説明

圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド及び液体噴射ヘッド並びに圧電アクチュエーターの製造方法

【課題】エージング処理を必要とせず、かつ、エージング処理によって変位特性が低下していない圧電アクチュエーターと、前記圧電アクチュエーターを有する液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置ならびに圧電アクチュエーターの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る圧電アクチュエーターは、断熱層と、前記断熱層の上方に形成された加熱素子と、前記加熱素子の上方に形成された絶縁層と、を有する振動板と、前記絶縁層の上方において、第1電極と第2電極とによって挟まれた圧電体層を有する圧電素子と、を含み、前記加熱素子は、発熱体層と、前記発熱体層にそれぞれ電気的に接続された、第1配線層および第2配線層と、を有し、前記圧電体層は、前記圧電体層の厚み方向から見た場合、前記発熱体層の少なくとも一部とオーバーラップする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド及び液体噴射ヘッド並びに圧電アクチュエーターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、画像記録装置およびディスプレー製造装置等に用いることができるインクジェットプリンター等の液体噴射装置の液体噴射ヘッドや、各種圧電アクチュエーターにおいて、圧電素子を用いること知られている。
【0003】
このような圧電アクチュエーターにおいて、圧電素子に繰り返し駆動信号を印加して、経時的に使用した場合、圧電体層の変位特性が変化し、圧電アクチュエーターの変位量が変化してしまう。その結果、圧電アクチュエーターを利用した液体噴射ヘッドの吐出特性が変化し、信頼性を低下させるという課題が知られている(特許文献1)。このような課題から、例えば、比較的高い電圧の駆動パルスを一定時間に渡って圧電アクチュエーターの圧電素子に印加する処理を行い、圧電素子の変位特性を意図的に劣化させて安定化させるエージング工程を行うことが必要とされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−202849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の様態の1つは、エージング処理を必要とせず、かつ、エージング処理によって変位特性が低下していない圧電アクチュエーターを提供することにある。
【0006】
本発明の様態の1つは、上記圧電アクチュエーターを有する液体噴射ヘッドを提供することにある。
【0007】
本発明の様態の1つは、上記液体噴射ヘッドを有する液体噴射装置を提供することにある。
【0008】
本発明の態様の1つは、上記圧電アクチュエーターの製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の態様の1つは、上記圧電アクチュエーターを有する液体噴射ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る圧電アクチュエーターは、
断熱層と、前記断熱層の上方に形成された加熱素子と、前記加熱素子の上方に形成された絶縁層と、を有する振動板と、
前記絶縁層の上方において、第1電極と第2電極とによって挟まれた圧電体層を有する圧電素子と、
を含み、
前記加熱素子は、発熱体層と、前記発熱体層にそれぞれ電気的に接続された、第1配線層および第2配線層と、を有し、
前記圧電体層は、前記圧電体層の厚み方向から見た場合、前記発熱体層の少なくとも一部とオーバーラップする。
【0011】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に他の特定のもの(以下「B」という)を形成する」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。同様に、「下方」という文言は、A下に直接Bを形成するような場合と、A下に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとする。
【0012】
本発明によれば、エージング工程を行う必要としない圧電アクチュエーターを提供することができる。また、本発明によれば、エージング工程を行わず、圧電素子の圧電体層の圧電特性を劣化させないまま用いることができる。したがって、エージング処理後の圧電特性よりも、高い圧電特性を有する圧電アクチュエーターを提供することができる。
【0013】
(2)本発明に係る圧電アクチュエーターにおいて、
前記発熱体層は、絶縁層によって覆われていてもよい。
【0014】
(3)本発明に係る圧電アクチュエーターにおいて、
前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分としていてもよい。
【0015】
(4)本発明に係る圧電アクチュエーターにおいて、
前記絶縁層の熱伝導率は、前記断熱層の熱伝導率よりも高くてもよい。
【0016】
これによれば、圧電アクチュエーターの信頼性を向上させることができる。
【0017】
(5)本発明に係る液体噴射ヘッドは、
上記のいずれかの圧電アクチュエーターを含む。
【0018】
本発明によれば、上記圧電アクチュエーターを備えた液体噴射ヘッドを提供することができる。
【0019】
(6)本発明に係る液体噴射装置は、
上記の液体噴射ヘッドを含む。
【0020】
本発明によれば、上記圧電アクチュエーターを備えた液体噴射装置を提供することができる。
【0021】
(7)本発明に係る圧電アクチュエーターの製造方法は、
基板の上方に断熱層を形成する工程と、
前記断熱層の上方において加熱素子を形成する工程と、
前記加熱素子の上方に絶縁層を形成する工程と、を有する振動板の形成工程と、
前記絶縁層の上方において、圧電素子を形成する工程と、を含み、
前記加熱素子は、発熱体層と、前記発熱体層にそれぞれ電気的に接続された、第1配線層および第2配線層と、を有し、
前記圧電素子は、第1電極と第2電極によって挟まれた圧電体層と、を有し、前記圧電体層の厚み方向から見た場合、前記発熱体層の少なくとも一部とオーバーラップする。
【0022】
本発明によれば、上記圧電アクチュエーターの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る圧電アクチュエーターを模式的に示す断面図。
【図2】本実施形態に係る圧電アクチュエーターの製造方法を模式的に示す断面図。
【図3】本実施形態に係る圧電アクチュエーターの製造方法を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【図6A】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの要部を模式的に示す平面図。
【図6B】図6AのVIB−VIB線における要部を模式的に示す断面図。
【図6C】図8AのVIC−VIC線における要部を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態に係る加熱素子を模式的に説明する平面図。
【図8】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図10】本実施形態に係る液体噴射装置を模式的に示す斜視図。
【図11】第1実施例および第1比較例の結果をプロットした図。
【図12】第2実施例および第2比較例の結果をプロットした図。
【図13】第3実施例および第3比較例の結果をプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明を適用した実施形態の一例について図面を参照して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。本発明は、以下の実施形態およびその変形例を自由に組み合わせたものを含むものとする。
【0025】
1. 圧電アクチュエーター
以下、図面を参照して、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100について説明する。
【0026】
