説明

圧潰特性に優れた鋼管

【課題】高い圧潰強度を有し且つ安価に製造することが可能な鋼管を提供する。
【解決手段】UO成形で製造される鋼管であって、管軸方向と直交する断面形状が楕円であり、管軸方向と直交する断面において、シーム溶接部とその軸対称点とを結ぶ直線を直線Aとしたときに、この直線Aと直交する方向の直径を最大径とし、且つ真円度を1.4%以下とする。鋼管の圧縮降伏強度は、管周方向でシーム溶接部を起点とした90度位置において最も高く、一方、鋼管に外圧が負荷された際には、最大径部の内面側の圧縮応力が最大となり、最初に降伏して圧潰に至ることから、前記90度位置を最大径部とすることにより、高い圧潰強度が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラインパイプ等に使用される圧潰特性に優れた鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原油・天然ガスの長距離輸送に用いるパイプラインのなかでも、海洋を渡る海底パイプラインでは、水深1000mを超える大深度のものが増加している。一般にパイプラインの設計では、流体輸送量により鋼管内径が決定され、続いて内圧負荷時の周方向応力が一定値に抑えられるようにするとともに、腐食減量や亀裂伝播特性を加味して肉厚、材質が決定される。さらに、深海パイプラインでは水圧が高まるため、その設計に圧潰強度が考慮される。圧潰強度は、鋼管の径が小さいほど、また肉厚が大きいほど高くなるため、圧潰強度を考慮した設計では、小径化による輸送量の低下や、厚肉化による鋼管コストの増加につながる。
【0003】
圧潰は外圧により鋼管が潰れる現象であり、周方向圧縮応力により断面の一部が降伏すると、その部分に変形が集中するために生じる。すなわち、周方向の圧縮降伏強度が高い鋼管ほど、圧潰強度が高いことになる。一方、長距離輸送パイプラインに用いられる鋼管は大径であるため、鋼管を冷間で曲げた後、端部どうしを溶接して製造されるものが一般的である。鋼板に冷間で塑性ひずみを与えると、加工硬化により降伏強度は上昇するが、ひずみ付与方向を反転すると降伏強度が低下する、バウシンガー効果が発現することはよく知られている。このため、曲げ成形時のひずみ履歴により鋼管の周方向の圧縮強度と引張強度に差が生じ、最後に受ける周方向の塑性ひずみが引張方向である場合は、その圧縮強度の低下が著しい。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1〜3には、成形後の鋼管に熱処理を施すことによって、管周方向の圧縮降伏強度を回復させ、圧潰強度を向上させる方法が開示されている。また、特許文献4,5には、Oプレスでの圧縮率を大きくすることで管周方向の圧縮降伏強度の低下を抑制し、圧潰強度を向上させる方法が開示されている。さらに、特許文献6では、シーム溶接部とその軸対称部を端点とする直径が鋼管の最大径であり、且つ鋼管の真円度を限定した、圧潰強度に優れたUOE鋼管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−49025号公報
【特許文献2】特開2003−342639号公報
【特許文献3】特開2004−35925号公報
【特許文献4】特開2002−102931号公報
【特許文献5】特開2003−340518号公報
【特許文献6】特開2003−340519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜3に記載の熱処理による方法は、加熱工程が追加されるため、著しいコスト増を招くことになる。また、特許文献4,5に記載のOプレスでの圧縮率を増加する方法は、Oプレス力量の制約下では適用可能な寸法や強度が制限される。
また、特許文献6は、溶接部の軸対称部の外表面側の位置を起点として圧潰が開始するというメカニズム(同文献の段落0014)に基づいてなされた発明であるが、本発明者らによる試験の結果では、同文献に記載のような効果は認められなかった。
【0007】
したがって本発明の目的は、高い圧潰強度を有し且つ安価に製造することが可能な鋼管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、冷間成形された鋼管の全断面における圧縮降伏強度について詳細に調査し、鋼管の圧縮降伏強度は、管周方向でシーム溶接部を起点とした90度位置において最も高くなることを見出した。一方、鋼管に外圧が負荷された際には、最大径部の内面側の圧縮応力が最大となり、最初に降伏することが弾性力学的に明らかにされており、したがって、管断面形状が真円でない場合、前記90度位置が最大径部となる楕円とすることにより、高い圧潰強度の鋼管が得られることが判った。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0009】
[1]鋼板をUO成形した後、突き合わせ端部をシーム溶接して製造される鋼管であって、
