説明

土留め壁構造及び土留め壁構造の構築方法

【課題】シールド掘削機による掘削が可能であり、さらに強度を向上させることができる土留め壁構造を提供することである。
【解決手段】H型鋼材2の端部と、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させた複数の板状部材3〜6を重ねて構成した複合体10の端部とを接合して成る土留め壁構造において、複合体10と接合されるH型鋼材2の端部の一対のフランジ12が、ウエブ11を残して切り欠かれ、一対の複合体10の端部が、前記H型鋼材2のウエブ11を挟んで、フランジ12の切り欠いた部位まで至るよう設けられ、前記複合体10の側面が、前記H型鋼材2の残されたフランジ部分の外面と略面一となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘削機の発進部及び到達部に設置される土留め壁構造及び土留め壁構造の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の土留め壁構造は、鉄筋コンクリートで構成されていたが、鉄筋コンクリート製の土留め壁構造は、シールド掘削機による掘削が困難である。そのため、シールド掘削機の発進時や到達時には、土留め壁構造部材を人力で打ち壊す必要があり、手間が掛かった。よって、このような手間がかからない土留め壁構造が発案され、シールド掘削機による掘削が可能な土留め壁構造が、例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−27590号公報
【特許文献2】特開2002−38870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に開示されている土留め壁構造及びシールド掘進用立坑壁は、離間させたH型鋼材の対向する両端部を、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させた複数の板状部材を重ねた複合体で接続して構成されている。すなわち、この複合体の部分は、シールド掘削機によって容易に破壊することができ、人力で打ち壊す必要がなく、当初の問題は解決された。
【0005】
ところで土留め壁構造は、従来の土留め壁構造部材が鉄筋コンクリート製であることからわかるように、相当な強度を有している必要がある。しかし、特許文献1及び特許文献2に開示されている構成は、H型鋼材の途中の部分が、言わば切断されているようなものであり、従来の土留め壁構造部材よりも強度的に不利である。
【0006】
そこで本発明は、シールド掘削機による掘削が可能であり、さらに強度を向上させることができる土留め壁構造及び土留め壁構造の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、H型鋼材の端部と、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させて構成した掘削可能部材の端部とを接合し、前記掘削可能部材が掘削機により掘削される土留め壁構造において、前記H型鋼材の一対のフランジが、ウエブを残して端部から所定長さ切り欠かれ、一対の掘削可能部材の端部が、前記H型鋼材のウエブを挟んで、フランジの切り欠いた部位まで至るよう設けられ、前記掘削可能部材の側面が、前記H型鋼材の残されたフランジ部分の外面と略面一となるように構成されたことを特徴とする土留め壁構造である。
【0008】
請求項1の発明の土留め壁構造では、掘削可能部材と接合されるH型鋼材の端部の一対のフランジが、ウエブを残して切り欠かれ、一対の掘削可能部材の端部が、前記H型鋼材のウエブを挟んで、フランジの切り欠いた部位まで至っている(達している)ので、端部のフランジ部分を切り欠かない場合と比較して掘削可能部材の接合部分の断面積が大きくなる。ここで「フランジの切り欠いた部位まで至るように」とは、一対の掘削可能部材の端部が、フランジの切り欠いた部位(当接部)に接近乃至当接するように設けることを言う。
すなわち、H型鋼材の端部のフランジに干渉されることなく掘削可能部材の端部の断面積を拡張できる。その結果、断面係数も大きくなり複合体の強度が増す。すなわち、H型鋼材よりも強度が弱い掘削可能部材側の断面係数が改善され、接合部分における土留め壁構造部材の強度を高くすることができる。
よって、土留め壁構造部材のH型鋼材と掘削可能部材の接合部分は、強度を確保して土留め壁として良好に機能することができると共に、シールド掘削機によって掘削可能部材を掘削することができる。
【0009】
請求項2の発明は、前記掘削可能部材が、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させた複数の板状部材を重ねて構成した複合体であることを特徴とする請求項1に記載の土留め壁構造である。
【0010】
