説明

土石流堰止装置における捕捉土石の排除方法及びこの方法を実施するための土石流堰止装置

【課題】谷部に架け渡された主索と、主索から吊り下げられ河道を閉塞するリングネットとを有する土石流堰止装置を設置し、上流から流下する土石流を堰き止めた場合に、捕捉された堆積土石を土石流堰止装置の下流側から除去できるようにし、更に土石除去後に土石流堰止装置の復旧作業が簡単に行えるようにすること。
【解決手段】リングネット4の高さ方向中途部分における横並びのリング部材列の、上下に隣接する2つの列間のリング部材同士を、リング部材相互の結合と結合解除を行うことのできる連結部材6によって連結し、捕捉された堆積土石の排除時に、連結部材によるリング部材間の結合を解除し、リングネットを上下に分離して上下のリングネット部分間に捕捉土石に対する作業空間を形成し、リングネット下流側から捕捉土石の排除を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば山間の谷部を横切って張設され、土石流を堰き止めて土石を捕捉するための懸架式土石流堰止装置に関し、特に該土石流堰止装置における捕捉土石の排除方法及びこの方法を実施するための土石流流堰止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数のリング部材を相互に連結して網状に構成したリングネットを、谷部両岸に築造した支持基礎(アンカレッジ)間に架け渡した主索から吊索により吊り下げ、下方部を河床に固定し、河道横断面を閉塞するように張設した土石流堰止装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
この土石流堰止装置は比較的軽量な部材で構成されており、搬送し易いため上流の比較的峻険な山間の谷部にも設置し易いという特徴を有している。
【0004】
このような山間部に設置した土石流堰止装置の上流で土石流が生じ、この堰止装置が多量の土石を捕捉した場合、次回の土石流発生に備えて、堆積した捕捉土石は排除されなければならないが、堰止装置の設置が峻険な山間部になされているために、土石排除用の重機を堰止装置の上流側へ投入することが困難である場合が多い。そのため、重機は、必然的に、堰止装置設置の際に資材等搬送のために比較的整備された状態になっている下流側に投入せざるを得ない。
【0005】
下流側から捕捉土石を排除するにはネットが障害となるため、対策として、従来、先ず主索を支持基礎から取外し、取り外した主索、並びにこの主索に結合された吊索、リングネットを河床上に展開し、各部材を分解した後、リングネットのみ展開状態で残置させるという方策が取られており、その上で土石の排除が行われていた。
【0006】
【特許文献1】特開2003−3449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記主索を支持基礎から取り外す際、この主索の応力解放は、主索の張力をセンターホールジャッキにより徐々に緩めることにより行われるが、主索は複数本のロープで構成されている場合が多く、ロープ1本ずつの応力解放は、残ったロープへの負荷が増大し過負荷となるために、複数本の主索ロープの応力を同時に解放する必要があり、この作業には看過できない時間と労力と経費とを伴う。
【0008】
また、上記主索、吊索、リングネットは一体化されているため、主索の応力解放後における河床上での堰止装置の展開作業は非常な困難を伴い、また、展開後における主索、吊索、リングネットの分解、及び土石排除後における各部材の組立並びに再架設という河床内での復旧作業も時間、労力、経費的に非常に大掛かりなものとなる。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、下流側から捕捉土石の排除を行う場合に、主索の応力解放並びに取外し作業、河床上への堰止装置の展開作業、展開後における主索、吊索、リングネット相互間の分解作業を必要とせず、また土石排除後における復旧作業が極めて簡単に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1に記載の発明は、谷部の上方で谷部を横切って架け渡された主索と、多数のリング部材を縦横に順次連結して網状に構成され、前記主索から吊り下げられ、谷部を横切り前記主索とこの主索の下方の河床との間に張設されたリングネットとを有し、上流から流下する土石流を堰き止めて土石を捕捉する土石流堰止装置における捕捉土石の排除方法であって、吊り下げられた前記リングネットの高さ方向中途部分における横並びのリング部材列の、上下に隣接する2つの列間のリング部材同