図1(A)は、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100の一例を模式的に示す断面図である。図1(B)は、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100の変形例を模式的に示す断面図である。
【0027】
図1(A)に示すように、圧電アクチュエーター100は、断熱層11と、断熱層11の上方に形成された加熱素子12と、加熱素子12の上方に形成された絶縁層15と、を有する振動板10と、絶縁層15の上方において、第1電極20と第2電極40とによって挟まれた圧電体層30を有する圧電素子50と、を含む。
【0028】
なお、本実施形態において圧電素子50の形態は、電極によって挟まれた圧電体層を有する限り、特に限定されるものではない。つまりは、圧電素子50は、屈曲振動モード(ベントモード)のユニモルフ型圧電素子であってもよい。また、図示はされないが、圧電素子50は、伸縮振動モード(ピストンモード)の積層型圧電素子であってもよい。
【0029】
以下においては、圧電素子50が、屈曲振動モード(ベントモード)のユニモルフ型圧電素子の場合であって、複数の圧電素子50を有する圧電アクチュエーター100の場合に、第1電極20が共通電極となり、第2電極40が個別電極となるように形成された構造を一例として説明するが、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100は、以下の形態に限定されるものではない。例えば、圧電体層30が、第1電極20を覆うように形成され、第2電極40が圧電体層30を覆うように形成された形態を有する圧電素子であってもよい。つまり、第1電極20が個別電極となり、第2電極40が共通電極となるように形成された構造でもよい。
【0030】
ここで、図1(A)および図1(B)に示すように、圧電体層30の内、第1電極20と第2電極40とによって電圧が印加される領域を駆動領域35とする。
【0031】
以下において、まず本実施形態に係る振動板10を説明した後、圧電素子50の一例を説明する。
【0032】
振動板10は、図1(A)および図1(B)に示すように、圧電素子50の基板となる部材であって、断熱層11と、断熱層11の上方に形成された加熱素子12と、加熱素子12の上方に形成された絶縁層15を含む。振動板10の厚み方向から見た場合の平面視における形状は特に限定されない。圧電アクチュエーター100の形状に合わせて適宜設計することができる。
【0033】
断熱層11は、図1(A)および図1(B)に示すように、後述される加熱素子12が形成される板状部材である。なお、本発明において、「断熱」との文言は、熱の貫流に対して抵抗性を有することを意味する。つまりは、断熱層11は、熱の貫流を完全に遮蔽してもよい。また、断熱層11は、全熱量を遮蔽せずに、断熱層11の材質が有する所定の熱伝導率に応じて一定量の熱量を遮蔽する部材であってもよい。具体的には、断熱層11は、後述される絶縁層15よりも熱伝導率が低い部材であればよい。言い換えれば、断熱層11は、絶縁層15よりも高い断熱効率を有する部材である。また、断熱層11は、可撓性を有する。つまりは、圧電素子50の変形に応じて変形することができる。断熱層11の材質は、可撓性を有し、絶縁層15よりも熱伝送率が低い材質である限り特に限定されない。例えば、断熱層11は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、および酸化ジルコニウムなどの無機材料、ポリイミドなどの有機高分子材料などから形成されていてもよい。なお、前記断熱層の形成後に、例えば、400℃を超えるような加熱処理を行う場合には、熱的安定性の観点から酸化シリコンや窒化シリコンのような無機材料を用いるのが好適である。また、図1(A)および図1(B)に示すように、断熱層11は単層で構成されていてもよいし、図示はされないが、上記材料のいずれかを用いた積層体であってもよい。
【0034】
加熱素子12は、図1(A)および図1(B)に示すように、断熱層11の上方に形成される。加熱素子12は、図1(A)および図1(B)に示すように、発熱体層12aと、発熱体層12aにそれぞれ電気的に接続された、第1配線層12bおよび第2配線層12cと、を有する。図1(A)は、第1配線層12bおよび第2配線層12cの電気的な接続構造の一例を示すものであり、図1(B)は、その変形例を示すものである。
【0035】
図1(A)および図1(B)に示すように、発熱体層12aは、後述される圧電体層30の少なくとも一部とオーバーラップするように形成される。なお、本発明において「オーバーラップする」との文言は、振動板10の厚み方向から見た場合の平面視においてオーバーラップすることを意味する。図1(A)および図1(B)に示すように、発熱体層12aは、後述される圧電体層30の駆動領域35の少なくとも一部の下方に位置するように形成される。発熱体層12aは、板状の部材であって、例えば、図1(A)に示すように、断熱層11の上方であって、かつ、第1配線層12bおよび第2配線層12cの下方に位置するように形成されていてもよい。また、例えば、図1(B)に示すように、発熱体層12aは、断熱層11の上方において、圧電体層30の駆動領域35とオーバーラップする領域においてのみ形成されていてもよい。
【0036】
発熱体層12aの電圧が印加された部分は、発熱することができる。つまりは、発熱体12aは、所定の導電性と、所定の温度まで発熱するための一定の電気抵抗を有する部材である。発熱体層12aは一定の電気抵抗を有するため、所定の電圧が印加されることにより発熱することができる。発熱体層12aの材質には、金や白金などと比べて導電性が低く、高抵抗な導電性材料を用いることができる。例えば、発熱体層12aの材質には、窒化タンタル(TaN)や窒化チタン(TiN)などの窒化物や、タンタル−アルミニウム合金(TaAl)、チタン−アルミニウム合金(TiAl)、ニッケル−クロム合金(NiCr)などの合金や、タンタル−酸化ケイ素(Ta−SiO)などのサーメット材料などを用いることができる。また、図1(A)および図1(B)に示すように、発熱体層12aは単層で構成されていてもよいし、図示はされないが、上記材料のいずれかを用いた積層体であってもよい。発熱体層12aの材質および膜厚は、発熱させるターゲット温度などの発熱条件や、発熱させるために電流を流すための電圧印加信号(直流信号、パルス信号)や印加時間などの印加条件を考慮して適宜決定される。例えば、窒化タンタル(TaN)を材料として用い、発熱するターゲット温度を300℃程度としたい場合、膜厚を例えば、0.01μm以上、1.0μm以下とすることができる。
【0037】
第1配線層12bおよび第2配線層12cは、導電性を有し、互いに絶縁された配線層である。第1配線層12bおよび第2配線層12cの形状は、発熱体層12aに電圧を印加することができる限り、特に限定されない。例えば、図1(A)に示すように、発熱体層12aの上方において、圧電素子50が上方に形成された領域を避けるようにして、互いに対向するようにパターニングされていてもよい。また例えば、図1(B)に示すように、断熱層11の上方において、同一面上に形成された発熱体層12aを挟み、互いに対向するようにパターニングされていてもよい。第1配線層12bおよび第2配線層12cの構造および材料は、導電性を有する限り、特に限定されない。第1配線層12bおよび第2配線層12cは、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)などの金属や、酸化ストロンチウム(SRO)および酸化ランタンニッケル(LNO)等の導電性酸化物、などのいずれかを含む導電層であってもよい。また、図1(A)および図1(B)に示すように、第1配線層12bおよび第2配線層12cは単層で構成されていてもよいし、図示はされないが、上記材料のいずれかを用いた積層体であってもよい。
【0038】
図示はされないが、第1配線層12bおよび第2配線層12cは、直接または、リード配線等と介して間接的に、駆動回路または接地回路にそれぞれ接続されていることができる。例えば、第1配線層12bを駆動回路に接続し、第2配線層12cを接地回路に接続してもよいし、互いに逆に接続されていてもよい。
【0039】
