説明

圧縮機

【課題】ピストンの熱膨張を確実に抑制する。
【解決手段】圧縮機は、圧縮室および圧縮室に連通したブレード収容部を有するシリンダと、シリンダの軸方向両端に配置されるフロントヘッドおよびリアヘッドと、圧縮室およびブレード収容部の内側に配置されるピストン40とを備えている。ピストン40は、圧縮室に配置された環状のローラ41と、ローラ41の外周面から延在し且つブレード収容部に対して進退可能に配置されたブレード42とを有する。ピストン40の外周面に、ピストン40の基材43よりも熱伝導率の小さいコーティング層44aが形成された断熱領域と、断熱領域が形成されていない領域とを設ける。断熱領域は、ピストン40の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン40がある際に、高圧室31bを画定する部分に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮するための圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧縮室が形成されたシリンダと、シリンダの圧縮室に配置されるローラを有するピストンとを備えたロータリ圧縮機が開示されている。圧縮室は、ピストンによって冷媒が導入される低圧室と冷媒が圧縮される高圧室とに区画されている。ローラは、モータによって回転駆動されるシャフトの偏心部に装着されており、シャフトの回転に伴って、圧縮室の周壁面に沿って移動する。そして、ローラの移動に伴って、高圧室において冷媒が圧縮される。
【0003】
係るロータリ圧縮機においては、ピストンの軸方向端面とこの端面に対向して配置される端板部材との間には、摺動による焼付き防止などのために、隙間が形成されている。この隙間の大きさは、冷媒や潤滑油の漏れを防止する観点から、できるだけ小さく設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−025103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなロータリ圧縮機においては、高圧室で圧縮され高温となった冷媒によって、シリンダおよびピストンが熱せられる。ピストンの熱膨張量がシリンダの熱膨張量よりも大きくなった場合には、上述のようなピストンの端面と端板部材との間の微小な隙間が無くなり、摺動による焼付きが生じる。
【0006】
そこで、ピストンの外周面側からピストンに熱が与えられるのを防ぐために、ピストンの外周面を全周にわたって断熱することが考えられる。しかしながら、ピストンに対しては、その外周面側からだけでなく、内周面側からも熱が与えられる。すなわち、ピストンのローラと、このローラが装着される偏心部との間に介在する高温の潤滑油によって、ピストンが熱せられる。上述のように、ピストンの外周面を全周にわたって断熱すると、内周面側からの熱をピストンの外周面から放熱することができず、ピストンに熱が籠ってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ピストンの熱膨張を確実に抑制できる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る圧縮機は、圧縮室および前記圧縮室に連通したブレード収容部を有するシリンダと、前記シリンダの軸方向両端にそれぞれ配置される端板部材と、前記圧縮室に配置された環状のローラ、および前記ローラの外周面から延在し且つ前記ブレード収容部に対して進退可能に配置されたブレードを有するピストンとを備えている。前記ピストンは、前記ローラが前記圧縮室の周壁面に沿って移動しつつ前記ブレードと共に前記圧縮室を高圧室と低圧室とに区画するものであって、前記ピストンの外周面は、前記ピストンの基材よりも熱伝導率の小さい断熱材料が設けられた断熱領域と、前記断熱材料が設けられていない非断熱領域とを有しており、前記断熱領域は、前記ピストンの外周面において、少なくとも、前記ローラの外周面と前記圧縮室の内周面との間のすき間が最も小さくなる位置に前記ピストンがある際に、前記高圧室を画定する部分の一部を含む領域に形成されている。
【0009】
この圧縮機では、高圧室で圧縮されて高温となった冷媒により、ピストンの外周面側からピストンに与えられる熱を、比較的熱伝導率の小さい断熱領域により断熱できる。同時に、ピストンの内周面側からピストンに与えられた熱を、断熱領域に比べて熱伝導率の大きい非断熱領域により放熱できる。したがって、ピストンの熱膨張を確実に抑制できる。
【0010】
第2の発明に係る圧縮機は、第1の発明に係る圧縮機において、前記断熱領域は、前記ローラの外周面において、前記ブレードとの境界部を一端とし、その境界部から高圧室側へローラ下死点に向かって延びる領域に設けられている。
【0011】
この圧縮機では、最も長い時間高圧室となる部分に断熱領域を設けることで、高圧室側からピストンに与えられる熱を確実に断熱できる。
【0012】
第3の発明に係る圧縮機は、第1または第2の発明に係る圧縮機において、前記シリンダは、前記圧縮室の周壁面に開口し且つ前記圧縮室に冷媒を導入するための吸入孔をさらに有し、前記非断熱領域は、少なくとも、前記ローラの外周面において、前記圧縮室の軸方向から視て前記圧縮室の軸中心から前記ローラの軸中心側に向かって延在する直線が前記吸入孔における前記ローラの移動方向下流側の端部を通る際に、前記低圧室を画定する部分を含む領域に形成されている
【0013】
この圧縮機では、ローラの外周面における吸入孔の近傍に非断熱領域が形成される。したがって、吸入孔から導入される比較的低温の冷媒により、ピストンに与えられた熱を効率よく放熱できる。
【0014】
第4の発明に係る圧縮機は、第1〜第3のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記非断熱領域の少なくとも一部には、前記ピストンの基材よりも熱伝導率の大きい放熱材料が設けられている。
