説明

土壌改良方法

【課題】浸食性土壌の物理性を改良すると共に、環境および人体に対して与える影響を極めて小さくする。
【解決手段】酒類の製造過程で副産物として生成される酒粕を用いて、浸食性土壌の物理性を改良する土壌改良方法であって、前記酒粕を前記浸食性土壌に散布する第1工程を含む。また、第1工程は、前記酒粕と、米のとぎ汁とを混合させる工程をさらに含む。また、前記酒粕が散布された浸食性土壌の表面に堆肥を積層させる第2工程と、混合溶液が散布された浸食性土壌に菌糸を発生させる第3工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒類の製造過程で副産物として生成される酒粕を用いて、浸食性土壌の物理性を改良する土壌改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に、沖縄本島、久米島、石垣島などに分布する赤黄色土の「国頭マージ」や、主に、沖縄本島中南部、宮古島などに分布し泥岩を由来とする残積性未熟土の「ジャーガル」などは、他の土壌と比較して、水や風によって浸食されやすい特質がある。このような浸食され易い土壌を、本明細書では「浸食性土壌」と呼称する。このような浸食性土壌を主とする農地や裸地では、降雨等によって表土流亡が生ずると共に、土の微粒子を大量に含んだいわゆる「赤水」が発生し、河川や海洋の汚染の原因となっている。しかしながら、浸食性土壌を主とする農地や裸地への対策技術は存在せず、法的にも手当てがされていない状況となっている。
【0003】
上記のような土壌の流出を防止するために、例えば、特許文献1では、浸食性土壌を、土壌団粒化剤、固化剤、および清水と混合させて土壌を団粒化させる技術が提案されている。
【特許文献1】特開平11−256154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、浸食性土壌(赤土)を土壌表面から取り出して固化剤と土壌団粒化剤を混合させ、団粒化させた後で元に戻す手順を踏むが、取り出した後に残された土壌表面については何ら考慮されていない。このため、浸食性土壌(赤土)に固化剤と土壌団粒化剤とを混合させて元に戻すまでは、土壌表面は何ら処理されていないため、降雨等により、表土流出が生じてしまう。さらに、固化剤や土壌団粒化剤が化学物質を含んでいる場合は、環境や人体への影響も無視できない場合もある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、浸食性土壌の物理性を改良すると共に、環境および人体に対して与える影響を極めて小さくすることができる土壌改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記の目的を達成させるため、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の土壌改良方法は、酒類の製造過程で副産物として生成される酒粕を用いて、浸食性土壌の物理性を改良する土壌改良方法であって、前記酒粕を前記浸食性土壌に散布する第1工程を含むことを特徴としている。
【0007】
このように、酒粕を浸食性土壌に散布することによって、土壌に菌糸を発生させることができ、この菌糸が土壌粒子を結び付け、浸食性土壌を団粒化させることが可能となる。土壌が団粒化することにより、土壌流出を防止することが可能となると共に、通気性および透水性が向上するため、植物の栽培土壌として用いることが可能となる。
【0008】
(2)また、本発明の土壌改良方法は、前記酒粕が散布された浸食性土壌の表面に堆肥を積層させる第2工程をさらに含むことを特徴としている。
【0009】
このように、酒粕が散布された浸食性土壌の表面に堆肥を積層させるので、浸食性土壌の表面が保護され、直射日光に晒されることが無くなる。これにより、菌糸を発生させ易くすると共に、発生した菌糸を成長させ易くすることが可能となる。また、堆肥を積層させることによって、消臭効果が得られる。また、堆肥は、廃棄物を原料として製造することができるので、廃棄物の再利用を図ることができる。その結果、環境問題の解決に貢献することが可能となる。
【0010】
(3)また、本発明の土壌改良方法において、前記第1工程は、前記酒粕と、米のとぎ汁とを混合させる工程をさらに含み、前記混合溶液を前記浸食性土壌に散布することを特徴としている。
【0011】
