説明

圧電性積層体及びその製造方法

【課題】ポリ乳酸系樹脂の高い圧電性を維持したまま、他の層との接着性に優れる圧電性積層体を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂を含むA層と、一方の面で前記A層の表面に接する不飽和カルボン酸重合体を含むB層と、を有し、前記B層の表面をX線光電子分光法により測定して得られた炭素1sスペクトルから波形解析により求められた、C(=O)−O−C基の数に対するC(=O)−Oの数の比率〔(C(=O)−Oの数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が1.4以上5.0以下である圧電性積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電性材料として、ポリペプチドやポリ乳酸等の、光学活性を有する高分子(光学活性高分子)を用いることが着目されている。光学活性高分子は、機械的な延伸操作のみで圧電性が発現することが知られている。
光学活性高分子の中でも、ポリ乳酸のような高分子結晶の圧電性は、螺旋軸方向に存在するC=O結合の永久双極子に起因する。特にポリ乳酸は、主鎖に対する側鎖の体積分率が小さく、体積あたりの永久双極子の割合が大きく、ヘリカルキラリティをもつ高分子の中でも理想的な高分子といえる。
延伸処理のみで圧電性を発現するポリ乳酸は、ポーリング処理が不要で、圧電率は数年にわたり減少しないことが知られている。
以上のように、ポリ乳酸には種々の圧電特性があるため、種々のポリ乳酸を用いた高分子圧電性材料が検討されている。
【0003】
ところでポリ乳酸は、その生分解性等に着目し、圧電性材料以外にも、化粧シート、表示装置用光学シート、包装フィルム等、種々の用途に広く用いられている。
用途に関わらず、一般にポリ乳酸は、ポリ乳酸を含む層と他の層とを含む積層体の形態で用いられることがある。この際、ポリ乳酸を含む層と他の層との接着性が悪い場合があり、接着性を改善するために、様々な検討が行われている。
【0004】
例えば、化粧用シートとしてのポリ乳酸樹脂層/接着層/透明無機薄膜層の構成の積層体において、ポリ乳酸樹脂層と他の層との接着性向上の観点から、ポリ乳酸樹脂からなる基材層表面に、コロナ処理やオゾン処理等の表面活性化処理を施すことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、化粧用シートとしてのポリエステル層/ポリ乳酸樹脂層/ポリエステル層の積層体において、経時でも安定かつ強固な接着力が得られる方法として、ポリエステル層に予め不飽和カルボン酸をグラフト重合させておく方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
一方、プラズマディスプレイ用光学シートとして、ポリ乳酸系樹脂及びアクリル系樹脂を含む樹脂組成物からなる層/酸化亜鉛系透明導電膜層の構成の積層体や、ポリ乳酸系樹脂及びアクリル系樹脂を含む樹脂組成物からなる層/ハードコート層/酸化亜鉛系透明導電膜層の構成の積層体が知られている(例えば、特許文献3、4参照)。これらの積層体では、ポリ乳酸系樹脂及びアクリル系樹脂を樹脂組成物を用いることで、該樹脂組成物からなる層と酸化亜鉛系透明導電膜層又はハードコート層との密着性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−196288号公報
【特許文献2】特開2010−52335号公報
【特許文献3】特開2008−103104号公報
【特許文献4】特開2008−100368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圧電性材料として、ポリ乳酸系樹脂を含む層と他の層とを含む積層体を用いる場合、圧電性と接着性との両立が困難な場合がある。
例えば、コロナ処理やオゾン処理等の通常の表面活性化処理では、十分な接着性が得られないことや、ポリ乳酸系樹脂の分解により圧電性が低下することがある。
また、ポリ乳酸系樹脂に対し不飽和カルボン酸をグラフト重合させる方法では、ポリ乳酸系樹脂の分子鎖の螺旋構造が乱れ、圧電性が低下することがある。
また、特許文献3及び4に記載されているような、ポリ乳酸系樹脂及びアクリル系樹脂を含む樹脂組成物を用いる方法では、ヘリカルキラリティを有するポリ乳酸系樹脂に対しヘリカルキラリティを有さないアクリル系樹脂を添加することで、ポリ乳酸系樹脂の分子鎖の螺旋構造が乱れ、圧電性が低下する恐れがある。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、ポリ乳酸系樹脂の高い圧電性を維持したまま、他の層との接着性に優れる圧電性積層体を提供することである。
また、本発明の目的は、ポリ乳酸系樹脂の高い圧電性を維持したまま、他の層との接着性に優れた圧電性積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> ポリ乳酸系樹脂を含むA層と、一方の面で前記A層の表面に接する不飽和カルボン酸重合体を含むB層と、を有し、
前記B層の表面をX線光電子分光法により測定して得られた炭素1sスペクトルから波形解析により求められた、C(=O)−O−C基の数に対するC(=O)−Oの数の比率〔(C(=O)−Oの数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が1.4以上5.0以下である圧電性積層体。
【0009】
<2> 前記A層は、25℃における圧電定数d14が1pC/N〜30pC/Nである<1>に記載の圧電性積層体。
<3> 前記B層の膜厚が、2nm以上70nm以下である<1>又は<2>に記載の圧電性積層体。
<4> 更に、前記B層の他方の面に接するC層を有する<1>〜<3>のいずれか1項に記載の圧電性積層体。
【0010】
<5> 前記不飽和カルボン酸重合体がアクリル酸重合体である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の圧電性積層体。
<6> 前記B層が、前記A層の前記表面に対して、不飽和カルボン酸を含む不活性ガスを用いて大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行うことにより形成された層である<1>〜<5>のいずれか1項に記載の圧電性積層体。
【0011】
<7> 前記C層が、酸化金属化合物を含む<4>〜<6>のいずれか1項に記載の圧電性積層体。
<8> 前記酸化金属化合物が、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、及び酸化インジウム亜鉛(IZO)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む<7>に記載の圧電性積層体。
【0012】
<9> <1>〜<8>のいずれか1項に記載の圧電性積層体を製造する方法であって、
ポリ乳酸系樹脂を含むA層を準備する工程と、
前記A層の表面に対し、不飽和カルボン酸を含んだ不活性ガスを用いて大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行うことにより、前記A層表面に不飽和カルボン酸重合体を含むB層を形成する工程と、
形成された前記B層を溶媒を用いて洗浄する工程と、
を有する圧電性積層体の製造方法。
