説明

圧電アクチュエーター、ロボットハンド、及びロボット

【課題】小型軽量で温度上昇を抑えて安定駆動することができる圧電アクチュエーターを実現する。
【解決手段】圧電アクチュエーター100は、圧電素子11を含む長方形の振動体1と、圧電素子11に駆動信号を供給する駆動回路26と、駆動信号と振動体1の振動に基づいて検出される検出信号との位相差を検出する位相差検出回路27と、駆動信号の周波数及び電力を制御する周波数制御器20とを備え、周波数制御器20は、周波数を変化させて、位相差が所定の範囲内となった場合に、周波数の値を第1の周波数記憶値として記憶し、電圧を上限電圧値に設定し、周波数を調整して位相差を所定の範囲内に保つ制御を行い、周波数が、第1の周波数記憶値から、振動体1の共振周波数の温度特性に基づいて予め定められた第1の値を超えて変化した場合に、周波数の値を第2の周波数記憶値として記憶し電圧を上限電圧値よりも小さい下限電圧値に設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエーター、ロボットハンド、及びロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を含む振動体の共振を利用する圧電アクチュエーターが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような圧電アクチュエーターでは、制御部が、振動体に供給する駆動信号の周波数を共振周波数に近付けるとともに、駆動信号と振動体の振動状態から得られる検出信号との位相差が駆動に適した値でほぼ一定になるように制御することで、被駆動体が安定して回転する安定駆動状態が維持される。
【0003】
特許文献1に記載の圧電アクチュエーター(超音波モーター)は、駆動回路のスイッチング手段及びトランスの温度を検出する温度センサー(サーミスター)を備えており、スイッチング手段やトランスの温度が一定温度以上に上昇した場合、出力を停止させるか低下させることにより温度上昇を防止して、信頼性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−092869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、振動体の共振周波数は、周囲の温度や負荷等の変化によって変動し、温度が高くなると低くなる。共振周波数が低くなると、振動体の振幅が小さくなり、被駆動体の回転速度が低下する。そこで、回転速度を維持するために駆動信号の電力を上昇させると、振動体が発熱してさらに温度が高くなってしまい、共振周波数がさらに低くなることが繰り返されるという負の制御連鎖に陥り振動体が損傷してしまう場合がある。
【0006】
これに対して、特許文献1に記載の圧電アクチュエーターでは、振動体の温度を検出する温度センサーは備えていないので、振動体の温度上昇を検出することはできないという課題がある。また、振動体の温度を検出する温度センサーを備えた構成にするとしても、温度センサーを備えていない場合に比べて、制御部の回路構成が複雑になり、圧電アクチュエーターの小型化や軽量化が困難になるとともに、コストの上昇を招いてしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る圧電アクチュエーターは、圧電素子を含む長方形の振動体と、前記圧電素子に駆動信号を供給する駆動部と、前記駆動信号と、前記振動体の振動に基づいて検出される検出信号と、の位相差を検出する位相差検出部と、前記駆動信号の周波数及び電力を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記周波数を変化させて前記位相差が所定の範囲内となった場合に、前記周波数の値を第1の周波数記憶値として記憶し、前記電力を所定の値に設定し、前記周波数を調整して前記位相差を前記所定の範囲内に保つ制御を行い、前記周波数が、前記第1の周波数記憶値から、前記振動体の共振周波数の温度特性に基づいて予め定められた第1の値を超えて変化した場合に、前記電力を前記所定の値よりも小さい値に設定することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、駆動信号の周波数を変化させるスイープ制御により位相差が所定の範囲内となった場合に駆動信号の電力を所定の値に設定し、周波数が第1の周波数記憶値から第1の値を超えて変化した場合に電力を所定の値よりも小さい値に設定する。このため、圧電アクチュエーターが安定動作する所定の位相差範囲に達した場合の周波数の値と、圧電アクチュエーターが安定動作できる上限温度に対応する周波数の値との差異量を予め第1の値と定めておくことで、振動体の共振周波数の温度特性に基づいて、周波数が、所定の位相差範囲に達した場合の値である第1の周波数記憶値から第1の値を超えて変化した場合に、圧電アクチュエーターの温度が安定動作できる温度範囲の上限に達している可能性が高いことが推測できる。このような場合に、電力を所定の値よりも小さい値に設定するので、圧電アクチュエーターの温度上昇を抑えることができる。これにより、圧電アクチュエーターを安定動作させることができる。また、周波数の変化量から温度上昇を推測できるため、温度センサーを不要にできるので、圧電アクチュエーターの小型化や軽量化を容易に実現できる。
【0010】
[適用例2]上記適用例に係る圧電アクチュエーターであって、前記制御部は、前記周波数が前記第1の周波数記憶値から前記第1の値を超えて変化した場合に、前記周波数の値を第2の周波数記憶値として記憶し、前記周波数が、前記第2の周波数記憶値から、前記温度特性に基づいて予め定められた第2の値を超えて変化した場合に、前記電力をゼロに設定することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、圧電アクチュエーターが安定動作できる上限温度に対応する周波数の値と、圧電アクチュエーターが正常動作できる上限温度に対応する周波数の値との差異量を予め第2の値と定めておくことで、振動体の共振周波数の温度特性に基づいて、周波数が、安定動作できる上限温度に達した場合の値である第2の周波数記憶値から第2の値を超えて変化した場合に、圧電アクチュエーターの温度が正常動作できる温度範囲の上限に達している可能性が高いことが推測できる。このような場合に、電力をゼロに設定するので、圧電アクチュエーターのさらなる温度上昇を抑えることができ、圧電アクチュエーターの異常動作や破壊等の発生を抑えることができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例に係る圧電アクチュエーターであって、前記制御部は、前記振動体の長辺方向に沿って伸縮する縦振動の前記共振周波数及び短辺方向に沿って伸縮する屈曲振動の前記共振周波数のうち、インピーダンスが高い前記共振周波数側からインピーダンスが低い前記共振周波数側に前記周波数を変化させることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、インピーダンスが高い共振周波数側から低い共振周波数側に周波数を変化させるので、スイープ制御において、インピーダンスが低い共振周波数を通過する可能性を小さくできる。これにより、圧電アクチュエーターの電流の過度の増加と、電流の増加に伴う温度上昇を避けることができる。