図1(A)および図1(B)に示すように、発熱体層12aは、第1配線層12bおよび第2配線層12cによって電圧が印加される領域である活性領域13を有する。つまりは、活性領域13は、発熱体層12aにおいて、互いに絶縁された第1配線層12bおよび第2配線層12cによって発生する電流が実質的に流れる領域である。活性領域13は、後述される第1配線層12bおよび第2配線層12cの配置により決定される領域である。例えば、図1(A)に示すように、第1配線層12bおよび第2配線層12cが、発熱体層12aの上方に形成される場合、発熱体層12aの内、第1配線層12bおよび第2配線層12cが上方に形成されていない領域が、活性領域13となる。また、例えば、図1(B)に示すように、断熱層11の上方において、発熱体層12aと、第1配線層12bおよび第2配線層12cが形成される場合、発熱体層12aの内、第1配線層12bおよび第2配線層12cに挟まれる領域が、活性領域13となる。活性層13が形成される領域は、図1(A)および図1(B)に示すように、活性層13は、活性層13の厚み方向から見た場合に、後述される圧電体層30の駆動領域35の少なくとも一部とオーバーラップするように形成されている限り、特に限定されない。
【0040】
絶縁層15は、図1(A)および図1(B)に示すように、加熱素子12を覆うように形成される。絶縁層15は、加熱素子12の上に形成される部材であるため、加熱素子12に対応した形状を有している。絶縁層15は、上方に形成される圧電素子50の第1電極20と、下方に形成される加熱素子12の第1配線層12bおよび第2配線層12cとを絶縁することができる。また、絶縁層15は、図1(A)に示すように、加熱素子12の第1配線層12bと第2配線層12cとを互いに絶縁する絶縁層であってもよい。絶縁層15の材質は、可撓性を有し、電気的な絶縁性を有する材質である限り特に限定されない。例えば、絶縁層15は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、および酸化ジルコニウムなどから形成されていてもよい。また、図1(A)および図1(B)に示すように、絶縁層15は単層で構成されていてもよいし、図示はされないが、上記材料のいずれかを用いた積層体であってもよい。
【0041】
以下に、圧電素子50の一例を説明する。
【0042】
図1(A)に示すように、圧電素子50の第1電極20は、振動板10(絶縁層15)の上方に形成される。第1電極20は、導電性を有した層からなり、例えば、圧電素子50において下部電極を構成してもよい。第1電極20の構造および材料は、導電性を有する限り、特に限定されない。例えば、第1電極20は、単層で形成されていてもよい。あるいは、第1電極20は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。第1電極20は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)などの金属や、酸化ストロンチウム(SRO)および酸化ランタンニッケル(LNO)等の導電性酸化物、などのいずれかを含む導電層であってもよい。
【0043】
図示はされないが、第1電極20は、駆動回路(IC)と電気的に接続されたリード部とのコンタクト部を有していてもよい。リード部は、第1電極20と同じ金属で形成されてもよいし、ニッケル/クロム合金(NiCr)と金(Au)などを含む積層体からなる金属層で形成されていてもよい。
【0044】
圧電体層30は、図1(A)に示すように、第1電極20の上方に形成される。圧電体層30の形状は、加熱素子12の活性層13の上方において第1電極20の少なくとも一部を覆っていればよく、特に限定されない。例えば、図1(A)に示すように、上面31と、上面31に連続したテーパー形状の側面32を有していてもよい。ここで、側面32が第1電極20と接する部分を端部33とする。圧電体層30は、圧電特性を有した結晶体からなり、圧電素子50において電圧を印加されることにより変形することができる。圧電体層30の構造および材料は、圧電特性を有していればよく、特に限定されない。圧電体層30は、公知の圧電材料から、例えばゾルゲル法などの公知の方法によって形成される。圧電体層30は、例えば、ペロブスカイト型酸化物の圧電材料を用いることができる。圧電体層30の圧電材料には、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O:PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO:BT)、ニオブ酸カリウムナトリウム((Na、K)NbO:NKN)およびチタン酸ビスマスナトリウム((Bi、Na)TiO:BNT)などを用いることができる。
【0045】
第2電極40は、図1(A)に示すように、第1電極20の少なくとも一部とオーバーラップするように形成される。図1(A)に示すように、第2電極40は、圧電体層30の第1電極20とオーバーラップする上面31を覆うように形成されていてもよい。第2電極40の構造および材料は、特に限定されない。例えば、第2電極40は、単層で形成されていてもよい。あるいは、第2電極40は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。第2電極40は、導電性を有した層からなり、圧電素子50において上部電極を構成する。第2電極40は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)などの金属や、酸化ストロンチウム(SRO)および酸化ランタンニッケル(LNO)等の導電性酸化物、などを含む導電層であってもよい。
【0046】
図示はされないが、第2電極40は、駆動回路(IC)と電気的に接続されたリード部とのコンタクト部を有していてもよい。リード部は、第2電極40と同じ金属で形成されてもよいし、ニッケル/クロム合金(NiCr)と金(Au)などを含む積層体からなる金属層で形成されていてもよい。
【0047】
以上のいずれかの構成により、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100の構成とすることができる。
【0048】
本実施形態に係る圧電アクチュエーター100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0049】
本実施形態に係る圧電アクチュエーター100によれば、エージング工程を行う必要としない圧電アクチュエーター100を提供することができる。また、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100によれば、エージング工程を行わず、圧電素子の圧電体層の圧電特性を劣化させないまま用いることができるため、エージング処理後の圧電特性よりも、高い圧電特性を有する圧電アクチュエーター100を提供することができる。以下に詳細を説明する。
【0050】
圧電素子50に用いられるPZTなどの圧電体層は、製造された直後では、変位特性(電圧−変位量特性)が、安定的ではなく、電圧を印加することによって漸化的に変位特性が劣化する状態にある。したがって、例えば所定周波数のパルス信号を所定時間印加するエージング工程により変位特性を意図的に劣化させ、初期の変位特性よりも低い変位特性で安定化させることによって、出荷後の圧電アクチュエーターの変位特性が、経時的に変化することを防いでいる。しかしながら、このようなエージング処理は、圧電アクチュエーターの製造工程以外の設備コストと電圧印加のためのエネルギーコストを必要とし、エージング処理のために長時間にわたり電圧を印加させることから、スループットを低下させる。また、エージング処理を行うことによって、圧電体層の圧電特性は、意図的に劣化されるため、圧電体層の本来の圧電特性を活用できない。
【0051】
しかしながら、圧電素子の圧電体層は、圧電体層自体の温度を、例えば脱分極温度以上となるように加熱することで、圧電体層の変位特性を回復させることができる。詳細は後述される。
【0052】
本実施形態に係る圧電アクチュエーター100は、上述のように、圧電素子50の圧電体層30を加熱することができる加熱素子12を備える。したがって、エージング処理を行わなくても、適宜、加熱素子12による加熱処理を行うことにより、圧電体層30の圧電特性を回復させて、変位特性の劣化を防ぐことができる。詳細は後述される。よって、エージング工程を行う必要としない圧電アクチュエーター100を提供することができる。
【0053】
