説明

圧力緩衝方法

【課題】 圧力緩衝効果を最大限に引出し、緩衝容器をコンパクトに抑えるための手段、および簡単な構成によって機能性の高い圧力緩衝方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 高圧流路に供する圧力緩衝方法であって、その緩衝流体が単成分あるいは少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物で、超臨界圧以上の状態において、その温度を次式1で表される無次元化等温圧縮率Kが1.5を超えるように調整し、操作することを特徴とする圧力緩衝方法。ここで、Pは圧力、κは等温圧縮率である。
= P*κ (式1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非圧縮性流体の高圧流路に供する圧力緩衝方法に関する。特に、流体を適切な温度に制御してその圧縮性を利用して熱的に圧力緩衝を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高圧流体の供給装置においては、非圧縮性の高圧流路を流れる流体の一部を貯留あるいは導出させることによって配管系の圧力緩衝を図るために、アキュムレータなどの圧力緩衝方法が用いられる。
【0003】
アキュムレータとしては、一般的に図16のような構成が挙げられる。具体的には、制動の対象となる高圧流体(被緩衝流体)3が流れる高圧流路4に接続する容器1があり、その容器1内部に緩衝流体5が存在する。このとき、例えば、高圧流路4を流れる流体が余剰になった場合、高圧流路4内の高圧流体3が容器1に流入し、容器1の内部に封入された緩衝流体5を圧縮して圧力上昇を緩衝する。逆に高圧流路4を流れる流体が不足した場合、容器1内の高圧流体3が高圧流路4に流入するとともに、容器1の内部に封入された緩衝流体5を膨張して圧力降下を緩衝する。これによって、アキュムレータの畜圧あるいは緩衝作用が機能する。
【0004】
この構成を超臨界圧の流体の緩衝に利用した例も知られる。超臨界圧の流体を加熱すると圧縮性が生じ、一般の気体と同様に振舞うとの良く知られた性質を利用したものである(特許文献1参照)。
【0005】
また、アキュムレータの別の構成として、プラダ型、ピストン型、ダイヤフラム型、金属製ベローズ型などの方式も多用される。これらは、制動の対象となる高圧流体(被緩衝流体)と緩衝流体との間を区画する、変形あるいは移動可能な隔壁を有する点が、図16にあげたアキュムレータと異なる。この隔壁のために、被緩衝流体と緩衝流体の混合が抑止され、緩衝流体としては窒素などの不活性ガスが主に使用される。
【0006】
具体的には、ピストン型アキュムレータとして、従来から図17に示すような構成が知られている。有底筒状のアウターケース101内にピストン102を摺動自在に収納し、このピストン102の外周にOリング103等を嵌着し、アウターケース101の開口部105にはプラグ104を固着し、更に気体室S1には窒素ガス(緩衝流体)を封入してプラグボルト106にて封止するとともに、液体室S2は高圧流体(被緩衝流体)を連結している。そしてこのアキュムレータにおいては、アウターケース101の開口部105を溶接することによって固着している。(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−50492号公報
【特許文献2】特開平8−296601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の方法において、大きな圧力緩衝機能を持つには、緩衝流体を封ずる空間を大きくする必要があり、圧力緩衝手段あるいは装置が大掛かりなものとなり、コスト面での負担が大きくなることである。
【0008】
また、同種の流体を緩衝流体として用いた場合にあっては、被緩衝流体の運転圧が高い場合には、同種の流体での圧力緩衝機能が十分働かず、緩衝流体として如何なるものが適するかとの詳細な検討を要する場合がある。
【0009】
従って、本発明は、圧力緩衝効果を最大限に引出し、緩衝容器をコンパクトに抑えるための圧力緩衝方法を提供することを目的とする。また、簡単な構成によって機能性の高い圧力緩衝方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す圧力緩衝方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
本発明は、高圧流路に供する圧力緩衝方法であって、その緩衝流体が単成分あるいは少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物で、超臨界圧以上の状態において、その温度を次式1で表される無次元化等温圧縮率Kが1.5を超えるように調整し、操作することを特徴とする。ここで、Pは圧力、κは等温圧縮率である。
