説明

圧縮繊維構造材及びその製造方法

【課題】治療対象となる部位で強度に差がある場合であっても、生体骨に近い機械的特性と骨芽細胞を増加させ易い特性を持つ薄板状の圧縮繊維構造材を容易に製造できる方法を提供することにある。
【解決手段】平均径が5〜50μmでアスペクト比が20〜500の生体親和性繊維14を準備する工程と、その生体親和性繊維14を常温圧縮せん断加工して、水銀圧入法での測定により得られた平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲となる圧縮繊維構造材1を成形する工程とを有する圧縮繊維構造材1の製造方法により、上記課題を解決する。さらに、常温圧縮せん断加工は、200〜2000MPaの範囲の圧縮圧力と、0.2〜5mmの範囲のせん断ストローク長と、0.5〜5mm/分の範囲のせん断速度とを制御して行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体材料として用いられる圧縮繊維構造材及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、生体骨に近い機械的特性を持ち、骨芽細胞を増加させ易い生体材料として用いられる薄板状の圧縮繊維構造材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工関節やデンタルインプラント等の生体材料は、生体骨と同程度の強度、及び生体骨との優れた結合性が求められる。また、頭蓋骨欠損を補填するための生体材料や、骨移植部分の形態を整えるための生体材料は、頭蓋骨の形状や移植部分の骨形状に適合させる必要があるため、柔軟さや曲げ易さも求められる(非特許文献1)。
【0003】
生体材料と生体骨との結合性には、骨芽細胞が関与する。骨芽細胞は、表面粗さが大きく、三次元的でかつ等方的な凹凸を持つ面での初期付着率が高いことが知られている(非特許文献2)。また、骨芽細胞は、直径数十μm以上の連続孔を有する材料で優れた内部成長が起こることも知られている(非特許文献3)。したがって、骨芽細胞が付着し易く、成長し易いほど、生体材料と生体骨との結合性が優れたものとなる。
【0004】
骨欠損部に補填される生体材料の例として、ハイドロキシアパタイト等のセラミックスが知られている。こうしたセラミックスは、粉末冶金法で作製される多孔体であるので、生体骨との結合力が優れるという利点がある。しかし、柔軟性に劣ると共に曲げ強度が低いため、高荷重が負荷される部位には用いられていない。また、同じセラミックスで強度の高いアルミナ(酸化アルミニウム)は、生体骨との結合性を向上させたり曲げ弾性率を低下させたりするために多孔質化を行う必要があるが、多孔質化したアルミナは、柔軟性に劣り、強度が不足してしまうという難点がある。
【0005】
一方、チタン材料は、優れた生体親和性、強度及び耐食性を持つことから、人工関節やデンタルインプラント等の生体材料として注目されている。しかし、チタン材料としてチタン板を用いた場合、そのチタン板は表面が平滑なために生体骨との結合性が悪いという問題がある。こうした問題に対し、チタン板をパンチング加工したパンチングメタルが用いられている。チタンは比強度が高いので、生体骨との結合性向上や低弾性率化のためにチタン板にパンチング加工して多孔質化を行っても、強度が不足しないという利点がある。
【0006】
また、チタン材料としてチタン繊維を用い、そのチタン繊維で作製した不織布を用いた医療材料が提案されている(特許文献1)。このチタン不織布は、直径100μm未満、アスペクト比20以上(短軸:長軸比=1:20以上)のチタン繊維を絡合して層状に形成し、その表面層から内部に至るまで生体硬組織着床空間を形成してなるものであり、生体硬組織誘導性及び定着性に優れた生体硬組織誘導性スカフォールド材料として提案されている。そして、そのチタン不織布は、人工歯根インプラントや人工関節インプラント等の整形外科用インプラントと共に使用できると提案されている。
【0007】
ところで、金属の粉末や繊維を多孔体に固化成形する方法として、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法等の粉末冶金法が挙げられる。しかし、これらの方法による固化成形には、加熱や発熱が伴う。その加熱や発熱は、成形体を酸化させて脆化し、柔軟性に劣るものとなる。一方、常温圧縮せん断加工法は、常温及び大気雰囲気中で金属粉末や金属繊維に圧縮荷重とせん断荷重を負荷して固化成形する方法である(非特許文献4、特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高田典彦、「口腔外傷後のインプラントによる再建」、日職災医誌、51、pp.324-329(2003).
【非特許文献2】板橋勇人ら、「異なった微小表面形状を有するチタン表面上での骨芽細胞様細胞の初期微動(in vitro)について」、歯科材料・器械、14-1、pp.136-141(1995).
【非特許文献3】Bungo Otsuki,et.al.,“Pore throat size and connectivity determine bone and tissue in growth into porous implants; Three-dimensional micro-CT based structural analyses of porous bioactive titanium implants”,Biomaterials, 27, pp.5892-5900(2006).
【非特許文献4】武石洋征、中山昇、三木寛之、「常温圧縮せん断法による結晶粒微細固化成形」、材料、54-3、pp.233-238(2005).
【非特許文献5】「機械工学便覧 応用システム偏(γ9 医療・福祉・バイオ機器)」、日本機械学会、pp.132(2008).
【非特許文献6】日本セラミックス協会編、「環境調和型新材料シリーズ 生体材料」、日刊工業新聞社、pp.237(2008).
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−67547号公報
【特許文献2】特開2003−221603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
チタン材料で作製された生体材料を、例えば頭蓋骨欠損を補填するための生体材料や、骨移植部分の形態を整えるための生体材料として用いる場合、その生体材料は、チタン材料自体が有する高い生体親和性、高い耐食性、及び生体骨との高い結合性を有するが、さらに、緻密骨に近い機械的特性(例えば弾性率や強さ)を有することが必要である。特に、治療対象となる部位で強度に差がある場合や、子供、女性又は高齢者のように、成人男子とは骨の強度に差がある場合のように、それぞれの部位や人によって、望ましい機械的特性を持つ生体材料を準備する必要がある。
【0011】
しかしながら、上記した従来の生体材料では、そうした要求に応えることが困難である。例えばチタン板を加工したパンチングメタルは、多孔化により変形し易くなっているものの、板材としての強度を依然として保有しており、緻密骨に近い機械的特性を持つ生体材料として使用できず、骨の強度に差がある場合にも使用できない。また、穴あけ孔以外の部分の表面が平坦であり、三次元的な空間構造になっていないので、骨芽細胞の増加が不十分であるという難点がある。
【0012】
また、特許文献1で提案されたチタン不織布は、高温真空下で焼結して作製されているので、その高温焼結によりチタン繊維同士の結合が強固になって、得られたチタン不織布全体として剛性を持つものとなり、柔軟性に劣っていた。そのため、緻密骨に近い機械的特性を持たせることが難しく、さらに骨の強度に差がある場合にも対応できないという問題があった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、治療対象となる部位で強度に差がある場合であっても、生体骨に近い機械的特性を持ち、骨芽細胞を増加させ易い薄板状の圧縮繊維構造材を容易に製造できる方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、生体骨に近い機械的特性を持ち、骨芽細胞を増加させ易い生体材料として用いられる薄板状の圧縮繊維構造材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するための研究を行っている過程で、チタン繊維を常温圧縮せん断加工して薄板状の圧縮繊維構造材の成形を試みたところ、得られた圧縮繊維構造材は、チタンそのものが有する生体親和性と耐食性とを有し、さらに骨芽細胞が生成し易い空隙を有し、しかも常温圧縮せん断加工が圧縮繊維構造材の強度を容易に調整できることを見出した。さらに検討を行ったところ、チタン繊維以外の生体親和性繊維についても同様の知見が得られ、そうした知見に基づいて本発明を完成させた。