請求項2の発明の土留め壁構造では、掘削可能部材を、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させた複数の板状部材を重ねて構成した複合体としたので、接合部分における土留め壁構造部材の強度が向上する。
【0011】
請求項3の発明は、前記板状部材の端部と前記H型鋼材の端部との間に接着板が設けられ、前記接着板は前記板状部材の間に挟まれており、前記接着板は、切り欠かれずに残されたH型鋼材の内面に溶接されて取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の土留め壁構造である。
【0012】
請求項3の発明の土留め壁構造では、板状部材の端部とH型鋼材の端部との間に接着板が設けられ、接着板はH型鋼材の内面に溶接されて取り付けられているので、掘削可能部材とH型鋼材の接続部分の強度が向上する。
【0013】
請求項4の発明は、掘削可能部材の端部が、切り欠かれずに残された前記H型鋼材のフランジの端部と当接していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちのいずれかに記載の土留め壁構造である。
【0014】
請求項4の発明の土留め壁構造では、掘削可能部材が、除去されて形成されたH型鋼材のフランジの端部と当接しているので、土留め壁構造部材を地中に打ち込む際の土留め壁構造部材の強度が向上する。
【0015】
請求項5の発明は、ウエブと掘削可能部材とが接着されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちのいずれかに記載の土留め壁構造である。
【0016】
請求項5の発明の土留め壁構造では、H型鋼材の端部のウエブを掘削可能部材の内部に挿入し、ウエブと掘削可能部材とを接着するので、H型鋼材と掘削可能部材の接続部分の強度が向上する。
【0017】
請求項6の発明は、切り欠かれずに残されたH型鋼材の各フランジの外面から掘削可能部材の側面にわたって、一の接続板で覆われ、かつ、両フランジの縁部から掘削可能部材にわたって、他の接続板で覆われ、前記一の接続板と前記他の接続板の縁部同士が溶接されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちのいずれかに記載の土留め壁構造である。
【0018】
請求項6の発明の土留め壁構造では、H型鋼材の残された各フランジの外面と掘削可能部材の側面とが、一の接続板で覆われ、かつ、両フランジの縁部と掘削可能部材とが他の接続板で覆われるので、接合部分おける掘削可能部材が接続板で保護され、接合部分の強度が増す。また、前記一の接続板と前記他の接続板の縁部同士が溶接されるので、ボルト・ナットで固定するよりも接合部分の強度が向上する。接続板とH型鋼材とを溶接により固定すると、さらに好ましい。
【0019】
請求項7の発明は、掘削可能部材が、一つのH型鋼材と別のH型鋼材の間に介在され、前記掘削可能部材の両端部が、両H型鋼材の端部と接合されたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちのいずれかに記載の土留め壁構造である。
【0020】
請求項7の発明の土留め壁構造では、掘削可能部材の両端が、各々別のH型鋼材の端部と接続されているので、掘削可能部材は土留め壁構造部材の途中の部位に配置される。その結果、土留め壁構造部材を強度の高い一方のH型鋼材側から地中に埋設することができる。すなわち、地中に土留め壁構造部材を配置する際に、掘削可能部材を損耗又は破壊させずに済む。
【0021】
請求項8の発明は、H型鋼材の端部と、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させて掘削機により掘削し易く構成した掘削可能部材の端部とを接合する土留め壁構造の構築方法において、前記H型鋼材の一対のフランジの端部をウエブを残して所定長さ切り欠き、一対の掘削可能部材の端部を、前記H型鋼材のウエブを挟むように、フランジの切り欠いた部位まで至るよう設け、前記掘削可能部材の側面を、前記H型鋼材の残されたフランジ部分の外面と略面一となるように構成することを特徴とする土留め壁構造の構築方法である。
【0022】
請求項8の発明の土留め壁構造の構築方法を実施すると、H型鋼材と掘削可能部材の接続部分の強度を向上させた土留め壁構造部材を構築することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明を実施して構成された土留め壁構造部材は、掘削可能部材の断面係数を大きく確保することができ、H型鋼材と掘削可能部材の接続部分の強度が向上し、良好な土留め機能を発揮することができる。その上、本発明を実施すると、土留め壁構造部材の掘削可能部材をシールド掘削機で掘削することができるので、作業能率がよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を実施して構成された土留め壁構造部材の斜視図であり、(a)は各部材を分解した状態を示し、(b)は複合体を組み立てた状態を示し、(c)は接合部を接続板で包囲した状態を示す。