【0012】
= P*κ (式1)
通常、緩衝手段の容積が大きいほど、また緩衝流体の圧縮率が高いほど、圧力緩衝機能が高い。本発明者は、さらに圧力緩衝の効果は、極力等温過程に近づけることが有効であること、および超臨界圧の流体においては、等温圧縮率を稼ぎ緩衝容器の容積を小さく収めるには、最適な温度があることを見出したものである。つまり、緩衝流体の条件として、単成分あるいは少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物で、かつ、その圧力を超臨界圧以上とすることで、非常に圧縮率の高い状態を作り出すことができるとともに、温度を制御することによって、緩衝機能を調整することができることを案出したもので、被緩衝流体の条件が変動しても、容易に緩衝手段を最適の条件に調整することが可能となる。また、緩衝容器の小型化を図り、装置全体のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0013】
このとき、無次元化等温圧縮率Kは、1.0を超える条件であれば、高い値ほど圧力緩衝機能が高く好ましい。しかしながら、1.0近傍を僅かに超える程度では緩衝流体の容積を少なくして効果的な緩衝機能を有することは困難である一方、比較的簡便な方法によって、効果的な圧縮機能を果たす領域で流体を温度制御する観点からもKは1.0を超える一定値以上であることが好ましい。本発明者は、各種流体の解析および実験過程を含む関連技術についての知見から、こうした最適領域として無次元化等温圧縮率Kが1.5を超えるように調整し、操作することが好ましいことを案出したものである。
【0014】
また、高圧流体の圧力が臨界圧からの隔たりが大きい場合にあっては、同種の流体の緩衝は効果的でなくなることから、より高圧に臨界圧を持った流体で緩衝することが好ましく、高圧流体と異種の単成分流体を超臨界圧以上の状態において用いることによって実現することが可能となる。
【0015】
さらに、こうした機能は、単成分の緩衝流体では適用範囲が限定されることから、本発明者は、少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物についても、拡張可能であることを見出したもので、これによって幅広い適用範囲を確保し、被緩衝流体(高圧流体)に応じた緩衝流体の物質の選択とその作動温度を設定することによって圧力緩衝効果を最大限に引き出すことが可能となる。
【0016】
本発明は、高圧流路に供する圧力緩衝方法であって、その緩衝流体が少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物で、その圧力を構成流体の臨界圧力の何れよりも高くし、気液二相域状態、過冷却液体状態、過熱蒸気状態のいずれかにおいて、その温度を式1で表される無次元化等温圧縮率Kが1.5を超えるように調整し、操作することを特徴とする。ここで、Pは圧力、κは等温圧縮率である。
【0017】
= P*κ (式1)
特定流体を気液二相域状態にして一定の容積を有する容器内に収納した場合において、温度を所定の範囲に設定すれば、気液の割合が調整されることにより圧力変化を吸収する機能(つまり、圧力緩衝機能に相当する)を有する。本発明者は、こうした機能を利用するとともに、圧力緩衝の効果は、極力等温過程に近づけることによって、非常に圧縮率の高い圧力緩衝方法を形成することができることを案出したもので、特に温度制御によって、容易に調整することができ、多様な仕様に適用できる点において優れた圧力緩衝方法を形成することができる。また、気液二相域状態だけでなく、特定流体を、過冷却液体状態、過熱蒸気状態、さらにはこれらを過渡的に移行する状態においても、同様の機能を発揮することから、こうした機能を利用することによって、非常に圧縮率の高い圧力緩衝方法を形成することが可能となった。また、上記のように、超臨界圧の流体においては、最適な温度おいては等温圧縮率を稼ぎ緩衝容器の容積を小さく収めることができることから、緩衝容器の小型化を図り、装置全体のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0018】
