圧縮木製品の製造方法
【課題】曲面を含む3次元形状をなし、寸法安定性に優れるとともに意匠性にも優れた圧縮木製品を得る。
【解決手段】略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化させる軟化工程と、前記軟化工程で軟化した前記ブランク材に圧縮力を加えることによって前記軟化工程前とは異なる略椀状に変形する圧縮工程と、前記圧縮工程で変形した前記ブランク材の形状を固定化する固定化工程と、前記固定化工程で形状を固定化した前記ブランク材を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させた前記ブランク材を大気中で加熱しながら該ブランク材の形状と略相似する形状に整形する加熱整形工程と、を有し、前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材が、略椀状における内側面の形状が外側面の形状より前記加熱整形工程後に到達すべき最終形状に近く、かつ前記外側面の表面積が前記最終形状における外側面の表面積より大きくなるようにする。
【解決手段】略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化させる軟化工程と、前記軟化工程で軟化した前記ブランク材に圧縮力を加えることによって前記軟化工程前とは異なる略椀状に変形する圧縮工程と、前記圧縮工程で変形した前記ブランク材の形状を固定化する固定化工程と、前記固定化工程で形状を固定化した前記ブランク材を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させた前記ブランク材を大気中で加熱しながら該ブランク材の形状と略相似する形状に整形する加熱整形工程と、を有し、前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材が、略椀状における内側面の形状が外側面の形状より前記加熱整形工程後に到達すべき最終形状に近く、かつ前記外側面の表面積が前記最終形状における外側面の表面積より大きくなるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を所定の三次元形状に圧縮成形する圧縮木製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことの出来る素材として木材が注目されており、その成形技術も飛躍的に進歩しつつある。
【0003】
従来より、木材の圧縮成形技術として、軟化処理した状態で圧縮した1枚の木材を仮固定し、この木材を型に入れて回復させることによって三次元形状を有する木材を成形する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この技術では、まず木材を軟化させた状態で木材を圧縮して仮固定を行う。その後、仮固定した木材をスライスした板材を金型にセットし、高圧水蒸気内で再度板材を軟化させ、曲げ処理を行なう。続いて、曲げ処理を行なった湾曲状の部材を再度金型にセットして再び軟化させ、プレス機によってプレスすることにより、最終形状を得る。
【0004】
また、別な木材の圧縮成形技術として、抗膨潤能(ASE)を向上させることによって寸法安定性が向上した木材を製造するために、木材に蒸気加熱加圧処理を施した後、二次工程としてその木材に加熱加圧処理を行う技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。この技術では、実施例として、平板状の木材に対して加熱加圧処理を行うことにより、その木材の寸法安定性が向上することの記載がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−77619号公報
【特許文献2】特許第2855139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、木材の軟化工程を複数回繰り返して行わなければなかった。このため、木材内部に含まれる抽出物が木材の外部に出てしまい、それらの抽出物が木材の表面に染み出すことによって生じる色、艶が得られず、木材特有の風合いを醸し出すことができなかった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の技術は、実施例として平板状の木材の場合のみを取り扱っているため、例えば曲面を含む複雑な3次元形状を有する木材の場合のように、その形状の違いから異なる製法が必要とされる状況下において、いかにして木材の寸法安定性を向上させることができるかが不明であった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、曲面を含む3次元形状をなし、寸法安定性に優れるとともに意匠性にも優れた圧縮木製品を得ることができる圧縮木製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、木材を圧縮することによって曲面を含む3次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化させる軟化工程と、前記軟化工程で軟化した前記ブランク材に圧縮力を加えることによって前記軟化工程前とは異なる略椀状に変形する圧縮工程と、前記圧縮工程で圧縮力を加えることによって変形した前記ブランク材の形状を固定化する固定化工程と、前記固定化工程で形状を固定化した前記ブランク材を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させた前記ブランク材を大気中で加熱しながら該ブランク材の形状と略相似する形状に整形する加熱整形工程と、を有し、前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材は、略椀状における内側面の形状が外側面の形状より前記加熱整形工程後に到達すべき最終形状に近く、かつ前記外側面の表面積が前記最終形状における外側面の表面積より大きいことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材の容積は、前記最終形状の容積より大きいことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記固定化工程は、大