説明

土壌改良材の製造方法

【課題】植物の生育を促進する効果に優れており、植物栽培用の土壌改良材として好適に使用できる土壌改良材の製造方法を提供する。
【解決手段】海水中に堆積した底質土に、植物廃材を原料とした堆肥を加えて混合し、更に熟成させて団粒構造を形成させることを特徴とする土壌改良材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水中に堆積した底質土と植物廃材を用いた堆肥からなる、特に植物培養用の培養土として好適な、土壌改良材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全国の、湾内や港湾などでは、周辺の河川から持ち込まれる砂や土壌、或いは潮の影響で他の海岸地域から運ばれる砂や土壌が海底に堆積するが、時として船舶の運行に支障をきたすほど砂や土壌が堆積する場合がある。このような場合には、海底に堆積した砂や土壌を浚渫して取り除く必要があるが、浚渫した砂や土壌は、塩水分を多く含んでいることに加え、余剰の水分を保持してスラリー状であるなど、ハンドリングや有効利用の観点から困難な場合が多く、その処理は非常にやっかいであるというのが現状である。このため、海底からの浚渫土壌は、殆ど有効利用されていない。
【0003】
一方、内水系の湖沼やダムなどにおいても河川などから土壌が持ち込まれ堆積するため、ダムの水深の低下(即ち貯水量の低下)や、湖水の水質の悪化等が問題となり、同様に堆積した土壌の浚渫などが行われる。淡水系の浚渫土壌は、塩分が低いこともあり、土地造成用の資材や、農業用の用土として用いることが検討されている。このような例としては、ダムに堆積した底泥にマグネシアセメントを加えて固化させたものを、粉砕して緑地造成土や道路用材として用いる例(特許文献1)、湖底に堆積した底土に吸水性樹脂を加えて、減窒素栽培の目的で水田用土壌として用いる例(特許文献2)、ダム底の堆積土壌及び農産物残渣と家禽糞尿などを混合した堆肥を水田に加える例(特許文献3)、あるいは、ダム底に堆積した土壌にピートモス及びバーク堆肥を混合し、トマトなどの育苗用の植物病原菌汚染の少ない用土して用いる例(特許文献4)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−202286号公報
【特許文献2】特開2004−159557号公報
【特許文献3】特開平10−276524号公報
【特許文献4】特開平4−63890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダムや湖沼に堆積した土壌は淡水系であるため塩分が低く使いやすい等、メリットはあるものの、一般にダムや湖沼などは山間部などに位置している場合が多く、土壌の採取や運搬などが必ずしも容易な場所とはいえない。また、山間部の土壌は、通常の耕作土壌とは異なるミネラル分を含有していることが期待される反面、一般に有機質成分が少ないなどの欠点もある。
【0006】
一方、湾内などの海水中に堆積した土壌は、河川により運ばれた内陸の土壌が、河川により同時にもたらされる栄養分や、海水中の栄養分もともに堆積したものであり、各種の栄養分に富んでいるため、植物培養用の養分豊かな土壌として大いに期待される。また、海岸地域は、一般に交通も容易であり、土壌を採取したり、種々の用途向けに処理、加工するためのスペースを確保しやすいというメリットもある。しかしながら、海水中に堆積した土壌は塩分が高いことから、特に、植物栽培用途や農業用途への利用は行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記のような状況に鑑み、海水中に堆積した土壌の有効利用、特に植物栽培用途や農業用途における有効利用について鋭意検討を行った結果、海水中に堆積した土壌と、植物廃材から得られる堆肥とを混合すると、混合物が団粒構造を形成し、その結果、脱塩も容易となること、更に該混合物が植物栽培用の土壌改良材として優れていることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、
