説明

圧着用紙に用いられる塗工紙およびその製造方法

【課題】 後糊方式によって製造される圧着用紙に用いられ、オフセット印刷性およびインクジェット記録性に優れる塗工紙およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 塗工紙10は、基紙11と、顔料層12a、12bと、目止め層13とを備える。顔料層12a、12bは、支持体となる基紙11の少なくとも一方の面に形成される。目止め層13は、クレーおよびシリカが質量比20:80〜80:20で配合された顔料と、バインダーとを含む目止め剤を顔料層12a上に塗工することによって形成される。目止め剤に含まれるクレーは、比表面積が16〜24m2 /gであり、平均粒子径が0.1〜25μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧着用紙に用いられる塗工紙およびその製造方法に関し、より特定的には、後糊方式によって製造される圧着用紙に用いられる塗工紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人のプライバシーに関わるような隠蔽すべき情報が記録された書類を郵送するために、圧着用紙が用いられる。圧着用紙は、通常の状態では接着性はないが、熱や圧力を加えることによって接着性を発揮する性能(以下、接着性と呼ぶ)と、接着後に容易に剥離できる性能(以下、易剥離性と呼ぶ)との双方を兼ね備える。圧着用紙は、例えば、塗工紙にデータを印刷した後に、接着性と易剥離性とを兼ね備える接着剤層(以下、疑似接着剤層と呼ぶ)を印刷面に形成する、いわゆる後糊方式によって製造される。
【0003】
圧着用紙が用いられる典型的な用途として、いわゆる親展ハガキがある。親展ハガキは、情報が印刷された印刷面に疑似接着剤層を形成した後、疑似接着剤層が向かいあうように折りたたみ、互いに接する面を圧着させて使用するものである。上述のように、疑似接着剤層は、圧着性および易剥離性とを兼ね備えているため、印刷された情報を容易に隠蔽することができ、かつ、必要時には、圧着された用紙を疑似接着剤層の界面で剥離し、印刷された情報を再び読み取ることができる。このように、親展ハガキの圧着される面に親展性を有する情報を印刷することで、外部にその情報を漏らすことなく郵送することができる。
【0004】
ここで、圧着用紙を製造するための基材として用いられる塗工紙には、インクジェット印刷装置およびオフセット印刷装置を併用してデータが印刷される場合がある。この場合、圧着用紙を用いた親展ハガキ等には、インクジェット印刷装置によって親展情報や個人情報等の可変情報が印刷され、オフセット印刷装置によって、それ以外の情報、例えば、枠や模様等のフォーム印刷が施される。このため、塗工紙には、オフセット印刷性およびインクジェット記録性の双方が必要とされる。
【特許文献1】特開平8−2089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、後糊方式によって製造される従来の圧着用紙は、オフセット印刷に主眼がおかれた一般的なコート紙を基材としているものがほとんどである。これらの一般的なコート紙は、インクジェットのインクを速やかに吸収することができないため、インク汚れや滲みが発生してしまう。したがって、一般的なコート紙は、インクジェット印刷装置による印刷には適していない。
【0006】
高いインクジェット記録性を有する用紙として、インク受理性を高めた塗工層(インクジェット記録層)が表面に設けられたインクジェット記録用紙がある(例えば、特許文献1)。しかしながら、従来のインクジェット記録用紙にオフセット印刷を行った場合、
1)インク受理層にオフセット印刷用のインキが沈み込んでしまうため、光沢感が発現しづらい、
2)オフセット印刷時に塗工面が印刷ドラムに付着して剥離する、いわゆる紙ムケが発生しやすい、
3)UV樹脂やフィルム等の擬似接着剤層形成物の塗工層への沈みこみ量が多く、コスト高となってしまう、
という問題がある。したがって、従来のインクジェット記録用紙は、圧着用紙を製造するための基材には適していない。
【0007】
また、一般的なインクジェット記録用紙は、銀塩写真並みのフルカラー印刷性を追求しているものがほとんどである。しかしながら、親展ハガキ等に用いられる圧着用紙は、宛名印刷などのモノクロ印字・印刷あるいは各色単色あるいは数色での印字・印刷が主であるため、速乾性や高精細性が求められる。このように、従来のインクジェット記録用紙と、圧着用紙に用いられる基材とでは、要求される性能が異なるため、従来のインクジェット記録用紙は、圧着用紙を製造するための基材には適していない。
【0008】
