説明

圧縮木材成形用金型およびそれを用いた圧縮木材成形品の製造方法

【課題】 圧縮木材成形用金型およびそれを用いた圧縮木材成形品の製造方法において、圧縮木材成形品を木材の外観を損なうことなく金型面から容易に離型せしめ、製造効率を向上することができるようにする。
【解決手段】 圧縮木材成形用金型1として、凸形状のコア金型面5aを備える上金型部2と、凹形状のキャビティ金型面9aを備える下金型部3とを備え、キャビティ金型面9aから、成形空間S側に突き出し可能に押し出しピン11を設けた構成とする。そして、押し出しピン11のピン先面11aをキャビティ金型面9aに整列させた状態でブランク木材の圧縮成形を行い、上金型部2、下金型部3をそれぞれ離間させつつ、押し出しピン11を突き出して脱型工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮木材成形用金型およびそれを用いた圧縮木材成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材を金型で圧縮成形して、例えば、板材、函、収容容器、外装体などの種々の3次元形状を有する圧縮木材成形品を製造することが提案されている。このような圧縮木材成形品は、表面に木目模様が露出するなど、木材特有の表面性を備えるため、合成樹脂や金属などにない風合いや外観を備える材料として注目されている。
例えば、特許文献1には、年輪の径方向に圧縮した板状の木材を成形凸型と成形凹型とを備えた上型と下型とからなる成形金型により、トレイ状の3次元形状の成形品を加工する木材の加工方法が記載されている。
この成形金型は、下型に設けられたガイド支柱に沿って上型がスライド移動可能とされ、プレス機により上型を下降させ、下型上に配置された板状の木材を圧縮するものである。
また、特許文献2には、凹形状を有するプレス型と凸形状を有するプレス型とにより湾曲された板材を、一方に開口を有する函状の小物入れ用の器に圧縮成形する木質材の三次元加工方法が記載されている。
【特許文献1】特開平8−25301号公報(図5−8)
【特許文献2】特開平11−77619号公報(図7、8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の圧縮木材成形用金型およびそれを用いた圧縮木材成形品の製造方法には、以下のような問題があった。
木材は、生長方向に伸びた木質繊維からなり、年輪の径方向に、例えば導管などの多数の空隙が形成されている。そのため、年輪の径方向には容易に圧縮されるものの、圧縮荷重を解除すると、ある程度は元の形状に復帰するものである。この特性は、金型による成形とは言え、成形収縮により形状が収縮する熱可塑性樹脂の射出成形や、成形収縮や変形がきわめて小さい熱硬化性樹脂の圧縮成形の場合と根本的に異なるものである。
そのため、特許文献1、2では、木材に熱水を浸透させたり、木材を高温水蒸気処理したりすることにより、軟化させて圧縮を行い、圧縮後、所定時間型締めを保持することにより、金型面に沿って形状が固定されるのを待って脱型するようにしている。
この場合、確かに金型面に沿う形状に固定されるものの、木材は、強度異方性が大きい不均質な材質であり、かつ合成樹脂のような成形流動性もないので、金型により均等に圧縮力を受けても、木材の内部の残留応力を均等化することは困難である。そのため、金型面に沿う変形に抵抗する方向に残留応力が発生することは避けられず、形状が固定されたとしても、変形が戻ろうとする方向により強く金型を押圧して密着した状態となり、離型性を悪化させるという問題がある。そのため脱型工程が煩雑となったり脱型後の表面性が劣化したりして製造効率が悪くなるという問題がある。