【0015】
この圧縮機では、放熱材料により、ピストンに与えられた熱を確実に放熱できる。
【0016】
第5の発明に係る圧縮機は、第1〜第4のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記非断熱領域は、前記ローラの外周面において、前記圧縮室の軸方向から視て前記圧縮室の軸中心から前記ローラの軸中心側に向かって延在する直線が前記吸入孔における前記ローラの移動方向下流側の端部を通る際に、前記低圧室を画定する部分に形成された凹部および凸部の少なくともいずれか一方を有している
【0017】
この圧縮機では、凹部や凸部によりローラの外周面の表面積を増加させることで、ピストンに与えられた熱を確実に放熱できる。
【0018】
第6の発明に係る圧縮機は、第1〜第5のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記ピストンの軸方向端面は、前記ピストンの基材よりも熱伝導率の小さい断熱材料が設けられた断熱領域を有している。
【0019】
この圧縮機では、端板部材のシリンダ側とは反対側の熱が、端板部材を介してピストンに伝わるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0021】
第1の発明では、高圧室で圧縮されて高温となった冷媒により、ピストンの外周面側からピストンに与えられる熱を、比較的熱伝導率の小さい断熱領域により断熱できる。同時に、ピストンの内周面側からピストンに与えられた熱を、断熱領域に比べて熱伝導率の大きい非断熱領域により放熱できる。したがって、ピストンの熱膨張を確実に抑制できる。
【0022】
第2の発明では、最も長い時間高圧室となる部分に断熱領域を設けることで、高圧室側からピストンに与えられる熱を確実に断熱できる。
【0023】
第3の発明では、ローラの外周面における吸入孔の近傍に非断熱領域が形成される。したがって、吸入孔から導入される比較的低温の冷媒により、ピストンに与えられた熱を効率よく放熱できる。
【0024】
第4の発明では、放熱材料により、ピストンに与えられた熱を確実に放熱できる。
【0025】
第5の発明では、凹部や凸部によりローラの外周面の表面積を増加させることで、ピストンに与えられた熱を確実に放熱できる。
【0026】
第6の発明では、端板部材のシリンダ側とは反対側の熱が、端板部材を介してピストンに伝わるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧縮機の概略断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図であって、シリンダ内でのピストンの動作を示す図である。
【図3】図1に示した圧縮機のピストンの斜視図である。
【図4】図1の部分拡大図を模式的に示した図である。
【図5】図2に示すようにローラが移動する際のローラの外周面と圧縮室の周壁面との間の径方向隙間の大きさの変化を示すグラフである。
【図6】図3に示したピストンの平面図であり、(a)は上面図、(b)は高圧室側から見た側面図、(c)は低圧室側から見た側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る圧縮機の概略断面図である。
【図8】図7のB−B線に沿った断面図である。
【図9】第1実施形態の第1変形例に係る圧縮機のピストンの斜視図である。
【図10】第1実施形態の第2変形例に係る圧縮機のピストンの斜視図である。
【図11】第1実施形態の第3変形例に係る圧縮機の図2(b)に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
本実施形態は、1シリンダ型のロータリ圧縮機に本発明を適用した一例である。
図1に示すように、本実施形態の圧縮機1は、密閉ケーシング2と、密閉ケーシング2内に配置される圧縮機構10および駆動機構6を備えている。なお、図1は、駆動機構6の断面を示すハッチングを省略して表示している。この圧縮機1は、例えば、空調装置などの冷凍サイクルに組み込まれて使用され、後述する吸入管3から導入された冷媒(本実施形態では、CO2)を圧縮して排出管4から排出する。図1の上下方向を単に上下方向として、圧縮機1について以下説明する。
【0029】
密閉ケーシング2は、両端が塞がれた円筒状の容器であり、その上部には、圧縮された冷媒を排出するための排出管4と、駆動機構6の後述する固定子7bのコイルに電流を供給するためのターミナル端子5が設けられている。なお、図1では、コイルとターミナル端子5とを接続する配線は省略して表示している。また。密閉ケーシング2の側部には、圧縮機1に冷媒を導入するための吸入管3が設けられている。また、密閉ケーシング2内の下部には、圧縮機構10の摺動部の動作を滑らかにするための潤滑油Lが貯留されている。密閉ケーシング2の内部には、駆動機構6と、圧縮機構10とが上下に並んで配置されている。
【0030】
駆動機構6は、圧縮機構10を駆動するために設けられており、駆動源となるモータ7と、このモータ7に取り付けられたシャフト8とから構成されている。
【0031】
モータ7は、密閉ケーシング2の内周面に固定されている略円環状の固定子7bと、この固定子7bの径方向内側にエアギャップを介して配置される回転子7aとを備えている。回転子7aは磁石(図示省略)を有し、固定子7bはコイルを有している。モータ7は、コイルに電流を流すことによって発生する電磁力によって、回転子7aを回転させる。また、固定子7bの外周面は、全周にわたって密閉ケーシング2の内周面に密着しているわけではなく、固定子7bの外周面には、上下方向に延び且つモータ7の上下の空間を連通させる複数の凹部(図示省略)が、周方向に並んで形成されている。
【0032】