それゆえに、本発明の目的は、後糊方式によって製造される圧着用紙に用いられ、オフセット印刷性およびインクジェット記録性に優れる塗工紙およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、印刷が施された面の上に、通常の状態では接着せず、所定の条件下でのみ剥離可能に接着する接着剤層が形成された圧着用紙に用いられる塗工紙であって、支持体となる基紙と、基紙の少なくとも一方の面に形成された顔料層と、顔料層の上に、クレーおよびシリカが質量比20:80〜80:20の割合で配合された顔料と、バインダーとを含む目止め剤を塗工することによって形成される目止め層とを備え、クレーは、比表面積が16〜24m2 /gであり、平均粒子径が0.1〜25μmであることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、目止め剤の塗工量は、3〜20g/m2 であるとよい。
【0011】
また、本発明は、印刷が施された面の上に、通常の状態では接着せず、所定の条件下でのみ剥離可能に接着する接着剤層が形成された圧着用紙に用いられる塗工紙の製造方法であって、支持体となる基紙の少なくとも一方の面に顔料層を形成するステップと、顔料層の上に、クレーおよびシリカが質量比20:80〜80:20の割合で配合された顔料と、バインダーとを含む目止め剤を塗工することによって目止め層を形成するステップとを備え、クレーは、比表面積が16〜24m2 /gであり、平均粒子径が0.1〜25μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、後糊方式によって製造される圧着用紙に用いられ、オフセット印刷性およびインクジェット記録性に優れる塗工紙およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗工紙10の構成を示す断面図である。塗工紙10は、後糊方式によって製造される圧着用紙に用いられる塗工紙であって、基紙11と、顔料層12aおよび12bと、目止め層13とを備える。
【0014】
基紙は、例えば、上質紙や合成紙である。本発明において、基紙の種類は特に限定されるものではない。基紙は、後糊方式で製造される圧着用紙に用いられる塗工紙の基紙として使用することができるものであればよいため、従来既知の基紙を使用することができる。
【0015】
顔料層12は、顔料とバインダーとを含む塗工液を基紙11の少なくとも一方の面に塗工することによって形成される。図1に示す塗工紙10において、顔料層は基紙11の両面に塗工されている。基紙の両面に形成された2つの顔料層を区別するために、顔料層12aおよび12bと呼ぶ。なお、顔料層12aおよび12bを区別する必要がない場合には、顔料層12と総称する。本発明において、顔料層12を形成するための塗工液に含まれる顔料およびバインダーの種類は特に限定されるものではなく、一般的な印刷用塗工紙の顔料層形成に用いられる顔料を使用することができる。
【0016】
塗工液に含まれる顔料は、例えば、クレー、一次または二次凝集体を形成しているカルサイト系沈降性炭酸カルシウム、二次凝集体を形成しているアラゴナイト系沈降性炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、スチレンビーズ、シリカ、合成微粒子シリカ、アミノ表面改質シリカ、ワックス表面処理シリカ、球状シリカ、通常のカルシウムや、亜鉛、マグネシウム、アルミニウムもしくはチタン等の金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、珪酸塩、またはこれらの混合物等が使用でき、中でも、クレーと炭酸カルシウムとが好適に使用できる。
【0017】
塗工液に含まれるバインダーは、例えば、SBラテックス、PVA、アクリル酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、澱粉、カゼイン等が使用できる。
【0018】
顔料に対するバインダーの配合割合は、顔料50質量部に対して5〜50質量部、好適には15〜40質量部とするとよい。バインダー量が少なすぎる場合、顔料層12と基紙11との接着力が不足するため、圧着用紙として剥離操作をした際に、顔料層12が基紙11から剥離しやすくなってしまう。一方、バインダー量が多すぎる場合、オフセットインクの定着性のみならず、インクジェットインキの定着性、乾燥性が阻害され、記録情報の毀損や乾燥不良に伴う裏移り、汚れが生じる問題が発現してしまう。
【0019】
基紙に塗工液を塗工する場合、従来既知の塗工機を用いて塗工することができる。塗工機は、例えば、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドメタリングコーター、カーテンコーター、ロールコーター等である。また、塗工機は、オンマシン塗工機であってもよく、また、オフマシン塗工機であってもよい。
【0020】
