圧延材の冷間圧延方法
【課題】冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行うに際して、板厚変動を抑えることができる圧延スタンドの圧下率やチューニング率を非常に簡単に設定することができるようにする。
【解決手段】複数の圧延スタンド1を備えた冷間タンデム圧延機2にて圧延材Wの圧延を行う方法であって、圧延材Wの板厚変動が発生する振動領域と板厚変動が抑制される安定領域とを規定し、安定領域での先進率を圧延実績に基づいて求め、圧延実績より求められた先進率と圧延理論とを用いて、振動領域と安定領域との境界を求め、求めた境界を用いて圧下率とチューニング率αを設定して圧延を行う。圧延に適用するチューニング率αは、境界にて示されるチューニング率αよりも高くなるように設定する。
【解決手段】複数の圧延スタンド1を備えた冷間タンデム圧延機2にて圧延材Wの圧延を行う方法であって、圧延材Wの板厚変動が発生する振動領域と板厚変動が抑制される安定領域とを規定し、安定領域での先進率を圧延実績に基づいて求め、圧延実績より求められた先進率と圧延理論とを用いて、振動領域と安定領域との境界を求め、求めた境界を用いて圧下率とチューニング率αを設定して圧延を行う。圧延に適用するチューニング率αは、境界にて示されるチューニング率αよりも高くなるように設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧延スタンドを備えた冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行う圧延材の冷間圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷間タンデム圧延機を用いて薄鋼板を圧延する際に発生する板厚変動を抑制する技術は数々開発されている。
例えば、特許文献1の板厚制御方法では、圧延材の硬度ムラに起因する圧延材の長手方向の板厚変動(以降、板厚ハンチングと呼ぶこともある)を抑制するために、圧延スタンドに対してミル剛性制御を採用すると共に、当該制御のチューニング率を1.0より大きくする技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2の板厚制御方法では、板厚ハンチングを防止するために、出側板厚変動と圧延荷重変動との相関係数を算出し、この相関係数によりミル剛性制御のチューニング率を補正するようにしている。
特許文献3では、チューニング率をα、β、γと設定し、荷重変動量だけでなくその1次および2次微分値に基づきロールギャップ修正した制御方法となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−230407号公報
【特許文献2】特開2003−136116号公報
【特許文献3】特開2008−307597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷間タンデム圧延機にて薄板等を圧延した際、出側板厚変動は、後段の圧延スタンドに伝播して増大する傾向がある。特許文献1〜特許文献3の技術であっても、上述したような出側板厚変動をある程度の板厚変動を抑えることができるものの、板厚変動を抑えるためには複雑な制御を行ったり複雑な計算により圧延条件を求めなければならず、実操業に適用して圧延を行うことは非常に大変であり、これらの技術を用いて圧延スタンドごとの圧下率やチューニング率などを設定することは難しいということがあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行うに際して、板厚変動を抑えることができる圧延スタンドの圧下率やチューニング率を非常に簡単に設定することができる圧延材の冷間圧延方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
即ち、複数の圧延スタンドを備えた冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行う方法であって、前記圧延材の板厚変動が発生する振動領域と板厚変動が抑制される安定領域とを規定し、前記安定領域での先進率を圧延実績に基づいて求め、圧延実績より求められた先進率と圧延理論とを用いて、前記振動領域と安定領域との境界を求め、求めた境界を用いて圧下率とチューニング率を設定して圧延を行う点にある。
【0008】
圧延に適用する圧下率は、前記境界から安定領域側に位置する値を採用することが好ましい。
圧延に適用するチューニング率は、前記境界から安定領域側に位置する値を採用することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行うに際して、板厚変動を抑えることができる圧延スタンドの圧下率やチューニング率を非常に簡単に設定することができる、