士を、リング部材相互の結合と結合解除を行うことのできる連結部材によって連結し、上記リングネットによって捕捉された土石の排除時に、前記連結部材によるリング部材間の結合を解除し、前記リングネットを上下に分離して上下のリングネット部分間に前記捕捉土石に対する下流側からの作業空間を形成し、前記リングネット下流側から前記捕捉土石の排除を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、リングネットの下流側から重機により土石の排除を行うに当たり、主索、吊索はそのままに、単に上記連結部材によるリング部材の結合を解除することにより、リングネットはリング部材連結解除部分で上下に分離され、分離後の下側リングネット部分を河床上に展延させれば、上側リングネット部分の下側に重機用の作業空間が確保され、堆積した土石へ接近してこれを排除することが可能となる。土石排除後においては、上記連結部材によりリング部材同士を単に再結合することにより土石流堰止装置の復旧が達成される。
【0012】
従って、土石の排除のために堰止装置に対して行うべき作業、及び堰止装置の復旧のための作業が極めて簡単になり、その作業に要する時間や経費が大幅に節減される。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、上記リング部材間の連結解除に先立って、上記主索に対し主索固定用ワイヤロープを取り付け、上記主索を、土石捕捉時の上記リングネットを保持した姿勢に維持することを特徴とする。
【0014】
上記リングネットが土石を捕捉した状態では、リングネットは下流側に大きく膨出し、そのため主索は斜め下方へ強い力で引っ張られ、弧状に撓んで緊張力を宿した状態になっている。この状態で上記の連結解除を行うと、主索の緊張は解放され、主索は土石流発生前の当初位置へ向け勢い良く跳ね返り、いわゆる主索のバックリングが発生し、極めて危険な状況を招来する。更に、リング部材の連結解除作業の途中においても、主索に加わっている緊張力はリングネット部分を介して連結部材に波及し、この連結部材によって連結されているリング部材相互間に引張力が作用するため、連結解除作業を困難にする。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、上記のような主索のバックリングがなく、また主索による緊張力が連結部材に及ぼされないため、捕捉土石の排除作業を安全に行うことができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の方法において、上記連結部材によるリング部材間の結合の解除時に、連結解除を行うべき2つのリング部材のそれぞれの外側に位置している各1つのリング部材を選定し、これら2つの外側リング部材を互いに接近させるように牽引操作し且つ離間させるように牽引解除操作することのできる牽引・牽引解除装置をこれら2つの外側リング部材間に取り付け、上記牽引・牽引解除装置の牽引操作により上記外側リング部材を互いに接近させ、上記連結部材に作用している緊張力を取り除き、上記連結部材の連結解除作業を行うことを特徴とする。
【0017】
上記リングネットには捕捉土石からの大きなエネルギーが及ぼされており、そのため各リング部材は連結部で大きな力で相互に引き合っている状態にある。この引き合いに伴う大きな引張力は必然的に上記連結部材にも作用し、この連結部材における連結解除作業を困難にする。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、捕捉土石の圧力のために上記リングネットから上記連結部材に及ぼされる引張力は、上記牽引・牽引解除装置の操作によって解消され、上記連結部材の連結解除作業が極めて容易となる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の方法において、上記連結部材によって連結されている上記横方向のリング部材列を上記リングネット中に上下に2箇所以上設け、上記リングネットで捕捉された土石の堆積高さに応じて連結解除作業を行うべきリング部材列を選択することを特徴とする。このように構成すれば、捕捉された土石の堆積高さに応じたリング部材列の選択的連結解除により、効率の良い除石作業が行える。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れかに記載の方法において、分離した上記リングネットの上側リングネット部分を上方へ吊り上げ、上記リングネット上方に張設した吊りロープに懸架することを特徴とする。