シャフト8は、モータ7の駆動力を圧縮機構10に伝達するために設けられており、回転子7aの内周面に固定されて、回転子7aと一体的に回転する。また、シャフト8は、後述する圧縮室31内となる位置に、偏心部8aを有している。偏心部8aは、円柱状に形成されており、その軸心がシャフト8の回転中心から偏心している。この偏心部8aには、圧縮機構10の後述するローラ41が装着されている。
【0033】
また、シャフト8の下側略半分の内部には、上下方向に延在する給油路8bが形成されている。この給油路8bの下端部には、シャフト8の回転に伴って潤滑油Lを給油路8b内に吸い上げるための螺旋羽根形状のポンプ部材(図示省略)が挿入されている。さらに、シャフト8には、給油路8b内の潤滑油Lをシャフト8の外側に排出するための複数の排出孔8cが形成されている。
【0034】
圧縮機構10は、密閉ケーシング2の内周面に固定されるフロントヘッド(端板部材)20と、フロントヘッド20の上側に配置されるマフラー11と、フロントヘッド20の下側に配置されるシリンダ30と、シリンダ30の内部に配置されるピストン40と、シリンダ30の下側に配置されるリアヘッド(端板部材)50とを備えている。詳細は後述するが、図2に示すように、シリンダ30は、略円環状の部材であって、その中央部に圧縮室31が形成されている。シリンダ30は、リアヘッド50と共に、フロントヘッド20の下側にボルトにより固定されている。なお、図2は、シリンダ30に形成されているボルト孔は省略して表示している。
【0035】
図1に示すように、フロントヘッド20は、略円環状の部材であって、その中央部に、シャフト8が回転可能に挿通される軸受け孔21が形成されている。フロントヘッド20の外周面は、密閉ケーシング2の内周面にスポット溶接などによって固定されている。フロントヘッド20の下面は、シリンダ30の圧縮室31の上端を閉塞している。フロントヘッド20には、圧縮室31において圧縮された冷媒を吐出するための吐出孔22(図2参照)が形成されている。吐出孔22は、上下方向から視て、シリンダ30の後述するブレード収容部33の近傍に形成されている。図示は省略するが、フロントヘッド20の上面には、圧縮室31内の圧力に応じて吐出孔22を開閉する弁機構が取り付けられている。また、フロントヘッド20のシリンダ30よりも径方向外側の部分には、複数の油戻し孔23が周方向に並んで形成されている。フロントヘッド20は、金属材料で形成されている。
【0036】
リアヘッド50は、略円環状の部材であって、その中央部にシャフト8が回転可能に挿通される軸受け孔51が形成されている。リアヘッド50は、シリンダ30の圧縮室31の下端を閉塞している。リアヘッド50は、金属材料で形成されている。
【0037】
マフラー11は、フロントヘッド20の吐出孔22から冷媒が吐出される際の騒音を低減するために設けられている。マフラー11は、フロントヘッド20の上面にボルトによって取り付けられ、フロントヘッド20との間にマフラー空間Mを形成している。また、図示は省略するが、マフラー11には、マフラー空間M内の冷媒を排出するためのマフラー吐出孔が形成されている。
【0038】
図1および図2に示すように、シリンダ30には、上述した圧縮室31と、圧縮室31内に冷媒を導入するための吸入孔32と、ブレード収容部33が形成されている。なお、図2は、図1のA−A線断面図であって、フロントヘッド20の吐出孔22は本来表れないが、説明の便宜上表示している。シリンダ30は、金属材料で形成されている。
【0039】
吸入孔32は、シリンダ30の径方向に延在して形成されている。吸入孔32の一端は、圧縮室31の周壁面に開口した吸入口32aとなっている。また、吸入孔32の吸入口32a側とは反対側の端部には、吸入管3の先端が内嵌されている。
【0040】
ブレード収容部33は、シリンダ30を上下方向に貫通しており、圧縮室31と連通している。ブレード収容部33は、圧縮室31の径方向に延在している。ブレード収容部33は、上下方向から視て、吸入孔32とフロントヘッド20の吐出孔22との間の位置に形成されている。このブレード収容部33内には、一対のブッシュ34が配置されている。一対のブッシュ34は、略円柱状の部材を半分割した形状に形成されている。この一対のブッシュ34の間にブレード42が配置されている。一対のブッシュ34は、その間にブレード42が配置された状態で、ブレード収容部33内において周方向に揺動可能となっている。
【0041】
図3に示すように、ピストン40は、円環状のローラ41と、このローラ41の外周面から径方向外側に延在するブレード42とから構成されている。図2に示すように、ローラ41は、偏心部8aの外周面に相対回転可能に装着されて、圧縮室31内に配置されている。ブレード42は、ブレード収容部33に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。
【0042】
また、図4に示すように、ピストン40の上下方向長さH1は、圧縮室31の上下方向長さH2よりも僅かに小さく、その差は例えば10〜30μm程度である。また、ローラ41の外径は、偏心部8aに装着された状態でローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面との間に、微小な隙間d(以下、この隙間を径方向隙間dという)が生じる大きさとなっている。この径方向隙間dの大きさは、後で詳述するように、圧縮機1の駆動中に、例えば10〜100μm程度の範囲内で変化する。このように径方向隙間dが微小であるので、図2(b)〜図2(d)に示すように、ブレード42がブレード収容部33から圧縮室31側に出ている状態では、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面との間に形成される空間は、ブレード42によって低圧室31aと高圧室31bに区画される。
【0043】