[1]海水中に堆積した底質土に、植物廃材を原料とした堆肥を加えて混合し、更に熟成させて団粒構造を形成させることを特徴とする土壌改良材の製造方法、
[2]底質土と堆肥の混合比が、重量比で15:1〜1:2である前記[1]に記載の土壌改良材の製造方法、
[3]更に脱塩処理を行う前記[1]又は[2]に記載の土壌改良材の製造方法、
[4]植物廃材を原料とした堆肥が、植物廃材を原料とした腐熟堆肥である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の土壌改良材の製造方法、及び
[5]家畜糞便を用いない前記[1]〜[4]のいずれかに記載の土壌改良材の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、植物の生育を促進する効果に優れており、植物栽培用の土壌改良材として好適に使用できる土壌改良材の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明の土壌改良材の製造方法によれば、スラリー状であり塩分も高い海水中に堆積した土壌を、固相化させて団粒構造を形成させることができ、透水性を向上させ、脱塩も容易となるなど、海水中に堆積した土壌を有効利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)底質土
本発明に使用する底質土は、海水中に堆積した底質土(海成沖積土)であって、山岳地帯、森林地帯などをはじめとする内陸地域の土壌が河川などの作用により運ばれ海水中に堆積した土壌、或いは一旦海水中に堆積したこのような土壌が海岸流或いは沿岸流などの潮の作用により別の場所に運ばれ海水中に堆積した土壌である。具体的には、内湾などの湾、海浜、浅海、港湾内、河口、三角州など、海水中に堆積した底質土を使用する。このほか、汽水湖など海水がまじる水系中に堆積した土壌を用いることもできる。
【0012】
なお、本発明においては、汽水湖など海水と淡水が混じる場所も含めて、海水、海水中という。
【0013】
本発明に用いる底質土の粒度組成としては、園芸用、農業用などとして使用可能なものであれば、特に限定されない。後に述べる団粒構造の形成の観点から、粘土画分を含有していると団粒構造の形成を促進させるので好ましい。例えば、粘土画分及びシルト画分をあわせて60%以上である土壌が好ましく使用できる。
【0014】
底質土の鉱物組成は、底質土をもたらした河川などの水系流域の地質特性により異なるが、通常は、石英、長石、雲母などが主な鉱物である。
【0015】
底質土が含有している化学成分としては、主な元素としてケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)等であり、また主なイオンとして硫酸イオン(SO2−)、ナトリウムイオン(Na)、塩素イオン(Cl)などが含まれている。これら化学成分のうち、鉄、マンガン、硫黄(S)、塩素は、何れも植物の必須栄養素である。鉄は葉緑素の構成元素として有用であり、マンガンは葉緑素やビタミンの合成に関与しており、硫黄は成長の調整に重要であるほか一部のアミノ酸合成に必要であり、塩素は光合成に関与しているなど、それぞれ植物体において重要な働きを担っているものである。
【0016】
底質土中の鉄の含有量は、通常、1〜2重量%程度である。また、マンガンは、陸上の土壌に比べて含有量は高いが、植物の生育に影響を及ぼすほどではない。更に、硫酸イオン(硫黄)に関しても、海水中に堆積した底質土であるため、陸上の土壌に比べてその含有量は高い。
【0017】
一方、アルミニウムに関しては、火山灰土壌などの酸性土壌中に含まれるアルミニウムイオンは植物に対して強い生育阻害作用を示すが、底質土の場合は異なり、底質土を構成する鉱物(造岩鉱物)の中の結晶子に拘束される形で安定的に存在している。