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で前記ブランク材の固定化を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記圧縮工程は、大気よりも高温高圧であり、かつ前記固定化工程を行う水蒸気雰囲気よりも低温低圧の水蒸気雰囲気中で前記ブランク材に圧縮力を加えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記圧縮工程および前記固定化工程は、一対の凸金型および凹金型によって前記ブランク材を挟持し、前記凸金型の凸部の表面は、前記最終形状の内側面と等しい形状をなし、前記凹金型の凹部の表面積は、前記最終形状の外側面の表面積より大きいことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記加熱整形工程は、前記凸金型と同じ形状の凸部が形成された加熱整形用凸金型と、前記最終形状の外側面と等しい形状の表面を有する凹部が形成された加熱整形用凹金型とによって前記ブランク材を挟持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、木材を固定化する前の軟化は一回であるため、抽出物の流出を極力押さえられる。また、大気中で木材を加熱整形する際には、略椀状をなすブランク材の外側のみが圧縮によって変形するため、加熱整形時の引っ張り力を極力抑えることができ、割れを防ぎつつ寸法安定化を図ることができる。したがって、曲面を含む3次元形状をなし、寸法安定性に優れるとともに意匠性にも優れた圧縮木製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の形取工程の概要を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の圧縮工程の概要を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図3のA−A線断面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の圧縮工程において、ブランク材の変形がほぼ完了した状態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の乾燥工程終了後のブランク材の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の加熱整形工程の概要を模式的に示す図である。
【図8】図8は、加熱整形用凹金型と凹金型との関係を示す図である。
【図9】図9は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の加熱整形工程において、一対の加熱整形用凹金型と加熱整形用凸金型とを型締めした状態を模式的に示す図である。
【図10】図10は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の加熱整形工程後のブランク材の構成を示す斜視図である。
【図11】図11は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品の適用例であるデジタルカメラの外装体の構成を示す斜視図である。
【図12】図12は、図11に示す外装体によって外装されるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものであって、同じ物体を異なる図面で示す場合には、寸法や縮尺等が異なる場合もある。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の処理の概要を示すフローチャートである。まず、原木から略椀状をなすブランク材を形取る(ステップS1)。図2は、形取工程の概要を模式的に示す図である。形取工程では、無圧縮状態にある無垢材などの原木1から、略椀状をなすブランク材2を切削等によって形取る。
【0019】
ブランク材2は、略長方形の表面を有する平板状の主板部2aと、主板部2aの表面で対向する二つの長辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2bと、主板部2aの表面で対向する二つの短辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2cと、を備える。ブランク材2は、後述する圧縮工程によって減少する分の容積を予め加えた容積を有する。なお、図2では、主板部2aの木目Gがブランク材2の繊維方向と略平行な板目材を形取った場合を示しているが、形取工程で形取るブランク材は柾目材や木口材でもよい。また、ブランク材2の形状はあくまでも一例に過ぎない。すなわち、ここでいう略椀状には、椀状のほか皿状や函形状などの形状も含まれるものとする。
【0020】
次に、形取ったブランク材2を、高温高圧の水蒸気雰囲気中で所定時間放置して、ブランク材2を軟化させる(ステップS2)。この水蒸気雰囲気は、圧力が0.1〜0.8MPa程度であり、温度が100〜170℃程度である。このような水蒸気雰囲気は、圧力容器を用いることによって実現される。圧力容器を用いる場合には、上記水蒸気雰囲気を有する圧力容器の中にブランク材2を放置することによって軟化させればよい。なお、高温高圧の水蒸気雰囲気中でブランク材2を軟化させる代わりに、マイクロ波によってブランク材2を加熱して軟化させてもよい。またブランク材2を煮沸して軟化させてもよい。
【0021】
この後、軟化させたブランク材2を圧縮する(ステップS3)。この工程では、軟化工程と同じ水蒸気雰囲気中で一対の金型を用いてブランク材2を挟持して圧縮力を加えることにより、ブランク材2を軟化工程前とは異なる略椀状に変形させる。圧力容器の中でブランク材2を軟化させた場合には、引き続きその圧力容器の中でブランク材2を圧縮すればよい。
【0022】
図3は、圧縮工程の概要を示すとともに、圧縮工程で使用する金型の要部の構成を示す図である。図4は、図3のA−A線断面図である。図3および図4に示すように、ブランク材2は、一対の凹金型101、凸金型102によって挟持され、所定の圧縮力が加えられる。
【0023】
