、カドミウムを多く含むいわゆるカドミウム含有米が問題となっている地域での水稲栽培に好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
続いて、本発明の土壌改良性肥料の実施例について説明する。
【0040】
まず、本発明の土壌改良性肥料に係る2種類の試料を作製した。試料はいずれも、直径が4mm前後で長さが6〜7mm程度の円柱形のペレットに造形し、焼成は行わなかった。この2種類の試料(実施例1,2)における各成分の重量比を下記表1に示す。表1におけるカッコ外の数値は、各成分の重量比を「重量部」で示したものであり、カッコ内の数値は、各成分の重量比を「重量%」で示したものある。実施例1,2の各試料においては、下記表1に示すように、リン酸塩鉱物として骨リンを使用し、ハロイサイトを含有するカオリン系粘土としてハロイサイトを40〜60重量%含有するベトナムカオリンを使用した。また、実施例1,2の各試料においては、pH調整材として消石灰を添加している。さらに、実施例1,2の各試料においては、アロフェンとして鹿沼土を添加している。
【0041】
【表1】

【0042】
一方、上記の実施例1,2の比較例として、2種類の試料(比較例1,2)を作製した。比較例1,2の配合は、粘土鉱物にベトナムカオリン(ハロイサイトを含有するカオリン系粘土)ではなくカルシウム系モンモリロナイト粘土を用いた以外は、それぞれ上記表1における実施例1,2と同一である。比較例1,2では、カルシウム系モンモリロナイト粘土として、クニミネ工業株式会社製のクニボンド(登録商標)を使用した。
【0043】
以上の実施例1,2と比較例1,2に係る4種類の試料を用いて、振とう試験と溶出試験を行ったところ、下記表2に示す結果が得られた。表2における除去率と溶出率の単位は、いずれも「%」である。振とう試験は、振とう時間を24時間、振とう幅を4〜5cm、振とう回数を80rpm、振とう方向を水平方向、振とう前のカドミウム濃度を1.0mg/L、試料と試液との混合比を1:50として行った。一方、溶出試験は、振とう試験に用いた試料をそのまま用いて行った。溶出試験は、振とう時間を6時間、振とう幅を4〜5cm、振とう回数を200rpm、振とう方向を水平方向、試料と試液との混合比を1:10として行った。溶出試験で使用する試液のpHは、環境庁告示第46号に規定された5.8〜6.3よりもかなり厳しく設定した。本実施例においては、蒸留水に2%のクエン酸を添加してpHを2.0としたものを試液として使用した。
【0044】
【表2】

【0045】
上記表2を見ると、振とう試験におけるカドミウムの除去率では、粘土鉱物にベトナムカオリン(ハロイサイトを含有するカオリン系粘土)を用いた実施例1,2と、粘土鉱物にクニボンド(登録商標)やアサオカモンモリロナイト(カルシウム系モンモリロナイト粘土)を用いた比較例1,2との間に大きな差は見られなかったことが分かる。しかし、溶出試験におけるカドミウムの溶出率では、実施例1,2と比較例1,2との間には、顕著な差が見られ、実施例1,2は、それぞれ比較例1,2と比べてカドミウムの溶出率が小さかった。このことから、カドミウムを溶出せず固溶化するという点で、ハロイサイトを含有するカオリン系粘土が非常に有利であることが分かった。
【0046】
上記実施例1,2のほか、下記表3に示す4種類の試料(実施例3〜6)を作製し、実施例1,2で行ったものと同じ条件で、振とう試験と溶出試験を行ったところ、下記表4に示す結果が得られた。表3におけるカッコ外の数値は、各成分の重量比を「重量部」で示したものであり、カッコ内の数値は、各成分の重量比を「重量%」で示したものある。また、表4における除去率と溶出率の単位は、いずれも「%」である。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
上記表4の結果から、本発明の土壌改良性肥料に、苦土石灰や珪酸カルシウムなどを添加すると、カドミウムの溶出率をより低く抑えることができることが分かった。実施例5,6の試料はいずれもカドミウムの溶出率が1%未満となっており、カドミウムを固溶化するものとして特に好適である。また、上記表4の結果以外では、木炭を添加した土壌改良性肥料は、焼成しなくても、水戻りしにくくなることが分かった。これは、土壌改良性肥料を緩効性のものとしたい場合に好都合である。
【0050】
ところで、上記実施例1〜6以外にも、草木灰を添加した試料を作製し、同様の振とう試験と溶出試験を行ったが、いずれも草木灰を添加しなかった場合の方が、溶出率が低かった。すなわち、草木灰は、カドミウムの不溶化を阻害する性質を有するものであると推測できる。その原因は不明であるが、おそらく水溶性のカリウムが影響していると思われる。草木灰は、近年、農家の間で流行しているが、カドミウムの固溶化を目的とする本発明の土壌改良性肥料では、草木灰を施用しない方が好ましい。