【0014】
[適用例4]本適用例に係るロボットハンドは、上述の圧電アクチュエーターを備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、動作を安定した状態で行う小型軽量の圧電アクチュエーターを備えているので、部材を把持する指の回動動作を安定した状態で行う小型軽量のロボットハンドを提供できる。
【0016】
[適用例5]本適用例に係るロボットは、上述のロボットハンドを備えたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、部材を把持する指の回動動作を安定した状態で行う小型軽量のロボットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの構成を示す模式図。
【図2】第1の実施形態に係る振動体の振動挙動を説明する図。
【図3】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの駆動制御装置の構成を示すブロック図。
【図4】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの状態遷移を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの駆動周波数を説明する図。
【図6】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの駆動制御の例を説明する図。
【図7】第2の実施形態に係るロボットハンドの構成を示す模式図。
【図8】第3の実施形態に係るロボットの構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態である圧電アクチュエーターについて図面を参照して説明する。なお、参照する各図面において、構成をわかり易く示すため、各構成要素の寸法の比率、角度等が異なる場合がある。
【0020】
(第1の実施形態)
<圧電アクチュエーター>
まず、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの概略構成を説明する。図1は、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの構成を示す模式図である。詳しくは、図1(a)は圧電アクチュエーターの平面図であり、図1(b)は圧電アクチュエーターの側面図である。
【0021】
図1(a),(b)に示すように、圧電アクチュエーター100は、振動体1と、ローター2と、保持部材3と、付勢バネ4と、基台18と、駆動制御装置30(図3参照)とを備えている。圧電アクチュエーター100は、被駆動体として回転するローター2を備える圧電モーターである。振動体1、ローター2、保持部材3、及び付勢バネ4は、基台18に設置されている。
【0022】
図1(a)に示す平面視で、振動体1は、短辺1aと長辺1bとを有する略長方形状である。以下の説明では、短辺1aに沿った方向を短手方向と呼び、長辺1bに沿った方向を長手方向と呼ぶ。図1(b)に示すように、振動体1は、振動板10と、振動板10の表裏両面にそれぞれ配置された1対の圧電素子11と、が積層された積層体である。
【0023】
振動板10は、金属や樹脂等の剛性のある材料で形成された板状部材からなり、例えば、導電性を有するステンレス鋼で形成されている。1対の圧電素子11は、接着剤や合金ろう材等の固着手段によって、振動板10に固着されている。圧電素子11は、圧電体層13と、第1電極12と、第2電極14と、で構成される。
【0024】
圧電体層13は、板状に形成されている。圧電体層13は、電気機械変換作用を示す圧電材料からなり、例えば、一般式ABOで示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物を材料として形成されている。このような金属酸化物としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)等があげられる。
【0025】
第1電極12は、圧電体層13の振動板10側に設けられており、圧電体層13の略全面に亘って形成されている。第1電極12は、圧電素子11における共通電極となっている。1対の圧電素子11の第1電極12同士は、振動板10を介して電気的に接続されている。第1電極12及び第2電極14は、Ni,Au,Ag等の導電性金属を材料として、蒸着、スッパッタリング等により形成されている。
【0026】
第2電極14は、圧電体層13の第1電極12とは反対側に設けられており、溝部によって面内方向で複数に分割されている。図1(a)に示すように、この溝部は、第2電極14を圧電素子11の短手方向において略3等分し、その3つに分割された電極のうち短手方向両外側の2つの電極を、長手方向においてさらに略2等分するように形成されている。これにより、第2電極14は、電極部14a,14b,14c,14d,14eの5つの電極部に分割されている。電極部14a,14b,14c,14d,14eは、個別電極として互いに電気的に隔離されている。
【0027】
第2電極14の5つの電極部のうち、短手方向中央部に配置された電極部14aは、縦振動用電極として機能する。電極部14aの短手方向両外側に、電極部14aを挟んで対角となるように配置され対を成す電極部14b及び電極部14eは、第1屈曲振動用電極として機能する。また、電極部14aを挟んで電極部14b,14eと交差する対角となるように配置され対を成す電極部14c及び電極部14dは、第2屈曲振動用電極として機能する。