このように、酒粕と、米のとぎ汁とを混合させるので、菌糸を成長させやすくすることが可能となる。また、米のとぎ汁は、酒類の製造過程で副産物として生成されるものであるため、これを混合溶液の材料として用いることができ、廃棄物の再利用を図ることができる。その結果、環境問題の解決に貢献することが可能となる。
【0012】
(4)また、本発明の土壌改良方法において、前記第1工程は、少なくとも一種類の微生物を含む溶液で米のとぎ汁を発酵させたものを混合させる工程をさらに含み、前記混合溶液を前記浸食性土壌に散布することを特徴としている。
【0013】
このように、少なくとも一種類の微生物を含む溶液で米のとぎ汁を発酵させるので、腐敗を防止することが可能となる。その結果、土壌へ散布する前に長期間の保存が可能となる。
【0014】
(5)また、本発明の土壌改良方法において、前記微生物を含む溶液は、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌、糸状菌、または放線菌を含む有用微生物を複合した培養液であることを特徴としている。
【0015】
このように、微生物を含む溶液は、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌、糸状菌、または放線菌を含む有用微生物を複合した培養液であるので、米のとぎ汁の腐敗を防止すると共に、土壌へ散布した後は、菌糸の成長を促進させることが可能となる。
【0016】
(6)また、本発明の土壌改良方法において、前記混合溶液が散布された浸食性土壌に菌糸を発生させる第3工程をさらに含むことを特徴としている。
【0017】
このように、土壌に菌糸を発生させるので、この菌糸が土壌粒子を結び付け、浸食性土壌を団粒化させることが可能となる。土壌が団粒化することにより、土壌流出を防止することが可能となると共に、通気性および透水性が向上するため、植物の栽培土壌として用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、土壌に菌糸を発生させるので、この菌糸が土壌粒子を結び付け、浸食性土壌を団粒化させることが可能となる。土壌が団粒化することにより、土壌流出を防止することが可能となると共に、通気性および透水性が向上するため、植物の栽培土壌として用いることが可能となる。さらに、本発明では、化学品等を使用しないため、環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる。また、従来、再利用が難しく廃棄されることが多かった酒粕をリサイクル利用することができると共に、客土材を投入せずに現地の土壌そのものを改良することができるため、環境保護の観点からも好ましい。さらに、特殊な装置、大型機械、専門のオペレータ、および特殊な処理工程等が不要であるため、簡易かつ低コストで浸食性土壌の改良を行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本実施形態では、沖縄の赤黄色土や関東ローム層などに分布し、水や風により浸食され易い浸食性土壌である「赤土」を主とする農地や裸地において、本発明を実施した場合を説明する。すなわち、赤土を主とする農地や裸地を、本発明に係る土壌改良制方法によって処理し、浸食性土壌の物理性を改良する。
【0020】
浸食性土壌とは、浸食されやすい土壌を意味するものであり、上記「赤土」に限定されるわけではない。例えば、主に、沖縄本島、久米島、石垣島などに分布する赤黄色土の「国頭マージ」のみならず、主に、沖縄本島中南部、宮古島などに分布し泥岩を由来とする残積性未熟土の「ジャーガル」などの土壌も浸食性土壌に該当する。
【0021】
「泡盛」は、日本国内最古の蒸留酒と言われ、原料である米を麹にして、この米麹と水に酵母を加えて発酵させ、単式蒸留機で蒸留して作られるものである。この蒸留後、「酒粕」が生成される。この泡盛の酒粕は、腐敗しやすいため、再利用が難しいとされてきた。
【0022】
本実施形態では、生成された泡盛の酒粕の温度を35℃から45℃の範囲内に調整し、少なくとも一種類の微生物を含む溶液で米のとぎ汁を発酵させた溶液と、前記温度調整された泡盛の酒粕とを混合させて「混合溶液」を作製する。この微生物を含む溶液は、EMを用いることが望ましい。EMとは、Effective Microorganismsの略称であり、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌を主体に、安全で有用な微生物を共生させた液状の微生物資材である。EMに含まれる微生物は、主として、上記の光合成細菌、乳酸菌、酵母菌の他、糸状菌、または放線菌であり、EMは、これらの有用微生物群を複合した培養液である。さらに、このEMから抽出した酵素を使用しても良い。
