説明

土木工事用袋体

【課題】強度と耐摩耗性の両者を満足でき、かつ、後加工を必要としなくとも耐摩耗性に優れた土木用袋体を提供することにある。
【解決手段】下記式で示されるポリシロキサン金属化合物を0.3〜15質量%含有するポリマーを含む合成繊維によって構成される織編物からなることを特徴とする土木工事用袋体。


(ただし、式[1]中のMは、金属原子を示す。また、R〜Rは炭素数が1〜10のアルキル基であり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織編物からなる土木工事用袋体に関するものである。具体的には、袋体内に中詰材を充填し、河川や海岸の洗掘防止、浸食防止、護岸または防波堤として使用するものであり、該使用に耐えうる耐摩耗性を有する土木工事用袋体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
護岸緑化工事や根固め工事等の土木工事に用いる袋体は、合成繊維により構成された袋体内へ中詰材を充填して使用する。これら土木工事用袋体は、屋外環境下で長期間使用するものであることから、高い強度や耐候性、耐摩耗性が要求される。袋体を構成する合成繊維には、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエチレン系およびポリオレフィン系等の汎用の合成繊維が用いられ、用途に応じて適宜選定され使用されている。また、土木工事用袋体には織編物が使用されるが、地面や川底・海底面の凹凸に追随できる程度の柔軟性および通水性を兼ね備えることも要求され、この点についても用途や用いる場所等に応じて、織編物の組織等を適宜選定されている。
【0003】
特に、河川および海洋で用いる袋体においては、袋体内へ中詰材が充填され、激しい波浪の影響を受け易い河川岸や海岸に設置される。該袋体を構成する合成繊維は、袋体内の充填材との摩耗、また、周囲の岩石および砂利との摩耗が繰り返し課せられるため、短期間の使用であっても袋体に破れが生じることもあり、極めて高い耐摩耗性が要求される。
【0004】
土木工事用袋体の耐摩耗性を向上させるために、これまで多くの提案がなされている。例えば、袋体を構成する合成繊維に改良を施す技術が提案されており、特許文献1には、無水マレイン酸改質ポリエチレン/ポリプロピレンゴムを、特許文献2には、特定のポリオレフィンを、それぞれポリアミド繊維の製造工程時に溶融混練することにより、耐摩耗性を有するポリアミド繊維を得る方法が開示されている。しかしながら、これらの方法により得られる繊維は、耐摩耗性はある程度改善されるものの、異種ポリマーを混練することによって得られる繊維の強度が低下し、耐摩耗性と強度のバランスが悪いという問題点があり、激しい環境下での長期間の使用を考慮すると耐摩耗性は十分ではない。
【0005】
また、網地に後加工を施して耐摩耗性を向上させる技術が提案されている。特許文献3〜5には、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維等の合成繊維から構成される袋体に天然ゴム、スチレンーブタジエンゴム、ニトリルーブタジエンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム等の樹脂エラストマーを後加工により被覆し、耐摩耗性および耐衝撃性を向上させる方法が開示されている。しかしながら、網地を作製した後にさらに樹脂を被覆するための後工程を要するものであり、生産性やコスト面で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−209212号
【特許文献2】特開平07−003526号
【特許文献3】特開2008−163493号
【特許文献4】特開2008−163494号
【特許文献5】特開2008−163495号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、強度と耐摩耗性の両者を満足でき、かつ、後加工を必要としなくとも耐摩耗性に優れた土木用袋体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の化学構造を有するポリシロキサン金属化合物を汎用ポリマーに所定量含有させて紡糸した繊維を用いることにより、繊維強度を保持しながら、繰り返し摩耗が課せられる使用環境にあっても破れ等が生じ難い袋体を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式[1]で示されるポリシロキサン金属化合物を0.3〜15質量%含有するポリマーを含む合成繊維によって構成される織編物からなることを特徴とする土木工事用袋体を要旨とするものである。
【0010】
【化1】


(ただし、式[1]中のMは、金属原子を示す。また、R〜Rは炭素数が1〜10のアルキル基であり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明に用いられる合成繊維を構成するポリマーは、下記式[1]で示されるポリシロキサン金属化合物を0.3〜15質量%含有しており、0.4〜12質量%含有していることが好ましい。ポリシロキサン金属化合物の含有量が0.3質量%以上含有させることにより、本発明が目的とする耐摩耗性向上効果を十分に奏することができる。また、含有量の上限を15質量%以下とすることにより、繊維製造工程における紡糸、延伸、巻き取り時に糸切れ等が発生させずに良好な操業性を保持して繊維を得ることができ、また、実用的な強伸度等の機械的特性を確保でき、耐摩耗性が向上し、強度と耐摩耗性の両者を満足し得るバランスの良い繊維を得ることができる。
【0012】
【化2】