【0028】
圧電素子11において、電極部14aが配置された領域が、圧電素子11の長手方向に縦振動を励起する縦振動励起領域となっている。これに対して、縦振動励起領域の短手方向両側の電極部14b,14eが配置された領域、及び電極部14c,14dが配置された領域が、それぞれ圧電素子11の短手方向に屈曲振動を励起する屈曲振動励起領域となっている。
【0029】
なお、第1電極12及び第2電極14(電極部14a,14b,14c,14d,14e)は、図示しない電極配線等を介して、駆動制御装置30に電気的に接続されている。駆動制御装置30は、圧電素子11を制御する駆動信号を供給するとともに、圧電アクチュエーター100を高効率かつ安定した状態で駆動するため、駆動信号の周波数及び電力を制御する。
【0030】
振動板10は、長手方向の一端側に、圧電素子11よりもローター2側に突出するように、延設された摺動部15を有している。摺動部15は、ローター2の側面(円周面)に当接している。
【0031】
また、振動板10は、長手方向中央部に、短手方向両外側に向かって延設された一対の腕部16を有している。腕部16には厚さ方向に貫通する貫通孔が設けられており、貫通孔を挿通させたネジを介して、腕部16が保持部材3に固定されている。これにより、振動体1は、保持部材3に対して、腕部16を基点として縦振動及び屈曲振動が可能な状態で保持される。
【0032】
ローター2は、円盤形状を有しており、振動体1の摺動部15が設けられた側に配置されている。ローター2は、基台18に立設された棒状の軸2aを回転中心として、回転自在に保持されている。ローター2の回転速度は、ローター2に近い位置に設置された光方式や磁気方式の回転センサー(図示省略)により、検出することができる。
【0033】
基台18は、一対のスライド部18aを有している。一対のスライド部18aは、振動体1に対して、短手方向の両外側に、長手方向に沿って延在して配置されている。保持部材3は、基台18に対して、スライド部18aに沿ってスライド移動可能に支持されている。
【0034】
保持部材3のローター2とは反対側と基台18との間には、付勢バネ4が設置されている。付勢バネ4は、保持部材3を介して振動体1をローター2に向けて付勢し、この付勢力により、摺動部15がローター2に所定の力で当接する。付勢バネ4の付勢力は、ローター2と摺動部15との間で適切な摩擦力が発生するように適宜設定されている。これにより、振動体1の振動が、摺動部15を介してローター2に効率よく伝達される。
【0035】
なお、圧電アクチュエーター100は、ローター2の回転を増速又は減速して伝達する増減速機構をさらに備えていてもよい。増減速機構を備えていると、ローター2の回転速度を増速又は減速して所望の回転速度を容易に得ることができる。
【0036】
続いて、圧電アクチュエーター100の動作を説明する。図2は、第1の実施形態に係る振動体の振動挙動を説明する図である。詳しくは、図2(a)は、第1電極12(図1(b)参照)と第2電極14の電極部14a,14b,14eとの間に駆動信号を供給した場合の、振動体1の振動状態を示す図である。また、図2(b)は、第1電極12と第2電極14の電極部14a,14c,14dとの間に駆動信号を供給した場合の、振動体1の振動状態を示す図である。
【0037】
図2(a)に示す振動状態では、縦振動用電極である電極部14aに対して駆動信号が供給されることにより、振動体1に、長手方向に沿って伸縮する縦振動が励振されるとともに、第1屈曲振動用電極である電極部14b,14eに対して駆動信号が供給されることにより、振動体1に、短手方向に沿って屈曲する屈曲振動が励振される。このような縦振動と屈曲振動とが合成されて、2点鎖線で示す振動が振動体1に励振されることにより、摺動部15は、時計回りの楕円軌道R1を描くように摺動する。これにより、ローター2が、図1(a)に矢印で示すように、反時計回りに回転する。
【0038】
このとき、振動体1(圧電素子11)は、駆動信号が供給されない第2屈曲振動用電極(電極部14c,14d)の領域においても振動する。この振動により、圧電素子11が第2屈曲振動用電極の領域において電気を発生し、電極部14c,14dから振動に応じた検出信号(交流電流)が出力される。
【0039】
図2(b)に示す振動状態では、縦振動用電極である電極部14aに対して駆動信号が供給されることにより、振動体1に、長手方向に沿って伸縮する縦振動が励振されるとともに、第2屈曲振動用電極である電極部14c,14dに対して駆動信号が供給されることにより、振動体1に、短手方向に沿って屈曲する屈曲振動が励振される。このような縦振動と屈曲振動とが合成されて、2点鎖線で示す振動が振動体1に励振されることにより、摺動部15は、楕円軌道R1とは線対称に傾斜し反時計回りの楕円軌道R2を描くように摺動する。これにより、ローター2が、図1(a)に示す矢印とは反対の、時計回りに回転する。
【0040】
このとき、振動体1が振動することにより、圧電素子11は、駆動信号が供給されない第1屈曲振動用電極(電極部14b,14e)の領域において電気を発生する。これにより、電極部14b,14eから、振動体1の振動に応じた検出信号(交流電流)が出力される。
【0041】
このように、本実施形態の圧電アクチュエーター100では、第1電極12と第2電極14との間に駆動信号を供給する際に、第2電極14のうち縦振動用電極(電極部14a)の他に、第1屈曲振動用電極(電極部14b,14e)を選択する場合と、第2屈曲振動用電極(電極部14c,14d)を選択する場合とを切り替えることにより、ローター2を反時計回り及び時計回りの双方向に回転させることが可能である。
【0042】
また、圧電アクチュエーター100では、摺動部15が楕円軌道R1又は楕円軌道R2を正常に描くように摺動している状態において、ローター2が安定して回転し、回転速度及びトルクがほぼ最大となる。本実施形態では、このような駆動状態を、最適楕円駆動状態という。
【0043】
<駆動制御装置>
次に、圧電アクチュエーター100の駆動制御装置の構成について、図3を参照して説明する。図3は、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの駆動制御装置の構成を示すブロック図である。図3に示すように、駆動制御装置30は、制御部としての周波数制御器20と、駆動電圧制御器24と、発振器25と、駆動部としての駆動回路26と、位相差検出部としての位相差検出回路27と、振幅検出回路28と、セレクター29とを備えている。