【0023】
次に、以上のような混合溶液を、浸食性土壌に散布する。この場合、混合溶液を、浸食性土壌に「散布」しても良いし、散布後、耕運機により耕して、混合溶液が十分に浸食性土壌に混ざり合うようにしても良い。
【0024】
次に、混合溶液が混合した浸食性土壌に菌糸を発生させる。この場合、常温で一週間、そのまま放置しても良いし、ビニールシート等の被覆材を被せて降雨や日光を直接受けないようにしても良い。
【0025】
本実施形態で使用する資材は、廃棄物の再利用という環境問題の解決に貢献するため以下のものを選定した。
(1)泡盛の酒粕・・・泡盛の蒸留時に粕として排出されるものである。
(2)米とぎ汁発酵液・・・米のとぎ汁を上記EMで発酵させた溶液とする。米のとぎ汁は、泡盛を製造する過程で大量に排出されるものであるため、これを有効に利用する。
(3)堆肥・・・下水汚泥、畜産糞尿、残渣などの廃棄物をEM処理して堆肥化したものを利用する。これらの廃棄物は大量に供給されるため、資材としても安定供給が可能である。
【0026】
本実施形態に係る土壌改良方法は、泡盛の製造過程で副産物として生成される酒粕を用いて、浸食性土壌の物理性を改良する土壌改良方法であって、前記酒粕を前記浸食性土壌に散布する第1工程と、前記酒粕が散布された浸食性土壌の表面に堆肥を積層させる第2工程(マルチング)と、前記混合溶液が散布された浸食性土壌に菌糸を発生させる第3工程(養生)と、を含んでいる。また、前記第1工程は、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌、糸状菌、または放線菌を含む有用微生物(EM)を複合した培養液で米のとぎ汁を発酵させたものと、前記酒粕とを混合させる工程をさらに含む。
【0027】
第1工程では、1m当り、米のとぎ汁にEMを加えて処理した培養液(米のとぎ汁発酵液)を1リットル、泡盛の酒粕を4リットル、水を15リットル用意し、これらを混合させる。そして、この混合溶液を浸食性土壌に散布する。散布後、1分から2分経過すると、混合溶液が浸食性土壌に浸透していく。
【0028】
次に、EMで処理した堆肥を上記浸食性土壌の上に積層させる(マルチング)。積層の厚さは、0.5cm〜1cm(0.5×10−2m〜1.0×10−2m)である。次に、堆肥を積層させた後、1日から2日放置する。これにより、本発明に係る土壌改良が完了する。
【0029】
次に、本発明の効果を実証するために行なったモデル実験について説明する。
[モデル作製]
まず、直径約8cm、深さ約8cmの広口ビンを4個準備し、各広口ビンに、浸食性土壌(以下、「赤土」として説明する。)を7分目程度入れる。次に、実験区1として、米のとぎ汁発酵液と泡盛の酒粕を含む混合溶液を注ぎ込み(散布)、表面にEM処理した堆肥を厚さが0.5cm〜1cm(0.5×10−2m〜1.0×10−2m)となるようにマルチングする。また、実験区2として、米のとぎ汁発酵液と泡盛の酒粕を含む混合溶液を赤土の上に注ぎ込む(散布)。実験区3として、赤土の表面にEM処理した堆肥を厚さが0.5cm〜1cm(0.5×10−2m〜1.0×10−2m)となるようにマルチングする。これにより、無処理区、実験区1から実験区3が完成した。そして、実験区完成後の数日後(本実施形態では、2日後)、各実験区に水を散布した。
【0030】
[モデル実験の結果]
図1は、モデル実験の結果を示す図である。まず、「赤土流出抑制効果」についてみると、無処理区では、赤土流出抑制効果は全く見られない。実験区1および実験区2では、十分に赤土流出抑制効果を発揮した。実験区3では、無処理区と比較すれば赤土流出抑制効果を奏しているものの、十分に赤土の流出を抑制したとはいえない結果となった。
【0031】
次に、「排水性」についてみると、無処理区では、排水性が非常に悪く、赤土が、吸水後、粘土状に固まり、著しい排水不良の状態に陥った。実験区1では、表面のマルチングの緩衝効果を受けるため、若干排水速度が遅くなった。実験区2では、吸水後、速やかに排水し、その後も団粒化を維持した。実験区3では、赤土が、吸水後、粘土状に固まり、著しい排水不良の状態に陥った。
【0032】
次に、臭気についてみると、無処理区は臭気の元となる酒粕が無いため、比較対照外とする。実験区1では、悪臭は発生しなかった。実験区2では、泡盛の酒粕に由来する悪臭が発生した。また、吸水するとさらに臭気が強くなった。実験区3では、泡盛の酒粕を使用しないこととEM処理した堆肥の効果が現れたことで、悪臭は発生しなかった。