【0015】
上記課題を解決するための本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法は、平均径が5〜50μmでアスペクト比が20〜500の生体親和性繊維を準備する工程と、前記生体親和性繊維を常温圧縮せん断加工して、水銀圧入法での測定により得られた平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲となる圧縮繊維構造材を成形する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、平均径とアスペクト比が上記範囲の生体親和性繊維を用い、常温圧縮せん断加工により平均空孔径と空隙率が上記範囲になる圧縮繊維構造材に成形するので、製造された圧縮繊維構造材は、繊維自体が持つ高い生体親和性を有するとともに、骨芽細胞の形成を促進できる空隙を持ち、且つ骨の強さに合わせた所望の機械的特性を持つ生体材料として利用できる。その結果、治療対象となる部位で強度に差がある場合であっても、生体骨に近い機械的特性を持つ圧縮繊維構造材を容易に製造できる。また、得られた圧縮繊維構造材には、上記範囲の平均空孔径と空隙率を示す空隙が設けられているので、その空隙は、骨芽細胞の生成スピードを従来の2倍以上に増し、頭蓋骨欠損の補填や骨移植部分の整形を早め、早い回復を図ることができる。
【0017】
また、この発明で適用する常温圧縮せん断加工は、圧縮圧力、せん断ストローク長、せん断速度等を任意に設定することにより、得られる圧縮繊維構造材の弾性、柔軟性等の機械的特性を変えることができるので、治療対象となる部位で強度に差がある場合や、子供、女性又は高齢者のように成人男子とは骨の強度に差がある場合であっても、それぞれの部位や人に対して使用可能な機械的特性を持つ圧縮繊維構造材を容易に製造でき、極めて有効な手段である。そうした機械的特性としては、例えば患者の骨に近い強度や、強い箇所と弱い箇所が一体になっている場合は弱い箇所に応力が集中して破損し易いので、その破損を防ぐことが可能な任意の強度、等を挙げることができる。
【0018】
本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法において、前記常温圧縮せん断加工を、200〜2000MPaの範囲の圧縮圧力と、0.2〜5mmの範囲のせん断ストローク長と、0.5〜5mm/分の範囲のせん断速度とを制御して行うことが好ましい。
【0019】
この発明によれば、常温圧縮せん断加工を、圧縮圧力とせん断ストローク長とせん断速度とを制御して行うので、その加工条件によって子供向け用途、高齢者又は女性向け用途、又は成年男子向け用途等の圧縮繊維構造材を容易に製造できる。
【0020】
本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法において、前記常温圧縮せん断加工は、嵩密度を3〜5g/cmの範囲で制御することが好ましい。
【0021】
この発明によれば、嵩密度を上記範囲で制御することにより、製造された圧縮繊維構造材を子供向け用途、高齢者又は女性向け用途、又は成年男子向け用途等に適用できる。
【0022】
本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法において、前記生体親和性繊維としてチタン繊維を用い、さらにマグネシウム繊維、ステンレススチール繊維及びコバルトクロム合金繊維から選ばれる繊維、又は、チタン粉末、マグネシウム粉末、ステンレススチール粉末及びコバルトクロム合金粉末から選ばれる粉末を複合させる。
【0023】
この発明によれば、圧縮繊維構造材の用途に応じて、耐食性のよいチタン繊維に、他の繊維や粉末を複合化させることができる。例えば、チタン繊維と、溶解除去可能なマグネシウム繊維とを複合させて生体親和性繊維を構成してもよい。このように、常温圧縮せん断加工により、応用範囲の広い圧縮繊維構造材を製造することができる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明に係る圧縮繊維構造材は、平均径が5〜50μmでアスペクト比が20〜500の生体親和性繊維が焼結されずに圧し固められた構造材であって、水銀圧入法での測定により得られた平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲であることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、平均径とアスペクト比が上記範囲の生体親和性繊維が焼結せずに圧し固められており、圧し固められた圧縮繊維構造材が有する平均空孔径と空隙率が上記範囲であるので、繊維自体が持つ高い生体親和性を有するとともに、骨芽細胞の形成を促進できる空隙を持っている。この発明に係る圧縮繊維構造材には、上記範囲の平均空孔径と空隙率が示す空隙が設けられているので、その空隙は、骨芽細胞の生成スピードを従来の2倍以上に増し、頭蓋骨欠損の補填や骨移植部分の整形を早め、早い回復を図ることができる。しかも、この圧縮繊維構造材は、平均空孔径と空隙率が上記範囲であるので、骨の強さに合わせた所望の機械的特性を有するものとなる。その結果、治療対象となる部位で強度に差がある場合や、子供、女性又は高齢者のように成人男子とは骨の強度に差がある場合であっても、それぞれの部位や人に対して使用可能な機械的特性を持つので極めて有効である。
【0026】
本発明に係る圧縮繊維構造材において、嵩密度が3〜5g/cmの範囲であることが好ましい。
【0027】
この発明によれば、上記範囲の嵩密度を持つ圧縮繊維構造材は、その値によって、子供向け用途、高齢者又は女性向け用途、又は成年男子向け用途等に適用できる。
【0028】
本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法において、前記生体親和性繊維としてチタン繊維を用い、さらにマグネシウム繊維、ステンレススチール繊維及びコバルトクロム合金繊維から選ばれる繊維、又は、チタン粉末、マグネシウム粉末、ステンレススチール粉末及びコバルトクロム合金粉末から選ばれる粉末を複合させる。
【0029】
この発明によれば、圧縮繊維構造材の用途に応じて、耐食性のよいチタン繊維に、他の繊維や粉末を複合化させることができる。例えば、チタン繊維と、溶解除去可能なマグネシウム繊維とを複合させて生体親和性繊維を構成してもよい。このように、常温圧縮せん断加工により、応用範囲の広い圧縮繊維構造材を提供することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法によれば、水銀圧入法での測定により得られた平均空孔径と空隙率が上記範囲になる圧縮繊維構造材を製造できるので、製造された圧縮繊維構造材は、繊維自体が持つ高い生体親和性を有するとともに、骨芽細胞の形成を促進できる空隙を持ち、且つ骨の強さに合わせた所望の機械的特性を持つ生体材料として利用できる。その結果、治療対象となる部位で強度に差がある場合であっても、生体骨に近い機械的特性を持つ圧縮繊維構造材を容易に製造できる。また、得られた圧縮繊維構造材には、上記範囲の平均空孔径と空隙率を示す空隙が設けられているので、その空隙は、骨芽細胞の生成スピードを従来の2倍以上に増し、頭蓋骨欠損の補填や骨移植部分の整形を早め、早い回復を図ることができる。
【0031】