管軸方向と直交する断面形状が楕円であり、管軸方向と直交する断面において、シーム溶接部とその軸対称点とを結ぶ直線を直線Aとしたときに、この直線Aと直交する方向(但し、当該直交する方向に対して、管周方向で±5°以内の方向を含む)における直径が最大径であり、真円度が1.4%以下であることを特徴とする圧潰特性に優れた鋼管。
[2]上記[1]の鋼管において、シーム溶接後に拡管矯正を施して製造された鋼管であることを特徴とする圧潰特性に優れた鋼管。
[3]上記[1]の鋼管において、シーム溶接後に縮管矯正を施して製造された鋼管であることを特徴とする圧潰特性に優れた鋼管。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鋼管は、高い圧潰強度を有し、しかも最大径部の管周方向位置を選択するだけでよいため、安価に製造することが可能である。このため、特に圧潰強度の面から寸法が制約されてきた深海パイプラインにおいて、大径化による輸送量の増加を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】鋼管を製造するためのUO成形工程を模式的に示す説明図
【図2】UO成形鋼管について、シーム溶接部を起点とした管周方向位置を示す説明図
【図3】UO成形鋼管について、シーム溶接部を起点とした各管周方向位置における圧縮降伏強度を示すグラフ(ここで、圧縮降伏強度は原板の降伏強度との比で示す)
【図4】拡管率を変えて製造した各種サイズのUOE鋼管について、管周方向でシーム溶接部を起点とした90度位置と180度位置での圧縮降伏強度を、拡管率との関係で示すグラフ(ここで、圧縮降伏強度は原板の降伏強度との比で示す)
【図5】本発明の鋼管の管軸方向と直交する断面を示す説明図
【図6】管周方向でシーム溶接部を起点とした90度位置を最大径部とする鋼管について、鋼管の真円度と圧潰強度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の鋼管は、鋼板をUO成形(冷間加工)した後、突き合わせ端部をシーム溶接して製造される鋼管であり、シーム溶接後に拡径矯正または縮径矯正が施されたものでもよい。
上記のようなUO方式による鋼管の製造法は、ラインパイプの代表的な冷間製造法であり、その成形工程を図1に示す。この成形工程では、まず鋼板の幅端部をC成形で予め曲げた後、Uプレスで略U字形に曲げる。この際、その開き幅が次工程のOプレスの金型開口幅より狭くなるように、その曲げ半径はOプレス金型のRより小さくする。次いで、外径相当のRを有する半円形の金型によりOプレスを実施する。このOプレスでは、Uプレスで曲げられた部分のように曲げ戻し変形を受ける部分と、曲げ変形を受ける部分とが混在する。また、Oプレスでは管周方向の圧縮ひずみを付与し、除荷時の変形を抑えている。但し、鋼板と金型間で摩擦による拘束が働くため、圧縮ひずみは管周方向で一様ではない。Oプレス後、突き合わせ端部がシーム溶接され、さらに必要に応じて、プレス成形後の形状不良や溶接で生じた変形の矯正を目的とした拡管または縮管が施される。
【0013】
このように管周方向各部で受けるひずみ履歴が異なるため、バウシンガー効果の影響が異なり、その降伏強度も一様でないと考えられる。そこで、UO成形後の鋼管の圧縮降伏強度を、図2に示すようにシーム溶接部から管周方向に45度ピッチで調査した。その結果を図3に示す。なお、圧縮降伏強度は原板の降伏強度との比で示している。横軸はシーム溶接部を起点とした管周方向位置(角度)、縦軸は成形前の鋼板の圧縮強度との比率であり、内表面から1/4板厚の位置のものである。なお、以下の説明において、単に「何度位置」という場合は、管周方向でシーム溶接部を起点(0度)とした角度で表される鋼管部分の位置を示す。
【0014】
図3によれば、鋼管の圧縮降伏強度は、Oプレス時の曲げ戻し変形を受ける135度位置、180度位置で低く、45度位置、90度位置で高い値を示している。このことから、圧縮降伏強度が高い45度位置や90度位置の部分が圧潰の起点となるようにすれば、鋼管の圧潰強度を高くすることが可能となる。
各種サイズのUOE鋼管を、拡管率を変えて製造した際の90度位置、180度位置の圧縮降伏強度を調べた結果を図4に示す。なお、圧縮降伏強度は原板の降伏強度との比で示している。90度位置の圧縮降伏強度が高く、特に拡管率が低い場合に180度位置との差は大きくなっている。
【0015】
一方、外圧負荷時の厚肉円筒に作用する応力は、その最大径部の内面で最大になることが弾性力学的に明らかにされている。つまり、鋼管に外圧が負荷した際には、最大径部の内面側の圧縮応力が最大となり、最初に降伏して圧潰に至る。したがって、管周方向において、圧縮降伏強度が最も高い部分と最大径部を一致させれば、圧潰強度が高い鋼管とすることができる。ここで、上述したように、図3によれば圧縮降伏強度は45度位置、90度位置で高い値を示しているが、45度位置と対向する135度位置は圧縮降伏強度が低いため、45度位置と135度位置を最大径部と一致させた場合、135度位置を起点に圧潰が生じてしまう。これに対して、対向する90度位置はいずれも圧縮降伏強度が高いため、この90度位置を最大径部とすれば、圧潰強度が最も高い鋼管とすることができる。
