説明

土壌診断方法および土壌病害防止対策提案方法

【課題】測定対象微生物が異なってもその都度、病害抑止性の評価を行うことなく、容易に各種の糸状菌に起因する植物の土壌病害の被害発生とその程度を予測診断し、土壌病害を防ぐ効果的対策を示せる土壌診断方法の提供。
【解決手段】各種の糸状菌に起因する土壌病害の発生がある土壌、その被害程度が異なる土壌などの複数の土壌についてトマト萎ちょう病菌J1を用いる評価方法で抑止率を測定し、この測定値から、各種の糸状菌に起因する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断する基準を作成しておき、被検土壌の前記抑止率を前記評価方法で測定し、この測定値を前記基準に従って、被検土壌の前記トマト萎ちょう病菌およびそれ以外の各種の糸状菌に起因する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断することにより、課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌診断方法および土壌病害防止対策提案方法に関するものであり、さらに詳しくは、植物の栽培で最も脅威となっている土壌病害の被害発生とその程度を予測診断し、土壌病害防止対策を提案する方法に関するものである。
診断と対策の対象にしている土壌病害は各種の糸状菌に起因する土壌病害で、糸状菌が病原菌となった土壌病害または糸状菌が関与している土壌病害(レタスのビックベイン病など)である。放線菌が病原菌になっている土壌病害(ジャガイモのそうか病など)や細菌が病原菌になっている土壌病害(ナス科植物の青枯れ病など)は対象にならない。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の圃場栽培において土壌を分析(非特許文献1参照)して診断し、対策を示すことが行われてきた。これにより植物を順調に生育させる栽培、作物では収量や品質を高める栽培に役立てられてきた。
土壌を分析して診断する場合に、大きくわけて物理性の分析と診断、化学性の分析と診断、および生物性の分析と診断と3種類の分析と診断をあげることができる。
【0003】
土壌の物理性の分析と診断では硬度や粒径分布、透水性、保水性、三相分布(気相、液、固相)などを分析し、栽培している植物の種類により評価し、栽培の目的にあった方向で改善する対策が示される。耕うん、深耕、土壌改良材の施用や客土などにより目的にあった物理性の改善が行われている。
【0004】
土壌の化学性の分析と診断ではpH(H2 O)、電気伝導度(EC)、窒素(全窒素、アンモニア態窒素、硝酸態窒素)、可給態リン酸、交換性カリ、交換性石灰、交換性苦土、交換性マンガン、水溶性ホウ素、可給態鉄、可給態銅、可給態亜鉛、塩基置換容量(CEC)、腐植、リン酸吸収係数、水溶性塩素イオン、水溶性硫酸イオンなどを分析し、さらに石灰と苦土や苦土とカリの陽イオン電荷比や塩基飽和度を計算して求め、これらの分析値と計算値を栽培している植物の種類によりそれぞれの基準で評価し、栽培の目的にあった方向で改善する対策が示される。
【0005】
アルカリ性の資材または酸性の資材の施用によるpH(H2 O)の矯正、窒素、リン酸、カリの三要素肥料の施用量の調節、石灰や苦土のアルカリ資材の施用量の調節、マンガンやホウ素、鉄、銅、亜鉛、モリブデンなどを含む微量要素資材の施用量の調節、腐植酸資材やゼオライトなどの鉱物資材の施用、これらの方法で土壌の化学性を改善する対策が示される。
【0006】
土壌の物理性や化学性を分析し、栽培する植物の種類により評価し、栽培の目的にあった方向で改善する対策を行うことにより、植物を順調に生育させる栽培、作物では収量や品質を高める栽培に役立てられている。
湿害による土壌の物理性の不良でハクサイ根こぶ病が激発した例(非特許文献2参照)が知られおり、このような土壌の物理性の不良を改善することで土壌病害を軽減できる。
また、ハクサイなどアブラナ科野菜の根こぶ病は土壌のpHが低いと発生しやすくなることから、石灰などアルカリ資材を施用して土壌のpHを上げることで根こぶ病の被害を軽減できる。さらにアブラナ科野菜の根こぶ病は土壌のトルオーグリン酸が200mg/100g以上で発生しやすくなることが知られている(非特許文献4参照)。
レタスは土壌のpH(H2 O)が6.5以上になるとビッグベイン病に感染しやすくなる(非特許文献3参照)。
またインゲンマメはpHが高いほど根腐病の発病が多くなる(非特許文献6参照)。
【0007】
しかし、土壌病害は土壌の物理性の不良が主な原因ではなく、その多くが土壌の生物性(微生物性)の不良とこれに化学性や物理性の不良が加わって発生していると指摘されている(非特許文献2参照)。
従って、土壌の生物性、化学性それぞれ単独での分析と診断では、土壌病害の発生要因を正確に把握できず、単独診断による対策は土壌病害を防止するには十分な効果を期待できない場合がある。
そこで土壌病害の被害発生を予測診断し対策を示し高い効果を得るためには、これらの土壌の生物性と化学性の分析と評価および診断を行うとともに、これらを組み合わせた診断に基づいて総合対策を提案することが好ましい。
【0008】
土壌の生物性では微生物に関する分野で土壌呼吸量を二酸化炭素発生量や酸素吸収量で測定する方法、土壌の菌を抽出して土壌の菌数を希釈平板法や直接法により分析する方法、酵素活性の測定、細菌群の多様性をBIOLOG法やキノンプロファイル法、リン脂質解析、タンパク質解析、遺伝子解析(DNA−DGGE法、逆転写DNA−DGGE法、DNA−Fish法、DNAマクロアレイ法)する方法などがある。
【0009】
しかし、これらの分析法はデータを出すことはできても診断する基準がない。また、評価する場合にも単一の土壌もしくは同じ性質の土壌のみに適用が可能で、複数の土壌や性質の違う土壌には適用できなかった。つまり土壌の生物性の微生物に関する分野では多くの分析法があっても、得られたデータを複数の土壌に対して評価することはできなかった。
【0010】