このように構成することにより、リングネット下流側からの堆積土石排除用作業空間が大きく確保され、排除作業が極めて行い易くなる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、谷部の上方で谷部を横切って架け渡される主索と、多数のリング部材を縦横に順次連結して網状に構成され、前記主索から吊り下げられ、谷部を横切り前記主索とこの主索下方の河床との間に張設されるリングネットとを有する土石流堰止装置であって、前記主索から吊り下げられた状態の前記リングネットの高さ方向中途部分における横並びのリング部材列の、上下に隣接する2つの列間のリング部材同士が、リング部材相互の結合と結合解除を行うことのできる連結部材によって連結されていることを特徴とするものである。
【0022】
上記主索及び吊索はワイヤロープ製であることが好ましく、また上記リング部材は、高強度の硬鋼線を複数回リング状に捲回し、周方向に所定間隔をおいて複数箇所で線材を束ねる締結手段、たとえばクリップで結束することによって構成されたものであることが好ましい。
【0023】
上記連結部材はリング部材と同等またはそれ以上の引張強度、衝撃強度を有していることが望ましく、それによりリングネットには連結部材を用いない場合のリングネットと同等の強度と作用がもたらされる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、土石流堰止装置が峻険な山峡に設置された際においても、捕捉土石の排除作業と復旧作業を迅速に行うことを可能にする。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記結合部材がシャックル本体とシャックルボルトとから成るシャックルであることを特徴とする。シャックルを結合部材として用いることにより、上記リング部材相互の結合と結合解除が、シャックル本体に対するシャックルボルトのねじ込み、ねじ外し操作だけで行い得るので、リングネットの分離及び復旧作業が簡単かつ迅速に達成される。また、シャックルは、リングネットの土石捕捉作用を損なわないようリング部材相互の強固な結合をもたらすことができる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、上記結合部材が、高強度の線材を複数回リング状に捲回し、形成した捲回線材束を締結部材で1箇所以上結束して構成した小径リング結合部材であることを特徴とする。この小径リング結合部材は、上記リングネットを構成するリング部材と相似形であるので、結合時における両者の間の馴染みがよく、リング部材との相対的な動きに融通性がもたらされるので、結合部におけるリング部材のエネルギー吸収時の変形が、効率の良いエネルギー吸収作用をもたらすような均整のとれたものとなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、上流側からの捕捉土石の排除が行い難い土石流堰止装置にあって、下流側からの土石排除が行える状況を容易に作り出すことができ、また土石排除後の土石流堰止装置の復旧も比較的少ない労力で迅速且つ経済的に達成されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
【0029】
図1は、本発明による懸架式土石流堰止装置1の展開図である。図中、2は複数本のワイヤロープから成る主索、3は一端が主索2に結合されたワイヤロープ製吊索、4は吊索3の他端に結合されたリングネット、5はリングネット4に結合されたロープネットをそれぞれ示している。部材2,3,4,5間の結合はそれぞれ締結金具を用いて行われている。
【0030】
上記のリングネット4は、下記の一部のリング部材の結合を除き、多数のリング部材40を、図2(A)に示すように、それぞれ隣り合うリング部材40が内周側で接触して係合するよう、相互に連結することによって構成されている。
【0031】
各リング部材40は、高強度の硬鋼線を複数回リング状に捲回し、周方向に所定間隔をおいて複数箇所をクリップなどの結束手段で結束することによって構成されている。本実施の形態では、各リング部材40は、φ4mmの硬鋼線を、直径が0.6m〜1.5mのリングを形成するように15〜25回捲くことによって構成されているが、硬鋼線の直径、リングの大きさ及び捲き数は、要求される衝撃エネルギーの吸収力や、想定される土石流の状況に応じて適宜変更することができ、また線材の材料も適宜選択可能である。
【0032】
上記のように構成したリング部材40が図3(A)及び図4(A)に部分的に示されており、図中、41は上記の結束手段を示している。
【0033】