(ただし、式[1]中のMは、金属原子を示す。また、R〜Rは炭素数が1〜10のアルキル基であり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
本発明におけるポリシロキサン金属化合物の各ポリシロキサン配位子の中のR〜Rは、炭素数が1〜10のアルキル基であることが必要であり、好ましくは炭素数が1〜5である。該アルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロキル基、n−ブタン基、イソブタン基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノナン基、デカン基などの飽和アルキル基が挙げられる。
【0013】
また、各ポリシロキサン配位子のユニット数(n)は、6〜100であり、10〜85であることが好ましい。さらに、ポリシロキサン金属化合物の分子量としては、900〜16000であり、1000〜15000であることが好ましい。ポリシロキサン配位子の中のアルキル基の炭素数、ユニット数(n)、分子量の範囲がこの範囲を外れると、融点が低下する等の理由により取扱いが困難となる。
【0014】
本発明におけるポリシロキサン金属化合物の中心金属としては、ホウ素、アルミニウム、亜鉛、マンガン、ニッケル、クロム、ガリウム、インジウム、タリウムなどが挙げられる。
【0015】
このうち、本発明におけるポリシロキサン金属化合物としては、下記式[2]で示されるジメチルポリシロキサンのホウ素化合物であることが好ましい。
【0016】
【化3】