【0018】
このように、海水中に堆積した底質土は、植物の栄養源として重要な元素を特徴的に含有しており、植物の生育にとって好ましいものである。
【0019】
本発明に用いる底質土は、山岳地帯、森林地帯などの内陸地域の土壌が、河川等の作用により運ばれた鉱物質が、流域から運ばれた窒素分、リン酸分などをはじめとする肥沃な養分とともに海水中に堆積したものであり、海水中のミネラル分ともあいまって、養分に富んだ土壌となっている。しかしながら、海水中に堆積していたことから塩分が高く、そのままでは植物培養用には不向きであるが、後に述べるように、本発明に従い土壌改良材とすることにより、植物培養用としても使用可能となるばかりでなく、前記のように、元々ミネラル分をバランス良く含むなど養分に富んだ土壌であるため、植物培養用として好適に用いることができる。
【0020】
海水中に堆積した底質土は、浚渫など公知の方法により採取する。浚渫の方法としてはポンプ浚渫、グラブ浚渫などの方法が例示できるが、これに限定されるものではない。
【0021】
採取した底質土は、陸上に運んだ後、採取の際に一緒に持ち越された海水などの余剰の水分を水切りし、底質原土とする。水切りの方法としては特に限定されないが、例えば、ヤード、ポンド、ピット、沈殿槽、静置槽などに静置等することにより水切りを行うことができる。陸上に運ぶ前に、例えば浚渫船上で水切りを行っても良い。
【0022】
このようにして得られた底質原土の湿潤状態でのpHは、採取場所などにもよるが、通常、6.5〜8.0の範囲でありほぼ中性を示す。湿潤状態の底質原土のpHは、例えばpH電極を底質原土に直接挿入することにより測定できる。
【0023】
底質原土は通常スラリー状であり、透水性は非常に悪い。例えば、変位法による測定数値として、10−6(cm/sec)オーダー以下となる場合が多い。
【0024】
前記の湿潤状態の底質原土をそのまま用いても良いが、通常は、少なくとも一部乾燥した底質原土を用いる。乾燥方法は特に限定されないが、例えば、前記の水切りを行った後、そのまま天日乾燥や風乾を行うことにより簡便に実施することできる。乾燥状態の底質原土のpHは弱酸性領域にシフトする。即ち、底質原土と水を重量比で1:3に混合したもののpHを電極法により測定した場合、通常、4.5〜6.5の範囲となり弱酸性を示す。乾燥によりpHが低下して酸性領域となることは、海水中に堆積した土壌(海成沖積土)の特徴的性質であり、海底で生成したパイライト(FeS)が、乾燥の過程で空気により酸化され硫酸を生成することによりpHが低下するものと考えられる。
【0025】
(2)堆肥
本発明に用いる堆肥としては、植物廃材を原料とした堆肥を用いる。堆肥の原料として用いる植物廃材としては、刈草、芝刈りくず、除草くず、剪定廃材、枯れ草、落ち葉、樹皮などを用いることができる。具体的には、例えば、草本系としては、バミューダグラス、ライグラス、ベントグラス、トールフェスク、ブルーグラス、高麗芝などの芝草、ハルジオン、ムラサキツユクサ、ヨモギ、カラスノエンドウ、アブラナ、ツメクサ、レンゲ、クローバー、ヤブガラシ、ヨシ、アシ、ススキなどの草本を挙げることができる。また、木質系としては、サクラ、ウメ、ヤナギ、ツツジ、アジサイ、ツゲ、ケヤキ、クワなどの広葉樹、並びにマツ、スギ、ヒバ、モミなどの針葉樹の剪定枝が挙げられる。
【0026】
これらの植物廃材を、1種類又は2種類以上を堆肥の原料として使用する。通常は、草本系廃材と木質系廃材は、それぞれ別々に用いる。草本系廃材と木質系廃材を混合して用いてもよい。堆肥化(発酵)のしやすさなどの観点から、草本系の植物廃材、広葉樹の植物廃材を用いることが好ましく、更には草本系の植物廃材を用いることが好ましい。特には、芝草の刈草や芝刈りくず、芝草の中に自然にマメ科の雑草(カラスノエンドウ、ツメクサ、クローバーなど)が生えている芝生の刈草や芝刈りくずを用いることが好ましい。堆肥の原料となる草本系廃材のなかに窒素含有量が多いマメ科植物の植物廃材が入ることによって炭素と窒素の比(C/N比)を適度に下げることにより、堆肥の品質を向上させることができるので好ましい。