図3、図4に示すように、本実施形態のピストン40は、基材43と、基材43の表面を被覆する薄膜状のコーティング層44a、44bとから構成されている。基材43は、例えば、熱伝導率48W/mkの鋳鉄などの金属材料からなる。基材43の外形は、ほぼピストン40の外形を構成している。コーティング層44a、44bは、いずれも基材43の表面におけるピストン40に外周面に対応する部分の一部を被覆している。つまり、コーティング層44a、44bは、ピストン40の外周面の一部に形成されている。
【0044】
コーティング層44aは、基材43よりも熱伝導率が小さい、例えば、熱伝導率13W/mkのニッケルクロム合金などの金属材料からなる。したがって、ピストン40の外周面においてコーティング層44aが形成された領域は断熱領域となっている。なお、ピストン40の外周面においてコーティング層44aが形成されていない領域は非断熱領域となっている。コーティング層44bは、上記の非断熱領域の一部に形成されており、基材43よりも熱伝導率が大きい、例えば、熱伝導率236W/mkのアルミニウムなどの金属材料からなる。したがって、コーティング層44bが形成された領域は放熱領域となっている。ピストン40の外周面における断熱領域と放熱領域との具体的な位置関係については、後で詳述する。
【0045】
次に、本実施形態の圧縮機1の動作について、図2(a)〜図2(d)、および図5を参照して説明する。図2(a)は、ピストン40が上死点にある状態を示しており、図2(b)〜図2(d)は、図2(a)の状態からのシャフト8の回転角度が、それぞれ、α°、180°(下死点)、β°である状態を示している。ここで、図2(b)に示すシャフト8の回転角度がα°である状態とは、圧縮室31の上下方向から視て圧縮室31の軸中心からローラ41の軸中心側に向かって延在する直線Lが吸入孔32におけるローラ41の移動方向(図中時計回り方向)下流側の端部を通る状態を意味する。また、図2(d)に示すシャフト8の回転角度がβ°である状態とは、後述するように、径方向隙間dが最も小さくなる状態を意味する。図5に示すグラフは、シャフト8の回転角度θに対する径方向隙間dの変化の概略(図中実線で示す)と、高圧室31b内の圧力変化の概略(図中破線で示す)とを描いたものである。
【0046】
吸入管3から吸入孔32を介して圧縮室31に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト8を回転させると、図2(a)〜図2(d)に示すように、偏心部8aに装着されたローラ41は、圧縮室31の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室31内で冷媒が圧縮される。冷媒が圧縮される工程について、以下、詳細に説明する。
【0047】
図2(a)の状態から偏心部8aが図中の矢印方向に回転すると、図2(b)に示すように、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面とによって形成される空間が、低圧室31aと高圧室31bに区画される。さらに偏心部8aが回転すると、図2(b)〜図2(d)に示すように、低圧室31aの容積が大きくなるため、吸入管3から吸入孔32を介して低圧室31a内に冷媒が吸い込まれていく。同時に、高圧室31bの容積が小さくなるため、高圧室31bにおいて冷媒が圧縮される。なお、図2(b)に示すように、シャフト8の回転角度がα°となった時、ローラ41の外周面が、吸入孔32におけるローラ41の移動方向下流側の端部に最も近づく。このとき、ローラ41の外周面において、吸入孔32におけるローラ41の移動方向下流側の端部に最も近づく部分をP1で示す。
【0048】
図5に示すように、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面との間の径方向隙間dの大きさは、シャフト8が上死点から90°回転するまでの間に最大となり、そこから次第に小さくなる。そして、図2(d)に示すように、シャフト8の回転角度がβ°となった時、径方向隙間dが最小となる。なお、回転角度β°は、180°よりも大きく330°以下である。このとき、ローラ41の外周面において圧縮室31の周壁面に最も近づく部分をP2で示す。また、このとき、ブレード42の側面において、高圧室31bを画定している部分のローラ41側とは反対側の端部をP3で示す。
【0049】
そして、高圧室31b内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド20に設けられた弁機構が開弁して、高圧室31b内の冷媒が吐出孔22を介してマフラー空間Mに吐出される。なお、径方向隙間dが最小となった時(すなわち、シャフト8の回転角度がβ°となった時)、高圧室31b内の冷媒の圧力は、弁機構が開弁する所定の圧力に達する。その後、図2(a)の状態に戻り、高圧室31bからの冷媒の吐出が完了する。この工程を繰り返すことにより、吸入管3から圧縮室31に供給された冷媒が連続的に圧縮されて排出される。マフラー空間Mに吐出された冷媒は、マフラー11のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構10の外に吐出される。
【0050】
上述のような圧縮機構10から吐出された冷媒は、固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップなどを通過した後、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。このとき、シャフト8の排出孔8cから圧縮室31内に供給された潤滑油Lの一部は、冷媒と共に吐出孔22からマフラー空間Mに吐出された後、マフラー11のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構10の外に吐出される。圧縮機構10の外に吐出された潤滑油Lの一部は、フロントヘッド20の油戻し孔23を通って密閉ケーシング2の下部の貯留部に戻される。また、圧縮機構10の外に吐出された潤滑油Lの他の一部は、冷媒と共に固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップを通過した後、固定子7bの外周面に形成された凹部(図示省略)と密閉ケーシング2の内周面との間と、フロントヘッド20の油戻し孔23とを通って、密閉ケーシング2の下部の貯留部に戻される。