【0033】
次に、効果の持続性についてみると、実験区1では、菌糸が十分に発生したことにより、気象条件を選ばずに効果が持続すると考えられる。実験区2では、酒粕液(有機物)によって一時的に団粒構造が形成されたことから、風化に伴って効果が薄れていく。実験区3では、マルチングが水に流された時点で効果が全くなくなってしまう。
【0034】
[総合評価]
(1)実験区1では、赤土の流出および赤水の発生を十分に抑制することができた。実験区1では、菌糸が発生するので、その働きによって赤土流出抑制効果が持続する。また、一度菌糸が張ってしまえば、マルチングした堆肥が流されたとしても効果は維持される。さらに、養生前後でも泡盛の酒粕の臭気が発生しなかった。
(2)実験区2では、赤土の流出および赤水の発生を十分に抑制することができた。しかしながら、酒粕液の風化に伴って、赤土流出抑制効果が薄れてしまうと考えられる。また、養生前後で泡盛の酒粕の悪臭が発生してしまった。
(3)実験区3では、赤土の流出および赤水の発生は、マルチングによって物理的に抑制することができるが、赤土自体の改良がなされていないため、根本的な解決にはならなかった。すなわち、赤土の流出および赤水の発生を物理的に抑制しているマルチングが流されてしまうと、もはや無処理区と同じ状態になってしまう。
(4)以上の考察から、実験区1が最も優れた効果を発揮することが分かった。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、土壌に菌糸を発生させるので、この菌糸が土壌粒子を結び付け、浸食性土壌を団粒化させることが可能となる。土壌が団粒化することにより、土壌流出を防止することが可能となると共に、通気性および透水性が向上するため、植物の栽培土壌として用いることが可能となる。さらに、本発明では、化学品等を使用しないため、環境や人体に対する影響を極めて小さくすることができる。また、従来、再利用が難しく廃棄されることが多かった酒粕をリサイクル利用することができると共に、客土材を投入せずに現地の土壌そのものを改良することができるため、環境保護の観点からも好ましい。さらに、特殊な装置、大型機械、専門のオペレータ、および特殊な処理工程等が不要であるため、簡易かつ低コストで浸食性土壌の改良を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】モデル実験の実験区の設定例および効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒類の製造過程で副産物として生成される酒粕を用いて、浸食性土壌の物理性を改良する土壌改良方法であって、
前記酒粕を前記浸食性土壌に散布する第1工程を含むことを特徴とする土壌改良方法。
【請求項2】
前記酒粕が散布された浸食性土壌の表面に堆肥を積層させる第2工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の土壌改良方法。
【請求項3】
前記第1工程は、前記酒粕と、米のとぎ汁とを混合させる工程をさらに含み、
前記混合溶液を前記浸食性土壌に散布することを特徴とする請求項1または請求項2記載の土壌改良方法。
【請求項4】
前記第1工程は、少なくとも一種類の微生物を含む溶液で米のとぎ汁を発酵させたものを混合させる工程をさらに含み、
前記混合溶液を前記浸食性土壌に散布することを特徴とする請求項1または請求項2記載の土壌改良方法。
【請求項5】
前記微生物を含む溶液は、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌、糸状菌、または放線菌を含む有用微生物を複合した培養液であることを特徴とする請求項4記載の土壌改良方法。
【請求項6】
前記混合溶液が散布された浸食性土壌に菌糸を発生させる第3工程をさらに含むことを特徴とする請求項4または請求項5記載の土壌改良方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−177251(P2007−177251A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2007−17397(P2007−17397)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(304026009)株式会社オオバ (5)
【出願人】(595030826)株式会社EM研究機構 (7)
【Fターム(参考)】