【0027】
一般的な堆肥の製造方法においては、窒素分と微生物を補給し発酵を促進させるために牛糞、豚糞、鶏糞などの動物や家畜の糞便、尿などの屎尿汚泥、これらを含む家畜の敷きわら、下水汚泥、生ゴミなどが堆肥の原料として添加される。家畜糞便などは窒素分に富むために、これらを原料に加えた場合、発酵は促進されるが、一方で得られる堆肥の窒素分が多くなりすぎ(C/N比としては小さくなる)、得られる堆肥の品質は必ずしも優れたものとはいえないものとなる。また、そのような堆肥から雨水や灌水などにより流れ出した窒素分等を含む水が河川などの汚染(富栄養化など)の観点から好ましくない影響を与えることも考えられる。また、発酵の過程で、ハエなどの害虫の発生や、悪臭の発生などの問題も生ずる。
【0028】
しかしながら、本発明に用いる堆肥には、原料としてこれらの材料は使用しない。このため、後で述べるように適度なC/N比を有する堆肥が得られる。また、堆肥作成中の害虫の発生や悪臭の発生も殆ど問題にならない。更には、これら糞便、汚泥などを通じて病原菌などの好ましくない微生物が堆肥中に持ち込まれることがない。
【0029】
本発明において堆肥の製造方法は、公知の方法により行うことができる。即ち、前記の植物廃材と水とを混合した後、堆積させて堆肥化(発酵)を行わせれば良い。一例を挙げれば、次のような方法により製造することができる。
【0030】
原料とする植物廃材を、粉砕機により細かく粉砕する。粉砕機としては、植物廃材が粉砕できるものであれば特に限定されない。例えば、カッターミル、一軸粉砕機、二軸粉砕機、シュレッダー、チョッパーなどが挙げられる。粉砕後の大きさとしては、長辺の長さとして、約0.5〜約5cm程度に粉砕する。粉砕工程においては、植物廃材をある程度の細かさに粉砕する一次粉砕を行った後、更に、植物繊維を剪断するように細かく粉砕する二次粉砕を行うことが重要である。二次粉砕を行うことにより植物細胞が破壊され、細胞内の成分が堆肥化の発酵過程において微生物の作用を受けやすくなる。
【0031】
次に、このようにして細かく粉砕された植物廃材を混合装置に投入し、水と混合して、水分量を植物廃材に対する重量比として40〜80%となるように調整する。好ましくは約60%程度とする。なお、水分量は、水分計などで測定することができる。
【0032】
水分を調整した前記の混合物を発酵させて堆肥化する。発酵は、自然発酵、あるいは強制発酵の何れでも良い。自然発酵の場合は例えば堆肥熟成場などに野積みで行われ、強制発酵は堆肥化装置を用いて行うことができる。発酵工程においては、堆積物の温度は発酵により上昇し、通常、60〜80℃程度まで上昇する。発酵中は、堆積物全体への空気の供給を行うと共に、全体的に均一に発酵を進めるために、一定間隔で天地替えを行う。例えば、1週間に1回の間隔で行う。なお、天地替えとは、堆積物の山を切り崩しと堆積を繰り返し、堆積物の撹拌を行うことである。
【0033】
また、発酵中は発酵熱による高温のため堆積物中の水分が蒸発して飛散するので、適宜、堆積物へ散水を行い水分を補給する。例えば、天地替えの際に散水を行うことが簡便である。
【0034】
このようにして発酵させ堆肥化する。季節や、地域によっても異なるが、例えば、約3ヶ月〜約4ヶ月発酵させて十分に堆肥化させ、腐熟堆肥とすることが好ましい。
【0035】
前記に堆肥の製造方法を一例を挙げて説明したが、前記の方法に限られるものではない。
【0036】