さらに土壌の生物性の微生物に関する分野では土壌の硝化能の分析が行われている。これは消毒した土壌では硝化能に関わっている微生物が減少して植物の栽培に負の影響を与えることから、これを分析してこの機能の回復を調べる目的で利用されている。この場合には消毒前の土壌の硝化能が基準となるので評価できる。
【0011】
土壌の生物性の微生物以外に関する分野では線虫の数を分析し、単位土壌あたりの数で評価が行われている。
【0012】
土壌の生物性の微生物に関する分野で土壌の病害抑止性の評価方法(特許文献1参照)が提案されている。この方法は前培養した指示菌とする病原菌を適切な培地に添加し、これに土壌または海砂で希釈した土壌を被覆し、次いでこの培地を培養し、菌糸の伸長距離を測って病原菌の生育度を調べ、これを対照とした土壌の場合と比較して評価するものである。比較対照とする土壌に、病気の発生が過去に知れていない良質な土壌とされている。
【非特許文献1】『土壌標準分析・測定法』日本土壌肥料学会監修、土壌標準分析・測定法委員会編、博友社、昭和61年発行
【非特許文献2】駒田亘、『土壌病害の発生生態と防除』、タキイ種苗(株)広報出版部、p12
【非特許文献3】淡路島普及センターだより、第103号、平成10年3月1日
【非特許文献4】日本土壌肥料学会編『施肥管理と病害発生』博友社、p75、IIIリン酸過剰が土壌病害を助長する、2004年
【非特許文献5】星野(高田)裕子、「病害防除と微生物多様性−土壌消毒が微生物群集及び植物病原菌に与える影響解明−」、土と微生物、p77−p82、59、2005
【非特許文献6】遠山明、砂地土壌のpHと作物土壌病害との関係、砂丘研究、p142〜147、31、1984
【特許文献1】特許第3051920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記特許に記載された病害抑止性の評価方法の実施例には、白紋羽病菌を用いた例が開示されているが、その後の調査で土壌病害が発生している土壌でも抑止率が高くなることが判明し、白紋羽病菌を指示菌とする方法では、被検土壌の各種の糸状菌に由来する土壌病害の発生に対して正確な評価ができないことが判った。
また、この方法では、土壌病害の発生の有無や発病度の違う土壌を測定し、病原菌の抑止率を求めて評価しているが、評価基準が示されていないために土壌病害の被害発生の程度を予測評価することはできず、効果的な対策を示すことができないという問題がった。
【0014】
本発明の第1の目的は、特定のトマト萎ちょう病菌を指示菌とする方法を用いて、各種の糸状菌に対する生育の抑止性が既知である複数の土壌について病害抑止性を評価して基準を作成しておき、被検土壌についても同じ方法で病害抑止性を評価して、前記基準に基づいて被検土壌の各種の糸状菌に起因する植物の土壌病害の被害発生とその程度を予測診断し、土壌病害を防ぐための効果的な対策を示すことができる土壌診断方法を提供することである。
本発明の第2の目的は、前記の土壌診断方法に加えて土壌の化学性の評価による土壌病害の発生への影響を診断するか、あるいは前記の土壌診断方法に加えて土壌の化学性分析による評価と診断を行うとともに、土壌の細菌と放線菌の合計菌数の評価との組み合わせによる土壌病害の発生原因を診断して土壌病害を防ぐ対策を提案する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するための本発明の請求項1に記載した土壌診断方法は、各種の糸状菌に起因する土壌病害の発生がある土壌、その被害程度が異なる土壌、土壌病害の発生がない土壌、米ぬかや麦わらなどを施用して生物的な改良を加えて土壌病害の発生がない土壌を含む複数の土壌についてトマト萎ちょう病菌J1(Fuzarium oxysporum)を用いる評価方法で前記トマト萎ちょう病菌の生育の抑止率を測定し、この測定値から、前記各種の糸状菌に起因する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断する基準を作成しておき、
被検土壌の前記抑止率を前記評価方法で測定し、この測定値を用いて前記基準に従って、前記被検土壌の前記トマト萎ちょう病菌およびそれ以外の各種の糸状菌に起因する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断することを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項2に記載した土壌診断方法は、請求項1記載の土壌診断方法において、前記土壌病害の被害発生とその程度を予測診断する基準は、求めた抑止率により下記1〜4の4段階であることを特徴とする。
(基準)
1.抑止率が80%以上である土壌は「土の力」が良く、各種糸状菌に起因する土壌病害が発生しにくい。
2.抑止率が70%以上80%未満である土壌は「土の力」が普通であり、各種糸状菌に起因する土壌病害がやや発生しにくい。
3.抑止率が60%以上70%未満である土壌は「土の力」がやや不良であり、各種糸状菌に起因する土壌病害が発生しやすい。
4.抑止率が60%未満である土壌は「土の力」が不良であり、各種糸状菌に起因する土壌病害が非常に発生しやすい。
【0017】
本発明の請求項3に記載した発明は、請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法による土壌病害の被害発生とその程度の予測診断により土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法である。
【0018】
本発明の請求項4に記載した発明は、請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法に加えて被検土壌の化学性分析による評価を行って土壌病害の被害発生への影響を診断して土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法である。
【0019】
本発明の請求項5に記載した発明は、請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法に加えて被検土壌の化学性分析による評価と診断を行うとともに、被検土壌の細菌と放線菌の合計菌数の評価を行って土壌病害の発生原因を診断して土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法である。