また、この発明で適用する常温圧縮せん断加工は、圧縮圧力、せん断ストローク長、せん断速度等を任意に設定することにより、得られる圧縮繊維構造材の弾性、柔軟性等の機械的特性を変えることができるので、治療対象となる部位で強度に差がある場合や、子供、女性又は高齢者のように成人男子とは骨の強度に差がある場合であっても、それぞれの部位や人に対して使用可能な機械的特性を持つ圧縮繊維構造材を容易に製造でき、極めて有効な手段である。そうした機械的特性としては、例えば患者の骨に近い強度や、強い箇所と弱い箇所が一体になっている場合は弱い箇所に応力が集中して破損し易いので、その破損を防ぐことが可能な任意の強度、等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法で適用する常温圧縮せん断加工の原理図である。
【図2】本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法の一例を示す工程フロー図である。
【図3】本発明に係る圧縮繊維構造材の製造方法で用いる常温圧縮せん断加工装置の一例を示す構成図である。
【図4】圧縮せん断加工時の圧縮応力、せん断応力及びせん断ストローク長を表した一例である。
【図5】本発明に係る圧縮繊維構造材の一例を示す平面写真である。
【図6】培養開始から24時間経過した後の試料表面のSEM画像である。
【図7】圧縮繊維構造材の外観写真である。
【図8】アスペクト比の異なる生体親和性繊維で成形した圧縮繊維構造材の表面の光学顕微鏡写真である。
【図9】アスペクト比の異なる生体親和性繊維で成形した圧縮繊維構造材の断面のSEM写真である。
【図10】試験によって得られた応力−ひずみ線図である。
【図11】試験によって得られた応力−ひずみ線図である。
【図12】圧縮繊維構造材の水銀圧入試験の結果から導出した空隙率と空孔径の関係を示すグラフである。
【図13】水銀に加えた圧力と水銀圧入量との関係を表す水銀圧入曲線を示すグラフである。
【図14】チタン繊維(A)とマグネシウム粉末(B)とを複合化させた圧縮繊維構造材(C)の一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る圧縮繊維構造材及びその製造方法について図面を参照しつつ説明するが、本発明は下記の説明及び図面に記載された内容のみに限定されない。
【0034】
本発明に係る圧縮繊維構造材1の製造方法は、図1及び図2に示すように、生体親和性繊維14を準備する工程と、その生体親和性繊維14を常温圧縮せん断加工して圧縮繊維構造材1を成形する工程と、を有する。この製造方法では、生体親和性繊維14として、平均径が5〜50μmでアスペクト比が20〜500の繊維を用い、常温圧縮せん断加工によって、水銀圧入法での測定により得られた平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲となる圧縮繊維構造材1を成形することに特徴がある。以下、詳しく説明する。
【0035】
(準備工程)
準備工程は、平均径が5〜50μmでアスペクト比が20〜500の生体親和性繊維14を準備する工程である。「生体親和性」とは、人や動物等の生体組織及び生体細胞との馴染みが良く、生体がその材料を異物として認識しない性質又は傾向のことということができ、したがって、本発明でいう生体親和性繊維14は、そうした性質又は傾向を有する繊維のことである。
【0036】
生体親和性繊維14としては、チタン繊維に代表されるように生体親和性を有する繊維であれば特に限定されず、他の繊維材料であってもよい。例えば、マグネシウム繊維、ステンレススチール繊維、及びコバルトクロム合金繊維から選ばれる繊維を挙げることができる。これらの繊維は、単独で用いてもよいし2種以上複合させて用いてもよい。特に、チタン繊維を単独、又は主たる繊維として用いることが好ましい。
【0037】
チタン繊維は、生体親和性に優れ、金属イオンの溶出が極めて微量であり、しかも軽く、強いチタン又はチタン合金からなる繊維であるので、特に好ましく用いられる。チタンの組成は特に限定されず、純チタンであっても各種のチタン合金であってもよい。チタン合金としては、例えばTi−Al系合金(α安定型)を好ましく用いることができるが、生体材料として使用可能なその他のチタン合金であってもよい。他のチタン合金としては、Ti−Mn系合金(β共析型)、Ti−Cr系合金(β共析型)、Ti−V系合金(β全率固溶型)等を挙げることができる。特に、純チタン又はTi−Al系のTi−6Al−4V合金は、入手が容易で、強度も後述の常温圧縮せん断加工によって骨の強さに適合可能な機械的特性を持っているという利点があり、好ましく用いることができる。
【0038】
なお、マグネシウム繊維、ステンレススチール繊維、コバルトクロム合金繊維等については、それらを単独で用いることもできるが、必要に応じてチタン繊維と共に複合させて用いることが好ましい。例えば、マグネシウム繊維又はステンレススチール繊維を0〜100質量%とし、残りをチタン繊維とした生体親和性の複合繊維としてもよい。
【0039】
生体親和性繊維14の寸法は、平均径が5〜50μmの範囲で、アスペクト比が20〜500の範囲であることが好ましい。本発明では、常温圧縮せん断加工によって、生体骨に近い機械的特性を有する圧縮繊維構造材1を成形する。そうした圧縮繊維構造材1を得るために、本発明では平均径が5〜50μmの範囲で、アスペクト比が20〜500の範囲の生体親和性繊維14を用い、生体骨の強さに近い所望の機械的特性を持つ圧縮繊維構造材1を得ることができる。
【0040】
「平均径」とは、個々の繊維の径を平均した値をいう。「繊維の径」とは、繊維の横断面の径であり、その横断面が円形の場合には個々の繊維の「直径」であり、楕円形の場合は個々の繊維の「長径と短径を平均した径」であり、矩形又は異径である場合は、その面積から円の面積に換算し直した円形状の直径である。後述する実施例で用いたチタン繊維は矩形断面を持つため、ここでいう平均径は、個々の繊維の横断面から断面積を算出し、同面積となる円形状の直径を求め、複数の繊維について測定した値を平均したものである。
【0041】
生体親和性繊維14の平均径が5μm未満では、そうした生体親和性繊維14の入手が困難になるという問題がある。一方、生体親和性繊維14の平均径が50μmを超えると、繊維が太すぎて成形後の圧縮繊維構造材1の強度が大きくなりすぎ、生体骨の強度から離れてしまうことがある。
【0042】
生体親和性繊維14のアスペクト比が500を超えると、径に対する長さが長くなりすぎ、取扱いが難しくなると共に、成形後の圧縮繊維構造材1の強度が大きくなりすぎ、生体骨の強度から離れてしまうことがある。一方、生体親和性繊維14のアスペクト比が10未満では、径に対する長さが短くなりすぎ、成形後の圧縮繊維構造材1の柔軟性が低下して脆くなり、取扱いが難しくなるとともに、成形後の圧縮繊維構造材1の空隙が所定の範囲に入り難くなるという難点がある。
【0043】
こうした生体親和性繊維14の寸法は、常温圧縮せん断加工で成形した後の圧縮繊維構造材1の機械的特性を考慮して規定されるが、繊維の入手性や取り扱い易さも加味されて、繊維の材質にかかわらず上記範囲内であることが好ましい。
【0044】
生体親和性繊維14は、上市されている所定寸法の各種の繊維を購入して準備してもよいし、所定の厚さのシート(例えばチタンシート等)を切断して繊維状にした後、さらに所定の長さに切断して準備してもよい。
【0045】
本発明においては、上記したように生体親和性繊維同士を複合化させてもよいが、生体親和性繊維と生体親和性粉末とを複合化させてもよい。複合化させる生体親和性繊維としては、チタン繊維、マグネシウム繊維、ステンレススチール繊維及びコバルトクロム合金繊維等を挙げることができ、複合化させる生体親和性粉末としては、チタン粉末、マグネシウム粉末、ステンレススチール粉末及びコバルトクロム合金粉末等を挙げることができる。これらの繊維や粉末のいずれを複合化させるかは、複合化させて得られた圧縮繊維構造材1の用途や使い方等によって選択する。
【0046】
一例として、チタン繊維にマグネシウム繊維又はマグネシウム粉末を複合化させる例を挙げることができる。マグネシウムは、生体親和性の物質であり、且つ生体液と反応して経時的に溶ける物質である。そのため、使用時にはある程度の強度が必要であるものの、経時的に強度が低下したほうが良い場合に好ましく用いることができる。具体的には、セラミックス多孔体は、骨細胞の再生と共に強度が向上するという利点があるが、こうしたセラミクス多孔体は、人体への埋込時の初期強度が低いという問題がある。そのため、人体への埋込時には所定の強度を持ち、埋込後は経時的に強度が低下する複合材料があれば好ましい。