【図2】(a)は本発明を実施して構成された土留め壁構造部材の分解部分平面図であり、(b)は本発明の土留め壁構造部材の組立てた状態の部分平面図であり、(c)は本発明の土留め壁構造部材の部分側面図である。
【図3】(a)は接続板で接合部が固定された土留め壁構造部材の部分平面図であり、(b)は(a)のA−A断面矢視図であり、(c)は(b)において接続板で接合部が固定される前の状態のA−A断面矢視図である。
【図4】(a)は本発明を実施した図1とは別の土留め壁構造部材の部分平面図であり、(b)は(a)の分解平面図である。
【図5】(a)は図4の土留め壁構造部材の部分斜視図であり、(b)は(a)の分解斜視図である。
【図6】(a)は地中に土留め壁構造部材を配置した状態の側面図であり、(b)は地中に配置した土留め壁構造部材の正面図である。
【図7】(a)は、H型鋼材に接着板を溶接固定した状態を示す斜視図であり、(b)は、(a)の接着板の正面図であり、(c)は、(a)のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の土留め壁構造を実施した土留め壁構造部材の構成を説明する。
図1(a)〜(c)に示すように、土留め壁構造部材1は、H型鋼材2と複合体10(掘削可能部材)とが接合されて構成される。H型鋼材2は、上下のフランジ12の一部が切り欠かれて、残留部12aと当接部12bとが形成されている。また、複合体10は、複数の板状部材が組み合わされて構成されている。以下、H型鋼材2,複合体10及びこれらの組立構造について順に説明する。
【0026】
まず、H型鋼材2について説明する。
H型鋼材2は、フランジ12の端部の一部が切り欠かれており、端部には残留部12aと当接部12bとが形成されている。図2(a)に示すように残留部12aは、ウエブ11よりも若干幅広であり、元はフランジ12の一部である。すなわち、ウエブ11の両端(図2(a)で見て上下)に、各々残留部12aが連続している。
【0027】
よって、フランジ12の一部が切り欠かれているとはいえ、一方の残留部12aの外側(ウエブ11とは反対側)から他方の残留部12aの外側(ウエブ11とは反対側)までの距離は、図3(b),(c)における高さH1で示されるH型鋼材2の高さと同寸法である。また、図2(a)に示す残留部12aの切り欠き長さLは、高さH1の0.9〜2.5倍程度とすることができるが、より好ましくは1.0〜2.0倍である。
【0028】
市販品のH型鋼は、ウエブとフランジの接続部分にはRが形成されているので、このRは、後述する複合体10を接合する前にグラインダ処理等によって除去しておくのが好ましい。また、市販品のH型鋼に適当なサイズのものがない場合には、鋼板をビルトアップによりH形状に形成してH型鋼材の代わりに使用してもよい。
なお、H型鋼材の「外面」とは、一つのH型鋼材の一対のフランジの向かい合う面(内面)の反対側の面を指すものとする。また、「幅」とは、ウエブに直交する方向の長さを指すものとする。
【0029】
次に複合体10について説明する。
図1(a)や図2(a)等に示すように複合体10は、板状部材3〜6,接続板7,8等で構成されている。そのうちの板状部材4は、ウエブ11の幅と同じ幅を有している。この板状部材4の片側には板状部材3a,5a,6a〜6cが配置され、板状部材4の反対側には3b,5b,6d〜6fが配置される。各板状部材は、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させて構成されている。
板状部材は、無機繊維を混在させた発泡ウレタン樹脂が好ましく、例えば、積水化学工業株式会社製の「エスロン ネオランバーFFU」が挙げられる。あるいは、繊維で強化した不飽和ポリエステル樹脂から構成されてもよい。
【0030】
板状部材3a,3bは、フランジ12の残留部12aの中にちょうど収納される幅を有している。すなわち、図2(b)に示すように、板状部材3a,3b及び板状部材4を重ねた際の幅は、残留部12aの幅と同じである。また、板状部材3a,3bの高さは、両フランジ12の間にほとんど隙間無く挿入可能なウエブ11の高さと同じである。ここで「高さ」とは、フランジ12と直交する方向の板状部材3a,3b及びウエブ11の長さである。
【0031】
ここで、板状部材3a,3bの幅(厚さ)の分だけ残留部12aの幅を確保すると、複合体10よりも強度が勝る鋼材(H形鋼材)による土留め壁構造部材1の接合部13の強度向上を図ることができる。
【0032】
また、板状部材5a,5bは、幅寸法が各々板状部材3a,3bと同じであるが、高さ寸法はH型鋼材2の高さ寸法H1を呈している。さらに、板状部材6a〜6fの断面寸法は同じである。板状部材6a〜6fの高さは、H型鋼材2の高さ寸法H1と同じである。すなわち、板状部材6a〜6fは、H型鋼材2のフランジ12の端部のうち、切り欠かれて除去された部分が存在していた位置まで至っている。これらの板状部材3a(5a),3b(又は5b),4,6a〜6fを重ねた際の幅は、図3(b)及び図3(c)に寸法W1で示されるH型鋼材2の幅と同じである。