このような離型性を改善するために、離型剤を用いることも考えられるものの、離型剤は、木材へ浸透するため、例えば変色や表面光沢の変化などを招き、成形品の外観を損ねやすいという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、圧縮木材成形品を木材の外観を損なうことなく金型面から容易に離型せしめ、製造効率を向上することができる圧縮木材成形用金型およびそれを用いた圧縮木材成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、少なくとも2つの金型面を対向方向に移動して木材を圧縮することにより、3次元形状を有する圧縮木材成形品を形成する圧縮木材成形用金型であって、前記2つの金型面が、対向位置において略対応する凹形状と凸形状とを少なくとも一対有し、前記2つの金型面の少なくともいずれかのうち、前記凹形状が形成された領域に、前記圧縮された木材を離型せしめる押し出し部材が設けられた構成とする。
この発明によれば、2つの金型面を対向方向に移動して木材を圧縮してから脱型するときに、2つの金型面の少なくともいずれかのうち凹形状が形成された領域に設けられた押し出し部材により圧縮された木材を押し出して脱型することができる。そのため、互いに対向する2つの金型面のうち凸形状の金型面よりも凹形状の金型面の側に強く密着する傾向のある圧縮後の木材を容易に離型することができる。
【0006】
ここで、3次元形状は、3次元的な凹凸や湾曲を有する形状であり、一方向に沿う断面形状が略同一とならない形状を意味し、例えば、平板形状、平板を2次元的に屈曲あるいは湾曲させた形状、柱形状は除外する。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の圧縮木材成形用金型において、前記2つの金型面が、凹形状からなる雌型金型面と、凸形状からなる雄型金型面とからなる構成とする。
この発明によれば、圧縮された木材を凹形状からなる雌型金型面から容易に離型させることができる。
【0008】
請求項3に記載の発明では、少なくとも2つの金型面が対向位置で略対応する凹形状と凸形状とを少なくとも一対有し、前記2つの金型面の少なくともいずれかのうち、前記凹形状が形成された領域に前記対向方向に向けて突き出し可能な押し出し部材を設けた圧縮木材成形用金型を用いた圧縮木材成形品の製造方法であって、前記2つの金型面の間に配置した木材を、前記2つの金型面を対向方向に移動して前記3次元形状に圧縮する圧縮工程と、該圧縮工程で圧縮された木材を、前記2つの金型面を対向方向に離間させつつ、前記押し出し部材を前記対向方向に向けて突き出して離型せしめて取り出す脱型工程とを備える方法とする。
この発明によれば、請求項1に記載の発明の圧縮木材成形用金型を直接用いた圧縮木材成形品の製造方法となっているので、請求項1に記載の発明と同様な作用効果を備える。
【0009】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の圧縮木材成形品の製造方法において、前記脱型工程で、前記2つの金型面の離間を開始してからわずかに遅延して押し出し部材を突き出す方法とする。
この発明によれば、脱型工程において2つの金型面の離間を開始してからわずかに遅延して押し出し部材を突き出すので、同時に突き出す場合よりも、圧縮された木材と凹形状の金型面との隙間を離しやすくなり、圧縮された木材が押し出し部材により強く押圧されて突き出し跡などを発生するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧縮木材成形用金型およびそれを用いた圧縮木材成形品の製造方法によれば、互いに対向する2つの金型面のうち凸形状の金型面よりも凹形状の金型面の側に強く密着する傾向のある圧縮後の木材を容易に離型することができるので、木材表面の外観を損なうことなく円滑に脱型して圧縮木材成形品の製造効率を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下では、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0012】
本発明の実施形態に係る圧縮木材成形用金型について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る圧縮木材成形用金型の構成について説明するための鉛直方向の断面説明図である。図2(a)は、本発明の実施形態に係る圧縮木材成形用金型を用いて製造される圧縮木材成形品の一例について説明するための斜視説明図である。図2(b)は、図2(a)の裏面側(図示B方向)から見た斜視説明図である。