【0051】
次に、図3および図6を参照しつつ、ピストン40の外周面において、コーティング層44aが形成され断熱領域となる領域と、コーティング層44bが形成され放熱領域となる領域との位置について説明する。
【0052】
コーティング層44aは、図3、図6(a)、(b)に示すように、ブレード42の側面に位置するP3で示す部分から、ローラ41とブレード42との境界部までの領域、および、ローラ41の外周面において、ローラ41とブレード42との境界部を一端として、その境界部から高圧室31b側へローラ下死点に向かって、P2で示す部分まで延びる領域の全面に形成されている。なお、ローラ下死点とは、ローラ41の外周面において、ピストン40が下死点にある際に圧縮室31の周壁面に最も近づく部分である。ここで、P2は、上述のように、径方向隙間dが最小となる際に圧縮室31の周壁面に最も近づく部分であり、P3は、径方向の隙間dが最小となる際にブレード42の側面において高圧室31bを画定する部分のローラ41側とは反対側の端部である。
【0053】
コーティング層44bは、ローラ41の外周面における図3、図6(a)、(b)、(c)においてP2で示す部分から、P4で示す部分までの領域の全面に形成されている。ここで、P4は、低圧室側(図6(a)中右側)のローラ41とブレード42との境界部である。
【0054】
すなわち、コーティング層44aが形成された断熱領域は、ピストン40の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン40がある際(すなわち、図2(d)に示すようにシャフト8の回転角度がβ°である際)に、高圧室31bを画定する部分に設けられている。また、コーティング層44bが形成された放熱領域は、ローラ41の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン40がある際に、低圧室31aを画定する部分に設けられている。なお、放熱領域は、図3、図6(a)、(c)においてP1で示す部分からP4で示す部分までの領域、つまり、ローラ41の外周面が吸入孔32におけるローラ41の移動方向下流側の端部に最も近づく位置にピストン40がある際(すなわち、図2(b)に示すようにシャフト8の回転角度がα°である際)に、低圧室31aを画定する部分を含んでいる。
【0055】
以上のように、本実施形態の圧縮機1では、ピストン40の外周面に、ピストン40の基材43よりも熱伝導率の小さいコーティング層44aが設けられた断熱領域と、断熱領域が設けられていない領域(非断熱領域)とを有している。そして、断熱領域は、ピストン40の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン40がある際に、高圧室31bを画定する部分に形成されている。したがって、高圧室31b側からピストン40に与えられる熱を断熱領域により断熱しつつ、ピストン40に与えられた熱を断熱領域が設けられていない領域から放熱できる。よって、ピストン40の熱膨張を確実に抑制できる。
【0056】
また、本実施形態の圧縮機1では、断熱領域は、ローラ41の外周面において、ローラ41とブレード42との境界部を一端として、その境界部から高圧室31b側へローラ下死点に向かって延びる領域に形成されている。したがって、最も長い時間高圧室31bとなる部分に断熱領域を設けることで、高圧室31b側からピストン40に与えられる熱を確実に断熱できる。
【0057】
また、本実施形態の圧縮機1では、ピストン40の外周面において断熱領域が設けられていない領域(非断熱領域)の一部に、ピストン40の基材43よりも熱伝導率の大きいコーティング層44bが形成された放熱領域が設けられている。したがって、コーティング層44bにより、ピストン40に与えられた熱を確実に放熱できる。
【0058】
さらに、本実施形態の圧縮機1では、放熱領域は、ローラ41の外周面において、ローラ41の外周面が吸入孔32におけるピストン40の移動方向下流側の端部に最も近づく位置にピストン40がある際に(図2(b)に示す状態)、低圧室31aを画定する部分を含む領域に形成されている。したがって、ローラ41の外周面における吸入孔32の近傍に放熱領域を設けられる。よって、吸入孔32から導入される比較的低温の冷媒により、ピストン40に与えられた熱を効率よく放熱できる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態は、2シリンダ型のロータリ圧縮機に本発明を適用した一例である。
図7に示すように、本実施形態の圧縮機101は、シャフト108および圧縮機構110の構成が上記第1実施形態と異なっている。また、本実施形態の圧縮機101では、2本の吸入管3が、密閉ケーシング2の側部に上下に並んで設けられている。その他の構成は上記第1実施形態と同様であるため、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0060】
シャフト108は、2つの偏心部108a、108dを有している。2つの偏心部108a、108dの軸心は、シャフト108の回転軸を中心として180°ずれている。また、シャフト108は、上記第1実施形態のシャフト8と同じく、給油路108bと、複数の排出孔108cを有している。
【0061】
圧縮機構110は、シャフト108の軸方向に沿って上から下に向かって順に、フロントマフラー111と、フロントヘッド120と、シリンダ130およびピストン140と、ミドルプレート150と、シリンダ160およびピストン170と、リアヘッド180と、リアマフラー112とを有する。なお、フロントヘッド120およびミドルプレート150は、ピストン140の上下端に配置されており、本発明の端板部材に相当する。また、ミドルプレート150およびリアヘッド180は、ピストン170の上下端に配置されており、本発明の端板部材に相当する。