本発明は、上記圧力緩衝方法であって、増圧手段を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明における圧力緩衝方法は、緩衝流体の温度を制御することによって、圧縮率の高い最適条件下での蓄圧・緩衝機能を形成している。しかし、高圧流体の圧力が高いときは、高い圧縮率を得るには緩衝容器における作動圧力を下げたい場合がある。このとき、高圧流体側と緩衝容器との中間に増圧手段を付加することによって、さらに最適な条件を選択することが可能となる。具体的には、ピストンなどを用い、高圧流体側の受圧面積よりも緩衝容器側の受圧面積を大きくすることによって、増圧手段を形成することができる。
【0020】
本発明は、上記圧力緩衝方法であって、前記緩衝流体を収納した容器の一部に温度制御手段との熱交換を促進する手段を付加し等温過程に近づけることを特徴とする。
【0021】
本発明における圧力緩衝方法は、基本的に緩衝流体の温度を制御することによって圧縮率の高い最適条件下での蓄圧・緩衝機能を形成し、高圧流体での圧力変化が生じても、その変化に追随する機能を有している。しかし、圧力変化が生じた場合に、畜圧・圧力緩衝に時間的な遅れが生じるおそれがある。そこで、緩衝流容器内に冷却フィン体などの気液熱接触促進手段を設けることによって、その変化にも迅速に追随することができ、緩衝容器内の温度をほぼ一定に維持し、等温過程に近づけることによって、高い畜圧・圧力緩衝機能を保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、緩衝流体の温度を制御することによって、圧力緩衝効果を最大限に引出し、緩衝流体容器をコンパクトに押さえることが可能となる。特に、緩衝流体を、単成分あるいは少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物に選択し、超臨界圧力以上の圧力制御、あるいは気液二相域状態、過冷却液体状態、過熱蒸気状態のいずれかとすることによって、非常に圧縮率の高い圧力緩衝方法を形成することができる。また、緩衝流体と被緩衝流体の中間に増圧手段を設けることによって、さらに最適な条件を選択することが可能となり、安定した蓄圧・緩衝機能を確保することができる。以上のように、本発明によって、簡単な構成によってコストを低く抑え、コンパクトで機能性の高い圧力緩衝方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
アキュムレータの畜圧・緩衝作用は、緩衝流体の圧縮率が高い程、高い効率を得ることができる。ここで、一般には、液体は圧縮率が小さく気体は圧縮率が大きいことは良く知られたことである。従って、物質が液体から気体に遷移するとき、圧縮率は高温ほど大きくなると思い易い。しかし、後述する発明者の解析を基に、実際に、二酸化炭素(CO)を例に臨界圧力以上の条件下での圧縮率の温度変化を調べてみると、図1の如くである。つまり、圧縮率は、所定圧力条件の下、臨界温度より高い温度でピークを有するカーブとなる。従って、緩衝流体の温度制御を臨界温度近傍で行うことによって安定かつ非常に圧縮率の高い状態を形成することが可能となる。なお、かかる特性は、上記COに限定されるものではなく、実施例に示すように、パラ水素(H)など他の流体においても同様である。
【0025】
具体的には、図1において、Pr、Trは圧力Pおよび温度Tをそれぞれ臨界圧力Pc=73.77bar、臨界温度Tc=304.13Kで除した対臨界圧力、対臨界温度である。Pr=1.1のとき、臨界温度より僅かに高い温度Tr=1.015近くで鋭いピーク(K=11.9)を持つ、圧力が上昇するにつれて、ピークの値は小さくなり、幅が大きくなり、また、ピークに対応する温度は高温側に移動していくことが解る。
【0026】
本発明においては、次式1で表される無次元化等温圧縮率Kが1.5を超えるときに圧縮率の高い状態を保持することができる。ここで、Pは圧力、κは等温圧縮率である。
【0027】
= P*κ (式1)
無次元化等温圧縮率Kが1.5以上、好ましくは2以上のときに高い効率の圧力緩衝機能を有するアキュムレータとすることができる。
【0028】
つまり、例えばCOを用いた場合、図1のように、Prが2を超える条件で圧縮率が1.0近傍を僅かに超える領域では、圧縮率の向上を図ることが困難であり、緩衝流体の小容積化を図ることができない。また、実際の運用では緩衝流体の圧力は、ある幅で変化するので、更に余裕をみておく必要がある。被緩衝流体の条件によって緩衝流体の圧縮率の変更することを必要とする場合もあり、緩衝流体の温度によって圧縮率が所定の可変幅を有することが好ましい。つまり、緩衝流体の特性が図1のPrが1.5以下の場合のように、所定温度範囲内に極大の圧縮率を有することが好ましい。こうした要請を、後述する各種の緩衝流体(混合流体を含む)の圧縮率特性を解析あるいは実証した結果を考慮すると、実用化に適した緩衝流体の無次元化等温圧縮率Kは1.5以上、より好ましくは2以上であるの結論を得た。
【0029】