【発明の効果】
【0020】
発明の請求項1に記載した土壌診断方法は、各種の糸状菌に起因する土壌病害の発生がある土壌、その被害程度が異なる土壌、土壌病害の発生がない土壌、米ぬかや麦わらなどを施用して生物的な改良を加えて土壌病害の発生がない土壌を含む複数の土壌についてトマト萎ちょう病菌J1(Fuzarium oxysporum)を用いる評価方法で前記トマト萎ちょう病菌の生育の抑止率を測定し、この測定値から、前記各種の糸状菌に起因する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断する基準を作成しておき、
被検土壌の前記抑止率を前記評価方法で測定し、この測定値を用いて前記基準に従って、前記被検土壌の前記トマト萎ちょう病菌およびそれ以外の各種の糸状菌に起因する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断することを特徴とするものであり、
土壌病害の被害発生とその程度を予測診断することができ、それにより土壌病害を防ぐための効果的な対策を示すことができるという顕著な効果を奏する。
【0021】
本発明の請求項2に記載した土壌診断方法は、請求項1に記載した土壌診断方法において、土壌病害の被害発生とその程度を予測診断するための基準が、求められた抑止率により前記1〜4の4段階であることを特徴とするものであり、
この4段階の基準に基づいて被検土壌の「土の力」を容易に評価できるので、被検土壌の各種の糸状菌に起因する植物の土壌病害の被害発生とその程度を予測診断し、土壌病害を防ぐための効果的な対策を確実に示すことができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0022】
本発明の請求項3に記載した発明は、請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法による土壌病害の被害発生とその程度の予測診断により土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法であり、
被検土壌の各種の糸状菌に由来する植物の土壌病害の被害発生とその程度を予測診断し、土壌病害を防ぐための効果的な対策を示すことができるという顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項4に記載した発明は、請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法に加えて被検土壌の化学性分析による評価を行って土壌病害の被害発生への影響を診断して土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法であり、
被検土壌の各種の糸状菌に由来する植物の土壌病害の被害発生とその程度を確実に予測診断し、土壌病害を防ぐための効果的で確実な対策を示すことができるという顕著な効果を奏する。
【0024】
本発明の請求項5に記載した発明は、請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法に加えて被検土壌の化学性分析による評価と診断を行うとともに、被検土壌の細菌と放線菌の合計菌数の評価を行って土壌病害の発生原因を診断して土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法であり、 被検土壌の各種の糸状菌に由来する植物の土壌病害の被害発生とその程度をさらに確実に予測診断し、土壌病害を防ぐための効果的でさらに確実な対策を示すことができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に本発明の内容を詳細に説明する。
本発明において糸状菌に対する生育の抑止性が既知である複数の土壌についてトマト萎ちょう病菌J1を用いる評価方法で前記トマト萎ちょう病菌の生育の抑止率を評価する。
前記複数の土壌としては、具体的には、例えば、土壌病害の発生した土壌、土壌病害の発生していない土壌、同じ圃場で土壌病害の被害程度が異なる場所の土壌、米ぬかや麦わら、草堆肥などを土壌に施用して連作しても土壌病害の発生していない土壌などをあげることができる。
【0026】
トマト萎ちょう病菌J1を用いる評価方法としては下記の評価方法を用いることが簡便で再現性がよいので好ましい。
(評価方法)
シャーレ中のPSA寒天培地上で生育させたトマト萎ちょう病菌J1(Fuzarium oxysporum)をコルクポーラで打ち抜き、これを別のシャーレ中のPSA寒天培地上の中心部に置き、25℃のインキュベータで1日間培養し、これに海砂と評価する土壌を9対1の割合で混合した混合物を被覆し、次いで同様にして3日間培養し、得られる培養物から前記病菌の3日間培養伸長距離Bを測定する。
一方、前記混合物をオートクレーブで120℃、1時間殺菌した混合物を用いて同様にして3日間培養し、得られる培養物から前記病菌の3日間培養伸長距離Aを測定する。
【0027】
そして、次式(1)により抑止率(%)を求める。
抑止率(%)=[(A−B)/A]×100 式(1)
【0028】
この評価方法により測定した抑止率の測定値から、各種の糸状菌に由来する植物の土壌病害の被害発生とその程度を予測診断するための基準を作成する。
この基準としては前記1〜4の4段階が実用的で好ましい。
【0029】
そして、被検土壌の前記抑止率を前記評価方法で測定し、この測定値を前記基準に従って、被検土壌の各種の糸状菌に由来する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断し、土壌病害を防ぐための効果的な対策を示すことができる。
【0030】
土壌の細菌と放線菌の合計菌数は下記の菌数測定方法で測定することが簡便で再現性がよいので好ましい。
(菌数測定方法)