(ただし、式[2]中のBは、ホウ素原子を示す。nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
本発明に用いるポリシロキサン金属化合物は、上記したように特定のポリシロキサン配位子であって、中心に金属原子を有し、該配位子のユニット数、分子量を特定したものであるため、汎用ポリマーとの相溶性が優れ、ポリマー中に15質量%もの高濃度となるように添加してもポリマーと均一に分散混合でき、得られる合成繊維の強度低下の割合が少なく、耐屈曲摩耗性と強度とにおいてバランスの優れた繊維を得ることができる。
【0017】
本発明に用いる合成繊維を構成するポリマーとしては、特に限定するものではなく、例えばポリアミド系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー、脂肪族ポリエステル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー等が挙げられる。また、前記したポリマーによって構成される合成繊維の再生ポリマーを用いることもできる。これら合成繊維のうち、織編物とした際の特性として高強度及び高タフネスとなる点で、ポリエステル系ポリマーあるいはポリアミド系ポリマーを用いることが好ましく、さらには、寸法安定性の点ではポリエステル系ポリマーを用いることが、耐摩耗性の点ではポリアミド系ポリマーを用いることがより好ましい。
【0018】
ポリエステルとしては、特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタテート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレート等が挙げられる。また、粘度、熱的特性、相溶性を鑑みてポリエステル系ポリマーには、他のモノマー成分を共重合させてもいてもよい。例えば、酸成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられ、アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールなどが挙げられる。また、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸:ε―カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどを共重合していてもよい。
【0019】
ポリアミドとしては、分子内にアミド基を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばナイロン6,ナイロン66,ナイロン69、ナイロン46,ナイロン610,ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリメタキシレンアジパミドやこれら各成分を共重合したものやブレンドしたもの等が挙げられる。
【0020】
本発明は、上記したポリシロキサン金属化合物を特定量含有するポリマーを含む合成繊維が用いられるものであり、この合成繊維の繊維形態としては、上記したポリシロキサン金属化合物を含有したポリマーのみからなる単相型の繊維、上記したポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーと含有しないポリマーとが複合されてなる複合型の繊維が挙げられる。複合型の繊維とした場合、芯鞘型複合形態、サイドバイサイド型複合形態、海島型複合形態、分割型複合形態、その他異形断面を呈する複合形態等が挙げられ、従来公知の方法によって複合紡糸して得ることができる。なお、複合形態の合成繊維が、ポリシロキサン金属化合物を含有することによる耐摩耗性を効果的に奏するためには、ポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーを、繊維表面の少なくとも一部に露出するように配する。具体的には、繊維表面の25%以上を占めるように該ポリマーを配することが好ましく、より好ましくは50%以上であり、最も好ましくは繊維表面の全てを該ポリマーが占めるように配する。最も好ましい複合形態としては、鞘部にポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーを配した芯鞘型複合形態、海部にポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーを配した海島型複合形態である。より多く繊維表面を占めるようにポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーを配することにより、外部との接触面が該ポリマーとなる頻度を高くすることができ、耐摩耗性が効果的に向上することとなる。また、芯部にポリシロキサン金属化合物を含有しないポリマーを配し、鞘部にポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーを配してなる複合繊維は、芯部で繊維強度を保持し、鞘部で耐摩耗性を向上させることができ、全体として機械的強度と耐磨耗性とのバランスに優れた繊維となり好ましい。
【0021】
本発明に用いられる合成繊維が複合繊維である場合、ポリシロキサン金属化合物を含有したポリマーと複合する他のポリマーとしては、上記に挙げたポリマーを適宜選択して用いればよい。
【0022】
本発明に用いられる特定のポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーを含む合成繊維は、同様の紡糸・延伸条件にて製造したポリシロキサン金属化合物を含まない合成繊維(以下、基準合成繊維という。)と比較して、その強度比としては、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上の強度保持したものとなる。また、耐摩耗性の評価においては、同様に基準合成繊維に比較して、好ましくは1.30倍以上、より好ましくは1.40倍以上、さらに好ましくは1.50倍以上である。
【0023】
なお、本発明における特定のポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーを含む合成繊維が、耐摩耗性が向上する機構は定かではないが、ポリマーとの相溶性が高いためにポリマー中に均一に分散することから繊維表面にも均一に分散して存在し、繊維表面でスリップ剤として機能しているものと推測する。
【0024】
本発明に用いる合成繊維には、その効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて例えば熱安定剤、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、微粉体、難燃剤等の各種添加剤を添加することができる。また、得られる繊維の結節強度を高めるために、脂肪酸アミド類、例えばメタキシリレンビスステアリルアミド、メタキシリレンビスオレイルアミド、キシレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリン酸アミド等を添加することができる。また、上記のような合成繊維は公知の方法で製造することができる。
【0025】
本発明の土木工事用袋体は、前記した合成繊維を用いて製編織した織編物からなる。合成繊維の形態としては、複数本の単糸からなるマルチフィラメント糸であってもよく、単糸1本からなるモノフィラメント糸であってもよい。ここで、合成繊維がマルチフィラメント糸の場合は、マルチフィラメント糸を構成する個々のフィラメントの単糸繊度が1〜200dtexであることが好ましく、マルチフィラメント糸の総繊度は20〜5000dtexであることが好ましく、中でも40〜3000dtexであることがより好ましい。また、合成繊維がモノフィラメント糸の場合は、繊度を150〜5000dtexとすることが好ましい。さらに、合成繊維は、連続繊維の形態であっても短繊維の形態であっても、連続繊維と短繊維とが複合してなる混紡糸であってもよいが、耐摩耗性や強力の面で連続繊維を用いることが好ましい。
【0026】
土木工事用袋体を構成する織編物の組織としては、地面や川底・海底面地面の凹凸に追随できる程度の柔軟性と、通水性とを兼ね備えていれば、特に限定されるものではない。織物としては、例えば、織物三原組織に代表される平織、斜文織、朱子織、またこれら織組織を基にした変化組織であるマット織などが挙げられる。さらに、基布を厚くて丈夫にしたい場合等においては多重織なども挙げられる。編物としては、例えば、結節部に応力が集中する有結節編以外のラッセル編や無結節編による編地が好ましく、袋体に直線強力が求められる場合に無結節編を用いるとよい。また、使用される状況が過酷で袋体の一部が破損しやすい場合や、原糸の直線強力は比較的弱くても差支えないが結節強力を特に要する場合などは、ループで構成されるラッセル編を適用するとよく、網目については、角目、菱目、亀甲目などが挙げられる。
【0027】