圧縮工程の際にブランク材2の上方から圧縮力を加える凹金型101は、ブランク材2の突出している外側面に当接する平滑面を有する凹部111を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって凹金型101と対向する側の表面の曲率半径をROとし、この表面に当接する凹部111の表面の曲率半径をRAとすると、二つの曲率半径RO、RAは、RO>RAという関係を満たす。
【0024】
一方、圧縮工程の際にブランク材2の下方から圧縮力を加える凸金型102は、ブランク材2の窪んでいる内側面に当接する平滑面を有する凸部121を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって凸金型102と対向する側の表面の曲率半径をRIとし、この表面に当接する凸部121の表面の曲率半径をRBとすると、二つの曲率半径RI、RBは、RI>RBという関係を満たす。
【0025】
図5は、圧縮工程において、凹金型101および凸金型102によってブランク材2が挟持されて所定の圧力が加えられた状態を示す図であり、ブランク材2の変形がほぼ完了した状態を示す図である。図5に示す状態で、ブランク材2は、凹金型101および凸金型102から圧縮力を受けることにより、軟化工程前とは異なる略椀状に変形する。ここでいう略椀状は、凹金型101と凸金型102が最接近した状態で凹部111および凸部121が形成する隙間に相当する形状である。ここで、凸金型102の凸部121の表面は、本実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法によって形成されるべき圧縮木製品の形状、すなわち後述する加熱整形工程(ステップS6)の後で到達すべき形状(以下、「最終形状」という)と同じ形状をなしている。したがって、圧縮工程後のブランク材2において、凸部121と対向して凹状をなす内側面の形状は、最終形状と略等しくなる。これに対して、凹金型101の凹部111の表面積は、最終形状における略椀状の外側面の表面積よりも大きい。
【0026】
圧縮工程が終了した後、凹金型101および凸金型102によってブランク材2を挟持し、所定の三次元形状に保持したままの状態で、上述した水蒸気雰囲気よりもさらに高温高圧の水蒸気雰囲気を凹金型101および凸金型102の周囲に形成することにより、ブランク材2の形状を固定化する(ステップS4)。このときの水蒸気雰囲気は、圧力が0.6〜3.4MPa程度であるとともに、温度が160〜240℃程度であり、圧縮工程における水蒸気雰囲気よりも高温高圧となるように定められる。この固定化処理を圧力容器中で行う場合には、軟化工程における容器内圧力を上述した範囲に含まれる値とすればよい。
【0027】
続いて、凹金型101、凸金型102、およびブランク材2を大気中へ放出し、ブランク材2を乾燥させる(ステップS5)。この際には、凹金型101と凸金型102を離間することによってブランク材2の乾燥を促進するようにしてもよい。
【0028】
図6は、乾燥工程が終了したブランク材(以下、「ブランク材3」という)の構成を示す斜視図である。ブランク材3の略椀状における内側面の形状は、その外側面の形状よりも最終形状に近い。乾燥工程後のブランク材3の主板部3aの肉厚は、圧縮工程前のブランク材2の主板部2aの厚さの20〜50%程度であるのが好ましい。ここで、ブランク材3は、厚さに若干のバラツキを有している可能性がある。そのため、本実施の形態においては、ブランク材3の肉厚の最小値が、最終形状の肉厚以上となるように設定されることが望ましい。
【0029】
乾燥工程の後、大気中でブランク材3を加熱しながらブランク材3と略相似する形状に整形する(ステップS6)。図7は、この加熱整形工程の概要を模式的に示す図である。加熱整形工程では、一対の加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202を用いてブランク材3を挟持することにより、ブランク材3を整形する。
【0030】
図7でブランク材3の上方に位置する加熱整形用凹金型201は、ブランク材3の突出している側の表面に当接する平滑面を有する凹部211を備える。図8に示すように、凹部211の表面積は、図4等に示す凹金型101の凹部111の表面積よりも小さく、整形代αがほぼ均一に設けられている。なお、ブランク材3の主板部3aと当接する部分の整形代を側板部3b、3cと当接する部分の整形代より多く取るようにしてもよい。このように、整形代の取り方は、ブランク材3の形状や最終形状に応じて適宜変更することが可能である。
【0031】
一方、図7でブランク材3の下方に位置する加熱整形用凸金型202は、ブランク材3の窪んでいる側の表面に当接する平滑面を有する凸部221を備える。凸部221の形状は、図4等に示す凸金型102の凸部121の形状と同じである。
【0032】
図9に示すように、加熱整形用凹金型201と加熱整形用凸金型202を型締めしたときに凹部211と凸部221によって形成される隙間の形状は最終形状に対応している。この最終形状の容積は、加熱整形工程によって減少する分だけブランク材3の容積よりも小さい。この加熱整形工程後のブランク材3の形状は、最終形状と一致することが望ましいが、個々のブランク材3には個体差があるため、最終形状とは若干の誤差が生じる場合もある。
【0033】
加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202の内部には、熱を発生するヒータ203、204がそれぞれ設けられている。ヒータ203、204は、温度制御機能を有する制御装置205にそれぞれ接続されており、制御装置205のもとで発熱し、加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202にそれぞれ熱を加える。制御装置205は、ブランク材3を挟持している時の金型温度を、木質部の非結晶領域が結晶化する温度以上であって木質部の熱分解温度以下となるように制御する。
【0034】
このようして、制御装置205が金型温度を制御することにより、加熱整形工程の最中に木質部の結晶化が進むと同時に木質部の密度が一段と高くなるため、木質部の表面硬度が増加する。その結果、吸湿がなく形状安定性に優れた圧縮木製品を得ることができる。
【0035】
また、凹部211と対向するブランク材3の外側表面に整形代が設けられているため、加熱整形時にブランク材3の外側表面に働く引っ張り力を極力抑えることができる。したがって、加熱整形時におけるブランク材3の表面の割れ等を防止することができる。