<10> 更に、前記B層を洗浄する工程の後、前記B層の表面に、蒸着により酸化金属化合物を含むC層を形成する工程を有する<9>に記載の圧電性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂の高い圧電性を維持したまま、他の層との接着性に優れる圧電性積層体を提供することができる。
また、本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂の高い圧電性を維持したまま、他の層との接着性に優れる圧電性積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態において用いられるプラズマ処理装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪圧電性積層体≫
本発明の圧電性積層体は、ポリ乳酸系樹脂を含むA層と、一方の面で前記A層の表面に接する不飽和カルボン酸重合体を含むB層と、を有し、前記B層の表面をX線光電子分光法により測定して得られた炭素1sスペクトルから波形解析により求められた、C(=O)−O−C基の数に対するC(=O)−O基の数の比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が1.4以上5.0以下である。
本発明においては、前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕を、「[C(=O)−O]/[C(=O)−O−C]」と表記することがある。
【0016】
本発明の圧電性積層体によれば、ポリ乳酸系樹脂を含むA層上に、接着層として、不飽和カルボン酸重合体を含む特定のB層を設けた上記構成により、B層上に設けられる他の層との接着性を向上させることができる。
また、本発明の圧電性積層体によれば、従来の接着性向上処理(例えば、コロナ処理やオゾン処理等の表面活性化処理、ポリ乳酸系樹脂に対し不飽和カルボン酸をグラフト重合させる処理、又はポリ乳酸系樹脂にアクリル系樹脂を混ぜる処理)と比較して、ポリ乳酸系樹脂の圧電性の低下を抑制できる。
【0017】
前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕は、前記B層の表面(即ち、前記A層と接していない側の面)をX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS(またはElectron Spectroscopy for Chemical Analysis:ESCAとも呼ばれる))により測定して得られた炭素1sスペクトルから、波形解析により求められた比率である。
ここで、C(=O)−O基の数は、前記X線光電子分光法により測定された範囲内における、エステル結合(C(=O)−O−C結合)及びカルボキシル基(C(=O)−OH基)の総数である。
また、C(=O)−O−C基の数は、前記X線光電子分光法により測定された範囲内における、エステル結合(C(=O)−O−C結合)の総数である。
ここで、エステル結合は、主にA層中のポリ乳酸系樹脂に含まれており、カルボキシル基は、主にB層中の不飽和カルボン酸重合体に含まれている。
【0018】
本発明では、前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が1.4以上5.0以下である。
前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕は、他の層(例えば後述するC層)との接着性に寄与する基であるカルボキシル基の量と相関があり、該比率が1.4以上であることにより、他の層との接着性が良好となる。
前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が1.4未満であると、B層中のカルボキシル基の量が少なすぎるため、他の層との接着性が低下する。
一方、前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が5.0を超えると、B層中の不飽和カルボン酸重合体の架橋度が低下し、B層自身が破断する形で、他の層(例えば後述するC層)が剥がれ易くなる。即ち、前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が5.0を超える場合にも、他の層との接着性が低下する。
前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕は、他の層との接着性の観点から、1.6以上4.0以下が好ましい。
【0019】
本発明において、前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕は、以下のようにして求める。
まず、前記B層の表面をX線光電子分光法により測定して得られた炭素1sスペクトルから、波形解析により、全炭素数に対するC(=O)−O基の数の百分率(%)(以下、「[C(=O)−O]/[C]」とも表記する。)を求める。
次に、前記炭素1sスペクトルから、波形解析により、全炭素数に対するC(=O)−O−C基の数の百分率(%)(以下、「[C(=O)−O−C]/[C]」とも表記する。)を求める。
前記「[C(=O)−O]/[C]」を前記「[C(=O)−O−C]/[C]」で割る(除する)ことにより、[C(=O)−O]/[C(=O)−O−C]、即ち、前記比率〔(C(=O)−O基の数)/(C(=O)−O−C基の数)〕を求める。
【0020】
本発明において、炭素1sスペクトルの波形解析は以下のようにして行う。
即ち、炭素1sスペクトルを構成する複数のピークのうち、最低エネルギー側(285.0eV)に存在するピークを、C−C結合及びC−H結合の炭素に由来するピークとする。更に、約286.5eVに存在するピークをC−O結合の炭素に由来するピークとし、約287.1eVに存在するピークをC(=O)−O−C結合の右端の炭素に由来するピークとし、約288.0eVに存在するピークをC=O結合の炭素に由来するピークとし、約289.1eVに存在するピークをC(=O)−O結合の炭素に由来するピークとする。
【0021】
なお、XPSは通常の条件で測定されればよく、たとえば、X線源:単色化AlKα、真空度:1×10−9mbar、出力:16mA−10kVとする。また、波形解析は通常の方法で行えばよく、例えば、得られたスペクトルをカーブフィッティングして上記ピークについてピーク分離し、分離されたピークの面積比を求めることにより行うことができる。
【0022】
<ポリ乳酸系樹脂を含むA層>
本発明の圧電性積層体は、圧電性を有する層として、ポリ乳酸系樹脂を含むA層を有する。
A層の形態に特に制限はなく、たとえばフィルムの形態や基板の形態とすることができる。A層の厚さも特に制限はないが、強度の観点からは、たとえば2μm以上が好ましい。また、加工性の観点からは、2000μm以下が好ましい。
更に、圧電性の観点からは、10μm〜500μmが好ましく、10μm〜300μmがより好ましい。
【0023】
(圧電定数d14
前記A層としては、圧電性等の観点から、25℃における圧電定数d14が1pC/N〜30pC/Nである層が好ましい。
圧電定数d14が1pC/N以上であると、A層の圧電性がより向上する。
圧電定数d14が30pC/N以下であると、A層の柔軟性がより向上する。