【0044】
位相差検出回路27は、駆動信号と振動体1の振動に基づいて検出される検出信号との位相差を検出し、検出した位相差に相当する信号を周波数制御器20(位相差比較器21)に出力する。振幅検出回路28は、振動体1の振動に基づいて検出される検出信号の振幅を検出し、検出した振幅に相当する信号を周波数制御器20(振幅比較器22)に出力する。
【0045】
周波数制御器20は、位相差比較器21と、振幅比較器22と、状態遷移制御器23とを備えている。位相差比較器21は、位相差検出回路27により出力される位相差を、所定の基準値である目標位相差値と比較する。振幅比較器22は、振幅検出回路28により出力される振幅を、目標振幅値と比較する。目標位相差値及び目標振幅値は、予め設定された値であり、周波数制御器20が有する記憶部(図示しない)に記憶されている。なお、記憶部は、周波数制御器20とは別に設けられたメモリー等であってもよい。
【0046】
状態遷移制御器23は、位相差比較器21による位相差の比較結果と、振幅比較器22による振幅の比較結果とに基づいて、所定時間当たりの電圧値と周波数値とを、駆動電圧制御器24と発振器25とにそれぞれ出力する。また、状態遷移制御器23は、5つの異なる状態を有し、位相差比較器21による位相差の比較結果と、振幅比較器22による振幅の比較結果とに基づいて状態を遷移するとともに、各状態における所定時間当たりの電圧値と周波数値とを制御する。
【0047】
発振器25は、振動体1(圧電素子11)に供給する駆動信号を生成する。発振器25は、DDS(ダイレクトデジタルシンセサイザー)等で構成され、状態遷移制御器23から出力された所定時間当たりの周波数値に基づいて、駆動信号の周波数(以下では、駆動周波数という)を調整する。
【0048】
駆動電圧制御器24は、状態遷移制御器23から出力された所定時間当たりの電圧値に基づいて、駆動回路26に駆動信号の電圧を増加又は減少させる指示を出力する。駆動回路26は、駆動電圧制御器24の指示に基づいて駆動信号の電圧を増減し、振動体1(圧電素子11)に駆動信号を出力する。これにより、振動体1に供給される駆動信号の電力として、電圧値が制御される。
【0049】
セレクター29は、圧電素子11の電極のうち、駆動信号を供給する電極と検出信号を出力する電極とを切り替える。セレクター29の切り替えにより、第1屈曲振動用電極及び第2屈曲振動用電極のいずれかが選択され、上述の図2(a)に示す振動状態と図2(b)に示す振動状態とが切り替えられるので、ローター2(図1(a)参照)を時計回り及び反時計回りの双方向に回転させることができる。
【0050】
続いて、圧電アクチュエーター100の駆動制御方法について、図4を参照して説明する。図4は、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの状態遷移を示す図である。図4に示すように、圧電アクチュエーター100は、S01の初期化状態、S02の高速スイープ状態、S03の低速スイープ状態、S04の第1位相差制御状態、及びS05の第2位相差制御状態の5つの異なる制御状態を有しており、状態遷移制御器23によってこれらの異なる状態間の遷移と各状態における制御とが行われる。
【0051】
圧電アクチュエーター100は、S01の初期化状態では駆動信号が供給されない状態で停止しており、起動信号が入力されると、S02の高速スイープ状態及びS03の低速スイープ状態を経て、S04の第1位相差制御状態に遷移し、さらには、S05の第2位相差制御状態に遷移する。
【0052】
S01の初期化状態では、状態遷移制御器23は、圧電アクチュエーター100を駆動する周波数範囲と下限電圧値とを指定する。周波数範囲として、スイープ制御を行う際の周波数の上限値(上限周波数値)と下限値(下限周波数値)とが指定される。下限電圧値は、圧電素子11が振動して位相差の検出ができる程度の電圧であり、かつ、ローター2を回転させない程度の電圧であることが望ましい。
【0053】
また、S01の初期化状態では、状態遷移制御器23は、起動の際に発振器25に出力する周波数値を上限周波数値に設定する。すなわち、起動後のS02の高速スイープ状態及びS03の低速スイープ状態においては、高い周波数側から低い周波数側に向かって周波数のスイープ制御が行われる。S01の初期化状態は、起動信号が入力されるまで維持される。
【0054】
S01の初期化状態において、圧電アクチュエーター100の周囲の温度T0を、温度計等により測定しておく。S01の初期化状態における圧電アクチュエーター100(振動体1)の温度は、周囲の温度T0とほぼ等しいとみなすことができる。
【0055】
S01の初期化状態において起動信号が入力されると、セレクター29により駆動信号を供給する電極と検出信号を出力する電極とが設定され、ローター2の回転方向が決定される。そして、駆動回路26により駆動信号が振動体1(圧電素子11)に供給されて、圧電アクチュエーター100はS02の高速スイープ状態に遷移する。
【0056】
S02の高速スイープ状態では、状態遷移制御器23は、駆動電圧制御器24に出力する電圧値を駆動電圧値に設定する。そして、状態遷移制御器23は、発振器25に出力する周波数値を、上限周波数値から一定の変化率、例えば、−10Hz/0.1msecで変化させる。
【0057】
S02の高速スイープ状態において、状態遷移制御器23は、振幅検出回路28から出力される振幅が目標振幅値よりも大きくなったことが振幅比較器22により検出されると、S03の低速スイープ状態に遷移する。また、S02の高速スイープ状態において、発振器25に出力する周波数値が下限周波数値よりも低くなった場合、又は、停止信号が入力された場合は、S01の初期化状態に遷移する。
【0058】
S03の低速スイープ状態では、状態遷移制御器23は、駆動電圧制御器24に出力する電圧値が駆動電圧値に設定された状態を維持する。そして、状態遷移制御器23は、発振器25に出力する周波数値を、S02の高速スイープ状態における変化率よりも小さい変化率、例えば、−6Hz/0.1msecで変化させる。
【0059】
S03の低速スイープ状態において、状態遷移制御器23は、位相差検出回路27から出力される位相差が、所定の範囲内、例えば、目標位相差値−20°と目標位相差値+3°との範囲内になったことが位相差比較器21により検出されると、S04の第1位相差制御状態に遷移する。また、S03の低速スイープ状態において、発振器25に出力する周波数値が下限周波数値よりも低くなった場合、又は、停止信号が入力された場合は、S01の初期化状態に遷移する。