【0036】
また、ブランク材3の表面を大気中で加熱整形することにより、木質部の細胞壁の内部に含まれている物質が表面に抽出され、その表面に色、艶が生じる。その結果、木材ならではの独特の風合いを醸し出すことができる。
【0037】
図10は、ブランク材3を加熱整形することによって得られる圧縮木製品の構成を示す斜視図である。同図に示す圧縮木製品4は、ブランク材3の主板部3aおよび側板部3b、3cにそれぞれ対応する主板部4aおよび側板部4b、4cを有する。図10に示す破線部は、ブランク材3の外縁を示している。すなわち、圧縮木製品4の外側面の表面積がブランク材3の外側面の表面積よりも小さい形状をなす。これに対し、圧縮木製品4の内側面は、ブランク材3の内側面とほぼ同じ形状をなす。
【0038】
図11は、以上説明した圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品の適用例であるデジタルカメラの外装体の構成を示す斜視図である。同図に示す外装体5は、デジタルカメラの前面側(被写体と対向する側)を外装するものであり、木材4の主板部4aおよび側板部4b、4cにそれぞれ対応する主板部5aおよび側板部5b、5cを備える。主板部5aは、デジタルカメラの撮像部を表出する円筒形状の開口部51と、デジタルカメラのフラッシュを表出する直方体形状の開口部52とを有する。側板部5bは、シャッターボタンを表出する半円筒形状の切り欠き53を有する。
【0039】
図12は、外装体5によって前面側が外装されるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。同図に示すデジタルカメラ301は、撮像部302と、フラッシュ303と、シャッターボタン304とを有する。撮像部302およびフラッシュ303が表出するデジタルカメラ301の前面側は、外装体5によって外装される。一方、デジタルカメラ301の背面側は、圧縮木製品4を用いて外装体5と同様に形成される外装体6によって外装される。このように、本実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品を、デジタルカメラの外装体として適用する場合には、肉厚が1.0〜1.6mm程度となるようにすればより好ましい。
【0040】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、木材を固定化する前の軟化は一回であるため、抽出物の流出を極力押さえられる。また、大気中で木材を加熱整形する際には、略椀状をなすブランク材の外側のみが圧縮によって変形するため、加熱整形時の引っ張り力を極力抑えることができ、割れを防ぎつつ寸法安定化を図ることができる。したがって、曲面を含む3次元形状をなし、寸法安定性に優れるとともに意匠性にも優れた圧縮木製品を得ることができる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、木材の軟化工程が1回で済むため、製造時間を短縮して製造に要するコストを低減することができる。
【0042】
なお、本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、デジタルカメラ以外の電子機器用外装体としても適用可能である。また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、例えば食器、各種筐体、建材などにも適用可能である。
【0043】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 原木
2、3 ブランク材
2a、3a、4a、5a 主板部
2b、2c、3b、3c、4b、4c、5b、5c 側板部
4 圧縮木製品
5、6 外装体
101 凹金型
102 凸金型
111、211 凹部
121、221 凸部
201 加熱整形用凹金型
202 加熱整形用凸金型
203,204 ヒータ
205 制御装置
301 デジタルカメラ
302 撮像部
303 フラッシュ
304 シャッターボタン
G 木目
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を所定の三次元形状に圧縮成形する圧縮木製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことの出来る素材として木材が注目されており、その成形技術も飛躍的に進歩しつつある。
【0003】
従来より、木材の圧縮成形技術として、軟化処理した状態で圧縮した1枚の木材を仮固定し、この木材を型に入れて回復させることによって三次元形状を有する木材を成形する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この技術では、まず木材を軟化させた状態で木材を圧縮して仮固定を行う。その後、仮固定した木材をスライスした板材を金型にセットし、高圧水蒸気内で再度板材を軟化させ、曲げ処理を行なう。続いて、曲げ処理を行なった湾曲状の部材を再度金型にセットして再び軟化させ、プレス機によってプレスすることにより、最終形状を得る。
【0004】
また、別な木材の圧縮成形技術として、抗膨潤能(ASE)を向上させることによって寸法安定性が向上した木材を製造するために、木材に蒸気加熱加圧処理を施した後、二次工程としてその木材に加熱加圧処理を行う技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。この技術では、実施例として、平板状の木材に対して加熱加圧処理を行うことにより、その木材の寸法安定性が向上することの記載がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−77619号公報