【0051】
続いて、本発明の土壌改良性肥料が農作物に対してどの程度のカドミウム吸収抑制効果を奏するのかを調べるために、秋田県内の水田を借りて実際に水稲の栽培を行った。図1は、水田における区画A〜Eの位置関係を示した図である。水田は、図1に示すように、5つの区画A〜Eに分割し、4月下旬に、区画Aを除く4つの区画B〜Eのそれぞれに、本発明の土壌改良性肥料を添加した。
【0052】
区画Bの土壌には、本発明の土壌改良性肥料を0.5%(土壌改良性肥料の添加比は、土壌重量(土壌の深さを15cm、土壌の比重を1、土壌水分含有率を20%として計算した土壌の重量)に対する土壌改良性肥料の重量比によって求めた。以下同じ。)添加した。区画Cの土壌には、本発明の土壌改良性肥料を1.0%添加した。区画Dの土壌には、本発明の土壌改良性肥料を1.5%添加した。区画Eの土壌には、本発明の土壌改良性肥料を2.0%添加した。本発明の土壌改良性肥料には、上記表3における実施例6の試料を使用した。区画B〜Eには、本発明の土壌改良性肥料以外の肥料は施用していない。一方、区画Aには、熔リン及び珪酸カルシウムの混合肥料と、ブドウ粕(ワインの搾り粕)を主原料として発酵させた複合微生物材料からなる有機質土壌改良材(商品名コフナ)と、ナトリウム型モンモリロナイト粘土を主体とする土壌改良材(商品名ソフトシリカ)とをそれぞれ10a当たり、60kg、45kg、60kg添加した。その他の条件に関しては、区画A〜Eの間で差を設けていない。
【0053】
この栽培において、田起しは5月初旬に行い、5月中旬から5月下旬にかけて水入れと代掻きと田植えを順に行った。また、落水は8月下旬(この他、水入れから8月下旬の落水までの間に2日行っている。)に行い、収穫は9月下旬に行った。この水田における湛水日数は88日で、カドミウムの吸収を抑制するための目安である100日を下回っていた。また、落水から収穫までの日数は26日であり、カドミウムの吸収を抑制するための目安である20日を上回っていた。本実施例の実験によって得られた結果を下記表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
上記表5に示されるように、本発明の土壌改良性肥料を施用しなかった区画Aで収穫された米に含有されるカドミウム濃度は、0.6ppmと高かった。これに対し、本発明の土壌改良性肥料を0.5〜1.0%添加した区画B,Cで収穫された米に含有されるカドミウム濃度は0.3〜0.4ppm、本発明の土壌改良性肥料を1.5〜2.0%添加した区画D,Eで収穫された米に含有されるカドミウム濃度は0.2〜0.3ppmと、本発明の土壌改良性肥料を多く施用した区画で収穫された米の方が、カドミウム濃度が害して低かった。このことから、本発明の土壌改良性肥料が農作物へのカドミウム吸収を抑制するのに非常に有用であることが分かった。
【0056】
また、区画Aで栽培された稲の穂の高さは、平均で15cm程度であった8が、区画B〜Eで栽培された稲の穂の高さは、平均で18〜20cmと高く、本発明の土壌改良性肥料を用いて栽培した水稲は収穫量の増大を見込めるものであることも分かった。このことに加えて、本発明の土壌改良性肥料を施用した区画B〜Eで生産された米は、区画Aで生産された米よりも旨味があり、買取り価格の上昇が見込める。以上のことから、本発明の土壌改良性肥料は、農作物へのカドミウムの吸収を抑制するだけでなく、農作物の収穫量の増大や高品質化をもたらし、農家の収益の向上に大きく貢献することも期待される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】水田における区画A〜Eの位置関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩鉱物とハロイサイトを含有するカオリン系粘土との混合物を固形化したことを特徴とする土壌改良性肥料。
【請求項2】
リン酸塩鉱物100重量部に対してハロイサイトを含有するカオリン系粘土を30〜300重量部混合した請求項1記載の土壌改良性肥料。
【請求項3】
リン酸塩鉱物とハロイサイトを含有するカオリン系粘土との混合物に対し、苦土石灰、珪酸カルシウム、消石灰、アロフェン、木炭の中から選ばれた1種又は2種以上の添加物を混合した請求項1又は2記載の土壌改良性肥料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−230917(P2008−230917A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73628(P2007−73628)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】