【0060】
本実施形態の圧電アクチュエーター100は、S02の高速スイープ状態では高速で周波数をスイープすることにより起動速度を上げるとともに、S03の低速スイープ状態に切り替えて低速で周波数をスイープすることによりS04の第1位相差制御状態に確実に移行することができる。
【0061】
S04の第1位相差制御状態に遷移する際に、状態遷移制御器23は、このときの周波数値を第1の周波数記憶値として記憶部に記憶する。この第1の周波数記憶値に基づいて、S04の第1位相差制御状態に遷移した後の周波数の変化を監視することで、振動体1の温度上昇を検出することができる。圧電アクチュエーター100は、位相差が所定の範囲内となるS04の第1位相差制御状態に遷移すると、高効率で安定して駆動する。
【0062】
S04の第1位相差制御状態では、状態遷移制御器23は、位相差検出回路27から出力される位相差を目標位相差値に近付ける制御を行う。すなわち、位相差検出回路27から出力される位相差が目標位相差値よりも小さい場合、発振器25に出力する周波数値を一定の変化率、例えば、+6Hz/0.1msecで変化させ、位相差検出回路27から出力される位相差が目標位相差値よりも大きい場合、発振器25に出力する周波数値を一定の変化率、例えば、−6Hz/0.1msecで変化させる。
【0063】
このような制御により、位相差検出回路27から出力される位相差が目標位相差値に近付くとともに、発振器25に出力する周波数値が後述する最適駆動周波数にほぼ収束する。これにより、圧電アクチュエーター100は、所定の回転速度及びトルクを得ることができ、最適楕円駆動が可能となる。
【0064】
S04の第1位相差制御状態において、状態遷移制御器23は、発振器25に出力する周波数値が、第1の周波数記憶値から、振動体1の共振周波数の温度特性に基づいて予め定められた第1の値を超えて変化した場合、すなわち、駆動周波数が第1の周波数記憶値から第1の値だけ変化した値よりも小さくなった場合に、S05の第2位相差制御状態に遷移する。この第1の値は、振動体1の温度が、後述する圧電アクチュエーター100が安定動作できる上限温度に到達したことを検出するために設定される値である。したがって、状態遷移制御器23は、振動体1の温度が圧電アクチュエーター100が安定動作できる上限温度に到達したことが検出された場合に、S04の第1位相差制御状態からS05の第2位相差制御状態に遷移する。
【0065】
また、S04の第1位相差制御状態において、状態遷移制御器23は、発振器25に出力する周波数値が上限周波数値よりも高くなった場合、下限周波数値よりも低くなった場合、振幅検出回路28から出力される振幅が目標振幅値よりも小さくなった場合、又は、停止信号が入力された場合は、S01の初期化状態に遷移する。
【0066】
S05の第2位相差制御状態に遷移する際に、状態遷移制御器23は、このときの周波数値を第2の周波数記憶値として記憶部に記憶する。この第2の周波数記憶値に基づいて、S05の第2位相差制御状態に遷移した後の周波数の変化を監視することで、振動体1の温度上昇を検出することができる。
【0067】
S05の第2位相差制御状態では、状態遷移制御器23は、駆動電圧制御器24に出力する電圧値を下限電圧値に設定する。そして、S04の第1位相差制御状態と同様に、位相差検出回路27から出力される位相差が目標位相差値よりも小さい場合、発振器25に出力する周波数値を一定の変化率(+6Hz/0.1msec)で変化させ、位相差検出回路27から出力される位相差が目標位相差値よりも大きい場合、発振器25に出力する周波数値を一定の変化率(−6Hz/0.1msec)で変化させる。
【0068】
S05の第2位相差制御状態において、状態遷移制御器23は、発振器25に出力する周波数値が、第2の周波数記憶値から、振動体1の共振周波数の温度特性に基づいて予め定められた第2の値を超えて変化した場合、すなわち、駆動周波数が第2の周波数記憶値から第2の値だけ変化した値よりも小さくなった場合に、S01の初期化状態に遷移する。この第2の値は、振動体1の温度が、後述する圧電アクチュエーター100が正常動作できる上限温度に到達したことを検出するために設定される値である。したがって、状態遷移制御器23は、振動体1の温度が圧電アクチュエーター100が正常動作できる上限温度に到達したことが検出された場合に、S05の第2位相差制御状態からS01の初期化状態に遷移し、駆動電圧制御器24に出力する電圧値をゼロに設定して駆動信号の供給を停止する。
【0069】
また、S05の第2位相差制御状態において、状態遷移制御器23は、発振器25に出力する周波数値が上限周波数値よりも高くなった場合、下限周波数値よりも低くなった場合、振幅検出回路28から出力される振幅が目標振幅値よりも小さくなった場合、又は、停止信号が入力された場合、S01の初期化状態に遷移する。
【0070】
ここで、最適駆動周波数について、図5を参照して説明する。図5は、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの駆動周波数を説明する図である。詳しくは、図5(a)は駆動周波数とインピーダンスとの関係を示す図であり、図5(b)は駆動周波数と縦振動の振幅及び屈曲振動の振幅との関係を示す図であり、図5(c)は駆動周波数と温度との関係を示す図である。
【0071】
図5(a)に実線31で示すように、駆動周波数に対してインピーダンスが極小となる共振点が二点現れる。これらのうち周波数の低い方(fr1)が縦振動の共振点であり、周波数の高い方(fr2)が屈曲振動の共振点である。図5(b)に実線41で示すように、縦共振周波数fr1で縦振動の振幅は極大となり、実線42で示すように、屈曲共振周波数fr2で屈曲振動の振幅は極大となる。
【0072】
縦振動の縦共振周波数fr1と屈曲振動の屈曲共振周波数fr2との間の周波数を、最適駆動周波数という。最適駆動周波数で振動体1を駆動すると、縦振動及び屈曲振動の双方の振幅が確保されるので、最適楕円駆動が可能となり、圧電アクチュエーター100は高効率で駆動する。また、縦共振周波数fr1と屈曲共振周波数fr2とを互いに近付けることで、最適駆動周波数における縦振動及び屈曲振動の振幅をより大きくすることができる。圧電アクチュエーター100における上限周波数値及び下限周波数値は、振動体1の縦共振周波数fr1及び屈曲共振周波数fr2等を考慮して決められる。