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】冷間タンデム圧延機の要部を示す図である。
【図2】圧延中のワークロールと圧延材との幾何学的関係を示す図である。
【図3】集中応力に対する圧延ロールの表面変位を示す図である。
【図4】集中応力を受ける前の点Aと集中応力を受けた後の点Bの座標系を示す図である。
【図5】圧延理論により算出した出側板厚変動と先進率変動量との関係を示す図である。
【図6】(a)圧延実績における板厚変動を示し、(b)圧延実績における先進率偏差及び張力変動量を示す図である。
【図7】安定領域及び振動発生領域における先進率変動量及び張力変動量との関係を示す図である。
【図8】各圧下率と板厚変動量とにおける安定領域と振動発生領域との境界線を示す図である。
【図9】安定領域及び振動発生領域における圧下率と荷重変動量との関係を示す図である。
【図10】安定領域及び振動発生領域における圧下率とチューニング率との関係を示す図である。
【図11】(a)本発明を適用しなかった比較例における板厚変動を示し、(b)本発明を適用した第1実施例における板厚変動を示し、(c)本発明を適用した第2実施例における板厚変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、複数の圧延スタンド1を備えた冷間タンデム圧延機2を例示しつつ図を基に説明する。なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1に示すように、冷間タンデム圧延機2は、複数の圧延スタンド1と、圧延後の圧延材W(薄板等)を巻き取るコイル巻き取り機とを備えている。圧延スタンド1は、上下の圧延ロール3(ワークロール)とそれぞれの圧延ロール3をバックアップするバックアップロール4を備える。圧延スタンド1の圧延ロール3は、圧下機構5によりそのロールギャップが変更可能となっている。各圧延スタンド1には、圧延荷重を測定する荷重計6が備えられる。
【0012】
また、冷間タンデム圧延機2には、プロセスコンピュータ等から構成される制御部10が設けられている。制御部10は、圧延材Wが所定のパススケジュールのもと所望される仕上げ板厚となるように、各圧延スタンド1のロール速度やロールギャップ等を制御する。制御部10で行われる制御では、ロールギャップ制御に加えて、AGC制御が採用されている
なお、圧延スタンド1の出側には、圧延材Wの板厚を検出する板厚計7や圧延材Wの速度を計測する板速計8が設けられる。圧延スタンド1と圧延スタンド1との間には、各圧延スタンド1間の張力を検出可能な張力計9も備えられている。
【0013】
このような冷間タンデム圧延機2においては、圧延材Wは、複数の圧延スタンド1を通ることで冷間圧延されて、所望の板厚、板幅、板クラウンを有する製品板へとなり、コイル巻き取り機で巻き取られ次の工程へと搬送される。
本発明の圧延材の冷間圧延方法では、上述した冷間タンデム圧延機2において圧延材Wを圧延する際に圧延材Wの板厚変動が小さくなるように(抑制するように)圧延スタンド1における圧下率とチューニング率αとを適宜設定することとしている。
【0014】
以下、圧延材の冷間圧延方法について詳しく説明する。
この冷間圧延方法では、圧延材Wの板厚変動を抑制するにあたって、圧延理論を用いているため、圧延理論による圧延材Wの板厚変動(出側板厚変動)について説明する。
「板圧延の理論と実際、(社)日本鉄鋼協会、昭和59年9月、p6-43」に記載されているように、karmanは板圧延を平面ひずみ問題として単純化して、図2に示すような圧延ロール3と圧延材Wとの幾何学的な関係を考え、式(1)に示す応力分布の圧延理論式を示している。この式(1)は、上述した「板圧延の理論と実際 p17」に記載されている2.82式と同様のものである。また、図2は、「板圧延の理論と実際 p6」に記載されている図2.3と同様のものである。
【0015】
【数1】
【0016】
ここで、qはx方向の応力、pはy方向の応力である。これらp、qは主応力であるとすると、板厚が減少する方向に進行しているためp>qとなる関係を満たすことから、応力p、qと、圧延材Wの降伏応力kの関係は式(2)で表すことができる。
【0017】
【数2】
【0018】
式(2)を用いて式(1)を整理すると、式(3)に示すものとなり、さらに、降伏応力kが一定であると考えると、式(3)は式(4)に示すものとなる。
【0019】
【数3】
【0020】