【0047】
こうした要請に対し、生体内で経時的に溶解し、しかも溶解元素が生体に悪影響を与えないマグネシウム繊維又はマグネシウム粉末を、例えばチタン繊維に複合化させた圧縮繊維構造材1を提供することができる。得られた圧縮繊維構造材1は、人体への埋込時には所定の強度に設計でき、埋込後はマグネシウムが溶解して経時的な強度低下を設計できるという利点がある。また、マグネシウムが溶解することにより、骨芽細胞の生成を容易にする空隙を生成できる。特に、本発明では、常温圧縮せん断加工で圧縮繊維構造材1を作製するので、繊維径、粒子径、配合量、配合比、圧縮圧力等を制御することにより、所望の強度に設計できる。また、通常の鋳造等のような熱が加わらないので、チタンとマグネシウムが合金化して溶解しなくなるのを防ぐこともできる。
【0048】
例えば、チタン繊維とマグネシウム繊維又はマグネシウム粉末とを混ぜ合わせた後に常温圧縮せん断加工して複合化させてもよいし、後述の実験例で説明するように、チタン繊維の一次圧縮成形体とマグネシウム粉末を重ねて二次成形して複合化させてもよい。なお、後述の実験例では、チタン繊維の一次圧縮成形体を、マグネシウム粉末又はその一次圧縮成形体で挟んだ三層構造になっているが、チタン繊維の一次圧縮成形体とマグネシウム粉末又はその一次圧縮成形体とを重ねた二層構造であってもよい。
【0049】
使用するチタン繊維やマグネシウム繊維等の繊維は、既述した範囲の平均径やアスペクト比を持つものであることが好ましい。また、使用するマグネシウム粉末等の粉末は、粒子径が20〜200μm程度の範囲であり、球形、非球形、塊状等の各種形状のものを用いることができる。また、後述する成形工程でも、繊維のみで構成したものと同様の手段や条件で常温圧縮せん断加工することができる。
【0050】
このように、圧縮繊維構造材1の用途に応じて、耐食性のよいチタン繊維に、マグネシウム繊維やマグネシウム粉末を複合化させて、前記のような機能を持たせることができる。同様に、複合化させる元素の特性を活かして複合化させることにより、新しい用途や使い方に適用できる。
【0051】
(成形工程)
成形工程は、図1及び図2に示すように、上記した生体親和性繊維14を常温圧縮せん断加工して、圧縮繊維構造材1に成形する工程である。本発明で適用する「常温圧縮せん断加工」は、本発明者によって報告されている成形加工方法(非特許文献4及び特許文献2を参照)であり、常温及び大気雰囲気中で、生体親和性繊維14に圧縮荷重P1とせん断荷重P2とを負荷し、圧縮繊維構造材1を固化成形する加工方法である。この方法は、圧縮荷重P1とせん断荷重P2とにより、生体親和性繊維14の酸化被膜を破壊し、そうした酸化被膜が破壊された新生面同士を結合させることで固化すると考えられており、そのため、外部からの加熱を必要とせず、常温下での固化成形が可能であるとされているが、本発明では、酸化被膜が破壊する大きな荷重は必ずしも必要なく、絡み合う程度の圧縮荷重P1とせん断荷重P2とを加えればよい。
【0052】
この常温圧縮せん断加工は、常温で固化成形を行うため、生体親和性繊維14の繊維形状を残したままでの成形が可能であり、十分な強度を有した多孔質な圧縮繊維構造材1を作製することができるという利点がある。しかも、成形された圧縮繊維構造材1の表面は、三次元的な凹凸を有した多孔性の表面形状になるので、生体骨との結合性の高い生体材料になるという利点もある。さらに、成形された圧縮繊維構造材1の内部は、所定の空隙を有するので、その空隙に入り込んだ血液由来細胞が、ある条件下で間葉系細胞から骨芽細胞へと細胞分化し、その後、幼若な骨細胞から経時的に周囲の健康な骨組織と同様な骨細胞、骨組織へと成長することになる。
【0053】
なお、「常温」とは、積極的に加熱しないという意味であり、積極的に加熱する高温焼結に対する語である。本発明では、20℃〜100℃程度の範囲を包含する意味で用いている。通常は、20℃〜80℃程度である。「大気雰囲気」とは、コントロールされていない雰囲気の意味であり、加圧も減圧もされていない空気雰囲気のことであるが、同様の雰囲気であれば、加圧や減圧を行い、空気と同程度のガス環境に制御したものであってもよい。
【0054】
こうした常温圧縮せん断加工は、圧縮繊維構造材1の強度を容易に調整できる。その強度調整は、図1に示しように、圧縮圧力P1、せん断ストローク長d、及びせん断速度等の加工条件を変化させて調整できる。好ましい条件は、原材料となる生体親和性繊維14の材質や寸法によって変化し、一概に定義できないが、通常、生体骨に強度を近づけるという観点からは、圧縮圧力P1を200〜2000MPaの範囲とし、せん断ストローク長dを0.2〜5mmの範囲とし、せん断速度を0.5〜5mm/分の範囲とすることが好ましい。この範囲で各条件を設定することにより、生体骨に近い機械的特性を持った圧縮繊維構造材1を得ることができる。
【0055】
圧縮繊維構造材1の代表的な成形工程を以下に説明する。図1は、常温圧縮せん断加工の説明図であり、図2は、本発明に係る圧縮繊維構造材1の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0056】
常温圧縮せん断加工は、図1(A)に示すように、固定板10と移動板16との間に挟まれた生体親和性繊維14に対し、移動板16を介して圧縮応力P1を加え、その圧縮応力P1を加えた状態で、図1(B)に示すように、固定板10を横方向に移動させ、生体親和性繊維14にせん断応力P2を加えて、圧縮繊維構造材1を得る方法である。ここで、符号tAは生体親和性繊維14の充填高さであり、LAは生体親和性繊維14の充填長さであり、tBは得られた圧縮繊維構造材1の厚さであり、LBは得られた圧縮繊維構造材1の長さである。また、dは固定板10を横方向に移動させたせん断ストローク長である。
【0057】
圧縮繊維構造材1の製造工程は、図2に示すように、先ず、固定板10を準備し(図2(A))、その固定板10上に、所定寸法の貫通穴13が設けられた貫通型12を乗せる(図2(B))。次に、その貫通穴13に生体親和性繊維14を充填し(図2(C))、貫通型12を取り除く(図2(D))。次に、生体親和性繊維14が載った固定板10を常温圧縮せん断加工装置20(図3参照)に設置し、生体親和性繊維14の上に移動板16を載せる(図2(E))。次に、常温圧縮せん断加工装置20(図3参照)を作動させて、生体親和性繊維14に圧縮応力P1(圧縮荷重ともいう。)を負荷する(図2(F))。このときの圧縮応力P1は、装置上部に設置したロードセル(図3参照)で測定する。次に、圧縮応力P1を負荷したまま、移動板16を横方向に移動させ、生体親和性繊維14にせん断応力P2(せん断荷重ともいう。)を負荷する(図2(G))。最後に、圧縮応力P1とせん断応力P2とを解放し、移動板16を取り外して、圧縮繊維構造材1を得ることができる(図2(H))。
【0058】
なお、図2では、圧縮応力P1が上方から加わり、せん断応力P2が右方から加わるように構成されているが、例えば図3の圧縮せん断加工装置20に示すように、圧縮応力P1が下方から加わるように構成してもよいし、せん断応力P2が左方から加わるように構成してもよい。
【0059】
(装置)
圧縮繊維構造材1を常温圧縮せん断加工するための装置は特に限定されないが、例えば図3に示す基本構造からなる圧縮せん断加工装置20を挙げることができる。図3に示す圧縮せん断加工装置20には、固定板10と移動板16とが配置され、両者の間には生体親和性繊維14が挟まれている。固定板10と移動板16は、その上下からプレート31〜34で保持されている。圧縮応力P1は、例えば上部に配置されたロードセル21で測定でき、せん断応力P2は、例えば移動板16に配置した4枚のひずみゲージ23により4アクティブゲージ法(直行配置法)で測定できる。また、せん断ストローク長は、変位計25を用いて測定し、その結果からせん断速度を算出できる。
【0060】