また、必要に応じて、基紙への顔料層12の形成後、顔料層12の平滑化処理を行ってもよい。金属ロールと弾性ロール、または金属ロール同士を組み合わせたカレンダーを用いて平滑化処理を行うことにより、所望の平滑度を得ることができる。
【0021】
目止め層13は、平滑化処理された顔料層12a上に目止め剤を塗工することによって形成される。目止め剤は、クレーおよびシリカからなる顔料と、バインダーとを含む。
【0022】
目止め剤に含まれる顔料は、クレー、およびシリカである。なお、クレー、シリカ以外の顔料が目止め剤に含まれていてもよい。クレーは、例えば、焼成クレー、エンジニアードクレー(粒子径に特定の幅を持たせたクレー)、デラミクレー等である。
【0023】
クレーの比表面積は、大きいほどインクジェットのインク吸収性が高く、また、吸収されたインクが目止め層13の表面付近にとどまるため、発色濃度が高くなり、印字鮮明性が向上する。しかしながら、クレーの比表面積が24m2 /gより大きい場合、目止め層13上に疑似接着剤を塗工した際に、目止め層13に吸収される疑似接着剤の量が増加してしまうため、接着剤の塗工量が多くなるだけでなく、本来の目的とするインクジェットのインク吸収性が阻害されてしまう。これにより、インクジェット印刷を行った場合に、ニジミが生じてしまう。一方、クレーの比表面積が16m2 /gより小さい場合、インクジェットのインク吸収性が低下するため、インクジェットインクの乾燥性が低下し、ニジミが生じてしまう。
【0024】
クレーの平均粒子径が25μmより大きい場合、目止め層13の表面に凹凸が生じてしまうため、オフセット印刷を行った場合に、表面の凹凸に起因する紙粉(粉落ち)が増加してしまう。紙粉(粉落ち)が増加すると、印刷機内に汚れが生じたり、印刷物の白抜けが生じる問題が発現する。一方、クレーの平均粒子径が0.1μmより小さい場合、疑似接着剤を塗工した際に、疑似接着剤が顔料層12aを通過し、基紙11まで浸透してしまうため、疑似接着力が低下してしまう。
【0025】
したがって、クレーは、比表面積16〜24m2 /g、平均粒子径0.1〜25μmであるもの、好適には、比表面積18〜20m2 /g、平均粒子径15〜22μmであるものが好ましい。シリカは、特に限定されるものではなく、顔料層12を形成するために用いられる塗工液に含まれるシリカ(通常のシリカや微粒子シリカ)と同様のものを用いることができる。また、バインダーも、シリカと同様に、塗工液に含まれるバインダーと同様のものを用いることができる。また、目止め剤に含有されるバインダーは5〜50質量%、好適には15〜40質量%とするとよい。
【0026】
シリカに対するクレーの配合割合が20質量部よりも少なく、また、クレーに対するシリカの配合割合が80質量部よりも多い場合、クレーの配合割合が少ないため、平坦化処理工程で平坦性(平滑性)を得難く、十分な白紙光沢および印刷光沢が得られないという問題が生じてしまう。また、オフセット印刷を行った際に、印刷面における摩擦が増加するため紙粉が発生してしまう。さらに、シリカの配合割合が多いため、インクジェットインクが紙層方向(Z軸方向)に急激に吸収されることにより、目止め層上に留まるインクジェットインク量が減少し、印字濃度が低くなってしまう。また、オフセット印刷を行った際に、オフセットインクが目止め層内に吸着してしまうため、良好なインク着肉性を得ることができない。
【0027】
一方、シリカに対するクレーの配合割合が80質量部よりも多く、また、クレーに対するシリカの配合割合が20質量部よりも少ない場合、クレーの配合割合が多いため、インクジェットインクの吸収乾燥性が低下することにより、ニジミが発生してしまう。また、オフセット印刷を行った際に、オフセットインクの目止め層へのインクの転写が少なくなるため、良好なインク着肉性を得ることができない。また、シリカの配合割合が少ないため、インクジェットインクの吸収性が低下することにより、インクの乾燥性が悪くなるばかりでなく、インクジェットインクが表面で広がる現象、所謂滲みが生じ、インクジェット記録に対する高精細性が低下してしまう。
【0028】
したがって、クレーおよびシリカの配合割合は、質量比で20:80〜80:20、好適には、質量比で30:70〜70:30とするとよい。
【0029】
以上のような組成の目止め剤を顔料層12上に塗工し、目止め層13を形成する。目止め剤の塗工量は、3〜20g/m2であり、好適には、8〜15g/m2であることが好ましい。目止め剤の塗工量が3g/m2未満である場合、形成された目止め層13において、十分な目止め効果を得ることができないため、オフセット印刷を行った際のインク着肉性が低下してしまう。一方、目止め剤の塗工量が20g/m2 より多い場合、目止め層の表面強度が低下してしまうため、目止め層13の剥離や粉落ち、情報の毀損といった問題が発生し、本発明の目的である圧着用紙に求められる記録情報の隠蔽性に繋がる問題が生じる。
【0030】