また、弾性変形によるロール表面(圧延ロール3の表面)の変形についてJortnerらは式(5)を提案している。式(5)は、無限円柱に対向する線集中応力が作用したときの圧延ロール3表面の中心方向変位を示したものである。この式(5)は、「板圧延の理論と実際 p39」に記載されている2.223式と同様のものである。ただし、式(5)の座標系は、図3に示すものとしている。
【0021】
【数4】
【0022】
ここで、式(5)は、[z0、z1]で連続、z=θ、z0≦θ≦z1で不連続の条件下では、式(6)に示すように、積分可能となる。
【0023】
【数5】
【0024】
そして、θの近傍に[z0、z1]をとり、この区間でp(z)が一定であるとすると、圧延ロール3の表面変位は、式(7)に示すように整理することができる。
【0025】
【数6】
【0026】
次に、図4に示すように、集中応力を受ける変形前を点Aとし、集中応力によって変位が生じた後を点Bとすると、各点の座標は式(8)のように示すことができる。
【0027】
【数7】
【0028】
ここで、変形後の点Bの軌跡がロールバイト内の板厚分布hと等しくなると考え(h=B)、圧延初期状態では扁平の無い圧延ロール3の表面に沿って板厚分布が生じると仮定し、式(4)から応力分布を求めたうえで、その応力分布を式(7)に入力することによりロール扁平量(圧延ロール3の扁平量)を求めることができる。
このように、圧延したときのロール扁平量から得られた板厚分布と、応力分布と、式(9)で示される先進率とを用いて圧延理論による出側板厚変動と先進率との関係を計算すると、図5に示すような出側板厚変動(出側板厚変動量)と先進率変動量との関係を得ることができる。図5に示すように、圧延理論では、出側板厚変動量の増加にともなって先進率変動量が増加する傾向にある。
【0029】
【数8】
【0030】
一方、圧延実績(圧延実績データ)における板厚変動(板厚偏差)を考える。圧延実績における板厚変動の一例として図6(a)に示すものがある。図6(a)に示すように、実際の圧延では、板厚は変動しており、板厚変動が許容できる値、即ち、板厚偏差が許容できる値を20μm以下とすると、板厚変動が大きな振動発生領域(振動領域)と、板厚変動が小さな安定領域とに分けることができる。
【0031】
また、図6(b)は、図6(a)に対応する板厚変動について先進率推移と張力推移との推移である。この図6(b)の圧延実績を用いて振動発生領域と安定領域との条件を調べると、図7に示すものとなる。
つまり、図6(b)に示した安定領域と振動発生領域とにおいて、変動量=(最大値−最小値)÷2として、張力及び先進率を整理すると図7に示すものとなり、図7に示すように、安定領域では先進率変動量を0.005以下にすることにより、板厚変動を安定領域にすることができる。言い換えれば、発明者らは、張力変動量(出側張力変動)を小さくすることによって板厚変動を抑えることができるとの知見に至った。
【0032】
そこで、先進率変動量の閾値を0.005として、図5の各圧下率(圧延スタンドの圧下率)と板厚変動量とにおける安定領域と振動発生領域と境界を整理すると図8に示すものとなる。
さて、圧延スタンドにおける荷重が変化すると、ミルの弾性変形量が影響からロールギャップが変化し、出側板厚変動が発生する。ここで、ロールギャップ変動(微少板厚変動)は、ゲージメータ式[Δh=Δp÷M×(1−α)]を用いることによって、図9に示すように、圧下率と荷重変動量とに置き換えることができる。
【0033】
なお、Mは、ミル剛性であり、αはチューニング率αである。冷間タンデム圧延機の圧延スタンドにおけるミル剛性は、400〜600ton/mmの範囲であり、図9では中間値である500ton/mmを用いて計算をしている。ミル剛性制御では、ミルのロールギャップを制御することによりミル延び分を補正し、元のロールギャップ位置に戻すことにより出側板厚変動を減少させることができる。
【0034】
図9では、安定領域と振動発生領域と境界について、圧下率と荷重変動量で整理しているが、さらに、実際の圧延に適用し易くするために、チューニング率αと圧下率とに整理すると図10に示すようになる。
圧延材Wの圧延を行うにあたっては、まず、荷重変動量(圧下荷重)に対応する境界線(安定限界境界線)を選択して、当該境界線における圧下率及びチューニング率を実際の圧延に適用することによって板厚変動を抑えることができる。例えば、荷重変動量(圧下荷重)が100tonであるとき、実際の圧延の圧下率を15%とし、チューニング率αを0.48として境界線上の値(図10、点P上の値)とすれば、板厚変動を抑えることができる。
【0035】