また、加熱素子12によって、圧電体層30を、圧電体層の脱分極温度よりも高い温度まで加熱することにより、圧電体層30の変位特性を、実質的に製造直後の初期の変位特性まで回復させることができる。詳細は後述される。よって、エージング処理後の圧電特性よりも、高い圧電特性を有する圧電アクチュエーター100を提供することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る圧電アクチュエーターによれば、絶縁層15の熱伝導率は、断熱層11の熱伝導率よりも高い。これによれば、加熱素子12の活性領域13が発熱することにより発生した熱量を、断熱層11よりも絶縁層15の方がより多く伝導することができる。また、断熱層11は、絶縁層15よりも熱伝導率が低いため、絶縁層15よりも多くの熱量を遮蔽し、断熱層11の加熱素子12とは反対側の領域に熱を伝えにくくすることができる。したがって、圧電アクチュエーター100の振動板10の圧電素子50が形成されていない面に対する、加熱素子12の発熱による影響を低減することができる。よって、圧電アクチュエーター100の信頼性を向上させることができる。
【0055】
2. 圧電アクチュエーターの製造方法
次に、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図2(A)〜図3(D)は、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0056】
図2(A)〜図3(D)に示すように、本実施形態に係る圧電アクチュエーターの製造方法は、基板の1上方に、断熱層11を形成する工程と、断熱層11の上方において、発熱体層12a、および発熱体層12aにそれぞれ電気的に接続された第1配線層12bと第2配線層12cを形成することによって、加熱素子12を形成する工程と、加熱素子12の上方において、絶縁層15を形成する工程と、絶縁層15の上方において、第1電極20を形成する工程と、第1電極20の上方において、発熱体層12aの少なくとも一部とオーバーラップする圧電体層30を形成する工程と、圧電体層30の上方において、第1電極20の少なくとも一部とオーバーラップする第2電極40を形成する工程を含む。
【0057】
図2(A)に示すように、圧電アクチュエーター100を上方に形成するための基板1を準備する。図2(A)に示すように、基板1上に、断熱層11を形成する。断熱層11の形成方法は公知の成膜方法を用いることができる。断熱層11は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やPVD(Physical Vapor Deposition)法などの蒸着法、スパッタ法、MOD(Metal Organic Deposition)法などにより形成される。図示はされないが、断熱層11は、所望の形状にパターニングされていてもよい。断熱層11の構造や形状などの詳細な説明は、上述されているため省略する。
【0058】
次に、図2(B)に示すように、断熱層11の上に発熱体層12aを形成する。発熱体層12aの形成方法は公知の成膜方法を用いることができる。発熱体層12aは、例えば、CVD法やPVD法などの蒸着法、めっき法、スパッタ法、MOD法などにより形成される。図示はされないが、発熱体層12aは、所望の形状にパターニングされていてもよい。発熱体層12aの構造や形状などの詳細な説明は、上述されているため省略する。
【0059】
次に、図2(C)に示すように、発熱体層12aの上に導電膜12dを形成する。導電膜12dは、導電性を有する膜であって、第1配線層12bおよび第2配線層12cの原料膜である。導電膜12dの形成方法は公知の成膜方法を用いることができる。導電膜12dは、例えば、CVD法やPVD法などの蒸着法、めっき法、スパッタ法、MOD法などにより形成される。
【0060】
次に、図2(D)に示すように、導電膜12dを図示されないレジストを形成し、パターニングすることにより、第1配線層12bおよび第2配線層12cを形成する。パターニングは、例えば、公知のフォトリソグラフィー技術または公知のエッチング技術によって行われる。エッチングでもってパターニングを行う場合、ドライエッチングでもよいし、ウェットエッチングでもよい。第1配線層12bおよび第2配線層12cの構造や形状などの詳細な説明は、上述されているため省略する。これにより、加熱素子12を形成することができる。
【0061】
次に、図2(E)に示すように、加熱素子12の上に絶縁層15を形成する。絶縁層15の形成方法は公知の成膜方法を用いることができる。絶縁層15は、例えば、CVD法やPVD法などの蒸着法、スパッタ法、MOD法などにより形成される。図示はされないが、絶縁層15は、所望の形状にパターニングされていてもよい。絶縁層15の構造や形状などの詳細な説明は、上述されているため省略する。これによって、基板1の上方に振動板10を形成することができる。
【0062】
次に、図3(A)に示すように、振動版10(絶縁層15)の上方において、第1導電膜20aを形成して、第1導電膜20aをパターニングして、第1電極20を形成する。第1導電膜20aの形成方法は公知の成膜方法を用いることができる。第1導電膜20aは、例えば、CVD法やPVD法などの蒸着法、めっき法、スパッタ法、MOD法などにより形成される。パターニングは、例えば、公知のフォトリソグラフィー技術または公知のエッチング技術によって行われる。エッチングでもってパターニングを行う場合、ドライエッチングでもよいし、ウェットエッチングでもよい。第1電極20の構造や形状などの詳細な説明は、上述されているため省略する。
【0063】
次に、図3(B)に示すように、第1電極20の上方において、圧電体層30の原料膜である前駆体膜30aを形成する。前駆体膜30aは、公知の方法で成膜されることができ、例えば、ゾルゲル法、CVD法、MOD法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などにより形成される。
【0064】
ここで、前駆体膜30aを熱処理することで、結晶化してもよい。これによって、圧電体膜30bを形成することができる。また、この結晶化工程は、部分的に行われてもよく、第2電極40のパターニングの後に行われても良い。熱処理の条件は、前駆体膜30aを結晶化できる温度であれば、特に限定されない。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中において、500〜800度で行われることができる。なお、前述の熱処理は前駆体膜30aの形成と同時に行っても良く、あるいは/および前駆体膜30aの形成後に行っても良い。
【0065】
次に、圧電体膜30bを所望の形状にパターニングして、圧電体層30を形成することができる。圧電体膜30bのパターニングは、例えば、公知のフォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によって行われることができる。例えば、図示されないレジストを形成し、所望の形状を有する圧電体層30を形成してもよい。
【0066】
また、例えば、図3(C)に示すように、エッチング用のハードマスクとして、第2電極40の材料を用い、マスク層40aを形成してもよい。次に、図3(C)に示すように、マスク層40aを形成後、圧電体膜30bがエッチングによりパターニングされ、圧電体層30が所望の形成にパターニングされる。ここで、マスク層40aを形成することによって、マスク層40aがエッチング工程においてハードマスクとして作用するため、図3(C)に示すように圧電体層30にテーパー状の側面32を容易に形成することができる。圧電体層30の構造や形状などの詳細な説明は、上述されているため省略する。
【0067】
次に、図3(D)に示すように、圧電体層30の上方に第2導電膜40bを形成して、パターニングすることによって、第2電極40を形成する。第2導電膜40bは、第2電極40の原料膜である。第2導電膜40bの形成方法は公知の成膜方法を用いることができる。第2導電膜40bは、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成される。なお、マスク層40aは、第2導電膜40bと同じ材料から形成されているため、第2導電膜40bに取り込まれることができる。次に、第2導電膜40bをパターニングして、第2電極40を形成する。第2導電膜40bのパターニングは、例えば、公知のフォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によって行われることができる。第2電極40の構造や形状などの詳細な説明は、上述されているため省略する。
【0068】
以上の工程により、圧電アクチュエーター100を製造することができる。
【0069】