【0013】
本実施形態の圧縮木材成形用金型1は、例えば板材などからなるブランク木材を、互いに対向して一方向(例えば、本実施形態では上下方向)に相対的にスライド移動する2つの金型である上金型部2と下金型部3とにより、比較的薄肉で略一定の肉厚を有する3次元形状を有する高強度の構造体、例えば一方に開口を有する箱、筐体、容器、カバー、シェル状部材などの構造体のような圧縮木材成形品を成形するためのものである。以下では、その一例として、例えば図2(a)、(b)に示すような圧縮木材成形品100を圧縮成形するものとして説明する。
【0014】
圧縮木材成形品100は、図2(a)に示すように、平面視D字で、下面側に緩やかなドーム状に張り出した底面部の外周から上側に立設された側面部が設けられ、上側に開口する函体を構成している。
そして、D字状の略直線部の幅寸法は、Wとされ、その直線部からD字の湾曲の頂点までの距離はLとされる。
函体の開口部には、同一平面上に整列した開口部端面100dが形成されている。
圧縮木材成形品100の内面は、これら底面部、側面部の形状に応じて、平面視D字状で下方に緩やかに張り出した湾曲を有する内側底面100a、内側側面100b、100cを備え、全体として凹形状を形成している。
ここで、内側側面100cは、内側底面100aのD字状の略直線部を形成する側面を示し、内側側面100bは、同じくD字状のU字部を形成する側面を示している。また符号101は、圧縮木材成形品100の表面に露出した木目線を模式的に示したものである。
圧縮木材成形品100の外面は、内側底面100a、内側側面100b、100cの裏面側にそれぞれ略同様の形状を形成する外側底面100A、外側側面100B、100Cが形成され、全体として凸形状を形成している。そして、底面部、側面部の厚さは、いずれも略一定の厚さtとされている。
【0015】
開口部端面100dから外側底面100Aのドームの頂点までの高さ寸法は、Hとされている。そのため、圧縮木材成形品100の内面側の深さは、開口部端面100dから(H−t)である。ここで、H>tである。
具体的な寸法の例としては、例えば、t=1.6mm、H=8mmといった寸法などが可能である。この場合には、高さHは厚さtの5倍であり、函形状の深さとしては厚さtの4倍となる。
【0016】
このような函体は、例えば、携帯電話、リモコン、カメラなどの電子機器の外装体などとしても好適である。
【0017】
圧縮木材成形品100を形成するためのブランク木材の種類としては、特に限定されない。例えば檜、檜葉、桐、チーク、マホガニー、杉、松、桜、竹などを好適に採用することができる。
圧縮木材成形品100の圧縮率は、必要な表面強度などから決まる所定密度が得られるような圧縮率をブランク木材の気乾密度に応じて適宜設定することができる。
【0018】
圧縮木材成形用金型1の上金型部2の概略構成は、図1に示すように、上金型本体5、押圧プレート部4、および保持プレート6からなる。なお、図1の断面方向は、図2(a)のA−A線に沿う断面に対応している。
上金型本体5は、内側底面100a、内側側面100b、100cの形状を転写する凸形状の金型面であるコア金型面5a(雄型金型面)と、開口部端面100dの形状を転写する端部金型面5bとを図示下端側に備えている。そして側面には、保持プレート6に対して図示上下方向へスライド移動するための側面スライド部5cを備えている。上金型本体5の図示上端側は、押圧プレート部4と接合されている。
【0019】
押圧プレート部4は、上金型本体5の上端に接合された平板状の支持板で、後述する複数のスライドロッド7に対して、スライド移動可能に嵌合する複数のスライドロッドガイド孔4cが設けられている。
【0020】
保持プレート6は、中央部に上金型本体5の側面スライド部5cとスライド移動可能に嵌合するスライドガイド孔6aと、後述する複数のスライドロッド7に対してスライド移動可能に嵌合する複数のスライドロッドガイド孔6dとを備える略平板状の部材である。
スライドガイド孔6aの上端側には、ブランク部材が圧縮される際に、変形とともに円滑に滑り移動できるように傾斜面6bが設けられている。