「切り欠かれて除去された部分が存在していた位置まで至っている」とは、図3(b)に示す板状部材6a〜6cと、板状部材6d〜6f(これらは厳密には複合体10の一部であるが、これらが一対の複合体(一対の掘削可能部材)としてH型鋼材2のウエブ11を挟んでいる。)の端部を、フランジ12の当接部12bに接近乃至当接するように設けることを言う。
【0033】
次に、複合体10及び土留め壁構造部材1の組立構造について説明する。
図1(a)は、図1(c)に示す完成状態の土留め壁構造部材1を解体した状態を示すものであるが、H型鋼材2のウエブ11の側壁には、板状部材3a及び3bが残留部12aよりも突出するように接着固定される。残留部12aよりも突出した部分の板状部材3a,3bの間には板状部材4が配置され、板状部材4は板状部材3a,3bと接着固定される。また、板状部材4は、残留部12a及びウエブ11の先端に当接している。
【0034】
そして、板状部材3a,3bの先端に、各々板状部材5a,5bの端部を当接させ、板状部材5aを板状部材3a及び4と接着固定し、板状部材5bを板状部材3b及び4と接着固定する。
【0035】
さらに板状部材6a〜6cを互いに接着固定し、先端をフランジ12の当接部12bに当接させ、接着固定する。また板状部材6aを、板状部材3a,5a,及び残留部12aに接着固定する。同様に、板状部材6d〜6fも、図3(b)に示すように板状部材6a〜6cと反対側に固着される。
【0036】
最後に、必要に応じて接続板7a,7b、及び8a,8bを使用する。すなわち、接続板7a,7bは、接合部13の上下に平行に配置され、接続板8a,8bは両側方から平行に配置され、複合体10の接合部13に接着固定される。
【0037】
そして、図3(b)に示すように接続板7a,7bの両側が、各々接続板8a,8bと溶接固定されて、溶接部9a〜9dが形成される。また、各接続板とH型鋼材2とが接触する部位も溶接して溶接部14を形成する。これにより、各接続板とH型鋼材2とが強固に固定される。接続板7a,7b、及び8a,8bを使用すると、接合部13における最大寸法は、高さH2及び幅W2となる。
【0038】
以上説明した各板状部材の幅寸法は、上述したものに限らず、適宜任意に選定可能である。例えば、3枚の板状部材6a〜6cは、4枚にしたり、2枚にすることもできる。また、残留部12aは、ウエブ11の幅のみを残し、高さ寸法がH型鋼材2の高さH1としてもよい。その結果、各板状部材の枚数や厚さの選定の幅が広がる。
【0039】
以上で土留め壁構造部材1の組立が完成し、図1(c)に示す状態となる。なお、各図では、複合体10の片側の端部にだけH型鋼材2を配置し接続する状態を示しているが、実際には、同様の構成で複合体10の両側(両端)にH型鋼材2を接続し、2つのH型鋼材2を複合体10で接続した形態とする。もちろん、土留め壁構造部材は、図1(c)に示すように、複合体10のいずれか一方にのみH形鋼材を接続して構成することもできる。
【0040】
このように構成された土留め壁構造部材1を地中に配置した状態を図6に示す。図6(a)に示すように、土留め壁構造部材1は、従来と同様にシールド掘削機15の発進側と到達側に配置される。また、図6(b)に示すように、発進側及び到達側には複数の土留め壁構造部材1を配置し、破線で示す掘削円16が形成できるように複合体10を配置する。その結果、複数の複合体10部分をシールド掘削機15によって掘削できる。
【0041】
ところで、本発明の土留め壁構造部材1の接合部13は、図3(b)又は図3(c)に示す断面形状を呈している。すなわち、H型鋼材2よりも強度が弱い各板状部材は、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させて構成されている。板状部材3a,3b以外の板状部材の高さ寸法H1は、H型鋼材2の高さと同じである。すなわちH型鋼材2のフランジ12の厚さH3及びH4の分だけ従来の複合体よりも高さ寸法が大きく構成されている。その結果、本発明の土留め壁構造部材1の複合体10(接合部13)の断面係数Zは、従来のものよりも改善されている。
【0042】
ここで、市販品のH型鋼700*300*13*24(*は、乗算)を一例に断面係数を比較してみる。図3(b)及び(c)に示すように、断面形状は長方形であり、長方形の断面係数Zは、一般に(断面幅)*(断面高さ)2/6で算出される。
断面幅W1は従来と同じであるとすると、従来品に対して本発明品は、
7002/(700−24*2)2=1.153
となり、約15%の強度向上が図られている。すなわち、市販品のH型鋼700*300*13*24を採用して本発明を実施すると、土留め壁構造部材の強度は、従来の手法で構成するよりも15%以上向上する。