本発明において「圧電定数d14」は、圧電率のテンソルの一つであり、延伸した材料の延伸軸方向にずり応力を印加し、ずり応力の方向に分極が生じるときの、単位ずり応力あたりの発生電荷密度を表す。
本発明において「圧電定数d14」は、後述する複素圧電率d14の実数部に相当する。
圧電定数d14の数値が大きいほど圧電性が高いことを表す。
前記A層の圧電定数d14としては、圧電デバイスとして使用する観点からは、5pC/N〜30pC/Nがより好ましく、8pC/N〜30pC/Nが更に好ましい。さらには、10pC/N〜30pC/Nが更に好ましく、12pC/N〜30pC/Nが更に好ましく、15pC/N〜30pC/Nが特に好ましい。
【0024】
本発明における圧電定数d14は、10mm×3mm角の高分子圧電材料の試験片について、東洋精機製作所社製の「レオログラフソリッドS−1型」を用いて測定して得られる値である。具体的には、周波数10Hzで、室温にて試験片に印加される最大せん断ひずみが0.01%〜0.1%の範囲に収まるように、大よそ0.01N/m〜0.1N/mのせん断応力を印加し、該試験片の複素圧電率d14の実数部を測定した。
ここで、複素圧電率d14は、「d14=d14’―id14’’」として算出され、「d14’」と「id14’’」は東洋精機製作所社製「レオログラフソリッドS−1型」より得られる。「d14’」は、複素圧電率の実数部を表し、「id14’’」は、複素圧電率の虚数部を表し、d14’(複素圧電率の実数部)が本発明における圧電定数d14に相当する。
尚、複素圧電率の実数部が高いほど圧電性に優れることを示す。
【0025】
(結晶化度および配向度)
前記A層は、X線回折法で得られる結晶化度が50%〜80%であることが好ましい。
前記結晶化度の下限は、圧電性を向上する観点から、より好ましくは55%である。一方、前記結晶化度の上限は、フィルムの柔軟性の観点から、80%であることが好ましく、70%であることがより好ましい。
同様に、圧電性を向上する観点から、X線回折法で得られる前記A層の配向度は、0.90以上であることが好ましく、0.94以上であることがより好ましい。
前記A層の結晶化度および配向度は、前記A層を、X線回折装置で測定することにより確認することができる。
前記A層の結晶化度および配向度の測定は、例えば、以下の条件で行う。
【0026】
〜結晶化度〜
装置としてリガク社製「RINT2500」および、リガク社製の結晶化度解析プログラムを用い、試料の回折プロファイルを結晶部と非晶部にピーク分離して、面積比より結晶化度を算出する。非晶ハロー形状は、融液から急冷した試料の回折プロファイル形状を参照する。
測定条件は、以下の条件とする。
X線源:CuKα
出力:50kV、300mA
測定範囲:2θ=5〜35°
検出器:シンチレーションカウンター
【0027】
〜配向度〜
試料を試料ホルダーに固定し、2θ=16°付近のピークの方位角分布強度を測定する。
装置はリガク社製「RINT2550」を用い、測定条件は、以下の条件とする。
X線源:CuKα
出力:40kV、370mA
測定範囲:β=−100〜500°
検出器:シンチレーションカウンター
測定した方位角分布曲線より、軸配向度を次式により算出する。
軸配向度 F=(180−α)/180
〔上記式中、αは配向由来ピークの半価幅を表す〕
【0028】
(ヘイズ)
また、A層は、圧電性積層体として求められる透明性の観点から、ヘイズが0.1〜30であることが好ましい。ここで、ヘイズは、厚さ0.05mmのA層に対して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC-HIII DPK〕で測定することにより得られた値である。該ヘイズの測定は、例えば、上記ヘイズ測定機を用い、JIS−K7105に準拠した方法により、幅3mm×長さ30mm、厚さ0.05mmに加工した測定試料(A層)について、室温(25℃)にて行う。
A層のヘイズは、0.1〜10であることがより好ましく、0.1〜5であることが特に好ましい。
また、A層のヘイズの下限は、0.5であることがより好ましい。
【0029】
(ポリ乳酸系樹脂)
本発明におけるA層は、ポリ乳酸系樹脂を含有する。
本発明におけるポリ乳酸系樹脂とは、「ポリ乳酸」、「L−乳酸またはD−乳酸と、共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
前記「ポリ乳酸」は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子であり、例えば、ラクチドを経由するラクチド法と、溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法などによって製造できることが知られている。
前記「ポリ乳酸」としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0030】
前記「共重合可能な多官能性化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸、グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸、及びこれらの無水物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール、セルロース等の多糖類、及び、α−アミノ酸等のアミノカルボン酸等を挙げることができる。
【0031】
前記「L−乳酸またはD−乳酸と、共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーが挙げられる。
【0032】
前記ポリ乳酸系樹脂は、例えば、特開昭59−096123号、及び特開平7−033861号に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法や、米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法などにより製造することができる。
【0033】
−光学活性−
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、A層の圧電性をより向上する観点から、光学活性を有することが好ましい。
より好ましくは前記ポリ乳酸系樹脂が、光学活性を有するヘリカルキラル高分子である形態である。ここで、光学活性を有するヘリカルキラル高分子とは、分子構造が螺旋構造である分子光学活性を有する高分子をいう。
【0034】
前記ポリ乳酸系樹脂は、A層の圧電性をより向上する観点から、光学純度が99.00%ee以上であることが好ましく、99.50%ee以上であることがより好ましく、99.99%ee以上であることがさらに好ましい。望ましくは100.00%eeである。前記ポリ乳酸系樹脂の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0035】
本発明において、前記ポリ乳酸系樹脂の光学純度は、下記式にて算出した値である。
【0036】
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
【0037】
すなわち、『「ポリ乳酸系樹脂のL体の量〔質量%〕とポリ乳酸系樹脂のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ポリ乳酸系樹脂のL体の量〔質量%〕とポリ乳酸系樹脂のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値を、光学純度とする。