pHを塩酸または水酸ナトリウムにより5.0に調整したYG培地用いて被検土壌から分離した菌を7日間培養し、この培地に出現した細菌と放線菌の合計の菌数を計測し、乾土1gあたりの細菌と放線菌の合計菌数に変換する。
【0031】
圃場の管理状態が既知である土壌(例えば、土壌病害の発生した土壌、土壌病害の発生していない土壌、同じ圃場で土壌病害の被害が異なる場所の土壌、米ぬかや麦わら、草堆肥などを土壌に施用して連作しても土壌病害の発生していない土壌など)の細菌と放線菌の合計菌数を前記菌数測定方法で測定し、この測定値の度数分布から合計菌数の評価基準を作成する。
この基準として下記1〜5の基準が好ましい。
(菌数の評価基準)
菌数(×107 個/g乾土) 合計菌数基準
1. 20.0以上 多い
2. 10.0以上20.0未満 やや多い
3. 3.0以上10.0未満 標準
4. 1.0以上3.0未満 やや少ない
5. 1.0未満 少ない
【0032】
合計菌数の評価で土壌消毒の影響を推定でき、さらに、「土の力」の評価と組み合わせると堆肥や有機物の施用の影響が評価でき、さらに土壌の交換性カリの評価を加えると牛糞堆肥の影響を評価できる。
【0033】
本発明で用いる土壌の化学性の分析は、前記非特許文献1に記載されている方法に準じて行う。
この化学性の分析は、pH(H2 O)、EC、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、トルオーグリン酸、交換性カリ、交換性石灰、交換性苦土、交換性マンガンなどの測定を含むものであり、これらの分析値及び石灰と苦土の陽イオン電荷比、苦土とカリの陽イオン電荷比などにより栽培している植物の種類や品種によりそれぞれの基準で評価し、土壌病害の発生への影響を診断でき、栽培の目的に合った方向で土壌病害を防ぐ対策を示すことができる。
【0034】
土壌のpHにより土壌病害に感染しやすくなる植物があり、例えばpHが高くなると感染しやすくなる植物と、pHが低くなると感染しやすくなる植物とがある。これらの植物と土壌病害に対する関係を知って、土壌病害への影響を診断することができ、土壌のpHを適正に矯正する対策をとることで土壌病害の被害を軽減できる。
【0035】
土壌のECが0.30〜1.00mS/cm以上または硝酸態窒素が3.50〜20.00mg/100g以上になると、植物の根は傷んで弱り土壌病害に感染しやすくなると診断でき、窒素の施肥量を減らしてEC及び硝酸態窒素の上昇を抑える対策や湛水除塩してEC及び硝酸態窒素を下げる対策を行って、植物の根傷みを防ぎ、土壌病害の発生を軽減できる。
【0036】
土壌のアンモニア態窒素または硝酸態窒素、またはこの両成分の合計量が4.5〜30.0mg/100g以上になると、植物は窒素が過多になり軟弱な生育をするため土壌病害に感染しやすくなると診断でき、栽培基準に示されている窒素の施肥量を減らす対策を行って植物の窒素過多を防ぎ、土壌病害の発生を軽減することができる。
【0037】
土壌のアンモニア態窒素と硝酸態窒素の合計量が1.0mg/100g以下になると、植物は窒素欠乏となり生育が弱り、土壌病害に感染しやすくなると診断することができ、窒素を栽培基準の適正量を施用する対策を行って、植物が窒素欠乏となり生育が弱るのを防ぎ、土壌病害の発生を軽減することができる。
【0038】
土壌のトルオーグリン酸が200mg/100g以上の土壌でアブラナ科野菜の根こぶ病が発生しやすくなると診断でき、栽培基準に示されているリン酸の施肥量を減らす、または中止して、土壌のトルオーグリン酸の増加を抑える対策を行って、アブラナ科野菜の根こぶ病の被害を軽減することができる。
【0039】
土壌の交換性カリが10〜15mg/100g以下の場合または苦土とカリの電荷比が6.0〜10.0以上の場合に植物はカリ欠乏状態になりやすく、病気への抵抗性が弱り、このため土壌病害に感染しやすくなると診断することができ、土壌の交換性カリが10〜15mg/100g以下の場合にはこの値以上となるようにカリの施肥量を調節するか、苦土とカリの電荷比が6.0〜10.0以上の場合にはこの値以下になるように苦土の施肥を中止もしくは施肥量を減らす調節を行う対策を行って、植物のカリ欠乏を防ぎ、土壌病害の発生を軽減することができる。
【0040】
土壌の交換性石灰が150〜200mg/100g以下または石灰と苦土の電荷比が3.0〜5.0以下で、植物は石灰欠乏状態になりやすく、病気への抵抗性が弱り、土壌病害に感染しやすくなると診断でき、土壌の交換性石灰が150〜200mg/100g以下の場合にはこの値以上になるように石灰の施肥量を調節するか、石灰と苦土の電荷比が3.0〜5.0以下の場合にはこの値以上になるように苦土の施肥を中止もしくは施肥量を減らす調節を行う対策を行って、植物の石灰欠乏を防ぎ、土壌病害の発生を軽減することができる。
【0041】
交換性マンガンが1.0ppm以下の場合に植物はマンガン欠乏状態になりやすく、病気への抵抗性が弱り、土壌病害に感染しやすくなると診断でき、硫酸マンガンの施用や土壌のマンガンを還元して交換性マンガンを増加させる対策を行って、植物のマンガン欠乏を防ぎ、土壌病害の発生を軽減することができる。
【0042】
交換性カリが40mg/100g以上で、合計菌数がやや多いまたは多いと評価された土壌は、牛糞堆肥を施用している土壌と判断できる。さらに「土の力」がやや不良または不良と評価された場合は、施用した牛糞堆肥が「土の力」を低下させ、土壌病害が発生しやすくなっていると診断することができ、牛糞堆肥の施用を中止または施用量を減らす対策を行って、「土の力」の低下を防ぎ、土壌病害の発生を軽減することができる。
【0043】
なお前記栽培基準とは、栽培する作物の種類、品種、作型に対して各都道府県の関係機関や農協などが定めている施肥量の基準を示している。
【0044】
そして、土壌病害の被害発生とその程度の予測診断は次のようにして行う。
(1)被検土壌の前記抑止率を前記評価方法で測定し、この測定値を前記基準に従って、被検土壌の各種の糸状菌に由来する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断する。