以上の製造方法の説明においては、圧電アクチュエーター100が、図1(A)に示す形態を有する場合の振動板10の製造方法を説明した。つまりは、本実施形態に係る圧電アクチュエーターの製造方法に係る加熱素子12を形成する工程は、断熱層11の上方において、発熱体膜を形成し、前記発熱体膜をパターニングして、発熱体層12aを形成する工程と、発熱体層12aの上方において、導電膜12dを形成し、導電膜12dをパターニングして、発熱体層12aの上方に形成された第1および第2配線層12b,12cを形成する工程と、を含んでいてもよい。
【0070】
また、圧電アクチュエーター100が、図1(B)に示す形態を有する場合、本実施形態に係る圧電アクチュエーターの製造方法に係る加熱素子12を形成する工程は、断熱層11の上方において、発熱体膜を形成し、前記発熱体膜をパターニングして、発熱体層12aを形成する工程と、断熱層11および発熱体層12aの上方において、導電膜12dを形成し、導電膜12dをパターニングして、断熱層11の上方に形成された第1配線層12bおよび第2配線層12cを形成する工程と、を含んでいてもよい(図示せず)。
【0071】
以上により、圧電アクチュエーター100の製造方法によれば、エージング処理を必要とせず、かつ、エージング処理によって変位特性が低下していない圧電アクチュエーター100を提供することができる。
【0072】
3. 液体噴射ヘッド
3.1 本実施形態
以下、図面を参照して、本実施形態に係る液体噴射ヘッドについて説明する。本実施形態に係る液体噴射ヘッド300は、圧電アクチュエーター100を有することができる。なお、本実施形態に係る液体噴射ヘッド300は、少なくとも1つの圧電アクチュエーター100を有していればよく、その形態は、以下に示す形態に限定されるものではない。
【0073】
図4は、圧電アクチュエーター100を有する場合の本実施形態に係る液体噴射ヘッド300の要部を模式的に示す断面図である。
【0074】
図4に示すように、本実施形態に係る液体噴射ヘッド300は、圧電アクチュエーター100を有する。ここで、図4に示すように、振動板10は、圧電素子50が形成される第1の面10aと、後述される基板60が形成される第2の面10b(第1の面10aとは反対側の面)を有する。なお、振動板10および圧電素子50に関する説明は上述されているため省略する。
【0075】
図4に示すように、第1の面10aの法線方向から見た場合、後述される圧力室61とオーバーラップする第1の面10aの領域を、可動領域16としたとき、圧電アクチュエーター100は、振動板10の第1の面10aの可動領域16内に配置される。
【0076】
図4に示すように、液体噴射ヘッド300は、さらに振動板10の下方に(振動板10の第2の面10bにおいて)設けられた基板60と、基板60の下方に設けられたノズル板70を有することができる。以下に詳細を説明する。
【0077】
基板60は、図4に示すように、圧力室61を有する。図4に示すように、基板60は、圧力室61の側壁を構成する壁部62を有する。また、基板60は、供給路63および連通路64を介して圧力室61と連通したマニュホールド65を有していてもよい(図示せず)。マニュホールド65には、図示されない貫通孔が形成されてもよく、該貫通孔を通って外部からマニュホールド65内に液体が供給されてもよい。これによれば、マニュホールド65に液体を供給することによって、供給路63および連通路64を介して圧力室61に液体を供給することができる。圧力室61の形状は、特に限定されない。圧力室61の形状は、例えば、第1の面10aの法線方向から見た場合の平面視において平行四辺形であってもよく、矩形であってもよい。圧力室61の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数設けられていてもよい。基板60の材質は、特に限定されない。基板60は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミックス等から形成されてもよい。
【0078】
ノズル板70は、図4に示すように、圧力室61の下方に形成される。ノズル板70は、プレート状の部材であって、ノズル孔71を有する。ノズル孔71は、圧力室61に連通するように形成される。ノズル孔71の形状は、液体を吐出することができる限り、特に限定されない。ノズル孔71を介することで、圧力室61内の液体を、例えば、ノズル板70の下方に向けて吐出することができる。また、ノズル孔71の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数設けられていてもよい。ノズル板70の材質は、特に限定されない。ノズル板70は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミックス等から形成されてもよい。
【0079】
以上のいずれかの構成により、本実施形態に係る液体噴射ヘッド300の構成とすることができる。
【0080】
以上により、本実施形態に係る液体噴射ヘッド300は、圧電アクチュエーター100を有することができる。
【0081】
3.2 第2実施形態
以下、図面を参照して、本実施の形態に係る液体噴射ヘッド400について説明する。本実施の形態に係る液体噴射ヘッド400は、複数の圧電アクチュエーター100を有する液体噴射ヘッドである。
【0082】
図5は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド400を模式的に示す分解斜視図である。図6(A)は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド400の要部である振動板10、圧電アクチュエーター100のみを便宜的に示した平面図である。図6(B)は、図6(A)に示す要部のVIB−VIB線断面図である。図6(C)は、図6(A)に示す要部のVIC−VIC線断面図である。
【0083】
図5に示すように液体噴射ヘッド400は、液体噴射ヘッド300と同様に、基板60およびノズル板70を有する。基板60およびノズル板70に関しては、上述された説明を適用することができるため、省略する。
【0084】
図5に示すように、振動板10は、基板60のマニュホールド65と連通した開口部18を有する。開口部18の形状は、後述される封止板80の開口部82にも連通し、開口部82とマニュホールド65を接続することができる限り、特に限定されない。
【0085】
図5に示すように、液体噴射ヘッド400は、封止板80を有することができる。封止板80は、図5に示すように、圧電アクチュエーター100の上方に形成される。封止板80は、圧電アクチュエーター100を所定の空間領域に封止することができる封止領域81を有している。封止領域81は、圧電アクチュエーター100の振動運動を阻害しない程度の空間領域であればよい。また、封止板80は、図5に示すように、基板60のマニュホールド65および振動板10の開口部18と連通した開口部82を有していてもよい。封止板80の構造及び材料は、特に限定されない。例えば、封止板80は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミックス等から形成されてもよい。
【0086】
図5に示すように、封止板80の上には、電気的接続部(図示せず)を介して駆動回路(IC)270が実装されてもよい。
【0087】
また、図5に示すように、封止板80の開口部82の上方には、可撓膜90および固定膜91が形成されてもよい。可撓膜90は、開口部82を封止するように形成される。可撓膜90は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルムから形成されてもよい。また、固定膜91は、開口部82の上方で、可撓膜90を介して開口部93を有する。固定膜91は、可撓膜90を固定することができる限り特に限定されず、例えば、ステンレス鋼などの金属等の材料から形成されてもよい。ここで、基板60のマニュホールド65、振動板10の開口部18および封止板80の開口部82によって構成される空間をリザーバ83とするとき、リザーバ83の一方面は、可撓膜90のみによって封止さている。
【0088】
また、液滴噴射ヘッド400は、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料からなり、上述された構成を収納することができる筐体を有していてもよい(図示せず)。
【0089】
以下、図6(A)〜図6(C)を参照して、本実施形態に係る液体噴射ヘッド400の圧電アクチュエーター100を含む要部の詳細について説明する。