なお、光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。
【0038】
前記ポリ乳酸系樹脂の光学純度を99.00%ee以上とするためには、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を99.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0039】
−重量平均分子量−
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、重量平均分子量(Mw)が、5万〜100万であることが好ましい。
前記ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が、5万未満であると光学活性高分子を成型体としたときの機械的強度が不十分となる場合がある。前記ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量の下限は、10万であることが好ましく、20万であることがさらに好ましい。一方、前記ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が100万を超えると、光学活性高分子を成型体としたときのフィルムなどの押出成型などの成形をすることができない場合がある。重量平均分子量の上限は、80万であることが好ましく、30万であることがさらに好ましい。
【0040】
また、前記ポリ乳酸系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、延伸フィルムの強度、配向度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0041】
前記ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量(Mw)を、5万以上とするためには、ラクチド法、または直接重合法により光学活性高分子を製造することが好ましい。
【0042】
本発明におけるA層において、前記ポリ乳酸系樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
(その他の成分)
本発明におけるA層は、本発明の効果を損なわない限度において、ポリ乳酸系樹脂以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や、シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の無機化合物、フタロシアニン等の公知の結晶核剤等が挙げられる。
例えば、A層を、気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために、A層中に、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよいが、無機のフィラーをナノ分散させるためには、凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり、また、フィラーがナノ分散しない場合、フィルムの透明度が低下する場合がある。A層が無機フィラーを含有するとき、A層全質量に対する無機フィラーの含有量は、1質量%未満とすることが好ましい。
本発明におけるA層は、光学純度が99.00%ee以上の高純度のポリ乳酸系樹脂を含むとき、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散させずとも透明なフィルムを得ることができる。また、光学活性高分子の光学純度および圧電定数向上の観点からも、本発明におけるA層は、前記ポリ乳酸系樹脂のみで構成されていることが好ましい。
【0044】
本発明におけるA層が前記ポリ乳酸系樹脂以外のその他の成分を含む場合、当該その他の成分の含有量は、A層全質量中に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
(A層の形成方法)
本発明におけるA層を形成する方法には特に限定はなく、前記ポリ乳酸系樹脂を含む原料を、押し出し成形によりフィルム状の成形体(A層)に成形する公知の方法を用いることができる。
圧電性をより効果的に発現させる観点からは、押し出し成形により得られたフィルム状の成形体に、更に延伸処理を施すことが好ましい。
【0046】
前記延伸処理の方法は特に制限されず、1軸延伸、2軸延伸、固相延伸などの種々の延伸方法を用いることができる。
前記延伸処理における延伸倍率は、2倍〜10倍が好ましく、3倍〜9倍がより好ましい。
前記延伸処理における温度は、40℃〜100℃が好ましく、50℃〜90℃がより好ましい。
また、前記延伸処理後、更に、熱処理を施すことが好ましい。熱処理の温度は、70℃〜150℃が好ましく、90℃〜130℃がより好ましい。熱処理の時間は、0.1時間〜3時間が好ましく、0.1時間〜2時間がより好ましい。
【0047】
<不飽和カルボン酸重合体を含むB層>
本発明におけるB層は、一方の面で前記A層の表面に接する層であり、不飽和カルボン酸重合体を含む層である。
B層は、他の層(例えば、後述のC層)との接着層として機能する層である。
【0048】
前記B層は、前記A層の一方の表面の全体を覆っていてもよいし、一部の領域を覆っていてもよい。接着性をさらに確実に向上させる観点からは、A層の一方の表面の全体にB層が設けられていることが好ましい。また、B層は、A層の表面にたとえば膜状に形成されていてもよい。
【0049】
前記B層の膜厚は、70nm以下であることが好ましく、60nm以下がより好ましい。
前記B層の膜厚を70nm以下とすることで、B層自身の破壊による剥離をより効果的に抑制でき、他の層との接着性をより向上させることができる。また、前記B層の膜厚を70nm以下とすることで、B層を設けたことによる圧電性の低下をより抑制できる。
前記B層の膜厚の下限には特に限定はないが、接着性の観点から、2nmが好ましい。
【0050】
(不飽和カルボン酸重合体)
前記B層は、不飽和カルボン酸重合体を少なくとも1種含有する。
不飽和カルボン酸重合体の原料モノマーである不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、等が挙げられる。
中でも、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましく、アクリル酸が特に好ましい。
【0051】
B層中における不飽和カルボン酸重合体の存在は、後述する洗浄工程(B層を溶媒を用いて洗浄する工程)後においても、B層の少なくとも一部がA層上に残ることを確認することにより行うことができる。即ち、後述する洗浄工程後においてもB層の少なくとも一部がA層上に残る場合には、B層中に不飽和カルボン酸重合体が含まれていることを示す。
一方、A層上に不飽和カルボン酸を塗布して不飽和カルボン酸単量体からなる層を形成した場合のように、B層中に不飽和カルボン酸重合体が含まれない場合には、後述する洗浄工程によってB層が全て溶解し、該洗浄工程後はB層が残らない。
【0052】