(2)被検土壌の合計菌数を前記測定方法で測定し、この測定値を前記合計菌数の評価基準で評価する。
(3)前記(1)の土壌診断方法と前記(2)の合計菌数の評価とを組み合わせて土壌病害の発生原因を診断する。
(4)被検土壌の化学性の分析とその評価により、土壌病害の発生への影響を診断する。
(5)前記(1)の土壌診断方法と前記(2)の合計菌数の評価、前記(4)の化学性の分析とその評価とを組み合わせて土壌病害の発生原因を診断する。
【0045】
そしてこれらの土壌病害の被害発生とその程度の予測診断及び発生原因の診断に基づいて土壌病害を防ぐための具体的な対策を提案する。
この提案とともに栽培する植物の種類、品種、栽培地域、栽培体系に合わせた施肥方法及び栽培方法への提案を加えることにより、植物の病気への抵抗力を高めて土壌病害をさらに防ぐ。
【0046】
以下に土壌病害を防ぐための具体的な対策について説明する。
抑止率が70%以下で「土の力」がやや不良である土壌は、各種の糸状菌による土壌病害が発生しやすい。土壌病害を防ぐには、「土の力」を維持・向上できる例えば資材「ESバイオ1号」を10アールあたり60〜500kgを圃場に施用する。
【0047】
ただし、資材「ESバイオ1号」はエーザイ生科研(株)製の微生物組成物であり、枯草菌類から選択される2種以上の枯草菌を1×103個/g以上と、乳酸菌から選択される2種以上の乳酸菌を1×103個/g以上と、前記枯草菌により糖類に分解可能な多糖類から選択される少なくとも1種の多糖類を含む微生物組成物であって、土壌に施用する前は前記菌がいずれも休眠状態にある微生物組成物である。
【0048】
トマト、ナス、スイカ、メロンなどの果菜類の栽培では、土壌病害に抵抗性のある台木を利用できる品種の場合はこれを利用して、土壌病害を防ぐことを提案する。
しかし、抑止率が70%以下で「土の力」がやや不良または不良の場合は、土壌病害に抵抗性のある台木を使った栽培でも、土壌病害に感染することがあので、前記資材「ESバイオ1号」を施用し、抑止率を70%以上に高め、「土の力」を良くし、土壌病害を防止することを提案する。
加えて果菜類は、着果負担や成り疲れ現象、天候不良により樹勢が弱り土壌病害に感染することがあるため、追肥や葉面散布などにより樹勢の低下を防いで土壌病害を防止することを提案する。
【0049】
葉菜類の栽培では、土壌病害に抵抗性のある品種を栽培して土壌病害を防ぐ方法が有効である。
しかし、ホウレンソウの萎ちょう病に抵抗性のある品種アクティオンを栽培した場合は、プリウスなどの品種と比較して収量が低くなる。また、抑止率が70%以下で「土の力」がやや不良または不良の場合は、抵抗性品種であっても土壌病害に感染することがある。
そこで葉菜類の土壌病害を軽減するには、前記資材「ESバイオ1号」を施用して、抑止率を70%以上に高め「土の力」を良くし、土壌病害を防止することを提案する。
さらに土壌の過湿や乾燥により葉菜類の根が傷み土壌病害に感染しやすくなるので、適度な灌水をすることを提案できる。
【0050】
ニンジンやダイコンなどの根菜類では、前記資材「ESバイオ1号」を施用して、抑止率を70%以上に高め「土の力」を良くし、土壌病害を防止することを提案する。
【0051】
アスパラガスなどの永年性作物の栽培やトルコギキョウなど改植しないで栽培する切り花栽培では、3〜5年以上連作すると土壌病害が発生してくる。アスパラガスの立枯れ病が発生している土壌では、抑止率が70%以下となっているので、前記資材「ESバイオ1号」を施用し、抑止率を70%以上に高め、「土の力」を良くし、土壌病害を防止することを提案する。
アスパラガス以外の永年性作物やトルコギキョウなど改植しないで栽培する切り花栽培でも、前記資材「ESバイオ1号」を施用して、抑止率を70%以上に高め、「土の力」を良くし、土壌病害を防止することを提案する。
【0052】
抑止率が70%以下の土壌で栽培されているここに示した以外の作物、植物の土壌病害を防ぐには、前記資材「ESバイオ1号」を施用し、抑止率を70%以上に高め、「土の力」を良くし、土壌病害を防止することを提案する。
【0053】
土壌の細菌と放線菌の評価と、前記「土の力」の評価により、堆肥や有機物の施用による土壌の菌数や「土の力」への影響、土壌消毒の影響などを診断でき、土壌病害を防止するための対策を示すことができる。
【0054】
すなわち、菌数が多いまたはやや多いと評価され、「土の力」が良いまたは普通と評価された土壌は、施用した堆肥または有機物が菌の栄養となり菌数が多くなって、「土の力」を高めていると診断できる。この土壌の土壌病害を防ぐ対策は、この堆肥または有機物の施用により抑止率の維持・向上を図ることを提案できる。
【0055】
一方、菌数が多いまたはやや多いと評価され、「土の力」がやや不良または不良と評価された土壌は、施用した堆肥または有機物が菌の栄養となり菌数を多くしているが、「土の力」を低下させていると診断できる。この土壌の土壌病害を防ぐ対策は、この施用した堆肥または有機物の施用を中止するかまたは施用量を減らして「土の力」の低下原因を除くことを提案できる。
【0056】
菌数が少ないまたはやや少ないと評価された土壌は、菌の栄養となる有機物が土壌に少ないまたは土壌消毒をした土壌であると診断される。多くの耕地土壌では栄養となる有機物が土壌に少ない場合は稀で、ほとんどの場合が土壌消毒した土壌である。
土壌消毒により土壌病害を一時的に防ぐことはできるが、2作、3作と連作した場合には生き残った病原菌が土壌中で増殖して土壌病害が発生し、その被害は大きくなることが知られている(非特許文献5参照)。またこの土壌消毒した土壌では、多くの場合に抑止率が低下して「土の力」はやや不良または不良となっており、病原菌が増殖しやすい状態になっている。
そこで、土壌消毒をした土壌の土壌病害を防ぐ対策は、土壌の細菌・放線菌の菌数を増加させることができ「土の力」を維持・向上できる前記資材「ESバイオ1号」の施用を提案できる。
【0057】
菌数が少ないまたはやや少ないと評価され、「土の力」が良いまたは標準と評価された土壌は、「土の力」を高めている菌の効力が低下するため土壌病害が発生しやすくなる。そこで土壌病害を防ぐには、土壌の細菌・放線菌の菌数を増加でき「土の力」を維持・向上できる前記資材「ESバイオ1号」の施用を提案できる。