以上のように構成された塗工紙10において、目止め層13は、優れたオフセット印刷性およびインクジェット印刷性を兼ね備えている。また、塗工紙10に顔料層12および目止め層13が設けられていることによって、疑似接着剤が基紙に浸透することを防止することができるため、良好な接着性を保つことができる。また、目止め層13を形成することによって、塗工紙10は、良好な表面強度を有するため、目止め層13上にオフセット印刷を行った場合においても、ピッキングやパイリング等の発生を防止することができる。
【0031】
図2は、図1に示す塗工紙10を用いて、後糊方式で製造された圧着用紙20の構成を示す断面図である。図2に示す圧着用紙20は、基紙と、顔料層12a、12bと、目止め層13と、インク層21と、疑似接着剤層22とを備える。インク層21および疑似接着層を除く構成は、図1に示す塗工紙10の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0032】
まず、目止め層13の上に、インクジェット印刷装置およびオフセット印刷装置によって、文字・図形等が印刷される。これにより、目止め層13上にインク層21が形成される。インクジェット印刷装置で用いられるインクは特に限定されず、例えば、水系染料インク、水系顔料インク、溶剤系顔料インク等の一般的なインクを使用することができる。また、オフセット印刷装置で用いられるインクは、一般的なオフセット印刷に用いられるものを使用することができる。
【0033】
次に、目止め層13およびインク層21の上に疑似接着剤層22が形成される。疑似接着剤層は、通常の状態では接着性はないが、熱や圧力を加えることによって接着性を発揮する性能と、接着後に容易に剥離できる性能とを兼ね備えたものである。疑似接着剤層は、液体の疑似接着剤を印刷が施された目止め層13上に塗工し、熱乾燥または紫外線照射により硬化させることによって形成される。疑似接着剤は、例えば、アクリル系の合成樹脂を使用したものが挙げられるが、後糊方式で製造される圧着用紙に用いられる疑似接着剤であればよく、これに限られない。
【実施例】
【0034】
実施例1〜9および比較例1〜8について、インクジェット(IJ)印刷適性(鮮明性、ニジミ)、疑似接着性(初期接着性、糊粕の発生具合)、オフセット印刷適性(紙粉の発生具合、インク着肉)について試験し、比較検討した。以下、各実施例および比較例の詳細について説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
米坪140g/m2の上質紙に塗工液を、片面あたり塗工量8g/m2で両面塗工した。塗工液は、バインダー(日本ゼオン株式会社製:SBRラテックス)、炭酸カルシウム(奥多摩工業性:紡錘形軽質炭酸カルシウム)、およびクレー(白石工業社製)を含む。炭酸カルシウムを80質量部、クレーを20質量部を使用し、そこに分散剤として、ポリアクリル酸ソーダ(商品名:SDA−40N、40%濃度品、ソマール社製)0.1部、水72.3部を添加し、カウレス分散機で58.0%の顔料スラリーを調製した。この顔料スラリーにアクリル系ラテックス(商品名:ポリトロンF2212、48%濃度品、旭化成社製)30部、澱粉(商品名:MS4600、10%濃度品、日本食品加工社製)3部、耐水化剤(商品名:SPI−102A、45%濃度品、住友化学社製)0.005部、消泡剤(商品名:AF−1、25%濃度品、日信化学工業社製)0.001部を添加、攪拌・分散し、さらに水を添加し、固形分濃度が45%の塗工液を得た。塗工液の塗工後、オフマシンカレンダーを用いて平滑化処理し、ベック平滑度を500秒とした顔料層を形成した。
【0036】
次いで、形成した顔料層の一方の層の上に塗工量10g/m2 の目止め剤を塗布し、目止め層を形成した。目止め剤は、シリカ(塩野義製薬株式会社製:沈降性シリカ)50重量部と、クレー(白石工業社製)50重量部と、バインダー(日本ゼオン社製、固形分濃度48%)、市販のポリアクリル酸系分散剤0.1質量部、りん酸エステル化澱粉6質量部、滑剤(ステアリン酸カルシウム系)とを含み、目止め剤に含まれるクレーおよびシリカの配合比は、50:50(質量比)とし、目止め剤に対するバインダーの配合割合は18質量部であった。また、クレーは、比表面積が16m2 /gであり、平均粒子径が0.1μmであるものを用いた。目止め層は、ロッドメタリングフィルムプレス方式コーターを用いて、塗工速度900m/分で塗工し、仕上げはオンラインソフトカレンダーを用いロール温度160度で平坦化処理を行った。
【0037】
クレーは、ボールミル(ホソカワ/アルピネ社製:ラボ用水平攪拌型湿式ボールミル、90AHM)を用いて調製した。そして、ボールミルで調整後の粉体を空乾燥し、カーボン蒸着した後、平均粒子径を測定した。具体的には、堀場製作所(株)製の電子顕微鏡を用いて5万〜10万倍の倍率で粒子を撮影し、撮影した写真から粒子の直径を測定した。粒子500個の測定値の平均値を平均粒子径とした。また、ボールミルによって調整し、真空乾燥したクレーを用い、JIS K 1474に準拠したBET法により比表面積を測定した。