本発明の土木工事用袋体を構成する織編物の強力は500N以上であることが好ましい。織編物の強力が500N未満であると、土木工事用袋体としての仕様に耐えることが困難であり、袋体が破損しやすくなる。また特に根固め工法用に使用される袋体の場合は、石や塊などが激しく衝突するため、より破損しやすくなる。また近年、海洋護岸用の袋体も開発されてきており、その場合は3,000N以上の強力値を有する織編物が求められることがある。なお、織編物の強力についての測定方法は以下の方法に基づいて行う。織編物がラッセル編の場合は、JIS L 1043に記載の方法により得られた値を強力とする。ラッセル編以外の編物の場合は、「仮設機材認定基準とその解説(労号大臣が定める規格と認定基準) 社団法人仮設工業会編集・発行 6.強度等 網糸の引張強度」に記載の方法により得られた値を強力とする。織物の場合は、JIS L 1096に記載の方法により、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/分の条件で測定して得られた値を強力とする。
【0028】
本発明の土木工事用袋体は、上記した繊維によって構成される織編物を適宜の大きさに裁断し、縫製等によって袋体として得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、土木工事用袋体の織編物を構成する合成繊維中に、特定のポリシロキサン金属化合物を所定量含有しているポリマーを用いているため、極めて耐摩耗性に優れている。また、本発明に用いる特定のポリシロキサン金属化合物は、配位子を特定しているためポリエステルおよびポリアミド等の汎用ポリマーとの相溶性に優れるため、ポリマー中に15質量%の高濃度量を添加しても、繊維強度の低下が非常に少なく、耐摩耗性と強度とのバランスに優れたものとなる。したがって、本発明の土木工事用袋体によれば、袋体内に中詰材を充填し、激しい波浪の影響を受け易い河川岸や海岸に設置して用いても、合成繊維が袋体内の充填材との摩耗、また、周囲の岩石および砂利との摩耗が繰り返し課せられても、袋体が破損しにくく、耐久性に優れる。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例について詳細に説明する。なお、以下の実施例中の各物性値の測定法及び評価法は次のとおりである。
(1)繊維繊度(dtex)
JIS L−10153正量繊度に準じて測定した。
【0031】
(2)フィラメント糸の強度(cN/dtex)、切断伸度(%)
JIS L−1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に準じて測定した。なお試験機は定速伸長形の試験機を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分とした。また、強度は、編地を構成するマルチフィラメント糸の強度を測定した。
【0032】
(3)強力(編地)(N)
ラッセル編の編地について、編構成トータル繊度5,000dtex未満の編地はJISL 1043の6.11の6.11.1(a)法に準じて、5,000dtex以上の編地はJISL1043の6.11の6.11.1(b)法に準じて、それぞれ200mm/minの引張速度で測定を行った。
【0033】
(4)耐摩耗性(回)
JIS D−4604の耐摩耗性試験に準じて試験を行った。すなわち、試料の一端に上記(3)で得られた試料の強力値(N)の1.25%に相当する荷重を吊るし、他端を丸やすり(OCHI FILE WORK‘s CO LTD社製 300m/m、(12“)丸中目)の上に渡したのち、振動ドラムに固定した、なお、丸やすりを介して試料の角度は90°の角度で接触させた。ストローク幅330±30mm、ストローク速度30±1回/分で往復摩擦させ、試料が破断に至るまでの回数を測定した。基準合成繊維(比較例1、5)の摩耗回数との対比において1.30以上であれば耐摩耗性が良好であると判断した。
【0034】
比較例1(基準ポリエステル繊維)
相対粘度が1.72(フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)混合溶液を用い、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定)のポリエチレンテレフタレートをエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、紡糸孔の直径0.5mm、孔数192の紡糸口金を用い、紡糸温度305℃で溶融紡糸を行った。紡出した糸条に紡糸油剤を付与し、一旦捲き取ることなく、220℃に加熱した熱ローラで延伸倍率が5.1倍になるように熱延伸を施し、円形断面のポリエステル繊維からなるマルチフィラメント糸(1670dtex/192本)を得た。マルチフィラメント糸の強度は、8.0cN/dtexであった。
【0035】
実施例1
相対粘度が1.72(フェノール/テトラクロロエタン=1/1(質量比)混合溶液を用い、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定)のポリエチレンテレフタレートに、化学式2で示されるポリシロキサン金属化合物であって、中心金属がホウ素、SiOの平均ユニット数が80、平均分子量が12507であるポリシロキサンホウ素化合物を20質量%含有してなるポリエチレンテレフタレートからなるマスターチップ(SILO CHEM社(韓国)製)を加え、繊維を構成するポリマー中にポリシロキサンホウ素化合物が0.4質量%含有するようにエクストルーダー型溶融紡糸機に供給した以外は、比較例1(基準ポリエステル繊維)と同様にしてポリエステル繊維からなるマルチフィラメント糸(1670dtex/192本)を得た。マルチフィラメント糸の強度は、8.18cN/dtexであった。
【0036】
得られたマルチフィラメント糸を用いて、8本格で網目25mmのラッセル編地を作製し、実施例1とした。
【0037】
実施例2〜3、比較例1〜4
実施例1において、繊維を構成するポリマー中のポリシロキサンホウ素化合物の含有量が6.0質量%(実施例2)、12.0質量%(実施例3)、0.1質量%(比較例2)、16.0質量%(比較例3)、20.0質量%(比較例4)となるように、ポリエチレンテレフタレートとマスターチップとの配合割合を変更した以外は実施例1と同様に行い、ラッセル編地を得た。なお、比較例4においては、繊維の紡糸工程における巻取り時に糸切れが多発し、連続繊維を得ることができなかった。
【0038】
比較例5(基準ポリアミド繊維)
相対粘度が3.5(96質量%硫酸を溶媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)のポリアミド6をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、紡糸孔の直径0.4mm、孔数210の紡糸口金を用い、紡糸温度285℃で溶融紡糸を行った。紡出した糸条に紡糸油剤を付与し、一旦捲き取ることなく、180℃に加熱した熱ローラで延伸倍率が5.1倍になるように熱延伸を施し、円形断面のポリアミド繊維からなるマルチフィラメント糸(1590dtex/210本)を得た。マルチフィラメント糸の強度は、8.05cN/dtexであった。
【0039】
実施例4
相対粘度が3.5(96質量%硫酸を溶媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)のポリアミド6に、化学式2で示されるポリシロキサン金属化合物であって、中心金属がホウ素、SiOの平均ユニット数が80、平均分子量が12507であるポリシロキサンホウ素化合物を20質量%含有してなるポリアミド6からなるマスターチップ(SILO CHEM社(韓国)製)を加え、繊維を構成するポリマー中にポリシロキサンホウ素化合物が0.4質量%含有するようにエクストルーダー型溶融紡糸機に供給した以外は、比較例5(基準ポリアミド繊維)と同様にしてポリアミド繊維からなるマルチフィラメント糸(1590dtex/210本)を得た。マルチフィラメント糸の強度は、8.12cN/dtexであった。
【0040】
得られたマルチフィラメント糸を用いて、8本格で網目25mmのラッセル編地を作製し、実施例4とした。
【0041】
実施例5〜6、比較例6〜8
実施例1において、繊維を構成するポリマー中のポリシロキサンホウ素化合物の含有量が6.0質量%(実施例5)、12.0質量%(実施例6)、0.1質量%(比較例6)、16.0質量%(比較例7)、20.0質量%(比較例8)となるように、ポリアミド6とマスターチップとの配合割合を変更した以外は実施例4と同様に行い、ラッセル編地を得た。なお、比較例8においては、繊維の紡糸工程における巻取り時に糸切れが多発し、連続繊維自体を得ることができなかった。
【0042】
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた繊維および編地の物性を評価した結果を表1に、実施例4〜6、比較例5〜7で得られた繊維および編地の物性を評価した結果を表2に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