硬鋼線を用いてリング部材を形成し、更に図2(A)に部分的に示すような構成のリングネットを製造する方法は、特開平08−053814号公報に示されている。
【0034】
本発明によれば、リングネット4は下記のような特殊な構成を有している。すなわち、図1に示すリングネット4において、上から7列目と8列目のリング列4gと4hとの間の連結は、図2(A)に示す連結とは異なり、連結部材6を介して行われている。図3及び図4は連結部材6の具体例を示している。
【0035】
図3は、連結部材6としてのシャックル6A1(図3(B))と、ダブルシャックル6A2(図3(C))を示している。図3(B)に示すシャックル6A1は、U字状のシャックル本体6A1aと、このシャックル本体の2つの先端部間に差し渡されたシャックルボルト6A1bとを有しており、シャックルボルト6A1bは、そのねじ込み及びねじ外し操作を行うことによって、シャックル6A1による環を、シャックル本体6A1aの先端部間において閉鎖したり開放したりする。
【0036】
図3(C)に示すダブルシャックル6A2は、図3(B)のシャックル6A1を2個用い、シャックルボルト6A1bが交差して係合するように組み合わせたものである。このダブルシャックル6A2によれば、シャックル本体6A1aの円弧状底部が上記のリング部材40と係合することになり、係合部でのリング部材40の保護が図られる。
【0037】
図4は、連結部材6としての小径リング結合部材6Bを示している。このリング結合部材6Bは、言わばリング部材40を小型化したものであって、図4(B)に拡大して示すように、リング部材40と同様、硬鋼線を複数回リング状に捲回し、周方向に所定間隔をおいて複数箇所をクリップなどの結束手段6Baで結束することによって構成される。
【0038】
図5は、上記のように構成した土石流堰止装置1を河道Rに設置した状況を一部省略して斜視図で示している。
【0039】
設置場所には、河道Rの両岸にコンクリート製の基礎、すなわちアンカレッジKが構築され、主索2はアンカレッジKに設けられたガイドパイプKpに手前側から挿入、挿通され、ガイドパイプの反対側でジャッキにより牽引されて所定の張力が与えられ、この張力が維持された状態で定着される。
【0040】
上記主索2から吊索3を介して吊り下げられたリングネット4は、幅方向では河道横断面を閉塞し、上下方向では河床に達した下方部分42が上流側へ向かって折り返され河床上に展延される。
【0041】
折り返されたリングネット下方部分42に連結されているロープネット5は河床の上流側へ展延され、アンカーピンによって河床に固定され、更に、必要に応じてロープネット上流側先端部に結合されたアンカーロープ51が更に上流側で河床に定着される。必要に応じて、リングネット4の側部が河堤に定着されたアンカーロープに結合される。
【0042】
ロープネット5の上記上流側先端部を、ガイドパイプKpの出口端の垂直方向下方位置に対応する河床箇所に置いた場合、各部材の位置関係は具体的な数値で表わすと次のようになされる。即ち、リングネット幅が河床幅に合わせて約30m、ガイドパイプKpの出口端から河床Rまでの垂直距離が約7.6m、吊索の長さが約2.7m、主索2の最大垂れ下り距離がガイドパイプ出口端から垂直下方へ約3.8mである場合、ロープネット5の上流側先端部からリングネットの河床展延部分42の下流側先端部までの距離が約7m、この河床展延部分42の下流側先端部からリングネット上端部までの垂直距離が約1.6m、水平距離が約5.7mとなされる。その際、上記連結部材6は、河床に立つ作業者が作業し易いように、河床から約1mの高さに位置せしめられる。
【0043】
上記の具体的な数値はあくまで例示的なものであり、状況に応じて様々に変更し得ることは明らかである。例えば、河床の幅に着目した場合、河床の幅は実際上約20〜50mの範囲内にある場合が殆どであるが、上記の各値は実際の河床幅を考慮し、捕捉すべき土石量を想定して設定される。
【0044】
上記連結部材6による上下の隣接リング40の連結は、リングネット4中で2箇所以上で行ってもよく、図8及び図9は、図1に示す連結箇所60の上方に更にもう1つの連結箇所61を設けた場合を示している。
【0045】
図6は、上記のように設置された土石流堰止装置1が土石流を堰き止め、土石Sを捕捉した状況を土石流堰止装置の下流側から見た図である。この図ではリングネット4は概略的に示されているが、土石Sからの衝撃エネルギーを受けたリングネット4は、そのリング部材40が図2(B)に示すようにリング連結部で引っ張られて変形することにより衝撃エネルギーの大部分を吸収する。
【0046】