【0062】
フロントマフラー111は、上記第1実施形態のマフラー11と同様の構成を有し、フロントヘッド120との間にマフラー空間M1を形成している。
【0063】
フロントヘッド120には、軸受け孔121と、吐出孔122(図8参照)と、油戻し孔123とが形成されている。さらに、フロントヘッド120は、上下方向に貫通する貫通孔(図示省略)が形成されている。この貫通孔は、リアヘッド180とリアマフラー112とによって形成されるマフラー空間M2内の冷媒を、マフラー空間M1に排出するための流路の一部を構成している。フロントヘッド120は、この貫通孔を有する点以外、第1実施形態のフロントヘッド20と同様の構成である。
【0064】
図8に示すように、シリンダ130には、圧縮室131と、吸入孔132と、ブレード収容部133とが形成されている。さらに、シリンダ130には、圧縮室131の外周側部分に、後述するマフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔135が形成されている。シリンダ130は、この貫通孔135を有する点以外、第1実施形態のシリンダ30と同様の構成である。
【0065】
ピストン140は、上記第1実施形態のピストン40と同様の構成であって、ローラ41と、ブレード42とから構成されている。ローラ41は、偏心部108aの外周面に回転可能に装着されており、ブレード42は、シリンダ130のブレード収容部133に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。また、ピストン140は、上記第1実施形態のピストン40と同じく、金属材料からなる基材43と、基材43よりも熱伝導率の小さいコーティング層44a、および、基材43よりも熱伝導率の大きいコーティング層44bとから構成されている。コーティング層44aは、ピストン40の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン140がある際に、高圧室31bを画定する部分に設けられている。コーティング層44bは、ローラ41の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン140がある際に、低圧室31aを画定する部分に設けられている。
【0066】
ミドルプレート150は、円環状の板部材であって、シリンダ130とシリンダ160との間に配置され、シリンダ130の圧縮室131の下端を閉塞すると共に、シリンダ160の圧縮室131の上端を閉塞している。また、ミドルプレート150には、後述するマフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔(図示省略)が形成されている。ミドルプレート150は、金属材料で形成されている。
【0067】
シリンダ160は、上述したシリンダ130と同様の構成であって、圧縮室161と、吸入孔162と、一対のブッシュ34が配置されたブレード収容部(図示省略)と、貫通孔(図示省略)とを有する。
【0068】
ピストン170は、上記第1実施形態のピストン40と同様の構成であって、ローラ41と、ブレード42とから構成されている。ローラ41は、偏心部108dの外周面に回転可能に装着されており、ブレード42は、シリンダ160のブレード収容部(図示省略)に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。また、ピストン170は、上記第1実施形態のピストン40と同じく、金属材料からなる基材43と、基材43よりも熱伝導率の小さいコーティング層44a、および、基材43よりも熱伝導率の大きいコーティング層44bとから構成されている。コーティング層44aは、ピストン40の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン170がある際に、高圧室31bを画定する部分に設けられている。コーティング層44bは、ローラ41の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン170がある際に、低圧室31aを画定する部分に設けられている。
【0069】
リアヘッド180は、シリンダ160の下側に配置され、シリンダ160の圧縮室161の下端を閉塞している。リアヘッド180は、略円環状の部材であって、その中央部に、シャフト108が回転可能に挿通される軸受け孔181が形成されている。また、リアヘッド180には、シリンダ160の圧縮室161において圧縮された冷媒を、リアヘッド180とリアマフラー112との間に形成されるマフラー空間M2に吐出するための吐出孔(図示省略)が形成されている。さらに、リアヘッド180には、マフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔(図示省略)が形成されている。また、リアヘッド180の下面には、圧縮室131内の圧力に応じて吐出孔を開閉する弁機構(図示省略)が取り付けられている。リアヘッド180は、金属材料で形成されている。
【0070】
リアマフラー112は、リアヘッド180の吐出孔(図示省略)から冷媒が吐出される際の騒音を低減するために設けられている。リアマフラー112は、リアヘッド180の下面にボルトによって取り付けられ、リアヘッド180との間にマフラー空間M2を形成している。マフラー空間M2は、リアヘッド180、シリンダ160、ミドルプレート150、シリンダ130およびフロントヘッド120にそれぞれ形成された貫通孔を介して、マフラー空間M1と連通している。
【0071】
本実施形態の圧縮機101の動作について説明する。