【0073】
また、振動体1のインピーダンス特性は、温度によって変化する。図5(a)において、実線31は温度が25℃、破線32は温度が0℃、2点鎖線33は温度が70℃、1点鎖線34は温度が100℃のそれぞれの場合のインピーダンス特性を示している。縦振動及び屈曲振動の各共振点は、温度が低くなると周波数が高い側に移動し、温度が高くなると周波数が低い側に移動する。したがって、周囲の温度や振動体1自身の振動に伴う発熱やローター2との摩擦力等によって振動体1の温度が変化すると、共振周波数も変化する。
【0074】
このように、温度や負荷の変化に伴って共振周波数が変化するため、圧電アクチュエーター100を起動する際は、S02及びS03において周波数をスイープすることにより、駆動周波数を共振周波数に近付けて、早く確実にS04の第1位相差制御状態に到達するように制御が行われる。これにより、温度変化が激しい場所等で使用する場合に、起動時に共振周波数が変化しても、早く最適楕円駆動状態とすることができる。
【0075】
一旦最適楕円駆動状態に到達しても、温度の変化に伴って共振周波数が変化するため、S04の第1位相差制御状態及びS05の第2位相差制御状態において、目標位相差値に対する位相差の差異に基づいて駆動周波数を調整する制御が行われる。これにより、位相差を目標位相差値に近付けるように駆動周波数を調整して、圧電アクチュエーター100の安定駆動状態の維持を図っている。
【0076】
ところで、図5(a)に2点鎖線33で示すように、温度が70℃になると、温度が25℃の場合に比べて、縦振動及び屈曲振動の各共振点が低い周波数側に移動するため、縦振動及び屈曲振動の双方の振幅を確保できる周波数域からずれてしまうこととなる。本実施形態では、70℃を、圧電アクチュエーター100が安定動作できる上限温度とする。温度が70℃を超えると、最適楕円駆動が困難となり、圧電アクチュエーター100の駆動効率は著しく低下する。
【0077】
図5(a)に1点鎖線34で示すように、温度が100℃になると、縦振動及び屈曲振動の各共振点はさらに低い周波数側に移動するため、縦振動及び屈曲振動の双方の振幅を確保できる周波数域から外れてしまうこととなる。本実施形態では、100℃を、圧電アクチュエーター100が正常動作できる上限温度とする。温度が100℃を超えると、正常な楕円駆動が困難となり、振動体1の固着部が剥れる等の損傷や破壊が発生する場合がある。
【0078】
このように、温度が上昇して振動体1の共振周波数が低くなると、振動体1の振幅が小さくなりローター2の回転速度が低下して、圧電アクチュエーター100の駆動効率が低下する。このような場合、従来の駆動制御方法では、駆動効率を維持するために、駆動信号の電圧を大きくする制御を行う。しかしながら、駆動信号の電圧を大きくすると、振動体1が発熱してさらに温度が高くなってしまい、共振周波数がさらに低くなることが繰り返されるという負の制御連鎖に陥ってしまう。そうすると、圧電アクチュエーター100の正常動作が困難となり、さらには、振動体1の損傷や破壊の発生を招いてしまう。
【0079】
ここで、図5(c)に示すように、振動体1の周波数の変化と温度の変化とは、ほぼリニアな関係にある。したがって、S04の第1位相差制御状態やS05の第2位相差制御状態のように位相差が所定の範囲内に保たれた状態において、周波数の初期値からの変化量Δfrを検出することにより、温度が変化したことを検知することができ、温度の初期値からの変化量Δtを推測することができる。
【0080】
また、振動体1の温度は、振動体1自身が振動することにより上昇する。S01の初期化状態における温度T0から、S02の高速スイープ状態及びS03の低速スイープ状態を経てS04の第1位相差制御状態に至るまでに、自身の振動により温度上昇する。
【0081】
本実施形態では、実験データに基づいて、共振周波数の変化量(Δfr)と温度の変化量(Δt)との間には、Δtが1℃当たりでΔfr=(269.8−279.7)/70=−0.14(KHz)となる関係があることが分かっている。また、S01の初期化状態から起動してS04の第1位相差制御状態に遷移するまでの温度の変化量Δt1は、2℃程度であることが分かっている。すなわち、S04の第1位相差制御状態に遷移したときの振動体1の温度T1は、S01の初期化状態における温度T0に対して、T1=T0+2(℃)となる。
【0082】
これらより、上述の第1の値、すなわち、S04の第1位相差制御状態に遷移してから振動体1の温度が上昇して70℃になるまでの周波数の変化量Δfr1は、Δfr1=−0.14×(70−T0−2)(KHz)となる。したがって、S04の第1位相差制御状態において、振動体1の駆動周波数が第1の周波数記憶値からΔfr1だけ変化した値よりも小さくなった場合に、圧電アクチュエーター100が安定動作できる上限温度に到達したと推測することができる。なお、温度T0は、S01の初期化状態における周囲の温度として測定された値である。
【0083】
また、上述の共振周波数の変化量(Δfr)と温度の変化量(Δt)との関係に基づけば、上述の第2の値、すなわち、S05の第2位相差制御状態に遷移してから振動体1の温度が上昇して100℃になるまでの周波数の変化量Δfr2は、Δfr2=−0.14×(100−70)(KHz)で、−5(KHz)程度となる。これにより、S05の第2位相差制御状態において、振動体1の駆動周波数が第2の周波数記憶値からΔfr2だけ変化した値よりも小さくなった場合に、圧電アクチュエーター100が正常動作できる上限温度に到達したと推測することができる。
【0084】
そこで、本実施形態では、S04の第1位相差制御状態に遷移したときの周波数の初期値として第1の周波数記憶値を記憶し、第1の周波数記憶値に対して周波数が第1の値を越えて変化した場合、圧電アクチュエーター100が安定動作できる上限温度に到達したと判断して、電圧を下限電圧値に設定する。そして、S05の第2位相差制御状態に遷移したときの周波数の初期値として第2の周波数記憶値を記憶し、第2の周波数記憶値に対して周波数が第2の値を越えて変化した場合、圧電アクチュエーター100が正常動作できる上限温度に到達したと判断して、電圧をゼロに設定する。
【0085】