本発明に用いる堆肥は、植物廃材を原料として堆肥化させた堆肥を用いるが、特に十分に堆肥化の進んだ腐熟堆肥を用いる。堆肥化(発酵)の十分に進んだ腐熟堆肥の性状としては、悪臭を発生せず無臭に近い、色調が黒い、手に持ったとき手に付着する有機物が少なく粒状を呈するなどが外観上の指標とされるが、定量的な指標として堆肥の炭素/窒素比(C/N比)を挙げることができる。本発明においては、草本系廃材を原料として用いた堆肥の場合は、C/N比として40以下、好ましくは25〜35程度となるまで、また木質系廃材を用いた堆肥の場合は、C/N比として80以下、好ましくは50〜60程度となるまで、十分に腐熟化させた堆肥を用いることが望ましい。このように適度に低いC/N比となるまで発酵させた腐熟堆肥を用いることにより、後で述べるように、底質土と混合した場合に団粒構造を良好に形成することができるため好ましい。堆肥化(発酵)が十分ではなく、C/N比が、草本系堆肥において40を超える場合、木質系堆肥において80を超える場合は、後で述べる底質原土と堆肥を混合し熟成させたときに十分に団粒構造の形成が起こらない場合がある。
【0037】
なお、堆肥のC/N比の測定は、例えば、全炭素及び全窒素の自動分析計を用いることにより、簡便かつ正確に測定することができる。また、機器分析によらない方法、例えば、全炭素をチューリン法で、全窒素をケルダール法でそれぞれ分析を行うこともできる。
【0038】
(3)土壌改良材の製造方法
本発明の製造方法において、土壌改良材は、前記底質原土と前記腐熟堆肥を混合し、更に熟成させて団粒構造を形成させることにより得られる。底質原土と腐熟堆肥を混合することにより、土壌の物理状態の変化が起こり、スラリー状態にある底質土の状態から固化の状態に変化する。これは、スラリー状態にある底質原土中の余剰水分が、空隙率の大きい腐熟堆肥と混合されることにより腐熟堆肥の方に拡散するため、底質原土が固相状態に変化するものと考えられる。
【0039】
底質原土と腐熟堆肥との混合は、混合物中に空気を取り込ませるように行うことが重要であり、前記の固相状態への変化を起こさせることができる範囲において、できるだけ短時間で行うことが重要である。必要以上に長い時間混合を行うと、混合物がペースト状で空気をあまり含まない状態となり好ましくない。
【0040】
底質原土と腐熟堆肥とを混合する方法は、両者が前記のように適切に混合されれば良く、特には限定されない。例えば、ミキサー、インペラー撹拌機、スクリュー型撹拌機などを使用することができる。底質原土と腐熟堆肥の混合比は、重量比で通常15:1〜1:2、好ましくは10:1〜1:1である。
【0041】
次に、このようにして得られた混合物を、屋内や屋根付きの場所など雨の当たらない場所に静置して熟成させる。熟成期間は、気温などの環境条件により左右されるが、例えば、夏期においては3〜4日程度、冬季においては1週間程度熟成させる。この熟成過程において、混合過程で生じた固相状態への変化が更に促進され、驚くべきことに、前述のように堆肥のC/N比が好ましい範囲であると、混合物が団粒構造を形成するようになる。
【0042】
このような団粒構造を形成すると、底質原土の状態では透水性が非常に低かったものが、腐熟堆肥と混合し熟成させて団粒構造を形成させることにより、透水性、通気性が向上し、土壌改良材として好ましく使用できるようになる。
【0043】
なお、団粒構造とは、堆肥中の有機物、微生物代謝産物、土壌小動物の分泌物などにより、土壌中の一次粒子が結合されて二次粒子を形成し、その二次粒子が更に集合してより大きな集合構造を形成して、大小さまざまの孔隙に富んだ状態となっていることである。
【0044】
以上のようにして得られた団粒混合物は、このまま土壌改良材として用いても良いが、海水由来の多量の塩分を含んでいるので、更に脱塩処理を行うことが好ましい。脱塩処理は、前記の混合物に、水を灌水処理(リーチング処理)することにより行うことができる。このリーチング処理は、混合物の塩分濃度が植物の生育に害とならない程度にまで十分に低くなるまで行う。土壌の塩分濃度の指標としては、土壌の電気伝導度を測定する方法が簡便に用いられる。リーチング処理をした湿っている状態の土壌に、電気伝導度計の電極を直接挿入することにより容易に測定できる。このようにして測定した土壌の電気伝導度として4dS/m以下、好ましくは1dS/m以下となるまで、リーチング処理を行う。また、リーチング処理の管理の指標として、リーチング排水中の塩分濃度を指標として行うこともできる。