図4は、圧縮せん断加工時の圧縮応力P1、せん断応力P2及びせん断ストローク長の一例を示すグラフである。図4中、符号aは圧縮応力P1を示し、符号bはせん断応力P2を示し、符号cはせん断ストローク長を示す。図4に示すように、生体親和性繊維14に例えば400kNの圧縮応力P1を加えた状態で、せん断方向への固定板10の移動を開始すると、同時にせん断応力P2が生じて、せん断加工が行われる。
【0061】
図5は、常温圧縮せん断加工で得られた圧縮繊維構造材1の一例である。圧縮繊維構造材1の大きさや厚さは特に限定されず、生体親和性繊維14を充填する貫通型12(図2参照)の大きさや、生体親和性繊維14の充填量によって調整できる。なお、図4では、圧縮応力P1として400kN(1000MPa)を加えた状態下で、せん断距離が0.4mmになるまでせん断応力を負荷した.このときせん断応力P2は最大で約250kNであり、その後0.2mmまで縮んだ。
【0062】
(圧縮繊維構造材)
上記方法で成形された圧縮繊維構造材1は、平均径が5〜50μmでアスペクト比が20〜500の生体親和性繊維14が焼結されずに圧し固められた構造材である。そして、その圧縮繊維構造材1を水銀圧入法で測定し、その結果得られた平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲であることに特徴がある。
【0063】
この圧縮繊維構造材1は、平均径とアスペクト比が上記範囲の生体親和性繊維14が焼結せずに圧し固められており、圧し固められた圧縮繊維構造材1が有する空孔の容積が上記範囲であるので、骨の強さに合わせた所望の機械的特性を有するものとなる。その結果、治療対象となる部位で強度に差がある場合や、子供、女性又は高齢者のように成人男子とは骨の強度に差がある場合であっても、それぞれの部位や人に対して使用可能な機械的特性を持つ圧縮繊維構造材1を成形できるので、極めて有効である。さらに、この圧縮繊維構造材1は、生体親和性繊維14の繊維自体が持つ高い生体親和性を有するとともに、上記範囲の平均空孔径及び空隙率を示す空隙が設けられているので、その空隙は、骨芽細胞の形成を促進して骨芽細胞の生成スピードを従来の2倍以上に増し、頭蓋骨欠損の補填や骨移植部分の整形を早め、早い回復を図ることができる。
【0064】
(空孔の容積)
圧縮繊維構造材1の平均空孔径と空隙率は、水銀圧入法での空孔分布測定によって得られる。水銀圧入法とは、多孔質粒子等の試料が有する空孔に圧力を加えながら水銀を圧入させ、その圧力と圧入された水銀量との関係から、比表面積や空孔径分布等の情報を得る手法である。具体的には、先ず、試料の入った容器内を真空排気した上で、容器内に水銀を満たす。水銀は表面張力が高く、そのままでは試料表面の空孔には水銀は圧入しないが、水銀に圧力をかけ、徐々に昇圧していくと、径の大きい空孔から順に径の小さい孔へと、徐々に空孔の中に水銀が圧入していく。圧力を連続的に増加させながら水銀液面の変化(つまり空孔への水銀圧入量)を検出していけば、水銀に加えた圧力と水銀圧入量との関係を表す水銀圧入曲線が得られる。
【0065】
ここで、空孔の形状を円筒状と仮定し、その半径をr(nm)、水銀の表面張力をδ(dyn/cm)、接触角をθ(°)とすると、空孔から水銀を押し出す方向への大きさは−2πrδ(cosθ)で表される(θ>90°なら、この値は正となる)。また、圧力Pの下で空孔に水銀を押し込む方向への力の大きさはπr2Pで表されることから、これらの力の釣り合いから以下の数式(1)、数式(2)が導かれることになる。水銀の場合、表面張力δ=480dyn/cm程度、接触角θ=140°程度の値が一般的に良く用いられる。これらの値を用いた場合、圧力Pの下で水銀が圧入される空孔の半径r(nm)は以下の数式(3)で表される。
【0066】
−2πrδ(cosθ)=πr2P …(1)
Pr=−2δ(cosθ) …(2)
r(nm)=(7.5×10)/P …(3)
【0067】
すなわち、水銀に加えた圧力Pと水銀が圧入する空孔の半径rとの間には相関があることから、得られた水銀圧入曲線に基づいて、試料の空孔半径の大きさとその体積との関係を表す空孔分布曲線を得ることができる。例えば、圧力Pを0.01MPaから500MPaまで変化させると、直径100μm程度から4nm程度までの範囲の空孔について測定が行えることになる。なお、水銀圧入法による空孔半径のおおよその測定限界は、下限が約2nm以上、上限が約200μm以下であり、窒素吸着法に比べて、空孔半径が比較的大きな範囲における空孔分布の解析に向いている。
【0068】
水銀圧入法による測定は、水銀ポロシメータ等の装置を用いて行うことができる。水銀ポロシメータの具体例としては、Micromeritics社製オートポア、Quantachrome社製ポアマスター等が挙げられる。
【0069】
測定される圧縮繊維構造材1の空孔は、平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲である。
【0070】
この範囲の空孔を持つ圧縮繊維構造材1は、骨芽細胞の形成を促進できる寸法の空隙を持っているとともに、その空隙を一定の割合で有しているので、その空隙で骨芽細胞の生成が容易に起こり、骨芽細胞の生成スピードを従来の2倍以上に増すことができる。その結果、頭蓋骨欠損の補填や骨移植部分の整形を早め、早い回復を図ることができる。さらに、この範囲の平均空孔径と空隙率を有する圧縮繊維構造材1は、強度が高すぎることがなく、柔軟性も有している。そのため、骨の強さに合わせた所望の機械的特性を有するものとなる。その結果、治療対象となる部位で強度に差がある場合や、子供、女性又は高齢者のように成人男子とは骨の強度に差がある場合であっても、それぞれの部位や人に対して使用可能な機械的特性を持つので極めて有効である。
【0071】
平均空孔径が60μm未満で空隙率も25%未満では、骨芽細胞の生成に必要な空隙が少なく、十分な骨芽細胞の生成が起こらないことがある。また、嵩密度が高くなって高強度になり、生体骨の強度から離れてしまうことがある。一方、平均空孔径が100μmを超え空隙率も50%を超えると、上記直径の空孔の容積が多くなって骨芽細胞の生成には十分ではあるが、嵩密度が小さくなって低強度又は脆くなってしまうことがある。
【0072】
圧縮繊維構造材1は、嵩密度で評価することもできる。上記した好ましい空孔の容積を備えた圧縮繊維構造材1の嵩密度は、原料とする生体親和性繊維14の比重の0.5倍〜1倍であることが好ましい。例えば生体親和性繊維14が比重4.5のチタン繊維である場合は、そのチタン繊維で製造した圧縮繊維構造材1の嵩密度は、2.2〜4.5g/cmの範囲であることが好ましい。この範囲の嵩密度は常温圧縮せん断加工によって制御することができ、その嵩密度を有する圧縮繊維構造材1は、内部に所定の空隙を有した構造材となっているので、強度が高すぎることがなく、柔軟性も有している。そのため、骨の強さに合わせた所望の機械的特性を有するものとなる。この嵩密度は、測定した試験片の質量を体積で除して求めた。具体的には、試験片には、例えば5mm角の正方形にワイヤカット放電で切り出したものを用いた。
【0073】
圧縮繊維構造材1の嵩密度が2.2g/cm未満では、嵩密度が小さくなって低強度又は脆くなってしまうことがある。一方、圧縮繊維構造材1の嵩密度が4.5g/cmを超えると、高強度になり、生体骨の強度から離れてしまうことがある。
【0074】
なお、水銀圧入法により測定される平均空孔径と空隙率は、上記した各種のパラメータを設定した常温圧縮せん断加工により、上記範囲内にコントロールできる。具体的には、生体親和性繊維14の種類、大きさ(平均径、アスペクト比)及び充填量と、圧縮せん断加工時の圧縮応力P1、せん断応力P2及びせん断ストローク長dとを制御することによって、上記範囲内にコントロールできる。
【0075】
このように、常温圧縮せん断加工では、圧縮応力P1、せん断応力P2及びせん断ストローク長等の加工条件を調整したり、生体親和性繊維14の充填量等を調整したりして、嵩密度や水銀圧入量で見積もられる圧縮繊維構造材1の空隙構造(平均空孔径と空隙率)と機械的特性を任意に設定でき、対象となる生体骨の強度に併せた圧縮繊維構造材1を製造できるという利点がある。
【0076】