【0043】
ここで実際の従来品では、H形鋼のフランジを切り欠かず、両フランジの間に板状部材を収容するので、板状部材(複合体)の寸法は両フランジ間の空隙高さより約5mm程度小さく設定されることが多い。そのため上記の式による演算は、
7002/{700−(24+5)*2}2=1.189
となり、本発明を実施して構成した土留め壁構造部材の強度は、従来品よりも20%以上の向上を期待することができる。
【0044】
次に、図4及び図5を参照しながら本発明の別の実施形態を説明する。
図4及び図5に示す土留め壁構造部材20の基本的な構成は、図1等に示す土留め壁構造部材1と基本的に同じであるが、接着板21を使用する点が大きく相違している。よって、以下では、重複する説明は省略し、相違する構成のみを説明する。
【0045】
土留め壁構造部材20を構成する複合体30は、2組の板状部材22〜25で構成される。各板状部材にはH型鋼材31のフランジ32の当接部32bに当接する段部22a〜25aが形成されている。また、板状部材22の端部は切欠かれて幅が狭い切欠き部22bが形成されている。板状部材25も板状部材22と同様の切欠き部25bが形成されている。さらに、中央側に配置される板状部材23,24には、両側に切欠き部23b、23c及び24b、24cが形成されている。
【0046】
各板状部材22〜25が重なった際に、これらの切欠き部によって、スリット26〜28(接続板の挿入部)が構成される。すなわち、切欠き部22bと23bとでスリット26が形成され、切欠き部23cと24bとでスリット27が形成され、さらに切欠き部24cと25bとでスリット28が形成される。スリット26〜28は、一方のフランジ32の内側面から他方のフランジ32の内側面まで形成されている。
【0047】
このスリット26〜28には、接着板21が挿入され接着固定される。接着板21は、スリット26〜28にちょうど挿入できる幅及び高さを有している。また、図5(b)に示すように、接着板21には孔21aが設けられている。各スリット26〜28に接着板21を挿入すると、各接着板21に設けた孔21aは同芯状に並び、締結ボルト33を挿通することができる。
【0048】
また、ウエブ36には孔36aが設けられている。孔36aは、各接着板21が複合体30に接着固定され、複合体30がH型鋼材31に装着された際に、接着板21の孔21aと同芯状に並ぶ。よって、同芯状に配置された各孔21aと孔36aを、同一の締結ボルト33で貫通することができる。
【0049】
さらに接着板21同士の間、あるいは接着板21とウエブ36の間にコッター35を配置し、締結ボルト33で接着板21、ウエブ36とを貫通し、ナット34を螺合する。これにより、各接着板21は強固にH型鋼材31に固着される。また、各接着板21は、スリット26〜28内に挿入されて接着されているので、H型鋼材31と複合体30との接合強度が向上する。
【0050】
図4,図5には描写していないが、この実施の形態において、さらに図1に示す接続板7a,7b,8a,8bで接合部を包囲し、接合部に接着して接続板同士を溶接固定してもよい。
【0051】
また、図7(a)に示すように接着板は、溶接によってH型鋼材に固着してもよい。図7(a)〜(c)に示す接着板29は、図4に示す板状部材25の段部25aと同様の段部29a,29bを有している。これらの段部29a,29bは、各々H型鋼材31のフランジ部32の当接部32bにちょうど当接するように形成されている。そして図7(b)に示すように、接着板29の段部29a,29bやフランジ面に沿う部分には例えば45度の開先41〜45が形成されている。この開先41〜45に沿って溶接を施し、開先41〜45には溶接のビード37,38が入り、H型鋼材31と接着板29とが一体に固着される。
【0052】
接着板29に沿って板状部材を配置できるように、ビード37,38をグラインダ仕上げする。ただし、接着板29のウエブ36側は、溶接に必要な空間を確保できない場合には、溶接し易い側(外側)のみに開先加工を施し、溶接する。図7(a)では、ウエブ36の両側に接着板29を1枚ずつ配置しているが、接着板29の枚数は適宜選定可能である。
【0053】
H型鋼材31と接着板29とを溶接によって固定すると、図4(a)に示すようにH型鋼材31と接着板21とをボルト33,ナット34で固定する場合のように、ボルト33,ナット34が緩むことがない。また、ボルト33,ナット34で固定するよりも、溶接で固定する方がH型鋼材31側と複合体(接合板)の接合部分の強度が向上する。
【0054】
以上説明した本発明の土留め壁構造では、H型鋼材のフランジを切り欠き、複合体の高さを高くすることにより、複合体側の断面係数を大きくすることができ、強度アップを図ることができる。また、各板状部材とH型鋼材の接合を、コッター及びボルト・ナットを使用する機械接合から2組の平行な接続板で周囲を包囲し、接続板同士を溶接することにより、接合部の強度を向上させることができる。