ここで、上述したように、実際に圧延に適用する圧下率やチューニング率を境界線上の値を使用するのではなく、境界線から安定領域側に位置する値を適用することによって、より安全に板厚変動を抑えることができる。例えば、荷重変動量(圧下荷重)が100tonであるときは、上述したように、圧下率を15%としチューニング率αを0.48として図10の点P上の値を適用すればよいが、チューニング率αはそのまま(α=0.48)で境界線にて示される圧下率よりも高くなるように実際の圧延に適用する圧下率を20%にしても確実に板厚変動を抑制することができる。また、圧下率はそのまま(15%)で実際のチューニング率を0.6とすれば、確実に板厚変動を抑制することができる。
【0036】
つまり、境界線にて示される圧下率よりも高くなるように実際の圧下率を設定し、圧延に適用するチューニング率αも、境界線にて示されるチューニング率αよりも高くなるように高くなるように設定することにより、確実に板厚変動を抑制することができる。
また、実際の圧延において、仮に、板厚振動が発生している場合は、圧延時の圧下率、荷重変動量、チューニング率αを調査する。そして、安定圧延限界線から判断される安定領域で圧延しているか否かを確認する(実際の圧下率やチューニング率の値が安定領域側の値かどうかを判断する)。不安定領域で圧延している場合は、各圧延スタンドの圧下率もしくはチューニング率αを上げて圧延することにより、板厚振動が少ない高張力鋼板を製造することができる。
【0037】
このように、圧延材Wの板厚変動が発生する振動領域と板厚変動を抑制される安定領域とを規定し、安定領域での先進率を圧延実績に基づいて求め、圧延実績より求められた先進率と圧延理論とを用いて、振動領域と安定領域との境界を求め、求めた境界を用いて圧下率とチューニング率を設定して圧延を行うことによって、板厚変動を抑えることができる。
【0038】
図11は、圧延を実施するにあたり、本発明の圧延材の冷間圧延方法を適用しなかった比較例と、本発明の圧延材の冷間圧延方法を適用した実施例とにおける板厚変動をまとめたものである。
図11(a)に示すように、本発明の圧延材の冷間圧延方法を適用せずに圧延を行った場合(振動発生領域にて圧延を行った場合)、即ち、荷重変動量(圧下荷重)を60tonとし、チューニング率αを0.2とし、圧下率を10%として圧延材Wの板厚変動は±100μm以上となり、板厚変動を抑えることができなかった。
【0039】
一方で、図11(b)は、本発明の圧延材の冷間圧延方法を適用して圧延を行った場合(安定領域にて圧延を行った場合)を示しており、即ち、荷重変動量(圧下荷重)を10tonとし、チューニング率αを0.8とし、圧下率を10%として圧延を行った板厚変動を示している。このような圧延条件(荷重変動量=10ton、α=0.8、圧下率=10%)を図10に対応させると、安定領域にて圧延を行っていることとなり、殆どの領域で圧延材Wの板厚変動を±20μm以内にすることができ、板厚変動を抑制することができた。
【0040】
また、図11(c)は、荷重変動量=20ton、α=0.2、圧下率=15%にて圧延を行った場合を示している。図11(c)に示す場合も安定領域にて圧延を行っていることとなるため、殆どの領域で圧延材Wの板厚変動を±20μm以内にすることができ、板厚変動を抑制することができた。なお、図11において、#3stdは、先頭から3番目の圧延スタンドを示したものである。
【0041】
以上、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、発明を実施するための形態において、複数の圧延スタンドを備えた冷間タンデム圧延機を例示したが、本願発明は、単一の圧延スタンドからなる冷間タンデム圧延機にも採用可能である。
【0042】
また、境界(安定圧延限界線)を用いて安全領域になるように、圧下率とチューニング率αとを設定するに際して、適用する圧延スタンドは、どの圧延スタンドに適用してもよい。特に、先頭側の圧延スタンドに適用すれば、後の圧延スタンドに伝播する張力振動の大きさを抑えることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 圧延スタンド
2 冷間タンデム圧延機
3 圧延ロール
4 バックアップロール
5 圧下機構
6 荷重計
7 板厚計
8 板速計
9 張力計
10 制御部
W 圧延材
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧延スタンドを備えた冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行う圧延材の冷間圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷間タンデム圧延機を用いて薄鋼板を圧延する際に発生する板厚変動を抑制する技術は数々開発されている。