次に、高圧流体と異なる緩衝流体による圧力緩衝方法について説明する。
つまり、上記のような緩衝流体を高圧流体と同種の流体に限定した場合には、圧力緩衝機能には限界があり、十分な緩衝効果が得ることが困難な場合がある。具体的には、図1のように、COを用いた場合において、Prが3と4の間でKのピーク値は1となり、より高い圧力では、Kは全ての温度域で1以下となることが解る。つまり、P>PcであってPcからの隔たりが大きい場合には、同種の流体の緩衝は効果的でなくなる。このような高圧で緩衝ガスとしてCOを使うことは、汚染の心配が殆ど無い点を利用する場合に限定される。従って、被緩衝流体の運転圧が高い場合において、緩衝流体として如何なるものが適するかとの詳細な検討した結果、次の構成を用いることが有用であることを見出した。
【0030】
(A)隔壁を持ったアキュムレータの容器に超臨界状態の緩衝流体を充填する方法によって、Pcが高い分、緩衝効果が期待できる。ここに、緩衝流体は、適切な物質の混合による少なくとも2成分からなる混合物である場合を含む適切な物質の対を選択することにより、Pcの高い状態を生成でき、また、温度域の調整が可能となる。
【0031】
(B)隔壁を持ったアキュムレータの気室に二相域の緩衝流体を収納、あるいは緩衝流体の気液容器の気相部と連結する。ここに、緩衝流体は、適切な物質の混合による少なくとも2成分からなる混合物である場合を含む適切な物質の対を選択することにより、Pcの高い状態を生成でき、また、温度域の調整が可能となる。
【0032】
(C)増圧手段あるいは圧力シフト手段で低い圧力に変換して、二相域あるいはPc近くの流体で緩衝する。
【0033】
ここで、超臨界流の多成分流体での圧力緩衝方法について、より詳細に述べる。
緩衝流体を少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物とする場合には、緩衝流体の臨界圧力を高めることが可能で、非常に圧縮率の高い状態を作り出すことができるとともに、温度を制御することによって、緩衝機能を調整することができる。具体的には、後述の実施例において挙げるように、緩衝流体としてアルゴン(Ar)とアンモニア(NH)の混合物やヘリウム(He)とCOの混合物などを用いることによって、緩衝容器内に超臨界圧状態を形成する温度を調整することが可能となり、圧縮率の高い条件で作動・制御を行うことができる。
【0034】
また、高圧流体側の運転圧において、容器内部で気液二相域を形成することが可能な混合物を緩衝流体として選択することによって、温度域の調整が可能で、圧縮率の高い状態を作り出すことができる。つまり、高圧流体の余剰に対しては、緩衝流体の液化によって緩衝し、高圧流体の不足に対しては、緩衝流体の気化によって緩衝する。このように、高圧流体の余剰・不足が生じても、緩衝流体の気液の比率を変化させて、その変化に追随する機能を有している。
【0035】
さらに、図2−1〜2−3は単成分(CO)におけるKの温度変化を示すが、飽和温度より僅かに過冷却の液体の領域では、略Pc>P>0.9*Pcの範囲で、K>1の領域が存在し、温度を上げてゆくと、飽和温度に向けて増加する。また、飽和温度より僅かに過熱の蒸気の領域では低圧域までK>1の領域が存在する。このような特性は、上記、気液ニ相域の場合と同様、緩衝機能として利用することが可能であり、所定温度に制御することによって、最適の緩衝機能を形成することが可能となる。さらにはこれらを過渡的に移行する状態においても、同様の機能を発揮することから、こうした機能を利用することができる。
【0036】
以上の知見を基に、実際のアキュムレータを構成した場合の基本的な実施形態を図3によって説明する。具体的には、制動の対象となる高圧流体(被緩衝流体)3が流れる高圧流路4に接続する容器1に緩衝流体5が存在し、高圧流体3が、その流体の超臨界状態(運転圧>臨界圧Pc)の場合、その温度を無次元化等温圧縮率Kが1.5を超えるように調整している。なお、上記のように、Kは、1.5以上さらには2以上であることが好ましい。こうした条件を確保するために、容器1の周囲に加熱手段、温度検出手段および断熱手段からなる恒温手段6を配し温度制御を行っている。従って、アキュムレータの容積を小さくすることができ、また、装置のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0037】