【0090】
図6(A)〜図6(C)に示すように、振動板10の第1の面10aにおいて、複数の圧電アクチュエーター100が、第1の方向110に沿って、互いに離間して形成される。ここで、第1の方向110と交差する方向を第2の方向120とする。図6(A)〜図6(C)に示すように、複数の圧電アクチュエーター100は、振動板10の可動領域16内にそれぞれ形成される。つまりは、複数の圧電アクチュエーター100の下方には、圧力室61がそれぞれ形成されている。
【0091】
第1電極20は、図6(A)および図6(C)に示すように、複数の可動領域16の一部を連続して覆うように、第1の方向110において延びるように形成される。つまりは、第1電極20は、複数の圧電素子50の共通電極であることができる。したがって、可動領域16においては、第1電極20は、第1の方向110における端部を有さない。図6(A)および図6(B)に示すように、第1電極20は、可動領域16において、第2の方向120における少なくとも一方の端部21を有していてもよい。
【0092】
このとき、図6(B)に示すように、駆動領域35の第2の方向120における境界部分は、第1電極20の第2の方向120における端部21の位置によって規定することができる。駆動領域35は、図6(B)に示すように、可動領域16内において第2の方向120に沿って延びるように形成される。
【0093】
図示はされないが、第1電極20は、配線を介して、または連続して、例えば、駆動回路270と接続される。
【0094】
圧電体層30は、図6(A)に示すように、可動領域16において、第2の方向120に延び、第1電極20を覆うように形成される。圧電体層30は、図6(C)に示すように、可動領域16内において、第1の方向110における両端部33を第1電極20の上に有していてもよい。また、図示はされないが、側面32は、振動板10の第1の面10aに至らずに、可動領域16の外へ連続して形成された圧電体層に連続していてもよい(図示せず)。
【0095】
第2電極40は、図6(A)および図6(B)に示すように、可動領域16において、第2の方向120における端部23aを含む第1電極120とオーバーラップし、圧電体層30の上において、少なくとも上面31を覆うように形成される。
【0096】
図示はされないが、第2電極40は、配線を介して、または連続して、例えば、駆動回路270と接続される。
【0097】
図6(A)において、加熱素子12の活性領域13を斜線部で示す。図6(A)に示すように、活性領域13は、発熱体層12aのうち、第1配線層12bおよび第2配線層12cによって電圧が印加される領域である。活性領域は、少なくとも上方に形成された圧電素子50の駆動領域35と、オーバーラップするように形成されていればよい。したがって、図6(A)に示すように、発熱体層12aは、可動領域16において駆動領域35とオーバーラップし、第2の方向120に延びるように形成される。第1配線層12bおよび第2配線層12cの配置は、駆動領域35の少なくとも下方に活性領域13を形成することができればよく、特に限定されない。例えば、図6(A)および図6(C)に示すように、第1配線層12bおよび第2配線層12cは第2の方向120に延び、駆動領域35の下方を避けるように配置されていてもよい。つまりは、発熱体層12aは第1の方向110に沿って第1配線層12bおよび第2配線層12cにより電圧を印加されてもよい。
【0098】
図7(A)および図7(B)は、加熱素子12の第1配線層12bおよび第2配線層12cの配置関係を模式的に説明する図である。
【0099】
図7(A)に示すように、第1配線層12bおよび第2配線層12cは、第1の方向110において活性領域13を挟むように配置されていてもよい。つまりは、発熱体層12aに第1の方向110に沿って電流(i)を流してもよい。また、図7(B)に示すように、第1配線層12bおよび第2配線層12cは、第2の方向120において活性領域13を挟むように配置されていてもよい。つまりは、発熱体層12aに第2の方向120に沿って電流(i)を流してもよい。
【0100】
以上のいずれかの構成により、本実施形態に係る液体噴射ヘッド400の構成とすることができる。
【0101】
4. 液体噴射ヘッドの製造方法
以下、図面を参照して、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法について説明する。本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法の説明において、液体噴射ヘッドが有する圧電素子の製造方法の説明に関しては、上述された圧電アクチュエーター100に係る製造方法の説明を適用することができるため、省略する(図2および図3参照)。以下においては、液体噴射ヘッドの製造方法の一例として、液体噴射ヘッド400を製造する場合の液体噴射ヘッドの製造方法を説明する。
【0102】
なお、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法は、基板60、ノズル板70を形成するために用いられる材質が単結晶シリコン等を用いる場合と、ステンレス等を用いる場合とによって異なる。以下において、単結晶シリコンを用いた場合の液体噴射ヘッドの製造方法を一例として記載する。本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法は、特に以下の製造方法に限定されず、ニッケルやステンレス鋼、ステンレス等を材料として用いる場合は、公知の電鋳法等の工程を含んでいてもよい。また、各工程の先後は、以下に記載の製造方法に限定されるものではない。
【0103】
図8および図9は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド400の製造方法を模式的に示す断面図である。
【0104】
まず、図8(A)に示すように、準備された単結晶シリコンからなる基板60aの上に、振動板10を形成する。基板10は、液滴噴射ヘッド400の振動板であってもよい。振動板10の第1の面10aは、下方に圧力室61が形成される領域61aとオーバーラップした領域である可動領域16が規定されている。振動板10の詳細な説明は上述されているため、省略する。ここで、図8(A)に示すように、基板60aに形成される圧力室61の長手方向を第2の方向120とする。また、第2の方向120に直交する方向を、第1の方向110とする(図示せず)。
【0105】
次に、図8(B)および図8(C)に示すように、振動板10の第1の面10aにおいて、それぞれの可動領域16に、圧電アクチュエーター100を形成する。なお、圧電アクチュエーター100の製造方法の説明は、上述されているため、省略する。
【0106】
次に、図9(A)に示すように、封止領域81が形成された封止板80を圧電アクチュエーター100の上方より搭載する。ここで、圧電アクチュエーター100は、封止領域81内に封止されることができる。封止板80は、例えば、接着剤によって圧電アクチュエーター100を封止してもよい。次に、図9(B)に示すように、基板60aを所定の厚みに薄くし、圧力室61などを区画する。例えば、所定の厚みを有した基板60aに対し、所望の形状にパターニングされるようにマスク(図示せず)を基板10が形成された面と反対の面に形成し、エッチング処理することによって、圧力室61、壁部62、供給路63、連通路64およびマニュホールド65(図示せず)を区画する。圧力室61の形状は、特に限定されない。圧力室61の形状は、例えば、平面視において平行四辺形であってもよく、矩形であってもよい。圧力室61の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数設けられていてもよい。以上によって、基板10の下方に圧力室61を有した圧力室板60を形成することができる。圧力室板61を形成した後、図9(C)に示すように、ノズル孔71を有したノズル板70を、例えば接着剤等により所定の位置に接合する。これによって、ノズル孔71は、圧力室61と連通する。ノズル孔71の形状は、液体を吐出することができる限り、特に限定されない。ノズル孔71を介することで、圧力室61内に供給された液体を、例えば、ノズル板70の下方(圧力室61とは反対の方向)に向けて吐出することができる。また、ノズル孔71の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数設けられていてもよい。