例えば、特許文献1の板厚制御方法では、圧延材の硬度ムラに起因する圧延材の長手方向の板厚変動(以降、板厚ハンチングと呼ぶこともある)を抑制するために、圧延スタンドに対してミル剛性制御を採用すると共に、当該制御のチューニング率を1.0より大きくする技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2の板厚制御方法では、板厚ハンチングを防止するために、出側板厚変動と圧延荷重変動との相関係数を算出し、この相関係数によりミル剛性制御のチューニング率を補正するようにしている。
特許文献3では、チューニング率をα、β、γと設定し、荷重変動量だけでなくその1次および2次微分値に基づきロールギャップ修正した制御方法となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−230407号公報
【特許文献2】特開2003−136116号公報
【特許文献3】特開2008−307597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷間タンデム圧延機にて薄板等を圧延した際、出側板厚変動は、後段の圧延スタンドに伝播して増大する傾向がある。特許文献1〜特許文献3の技術であっても、上述したような出側板厚変動をある程度の板厚変動を抑えることができるものの、板厚変動を抑えるためには複雑な制御を行ったり複雑な計算により圧延条件を求めなければならず、実操業に適用して圧延を行うことは非常に大変であり、これらの技術を用いて圧延スタンドごとの圧下率やチューニング率などを設定することは難しいということがあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行うに際して、板厚変動を抑えることができる圧延スタンドの圧下率やチューニング率を非常に簡単に設定することができる圧延材の冷間圧延方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
即ち、複数の圧延スタンドを備えた冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行う方法であって、前記圧延材の板厚変動が発生する振動領域と板厚変動が抑制される安定領域とを規定し、前記安定領域での先進率を圧延実績に基づいて求め、圧延実績より求められた先進率と圧延理論とを用いて、前記振動領域と安定領域との境界を求め、求めた境界を用いて圧下率とチューニング率を設定して圧延を行う点にある。
【0008】
圧延に適用する圧下率は、前記境界から安定領域側に位置する値を採用することが好ましい。
圧延に適用するチューニング率は、前記境界から安定領域側に位置する値を採用することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行うに際して、板厚変動を抑えることができる圧延スタンドの圧下率やチューニング率を非常に簡単に設定することができる、
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】冷間タンデム圧延機の要部を示す図である。
【図2】圧延中のワークロールと圧延材との幾何学的関係を示す図である。
【図3】集中応力に対する圧延ロールの表面変位を示す図である。
【図4】集中応力を受ける前の点Aと集中応力を受けた後の点Bの座標系を示す図である。
【図5】圧延理論により算出した出側板厚変動と先進率変動量との関係を示す図である。
【図6】(a)圧延実績における板厚変動を示し、(b)圧延実績における先進率偏差及び張力変動量を示す図である。
【図7】安定領域及び振動発生領域における先進率変動量及び張力変動量との関係を示す図である。
【図8】各圧下率と板厚変動量とにおける安定領域と振動発生領域との境界線を示す図である。
【図9】安定領域及び振動発生領域における圧下率と荷重変動量との関係を示す図である。
【図10】安定領域及び振動発生領域における圧下率とチューニング率との関係を示す図である。
【図11】(a)本発明を適用しなかった比較例における板厚変動を示し、(b)本発明を適用した第1実施例における板厚変動を示し、(c)本発明を適用した第2実施例における板厚変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、複数の圧延スタンド1を備えた冷間タンデム圧延機2を例示しつつ図を基に説明する。なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1に示すように、冷間タンデム圧延機2は、複数の圧延スタンド1と、圧延後の圧延材W(薄板等)を巻き取るコイル巻き取り機とを備えている。圧延スタンド1は、上下の圧延ロール3(ワークロール)とそれぞれの圧延ロール3をバックアップするバックアップロール4を備える。圧延スタンド1の圧延ロール3は、圧下機構5によりそのロールギャップが変更可能となっている。各圧延スタンド1には、圧延荷重を測定する荷重計6が備えられる。