このときの容器1における緩衝機能は、例えば、高圧流路4を流れる流体が余剰になった場合、高圧流路4内の高圧流体3が容器1に流入するとともに、緩衝流体5を圧縮して圧力上昇を緩衝する。逆に高圧流路4を流れる流体が不足した場合、容器1内の高圧流体3が高圧流路4に流入するとともに、緩衝流体5を膨張して圧力降下を緩衝する。これによって、アキュムレータの畜圧あるいは緩衝作用が機能する。容器1には接続部7が設けられており、緩衝流体5の充填、あるいは容器1の容積が少ない時における別容器の追加的接続などに用いられる。なお、容器1に相当する空間部は、各々1つに限定されるものではなく、複数の空間部を直列に配することの緩衝効果あるいは並列に配することの分散効果を生かすことで、より一層アキュムレータの機能強化を図ることも可能となる。なおこうしたアキュムレータは、目的に応じて種々の構成が可能であり、図3の構成に限定されないことはいうまでもない。
【0038】
また、P>PcであってPcからの隔たりが大きい場合には、同種の流体の緩衝は効果的でなくなることから、増圧手段あるいは圧力シフト手段で低い圧力に変換して、同種の流体の二相域あるいはPc近くの流体で緩衝することが可能である。具体的には、図4に例示するように、容器1と容器2の間に増圧手段として容器12を付加し、容器12内部に摺動自在なピストン8bを配し、容器2の内部に配されたピストン8aとを連結部13によって連動させるとともに、ピストン8bの容器2側の受圧面8dをピストン8aの高圧流路3側の受圧面8cよりも大きな面積を形成し、かつピストン8bによって分割された容器12の容器1側空間12bを容器1の恒温手段6内部に設ける構成を採っている。ここで、容器12を容器1と別体とした上記構成例だけではなく、容器1内部に内蔵し一体化した構成、あるいは容器1に代えてピストン機構を設けることも可能である。
【0039】
また、高圧流体3での圧力変化が生じる場合には、容器1において畜圧・圧力緩衝に時間的な遅れが生じるおそれがある。容器1の内部に恒温手段6との熱交換促進手段14を設けることによって、容器1の内部の温度をほぼ一定に維持し、等温過程に近づけることによって、高い畜圧・圧力緩衝機能を保持することが可能となる。熱交換促進手段14としては、具体的には、図5のようなシェルアンドチューブ式熱交換器状のもの、あるいはフィン体を有する管状体を挙げることができ、容器2内部における緩衝流体5との接触面積が大きく、気液熱接触を促進することができる熱交換率の高い手段が好適である。恒温手段6と接続し、熱交換促進手段14を恒温手段6の制御温度と変わらない温度に維持することで、一層容器2内の温度を一定に維持することができる。
【0040】
以下、超臨界圧の場合を中心に圧力緩衝効果を高めるための条件について解析した結果を詳述する。
【0041】
(1)アキュムレータのサイズをコンパクトに収めるには、緩衝用流体の温度を適切に制御することが有効である。つまり、等温的過程におけるアキュムレータのサイズの解析には、下式に示す等温圧縮率κT、
κ=−(dv/dP)t/v=(dρ/dP)t/ρ
が利用できる。
ΔPの範囲でκの変化が無視できる時、ΔPの圧力変化によりΔVの変化を吸収するために必要な緩衝用流体の体積Voは、
=(ΔV/ΔP)/κ .....(1)
と表すことができる。
特に理想気体を用いる時は、
κ=1/P .....(2)
となる。
【0042】
(2)さて、圧縮率には、
κ=−(dv/dP)s/v=(dρ/dP)s/ρ .....(3)
で表される断熱圧縮率κも存在する。
また、音速Vsは、
Vs=sqrt((dρ/dP)s)
と表され、
κ=v/Vs=1/Vs/ρ .....(4)
なる関係が存在する。
特に、アキュムレータでの圧力変化が速いときには、κが重要となる。逆に、緩やかな変化に対し、Vを小さく抑えるにはκの大きな流体を選ぶことが有利である。
【0043】
(3)緩衝流体の特性を特徴づけるには、理想気体の場合との比率であるところの無次元化等温圧縮率K=P*κの導入が有効である。
同様に、断熱圧縮率について無次元化断熱圧縮率K=P*κなる表現も使用する。
κ、κの間には、
κ=κ*Cp/Cv .....(5)
の関係が存在する。
熱力学的に常にCp>Cvであるのでκ>κの関係が成り立つ。
【0044】
(4)大まかな認識として、液体は圧縮率が小さく、気体は圧縮率が大きいことは良く知られたことである。
液体から気体に遷移するとき、圧縮率は高温ほど大きくなると思い易い。
特に断らない限り、以降の解析には、世界的にみて信頼性の高いNISTのデータによった。
【0045】
(5)COを例に(4)、(5)式を利用して、P>PcでKの温度変化を調べてみると図1および図6の如くである。
図1において、Pr、Trは圧力Pおよび温度Tをそれぞれ臨界圧力Pc=73.77bar臨界温度Tc=304.13Kで除した対臨界圧力、対臨界温度である。Pr=1.1のとき、臨界温度より僅かに高い温度Tr=1.015近くで鋭いピーク(K=11.9)を持つ、圧力が上昇するにつれて、ピークの値は小さくなり、幅が大きくなり、また、ピークに対応する温度は高温側に移動していくことが解る。さらに、Prが3と4の間でKのピーク値は1となり、より高い圧力では、Kは全ての温度域で1以下となることが解る。