【0045】
リーチングは、屋内に設置したリーチング槽、ピットなどに団粒混合物を入れ、水を連続的にあるいは間欠的に散布あるいは注入などすることにより行う。また、屋外に設置したピット、ヤードなどに団粒混合物を置き、水を散水することにより行うこともできる。
【0046】
このようなリーチング処理を通じて、主に海水由来の過剰の塩分が除かれる。もともと底質土が備えていた植物の生育にとり好ましい栄養素も洗い流されてしまうということはない。これは、底質土の鉱物の表面に吸着されたり、或いは団粒混合物内の細孔中に保持されるなどしているためであると考えられる。
【0047】
また、リーチング処理による灌水によって、団粒混合物が再びスラリー化することはない。これは、堆肥化において、植物の分解や微生物の代謝により生成した疎水性物質、或いはミミズなどの土壌小動物が分泌した多糖類などの分泌物などにより、団粒混合物の粒子の表面がコーティングされて団粒混合物が疎水化されるとともに、それらの物質により粒子同士がつなぎ合わされているために、リーチング処理を行っても団粒構造が崩れてスラリー化することがないものと考えられる。
【0048】
リーチング処理を行った後に、乾燥することが好ましいが、所望により乾燥せずそのまま土壌改良材として用いることもできる。乾燥方法は、特に制限されない。通風乾燥、天日乾燥などにより行うことができる。
【0049】
(4)土壌改良材
以上のようにして得られた土壌改良材は、他の培養土と混ぜて、あるいはそのまま、植物用の培養土として用いることができる。
【0050】
本発明方法により得られる土壌改良材は、各種ミネラルをバランス良く含むなど栄養源に富んでいる海水中に堆積した底質土(海成沖積土)と、植物廃材を原料とした堆肥からなるため、植物の生育にとっての栄養源を豊富に含んでいる。また、団粒構造を有していることから、植物の培養土壌に団粒構造を与えることができる。従って、本発明方法により得られる土壌改良材は、農作物、花卉、樹木などをはじめとする植物の培養土、並びに育苗用の培養土として好適に用いることができる。本発明方法により得られる土壌改良材を培養土に用いることにより、植物の生育が促進されるばかりでなく、植物の生育状態が良くなるので結果として栄養価や味が良くなるという効果も得られる。このため、葉菜用の培養土としてばかりではなく、果菜用の培養土としても好適に使用できる。
【0051】
また、本発明において原料として用いる堆肥は、牛糞、鶏糞などの家畜糞便を使用していないため、これらを通じて病原菌などが持ち込まれることもない。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により説明する。
[底質原土]
秋田県男鹿市船川の石油備蓄基地の港湾内の海底から浚渫により底質土を採取し、底質原土を得た。この底質原土はスラリー状であった。性状を、表1に示す。
【0053】
なお、各測定は次のように行った。pHの測定は、湿潤原土の場合はpH電極を直接湿潤原土に挿入することにより測定し、また乾燥原土の場合は、乾燥原土1重量部に水3重量部を混合した水層のpHを測定した。透水率は、変位法により測定した。電気伝導度は、電気伝導度計を用い、土壌の場合は電極を直接土壌に挿入することにより、また排水の場合は電極を排水中に挿入することにより測定した。粒径組成は、ピペット法により測定した。
【0054】
【表1】

【0055】
[堆肥1〜堆肥3]
公園緑地の芝生の刈草約3トンを、二軸破砕機に投入し約5cm程度に破砕した後、更に押出チョッパー式の破砕機を用いて細かく破砕した。このようにして破砕した破砕芝をミキサーに投入し、ミキシングしながら水を加えて水分量を約60%に調整した。水分を調整した破砕芝を屋外の堆肥熟成場に運び、約20m程度に野積みし、自然発酵により発酵させた。発酵の進行により堆肥の温度は約70℃程度まで上昇した。発酵開始後、1週間に1回の間隔で天地替えを行った。また、天地替えにあわせて散水し、水分がほぼ60%程度となるよう水分を補給した。このようにして、4週間(1ヶ月)から12週間(3ヶ月)熟成を行わせ堆肥1〜堆肥3を得た。堆肥のC/N比を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