表1、2から明らかなように、実施例1〜6の編地は、編地を構成する繊維中に特定のポリシロキサン金属化合物を所定量含有しているため、引張強度、耐屈曲摩耗性ともに優れたものであった。特にポリシロキサン金属化合物がポリマー中に12質量%含有する実施例3、6では、ポリシロキサン金属化合物を含まない基準繊維(比較例1、5)と比較して4倍近く磨耗性が飛躍的に向上していた。したがって、実施例で得られた編地によって袋状にしたものは、土木用途において、特に繰り返しの摩耗が課せられる分野にて良好に使用できることが期待できるものであった。
【0045】
一方、ポリマー中にポリシロキサン金属化合物の添加量を0.1質量%とした比較例2および比較例6の編地は、耐屈曲摩耗性を向上させるに至らなかった。
【0046】
ポリマー中にポリシロキサン金属化合物の添加量を16.0質量%とした比較例3および比較例7の編地は、ポリシロキサン金属化合物の含有量が多すぎたため、引張強度が低く、耐屈曲摩耗性にも劣るものとなった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で示されるポリシロキサン金属化合物を0.3〜15質量%含有するポリマーを含む合成繊維によって構成される織編物からなることを特徴とする土木工事用袋体。
【化1】



(ただし、式[1]中のMは、金属原子を示す。また、R〜Rは炭素数が1〜10のアルキル基であり、nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
【請求項2】
ポリシロキサン金属化合物が下記式[2]で示されるジメチルポリシロキサンのホウ素化合物であることを特徴とする請求項1記載の土木工事用袋体。
【化2】



(ただし、式[2]中のBは、ホウ素原子を示す。nは6〜100である。分子量は900〜16000である。)
【請求項3】
ポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーがポリエステルであることを特徴とする請求項1または2記載の土木工事用袋体。
【請求項4】
ポリシロキサン金属化合物を含有するポリマーがポリアミドであることを特徴とする請求項1または2記載の土木工事用袋体。


【公開番号】特開2011−1796(P2011−1796A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147681(P2009−147681)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】