【0107】
以上のいずれかの方法により、液滴噴射ヘッド400を製造することができる。なお、前述の通り、液滴噴射ヘッド400の製造方法は、上述の製造方法に限定されずに、圧力室板60およびノズル板70を、電鋳法等を用いて一体形成してもよい。
【0108】
以上によって、本実施形態に係る液体噴射ヘッド400の製造方法によれば、高い信頼性を持つ圧電素子を有した液体噴射ヘッドを提供することができる。
【0109】
5. 液体噴射装置
次に、本実施形態に係る液体噴射装置について説明する。本実施形態に係る液体噴射装置は、本発明に係る液体噴射ヘッドを有する。ここでは、本実施形態に係る液体噴射装置1000がインクジェットプリンターである場合について説明する。図10は、本実施形態に係る液体噴射装置1000を模式的に示す斜視図である。
【0110】
液体噴射装置1000は、ヘッドユニット1030と、駆動部1010と、制御部1060と、を含む。また、液体噴射装置1000は、装置本体1020と、給紙部1050と、記録用紙Pを設置するトレイ1021と、記録用紙Pを排出する排出口1022と、装置本体1020の上面に配置された操作パネル1070と、を含むことができる。
【0111】
ヘッドユニット1030は、例えば、上述した液体噴射ヘッド300(400)から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット1030は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ1031と、ヘッドおよびインクカートリッジ1031を搭載した運搬部(キャリッジ)1032と、を備える。
【0112】
駆動部1010は、ヘッドユニット1030を往復動させることができる。駆動部1010は、ヘッドユニット1030の駆動源となるキャリッジモータ1041と、キャリッジモータ1041の回転を受けて、ヘッドユニット1030を往復動させる往復動機構1042と、を有する。
【0113】
往復動機構1042は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸1044と、キャリッジガイド軸1044と平行に延在するタイミングベルト1043と、を備える。キャリッジガイド軸1044は、キャリッジ1032が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ1032を支持している。さらに、キャリッジ1032は、タイミングベルト1043の一部に固定されている。キャリッジモータ1041の作動により、タイミングベルト1043を走行させると、キャリッジガイド軸1044に導かれて、ヘッドユニット1030が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0114】
制御部1060は、ヘッドユニット1030、駆動部1010および給紙部1050を制御することができる。
【0115】
給紙部1050は、記録用紙Pをトレイ1021からヘッドユニット1030側へ送り込むことができる。給紙部1050は、その駆動源となる給紙モータ1051と、給紙モータ1051の作動により回転する給紙ローラ1052と、を備える。給紙ローラ1052は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラ1052aおよび駆動ローラ1052bを備える。駆動ローラ1052bは、給紙モータ1051に連結されている。制御部1060によって供紙部1050が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット1030の下方を通過するように送られる。
【0116】
ヘッドユニット1030、駆動部1010、制御部1060および給紙部1050は、装置本体1020の内部に設けられている。
【0117】
液体噴射装置1000では、本発明に係る液体噴射ヘッド300(400)を有することができる。本発明に係る液体噴射ヘッド300(400)は、上述のように、高い信頼性を持つ圧電素子を有することができる。そのため、高い信頼性を有する液体噴射装置1000を得ることができる。
【0118】
なお、上述した例では、液体噴射装置1000がインクジェットプリンターである場合について説明したが、本発明のプリンタは、工業的な液体吐出装置として用いられることもできる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したもの、または、メタルフレーク等を含むものなどを用いることができる。
【0119】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【0120】
6. 実施例
以下、実施例を、図面および表を参照しながら説明する。
【0121】
6.1 第1実施例
本発明者は、第1実施例として、圧電素子50を準備し、圧電素子50に対し、(1)耐久パルス波を50億ショット印加するエージング処理を行った後に加熱処理を行った場合の変位特性と、(2)耐久パルス波を50億ショット印加するエージング処理を行った後に、更に200億ショット印加を追加して、加熱処理を行った場合の変位特性と、をプロットした。また、本発明者は、第1比較例として、圧電素子50に対し、加熱処理を行わずに、耐久パルス波を50億ショット印加した場合(1)の変位特性と、耐久パルス波を200億ショット印加した場合(2)の変位特性と、をプロットした。
【0122】
本実施例においては、チタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電素子50を本実施例の試料とした。圧電体層30は、チタン酸ジルコン酸鉛のセラミックスを、例えば600〜1300nmの膜厚で形成した。第1および第2電極20、40は、公知の手法、例えばスパッタ法によって50〜200nmの膜厚で形成した。第1および第2電極20、40の材料にはPtおよびIrを用いた。振動板10の断熱層11には、二酸化ケイ素を用い、700〜1500mmの膜厚で形成した。また、絶縁層15には二酸化ジルコニウムを用い、100〜500mmの膜厚で形成した。
【0123】
変位特性の評価については、周波数10Hz、室温で電界誘起歪(S)−電界強度(E)特性を測定し、圧電素子の変位量を求めた。
【0124】
加熱条件は、周波数10kHz、パルス幅5μsecの単純矩形波を1秒間印加することで、圧電素子50の表面温度を300℃まで加熱した。
【0125】
図11および表1は、第1実施例に係る変位量の結果と、第1比較例に係る変位量の結果をプロットしたものである。なお、変位量は、初期の圧電素子50の変位量を100%としたときの相対的な変位量で示される。
【0126】
【表1】

【0127】
図11の第1比較例の結果に示めされるように、通常のエージング工程にて行われる50億ショット印加後の圧電素子50の変位量は、初期の変位量と比べて、87.6%に減少し、更に200億ショット印加された後は、84.1%まで減少している。すなわち、通常、エージング処理を行う場合、初期の圧電素子50が有する変位量から15%程度劣化した変位特性でもって使用されることになることがわかる。
【0128】
これに対し、図11の第1実施例に示されるように、50億ショット印加された後であっても、圧電素子50を300℃に加熱することにより、変位量を98.1%まで回復させることが確認された。また、200億ショット印加された後であっても、変位量を95.2%まで回復させることが確認された。また、50億ショット後の方が、変位量をより回復させることができることが明らかとなった。
【0129】
以上より、第1実施例によれば、50億ショット以内で加熱処理を行うことにより、圧電素子50の変位量を、実質的に初期の変位量まで回復させることができた。なお、加熱素子を加熱させるための入力信号において、前述の周波数条件を変更しても、印加時間を適宜調整することによって、前述と同等のレベルまで圧電素子が回復することが明らかとなった。
【0130】
6.2 第2実施例
本発明者は、第2実施例として、第1実施例と同様の圧電素子50を準備し、以下の印加条件で耐久パルス波を印加した後に、第1実施例と同様の条件で加熱処理を行い、圧電素子50の変位特性を調べてプロットした。印加条件は、(1)1ショット(1.0E+00)、(2)100ショット(1.0E+02)、(3)1000ショット(1.0E+03)、(4)1万ショット(1.0E+04)、(5)10万ショット(1.0E+05)、(6)100万ショット(1.0E+06)、(7)1000万ショット(1.0E+07)、(8)5000万ショット(5.0E+07)、(9)2億ショット(2.0E+08)であった。また、本発明者は、第2比較例として、圧電素子50を準備し、同様の印加条件で耐久パルス波を印加した後、加熱処理を行わずに変位特性を調べてプロットした。