【0058】
レタスは土壌のpH(H2 O)が6.5以上になるとビッグベイン病に感染しやすくなると診断でき、硫黄などを含み土壌のpHを低下させる資材(例えば肥料登録名「ガッテンペーハー」、登録番号「生第80363号」)を土壌に合わせて10アールあたり50〜100kg施用して、土壌のpH(H2 O)を6.5以下に低下させて、ビックベイン病を防ぐ対策を提案できる。
【0059】
高麗芝は土壌のpH(H2 O)が5.0以上になるとラージパッチ病に感染しやすくなると診断でき、土壌のpHを低下させる前記資材「ガッテンペーハー」を施用して、土壌のpH(H2 O)を5.0以下に低下させて、ラージパッチ病を防ぐ対策を提案できる。
【0060】
インゲンマメはpHが高いほど根腐病の発病が多くなると診断でき(非特許文献6参照)、土壌のpHを低下させる前記資材「ガッテンペーハー」を土壌に合わせて施用して土壌病害を防ぐ対策を提案できる。
【0061】
ネギはpH(H2 O)が高い(6.5−7.4)ほど萎ちょう病の発病が少ないと診断でき、アルカリ資材を土壌に合わせて施用(例えば石灰を施用する場合、10アールあたり50〜200kg)して土壌病害を防ぐ対策を提案できる。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
表1に示した各地域、農家から、糸状菌に対する生育の抑止性が既知である複数の土壌を収集した。なお、表1には作物名、土づくり対策が施されている場合はその資材名、土壌病害の有無、病名および病原菌名を示した。そして収集した土壌についてトマト萎ちょう病菌J1を用いる評価方法で前記トマト萎ちょう病菌J1の生育の抑止率を測定して表1に示した。
そしてこの測定値から糸状菌に起因する植物の土壌病害の被害発生とその程度を予測診断するための基準を作成した。
そして、被検土壌の抑止率を同じ評価方法で測定した測定値を前記基準に従って評価し、被検土壌の各種糸状菌に起因する植物の土壌病害の被害発生とその程度を予測診断し、対策を提案した。
【0063】
(1)診断するための基準を作成するための土壌の収集
表1に示した各地域、農家から作物を栽培している圃場より、糸状菌に対する生育の抑止性が既知である複数の土壌を採取した。
収集した土壌は土壌病害の発生した土壌や発生していない土壌、同じ圃場であっても土壌病害の被害程度が異なる場所から採取した土壌、米ぬかや麦わら、草堆肥などの土づくり対策資材を施用して連作しても土壌病害が発生していない土壌を収集した。
【0064】
(2)抑止率測定用平板培地の作成
トマト萎ちょう病菌J1(Fuzarium oxysporum)をPSA平板培地(皮を剥きサイコロ状に切ったジャガイモ200gを1リットルの蒸留水で約1時間煮沸し、これをガーゼろ過して得られたろ液に蒸留水を加えて1リットルにし、これにサッカロース20gと寒天15gを加えて溶解・滅菌させて作成する)に接種し、25℃のインキュベーターで7〜14日間静置培養する。
この平板培地上に増殖したトマト萎ちょう病菌J1の菌叢を約5mmのコルクボーラーで打ち抜く。
新たに作成したPSA平板培地の中心にコルクボーラーで打ち抜いたトマト萎ちょう病菌J1の菌叢を置き、25℃のインキュベーターで24時間培養して、菌叢から伸びた菌糸の先端部位に印をつけ、抑止率測定用平板培地を作成する。
【0065】
(3)前記収集した土壌の病原菌(トマト萎ちょう病菌J1)の生育に対する抑止率の測定
前記収集した土壌を2mmの篩を通過させ、これをオートクレーブで殺菌した海砂と1対9の割合で混合する。
この土壌と海砂の混合物を半量づつに分け、一方をオートクレーブで120℃、1時間の条件で殺菌する。この殺菌した混合物と殺菌していない混合物をそれぞれ、先に作成した抑止率測定用平板培地に被覆する。
被覆する混合物の量は、直径85mmのプラスチックシャーレを使った平板培地1個あたり約20gを使用する。混合物を被覆した平板培地を25℃のインキュベーターで3日間培養する。
培養した平板培地の菌叢から伸びた菌糸の先端部位に印をつけ、被覆前に印をつけた位置からの伸長距離を測定する。ここで殺菌した混合物を被覆した場合の菌糸の伸長距離をA、混合物そのものを被覆した場合の菌糸の伸長距離をBとすると、土壌の病原菌に対する抑止率は次式によって求められる。
抑止率(%)=[(A−B)/A]×100 式(1)
【0066】
図1に抑止率の測定に培養した平板培地の裏面の写真と伸長距離A、Bを示した。
図1(イ)に示した平板培地は殺菌した土壌と海砂との混合物を被覆して培養した写真であり、図1(ロ)に示した平板培地は殺菌していない土壌と海砂との混合物を被覆して培養した写真である。
【0067】
採取した土壌の地域、農家記号、作物名、土づくり対策の施用資材、土壌病害の有無と発生している場合の病害名、病原菌の種類とともに求めた抑止率を表1に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
(4)前記収集した土壌の病原菌(トマト萎ちょう病菌J1)に対する抑止率に基づいて、各種の糸状菌に起因する植物の土壌病害の被害発生とその程度を予測診断するための下記基準を作成した。
【0070】
(基準)
1.抑止率が80%以上である土壌は「土の力」が良く、各種糸状菌に起因する土壌病害が発生しにくい。
2.抑止率が70%以上80%未満である土壌は「土の力」が普通であり、各種糸状菌に起因する土壌病害がやや発生しにくい。
3.抑止率が60%以上70%未満である土壌は「土の力」がやや不良であり、各種糸状菌に起因する土壌病害が発生しやすい。
4.抑止率が60%未満である土壌は「土の力」が不良であり、各種糸状菌に起因する土壌病害が非常に発生しやすい。
【0071】
これらをまとめて被検土壌の抑止率の測定値およびこの値に基づく「土の力」の評価、土壌病害の発生予測をするグラフを作成した。このグラフを図2に示した。
図2に示したように、被検土壌の抑止率は75%であったので、この測定値に基づく「土の力」の評価は「普通」であり、土壌病害の発生予測は「やや発生しにくい」である。