【特許文献2】特許第2855139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、木材の軟化工程を複数回繰り返して行わなければなかった。このため、木材内部に含まれる抽出物が木材の外部に出てしまい、それらの抽出物が木材の表面に染み出すことによって生じる色、艶が得られず、木材特有の風合いを醸し出すことができなかった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の技術は、実施例として平板状の木材の場合のみを取り扱っているため、例えば曲面を含む複雑な3次元形状を有する木材の場合のように、その形状の違いから異なる製法が必要とされる状況下において、いかにして木材の寸法安定性を向上させることができるかが不明であった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、曲面を含む3次元形状をなし、寸法安定性に優れるとともに意匠性にも優れた圧縮木製品を得ることができる圧縮木製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、木材を圧縮することによって曲面を含む3次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化させる軟化工程と、前記軟化工程で軟化した前記ブランク材に圧縮力を加えることによって前記軟化工程前とは異なる略椀状に変形する圧縮工程と、前記圧縮工程で圧縮力を加えることによって変形した前記ブランク材の形状を固定化する固定化工程と、前記固定化工程で形状を固定化した前記ブランク材を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で乾燥させた前記ブランク材を大気中で加熱しながら該ブランク材の形状と略相似する形状に整形する加熱整形工程と、を有し、前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材は、略椀状における内側面の形状が外側面の形状より前記加熱整形工程後に到達すべき最終形状に近く、かつ前記外側面の表面積が前記最終形状における外側面の表面積より大きいことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材の容積は、前記最終形状の容積より大きいことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記固定化工程は、大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で前記ブランク材の固定化を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記圧縮工程は、大気よりも高温高圧であり、かつ前記固定化工程を行う水蒸気雰囲気よりも低温低圧の水蒸気雰囲気中で前記ブランク材に圧縮力を加えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記圧縮工程および前記固定化工程は、一対の凸金型および凹金型によって前記ブランク材を挟持し、前記凸金型の凸部の表面は、前記最終形状の内側面と等しい形状をなし、前記凹金型の凹部の表面積は、前記最終形状の外側面の表面積より大きいことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法は、上記発明において、前記加熱整形工程は、前記凸金型と同じ形状の凸部が形成された加熱整形用凸金型と、前記最終形状の外側面と等しい形状の表面を有する凹部が形成された加熱整形用凹金型とによって前記ブランク材を挟持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、木材を固定化する前の軟化は一回であるため、抽出物の流出を極力押さえられる。また、大気中で木材を加熱整形する際には、略椀状をなすブランク材の外側のみが圧縮によって変形するため、加熱整形時の引っ張り力を極力抑えることができ、割れを防ぎつつ寸法安定化を図ることができる。したがって、曲面を含む3次元形状をなし、寸法安定性に優れるとともに意匠性にも優れた圧縮木製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の形取工程の概要を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の圧縮工程の概要を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図3のA−A線断面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の圧縮工程において、ブランク材の変形がほぼ完了した状態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の乾燥工程終了後のブランク材の構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の加熱整形工程の概要を模式的に示す図である。
【図8】図8は、加熱整形用凹金型と凹金型との関係を示す図である。
【図9】図9は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の加熱整形工程において、一対の加熱整形用凹金型と加熱整形用凸金型とを型締めした状態を模式的に示す図である。
【図10】図10は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の加熱整形工程後のブランク材の構成を示す斜視図である。
【図11】図11は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品の適用例であるデジタルカメラの外装体の構成を示す斜視図である。
【図12】図12は、図11に示す外装体によって外装されるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものであって、同じ物体を異なる図面で示す場合には、寸法や縮尺等が異なる場合もある。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法の処理の概要を示すフローチャートである。まず、原木から略椀状をなすブランク材を形取る(ステップS1)。図2は、形取工程の概要を模式的に示す図である。形取工程では、無圧縮状態にある無垢材などの原木1から、略椀状をなすブランク材2を切削等によって形取る。
【0019】