前記不飽和カルボン酸重合体の数平均分子量には特に限定はないが、接着性をより向上させる観点より、120以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましい。
【0053】
前記B層は、不飽和カルボン酸重合体以外のその他の成分を含んでいてもよいが、接着性を得る観点から、前記B層の全量中における不飽和カルボン酸重合体の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0054】
(B層の形成方法)
本発明におけるB層を形成する方法としては、例えば、蒸着、塗布、プラズマ処理等の公知の成膜方法により形成する方法が挙げられる。中でも、プラズマ処理が好ましい。
プラズマ処理によるB層の形成の好ましい形態としては、不活性ガス(主ガス)中に不飽和カルボン酸を混入させた混合ガスを放電ガスとして用い、A層表面を大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理することにより、A層上にB層を形成する形態が挙げられる。
即ち、前記B層は、前記A層の前記表面に対して、不飽和カルボン酸を含む不活性ガスを用いて大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行うことにより形成された層であることが好ましい。
ここで、大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行う場合の好ましい形態については、後述の≪圧電性積層体の製造方法≫中の<プラズマ処理工程>の項で詳述する。
【0055】
<C層>
本発明の圧電性積層体は、前記A層及び前記B層のいずれとも異なるその他の層として、前記B層の他方の面(A層と接していない側の面)に接するC層を有していてもよい。
即ち、本発明の圧電性積層体は、接着層であるB層を介してA層とC層とが接着された、C層/B層/A層の積層構造を有する積層体として構成されていてもよい。
【0056】
前記C層としては前記A層及び前記B層のいずれとも異なるその他の層である限り特に限定はないが、C層が、A層との接着性が悪い層(換言すれば、A層との接着性向上を要求される層)である場合に、B層による接着性向上の効果がより効果的に奏される。
このようなC層として、例えば、酸化金属化合物を含むC層が挙げられる。
前記酸化金属化合物を含むC層において、前記C層の全量中における酸化金属化合物の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0057】
前記酸化金属化合物は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、及び酸化インジウム亜鉛(IZO)からなる群から選択される少なくとも1種を含む酸化金属化合物であることが好ましい。
酸化亜鉛(ZnO)を含む酸化金属化合物としては、例えば、酸化ガリウム(Ga)がドープされた酸化亜鉛(ZnO)や、ノンドープ酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。
【0058】
前記酸化金属化合物を含むC層は、例えば、蒸着、塗布、等により形成される。
前記蒸着としては、物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition、「スパッタ」とも呼ばれている)、化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)、等が挙げられる。
前記スパッタは、DC電源を用いたDCマグネトロンスパッタであってもよいし、RF電源を用いたRFマグネトロンスパッタであってもよい。
また、前記スパッタは、不活性ガス(アルゴン等)雰囲気下で酸化金属化合物ターゲット(例えば、ZnOターゲット、酸化ガリウム(Ga)がドープされたZnOターゲット、等)を用いて行う非反応性スパッタであっても、アルゴン等の不活性ガスに酸素ガスを混入させた混合ガス雰囲気下で金属ターゲット(例えば、Znターゲット)又は金属化合物ターゲットを用いて行う反応性スパッタであってもよい。
また、前記スパッタは、B層/A層の構造の積層体を積極的に加熱して行う加熱スパッタであってもよいし、該積層体を加熱せずに行う常温スパッタ(非加熱スパッタ)であってもよい。
【0059】
前記スパッタの中でも、下地膜からの膜剥がれが発生し易い条件のスパッタによってC層を形成する場合に、本発明による接着性向上効果がより効果的に発揮される。
膜剥がれが発生し易い条件としては、例えば、DCパルス電源を用いたマグネトロンスパッタ装置により、50℃以下のB層/A層の積層体の該B層上に、C層として、GaがドープされたZnO膜をスパッタする条件等が挙げられる。
【0060】
本発明の圧電性積層体は、ポリ乳酸系樹脂の高い圧電性を維持したまま、他の層との接着性に優れる圧電性積層体であるため、例えば、スピーカー、ヘッドホン、マイクロホン、水中マイクロホン、超音波トランスデューサ、超音波応用計測器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、センサー、加速度センサー、衝撃センサー、振動センサー、感圧センサー、触覚センサー、電界センサー、音圧センサー、ディスプレイ、ファン、ポンプ、可変焦点ミラー、遮音材料、防音材料、キーボード、音響機器、情報処理機、計測機器、医用機器などの種々の分野で利用することができる。
【0061】
前記本発明の圧電性積層体を備えた圧電素子を構成することができる。具体的には、本発明の圧電性積層体のB層上に電極層として前記C層を設け、圧電素子を構成することができる。
また、この圧電素子を備えた圧電デバイスを構成することもできる。
圧電素子又は圧電デバイスにおける電極層としてのC層は、透明性がある層であることが好ましい。
このようなC層として、具体的には、既述の酸化金属化合物(例えば、ZnO、酸化ガリウム(Ga)がドープされたZnO、ITO、IZO)を含むC層が好ましい。
ここで、透明性があるC層としては、ヘイズが20以下(全光線透過率が80%以上)である層が好ましい。
【0062】
本発明の圧電性積層体を用いた前記圧電素子は、スピーカーやタッチパネル等、種々の圧電デバイスに応用することができる。特に、透明性のある電極を備えた圧電素子は、スピーカー、タッチパネル、アクチュエータ等への応用に好適である。
【0063】
以上で説明した本発明の圧電性積層体を製造する方法には特に限定はなく、例えば、前記A層上に前記B層を、蒸着、塗布、プラズマ処理等の公知の成膜方法により形成する方法が挙げられる。
これらの方法の中でも、以下で説明する本発明の圧電性積層体の製造方法が好適である。
【0064】
≪圧電性積層体の製造方法≫
本発明の圧電性積層体の製造方法は、ポリ乳酸系樹脂を含むA層を準備する工程(以下、「A層準備工程」ともいう)と、前記A層の表面に対し、不飽和カルボン酸を含んだ不活性ガスを用いて大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行うことにより、前記A層表面に不飽和カルボン酸重合体を含むB層を形成する工程(以下、「プラズマ処理工程」ともいう)と、形成されたB層を溶媒を用いて洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)と、を有する。
この製造方法によれば、既述の本発明の圧電性積層体を好適に製造できる。
【0065】
<A層準備工程>