【0055】
なお、図1〜図5に示す土留め壁構造部材1は、複合体10を構成する各板状部材3〜6をH形鋼材2のウエブ11と平行に配置しているが、H型鋼材のフランジの幅と同じ幅の板状部材を、フランジと平行(ウエブと直交する向き)に配置し、ウエブに沿って積層した板状部材の高さを、H形鋼材の高さと一致させるようにすることもできる。
【0056】
また、複数の板状部材3〜6で構成される複合体10の代わりに、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させた掘削可能部材を採用してもよい。掘削可能部材は複合体10程度の強度と形状を有する一体成形物であり、掘削機で容易に掘削可能な部材である。この掘削可能部材の端部を、図1に示すH型鋼材2の端部の形状に合わせて成型し、複合体10の代わりにH型鋼材2の端部に接続する。仮に、図4に示すような接着板21を使用する場合には、掘削可能部材の端部にスリット26〜28を設け、このスリット26〜28に接着板21を係合させる。
【符号の説明】
【0057】
1 土留め壁構造部材
2 H型鋼材
3〜6 板状部材
7a、7b、8a、8b 接続板
9、14 溶接部
10 複合体
11 H形鋼材のウエブ
12 H型鋼材のフランジ
12a フランジの残留部
12b フランジの当接部
13 H型鋼材と複合体の接合部
26〜28 スリット(接続板の挿入部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H型鋼材の端部と、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させて構成した掘削可能部材の端部とを接合し、前記掘削可能部材が掘削機により掘削される土留め壁構造において、
前記H型鋼材の一対のフランジが、ウエブを残して端部から所定長さ切り欠かれ、一対の掘削可能部材の端部が、前記H型鋼材のウエブを挟んで、フランジの切り欠いた部位まで至るよう設けられ、前記掘削可能部材の側面が、前記H型鋼材の残されたフランジ部分の外面と略面一となるように構成されたことを特徴とする土留め壁構造。
【請求項2】
前記掘削可能部材が、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させた複数の板状部材を重ねて構成した複合体であることを特徴とする請求項1に記載の土留め壁構造。
【請求項3】
前記板状部材の端部と前記H型鋼材の端部との間に接着板が設けられ、前記接着板は前記板状部材の間に挟まれており、前記接着板は、切り欠かれずに残されたH型鋼材の内面に溶接されて取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の土留め壁構造。
【請求項4】
掘削可能部材の端部が、切り欠かれずに残された前記H型鋼材のフランジの端部と当接していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちのいずれかに記載の土留め壁構造。
【請求項5】
ウエブと掘削可能部材とが接着されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちのいずれかに記載の土留め壁構造。
【請求項6】
切り欠かれずに残されたH型鋼材の各フランジの外面から掘削可能部材の側面にわたって、一の接続板で覆われ、かつ、両フランジの縁部から掘削可能部材にわたって、他の接続板で覆われ、前記一の接続板と前記他の接続板の縁部同士が溶接されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちのいずれかに記載の土留め壁構造。
【請求項7】
掘削可能部材が、一つのH型鋼材と別のH型鋼材の間に介在され、前記掘削可能部材の両端部が、両H型鋼材の端部と接合されたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちのいずれかに記載の土留め壁構造。
【請求項8】
H型鋼材の端部と、プラスチック発泡体に無機繊維を混在させて掘削機により掘削し易く構成した掘削可能部材の端部とを接合する土留め壁構造の構築方法において、
前記H型鋼材の一対のフランジの端部をウエブを残して所定長さ切り欠き、一対の掘削可能部材の端部を、前記H型鋼材のウエブを挟むように、フランジの切り欠いた部位まで至るよう設け、前記掘削可能部材の側面を、前記H型鋼材の残されたフランジ部分の外面と略面一となるように構成することを特徴とする土留め壁構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−38287(P2011−38287A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185519(P2009−185519)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】