保持プレート6の下面は、下金型部3と密着して当接するためのプレート下面6cが設けられている。プレート下面6cには、保持プレート6が下金型部3に当接したときに、上下方向に着脱可能な状態で下金型部3に対して水平方向に位置決めできるように、後述する複数のガイドピン8に嵌合する複数の位置決め穴6eが設けられている。
【0021】
下金型部3は、基体であるブロック状の下金型保持プレート10の中央部の上面側に下金型本体9が入れ子状に設けられ、下金型保持プレート10の下面側に、下金型本体9、下金型保持プレート10をそれぞれ上下方向に貫通する押し出しピン11(押し出し部材)が設けられたものである。
【0022】
下金型保持プレート10の上面側のプレート上面10a上には、スライドロッドガイド孔4c、6dに嵌合する断面形状で鉛直方向に延された複数のスライドロッド7と、位置決め穴6eに嵌合して保持プレート6を水平方向に位置決めする複数のガイドピン8とがそれぞれ鉛直方向に立設されている。スライドロッド7の本数は、2〜4本程度が好まし。
下金型保持プレート10の下面側には、押し出しピン11を収容して上下方向に可動に収容するための穴部である押し出しピン収容部10bが設けられている。
【0023】
下金型本体9は、下金型保持プレート10に組み込まれた状態で、プレート上面10aに整列する金型本体上面9bを備え、金型本体上面9bの中央部に圧縮木材成形品100の外側底面100A、外側側面100B、100Cの形状を転写する凹形状の金型面であるキャビティ金型面9a(雌型金型面)が設けられている。
キャビティ金型面9aには、外側底面100Aに対応する領域の所定位置、例えば、図2(b)に示す押し出しピン押圧位置102に対応する位置に貫通孔12が設けられている。そして貫通孔12は、下金型保持プレート10にも貫通して、押し出しピン収容部10bまで延されている。
【0024】
押し出しピン11は、圧縮成形後に、圧縮木材成形品100を金型から脱型する際、キャビティ金型面9aから突き出して、圧縮木材成形品100を押し出すことにより離型させる適宜断面の軸状部材である。
押し出しピン11は、貫通孔12に対して進退可能に嵌合されている。そのため、圧縮成形時は、ピン先面11aが、キャビティ金型面9a上で貫通孔12を塞ぐように配置されるとともに、キャビティ金型面9aとともに外側底面100Aに転写する形状の一部を形成している。一方、脱型時は、ピン先面11aの他端側に設けられた押し出しヘッド11bを介してキャビティ金型面9a上の空間に突き出し可能とされている。
押し出しピン11の突き出しは、自動または手動により突き出しのための動力を加えることができる適宜の突き出し手段により行われる。
例えば、自動的に行う場合、上金型部2の動作に連動して、ジャッキやプレス機などの機械力により動力を供給することができる。また、手動で行う場合は、例えば、手動ジャッキやハンマーによる突き出し力を押し出しヘッド11bに作用させる。
【0025】
このように圧縮木材成形用金型1では、図1に示すように、コア金型面5a、端部金型面5b、キャビティ金型面9a、ピン先面11aで囲まれた圧縮木材成形品100の外形に一致する成形空間Sが形成されるものである。すなわち、押圧プレート部4をプレス機などにより押下して、上金型本体5をスライドロッド7に沿って降下させて端部金型面5bが保持プレート6のプレート下面6cと整列した状態とし、プレート下面6cと、プレート上面10a、金型本体上面9bとを密着させるように配置するとともに、押し出しピン11のピン先面11aをキャビティ金型面9aに整列させた状態とすることにより成形空間Sが形成される。
【0026】
次に、圧縮木材成形用金型1を用いた本実施形態の圧縮木材成形品の製造方法について説明する。
図3(a)、(b)は、本発明の実施形態に係る圧縮木材成形品の製造方法における各工程について説明するための工程説明図である。図4(c)、(d)は、同じく図3に続く各工程について説明するための工程説明図である。ここで図3、4は、いずれも図2(a)のA−A線に沿う断面を示す。図5は、本発明の実施形態に係る圧縮木材成形品の製造方法における凸形状の金型面と押し出し部材の移動の様子を模式的に示すグラフである。横軸は時間を示し、縦軸は、適宜の基準位置からの鉛直方向の高さを示す。