【0072】
(実施例2)
土壌の細菌と放線菌の合計菌数の測定と基準の作成
(1)土壌の細菌と放線菌の合計菌数の測定
YG培地のpHを塩酸または水酸ナトリウムにより5.0に調整した平板培地で土壌から分離した菌を7日間培養し、乾土1gあたりの細菌と放線菌の合計の菌数を測定した。
(2)菌数の評価基準の作成
表2に、圃場の管理状態が既知である土壌を253点収集して、菌数の度数分布およびその評価基準を作成して示した。調査した土壌は堆肥などの有機物を施用している圃場が多く、施用した有機物は菌の栄養となり菌数を増加させるために、菌数はやや少ないと少ないに対して多いとやや大いに方に偏りがある。菌数が乾土1gあたり10.0×107個以上の土壌は、堆肥や米ぬか、麦わら、草堆肥などの有機物を施用している土壌である。
菌数のやや少ないまたは少ない土壌は寒冷地の露地栽培の土壌、有機物の施用が少ない土壌、土壌消毒をした土壌などである。
【0073】
【表2】

【0074】
これらをまとめて被検土壌の合計菌数およびこの値に基づく菌数の評価を示すグラフを作成した。このグラフを図3に示した。
図3に示したように、被検土壌の合計菌数は12.0×107 個/乾土1gであったので、この測定値に基づく菌数の評価は「やや多い」である。
【0075】
(実施例3) 抑止率を高める前記資材「ESバイオ1号」の施用例
熊本県阿蘇郡の多腐植質黒ぼく土壌500mlと「ESバイオ1号」1gを混合してプラスチックポットに詰め、土壌水分を圃場容水量の60%になるように水を加え25℃の恒温室で1ヶ月間静置後に土壌の抑止率と菌数を測定した。同時に資材を加えない対照区を設けた。表3に結果を示した。
表3に示した結果では、前記資材「ESバイオ1号」区は対照区と比較して、抑止率は73%から91%に上昇し、菌数は乾土1gあたり3.7×107個から20.0×107個に増加した。前記資材「ESバイオ1号」の施用により、抑止率を高め、「土の力」を良くし、菌数を増やすことができた。
【0076】
【表3】

【0077】
(実施例4)エン麦鋤き込み後の抑止率の経時変化
北海道虻田郡のKH氏はエン麦を栽培して8月に土壌に鋤き込んだ。この土壌の抑止率を経時的に調査し、その結果を表4に示した。
鋤き込み1ヶ月後の2004年9月での土壌の抑止率は49%で非常に低く、同年11月では59%に上昇し、さらに翌年4月では71%まで高くなった。
エン麦を鋤き込むことで土壌の生物性を改善する効果を期待できる。実際に、この実施例では鋤き込み1ヶ月後の土壌の抑止率は49%で、翌年の4月の71%まで高くなっており、「土の力」は普通で土壌病害がやや発生しにくい状態になった。また、土壌に加わったエン麦などの有機物は土壌の菌の栄養となり、土壌の菌の状態が変化する。この実施例では、エン麦鋤き込みにより土壌の菌の状態変化、つまり抑止率が変化することを示している。
【0078】
【表4】

【0079】
(実施例5)土壌消毒による土壌の抑止率が低下した実施例
土壌消毒により土壌の病原菌が殺菌され土壌病害の発生を防ぐことができる。 土壌消毒により殺菌される菌は病原菌だけでなく、他の菌も殺菌され、この中で病原菌を抑止している菌も殺菌されるため抑止率が低下する。
土壌消毒をして抑止率が低下した土壌の事例および抑止率が低い土壌の事例を表5に示した。
【0080】
【表5】

【0081】
(実施例6)牛糞堆肥を施用している土壌の特徴
牛糞を含む堆肥を連用している土壌は、交換性カリの分析値が40mg/100g以上で、合計菌数はやや多いまたは多い状態になる。表6に牛糞を含む堆肥を施用している土壌の特徴を示した。「土の力」は土壌によって異なった。
【0082】
【表6】

【0083】
(実施例7)化学性の不良が土壌病害を助長した土壌の診断と土壌病害を防ぐ対策
熊本県上益城郡のOK氏のビニールハウスで発生したピーマン疫病の土壌を調査し、その結果を表7に示した。
調査した土壌は、疫病が激発したハウスの土壌Aと疫病が少ししか発生しなかったハウスの土壌Bであり、この両土壌を分析した結果を表7に示す。両土壌とも抑止率は72%であり、「土の力」は普通であり、通常の診断では土壌病害はやや発生しにくいと診断される。
しかし、両土壌とも土壌病害の疫病は発生しており、しかも一方は激発している。化学性の分析では、両土壌ともECが1.00mS/cmよりも高く、硝酸態窒素が20.0mg/100gよりも多い。両土壌とも硝酸態窒素が多いためEC(塩類濃度)が高くなっており、ピーマンの根は塩による浸透圧の影響から根が傷み病原菌への抵抗力が弱って疫病に感染した。さらに、疫病が激発している土壌Aは土壌BよりもECが高く、硝酸態窒素が多ため、土壌Aの被害は土壌Bよりも大きくなった。
【0084】
両土壌のピーマンの疫病を防ぐには、窒素の施肥量を減らし、硝酸態窒素を多くせず、ECを高めず、根が傷むのを防いで病原菌への抵抗力を弱らせないようにする必要がある。
実際にOK氏のハウスでは、この翌年のピーマンの作付けで土壌分析をして元肥の窒素量を減らし、前記資材「ESバイオ1号」を施用したところ、疫病の被害が少なくなった。
この実例から、土壌病害の発生予測の診断は、抑止率の測定による「土の力」の診断だけでは不十分な場合があり、化学性の分析と診断を加えることにより、より確実な診断ができ、土壌病害を防ぐ対策の効果を高めることができる。
【0085】
【表7】

【0086】
(実施例8)ホウレンソウ萎ちょう病の被害程度が異なる分析値の比較
熊本県阿蘇郡で栽培しているホウレンソウに萎ちょう病が発生しており、この土壌病害の被害度が異なる2戸の農家の土壌を2月に採取して調査した。ホウレンソウは種後40日前後で収穫できるため、1年間に4〜5回連作できる。気温が高くなる5月下旬から萎ちょう病は発生しやすくなり、7月、8月に被害が最も大きくなる。
表8に示したように、5月以降の栽培で萎ちょう病の被害が中症〜重症になったKFの土壌は抑止率が51%で「土の力」が不良、加えてECが0.30mS/cm以上で高く、硝酸態窒素が3.0mg/100g以上で多くなっており、土壌病害が非常に発生しやすく、ECが高く、硝酸態窒素が多いためにホウレンソウは根傷みして土壌病害に感染しやすい土壌であると診断される。