補足された堆積土石Sは次のようにして排除される。初めに、鎖線L−Lで示す箇所にある連結部材6が作業者によりすべて結合解除操作され、同箇所でリングネット4が上側リングネット部分と下側リングネット部分に分離される。
【0047】
分離後の下側リングネット部分は河床上に展延され、上側リングネット部分は、図7に示すように、アンカレッジK間に展張された吊りロープ7に一時的に掛けられる。このようにして、上側リングネット部分の下方には、下流側から堆積土石Sへ接近可能な大きな空間がもたらされ、下流側に投入した重機Jにより土石が河床から排除される。
【0048】
土石の排除後、吊りロープ7に掛けられていた上側リングネット部分は吊りロープから外され、主索2から垂れ下げられた状態になされ、次いで、上側リングネット部分の下端列のリング部材と、河床から立ち上げた下側リングネット部分の上端列のリング部材が連結部材6によって分離前の状態のように相互に連結され、かくして土石流堰止装置1は復旧せしめられる。
【0049】
リングネット4が土石の衝撃により幅員を縮小している場合には、上下のリングネット部分の連結に先立って、側方にリング部材が付け足され、河道を閉塞し得る幅員にした上で上記の連結操作が行われる。
【0050】
以上、除石のための主要な作業について説明したが、リングネットにより捕捉された土石の状況に応じて下記のような更なる対策が講じられる。
【0051】
例えば、土石流がリングネット4の側部を抜けて下流側に回り込み、リングネット下流側面が部分的に又は全体的に土石によって覆い隠された状態になっている場合、リングネット下流側及び側部の除石が行われ、それにより少なくとも連結部材6(以下、連結部材6としてシャックル6A1を例に説明する)の周辺部が露出される。
【0052】
リングネット4が土石を捕捉した状態では、リングネットは下流側に大きく膨出し、そのため主索2は吊索3を介して斜め下方へ強い力で引っ張られ、弧状に撓んで緊張力を宿した状態になっている。この状態で上記シャックル6A1によるリング部材の連結を解くと、主索2の緊張は解放され、主索は土石流発生前の当初位置へ向け勢い良く跳ね返り、いわゆる主索のバックリングが発生し、極めて危険な状況を招来する。更に、リング部材の連結解除作業の途中においても、主索2に加わっている緊張力はリングネット部分を介してシャックル6A1に波及し、このシャックルによって連結されているリング部材相互間に引張力が作用するため、連結解除作業を困難にする。このような主索のバックリングを防止したり、主索による緊張力をシャックルに及ぼさないようにしたりするために、リング部材の連結解除に先立って、主索2に適宜本数の固定用ワイヤロープ(例えばφ9〜14mm)の一端を取り付け、他端を河床或いは河岸の適宜箇所にアンカーによって固定することによって、主索2を弧状に撓んだ状態のままに維持する。
【0053】
上記固定用ワイヤロープの設置によって緊張状態にある主索2の影響は排除することができるが、リングネット4には捕捉土石からの大きなエネルギーも及ぼされており、そのため図2(B)に関して説明したように、各リング部材40は連結部で大きな力で相互に引き合っている状態にある。この引き合いに伴う大きな引張力は必然的にシャックル6A1にも作用し、このシャックルにおける連結解除作業を困難にする。
【0054】
このような問題を解消するために、図8及び図9に示すような牽引・牽引解除装置8が使用される。この牽引・牽引解除装置として、牽引と牽引解除とを緩やかに行うことができる市販のレバーブロックが適用可能である。レバーブロックを適用した場合を例に説明すると、図8において、先ずレバーブロック8に備えられている一方のフック8aが、連結解除を行うべき2つのリング部材40a,40bのうち、リング部材40aの外側に隣接するリング部材40cに引っ掛けられ、他方のフック8bがリング部材40bの外側に隣接するリング部材40dに引っ掛けられる。両リング部材40c,40dは、連結解除に拘わっているシャックル6A1aに対して互いに対称位置にある。このような対称位置関係にある外接リング部材40c,40dをレバーブロックのフック8a,8bを引っ掛けるための対象として選定することが好ましいが、場合によっては対称位置関係にない他の2つの外接リング部材を選定してもよいし、これら外接リング部材より更に外側にあるリング部材を選定してもよい。なお、ここで云う「外側」とは、連結解除に拘わっているシャックルを中心に見た場合の該中心からの遠近方向での位置関係で相対的に遠方側にあることを意味している。
【0055】
上記のようなレバーブロック8のセッティングを行った後、レバーブロックのレバー8cが操作され、上記の外接リング部材40c,40dは互いに引き寄せられる。この結果、シャックッル6A1aに及ぼされていた引張力は解消され、シャックッル6A1aは容易に取り外すことができる。