【0027】
本実施形態の圧縮木材成形品の製造方法の概略工程は、圧縮工程、および脱型工程からなる。
圧縮工程は、ブランク部材13を圧縮し、金型面に沿って圧縮された形状を固定する工程である。
ブランク部材13は、あらかじめ、厚さtよりも厚い木材で、圧縮木材成形品100の形状に略沿った形状の3次元形状を有する3次元ブランクを用いてもよいが、本実施形態では、圧縮木材成形品100を平面に展開した形状と略同じ大きさに外形が切り出された厚さt(ただし、t>t)の平板からなる平板ブランクを用いている。
【0028】
まず、図3(a)に示すように、保持プレート6を下金型保持プレート10、下金型本体9上で密着する位置に配置し、上金型本体5を上方に引上げた状態で、保持プレート6と上金型本体5との間に、ブランク部材13をセットする。
【0029】
そして、図3(b)に示すように、押圧プレート部4に押圧力Pを加えることにより、押圧プレート部4および上金型本体5を、スライドロッド7に沿って徐々に下降させ、ブランク部材13を圧縮していく。
ブランク部材13は、まず上面がコア金型面5aと当接して、その形状にならって凹状に変形され、下面の端部が傾斜面6bに沿って滑りながら下方に移動する。
そして、ブランク部材13が屈曲されて、コア金型面5aとキャビティ金型面9aとの間に挟まれた状態で圧縮が進行する。側面スライド部5cとスライドガイド孔6aとが嵌合すると、ブランク部材13は、成形空間Sの中に閉じ込められ、上金型本体5の下降により成形空間Sが狭まるにつれて圧縮されていく。
図4(c)は、成形空間Sが圧縮木材成形品100と同形状となる位置まで上金型本体5が下降された圧縮状態の最終段階を示す。
【0030】
このような圧縮の過程では、ブランク部材13を軟化させるために、例えば120℃〜200℃程度の高温高圧水蒸気を噴射しつつ圧縮を行う。または、40℃以上の熱湯で所定時間煮沸した後、120℃〜200℃程度の高温高圧環境下で圧縮を行ってもよい。いずれの場合でも、上金型本体5および下金型本体9も上記高温雰囲気と同等の温度に加温することが好ましい。
また、このような条件で圧縮を行うためには、圧縮木材成形用金型1と圧縮に用いるプレス機などを高圧容器内に配置して行うと安定した高温高圧環境が得られて好都合である。
【0031】
木材は、木質繊維と交差する方向に圧縮されると、木質繊維内の空隙が縮小して圧縮されていくが、圧縮力を解除すると、ある程度までは、圧縮前の形状に戻ろうとするという特徴がある。このような戻り変形を抑制して、圧縮力を解除したときも転写された金型面の形状が保持されるためには圧縮された形状の固定を行う必要がある。
このような固定手段として、固定すべき形状のまま所定時間高温状態を維持してから常温まで冷却して脱型することが知られている。所定時間は、木材の種類や圧縮率などに応じて適宜設定する。例えばあらかじめ同材質で実験を行うなどして設定しておく。
【0032】
そこで、図4(c)の状態のまま、所定時間、型締めを保持し、コア金型面5a、端部金型面5b、キャビティ金型面9aの形状が転写されるまで放置する。
そして、一定時間経過した後、高温高圧水蒸気の供給を停止し、型締めを保持したまま冷却し、水分を乾燥させる。この過程により、転写された形状が固定される。
【0033】
次に、脱型工程を行う。
脱型工程は、上金型本体5、下金型本体9を鉛直方向に相対的に離間させることにより、上下に型開きし、圧縮成形された圧縮木材成形品100をコア金型面5a、キャビティ金型面9aから離型させ、圧縮木材成形用金型1の外部に取り出す工程である。
上記に説明したように、圧縮木材成形品100は、転写形状が十分固定されているが、木材は、強度異方性が大きい不均質な材質であり、かつ合成樹脂のような成形流動性もないので、金型により均等に圧縮力を受けても、木材の内部の残留応力を均等化することは困難である。そのため、金型面に沿う変形に抵抗する方向に残留応力が発生する。言い換えれば、金型面に沿う形状に固定される場合にも、金型面を押圧する荷重は場所により異なっている。