【0038】
目止め層を形成することにより完成した塗工紙をJIS P 8111に準拠した23℃、50%RHで24時間調湿して試験用試料とした。
【0039】
(実施例2)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を18m2 /g、平均粒子径を15μmとし、目止め剤におけるクレーおよびシリカの配合比を80:20(質量比)としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0040】
(実施例3)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を20m2 /g、平均粒子径を20μmとし、目止め剤におけるクレーおよびシリカの配合比を20:80(質量比)としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0041】
(実施例4)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を24m2 /g、平均粒子径を22μmとし、目止め剤におけるクレーおよびシリカの配合比を60:40(質量比)としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0042】
(実施例5)
目止め剤に含まれるクレーの平均粒子径を18μmとし、目止め剤におけるクレーおよびシリカの配合比を40:60(質量比)としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0043】
(実施例6)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を18m2 /g、平均粒子径を25μmとしたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0044】
(実施例7)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を22m2 /gとし、目止め剤の塗工量を15g/m2としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0045】
(実施例8)
目止め剤に含まれるクレーの平均粒子径を15μmとし、目止め剤の塗工量を3g/m2 としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0046】
(実施例9)
目止め剤に含まれるクレーの平均粒子径を15μmとし、目止め剤の塗工量を20g/m2としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0047】
(比較例1)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を20m2 /g、平均粒子径を18μmとし、目止め剤におけるクレーおよびシリカの配合比を0:100(質量比)としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0048】
(比較例2)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を20m2 /g、平均粒子径を18μmとし、目止め剤におけるクレーおよびシリカの配合比を100:0(質量比)としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0049】
(比較例3)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を28m2 /g、平均粒子径を14μmとしたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0050】
(比較例4)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を13m2 /g、平均粒子径を25μmとしたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0051】
(比較例5)
目止め剤に含まれるクレーの比表面積を24m2 /g、平均粒子径を30μmとしたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0052】
(比較例6)
目止め剤に含まれるクレーの平均粒子径を0.08μmとしたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0053】