次に、圧電アクチュエーター100の駆動制御の例を、図6を参照して説明する。図6は、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの駆動制御の例を説明する図である。図6において、図の中心から右に向かう横軸は駆動周波数の変化を示しており、右に行くほど周波数が高くなる。図の中心から左に向かう横軸は駆動電圧の変化を示しており、左に行くほど電圧が高くなる。図の中心から上に向かう縦軸は圧電アクチュエーター100の位相差、振幅、回転速度の変化を示しており、上に行くほど各値が大きくなる。また、図の中心から下に向かう縦軸は、時間の経過を示している。
【0086】
S01の初期化状態から圧電アクチュエーター100を起動すると、S02の高速スイープ状態で駆動周波数が上限周波数値から低い側へ変化する。そうすると、ローター2が回転し始め、振動体1の振幅が上昇するとともに、ローター2の回転速度も上昇する。
【0087】
このとき、位相差検出回路27から出力される位相差は、最適楕円駆動状態を実現できる目標位相差値よりも大きな値となっている。本実施形態では、S02の高速スイープ状態で駆動周波数を早く変化させることで、最適楕円駆動状態が得られない周波数域をより早く通過するようにしている。
【0088】
また、駆動周波数を、周波数の高い側、すなわち、振動体1のインピーダンスが高い側から低い側へ向かう方向に変化させるので、スイープ状態においてインピーダンスが低い共振周波数を通過する可能性を小さくできる。これにより、圧電アクチュエーターの電流の過度の増加と、電流の増加に伴う温度上昇を避けることができる。
【0089】
S02の高速スイープ状態において、振幅検出回路28から出力される振幅が目標振幅値よりも大きくなると、S03の低速スイープ状態に遷移して、駆動周波数の変化率を小さくする。周波数の変化率をS02の高速スイープ状態よりも小さくすることで、位相差が目標位相差値を通り越して外れてしまうことが抑えられる。
【0090】
駆動周波数の低い側への変化に伴って、振動体1の振幅及びローター2の回転速度がさらに上昇し、位相差は小さくなる。そして、位相差が目標位相差値に近づくと、振動体1の振幅及びローター2の回転速度がともにほぼ極大となる。すなわち、位相差が目標位相差値に近い値として設定した所定の範囲内の値となるように制御することで、最適楕円駆動状態を実現できる。
【0091】
位相差が所定の範囲内となったところで、S04の第1位相差制御状態に遷移する。S04の第1位相差制御状態では、最適楕円駆動状態が得られるので、駆動信号の電圧を上限電圧値に設定して、振動体1の振幅及びローター2の回転速度を大きくする。また、駆動周波数を、共振周波数の変動に追従するように調整することにより、高効率で安定した駆動を維持することができる。
【0092】
S04の第1位相差制御状態において、周囲の温度や負荷等の変化によって圧電アクチュエーター100(振動体1)の温度が上昇すると、共振周波数が低くなり振幅及び回転速度は低下する。振動体1の駆動周波数が第1の周波数記憶値に対して第1の値を超えて変化した場合に、圧電アクチュエーター100が安定動作できる上限温度に到達したと判断して、S05の第2位相差制御状態に遷移する。
【0093】
これにより、振動体1(圧電素子11)に供給される駆動信号の電圧が下限電圧値に設定されるので、圧電アクチュエーター100の温度上昇を抑えることができ、圧電アクチュエーター100を安定動作させることができる。
【0094】
S05の第2位相差制御状態において、周囲の温度や負荷等の変化によって圧電アクチュエーター100(振動体1)の温度がさらに上昇すると共振周波数がさらに低くなり、振幅及び回転速度は著しく低下する。振動体1の駆動周波数が第2の周波数記憶値に対して第2の値を超えて変化した場合に、圧電アクチュエーター100が正常動作できる上限温度に到達したと判断して、S01の初期化状態に遷移する。これにより、振動体1(圧電素子11)に供給される駆動信号の電圧がゼロに設定されるので、圧電アクチュエーター100のさらなる温度上昇を抑えることができ、圧電アクチュエーター100(振動体1)の異常動作や損傷、破壊等の発生を抑えることができる。
【0095】
また、本実施形態では、周波数の変化量から温度上昇を推測できるため、温度センサーを備えていなくても、周波数及び温度を制御できる。そのため、温度センサーを追加する場合に生じる、制御部の回路構成の複雑化、圧電アクチュエーターの大型化や、コストの上昇が避けられる。これにより、圧電アクチュエーター100の小型化や軽量化を容易に実現できる。
【0096】
なお、共振周波数の変化量(Δfr)と温度の変化量(Δt)との関係、及びS01の初期化状態から起動してS04の第1位相差制御状態に遷移するまでの温度の変化量Δt1の値は、振動体1の構成によって異なる場合があり、上記に限定されるものではない。
【0097】
(第2の実施形態)
<ロボットハンド>
次に、第2の実施形態に係るロボットハンドの概略構成を説明する。図7は、第2の実施形態に係るロボットハンドの構成を示す模式図である。詳しくは、図7(a)は関節部が1段のロボットハンドを示す図であり、図7(b)は関節部が2段のロボットハンドを示す図である。
【0098】
図7(a)に示すロボットハンド201aは、基部225と、一対の指211とを備えている。基部225の延在方向両側には、一対の関節部202が設置されている。一対の指211は、関節部202により、それぞれ一端側が基部225に接続されている。一対の関節部202には、上述の圧電アクチュエーター100が配置されており、圧電アクチュエーターの駆動により、一対の指211が関節部202を回動軸として互いに異なる向きに回動する。これにより、一対の指211の他端側で部材233を把持することができる。
【0099】
図7(b)に示すロボットハンド201bは、ロボットハンド201aの構成に対して、一対の指212をさらに備えており、指211と指212とで指部210が構成されている。一対の指211の他端側にはそれぞれ関節部203が配置されており、関節部203により、指212の一端側が指211に接続されている。一対の関節部203には、上述の圧電アクチュエーター100が配置されており、圧電アクチュエーターの駆動により、一対の指212が関節部203を回動軸として回動する。これにより、一対の指部210を屈曲させて、指212の他端側で部材234を把持することができる。ロボットハンド201bの構成によれば、一対の指部210(指211,212)が関節部202,203の2段の関節で接続されているので、部材233よりも小さい部材234を把持する場合に好適である。