前記A層準備工程は便宜上の工程であり、予め作製されていたポリ乳酸系樹脂を含むA層を準備する工程であってもよいし、既述の方法によりポリ乳酸系樹脂を含むA層を作製する工程であってもよい。
A層の詳細については、既述の「圧電性積層体」の項で説明したとおりであり、好ましい範囲も同様である。
【0066】
<プラズマ処理工程>
前記プラズマ処理工程は、前記A層の表面に対し、不飽和カルボン酸を含んだ不活性ガスを用いて大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行うことにより、前記A層表面に不飽和カルボン酸重合体を含むB層を形成する工程である。
不飽和カルボン酸やB層の詳細については、既述の「圧電性積層体」の項で説明したとおりであり、好ましい範囲も同様である。
【0067】
ここで、「大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行う」とは、大気に開放された大気圧雰囲気下でプラズマ処理を行うことの他、密閉容器において大気圧に比べ僅かに減圧された雰囲気下でプラズマ処理を行うことや、密閉容器において大気圧に比べ僅かに加圧された雰囲気下でプラズマ処理を行うことを含む意味である。
上記大気圧近傍の圧力は、100〜800Torr(0.013〜0.105MPa)の圧力を指す。装置が簡便になる700〜780Torr(0.092〜0.103MPa)の範囲が好ましい。
【0068】
前記プラズマ処理工程において、不飽和カルボン酸を含んだ不活性ガスとしては、不飽和カルボン酸を0.1体積%以上含んだ不活性ガスを用いることが好ましい。
ここで、「不飽和カルボン酸を含んだ不活性ガス」とは、詳しくは、主ガス(キャリアガス)としての不活性ガスと、不飽和カルボン酸(処理剤)が気化した不飽和カルボン酸ガス(処理ガス)と、の混合ガスを指す。
また、「不飽和カルボン酸を0.1体積%以上含んだ不活性ガス」とは、前記混合ガスであって、主ガスの体積に対する不飽和カルボン酸ガスの体積が0.1体積%以上である混合ガスを指す。
【0069】
前記プラズマ処理方法では、大気圧近傍の圧力下で、前記不飽和カルボン酸を含んだ不活性ガスを励起してプラズマ化することで活性種を発生させる。
【0070】
ここで主ガスとしては、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等の希ガスの中から選ばれる1種類以上の単独又は混合ガスを指す。放電の形成されやすさから、主ガスとしては、ヘリウムおよび/またはアルゴンが主体となることが望ましい。
【0071】
不飽和カルボン酸ガスの添加量としては、主ガスに対して0.1体積%以上が好ましい。また、積層体の接合強度を確実に向上させる観点からは、0.2体積%以上とすることがより好ましい。また、不飽和カルボン酸ガスの添加量の上限に特に制限はないが、安全性をさらに向上させる観点からは、たとえば爆発限界の2.9体積%未満とする。
【0072】
処理ガス(不飽和カルボン酸ガス)を主ガスに加える手段としては、たとえば処理剤(不飽和カルボン酸)を含む液体中に主ガスの一部を注入し、液体原料の温度と主ガスの注入量とにより、処理ガスとして主ガスへの添加される処理剤の量を制御する、所謂バブリング方式が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0073】
また、前記プラズマ処理の方式としては、被処理基材(本発明ではA層)を放電プラズマ空間内に配置して表面処理を行う、いわゆるダイレクト方式でもよいし、被処理基材(本発明ではA層)を放電プラズマ空間の外に配置して、プラズマ空間で生成した活性種を被処理基材表面に吹き付けて処理を行う、いわゆるリモート方式でもよい。
【0074】
また、前記プラズマ処理は、大気圧プラズマ装置によって好適に行うことができる。
図1は、本実施形態において用いられるプラズマ処理装置の一例を示す模式図である。
【0075】
図1のプラズマ処理装置は、いわゆるダイレクト方式の装置であり、電圧印加電極50と接地電極55が対向配置されている。電圧印加電極50および接地電極55の各電極対向面には、それぞれ誘電体70および誘電体75が配置されている。本実施形態では、誘電体70、75として、たとえば酸化アルミニウムを用いる。誘電体70と誘電体75は特定の距離(ギャップ)を開けて配置されており、この空間がプラズマ空間80となる。
【0076】
電圧印加電極50にはパルス電源60が接続されており、接地電極55は接地されている。電圧印加電極50はガス供給部40およびガス排気部45と接続されており一体となって可動するので、接地電極55の上に配置された被処理基材90の広い範囲を処理することも可能であるし、また狭い範囲を長時間処理することも可能である。
【0077】
バブリング装置30に入った処理剤20の液体原料に、バブリング用主ガス供給ライン11より主ガスを注入する。蒸気圧によりバブリング装置30の内部で気化した処理剤は、バブリング用主ガスに同伴し処理ガスとして処理ガス添加ライン12を通り、主ガス供給ライン10からの主ガスと混合する。さらにガス供給ライン13とガス供給部40を通り、プラズマ空間80に供給される。プラズマ空間80を通過したガスは、ガス排気部45とガス排気ライン14を通り、排気される。なお、ラインに流量計を設置し、ラインとバブリング装置にリボンヒーターを設置し温度を制御することにより、主ガスおよび前記処理剤の供給量を制御することができる。
【0078】
本発明に用いられるプラズマ装置には、ガスのライン、プラズマ処理空間および被処理物表面を、室温から100℃程度に温度調節する温調手段を備えていることが望ましい。これにより、処理剤を結露させることなく、プラズマ処理空間に導入することができる。
【0079】
処理ガスおよび/または主ガスを放電プラズマ空間へ導入する手段としては、たとえば、バルブ、チューブ、継手等の配管部材、マスフローコントローラ等から構成されるものが挙げられる。導入するガスの流量は、特に限定されず適宜設定することができるが、通常1L/min〜100L/minが好ましい。
【0080】
プラズマ処理における電圧の印加手段には、種々の形式の電圧印加手段を用いることができ、その形式に制限されない。好ましくは、電圧の印加手段が、少なくとも、パルス変調された高周波電圧を印加する手段、もしくは周期的なパルス電圧を印加する手段を備えることである。
【0081】
上記のプラズマ空間に導入されたガスは、電圧の印加によりプラズマ化され、ラジカルを形成し活性種となる。
【0082】
活性種を被処理基材表面に輸送する方法としては、具体的には、活性種を発生させた後、活性種を主ガスと同伴させて移動させる方法や、活性種の拡散により移動させる方法が挙げられるが、特に限定されない。
【0083】
プラズマ空間の雰囲気は、大量の酸素を含まないことが好ましい。これは酸素が酸化力の強い活性種を発生し、処理剤との反応により所望する官能基が維持されなくなる場合があることや、A層を構成するポリ乳酸系樹脂表面を侵食する場合があることなどからである。このような観点から、前記雰囲気中の酸素濃度は10000ppm以下であることが好ましい。
【0084】
<洗浄工程>
本発明における洗浄工程は、前記プラズマ処理により形成されたB層を溶媒を用いて洗浄する工程である。