【0131】
図12および表2は、第2実施例に係る変位量の結果と、第2比較例に係る変位量の結果をプロットしたものである。なお、変位量は、初期の圧電素子50の変位量を100%としたときの相対的な変位量で示される。
【0132】
【表2】

【0133】
図12の第2比較例の結果に示されるように、10万ショット後の圧電素子50の変位量は、初期の圧電素子50の変位量から4%程度劣化したことがわかる。第2実施例によれば、この4%劣化した圧電素子50に加熱処理を行うことで、圧電素子50の変位量を99.6%まで回復させることができた。また、第2比較例の結果から、10万ショットより多くのショット数を印加された圧電素子50の変位量は、初期の変位量から5%以上劣化することが明らかとなった。また、第2実施例の結果から、10万ショットより多くのショット数を印加された圧電素子50に対して加熱処理を行っても、10万ショットの時点で回復できる変位量よりも回復率が劣ることが明らかとなった。
【0134】
以上より、第2実施例によれば、10万ショット以内で加熱処理を行うことにより、圧電素子50の経時的な変位量の変化を5%以内とすることができた。また、10万ショット以内で加熱処理を行うことにより、実質的に初期の圧電素子50の変位量まで回復させることができた。
【0135】
6.3 第3実施例
本発明者は、第3実施例として、第1実施例と同様の圧電素子50を準備し、第1実施例と同様の印加条件で圧電素子50に耐久パルスを印加して、10万ショット毎に第1実施例と同様の加熱条件で加熱を行った。このような印加条件の下で、連続印加を行い、50億パルス印加後の変位量と、200億パルス後の変位量を調べてプロットした。また、第3比較例として、第3実施例と同様の条件であって、加熱処理を行わない場合の圧電素子50の変位量を調べてプロットした。
【0136】
図13および表3は、第3実施例に係る変位量の結果と、第3比較例に係る変位量の結果をプロットしたものである。なお、変位量は、初期の圧電素子50の変位量を100%としたときの相対的な変化量で示される。
【0137】
【表3】

【0138】
図13の第3比較例の結果に示されるように、加熱処理を行わない場合、200億ショット印加された後の圧電素子50の変位量は、15%程度劣化している。これに対し、10万ショット毎に加熱処理を行った第3実施例においては、50億ショット後であっても、圧電素子50の変位量は、0.5%劣化しただけであり、200億ショット後であっても、1.0%劣化しただけであった。
【0139】
以上より、第3実施例によれば、10万ショット毎で加熱処理を行うことにより、圧電素子50を実質的に、初期の変位量でもって駆動させることが可能であることが明らかとなった。
【0140】
以上、第1〜第3実施例によれば、300℃まで加熱処理された圧電素子50は、変位量が回復することが明らかとなった。これは、圧電素子50の圧電体層がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で形成されている場合、PZTの脱分極温度が300℃よりも低いためであり、圧電体層を脱分極温度以上に加熱したためである。ここで、『脱分極温度』とは圧電体の強誘電性に起因する自発分極が失われる温度を意味し、一般的には強誘電性を失う相転移温度の半分程度の温度を示す。従って、約350℃程度の相転移温度をもつPZTにおいては、脱分極温度は300℃よりも低い温度となる。また、圧電体層が劣化する原因は、分極が固定化されたドメインが増加するためである(ドメインのピニング現象)。したがって、加熱処理を行い、圧電体層の全体の分極を消失させることで、ピニング等により、各ドメインで固定された分極をリセットすることができるため、圧電体層の変位量を回復させることができる。加熱処理を行う温度は、圧電体層の材料の脱分極温度以上であればよい。例えば、圧電体層としてチタン酸バリウムを用いる場合、加熱条件は、80℃以上であればよい。
【0141】
本発明に係る圧電アクチュエーター100は、加熱素子12によって、圧電体層30を加熱処理することができる。したがって、エージング工程を必要とせず、エージング処理後の圧電特性よりも、高い圧電特性を有する圧電アクチュエーター100を提供することができる。
【符号の説明】
【0142】
10 振動板、10a 第1の面、10b 第2の面、11 断熱層、12 加熱素子、
12a 発熱体層、12b 第1配線層、12c 第2配線層、12d 導電膜、
13 活性領域、15 絶縁層、16 可動領域、18 開口部、20 第1電極、
21 端部、20a 第1導電膜、30 圧電体層、30a 前駆体膜、
30b 圧電体膜、31 上面、32 側面、33 端部、35 駆動領域、
40 第2電極、40a マスク層、40b 第2導電膜、50 圧電素子、
60 基板、60a 基板、61 圧力室、61a 領域、62 壁部、63 供給路、
64 連通路、65 マニュホールド、70 ノズル板、71 ノズル孔、
80 封止板、81 封止領域、82 開口部、90 可撓膜、91 固定膜、
93 開口部、100 圧電アクチュエーター、110 第1の方向、
120 第2の方向、270 駆動回路(IC)、300 液体噴射ヘッド、
400 液体噴射ヘッド、1000 液体噴射装置、
1010 駆動部、1020 装置本体、1021 トレイ、1022 排出口、
1030 ヘッドユニット、1031 インクカートリッジ、1032 キャリッジ、
1041 キャリッジモータ、1042 往復動機構、1043 タイミングベルト、1044 キャリッジガイド軸、1050 給紙部、1051 給紙モータ、
1052 給紙ローラ、1060 制御部、1070 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱層と、前記断熱層の上方に形成された加熱素子と、前記加熱素子の上方に形成された絶縁層と、を有する振動板と、
前記絶縁層の上方において、第1電極と第2電極とによって挟まれた圧電体層を有する圧電素子と、
を含み、
前記加熱素子は、発熱体層と、前記発熱体層にそれぞれ電気的に接続された、第1配線層および第2配線層と、を有し、
前記圧電体層は、前記圧電体層の厚み方向から見た場合、前記発熱体層の少なくとも一部とオーバーラップする、圧電アクチュエーター。
【請求項2】
請求項1において、
前記発熱体層は、前記絶縁層によって覆われている、圧電アクチュエーター。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする、圧電アクチュエーター。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、
前記絶縁層の熱伝導率は、前記断熱層の熱伝導率よりも高い、圧電アクチュエーター。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の圧電アクチュエーターを有する、液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項5項に記載の液体噴射ヘッドを有する、液体噴射装置。
【請求項7】
基板の上方に断熱層を形成する工程と、
前記断熱層の上方において加熱素子を形成する工程と、
前記加熱素子の上方に絶縁層を形成する工程と、を有する振動板の形成工程と、
前記絶縁層の上方において、圧電素子を形成する工程と、を含み、
前記加熱素子は、発熱体層と、前記発熱体層にそれぞれ電気的に接続された、第1配線層および第2配線層と、を有し、
前記圧電素子は、第1電極と第2電極によって挟まれた圧電体層と、を有し、前記圧電体層の厚み方向から見た場合、前記発熱体層の少なくとも一部とオーバーラップする、圧電アクチュエーターの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−166049(P2011−166049A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29845(P2010−29845)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】