【0012】
また、冷間タンデム圧延機2には、プロセスコンピュータ等から構成される制御部10が設けられている。制御部10は、圧延材Wが所定のパススケジュールのもと所望される仕上げ板厚となるように、各圧延スタンド1のロール速度やロールギャップ等を制御する。制御部10で行われる制御では、ロールギャップ制御に加えて、AGC制御が採用されている
なお、圧延スタンド1の出側には、圧延材Wの板厚を検出する板厚計7や圧延材Wの速度を計測する板速計8が設けられる。圧延スタンド1と圧延スタンド1との間には、各圧延スタンド1間の張力を検出可能な張力計9も備えられている。
【0013】
このような冷間タンデム圧延機2においては、圧延材Wは、複数の圧延スタンド1を通ることで冷間圧延されて、所望の板厚、板幅、板クラウンを有する製品板へとなり、コイル巻き取り機で巻き取られ次の工程へと搬送される。
本発明の圧延材の冷間圧延方法では、上述した冷間タンデム圧延機2において圧延材Wを圧延する際に圧延材Wの板厚変動が小さくなるように(抑制するように)圧延スタンド1における圧下率とチューニング率αとを適宜設定することとしている。
【0014】
以下、圧延材の冷間圧延方法について詳しく説明する。
この冷間圧延方法では、圧延材Wの板厚変動を抑制するにあたって、圧延理論を用いているため、圧延理論による圧延材Wの板厚変動(出側板厚変動)について説明する。
「板圧延の理論と実際、(社)日本鉄鋼協会、昭和59年9月、p6-43」に記載されているように、karmanは板圧延を平面ひずみ問題として単純化して、図2に示すような圧延ロール3と圧延材Wとの幾何学的な関係を考え、式(1)に示す応力分布の圧延理論式を示している。この式(1)は、上述した「板圧延の理論と実際 p17」に記載されている2.82式と同様のものである。また、図2は、「板圧延の理論と実際 p6」に記載されている図2.3と同様のものである。
【0015】
【数1】
【0016】
ここで、qはx方向の応力、pはy方向の応力である。これらp、qは主応力であるとすると、板厚が減少する方向に進行しているためp>qとなる関係を満たすことから、応力p、qと、圧延材Wの降伏応力kの関係は式(2)で表すことができる。
【0017】
【数2】
【0018】
式(2)を用いて式(1)を整理すると、式(3)に示すものとなり、さらに、降伏応力kが一定であると考えると、式(3)は式(4)に示すものとなる。
【0019】
【数3】
【0020】
また、弾性変形によるロール表面(圧延ロール3の表面)の変形についてJortnerらは式(5)を提案している。式(5)は、無限円柱に対向する線集中応力が作用したときの圧延ロール3表面の中心方向変位を示したものである。この式(5)は、「板圧延の理論と実際 p39」に記載されている2.223式と同様のものである。ただし、式(5)の座標系は、図3に示すものとしている。
【0021】
【数4】
【0022】
ここで、式(5)は、[z0、z1]で連続、z=θ、z0≦θ≦z1で不連続の条件下では、式(6)に示すように、積分可能となる。
【0023】
【数5】
【0024】
そして、θの近傍に[z0、z1]をとり、この区間でp(z)が一定であるとすると、圧延ロール3の表面変位は、式(7)に示すように整理することができる。
【0025】
【数6】
【0026】
次に、図4に示すように、集中応力を受ける変形前を点Aとし、集中応力によって変位が生じた後を点Bとすると、各点の座標は式(8)のように示すことができる。
【0027】
【数7】
【0028】
ここで、変形後の点Bの軌跡がロールバイト内の板厚分布hと等しくなると考え(h=B)、圧延初期状態では扁平の無い圧延ロール3の表面に沿って板厚分布が生じると仮定し、式(4)から応力分布を求めたうえで、その応力分布を式(7)に入力することによりロール扁平量(圧延ロール3の扁平量)を求めることができる。
このように、圧延したときのロール扁平量から得られた板厚分布と、応力分布と、式(9)で示される先進率とを用いて圧延理論による出側板厚変動と先進率との関係を計算すると、図5に示すような出側板厚変動(出側板厚変動量)と先進率変動量との関係を得ることができる。図5に示すように、圧延理論では、出側板厚変動量の増加にともなって先進率変動量が増加する傾向にある。
【0029】
【数8】
【0030】