(実施例1,2及び比較例1)土壌改良材の製造
前記の乾燥底質原土30kgに、前記の堆肥1〜堆肥3のそれぞれ10kgを混合し(即ち重量比で3:1)、二枚羽根ミキサーを用いて約20分間撹拌した。得られた混合物の評価結果を、まとめて表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
熟成が不十分な堆肥を用いた場合は、団粒構造の形成が見られず、透水性もないが、堆肥の熟成が十分に進むほど、団粒構造が形成され、透水性も向上する。
【0060】
(実施例3)
1/2000アールのワグネルポット(開口面積500cm×高さ40cmの硬質プラスチック製円筒形ポット、底部に排水口を有する)に、前記の実施例1で得られた土壌改良材を上端から10cm程度まで充填した(約15kg)。これにポットの上端近くまで水道水を注入し、排水口から水を排出して土壌改良材の脱塩処理(リーチング)を行った。注入した水の量(リーチング水量)と、排出される排水の電気伝導を測定した。土壌改良材のリーチング結果を、表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
土壌改良材は底質原土に比べて透水性が向上しているため、土壌改良材の見かけ体積に対して約2倍程度のリーチング水を灌水することにより、相当程度の脱塩が行えた。また、35Lのリーチング水で処理したときの、土壌改良材の電気伝導度は、1dS/m以下であった。
【0063】
(比較例2)
底質原土のみを用い、実施例3と同様の操作で底質原土のリーチングを行ったが、底質原土は殆ど透水性がないため、脱塩することはできなかった。
【0064】
(実施例4)
実施例3で得られた脱塩処理後の土壌改良材を用いて、コマツナの植栽試験を行った。
1/2000アールのポットに土壌改良材を体積で約15L充填し、土壌改良材の表面から10cmの深さの土層を細かく粉砕した後、表面を均し、ポット当たりコマツナ(中生コマツナ)の種子100粒をなるべく均一になるように3個のポットに播種した。また、市販の化成肥料を、ポット当たり0.5g(標準半量区)及び1.0g(標準施肥区)を土壌改良材に施用したポットをそれぞれ3個づつ作成し、土壌改良材のみの場合と同様にしてコマツナを播種した。
【0065】
これらのポットをガラス室内(温度無調整)に置いてコマツナの栽培を行った。なお、土壌の表面が乾いたら水道水100mLを散水した。
【0066】
何れのポットも、発芽率としては90〜100%を示し、特に問題なく発芽した。本葉が3枚展開した段階で、ポット当たり10個体となるように間引き処理を行い、播種後40日まで栽培を続けた。何れのポットも、葉色の変化などコマツナの栄養生理上に異常をもたらす兆候は認められなかった。収穫時のコマツナの草丈及び生重量の平均値を、表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
草丈、生重量とも化成肥料を追加施用したものと殆ど同等であり、土壌改良材のみでも植物栄養的に見て、植物を生育させるに必要な必須元素が多く含まれていることが分かる。
【0069】
(実施例5)
実施例3で得られた脱塩処理後の土壌改良材を用いて、ミニトマトの植栽試験を行った。
1/2000アールのポットに土壌改良材を体積で約15L充填し、更に市販の化成肥料1.0gを施用し、表層10cmの土層を撹拌し、表面を均した後、ミニトマト(ラブリー148)を播種し、ガラス室(温度23℃、湿度65%)内で栽培した。播種24日後の苗を、同様にして調製した1/2000アールのポットに定植し、更に栽培を継続した。なお、土壌の表面が乾燥したら、水道水100mLを散水した。