以上説明したように、本発明に係る圧縮繊維構造材1の製造方法によれば、平均径とアスペクト比が上記範囲の生体親和性繊維14を用い、常温圧縮せん断加工により平均空孔径と空隙率が上記範囲になるように成形するので、製造された圧縮繊維構造材1は、繊維自体が持つ高い生体親和性を有するとともに、骨芽細胞の形成を促進できる空隙を持ち、且つ骨の強さに合わせた所望の機械的特性を持つ生体材料として利用できる。その結果、治療対象となる部位で強度に差がある場合であっても、生体骨に近い機械的特性を持つ圧縮繊維構造材1を容易に製造できる。また、得られた圧縮繊維構造材には、上記範囲の平均空孔径と空隙率を示す空隙が設けられているので、その空隙は、骨芽細胞の生成スピードを従来の2倍以上に増し、頭蓋骨欠損の補填や骨移植部分の整形を早め、早い回復を図ることができる。
【0077】
また、この発明で適用する常温圧縮せん断加工は、圧縮圧力、せん断ストローク長、せん断速度等を任意に設定することにより、得られる圧縮繊維構造材1の弾性、柔軟性等の機械的特性を変えることができるので、治療対象となる部位で強度に差がある場合や、子供、女性又は高齢者のように成人男子とは骨の強度に差がある場合であっても、それぞれの部位や人に対して使用可能な機械的特性を持つ圧縮繊維構造材1を容易に製造でき、極めて有効な手段である。そうした機械的特性としては、例えば患者の骨に近い強度や、強い箇所と弱い箇所が一体になっている場合は弱い箇所に応力が集中して破損し易いので、その破損を防ぐことが可能な任意の強度、等を挙げることができる。
【実施例】
【0078】
以下の各実験により、本発明を具体的に説明する。
【0079】
[圧縮繊維構造材の製造]
生体親和性繊維14として、純度99.52%(第一種)の純チタンからなる平均径約20μmの繊維状チタン(株式会社日工テクノ製)を使用した。チタン繊維は、厚さ20μmのチタン薄板をコイル状に巻き、その端面を切削して得るコイル材切削法により作製した。この生体親和性繊維14を、図3に示す常温圧縮せん断加工装置20で成形し、圧縮繊維構造材1を得た。
【0080】
具体的には、先ず、図2(A)に示す固定板10上に貫通穴13の形状が40mm×10mmで高さが15mmの貫通型12を設置し(図2(B)参照)、その貫通型12に生体親和性繊維14を充填した(図2(C))。次に、貫通型12を取り除き(図2(D))、固定板10を装置20に設置した後、生体親和性繊維14の上に移動板16を載せた(図2(E))。次に、装置20を作動させ、生体親和性繊維14に圧縮応力P1を負荷した(図2(F))。圧縮応力P1は、装置上部に設置したロードセル21を用いて測定した。次に、圧縮応力P1を負荷したまま、横方向に移動板16を移動させ、生体親和性繊維14にせん断応力P2を負荷することで、図5に例示する圧縮繊維構造材1を製造した(図2(G)(H))。せん断ストローク長dは変位計25を用いて測定し、せん断応力P2はねじと移動板16の間に配置した円柱に貼り付けた4枚のひずみゲージ23(株式会社共和電業型、式:KGF−2−120−C1−11)を用いて、4アクティブゲージ法(直交配置法)で測定した。得られた圧縮繊維構造材1は、厚さ0.5mm×43mm×13mmであった。
【0081】
[骨芽細胞培養実験]
作製した圧縮繊維構造材1での骨芽細胞の挙動を調べるために、圧縮繊維構造材1の表面での骨芽細胞培養実験を行った。培養に用いた圧縮繊維構造材1は、上記した製造手順で、表1に示す製造条件で得た。
【0082】
【表1】

【0083】
骨芽細胞培養実験は、得られた圧縮繊維構造材1を直径10mmの円盤状に加工し、加工後の試料表面に骨芽細胞(Osteoblast)、軟骨細胞(Chondrocyte)、繊維芽細胞(Fibroblast)を各3500(Cells)散布し、168時間(一週間)培養を行った。培養の後、DAPI染色法により細胞数を算出した。その結果を表2に示す。表2より、試料表面での各細胞は、減少することはなく経時的に増加した。各細胞の中で、骨芽細胞は最も多く増加した。この結果より、作製した圧縮繊維構造材1は生体材料として利用できることが明らかになった。
【0084】
【表2】

【0085】
図6は、培養開始から24時間経過した後の試料表面のSEM画像である。図6(A)に示すように、試料表面においてチタン繊維の繊維形状の残る部分では骨芽細胞が多く増加し、図6(B)に示すように、繊維形状の残らない平滑な部分では骨芽細胞があまり増加しなかった。骨芽細胞培養実験により、常温圧縮せん断加工法によって作製された圧縮繊維構造体1の表面では、骨芽細胞の増加が認められた。また、圧縮繊維構造体1の表面粗さが均一である場合に、骨芽細胞が均一に増加した。
【0086】
[アスペクト比の影響]
アスペクト比の異なるチタン繊維を用いて圧縮繊維構造体1を作製し、機械的性質に及ぼす影響を検討した。機械的特性として、表面観察、表面粗さ測定、引張試験、曲げ試験、及び密度測定を行った。
【0087】
(成形条件と圧縮繊維構造体外観図)
表3は、作製した圧縮繊維構造体1の製造条件である。図7は得られた圧縮繊維構造体1の外観写真である。図7より、アスペクト比(AR)の上昇に伴って圧縮繊維構造体1の外形寸法が大きくなった。これは、アスペクト比が大きい場合、常温圧縮せん断加工時のチタン繊維の嵩が大きく、圧縮荷重P1を負荷した際にはみ出したためであると考えられる。図7より、はみ出した部分は肉眼でも確認できるほどの繊維形状を残しており、均一に板状となっている中央部分とは異なっていた。均一に板状に成形されている面の大きさは、アスペクト比による違いはなく、成形に用いる貫通型の穴形状である10mm×40mm程度であった。
【0088】
【表3】

【0089】
図8は、表3で得られた圧縮繊維構造体1の表面の光学顕微鏡写真である。図8より、圧縮繊維構造体1は繊維形状を残した表面を有していることがわかった。また、常温圧縮せん断加工によってチタン繊維は破断せず、アスペクト比の上昇に伴い圧縮繊維構造体1の表面で確認できる繊維が長くなっていることがわかった。アスペクト比AR=25のものは繊維長が500μmであるため、凹凸の方向性が最も小さく、骨芽細胞がより均一に増加すると考えられる。
【0090】
(表面粗さ)
図8に示した圧縮繊維構造体1の表面性状を評価するために、表面粗さ測定を行った。測定には超深度形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製、型番:VK−8500)を用い、対物レンズ:10倍、測定ピッチ:0.05mm、基準長さ:1000μmの測定条件で、せん断方向の測定とそれに垂直な方向の測定とを行った。
【0091】
アスペクト比25の場合でのせん断方向とそれに垂直な方向による算術平均粗さRaはいずれも約8.8μmであり、アスペクト比100の場合でのせん断方向とそれに垂直な方向による算術平均粗さRaはいずれも約5.6μmであり、アスペクト比250の場合でのせん断方向とそれに垂直な方向による算術平均粗さRaはいずれも約5μmであり、アスペクト比500の場合でのせん断方向とそれに垂直な方向による算術平均粗さRaはいずれも約5.7μmであった。また、作製した圧縮繊維構造体は、骨芽細胞培養実験に用いた圧縮繊維構造体と比較して算術平均粗さRaの誤差が小さく、均一な粗さの表面を得ることができた。また、せん断方向とそれに垂直な方向による算術平均粗さRaの違いはほとんど見られず、圧縮繊維構造体の凹凸は等方的であった。さらに、アスペクト比AR=25の圧縮繊維構造体は算術平均粗さRaが最も大きな値となったため、骨芽細胞培養実験において骨芽細胞の増加数の向上が期待できた。なお、算術平均粗さRaは、JIS B 0601−1994に準拠して評価した。
【0092】
(断面形態)
図9は、圧縮繊維構造体の断面のSEM写真である。図9より、圧縮繊維構造体は内部に空隙を有しており、繊維同士の結合はなく、繊維同士が絡み合っていることが確認できた。繊維同士の結合がなかった原因としては、所定量の空隙を有する本発明の圧縮繊維構造体を得るためには、圧縮荷重が低く、せん断距離も小さくて十分であるためである。
【0093】
(引張試験)
引張試験は、旧JIS Z 2201に準拠し、小型卓上試験機(株式会社島津製作所製、型式:EZ−L−500N)を用いて、試験速度0.5mm/分、室温(25℃)で行った。試験片は、7号試験片に準拠して作製した。試験片の平行部にひずみゲージ(株式会社共和電業製、KGF−2−120−C1−11)を貼り付け、試験時のひずみを測定し、ヤング率の導出に用いた。図10は、試験によって得られた応力−ひずみ線図である。図10より、常温圧縮せん断加工法によって得られた圧縮繊維構造体は、アスペクト比の増加に伴い引張強さ、及び伸びが上昇しているが、アスペクト比AR=250以上では引張強さは上昇しなかった。