一方、圧延実績(圧延実績データ)における板厚変動(板厚偏差)を考える。圧延実績における板厚変動の一例として図6(a)に示すものがある。図6(a)に示すように、実際の圧延では、板厚は変動しており、板厚変動が許容できる値、即ち、板厚偏差が許容できる値を20μm以下とすると、板厚変動が大きな振動発生領域(振動領域)と、板厚変動が小さな安定領域とに分けることができる。
【0031】
また、図6(b)は、図6(a)に対応する板厚変動について先進率推移と張力推移との推移である。この図6(b)の圧延実績を用いて振動発生領域と安定領域との条件を調べると、図7に示すものとなる。
つまり、図6(b)に示した安定領域と振動発生領域とにおいて、変動量=(最大値−最小値)÷2として、張力及び先進率を整理すると図7に示すものとなり、図7に示すように、安定領域では先進率変動量を0.005以下にすることにより、板厚変動を安定領域にすることができる。言い換えれば、発明者らは、張力変動量(出側張力変動)を小さくすることによって板厚変動を抑えることができるとの知見に至った。
【0032】
そこで、先進率変動量の閾値を0.005として、図5の各圧下率(圧延スタンドの圧下率)と板厚変動量とにおける安定領域と振動発生領域と境界を整理すると図8に示すものとなる。
さて、圧延スタンドにおける荷重が変化すると、ミルの弾性変形量が影響からロールギャップが変化し、出側板厚変動が発生する。ここで、ロールギャップ変動(微少板厚変動)は、ゲージメータ式[Δh=Δp÷M×(1−α)]を用いることによって、図9に示すように、圧下率と荷重変動量とに置き換えることができる。
【0033】
なお、Mは、ミル剛性であり、αはチューニング率αである。冷間タンデム圧延機の圧延スタンドにおけるミル剛性は、400〜600ton/mmの範囲であり、図9では中間値である500ton/mmを用いて計算をしている。ミル剛性制御では、ミルのロールギャップを制御することによりミル延び分を補正し、元のロールギャップ位置に戻すことにより出側板厚変動を減少させることができる。
【0034】
図9では、安定領域と振動発生領域と境界について、圧下率と荷重変動量で整理しているが、さらに、実際の圧延に適用し易くするために、チューニング率αと圧下率とに整理すると図10に示すようになる。
圧延材Wの圧延を行うにあたっては、まず、荷重変動量(圧下荷重)に対応する境界線(安定限界境界線)を選択して、当該境界線における圧下率及びチューニング率を実際の圧延に適用することによって板厚変動を抑えることができる。例えば、荷重変動量(圧下荷重)が100tonであるとき、実際の圧延の圧下率を15%とし、チューニング率αを0.48として境界線上の値(図10、点P上の値)とすれば、板厚変動を抑えることができる。
【0035】
ここで、上述したように、実際に圧延に適用する圧下率やチューニング率を境界線上の値を使用するのではなく、境界線から安定領域側に位置する値を適用することによって、より安全に板厚変動を抑えることができる。例えば、荷重変動量(圧下荷重)が100tonであるときは、上述したように、圧下率を15%としチューニング率αを0.48として図10の点P上の値を適用すればよいが、チューニング率αはそのまま(α=0.48)で境界線にて示される圧下率よりも高くなるように実際の圧延に適用する圧下率を20%にしても確実に板厚変動を抑制することができる。また、圧下率はそのまま(15%)で実際のチューニング率を0.6とすれば、確実に板厚変動を抑制することができる。
【0036】
つまり、境界線にて示される圧下率よりも高くなるように実際の圧下率を設定し、圧延に適用するチューニング率αも、境界線にて示されるチューニング率αよりも高くなるように高くなるように設定することにより、確実に板厚変動を抑制することができる。
また、実際の圧延において、仮に、板厚振動が発生している場合は、圧延時の圧下率、荷重変動量、チューニング率αを調査する。そして、安定圧延限界線から判断される安定領域で圧延しているか否かを確認する(実際の圧下率やチューニング率の値が安定領域側の値かどうかを判断する)。不安定領域で圧延している場合は、各圧延スタンドの圧下率もしくはチューニング率αを上げて圧延することにより、板厚振動が少ない高張力鋼板を製造することができる。
【0037】
このように、圧延材Wの板厚変動が発生する振動領域と板厚変動を抑制される安定領域とを規定し、安定領域での先進率を圧延実績に基づいて求め、圧延実績より求められた先進率と圧延理論とを用いて、振動領域と安定領域との境界を求め、求めた境界を用いて圧下率とチューニング率を設定して圧延を行うことによって、板厚変動を抑えることができる。
【0038】
図11は、圧延を実施するにあたり、本発明の圧延材の冷間圧延方法を適用しなかった比較例と、本発明の圧延材の冷間圧延方法を適用した実施例とにおける板厚変動をまとめたものである。