前記プラズマ処理を行って得られる積層体は、具体的には、高分子フィルムである。このフィルム表面に生成した低分子量成分を除去するため、被処理面(プラズマ処理された面)を溶媒により洗浄する。洗浄により、低分子量成分が残存している場合にも、接着への悪影響を抑制できる。また、洗浄の際に溶媒を用いることにより、低分子量成分を簡便に除去することができる。
【0085】
洗浄溶媒は高分子フィルムを侵さないものから選ぶことができる。溶媒として、具体的には、水、メタノール、エタノールが挙げられる。
また、洗浄方法は特に限定されるものではないが、たとえば超音波洗浄が挙げられる。
【0086】
<C層を形成する工程>
本発明の圧電性積層体の製造方法は、必要に応じ、前記B層を洗浄する工程の後、前記B層の表面に、蒸着により酸化金属化合物を含むC層を形成する工程を有していてもよい。C層の好ましい形態や形成方法については、既述の「圧電性積層体」の項で説明したとおりであり、好ましい範囲も同様である。
【0087】
以上、本発明の圧電性積層体及びその製造方法の実施形態について説明したが、これらはあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記において、「室温」は25℃を指す。
【0089】
〔実施例1〕
<評価用フィルム(A層)の作製>
三井化学(株)製ポリ乳酸系樹脂(登録商標LACEA、H−100(重量平均分子量Mw:15万)を、押出機にて230℃で溶融混練した後、Tダイから吐出させて、厚さ300μmの原反シートを製膜した。この原反フィルムを、加熱ロールにて、70℃に加熱しながら延伸倍率5倍に一軸延伸して、厚さ60μmの一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムをA4サイズにカットした後、4辺を固定後、オーブンにて、110℃で30分熱処理し、評価用フィルム(A層)とした。
【0090】
<評価用フィルムのプラズマ処理>
上記で得られた評価用フィルムに対し、積水化学工業(株)製常圧プラズマ表面処理装置(AP−T02−L)を用い、下記表1に示す条件でプラズマ処理を施した。
ここで、プラズマ処理は、大気圧(760Torr)下で行った。
このとき放電ガスとしては、主ガス(キャリアガス)であるアルゴンガスに、アクリル酸(処理剤)が気化した添加ガスを添加した混合ガスを用いた。
アルゴンガスの流量は20L/minとした。
アクリル酸が気化した処理ガスの、アルゴンガスに対する23℃、圧力760Torrでの混合比は0.2体積%とした。この混合比は、バブリング装置に導入するアルゴンガスの流量とバブリング装置の温度を制御することにより、バブリング装置で気化しアルゴンに同伴されて電極に供給されるアクリル酸量を制御して調整した。
プラズマ処理中の評価用フィルムの搬送速度は0.2m/minとした。
なお、搬送速度を調整することにより、プラズマ処理により形成されるプラズマ処理層の膜厚や、後述の比率〔(C(=O)−Oの数)/(C(=O)−O−C基の数)〕を調整することができる。例えば、搬送速度を遅くすることにより、プラズマ処理層の膜厚を厚くすることができ、また、比率〔(C(=O)−Oの数)/(C(=O)−O−C基の数)〕を上げることができる。一方、搬送速度を速くすることにより、プラズマ処理層の膜厚を薄くすることができ、また、比率〔(C(=O)−Oの数)/(C(=O)−O−C基の数)〕を下げることができる。
【0091】
<超音波洗浄>
上記プラズマ処理後の評価用フィルムを、純水中にて、高周波出力70W、35kHzの条件で1分間超音波洗浄することにより、プラズマ処理によってプラズマ処理表面に生成した水溶性低分子量成分を除去した。
【0092】
<膜厚変化の測定>
上記評価フィルムについて、上記プラズマ処理前から上記超音波洗浄前(上記プラズマ処理後)にかけての膜厚変化(単位nm;以下、この膜厚変化を「膜厚変化(nm)未洗」ともいう)を測定した。
以下、この「膜厚変化(nm)未洗」の測定方法を示す。
まず、上記プラズマ処理前の評価用フィルムの質量(a)と、上記超音波洗浄前(上記プラズマ処理後)の評価用フィルムの質量(b)と、の差(b−a)を測定した。ここで、各質量の測定はそれぞれ電子天秤を用いて行った。
次に、得られた差(b−a)、プラズマ処理層の密度、評価用フィルムの密度、及び評価用フィルム(プラズマ処理層)の面積から「膜厚変化(nm)未洗」を求めた。ここで、プラズマ処理層の密度と評価用フィルムの密度とは等しいものとした。
「膜厚変化(nm)未洗」の測定結果を下記表1に示す。
【0093】
「膜厚変化(nm)未洗」の測定と同様に、上記評価フィルムについて、上記プラズマ処理前から上記超音波洗浄後にかけての膜厚変化(単位nm;以下、この膜厚変化を「膜厚変化(nm)水洗後」ともいう)を測定した。
以下、この膜厚変化(nm)水洗後の測定方法を示す。
まず、上記プラズマ処理前の評価用フィルムの質量(a)と、上記超音波洗浄後の評価用フィルムの質量(c)と、の差(c−a)を測定した。
次に、得られた差(c−a)、プラズマ処理層の密度、評価用フィルムの密度、及び評価用フィルム(プラズマ処理層)の面積、から「膜厚変化(nm)水洗後」を求めた。
「膜厚変化(nm)水洗後」の測定結果を下記表1に示す。
【0094】
ここで、「膜厚変化(nm)水洗後」が正の値であること(例えば、表1中、実施例1及び2)は、超音波洗浄後においてもプラズマ処理層が残っていることを示している。即ち、「膜厚変化(nm)水洗後」が正の値であることは、前記プラズマ処理により、A層上に、アクリル酸重合体を含むプラズマ処理層(B層)が形成されたことを示している。
なお、A層上に、アクリル酸を塗布した場合(即ち、A層上にアクリル酸単量体からなるアクリル酸層を形成した場合)には、超音波洗浄によりアクリル酸層が溶解し、該超音波洗浄後はアクリル酸層が残らない。
また、「膜厚変化(nm)未洗」が負の値であること(例えば、表1中、比較例1)は、前記プラズマ処理によって、A層が膜減りしたこと(B層が形成されていないこと)を示している。
【0095】
<表面官能基の測定>
上記超音波洗浄後、評価用フィルムのプラズマ処理された側の表面(実施例1ではB層表面)を、X線光電子分光法(XPS)により測定することにより、炭素1sスペクトルを得た。
得られた炭素1sスペクトルから、波形解析により、全炭素数に対するC(=O)−O−C基の数の百分率(%)([C(=O)−O−C]/[C])、全炭素数に対するC(=O)−O基の数の百分率(%)([C(=O)−O]/[C])を求めた。
更に、[C(=O)−O]/[C]と[C(=O)−O−C]/[C]との比から、[C(=O)−O]/[C(=O)−O−C]、即ち、C(=O)−O−C基の数に対するC(=O)−Oの数の比率〔(C(=O)−Oの数)/(C(=O)−O−C基の数)〕を求めた。
【0096】
次に、上記波形解析の詳細について説明する。
まず、炭素1sスペクトルを構成する複数のピークのうち、最低エネルギー側(285.0eV)に存在するピークを、C−C結合及びC−H結合の炭素に由来するピークとした。更に、約286.5eVに存在するピークをC−O結合の炭素に由来するピークとし、約287.1eVに存在するピークをC(=O)−O−C結合の右端の炭素に由来するピークとし、約288.0eVに存在するピークをC=O結合の炭素に由来するピークとし、約289.1eVに存在するピークをC(=O)−O結合の炭素に由来するピークとした。