【0070】
これと同様にして、土壌改良材の代わりに、黒ボク土(植物が腐って土にかえった成分の多い、火山灰に由来する黒い色をした土)、及びマサ土(花崗岩が風化することによってできた赤黄色の土)を用いてミニトマトを栽培した。
【0071】
ミニトマトは何れの土壌でも良好に生育し、定植後66日目における土壌改良材で栽培したミニトマトの生育状況は、草丈は黒ボク土よりやや劣るもののほぼ同等であり、マサ土よりも優れていた。また、茎の太さ及び葉の展開は、土壌改良材が黒ボク土及びマサ土よりも優れていた。
【0072】
定植後77日目及び85日目にそれぞれ果実を収穫した。ミニトマトの収穫個数は、土壌改良材に栽培したものが8個、マサ土に栽培したものが7個、黒ボク土に栽培したものが5個であり、土壌改良材が最も収量が多かった。
【0073】
得られた果実2個を用いて果実中の養分分析を行った。測定は、次のように行った。まず前処理として、硫酸と硝酸の混合溶液(容量で1:3の混合溶液)を用いて果実を完全に溶液化し、試料溶液とした。この溶液をオートアナライザーを用いて、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム及びマグネシウムについて分析した。結果を表6に示す。
【0074】
【表6】

【0075】
土壌改良材を用いて栽培したミニトマトの果実に含まれる養分は何れの項目でも最も高い値を示し、無機養分の果実への集積が高いことが示された。
【0076】
(実施例6)
3種の培地で栽培したミニトマトの1株の植物体から、1種の培地当たり3個の成熟果実を収穫し、合計9個の果実を収穫した。同種の栽培培地から収穫した3個の果実を1個づつ、3人のパネラーに一切の情報を与えずにその場で食味してもらい、食味官能試験を行った。食味官能試験では、酸味、甘味、果肉組織及び総合評価の4項目について、それぞれ表7に示すように5段階に分けて評価を行った。なお、総合評価では、1を最も低い評価、5を最も高い評価とした。食味後約1分後に、酸味、甘味、果肉組織、及び総合評価の4項目について、それぞれ表7に示す評価基準に基づき、パネラー間で情報交換することなくそれぞれのパネラーが評価をアンケート用紙に記入した。評価後、口を水道水で十分にすすぎ、約5分後に次の同一培地の果実について同様に食味試験を行った。このようにして3種の培地で栽培した果実についての食味官能試験を行った。
【0077】
【表7】

【0078】
食味官能試験の結果を平均して表8に示す。
【0079】
【表8】

【0080】
土壌改良材で栽培した果実の食味が、いわゆる「濃い味」となって現れ、また、果実の触感が硬くしっかりした果実にできあがっていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水中に堆積した底質土に、植物廃材を原料とした堆肥を加えて混合し、更に熟成させて団粒構造を形成させることを特徴とする土壌改良材の製造方法。
【請求項2】
底質土と堆肥の混合比が、重量比で15:1〜1:2である請求項1に記載の土壌改良材の製造方法。
【請求項3】
更に脱塩処理を行う請求項1又は2に記載の土壌改良材の製造方法。
【請求項4】
植物廃材を原料とした堆肥が、植物廃材を原料とした腐熟堆肥である請求項1〜3のいずれか1項に記載の土壌改良材の製造方法。
【請求項5】
家畜糞便を用いない請求項1〜4のいずれか1項に記載の土壌改良材の製造方法。

【公開番号】特開2011−46757(P2011−46757A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193766(P2009−193766)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(504223237)秋田石油備蓄株式会社 (3)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【Fターム(参考)】