【0046】
また、図6では、P=1.5Pc(約100.7bar)でのK、Kおよび同圧力・温度におけるNに対するK、Kの値もK_N、K_Nとして示した。COのKの値は54℃近くでピーク値(約2.5)を持つのに対し、Nに対するKの値は示した温度範囲で1以下(0.95〜0.96)である。この圧力においては緩衝ガスとして、ごく一般的に用いられるNに比較しCOを54℃近くに加熱して用いると、蓄圧器のサイズをコンパクトにできる。一方、KについてのNとの比較では67℃以上で僅かにCOが有利との結果である。
のピークが圧力の上昇と供に高温側にずれることは、図7に示したCOの等容曲線(v=vc)で理解できる。図示した範囲ではほとんど直線であり、図1、図6と比較するとほぼ似た傾向が見られる。P>Pcで等容曲線(v=vc)を横切るあたりで流体密度が液から気体の値に急激に遷移する。その遷移点は圧力PがPcから離れるほど高温側にずれる。圧縮率はPに関する微分的な性質であるので、この遷移点の近くでピークを持つ。これが、Kの大きくなる主要因と判断される。
【0047】
(6)P<Pcの単相域についても、同様にKの温度変化を調べた。
図2−1〜2−3に示したのはPが0.95*Pc、0.9*Pc、0.7*PcでのK、Kの値である。
先ず、飽和温度より僅かに過冷却の液体の領域では、略Pc>P>0.9*Pcの範囲でK>1の領域が存在する。温度を上げてゆくと、飽和温度に向けて増加する。また、飽和温度より僅かに過熱の蒸気の領域では低圧域までK>1の領域が存在する。温度を下げてゆくと、飽和温度に向けて増加する。いずれもPcに近づくほどピークの値は大きくなり、P→Pcの極限でT=Tcにおいて発散する。これらP<Pcの領域のKの異常は、P>Pcの領域とつながっている。
【0048】
以上の計算はCOに対するものであるが対応状態の原理に従えば、他の分子に対してもPc、Tcでの換算を行えば、同様の傾向を示すものと判断される。
【0049】
(7)更に、以上の傾向を別の角度からこれを眺めてみる。
Boyle曲線は、(d(Pv)/dp)t=0で定義される。これは、K=1の条件と等価である。
Arに対するBoyle曲線を図8に示す。また、van der Waalsの状態方程式に対するBoyle曲線の例を図9に示す。Boyle曲線は、飽和液の状態から始まり、超臨界点近傍(低温・高圧側を迂回)を通り圧力約3.5Pc(van der Waalsの状態方程式では27/8*Pc)で最高圧となり、低圧高温側の気相へ向う。
実は、この曲線の内部で無次元化等温圧縮率に関しK>1が満たされる。
【0050】
(8)上記は、緩衝流体として単成分を用いた場合を基本として解析したが、使用するシステムにおいては高圧流路の温度・圧力は指定され、緩衝流体の物質の選択とその作動温度・圧力の設定を如何にするかが課題となる。緩衝流体の物質の選定に関しては、圧縮率の大きな状態を作り出すことに注目する。現実には、緩衝流体の運転温度の妥当性や、その流体の安全性、扱い易さ、入手性など他の多くの要素も考慮する必要がある。代表的な物質の臨界圧力・臨界温度を表1に示す(国立天文台編「理科年表」丸善株式会社発行より引用)。臨界温度は、低温から高温まで幅広く分布する。COは常温近くで比較的大きな臨界圧力を持つことが分かる。これ以上の臨界圧力を持つ身近な物質はNH、水である。但し、臨界温度が高くなるので扱い難い場合もある。
【0051】
【表1】

緩衝流体の物質の選定での第一の方法は、これら比較的大きな臨界圧力を持つ物質を選ぶことである。但し、先述のように、圧縮率の大きな状態に対する温度が受け入れ難い場合や余りにも高圧で充分な圧縮率が稼げない場合には別の方法を見出す必要がある。
【0052】
(9)具体的には、単成分でなく多成分系の緩衝流体を用いる方法があり、高圧における2成分系の気液平衡をエチレン−n−へプタン系について概観しておく。
図10には、エチレン(C)濃度が89.31mol%、60.52mol%および28.57mol%の場合について、一定組成の混合物のP−T線図が示されている。AA’、BB’はそれぞれC、n−へプタン単成分の蒸気圧曲線で、A点、B点はそれぞれの臨界点である。混合物では沸点と露点が異なるため、例えば、C60.5%の例では、気液二相域はD’DCの沸点曲線とE’ECの露点曲線で挟まれた領域となり、C点はこの組成における臨界点である。C濃度を変えると、100mol%のA点から0mol%のB点へのAC’CBなる破線で示した臨界軌跡を描く。2成分の臨界温度が適度に離れた組み合わせの混合物では、この例のように、中間組成において、混合物を構成するいずれの単成分より高い臨界圧を持つ。