吸入孔132、162から圧縮室131、161に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト108を回転させると、偏心部108aに装着されたピストン140のローラ41は圧縮室131の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室131内で冷媒が圧縮される。これと並行して、偏心部108dに装着されたピストン170のローラ41は圧縮室161の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室161内で冷媒が圧縮される。
【0072】
圧縮室131内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド120に設けられた弁機構が開弁して、圧縮室131内の冷媒がフロントヘッド120の吐出孔22からマフラー空間M1に吐出される。また、圧縮室161内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、リアヘッド180に設けられた弁機構が開弁して、圧縮室161内の冷媒がリアヘッド180の吐出孔(図示省略)からマフラー空間M2に吐出される。マフラー空間M2に吐出された冷媒は、リアヘッド180、シリンダ160、ミドルプレート150、シリンダ130およびフロントヘッド120にそれぞれ形成された貫通孔を介して、マフラー空間M1に吐出される。
【0073】
マフラー空間M1に吐出された冷媒は、フロントマフラー111のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構110の外に吐出されて、その後、固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップを通過した後、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。
【0074】
本実施形態では、上記第1実施形態と同じく、ピストン140、170の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン140、170がある際に、高圧室31bを画定する部分に断熱領域が設けられており、ピストン140、170のローラ41の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン140、170がある際に、低圧室31aを画定する部分に放熱領域が設けられているので、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0076】
例えば、上述の第1実施形態では、断熱領域が、ピストン40の外周面のみに形成されている場合について説明したが、これには限定されない。図9に示すように、第1実施形態の第1変形例においては、ピストン40の外周面に形成されたコーティング層44a、44bに加えて、ピストン40の上下端面の全面に、基材43よりも熱伝導率の小さい金属材料からなるコーティング層244aが形成されている。すなわち、本変形例においては、ピストン40の上下端面にも断熱領域が設けられている。したがって、フロントヘッド20およびリアヘッド50のシリンダ30側とは反対側の熱が、フロントヘッド20やリアヘッド50を介してピストン40に伝わるのを防ぐことができる。なお、上述の第2実施形態においても、この変形例を適用することができる。
【0077】
また、上述の第1実施形態では、基材43よりも熱伝導率の大きいコーティング層44bを形成することで放熱領域を設けている場合について説明したが、これには限定されない。図10に示すように、第1実施形態の第2変形例においては、コーティング層44bを設ける代わりに、凹部344が形成されている。凹部344は、ローラ41の外周面において、圧縮室31の軸中心からローラ41の軸中心側に向かって延在する直線Lが吸入孔32におけるローラ41の移動方向下流側の端部を通る際に、低圧室31aを画定する部分に形成されている。本変形例においては、凹部344は、上下方向に延びる溝状であり3つ形成されているが、凹部の形状およびその個数は適宜変更可能である。また、凹部344の代わりに凸部を形成してもよい。なお、凸部を形成する場合には、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面との接触と避けるために、ピストン40が移動する際にローラ41の外周面において吸入孔32と対向する部分に凸部を形成する、圧縮室31の周壁面に凸部を受け入れる凹部を形成するなどする必要がある。さらに、コーティング層44bを形成すると共に凹部や凸部を形成するようにしてもよい。本変形例では、凹部344によりローラ41の外周面の表面積を増加させることで、ピストン40に与えられた熱を確実に放熱できる。なお、上述の第2実施形態においても、この変形例を適用することができる。
【0078】
また、基材43の外周面における放熱領域に対応する部分を覆うのは、金属製のコーティング層44bには限定されず、基材43よりも熱伝導率の大きい材料で覆われていればよい。すなわち、例えば、金属製のコーティング層44bに代えて、熱伝導率150W/mkの窒化アルミニウムなどのセラミックを用いることができる。なお、このような基材43よりも熱伝導率の大きい材料が設けられていない場合であっても、基材43の表面が断熱材料で覆われておらず、基材43の表面が露出した状態であれば、そこからピストン40に与えられた熱を放熱できる。
【0079】
加えて、上述の第1実施形態では、ローラ41の外周形状が円形である場合について説明したが、図11に示すように、第1実施形態の第3変形例のピストン440では、ローラ441の外周面に、ブレード442の基端部から吸入孔32側(図11中の右側)に延在する切欠きが形成されていている。本変形例においては、断熱領域が設けられていない領域(非断熱領域)が、圧縮室31の軸中心からローラ441の軸中心側に向かって延在する直線Lが、吸入孔32におけるローラ441の移動方向(図11中の時計回り)の下流側の端部を通る時に、ローラ441の外周面のうちで低圧室31aを画定する部分(図中太線で示す部分)を含む領域に形成されていれば、第1実施形態と同様に、比較的低温の冷媒によりピストン440に与えられた熱を効率よく放熱できるという効果を得ることができる。