【0087】
一方、表8に示したように、前記萎ちょう病の被害が軽症になったYHの土壌は、抑止率が68%で「土の力」はやや不良、一方、ECが0.058mS/cmで低く、硝酸態窒素が0.92mg/100gで多くなく、土壌病害は発生しやすい状態であるが、ECや硝酸態窒素による根傷みのしない土壌であると診断される。
両土壌でのホウレンソウ萎ちょう病の被害の差は、抑止率およびこれに加えてEC、硝酸態窒素の差と一致している。KFの土壌には、窒素を施肥しなくてもホウレンソウを栽培できる窒素量があり、窒素の施肥は中止してECを高めず、硝酸態窒素を多くしない。これにより、根傷みと萎ちょう病の被害の原因を高めない。
また、両土壌とも牛糞を含む堆肥を施用しており、合計菌数がやや多いまたは多く、交換性カリは40mg/100g以上である。KFの土壌は牛糞堆肥の施用により合計菌数はやや多くなっているが、「土の力」は不良であり、牛糞堆肥が「土の力」を良くするために寄与していない。さらに、牛糞堆肥の施用により土壌が膨軟になり乾燥しやすくなっており、萎ちょう病が発生しやすくなっているため、牛糞堆肥の施用を中止する必要がある。
【0088】
【表8】

【0089】
(土壌病害を防ぐ対策例)
前記実施例8のホウレンソウ萎ちょう病の被害が中症〜重症になったKFの土壌について、萎ちょう病を防ぐ対策を示す要点を記載した。
ホウレンソウの萎ちょう病が非常に出やすくなっているので、改善するために次の対処を行うことが得策です。
(1)土壌消毒をして下さい。
(2)消毒後に「土の力」を高めるために資材「ESバイオ1号」を施用して下さい。消毒を資材「ESバイオ1号」の菌の作用で萎ちょう病が出にくくなります。
(3)ECが高く、硝酸態窒素が多いため、窒素の施肥を中止して下さい。
(4)牛糞堆肥の施用を中止して下さい。
(5)土壌の乾燥で萎ちょう病が発生しやすくなります。暑い時期には気温の低い早朝にこまめにかん水して下さい。
(6)その他
【0090】
上記の実施例および実施の形態の説明は、本発明を説明するものであって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施例および実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の土壌診断方法により、土壌病害を防ぐための効果的な対策を示すことができるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】(イ)は、培養した平板培地に殺菌した土壌と海砂との混合物を被覆して培養した培地の写真と距離を示す説明図であり、(ロ)は、培養した平板培地に土壌と海砂との混合物を被覆して培養した培地の写真と距離を示す説明図である。
【図2】抑止率、「土の力」、土壌病害の発生予測を示すグラフである。
【図3】合計菌数とその評価を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種の糸状菌に起因する土壌病害の発生がある土壌、その被害程度が異なる土壌、土壌病害の発生がない土壌、米ぬかや麦わらなどを施用して生物的な改良を加えて土壌病害の発生がない土壌を含む複数の土壌についてトマト萎ちょう病菌J1(Fuzarium oxysporum)を用いる評価方法で前記トマト萎ちょう病菌の生育の抑止率を測定し、この測定値から、前記各種の糸状菌に起因する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断する基準を作成しておき、
被検土壌の前記抑止率を前記評価方法で測定し、この測定値を用いて前記基準に従って、前記被検土壌の前記トマト萎ちょう病菌およびそれ以外の各種の糸状菌に起因する土壌病害の被害発生とその程度を予測診断することを特徴とする土壌診断方法。
【請求項2】
前記土壌病害の被害発生とその程度を予測診断する基準は、求めた抑止率により下記1〜4の4段階であることを特徴とする請求項1記載の土壌診断方法。
(基準)
1.抑止率が80%以上である土壌は「土の力」が良く、各種糸状菌に起因する土壌病害が発生しにくい。
2.抑止率が70%以上80%未満である土壌は「土の力」が普通であり、各種糸状菌に起因する土壌病害がやや発生しにくい。
3.抑止率が60%以上70%未満である土壌は「土の力」がやや不良であり、各種糸状菌に起因する土壌病害が発生しやすい。
4.抑止率が60%未満である土壌は「土の力」が不良であり、各種糸状菌に起因する土壌病害が非常に発生しやすい。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法による土壌病害の被害発生とその程度の予測診断により土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法。
【請求項4】
請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法に加えて被検土壌の化学性分析による評価を行って土壌病害の被害発生への影響を診断して土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法。
【請求項5】
請求項1あるいは請求項2記載の土壌診断方法に加えて被検土壌の化学性分析による評価と診断を行うとともに、被検土壌の細菌と放線菌の合計菌数の評価を行って土壌病害の発生原因を診断して土壌病害を防ぐ対策を提案することを特徴とする土壌病害防止対策提案方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−252250(P2007−252250A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79071(P2006−79071)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(391029495)エーザイ生科研株式会社 (5)
【Fターム(参考)】