【0056】
シャックッル6A1aの取り外し後、レバーブロック8による外接リング部材40c,40d間の牽引拘束がレバー8cを操作することにより徐々に緩解かれ、リング部材40a,40bによる土石の支えは無くなる。その際、堆積土石の自然安定状態が得られず崩落が予想される場合には、レバーブロック8の取り外しに先立ってリング部材40a,40b近辺の一部の土石が手作業或いは重機を使用して排除され、安定状態が得られるようにする。堆積土石に変状がなく、作業者に対し危険が及ばないことが確認された後レバーブロック8が取り外される。
【0057】
次いで、隣のシャックル6A1bについて上記と同様の手順で連結解除が行われる。このようにして連結箇所60における全部のシャックルに対し、順次同様の作業が進められる。シャックルの取り外しは、リングネットの一方縁辺から他方縁辺に向けて行うか、リングネットの左右両端から同時に開始し中心部へ進めるようにしてもよく、或いは中央部から開始し、左右に進めるようにしてもよい。図中、鎖線は各シャックルに対するレバーブロック8の取り付け位置を示すものである。このようにして、上側ネット部分と下側ネット部分が分離され、下側ネット部分は上述したように河床上に展延される。
【0058】
上方にもう1つの連結箇所61がある場合には、同箇所でのシャックルの取り外しが行われる。既に連結箇所60での連結部材6の取り外しが行われている場合には、連結箇所61での作業には上記牽引・牽引解除装置8は必ずしも必要ないが、最初に連結箇所61での作業を行う場合には、同牽引・牽引解除装置を用いる必要がある。連結箇所61での作業を最初に行う場合としては、捕捉されている土石の堆積がリングネット4の上部範囲まで達しているときなどである。このときは、上側の連結箇所61での作業により、土石の堆積高さが適当なレベルまで低められ、次いで下側の連結箇所60での作業が行われる。
【0059】
両連結箇所60,61での取り外し作業が完了すると、中間リングネット部分43は取り払われ、除石作業に支障のない場所へ移動せしめられ、この結果、広範囲に亘る堆積土石に対して下流側から接近可能となる。
【0060】
また、上記の連結箇所60,61の他に、リングネット4の最上端のリング部材と吊索3との間の結合を解除可能な結合手段で行っておくこともでき、そのようにすることにより上記連結箇所60及び/又は連結箇所61での連結解除を行った後、上記最上端のリング部材と吊索との間の結合を解除すれば、主索及び下側リングネット部分の両方から解放された中間のリングネット部分を土石堆積箇所から除石作業に支障のない場所へ移動させることができ、従って堆積土石に対し高さ方向においても広く除石作業空間をとることができる。
【0061】
下流側からの除石作業は、シャックルを取り外しながら、それと同時に行ってもよいし、全部のシャックルを取り外した後、主索から吊り下がったままの残余のネット部分を吊り上げるか若しくは巻き上げ、或いは上記の中間のリングネット部分を取り去ってから行ってもよい。何れを選択するかは捕捉された土石の堆積状況による。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明による土石流堰止装置の展開図である。
【図2】リングネットのリング部材の結合状態を示す部分図であり、(A)はリングネットが衝撃を受ける前の状態、(B)はリングネットが衝撃を受けた際に衝撃エネルギー吸収するために変形した状態を示す図である。
【図3】連結部材としてのシャックルを示す図であり、(A)はこのシャックルを用いてリング部材を連結した状態を示す図、(B)はシャックルの斜視図、(C)はダブルシャックルの斜視図である。
【図4】連結部材としての小径リング結合部材を示す図であり、(A)はこの小径リング結合部材を用いてリング部材を連結した状態を示す図、(B)は小径リング結合部材の詳細斜視図である。
【図5】本発明による土石流堰止装置を設置した状態を示す部分的斜視図である。
【図6】図5の土石流堰止装置が土石流を堰止した後の状態を下流側から見た概略正面図である。
【図7】堆積土石を排除し得る状態にされた土石流堰止装置を示す、図5と同様の概略正面図である。
【図8】本発明の他の実施形態を示す、リングネットの平面的部分図である。
【図9】図8に示したリングネットを用いて土石流堰止装置を構成した場合の同装置の概略的側面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 土石流堰止装置
2 主索