(比較例7)
目止め剤に含まれるクレーの平均粒子径を15μmとし、目止め剤の塗工量を2g/m2としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0054】
(比較例8)
目止め剤に含まれるクレーの平均粒子径を15μmとし、目止め剤の塗工量を25g/m2 としたほかは、実施例1と同様にして塗工紙を製造し、試験用試料とした。
【0055】
以上のような実施例1〜9および比較例1〜8に係る塗工紙の物性を評価した。以下、物性の評価方法について説明する。
【0056】
(インクジェット印字鮮明性)
塗工紙の目止め層に対して、インクジェットプリンター(PM−970C;セイコーエプソン社製)を用いて、赤色インクで2cm四方の塗り潰し印字した。そして、得られた印刷物の印字部分の光沢度をMODEL GM−26D(村上色彩研究所)を用いて、JIS−P8142に従い測定し、光沢度を以下のように評価した。
A:30以上
B:25以上30未満
C:20以上25未満
D:20未満
【0057】
(ニジミ)
塗工紙の目止め層に対して、インクジェットプリンター(PM−G800:セイコーエプソン社製)を用いて、温度23℃、湿度50%の条件下で、シアン、マゼンタ、イエローの各色の重ね色で構成される赤、緑、青を背景色としてMS明朝、8ポイントで「印刷テスト」の白抜き文字を印刷した。そして、得られた印刷物の印字部分について、にじみ具合を目視にて観察し、以下のように評価した。なお、Aが最も高い評価であり、逆にDは最も低い評価である。
A:にじみが全く見られない
B:若干のにじみが見られるものの、文字判別は可能であり、実使用上問題ない
C:文字が不鮮明となるほどのにじみが見られる
D:文字判別が困難なほどのにじみが見られる
【0058】
(初期接着力)
各実施例および各比較例のそれぞれについて、目止め層上にUV硬化タイプの疑似接着樹脂(互応化学工業株式会社製)を8g/m2 塗工し、疑似接着剤層を形成した。疑似接着剤層を形成した試料を二枚一組で1つの試験片(幅50mm×長さ100mm)とし、その疑似接着剤層同士が向かい合うように重ね合わせ、メールシーラー(大日本印刷株式会社製:MS9100)を用いて、接着長148mm、剥離しろ2mmとなるようにロールギャップ14の設定で加圧し、接着した。接着後、ただちに、T型剥離試験機を用いて、500mm/分の条件で、長さ方向の端から剥離して疑似接着剤層の界面の剥離強度を測定し、以下のように疑似接着力を評価した。なお、Aが最も高い評価であり、逆にDは最も低い評価である。
A:測定値が250〜350N/cmの範囲にあり好適な疑似接着性を示す
B:測定値が220N/cm以上250未満N/cmであるが、実使用上問題が生じない範囲である
C:擬似接着性を示しているものの、測定値が200N/cm超210N/cm未満であり、擬似接着試験片を30回以上屈曲(90度以上の折り曲げ)させなければ剥離が生じない
D:測定値が200N/cm未満であり、擬似接着試験片を30回未満の屈曲で剥離が生じるため実用的ではない、または、測定値が380N/cmを超えており、剥離の際に破れる可能性が極めて高く実用的ではない
【0059】
(糊粕の発生具合)
各実施例および各比較例のそれぞれについて、テストコータを用いて、目止め層上にUV硬化タイプの疑似接着樹脂(互応化学工業株式会社製)を8g/m2 塗工した。疑似接着剤を塗工後、塗工面が接触しているペーパーロールに糊粕が付着しているかどうかを目視にて確認し、以下のように評価した。
○:糊粕の付着が確認できなかった
△:糊粕の付着が殆ど無く、実操業上問題のないレベルである
×:糊粕の付着が確認できた
【0060】
(紙粉の発生具合)
各実施例および各比較例のそれぞれについて、オフセット印刷機(枚葉印刷機:ローランド社製)で、菊版1000枚の連続給紙印字を行い、印刷機内部に紙粉が発生するか否かを目視にて確認し、以下のように評価した。なお、Aが最も高い評価であり、逆にDは最も低い評価である。
A:紙粉の発生が確認できない
B:紙紛の発生が見られるが、実操業上問題の無いレベルである
C:紙粉の発生により問題が発生する恐れが高い
D:紙粉が発生しプリンタの運転等に支障をきたした
【0061】
(インク着肉性)
塗工紙の目止め層に対して、RIテスターを用いてテスト用インキを印刷した。テスト用インキは、酸化重合インキ0.6gに対し水0.1ccを混合し、乳化して得られたものを用いた。そして、得られた印刷物の印字部分について、インク着肉性を成人男女10人の目視にて観察し、以下のように評価した。
○:インク着肉性が良いと8人以上が評価した
△:インク着肉性は良好であると5人以上が評価した
×:インク着肉性○及び△評価以外
【0062】