ブランク材2は、略長方形の表面を有する平板状の主板部2aと、主板部2aの表面で対向する二つの長辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2bと、主板部2aの表面で対向する二つの短辺部の各々から主板部2aに対して湾曲して延在する二つの側板部2cと、を備える。ブランク材2は、後述する圧縮工程によって減少する分の容積を予め加えた容積を有する。なお、図2では、主板部2aの木目Gがブランク材2の繊維方向と略平行な板目材を形取った場合を示しているが、形取工程で形取るブランク材は柾目材や木口材でもよい。また、ブランク材2の形状はあくまでも一例に過ぎない。すなわち、ここでいう略椀状には、椀状のほか皿状や函形状などの形状も含まれるものとする。
【0020】
次に、形取ったブランク材2を、高温高圧の水蒸気雰囲気中で所定時間放置して、ブランク材2を軟化させる(ステップS2)。この水蒸気雰囲気は、圧力が0.1〜0.8MPa程度であり、温度が100〜170℃程度である。このような水蒸気雰囲気は、圧力容器を用いることによって実現される。圧力容器を用いる場合には、上記水蒸気雰囲気を有する圧力容器の中にブランク材2を放置することによって軟化させればよい。なお、高温高圧の水蒸気雰囲気中でブランク材2を軟化させる代わりに、マイクロ波によってブランク材2を加熱して軟化させてもよい。またブランク材2を煮沸して軟化させてもよい。
【0021】
この後、軟化させたブランク材2を圧縮する(ステップS3)。この工程では、軟化工程と同じ水蒸気雰囲気中で一対の金型を用いてブランク材2を挟持して圧縮力を加えることにより、ブランク材2を軟化工程前とは異なる略椀状に変形させる。圧力容器の中でブランク材2を軟化させた場合には、引き続きその圧力容器の中でブランク材2を圧縮すればよい。
【0022】
図3は、圧縮工程の概要を示すとともに、圧縮工程で使用する金型の要部の構成を示す図である。図4は、図3のA−A線断面図である。図3および図4に示すように、ブランク材2は、一対の凹金型101、凸金型102によって挟持され、所定の圧縮力が加えられる。
【0023】
圧縮工程の際にブランク材2の上方から圧縮力を加える凹金型101は、ブランク材2の突出している外側面に当接する平滑面を有する凹部111を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって凹金型101と対向する側の表面の曲率半径をROとし、この表面に当接する凹部111の表面の曲率半径をRAとすると、二つの曲率半径RO、RAは、RO>RAという関係を満たす。
【0024】
一方、圧縮工程の際にブランク材2の下方から圧縮力を加える凸金型102は、ブランク材2の窪んでいる内側面に当接する平滑面を有する凸部121を備える。主板部2aから側板部2bにかけて湾曲する部分の表面であって凸金型102と対向する側の表面の曲率半径をRIとし、この表面に当接する凸部121の表面の曲率半径をRBとすると、二つの曲率半径RI、RBは、RI>RBという関係を満たす。
【0025】
図5は、圧縮工程において、凹金型101および凸金型102によってブランク材2が挟持されて所定の圧力が加えられた状態を示す図であり、ブランク材2の変形がほぼ完了した状態を示す図である。図5に示す状態で、ブランク材2は、凹金型101および凸金型102から圧縮力を受けることにより、軟化工程前とは異なる略椀状に変形する。ここでいう略椀状は、凹金型101と凸金型102が最接近した状態で凹部111および凸部121が形成する隙間に相当する形状である。ここで、凸金型102の凸部121の表面は、本実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法によって形成されるべき圧縮木製品の形状、すなわち後述する加熱整形工程(ステップS6)の後で到達すべき形状(以下、「最終形状」という)と同じ形状をなしている。したがって、圧縮工程後のブランク材2において、凸部121と対向して凹状をなす内側面の形状は、最終形状と略等しくなる。これに対して、凹金型101の凹部111の表面積は、最終形状における略椀状の外側面の表面積よりも大きい。
【0026】
圧縮工程が終了した後、凹金型101および凸金型102によってブランク材2を挟持し、所定の三次元形状に保持したままの状態で、上述した水蒸気雰囲気よりもさらに高温高圧の水蒸気雰囲気を凹金型101および凸金型102の周囲に形成することにより、ブランク材2の形状を固定化する(ステップS4)。このときの水蒸気雰囲気は、圧力が0.6〜3.4MPa程度であるとともに、温度が160〜240℃程度であり、圧縮工程における水蒸気雰囲気よりも高温高圧となるように定められる。この固定化処理を圧力容器中で行う場合には、軟化工程における容器内圧力を上述した範囲に含まれる値とすればよい。
【0027】
続いて、凹金型101、凸金型102、およびブランク材2を大気中へ放出し、ブランク材2を乾燥させる(ステップS5)。この際には、凹金型101と凸金型102を離間することによってブランク材2の乾燥を促進するようにしてもよい。
【0028】
図6は、乾燥工程が終了したブランク材(以下、「ブランク材3」という)の構成を示す斜視図である。ブランク材3の略椀状における内側面の形状は、その外側面の形状よりも最終形状に近い。乾燥工程後のブランク材3の主板部3aの肉厚は、圧縮工程前のブランク材2の主板部2aの厚さの20〜50%程度であるのが好ましい。ここで、ブランク材3は、厚さに若干のバラツキを有している可能性がある。そのため、本実施の形態においては、ブランク材3の肉厚の最小値が、最終形状の肉厚以上となるように設定されることが望ましい。
【0029】
乾燥工程の後、大気中でブランク材3を加熱しながらブランク材3と略相似する形状に整形する(ステップS6)。図7は、この加熱整形工程の概要を模式的に示す図である。加熱整形工程では、一対の加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202を用いてブランク材3を挟持することにより、ブランク材3を整形する。
【0030】
図7でブランク材3の上方に位置する加熱整形用凹金型201は、ブランク材3の突出している側の表面に当接する平滑面を有する凹部211を備える。図8に示すように、凹部211の表面積は、図4等に示す凹金型101の凹部111の表面積よりも小さく、整形代αがほぼ均一に設けられている。なお、ブランク材3の主板部3aと当接する部分の整形代を側板部3b、3cと当接する部分の整形代より多く取るようにしてもよい。このように、整形代の取り方は、ブランク材3の形状や最終形状に応じて適宜変更することが可能である。