【0094】
表4は、アスペクト比の異なる繊維で作製した圧縮繊維構造体のヤング率と引張強さの結果である。表4中には、比較材として厚さ0.5mmの純チタン圧延材(TP 340 C)と緻密骨の値も併せて示した。作製した圧縮繊維構造体のヤング率は、表4に示すように、アスペクト比の変化によって多少の変化が見られたが、20〜30GPa程度の一定な値となった。なお、純チタン圧延材のヤング率は98.6GPaであり、緻密骨のヤング率は10〜17GPaであるため、圧縮繊維構造体のヤング率は、純チタン圧延材の約1/3倍、緻密骨の約1.7倍程度であることがわかった。一方、引張強さは、表4に示すように、純チタン圧延材が438MPaで、緻密骨が88〜114MPaであり、アスペクト比の増加に伴って緻密骨以下の値(約70MPa)から、同程度(約100MPa)、及び緻密骨以上の値(約120MPa)へと変化することがわかった。
【0095】
【表4】

【0096】
(3点曲げ試験)
3点曲げ試験は、JIS K 7171に準拠し、小型卓上試験機(株式会社島津製作所製、型式:EZ−L−500N)を用いて、支点間距離6.0mm、試験速度0.5mm/分、室温(25℃)で測定した。作製した試験片の中央部にひずみゲージ(株式会社共和電業製、型式:KGF−02−120−C1−11)を貼り付け、試験時のひずみを測定し、曲げ弾性率の導出に用いた。図11は、試験によって得られた応力−ひずみ線図である。なお、応力σの算出式を式(4)に、応力−ひずみ線図作成に用いた曲げひずみεの算出式を式(5)に示す。式(4)中、σ(MPa)は曲げ応力、F(N)は試験力、L(mm)は支点間距離、b(mm)は試験片の幅、t(mm)は試験片の厚さであり、式(5)中、ε(%)は曲げひずみ、s(mm)はたわみ、t(mm)は試験片の厚さ、L(mm)は支点間距離である。
【0097】
σ(MPa)=3FL/2bt …(4)
ε(%)=600st/L …(5)
【0098】
図11には、比較材として厚さt=0.5mmの純チタン圧延材(TP 340 C)の試験結果も併せて示した。図11より、常温圧縮せん断加工法で得られた圧縮繊維構造体は、アスペクト比の異なる生体親和性繊維を用いた場合であっても、いずれもほぼ同じ挙動を示し、純チタン圧延材の場合と比較して低い曲げ弾性率と曲げ強さとなった。表5は、アスペクト比の異なる繊維で作製した圧縮繊維構造体の曲げ弾性率と曲げ強さの結果である。表5中には、比較材として厚さt=0.5mmの純チタン圧延材(TP 34 C)と緻密骨の値も併せて示した。
【0099】
曲げ弾性率及び曲げ強さ共に、アスペクト比の変化によって多少の変化が見られたが、ほぼ一定な値となり、それぞれ30GPa、310MPa程度となった。純チタン圧延材の曲げ弾性率は99.7GPaで、緻密骨は10〜17GPaであるため、純チタン圧延材の約1/3倍、緻密骨の約1.7倍程度であることがわかった。一方、曲げ強さは純チタン圧延材が1070MPa、緻密骨は100〜200MPaであり、常温圧縮せん断加工法によって得られた圧縮繊維構造体は純チタン圧延材の約1/3倍、緻密骨の1.5〜3倍となった。
【0100】
【表5】

【0101】
(嵩密度)
嵩密度の測定は、測定した試験片の質量を体積で除して求めた。試験片には、得られた圧縮繊維構造体をワイヤカット放電を用いて5mm角の正方形に切り出したものを使用した。比較材として厚さ0.5mmの純チタン圧延材を測定した。その結果、純チタン圧延材は4.35g/cmとなり、作製した圧縮繊維構造体は、アスペクト比にかかわらず、純チタン圧延材の約0.85倍の3.7g/cm程度で一定であった。
【0102】
[空隙率測定]
圧縮繊維構造体の平均空孔径と空隙率が骨芽細胞の内部成長に影響するため、水銀圧入試験によって平均空孔径と空隙率の測定を行った。水銀圧入試験は、圧入圧力に応じて試料空隙に圧入する水銀量を計測するものである。試験結果として得られる水銀の圧入圧力を式(6)に示すWashburn式に適用することで空隙の半径を求めることができる。
【0103】
Pc=−(2Φcosθ)/r …(6)
【0104】
式(6)中、Pcは水銀圧入試験における圧入圧力に相当する。rは圧入圧力Pcに応じて水銀が圧入することのできる円筒形とモデル化された空隙の半径であり、θは水銀と円筒形空隙界面との接触角度であり、Φは水銀の界面エネルギー(界面張力)である。式(6)を用いて試験結果の圧入圧力を円筒形空隙半径に換算し、水銀圧入量を直接その円筒形空隙に対応した空隙容量と位置づけることによって空隙の分布を求めた。なお、ここでは最大直径30μmまで測定した。図12は、圧縮繊維構造体の水銀圧入試験の結果から導出した空隙率と空孔径の関係を示すグラフである。図12より、圧縮繊維構造体は内部に空孔を有しており、最大で直径30μm程度の空孔が存在していた。
【0105】
図13は、水銀に加えた圧力と水銀圧入量との関係を表す水銀圧入曲線を示すグラフである。図13より、水銀に加えた圧力を増すと、水銀圧入量は約0.2MPaまで上昇したが、約0.2MPaから100MPaまでほぼ変わらずに一定の値を示した。その後、100MPaを超えた圧力で再度上昇した。アスペクト比が大きい生体親和性繊維を用いた圧縮繊維構造体の方が、高い水銀圧入量を示し、例えば約0.2MPaから100MPaまでの一定領域では、アスペクト比25の場合が約77mm/g、アスペクト比100の場合が約90mm/g、アスペクト比250の場合が約105mm/g、アスペクト比500の場合が約120mm/gであった。
【0106】
表6は、アスペクト比の異なる異生体親和性繊維で成形した各圧縮繊維構造体の平均空孔径と空隙率であり、図13の水銀圧入曲線から得られた結果である。これらの結果から、圧縮繊維構造体内の平均空孔径の割合は、いずれのアスペクト比の場合であっても、平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲であることが確認できた。なお、空隙率は、アスペクト比の増加に伴い増す傾向があった。表6には、水銀総圧入量と総表面積についても示した。その結果より、アスペクト比の増加に伴って、水銀総圧入量と総表面積は、いずれも増加傾向にあることがわかった。
【0107】
【表6】

【0108】
[作用効果]
以上説明したように、本発明では、常温圧縮せん断加工法を用いてチタン繊維等の生体親和性繊維を薄板状に成形し、圧縮繊維構造体上での骨芽細胞の挙動と、成形時におけるチタン繊維のアスペクト比の変化による機械的性質への影響を調べたところ、以下のことが明らかになった。
(1)骨芽細胞培養実験を行った結果、圧縮繊維構造体表面において骨芽細胞が経時的に増加することが認められた。また、繊維形状の残る部分と、繊維形状の残らない平滑な部分では骨芽細胞の挙動が異なり、繊維形状の残る部分でより多くの骨芽細胞が増加した。
(2)アスペクト比を変化させて成形を行った圧縮繊維構造体の表面は、骨芽細胞培養実験に用いた圧縮繊維構造体と比較して均一、かつ等方的な凹凸を有することがわかった。
(3)引張強さはアスペクト比の増加に伴い上昇し、アスペクト比AR=250以上では変化しないことがわかった。
(4)曲げ弾性率と曲げ強さは純チタン圧延材の約1/3倍、緻密骨の1.7倍程度であることがわかった。
【0109】
以上のことから、常温圧縮せん断加工法を用いて作製したチタン繊維薄板上での骨芽細胞は経時的な増加が確認され、また、圧延材と比較して生体骨に近い機械的性質を有していた。中でもチタン繊維のアスペクト比が25の圧縮繊維構造体が最も生体骨に近いものとなり、骨移植部の固定用などの生体材料として有望であった。特に、圧縮繊維構造体は、柔軟性があるため手で骨に巻き付ける等が容易で、施術が容易になるという利点がある。また、従来の生体材料と比べ、骨芽細胞の成長が2倍速いため治癒する時間が2分の1になるという利点も確認された。
【0110】
本発明で適用する圧縮せん断加工法は、チタン繊維等の生体親和性繊維を重ねて行なうと結合されるので、厚さを変えることが容易であった。そして、作製された薄板状の圧縮繊維構造体は、用途により、強度を要求されるものと、骨に近い強度を要求される場合とがあるが、それぞれの要求に対して容易に対応できるという利点がある。