【0100】
第2の実施形態に係るロボットハンド201a及びロボットハンド201bは、関節部202,203に、安定動作し小型軽量の圧電アクチュエーター100を備えている。これにより、部材233,234を把持する指211,212の動作を安定した状態で行う小型軽量のロボットハンド201a,201bを提供できる。
【0101】
(第3の実施形態)
<ロボット>
次に、第3の実施形態に係るロボットの概略構成を説明する。図8は、第3の実施形態に係るロボットの構成を示す模式図である。図8に示すように、ロボット200は、一対のアーム240と、一対のアーム250と、一対のロボットハンド201a(又はロボットハンド201b)とを備えている。アーム240とアーム250とは、関節部204により、互いに接続されている。一対の関節部204には、上述の圧電アクチュエーター100が配置されており、圧電アクチュエーターの駆動により、アーム240がアーム250に対して回動する。
【0102】
第3の実施形態に係るロボット200は、関節部204に、安定した状態で起動し安定駆動状態を維持する圧電アクチュエーター100を備えており、かつ、上述のロボットハンド201a(又はロボットハンド201b)を備えている。これにより、部材の把持及びアーム240の動作を安定した状態で行う小型軽量のロボット200を提供できる。
【0103】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形及び応用が可能である。変形例を以下に述べる。
【0104】
(変形例1)
例えば、上述した実施形態では、駆動信号の電力として電圧を制御する構成であったが、これに限定されるものではない。駆動制御装置30が駆動電圧制御器24の代わりに駆動電流制御器を備えており、駆動信号の電力として電流を制御する構成としてもよい。駆動信号の電流を制御することで、振動体1のインピーダンスが変動する場合でも、電力をほぼ一定に保つことができ、振動体1の温度上昇を抑えることができる。
【0105】
(変形例2)
また、上述した実施形態では、駆動信号と振動体1から検出される検出信号との位相差を検出し、検出した位相差に基づいて圧電アクチュエーター100の駆動を制御する構成であったが、これに限定されるものではない。振動体1から縦振動及び屈曲振動の各検出信号を検出し、駆動信号とそれらの検出信号の位相差に基づいて圧電アクチュエーター100の駆動を制御する構成としてもよい。
【0106】
(変形例3)
また、上述した実施形態では、駆動信号と検出信号との位相差や、各検出信号間の位相差に基づいて駆動周波数を制御する構成であったが、これに限定されるものではない。圧電アクチュエーター100を駆動する駆動回路26に抵抗を設け、圧電アクチュエーター100を流れる電流値の変化を、電圧値として検出すること等で、圧電アクチュエーター100を流れる電流値に基づいて駆動周波数を制御する構成としてもよい。
【0107】
(変形例4)
また、上述した実施形態では、セレクター29にて圧電素子11に設けられた第1屈曲振動用電極及び第2屈曲振動用電極を切り替えることにより、ローター2を双方向に回転駆動する構成であったが、これに限定されるものではない。縦振動用電極と第1屈曲振動用電極との駆動位相、又は縦振動用電極と第2屈曲振動用電極との駆動位相は必ずしも一致しなくてもよい。
【0108】
さらに、縦振動及び屈曲振動の共振周波数を一致、又は接近させて、縦振動用電極と第1屈曲振動用電極とは縦振動用電極の遅れ位相とし、第2屈曲振動用電極は第1屈曲振動用電極の反転として3相駆動とする。そして、逆転時は縦振動用電極、第2屈曲振動用電極は縦振動用電極の遅れ位相とし、第1屈曲振動用電極は第2屈曲振動用電極の反転として実現し、検出信号は上記実施形態又は変形例の形態で別途設け、圧電アクチュエーター100の駆動を制御する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1…振動体、2…ローター、11…圧電素子、20…制御部としての周波数制御器、26…駆動部としての駆動回路、27…位相差検出部としての位相差検出回路、100…圧電アクチュエーター、200…ロボット、201a…ロボットハンド、201b…ロボットハンド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子を含む長方形の振動体と、
前記圧電素子に駆動信号を供給する駆動部と、
前記駆動信号と、前記振動体の振動に基づいて検出される検出信号と、の位相差を検出する位相差検出部と、
前記駆動信号の周波数及び電力を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記周波数を変化させて前記位相差が所定の範囲内となった場合に、前記周波数の値を第1の周波数記憶値として記憶し、前記電力を所定の値に設定し、前記周波数を調整して前記位相差を前記所定の範囲内に保つ制御を行い、
前記周波数が、前記第1の周波数記憶値から、前記振動体の共振周波数の温度特性に基づいて予め定められた第1の値を超えて変化した場合に、前記電力を前記所定の値よりも小さい値に設定することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記制御部は、
前記周波数が前記第1の周波数記憶値から前記第1の値を超えて変化した場合に、前記周波数の値を第2の周波数記憶値として記憶し、
前記周波数が、前記第2の周波数記憶値から、前記温度特性に基づいて予め定められた第2の値を超えて変化した場合に、前記電力をゼロに設定することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記制御部は、
前記振動体の長辺方向に沿って伸縮する縦振動の前記共振周波数及び短辺方向に沿って伸縮する屈曲振動の前記共振周波数のうち、インピーダンスが高い前記共振周波数側からインピーダンスが低い前記共振周波数側に前記周波数を変化させることを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電アクチュエーターを備えたことを特徴とするロボットハンド。
【請求項5】
請求項4に記載のロボットハンドを備えたことを特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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