【0031】
一方、図7でブランク材3の下方に位置する加熱整形用凸金型202は、ブランク材3の窪んでいる側の表面に当接する平滑面を有する凸部221を備える。凸部221の形状は、図4等に示す凸金型102の凸部121の形状と同じである。
【0032】
図9に示すように、加熱整形用凹金型201と加熱整形用凸金型202を型締めしたときに凹部211と凸部221によって形成される隙間の形状は最終形状に対応している。この最終形状の容積は、加熱整形工程によって減少する分だけブランク材3の容積よりも小さい。この加熱整形工程後のブランク材3の形状は、最終形状と一致することが望ましいが、個々のブランク材3には個体差があるため、最終形状とは若干の誤差が生じる場合もある。
【0033】
加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202の内部には、熱を発生するヒータ203、204がそれぞれ設けられている。ヒータ203、204は、温度制御機能を有する制御装置205にそれぞれ接続されており、制御装置205のもとで発熱し、加熱整形用凹金型201および加熱整形用凸金型202にそれぞれ熱を加える。制御装置205は、ブランク材3を挟持している時の金型温度を、木質部の非結晶領域が結晶化する温度以上であって木質部の熱分解温度以下となるように制御する。
【0034】
このようして、制御装置205が金型温度を制御することにより、加熱整形工程の最中に木質部の結晶化が進むと同時に木質部の密度が一段と高くなるため、木質部の表面硬度が増加する。その結果、吸湿がなく形状安定性に優れた圧縮木製品を得ることができる。
【0035】
また、凹部211と対向するブランク材3の外側表面に整形代が設けられているため、加熱整形時にブランク材3の外側表面に働く引っ張り力を極力抑えることができる。したがって、加熱整形時におけるブランク材3の表面の割れ等を防止することができる。
【0036】
また、ブランク材3の表面を大気中で加熱整形することにより、木質部の細胞壁の内部に含まれている物質が表面に抽出され、その表面に色、艶が生じる。その結果、木材ならではの独特の風合いを醸し出すことができる。
【0037】
図10は、ブランク材3を加熱整形することによって得られる圧縮木製品の構成を示す斜視図である。同図に示す圧縮木製品4は、ブランク材3の主板部3aおよび側板部3b、3cにそれぞれ対応する主板部4aおよび側板部4b、4cを有する。図10に示す破線部は、ブランク材3の外縁を示している。すなわち、圧縮木製品4の外側面の表面積がブランク材3の外側面の表面積よりも小さい形状をなす。これに対し、圧縮木製品4の内側面は、ブランク材3の内側面とほぼ同じ形状をなす。
【0038】
図11は、以上説明した圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品の適用例であるデジタルカメラの外装体の構成を示す斜視図である。同図に示す外装体5は、デジタルカメラの前面側(被写体と対向する側)を外装するものであり、木材4の主板部4aおよび側板部4b、4cにそれぞれ対応する主板部5aおよび側板部5b、5cを備える。主板部5aは、デジタルカメラの撮像部を表出する円筒形状の開口部51と、デジタルカメラのフラッシュを表出する直方体形状の開口部52とを有する。側板部5bは、シャッターボタンを表出する半円筒形状の切り欠き53を有する。
【0039】
図12は、外装体5によって前面側が外装されるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。同図に示すデジタルカメラ301は、撮像部302と、フラッシュ303と、シャッターボタン304とを有する。撮像部302およびフラッシュ303が表出するデジタルカメラ301の前面側は、外装体5によって外装される。一方、デジタルカメラ301の背面側は、圧縮木製品4を用いて外装体5と同様に形成される外装体6によって外装される。このように、本実施の形態に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品を、デジタルカメラの外装体として適用する場合には、肉厚が1.0〜1.6mm程度となるようにすればより好ましい。
【0040】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、木材を固定化する前の軟化は一回であるため、抽出物の流出を極力押さえられる。また、大気中で木材を加熱整形する際には、略椀状をなすブランク材の外側のみが圧縮によって変形するため、加熱整形時の引っ張り力を極力抑えることができ、割れを防ぎつつ寸法安定化を図ることができる。したがって、曲面を含む3次元形状をなし、寸法安定性に優れるとともに意匠性にも優れた圧縮木製品を得ることができる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、木材の軟化工程が1回で済むため、製造時間を短縮して製造に要するコストを低減することができる。
【0042】
なお、本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、デジタルカメラ以外の電子機器用外装体としても適用可能である。また、本発明に係る圧縮木製品の製造方法によって製造された圧縮木製品は、例えば食器、各種筐体、建材などにも適用可能である。
【0043】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 原木
2、3 ブランク材
2a、3a、4a、5a 主板部
2b、2c、3b、3c、4b、4c、5b、5c 側板部
4 圧縮木製品
5、6 外装体
101 凹金型
102 凸金型
111、211 凹部
121、221 凸部
201 加熱整形用凹金型
202 加熱整形用凸金型
203,204 ヒータ
205 制御装置
301 デジタルカメラ
302 撮像部
303 フラッシュ
304 シャッターボタン
G 木目
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を圧縮することによって曲面を含む3次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、