この事実は、高圧での緩衝用流体の選定に重要な意味を持つ。
高圧のため単成分では無次元等温圧縮率Kが大きい状態を選定し難い場合であっても、適切に選定された少なくとも2種の成分からなる混合物で、その組成を適切に調合すると臨界圧力を高めることにより、適切な温度域にKが大きい状態を生成できることである。
例えば、He、水素(H)、窒素(N)などの超低温に臨界点を持つ物質と高温に臨界点を持つ物質との混合物(He−COなど)は広い温度範囲で高い臨界圧力を持ち、比較的高圧まで気液二相域が延びる。
多成分系では、圧力を指定しても平衡温度は組成に依存するのでアキュムレータの動作温度を考慮しつつ組成を選定する必要がある。
【0053】
本発明は、上記の解析をもとに緩衝流体を作動させる最適条件を検証し、具体化を図るものである。
【実施例】
【0054】
以下実施例として、上記の解析結果を活用し、プロパン(C)、Hを被緩衝流体とし、C、N、CO、H、He、Ar、NHあるいはこれらの組み合わせを緩衝流体として利用した場合について検証した。
【0055】
高圧流体の利用分野は多枝にわたるが、以下の実施例1および2における、高圧流体の圧力温度条件の選定に、米国特許4,531,529号を参考とした。上記特許では、流体として、メタン、エタン、C、C、イソブタン、n−ブタン、R−12、R−22が掲っているが、中でも、Cの利用が詳述されている。また、超臨界条件温度は32〜120℃で圧力は最大142Kg/cmg(=140bar)また、典型的値として106Kg/cmg(=105bar)である。
【0056】
<実施例1>
(温度32〜120℃、圧力105bar)の高圧流路での圧力緩衝にCOを緩衝流体とするアキュムレータを利用する。Cの臨界圧力Pcは約42.5barであるのに対し、COの臨界圧力Pcは約73.8barである。
105barでの無次元化等温圧縮率の温度変化を求めると図11のようである。緩衝流体として、N、Cを使う場合も合わせ示した。
無次元化等温圧縮率について、一般的によく使用されるNの場合表示範囲で約0.96で、C自身を用いると約160℃以上で1以上となるが、最大値約1.24にとどまった。一方COを用いると約50℃で約2.88の最大値をとり、約46〜64℃の範囲で2以上となり、COの緩衝効果の優れていることが示された。無次元化断熱圧縮率については、約60℃以下では窒素が、約60〜180℃ではCOが、約180℃以上ではCが大きな値を持つことが示された。
【0057】
<実施例2>
(温度32〜120℃、圧力140bar)の高圧流路での圧力緩衝にNHを緩衝流体とするアキュムレータを利用する。Cの臨界圧力Pcは約42.5barであるのに対し、NHの臨界圧力Pcは約112.8barである。
140barでの無次元化等温圧縮率の温度変化を求めると図12のようである。緩衝流体として、N、COを使う場合も合わせ示した。
無次元化等温圧縮率について、Nの場合表示範囲で約0.93で、COを用いると約75℃で約1.64最大値をとり、約66〜92℃の範囲で1.5以上となる。一方NHを用いると約146℃で約5.37の最大値をとり、NHの緩衝効果の優れていることが示された。
【0058】
<実施例3>
加速器を利用した冷中性子源装置では中性子の減速に超臨界圧力約15bar温度約20Kの高圧パラ水素(H)循環ループが使用される。このループで、H自体を緩衝流体としたアキュムレータを利用したときの15barにおける無次元化等温圧縮率の温度依存性を調べた。比較のため、緩衝流体として、この条件域超臨界ガスであるHeを利用したときも同時に調べた。
無次元化等温圧縮率の温度変化を求めると図13のように、Heの場合は表示範囲において約0.96で一定となり、一方、H自体は約34.1Kで最大値約6.08、約33.7〜36.3Kの範囲で2以上となり、H自体の緩衝効果が優れていることが示された。
【0059】
<実施例4>
上記実施例2での圧力を180barに上げ、緩衝流体としてArとNHの混合物を利用した場合も調べた。Arの臨界圧力Pcは約48.7barであるのに対し、NHの臨界圧力Pcは約112.8barである。
Ar21mol%とNH79mol%の混合物に対する圧力180barでの無次元化等温圧縮率の修正Redlich−Kwong状態方程式による計算結果を、図14に示す。比較のため、NH単体についても示した。
NH単体を用いると約168℃で約2.51の最大値を取り、約160〜184℃の範囲で2以上となる。一方、Ar21mol%とNH79mol%の混合物に対しては約124℃で約2.03の最大値を取り、約113〜153℃の範囲で1.5以上となり、最大値を採る124℃以下は気液ニ相域状態、124℃以上は過熱蒸気状態であった。