以上のような評価によって得られた結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、目止め剤の塗工量が3〜20g/m2 、目止め剤に含まれるクレーおよびシリカの配合比が20:80〜80:20であり、かつ、クレーの比表面積が16〜24m2 /g、平均粒子径が0.1〜25μmであるという条件を満たす実施例1〜実施例9について、各試験項目で良好な結果を得ることができた。
【0065】
これに対し、比較例1は、目止め剤において、シリカの配合割合が100質量部であり、クレーを含んでいないため、インクジェットインクが顔料に吸着されてしまい、印字面に留まらないため、良好なインクジェット印字鮮明性を得ることができなかった。さらに、オフセット印刷において、印刷面の摩擦増加により紙紛が発生し、また、オフセットインクの目止め層内への吸着により、良好なインク着肉性を得ることができなかった。
【0066】
比較例2は、目止め剤において、クレーの配合割合が100質量部であり、シリカの配合が無いため、インクジェット印字鮮明性は有るものの、インクジェットインクの吸収乾燥性が低下し、ニジミの問題が発現した。さらに、オフセット印刷において、オフセットインクの目止め層へのインクの転写が少なく、良好なインク着肉性を得ることができなかった。
【0067】
比較例3は、クレーの比表面積が24m2 /gよりも大きかったため、塗工した疑似接着剤が目止め層に吸収されてしまい、疑似接着剤層同士の初期接着性が不十分であった。また、目止め層に疑似接着剤が吸収されたことによりインクジェットのインク吸収性が阻害され、ニジミが発生した。
【0068】
比較例4は、クレーの比表面積が16m2 /gよりも小さかったため、インクジェットインクの目止め層への吸収が阻害され、インクジェット印刷を行った際にニジミが発生した。
【0069】
比較例5は、クレーの平均粒子径が25μmよりも大きかったため、オフセット印刷を行った際に紙粉が発生した。
【0070】
比較例6は、クレーの平均粒子径が0.1μmよりも小さかったため、疑似接着剤層同士の初期接着性が不十分であった。
【0071】
比較例7は、目止め液の塗工量が3g/m2 よりも少なかったため、良好なインク着肉性を得ることができなかった。
【0072】
比較例8は、目止め液の塗工量が20g/m2 よりも多かったため、目止め層の表面強度が低下し、紙粉が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、後糊方式によって製造される圧着用紙に用いられ、オフセット印刷性およびインクジェット記録性に優れる塗工紙およびその製造方法等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗工紙の構成を示す断面図
【図2】図1に示す塗工紙を用い、後糊方式によって製造された圧着用紙の構成を示す断面図
【符号の説明】
【0075】
10 塗工紙
11 基紙
12 顔料層
13 目止め層
20 圧着用紙
21 インク層
22 疑似接着剤層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷が施された面の上に、通常の状態では接着せず、所定の条件下でのみ剥離可能に接着する接着剤層が形成された圧着用紙に用いられる塗工紙であって、
支持体となる基紙と、
前記基紙の少なくとも一方の面に形成された顔料層と、
前記顔料層の上に、クレーおよびシリカが質量比20:80〜80:20の割合で配合された顔料と、バインダーとを含む目止め剤を塗工することによって形成される目止め層とを備え、
前記クレーは、比表面積が16〜24m2 /gであり、平均粒子径が0.1〜25μmであることを特徴とする、塗工紙。
【請求項2】
前記目止め剤の塗工量は、3〜20g/m2 であることを特徴とする、請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
印刷が施された面の上に、通常の状態では接着せず、所定の条件下でのみ剥離可能に接着する接着剤層が形成された圧着用紙に用いられる塗工紙の製造方法であって、
支持体となる基紙の少なくとも一方の面に顔料層を形成するステップと、
前記顔料層の上に、クレーおよびシリカが質量比20:80〜80:20の割合で配合された顔料と、バインダーとを含む目止め剤を塗工することによって目止め層を形成するステップとを備え、
前記クレーは、比表面積が16〜24m2 /gであり、平均粒子径が0.1〜25μmであることを特徴とする、塗工紙の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−207076(P2006−207076A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21885(P2005−21885)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】