【0111】
[複合化した圧縮繊維構造材の製造]
チタン繊維とマグネシウム粉末とを複合化させた圧縮繊維構造材1についての具体例を挙げる。
【0112】
(複合化原料)
チタン繊維として、純度99.52%(第一種)の純チタンからなる平均径約20μmの繊維状チタン(株式会社日工テクノ製)を使用した(図14(A)を参照)。チタン繊維は、厚さ20μmのチタン薄板をコイル状に巻き、その端面を切削して得るコイル材切削法により作製した。マグネシウム粉末として、純度99.6%、平均粒径106μmの粉末状マグネシウム(株式会社関東金属製)を使用した(図14(B)を参照)。
【0113】
(常温圧縮せん断加工)
チタン繊維とマグネシウム粉末とを複合化させた。先ず、チタン繊維を、図3に示す常温圧縮せん断加工装置20で成形し、チタン繊維の一次圧縮成形体を得た。具体的には、先ず、図2(A)に示す固定板10上に貫通穴13の形状が40mm×10mmで高さが15mmの貫通型12を設置し(図2(B)参照)、その貫通型12にチタン繊維を充填した(図2(C))。次に、貫通型12を取り除き(図2(D))、固定板10を装置20に設置した後、チタン繊維の上に移動板16を載せた(図2(E))。次に、装置20を作動させ、チタン繊維に圧縮応力P1(圧縮応力:1250MPa、圧縮荷重:500kN)を負荷した(図2(F))。圧縮応力P1は、装置上部に設置したロードセル21を用いて測定した。次に、圧縮応力P1を負荷したまま、横方向に移動板16を移動させ(せん断速度:1mm/分、せん断距離:0.25mm)、チタン繊維にせん断応力P2を負荷することで、チタン繊維の一次圧縮成形体を作製した(図2(G)(H))。せん断ストローク長dは変位計25を用いて測定し、せん断応力P2はねじと移動板16の間に配置した円柱に貼り付けた4枚のひずみゲージ23(株式会社共和電業型、式:KGF−2−120−C1−11)を用いて、4アクティブゲージ法(直交配置法)で測定した。得られたチタン繊維の一次圧縮成形体は、厚さ0.5mm×43mm×13mmであった。
【0114】
チタン繊維の一次圧縮成形体を、上下からマグネシウム粉末を挟んで二次成形を行った。二次成形は、三層構造に重ねた後、上記同様の常温圧縮せん断加工装置にセットし、圧縮応力P1(圧縮応力:1250MPa、圧縮荷重:500kN)を負荷し、その圧縮応力P1を負荷したまま、横方向に移動板16を移動させ(せん断速度:5mm/分、せん断距離:5mm)、三層構造の二次圧縮成形体を作製した。図14(C)は、チタン繊維とマグネシウム粉末とを複合化させた圧縮繊維構造材(二次圧縮成形体)の一例を示す模式的な断面図である。得られた二次圧縮成形体は、厚さ( )mm×43mm×13mmであった。なお、二次圧縮成形体を構成するチタン繊維とマグネシウム粉末との質量割合は、チタン繊維95体積%、マグネシウム粉末5体積%を目処として作製した。
【0115】
(溶解試験と溶解試験後の強度)
得られた圧縮繊維構造材の溶解試験を、JIS H 0541に準拠し、塩化ナトリウム0.9vol.%の生理食塩水(35℃)を用い、0分、30分、60分、180分、300分、及び600分で行った。開始から約30分間で圧縮繊維構造材から気泡が発生した。溶解試験後には、圧縮繊維構造材の表面に空孔が見られ、マグネシウムの溶解が確認された。
【0116】
溶解試験後の機械的特性を引張試験により得た。引張試験は、旧JIS Z 2201に準拠し、小型卓上試験機(株式会社島津製作所製、型式:EZ−L−500N)を用いて、試験速度0.5mm/分、室温(25℃)で行った。試験片は、7号試験片に準拠して作製した。試験片の平行部にひずみゲージ(株式会社共和電業製、KGF−2−120−C1−11)を貼り付け、試験時のひずみを測定し、ヤング率の導出に用いた。
【0117】
表7は、溶解試験の経過時間での引張強さとヤング率の結果である。複合化した圧縮繊維構造材は、溶解時間が長くなるにしたがって強度が低下し、特に当初は生体骨のヤング率よりも大きい値を示したが、時間の経過に伴って生体骨と同じヤング率に変化した。このように、マグネシウム成分の溶解により、生体骨と同程度の機械的特性に変化した。
【0118】
【表7】

【0119】
こうした圧縮繊維構造材は、チタン繊維とマグネシウム粉末とを常温圧縮せん断加工で複合化した点に特徴があり、チタン繊維とマグネシウム粉末の機能を保持させたまま所望の強度を付与できる。そして、複合化した圧縮繊維構造材は、初期の埋込時には埋込に必要な強度を確保でき、埋込後にはマグネシウム成分の溶解により生体骨の強度に近づけることができる。しかも、チタン繊維を母材としているので、マグネシウム成分が溶解した後であっても所望の強度を維持することができる。また、マグネシウムは生体親和性を有するので、人体に対する悪影響もない。
【符号の説明】
【0120】
1 圧縮繊維構造材
10 固定板
12 貫通型
13 貫通穴
14 生体親和性繊維
16 移動板
20 常温圧縮せん断加工装置
21 ロードセル
23 ひずみゲージ
25 変位計
31〜34 プレート
P1 圧縮応力
P2 せん断応力
d 断ストローク長
A 生体親和性繊維の充填高さ
A 生体親和性繊維の充填長さ
B 圧縮繊維構造材の厚さ
B 圧縮繊維構造材の長さ





【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均径が5〜50μmでアスペクト比が20〜500の生体親和性繊維を準備する工程と、前記生体親和性繊維を常温圧縮せん断加工して、水銀圧入法での測定により得られた平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲となる圧縮繊維構造材を成形する工程と、を有することを特徴とする圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項2】
前記常温圧縮せん断加工を、200〜2000MPaの範囲の圧縮圧力と、0.2〜5mmの範囲のせん断ストローク長と、0.5〜5mm/分の範囲のせん断速度とを制御して行う、請求項1に記載の圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項3】
嵩密度が3〜5g/cmの範囲である、請求項1又は2記載の圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項4】
前記生体親和性繊維としてチタン繊維を用い、さらにマグネシウム繊維、ステンレススチール繊維及びコバルトクロム合金繊維から選ばれる繊維、又は、チタン粉末、マグネシウム粉末、ステンレススチール粉末及びコバルトクロム合金粉末から選ばれる粉末を複合させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項5】
平均径が5〜50μmでアスペクト比が20〜500の生体親和性繊維が焼結されずに圧し固められた構造材であって、水銀圧入法での測定により得られた平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲であることを特徴とする圧縮繊維構造材。
【請求項6】
前記生体親和性繊維が、チタン繊維、マグネシウム繊維、ステンレススチール繊維及びコバルトクロム合金繊維から選ばれる生体親和性繊維である、請求項5に記載の圧縮繊維構造材。
【請求項7】
嵩密度が3〜5g/cmの範囲である、請求項5又は6に記載の圧縮繊維構造材。
【請求項8】
前記生体親和性繊維としてチタン繊維を用い、さらにマグネシウム繊維、ステンレススチール繊維及びコバルトクロム合金繊維から選ばれる繊維、又は、チタン粉末、マグネシウム粉末、ステンレススチール粉末及びコバルトクロム合金粉末から選ばれる粉末を複合させる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の圧縮繊維構造材。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図14】
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