【0016】
このため本発明では、管軸方向と直交する断面形状を楕円とするとともに、90度位置(管周方向でシーム溶接部を起点とした90度位置)を最大径部とする。すなわち、図5に示すように、管軸方向と直交する断面において、シーム溶接部wとその軸対称点pとを結ぶ直線を直線Aとしたときに、この直線Aと直交する方向の直径を最大径とする。但し、この最大径部は厳密に90度位置でなくてもよく、管周方向で90度位置±5°以内の位置であれば、十分な効果が得られることが確認された。したがって、本発明において「直線Aと直交する方向」とは、当該直交する方向に対して、管周方向で±5°以内の方向を含む意味とする。したがって、この角度範囲での直径が最大径であればよい。
【0017】
図6は、強度X65相当、外径609.6mm、管厚31.8mmで、90度位置を最大径部とする鋼管について、鋼管の真円度と圧潰強度との関係を調べた結果を示している。ここで、真円度とは、鋼管の最大径と最小径の差を平均径で除した値であり、圧潰強度は最も高い真円度0.0%の場合との比率である。図6によれば、真円度が大きくなるにつれて、圧潰強度は低くなっており、真円度が1.4%を超えると、真円度0.0%の鋼管の80%以下となるため、真円度は1.4%以下とする。なお、真円度0.0%の場合の90%以上を確保できる、真円度が0.6%以下であれば、より望ましい。
【0018】
鋼管は、鋼板をUO成形(冷間加工)した後、突き合わせ端部をシーム溶接し、さらに必要に応じて拡径矯正または縮径矯正を施す一連の工程で製造されるが、本発明の鋼管は、Oプレスの金型の形状を選択することにより、製造することができる。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
強度X65相当、内径700mm、管厚36.6mmの鋼管をUO成形により製造した。Oプレス時の圧縮率は0.2%であり、金型の形状を変えることで、シーム溶接部を起点とした管周方向での最大径部の位置を制御した。製造された鋼管の周長を24等分して対向する位置間で直径を測定し、管周方向での最大径部の位置と真円度を求めた。また、鋼管の圧潰強度を単軸圧潰試験によって測定した。それらの結果を表1に示す。これによれば、最大径部が90度位置であるNo.1の鋼管の圧潰強度が最も高い。
【0020】
【表1】

【0021】
[実施例2]
強度X65相当、内径700mm、管厚36.6mmの鋼管をUO成形により製造した。この実施例では、Oプレス時の圧縮率0.2%でUO成形した後、縮管矯正を行った。縮管率は1.0%とし、Oプレス時の金型の形状を変えることで、シーム溶接部を起点とした管周方向での最大径部の位置を制御した。製造された鋼管の周長を24等分して対向する位置間で直径を測定し、管周方向での最大径部の位置と真円度を求めた。また、鋼管の圧潰強度を単軸圧潰試験によって測定した。それらの結果を表2に示す。これによれば、最大径部が90度位置であるNo.4の鋼管の圧潰強度が最も高く、且つその圧潰強度は表1のNo.1の鋼管よりも高い。
【0022】
【表2】

【0023】
[実施例3]
強度X65相当、内径700mm、管厚36.6mmの鋼管をUO成形により製造した。この実施例では、Oプレス時の圧縮率0.2%でUO成形した後、拡管矯正を行った。拡管率は1.0%とし、Oプレス時の金型の形状を変えることで、シーム溶接部を起点とした管周方向での最大径部の位置を制御した。製造された鋼管の周長を24等分して対向する位置間で直径を測定し、管周方向での最大径部の位置と真円度を求めた。また、鋼管の圧潰強度を単軸圧潰試験によって測定した。それらの結果を表3に示す。これによれば、真円度が約0.6%のNo.7〜9の鋼管では、最大径部が90度位置であるNo.7の鋼管の圧潰強度が、また、真円度が約1.0%のNo.10〜12の鋼管では、最大径部が90度位置であるNo.10の鋼管の圧潰強度が、それぞれ最も高くなっている。
【0024】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板をUO成形した後、突き合わせ端部をシーム溶接して製造される鋼管であって、
管軸方向と直交する断面形状が楕円であり、管軸方向と直交する断面において、シーム溶接部とその軸対称点とを結ぶ直線を直線Aとしたときに、この直線Aと直交する方向(但し、当該直交する方向に対して、管周方向で±5°以内の方向を含む)における直径が最大径であり、真円度が1.4%以下であることを特徴とする圧潰特性に優れた鋼管。
【請求項2】
シーム溶接後に拡管矯正を施して製造された鋼管であることを特徴とする請求項1に記載の圧潰特性に優れた鋼管。
【請求項3】
シーム溶接後に縮管矯正を施して製造された鋼管であることを特徴とする請求項1に記載の圧潰特性に優れた鋼管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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