図11(a)に示すように、本発明の圧延材の冷間圧延方法を適用せずに圧延を行った場合(振動発生領域にて圧延を行った場合)、即ち、荷重変動量(圧下荷重)を60tonとし、チューニング率αを0.2とし、圧下率を10%として圧延材Wの板厚変動は±100μm以上となり、板厚変動を抑えることができなかった。
【0039】
一方で、図11(b)は、本発明の圧延材の冷間圧延方法を適用して圧延を行った場合(安定領域にて圧延を行った場合)を示しており、即ち、荷重変動量(圧下荷重)を10tonとし、チューニング率αを0.8とし、圧下率を10%として圧延を行った板厚変動を示している。このような圧延条件(荷重変動量=10ton、α=0.8、圧下率=10%)を図10に対応させると、安定領域にて圧延を行っていることとなり、殆どの領域で圧延材Wの板厚変動を±20μm以内にすることができ、板厚変動を抑制することができた。
【0040】
また、図11(c)は、荷重変動量=20ton、α=0.2、圧下率=15%にて圧延を行った場合を示している。図11(c)に示す場合も安定領域にて圧延を行っていることとなるため、殆どの領域で圧延材Wの板厚変動を±20μm以内にすることができ、板厚変動を抑制することができた。なお、図11において、#3stdは、先頭から3番目の圧延スタンドを示したものである。
【0041】
以上、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、発明を実施するための形態において、複数の圧延スタンドを備えた冷間タンデム圧延機を例示したが、本願発明は、単一の圧延スタンドからなる冷間タンデム圧延機にも採用可能である。
【0042】
また、境界(安定圧延限界線)を用いて安全領域になるように、圧下率とチューニング率αとを設定するに際して、適用する圧延スタンドは、どの圧延スタンドに適用してもよい。特に、先頭側の圧延スタンドに適用すれば、後の圧延スタンドに伝播する張力振動の大きさを抑えることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 圧延スタンド
2 冷間タンデム圧延機
3 圧延ロール
4 バックアップロール
5 圧下機構
6 荷重計
7 板厚計
8 板速計
9 張力計
10 制御部
W 圧延材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧延スタンドを備えた冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行う方法であって、
前記圧延材の板厚変動が発生する振動領域と板厚変動が抑制される安定領域とを規定し、前記安定領域での先進率を圧延実績に基づいて求め、圧延実績より求められた先進率と圧延理論とを用いて、前記振動領域と安定領域との境界を求め、求めた境界を用いて圧下率とチューニング率を設定して圧延を行うことを特徴とする圧延材の冷間圧延方法。
【請求項2】
圧延に適用する圧下率は、前記境界から安定領域側に位置する値を採用することを特徴とする請求項1に記載の圧延材の冷間圧延方法。
【請求項3】
圧延に適用するチューニング率は、前記境界から安定領域側に位置する値を採用することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧延材の冷間圧延方法。
【請求項1】
複数の圧延スタンドを備えた冷間タンデム圧延機にて圧延材の圧延を行う方法であって、
前記圧延材の板厚変動が発生する振動領域と板厚変動が抑制される安定領域とを規定し、前記安定領域での先進率を圧延実績に基づいて求め、圧延実績より求められた先進率と圧延理論とを用いて、前記振動領域と安定領域との境界を求め、求めた境界を用いて圧下率とチューニング率を設定して圧延を行うことを特徴とする圧延材の冷間圧延方法。
【請求項2】
圧延に適用する圧下率は、前記境界から安定領域側に位置する値を採用することを特徴とする請求項1に記載の圧延材の冷間圧延方法。
【請求項3】
圧延に適用するチューニング率は、前記境界から安定領域側に位置する値を採用することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧延材の冷間圧延方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−200873(P2011−200873A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68106(P2010−68106)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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