無次元化等温圧縮率の観点では、NH単体を168℃近くで用いた方が有利であるが、Arとの混合物を用いることにより、操作温度を下げることが出来る点と爆発性ガスであるNHを不活性ガスで希釈する効果がある。
【0060】
<実施例5>
上記実施例2での圧力を200barに上げ、緩衝流体としてHeとCOの混合物を利用した場合も調べた。Heの臨界圧力Pcは約2.27barであるのに対し、COの臨界圧力Pcは約73.8barである。
He55mol%とCO45mol%の混合物に対する圧力200barでの無次元化等温圧縮率の修正Redlich−Kwong状態方程式による計算結果を、図15に示す。無次元化等温圧縮率は約64.2〜70.2℃の範囲で、それぞれ約648〜18.8の非常に大きな値を持つことが解った。この範囲でこの混合物は気液ニ相域状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
上記のように、本発明は各種流体を被緩衝流体として適用することができることから、高圧流体の利用は多枝に渡ることができる。また、本願では、基本的な使用方法に限定して記述したが、上記各構成例を任意に組合せることで、さらに有用なシステム構成を形成することが可能である。また、多様な技術との組合せにより、さらに多くの場合にも応用できることは明らかであり、高い汎用性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】流体の圧縮率の対臨界温度変化を例示する説明図
【図2−1】COの圧縮率の温度変化を例示する説明図
【図2−2】COの圧縮率の温度変化を例示する説明図
【図2−3】COの圧縮率の温度変化を例示する説明図
【図3】本発明に係るアキュムレータの構成例を示す説明図
【図4】本発明に係る増圧手段の構成を例示する説明図
【図5】本発明に係る熱交換促進手段の構成を例示する説明図
【図6】流体の圧縮率の温度変化を例示する説明図
【図7】COの等容曲線を例示する説明図
【図8】Arに対するBoyle曲線を例示する説明図
【図9】van der Waalsの状態方程式に対するBoyle曲線を例示する説明図
【図10】エチレン−n−へプタン系の蒸気圧曲線を示す説明図
【図11】実施例1における圧縮率の温度変化を示す説明図
【図12】実施例2における圧縮率の温度変化を示す説明図
【図13】実施例3における圧縮率の温度変化を示す説明図
【図14】実施例4における圧縮率の温度変化を示す説明図
【図15】実施例5における圧縮率の温度変化を示す説明図
【図16】従来技術に係るアキュムレータの1の構成例を示す説明図
【図17】従来技術に係るアキュムレータの他の構成例を示す説明図
【符号の説明】
【0063】
1、2,12 容器
3 高圧流体(被緩衝流体)
4 高圧流路
5 緩衝流体
6 恒温手段
7 接続部
8 ピストン
9 シール手段
13 連結部
20 熱交換促進手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧流路に供する圧力緩衝方法であって、その緩衝流体が単成分あるいは少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物で、超臨界圧以上の状態において、その温度を次式1で表される無次元化等温圧縮率Kが1.5を超えるように調整し、操作することを特徴とする圧力緩衝方法。ここで、Pは圧力、κは等温圧縮率である。
= P*κ (式1)
【請求項2】
高圧流路に供する圧力緩衝方法であって、その緩衝流体が少なくとも2種類の成分の適切な組合せの適切な組成からなる混合物で、その圧力を構成流体の臨界圧力の何れよりも高くし、気液二相域状態、過冷却液体状態、過熱蒸気状態のいずれかにおいて、その温度を式1で表される無次元化等温圧縮率Kが1.5を超えるように調整し、操作することを特徴とする圧力緩衝方法。ここで、Pは圧力、κは等温圧縮率である。
= P*κ (式1)
【請求項3】
増圧手段を含むことを特徴とする請求項1あるいは2記載の圧力緩衝方法。
【請求項4】
前記緩衝流体を収納した容器の一部に温度制御手段との熱交換を促進する手段を付加し等温過程に近づけることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧力緩衝方法。


【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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