そのため、本実施形態のように、凹形状と凸形状とが対向した金型面により圧縮される場合、圧縮木材成形品100は、凸形状のコア金型面5aに比べて、凹形状のキャビティ金型面9a側をより強く押圧した状態で固定される。その結果、内側底面100a、内側側面100b、100cとコア金型面5aとの密着性に比べて、外側底面100A、外側側面100B、100Cとキャビティ金型面9aとの密着性が高い状態で固定される。
つまり、型開きしても、圧縮木材成形品100がキャビティ金型面9a側に取られた状態となり、このままでは脱型困難となる恐れがある。
【0034】
そこで、本実施形態では、キャビティ金型面9a側から、圧縮木材成形品100を押し出し可能な押し出しピン11を設けることにより、圧縮木材成形品100の離型を円滑に行えるようになっている。
すなわち、本実施形態の脱型工程では、上金型本体5と保持プレート6とを上側にスライド移動するとともに、押し出しピン11を上方に突き出す。
このとき、押し出しピン11により外側底面100Aにピン跡などを残さないために、上金型本体5と押し出しピン11との相対的な位置関係を、ピン先面11aとコア金型面5aとで挟まれる領域の厚さが常に厚さt以上となる状態で突き出す。
【0035】
このように、ピン先面11aとコア金型面5aとの間隔がt以上であればよいが、tよりわずかに大きくなるような形状で突き出すようにすれば、圧縮木材成形品100が成形空間Sで遊ぶことが無くなり、ピン先面11aが圧縮木材成形品100の底面部の決まった位置のみに当接するのでより好ましい。なお、押し出しピン11は、キャビティ金型面9aと外側底面100Aとの間に離型のきっかけとなる微細な隙間を形成できれば十分なので、圧縮木材成形品100の底面部をわずかに弾性変形させる程度の押し出し量でも十分な効果をあげることができる。
ただし、図示のように、圧縮木材成形品100全体がキャビティ金型面9aから明瞭に持ち上がる程度の高さ、例えば数ミリから数センチまで押し出してもよい。そうすれば、圧縮木材成形品100を矢印のように外側に搬出するために把持しやすくなり好都合である。
【0036】
次に、押し出しピン11と上金型本体5の移動の具体的なタイミングを、図5を参照して説明する。
図5において、折れ線Qは、押し出しピン11のピン先面11aの移動位置を適宜の基準位置から測った高さにより示したものである。また、折れ線Pは、ピン先面11aに対向する位置のコア金型面5aの移動位置を同様の基準位置から測った高さにより示したものである。
ここで、時間軸の原点Oは、動作開始時を示し、時刻Tは圧縮開始時、時刻Tは図4(c)の状態となった圧縮完了時、時刻Tは固定過程の終了、すなわち圧縮工程が終了し、脱型工程が開始される時刻を示す。
なお、図5は、模式図のため、単調な移動変化を直線で表しているが、グラフ上の単調曲線で表されるような移動を行ってもよい。
【0037】
時刻OからTまでの変化は、上記の圧縮工程の説明をグラフ化したものである。
すなわち、コア金型面5aは、高さzからz(ただし、z>z)に下降し、時間(T−T)の間、高さzに保持される。
一方、ピン先面11aは、時刻Oから時刻Tまで、一定高さz(ただし、t=z−z)に保持されている。
【0038】
脱型工程は、時刻Tから開始される。
まず、コア金型面5aを直線Pに沿って引上げ、時刻Tで圧縮開始前の位置zに到達すると、その位置を保持する。
一方、ピン先面11aは、時刻Tと同じか、わずかに遅延した時刻T(T≧T)から、直線Qに沿って突き出し、時刻T(ただし、T≦T)において高さzまで到達すると突き出しを停止する。
このように、押し出しピン11を上金型本体5の上昇と同時か、またはわずかに遅延して突き出すことにより、ピン先面11aとコア金型面5aとの間の隙間を厚さt以上に保持することができる。そのため、圧縮木材成形品100の外側底面100Aに押し出しピン11による圧縮負荷をかけることなく、圧縮木材成形品100をキャビティ金型面9aから離型させることができる。
【0039】
ここで、時刻Tは、ピン先面11aとコア金型面5aとの間の距離が、厚さtより確実に大きくなるように、時刻Tに対して遅延させることが好ましい。そうすれば、押し出しピン11の押し出し速度を正確に制御できない場合などにも、押し出しピン11による圧縮負荷が圧縮木材成形品100にかかることを防止することができる。そのため、外側底面100Aに押し出しピン11のピン跡などがつくことなく、良好な外観のまま脱型することができる。