【0080】
さらに、上述の第1および第2実施形態では、基材43よりも熱伝導率の小さい金属製のコーティング層44aを形成することで断熱領域を設けている場合について説明したが、これには限定されない。基材43の外周面における断熱領域に対応する部分を覆うのは、金属製のコーティング層44aには限定されず、基材43よりも熱伝導率の小さい材料で覆われていればよい。すなわち、例えば、金属製のコーティング層44aに代えて、熱伝導率0.25W/mkのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの樹脂材料や、熱伝導率3W/mkのジルコニアなどのセラミックを用いることができる。
【0081】
加えて、上述の第1および第2実施形態では、断熱領域は、ピストン40の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン40がある際に、高圧室31bを画定する部分に設けられている場合について説明したが、断熱領域は、この実施形態で設けられている部分の少なくとも一部を含む領域に形成されていれば良い。
【0082】
さらに、上述の第1および第2実施形態では、放熱領域は、ローラ41の外周面において、径方向隙間dが最も小さくなる位置にピストン40がある際に、低圧室31aを画定する部分に設けられている場合について説明したが、これには限定されない。放熱領域は、ピストン40の外周面において、断熱領域が設けられていない領域の少なくとも一部に設けられていれば良い。
【0083】
また、上述の第1および第2実施形態では、圧縮機構は、フロントヘッド20、120の外周部が密閉ケーシング2の内周面に固定されることで支持されているが、シリンダ30、130、160、ミドルプレート150、またはリアヘッド50、180の外周部が密閉ケーシング2の内周面に固定されることで支持される構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明を利用すれば、ピストンの熱膨張を確実に抑制できる。
【符号の説明】
【0085】
1 圧縮機
20、120 フロントヘッド(端板部材)
30、130、160 シリンダ
31、131、161 圧縮室
31a 低圧室
31b 高圧室
32、132、162 吸入孔
32a 吸入口
33、133 ブレード収容部
40、140、170 ピストン
41 ローラ
42 ブレード
43 基材
44a、44b、244a コーティング層
50、180 リアヘッド(端板部材)
344 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室および前記圧縮室に連通したブレード収容部を有するシリンダと、
前記シリンダの軸方向両端にそれぞれ配置される端板部材と、
前記圧縮室に配置された環状のローラ、および前記ローラの外周面から延在し且つ前記ブレード収容部に対して進退可能に配置されたブレードを有するピストンとを備え、
前記ピストンは、前記ローラが前記圧縮室の周壁面に沿って移動しつつ前記ブレードと共に前記圧縮室を高圧室と低圧室とに区画するものであって、
前記ピストンの外周面は、
前記ピストンの基材よりも熱伝導率の小さい断熱材料が設けられた断熱領域と、
前記断熱材料が設けられていない非断熱領域とを有しており、
前記断熱領域は、前記ピストンの外周面において、少なくとも、前記ローラの外周面と前記圧縮室の内周面との間のすき間が最も小さくなる位置に前記ピストンがある際に、前記高圧室を画定する部分の一部を含む領域に形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記断熱領域は、前記ローラの外周面において、前記ブレードとの境界部を一端とし、その境界部から高圧室側へローラ下死点に向かって延びる領域に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記シリンダは、前記圧縮室の周壁面に開口し且つ前記圧縮室に冷媒を導入するための吸入孔をさらに有し、
前記非断熱領域は、少なくとも、前記ローラの外周面において、前記圧縮室の軸方向から視て前記圧縮室の軸中心から前記ローラの軸中心側に向かって延在する直線が前記吸入孔における前記ローラの移動方向下流側の端部を通る際に、前記低圧室を画定する部分を含む領域に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記非断熱領域の少なくとも一部には、前記ピストンの基材よりも熱伝導率の大きい放熱材料が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記非断熱領域は、前記ローラの外周面において、前記圧縮室の軸方向から視て前記圧縮室の軸中心から前記ローラの軸中心側に向かって延在する直線が前記吸入孔における前記ローラの移動方向下流側の端部を通る際に、前記低圧室を画定する部分に形成された凹部および凸部の少なくともいずれか一方を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記ピストンの軸方向端面は、前記ピストンの基材よりも熱伝導率の小さい断熱材料が設けられた断熱領域を有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−117425(P2012−117425A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266856(P2010−266856)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】