3 吊索
4 リングネット
40 リング部材
5 ロープネット
6 連結部材
6A1 シャックル
6A2 ダブルシャックル
6B 小径リング結合部材
7 吊りロープ
8 牽引・牽引解除装置(レバーブロック)
60,61 連結箇所
J 重機
K 基礎(アンカレッジ)
R 河床
S 堆積土石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
谷部の上方で谷部を横切って架け渡された主索と、多数のリング部材を縦横に順次連結して網状に構成され、前記主索から吊り下げられ、谷部を横切り前記主索とこの主索の下方の河床との間に張設されたリングネットとを有し、上流から流下する土石流を前記リングネットによって堰き止め、土石を捕捉する土石流堰止装置における捕捉土石の排除方法であって、
吊り下げられた前記リングネットの高さ方向中途部分における横方向のリング部材列の、上下に隣接する2つの列間のリング部材同士を、リング部材相互の結合と結合解除を行うことのできる連結部材によって連結し、
前記リングネットによって捕捉された土石の排除時に、前記連結部材によるリング部材間の結合を解除し、前記リングネットを上下に分離して上下のリングネット部分間に前記捕捉土石に対する下流側からの作業空間を形成し、
前記リングネット下流側から前記捕捉土石の排除を行うことを特徴とする土石流堰止装置における捕捉土石の排除方法。
【請求項2】
前記リング部材間の連結解除に先立って、前記主索に対し主索固定用ワイヤロープを取り付け、前記主索を、土石捕捉時の前記リングネットを保持した姿勢に維持することを特徴とする請求項1に記載の捕捉土石の排除方法。
【請求項3】
前記連結部材によるリング部材間の結合の解除時に、連結解除を行うべき2つのリング部材のそれぞれの外側に位置している各1つのリング部材を選定し、これら2つの外側リング部材を互いに接近させるように牽引操作し且つ離間させるように牽引解除操作することのできる牽引・牽引解除装置をこれら2つの外側リング部材間に取り付け、前記牽引・牽引解除装置の牽引操作により前記外側リング部材を互いに接近させ、前記連結部材に作用している緊張力を取り除き、前記連結部材の連結解除作業を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の捕捉土石の排除方法。
【請求項4】
前記連結部材によって連結されている前記横方向のリング部材列をリングネット中に上下に2箇所以上設け、リングネットで捕捉された土石の堆積高さに応じて連結解除作業を行うべきリング部材列を選択することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の捕捉土石の排除方法。
【請求項5】
分離した上記リングネットの上側リングネット部分を上方へ吊り上げ、上記リングネット上方に張設した吊りロープに懸架することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の除石方法。
【請求項6】
谷部の上方で谷部を横切って架け渡される主索と、多数のリング部材を縦横に順次連結して網状に構成され、前記主索から吊り下げられ、谷部を横切り前記主索とこの主索下方の河床との間に張設されるリングネットとを有する土石流堰止装置であって、
前記主索から吊り下げられた状態の前記リングネットの高さ方向中途部分における横方向のリング部材列の、上下に隣接する2つの列間のリング部材同士が、リング部材相互の結合と結合解除を行うことのできる連結部材によって連結されていることを特徴とする土石流堰止装置。
【請求項7】
前記結合部材がシャックル本体とシャックルボルトとから成るシャックルであることを特徴とする請求項6に記載の土石流堰止装置。
【請求項8】
前記結合部材が、高強度の線材を複数回リング状に捲回し、形成した捲回線材束を締結部材で1箇所以上結束して構成した小径リング結合部材であることを特徴とする請求項6に記載の土石流堰止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−52214(P2009−52214A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217559(P2007−217559)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(501028390)国土交通省北陸地方整備局長 (12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000219358)東亜グラウト工業株式会社 (47)