【0040】
また、押し出しピン11の移動量を正確に制御できる場合には、移動開始時刻を同時としても、押し出しピン11と上金型本体5の移動速度に差をつけることにより、確実に隙間をtより大きくすることができる。図6は、そのような移動速度差を設けた場合の例について説明するための模式的なグラフである。横軸は時間を示し、縦軸は、適宜の基準位置からの鉛直方向の高さを示す。
【0041】
図6において、折れ線Qは、押し出しピン11のピン先面11aの移動位置を適宜の基準位置から測った高さにより示したものである。また、折れ線Pは、図5と同じ折れ線を表す。
この場合、押し出しピン11と、上金型本体5とは、時刻Tで同時に移動させるが、押し出しピン11の移動速度を上金型本体5の移動速度よりも低速とする。すなわち、図6において、押し出しピン11の移動速度を表す直線qの傾きが、直線Pの傾きよりも小さくなるように、点qに到達する時刻Tを設定する。
このようにすれば、ピン先面11aとコア金型面5aとの隙間は、時刻Tでtとなり、時間が経つにつれてtよりも増大していく。
【0042】
以上に説明したように、本実施形態の圧縮木材成形用金型1およびそれを用いた圧縮木材成形品の製造方法によれば、凹形状を有する金型面に押し出しピンを設けることにより、凹形状を有する金型に密着し易い3次元形状の圧縮木材成形品を容易に離型して脱型工程を円滑に行うことができるので、製造効率を向上することができるという利点がある。
【0043】
なお、上記の説明では、圧縮木材成形品100の外側底面100Aが良好な外観が求められる面として説明したが、外側底面100Aが裏面であり、特に良好な外観特性が求められない場合には、圧縮木材成形品100に割れなどが発生しない程度であれば、押し出しピン11によりピン跡がつく程度に突き出してもよい。つまり、脱型工程において、ピン先面11aとコア金型面5aとの隙間がtより小さくなるような突き出しを行ってもよい。
【0044】
また、上記の説明では、2つの金型面が、凹形状からなる雌型金型面と、凸形状からなる雄型金型面とからなる場合について説明したが、それぞれの金型面に凹凸形状が混在し、凹形状と凸形状とが対向する部分が複数設けられている場合に適用するように変形して実施してもよい。
図7は、本発明の実施形態に係る圧縮木材成形用金型の変形例について説明するための模式的な断面図である。
【0045】
本変形例の圧縮木材成形用金型50は、断面が略S字状の凹凸を備える圧縮木材成形品を成形するためのもので、上金型部50Aと下金型部50Bとからなる。
上金型部50Aは、凹形状の凹金型面部50b(凹形状の金型面)と、凸形状の凸金型面部50d(凸形状の金型面)を備え、凹金型面部50bに進退可能な押し出しピン51A(押し出し部材)を備える。押し出しピン51Aの先端面は、凹金型面部50bに整列するピン先面51aが形成されている。
また、下金型部50Bは、上金型部50Aの凹金型面部50bと凸金型面部50dとに対向してそれぞれ対をなす、凸形状の凸金型面部50a(凸形状の金型面)と凹形状の凹金型面部50c(凹形状の金型面)とを備え、凹金型面部50cに進退可能な押し出しピン51B(押し出し部材)を備える。押し出しピン51Bの先端面は、凹金型面部50cに整列するピン先面51bが形成されている。
そして、圧縮木材成形用金型50によれば、これら凹金型面部50b、ピン先面51a、凸金型面部50d、凹金型面部50c、ピン先面51b、凸金型面部50aにより囲まれた成形空間Rを形成することができる。
【0046】
このような圧縮木材成形用金型50によれば、圧縮された木材が密着して離型しにくい凹金型面部50b、50cにそれぞれ押し出しピン51A、51Bを備えるので、脱型工程において、圧縮木材成形品を容易に離型することができ、製造効率を向上することができる。
【0047】