略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化させる軟化工程と、
前記軟化工程で軟化した前記ブランク材に圧縮力を加えることによって前記軟化工程前とは異なる略椀状に変形する圧縮工程と、
前記圧縮工程で圧縮力を加えることによって変形した前記ブランク材の形状を固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で形状を固定化した前記ブランク材を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で乾燥させた前記ブランク材を大気中で加熱しながら該ブランク材の形状と略相似する形状に整形する加熱整形工程と、
を有し、
前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材は、
略椀状における内側面の形状が外側面の形状より前記加熱整形工程後に到達すべき最終形状に近く、かつ前記外側面の表面積が前記最終形状における外側面の表面積より大きいことを特徴とする圧縮木製品の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材の容積は、前記最終形状の容積より大きいことを特徴とする請求項1記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項3】
前記固定化工程は、
大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で前記ブランク材の固定化を行うことを特徴とする請求項1または2記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮工程は、
大気よりも高温高圧であり、かつ前記固定化工程を行う水蒸気雰囲気よりも低温低圧の水蒸気雰囲気中で前記ブランク材に圧縮力を加えることを特徴とする請求項3記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮工程および前記固定化工程は、
一対の凸金型および凹金型によって前記ブランク材を挟持し、
前記凸金型の凸部の表面は、前記最終形状の内側面と等しい形状をなし、
前記凹金型の凹部の表面積は、前記最終形状の外側面の表面積より大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項6】
前記加熱整形工程は、
前記凸金型と同じ形状の凸部が形成された加熱整形用凸金型と、前記最終形状の外側面と等しい形状の表面を有する凹部が形成された加熱整形用凹金型とによって前記ブランク材を挟持することを特徴とする請求項5記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項1】
木材を圧縮することによって曲面を含む3次元形状を有する圧縮木製品を製造する圧縮木製品の製造方法であって、
略椀状をなす木材からなるブランク材を軟化させる軟化工程と、
前記軟化工程で軟化した前記ブランク材に圧縮力を加えることによって前記軟化工程前とは異なる略椀状に変形する圧縮工程と、
前記圧縮工程で圧縮力を加えることによって変形した前記ブランク材の形状を固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で形状を固定化した前記ブランク材を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で乾燥させた前記ブランク材を大気中で加熱しながら該ブランク材の形状と略相似する形状に整形する加熱整形工程と、
を有し、
前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材は、
略椀状における内側面の形状が外側面の形状より前記加熱整形工程後に到達すべき最終形状に近く、かつ前記外側面の表面積が前記最終形状における外側面の表面積より大きいことを特徴とする圧縮木製品の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程後であって前記加熱整形工程前の前記ブランク材の容積は、前記最終形状の容積より大きいことを特徴とする請求項1記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項3】
前記固定化工程は、
大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で前記ブランク材の固定化を行うことを特徴とする請求項1または2記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮工程は、
大気よりも高温高圧であり、かつ前記固定化工程を行う水蒸気雰囲気よりも低温低圧の水蒸気雰囲気中で前記ブランク材に圧縮力を加えることを特徴とする請求項3記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮工程および前記固定化工程は、
一対の凸金型および凹金型によって前記ブランク材を挟持し、
前記凸金型の凸部の表面は、前記最終形状の内側面と等しい形状をなし、
前記凹金型の凹部の表面積は、前記最終形状の外側面の表面積より大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の圧縮木製品の製造方法。
【請求項6】
前記加熱整形工程は、
前記凸金型と同じ形状の凸部が形成された加熱整形用凸金型と、前記最終形状の外側面と等しい形状の表面を有する凹部が形成された加熱整形用凹金型とによって前記ブランク材を挟持することを特徴とする請求項5記載の圧縮木製品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−152682(P2011−152682A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14833(P2010−14833)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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