また、上記の説明では、押し出し部材が凹形状の金型面に対して1つずつ設けられている例で説明したが、押し出し部材は、離型のための荷重バランスを考慮して、複数設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係る圧縮木材成形用金型の構成について説明するための鉛直方向の断面説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る圧縮木材成形用金型を用いて製造される圧縮木材成形品の一例について説明するための斜視説明図、およびその裏面側から見た斜視説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る圧縮木材成形品の製造方法における各工程について説明するための工程説明図である。
【図4】同じく図3に続く各工程について説明するための工程説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る圧縮木材成形品の製造方法における凸形状の金型面と押し出し部材の移動の様子を模式的に示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態に係る圧縮木材成形品の製造方法における凸形状の金型面と押し出し部材の間に移動速度差を設けた場合の例について説明するための模式的なグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係る圧縮木材成形用金型の変形例について説明するための模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1、50 圧縮木材成形用金型
2、50A 上金型部
3、50B 下金型部
5 上金型本体
5a コア金型面(雄型金型面)
5b 端部金型面
5c 側面スライド部
6 保持プレート
6a スライドガイド孔
6b 傾斜面
6c プレート下面
6d スライドロッドガイド孔
6e 位置決め穴
7 スライドロッド
8 ガイドピン
9 下金型本体
9a キャビティ金型面(雌型金型面)
9b 金型本体上面
10 下金型保持プレート
10a プレート上面
11、51A、51B 押し出しピン(押し出し部材)
11a、51a、51b ピン先面
13 ブランク部材(木材)
50a、50d 凸金型面部(凸形状の金型面)
50b、50c 凹金型面部(凹形状の金型面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの金型面を対向方向に移動して木材を圧縮することにより、3次元形状を有する圧縮木材成形品を形成する圧縮木材成形用金型であって、
前記2つの金型面が、対向位置において略対応する凹形状と凸形状とを少なくとも一対有し、
前記2つの金型面の少なくともいずれかのうち、前記凹形状が形成された領域に、前記圧縮された木材を離型せしめる押し出し部材が設けられたことを特徴とする圧縮木材成形用金型。
【請求項2】
前記2つの金型面が、凹形状からなる雌型金型面と、凸形状からなる雄型金型面とからなることを特徴とする請求項1に記載の圧縮木材成形用金型。
【請求項3】
少なくとも2つの金型面が対向位置で略対応する凹形状と凸形状とを少なくとも一対有し、前記2つの金型面の少なくともいずれかのうち、前記凹形状が形成された領域に前記対向方向に向けて突き出し可能な押し出し部材を設けた圧縮木材成形用金型を用いた圧縮木材成形品の製造方法であって、
前記2つの金型面の間に配置した木材を、前記2つの金型面を対向方向に移動して前記3次元形状に圧縮する圧縮工程と、
該圧縮工程で圧縮された木材を、前記2つの金型面を対向方向に離間させつつ、前記押し出し部材を前記対向方向に向けて突き出して離型せしめて取り出す脱型工程とを備えることを特徴とする圧縮木材成形品の製造方法。
【請求項4】
前記脱型工程で、前記2つの金型面の離間を開始してからわずかに遅延して押し出し部材を突き出すことを特徴とする請求項3に記載の圧縮木材成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−326922(P2006−326922A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151199(P2005−151199)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】