これらのピークの面積比から、[C(=O)−O−C]/[C]及び[C(=O)−O]/[C]を求めた。更に、[C(=O)−O]/[C]を[C(=O)−O−C]/[C]で割る(除する)ことにより、「[C(=O)−O]/[C(=O)−O−C]」を求めた。
ここで、XPSは、X線源:単色化AlKα、真空度:1×10−9mbar、出力:16mA−10kVの条件で測定した。波形解析は、得られたスペクトルをカーブフィッティングして上記ピークについてピーク分離し、各ピークの面積比を測定することにより行った。
以上の結果を下記表1に示す。
【0097】
<圧電定数d14の測定>
上記超音波洗浄後の評価用フィルム(実施例1ではB層/A層の構造の積層体)を長さ10mm、幅3mmにカットして試験片を作製した。
この試験片の両面(A層側及びB層側)に、圧電定数d14を測定するための電極として、Ag薄膜をスパッタにより形成した。
両面にAg薄膜が形成された試験片について、東洋精機製作所社製の「レオログラフソリッドS−1型」を用いて、周波数10Hz、各試験片の複素圧電率d14を室温にて測定した。複素圧電率d14は、「d14=d14’―id14’’」として算出した。圧電定数測定は5回行い、d14’の平均値を圧電定数として表1に示した。
なお、圧電定数の測定時のせん断ひずみは0.05%で測定した。
以上の測定では、見かけ上はB層/A層の構造の積層体の圧電定数d14を測定しているが、実質的にはA層の圧電定数d14を測定している。その理由は、B層はA層に比べて膜厚が十分に薄く、また、B層は圧電性を有しないためである。
【0098】
<C層の形成>
上記プラズマ処理及び超音波洗浄後の評価用フィルムのプラズマ処理面(実施例1ではB層表面)に、下記条件のマグネトロンスパッタ法により、膜厚100nmの、GaがドープされたZnO膜(C層)を形成した。
以上により、実施例1では、GaがドープされたZnO膜(C層)/プラズマ処理層(B層)/評価用フィルム(A層)の構成の積層体を得た。
【0099】
−GaがドープされたZnO膜(C層)のスパッタ条件−
・装置: マグネトロンスパッタ装置
・ターゲット: Gaが10質量%ドープされたZnOターゲット
・到達真空度: 6×10−5Pa〜7×10−5Pa
・電源: DCパルス電源
・パワー: 0.67W/cm
・基板(B層/A層の積層体)の温度: 室温
【0100】
<接着性評価(テープ剥離試験)>
上記C層が形成された積層体(実施例1ではC層/B層/A層の構造の積層体)について、JIS H8504(めっきの密着性試験方法)に準じた方法のテープ剥離試験により、C層の接着性の評価を行った。
テープ剥離試験に用いる試験用テープとしては、ニチバン社製セロテープ(登録商標)CT405AP−18を用いた。
テープ剥離試験では、まず、C層表面に試験用テープを、貼り付けない部分を30mm残して貼り付けた。次に、試験用テープのうちC層表面に貼り付けた部分を、C層表面に対して垂直な方向に指で約10秒間押し続けた。次に、試験用テープの上記貼り付けない部分を持ち、C層表面に対して垂直な方向に強く引っ張り、試験用テープをC層表面から瞬時に引き剥がした。
試験箇所(引き剥がした箇所)を目視及び光学顕微鏡によって観察し、C層の剥離が見られないときに、密着性良好とした。
この試験を一つの処理条件につき3回行った。
以上のテープ剥離試験の結果を下記表1(「剥離試験」欄)に示す。
表1では、テープ剥離試験の結果を以下のように分類した。
−テープ剥離試験の結果の分類−
「0/3」 … 試験3回中、3回とも、C層の剥離が見られなかった。
「1/3」 … 試験3回中、1回のみ、C層の剥離が見られた。
「2/3」 … 試験3回中、2回のみ、C層の剥離が見られた。
「3/3」 … 試験3回中、3回とも、C層の剥離が見られた。
テープ剥離試験の結果が「0/3」であることは、C層の接着性が最も優れていることを示す。
【0101】
〔実施例2〕
実施例1において、プラズマ処理の条件を下記表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行ってZnO膜(C層)/プラズマ処理層(B層)/評価用フィルム(A層)の構成の積層体を形成し、実施例1と同様の評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
【0102】
〔比較例1〕
実施例2において、プラズマ処理の放電ガスにアクリル酸を混入させなかったこと(即ち、アルゴンガスのみによってプラズマ処理を行ったこと)及びプラズマ処理後の超音波洗浄を行わなかったこと以外は実施例2と同様の操作を行ってZnO膜(C層)/評価用フィルム(A層)の構成の積層体を形成し、実施例1と同様の評価を行った。
この比較例1では、プラズマ処理後、超音波洗浄を行うことなく、膜厚変化の測定及び表面官能基の測定を行った。
評価結果を下記表1に示す。
この比較例1では、放電ガスにアクリル酸が含まれていないため、プラズマ処理によってもB層が形成されず、寧ろ、プラズマ処理によりA層が22nm膜減りしていた(表1中、「膜厚変化(nm)未洗」欄参照)。
【0103】
〔比較例2〕
実施例1において、プラズマ処理及びその後の超音波洗浄を行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてZnO膜(C層)/評価用フィルム(A層)の構成の積層体を形成し、実施例1と同様の評価を行った。
この比較例2では、評価用フィルム(A層)の作製後、プラズマ処理及びその後の超音波洗浄を行うことなく、膜厚変化の測定、表面官能基の測定、圧電定数d14の測定、C層の形成、及び接着性評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に示すように、ポリ乳酸系樹脂を含むA層/不飽和カルボン酸重合体を含むB層の積層構造を有し、[C(=O)−O]/[C(=O)−O−C]、即ち、比率〔(C(=O)−Oの数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が1.4以上5.0以下である実施例1及び2の積層体は、C層との接着性に優れており、かつ、ポリ乳酸系樹脂を含むA層の高い圧電定数d14(即ち、高い圧電性)が十分に維持されていた。
一方、比較例1では、プラズマ処理によってもプラズマ処理層(B層)が形成されず、寧ろA層が膜減りした。
また、プラズマ処理層(B層)を有しない比較例2では、C層との接着性が悪かった。
【符号の説明】
【0106】
10 主ガス供給ライン
11 バブリング用主ガス供給ライン
12 処理ガス添加ライン
13 ガス供給ライン
14 ガス排気ライン
20 処理剤
30 バブリング装置
40 ガス供給部
45 ガス排気部
50 電圧印加電極
55 接地電極
60 パルス電源
70 誘電体
75 誘電体
80 プラズマ空間
90 被処理基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂を含むA層と、一方の面で前記A層の表面に接する不飽和カルボン酸重合体を含むB層と、を有し、
前記B層の表面をX線光電子分光法により測定して得られた炭素1sスペクトルから波形解析により求められた、C(=O)−O−C基の数に対するC(=O)−Oの数の比率〔(C(=O)−Oの数)/(C(=O)−O−C基の数)〕が1.4以上5.0以下である圧電性積層体。
【請求項2】
前記A層は、25℃における圧電定数d14が1pC/N〜30pC/Nである請求項1に記載の圧電性積層体。
【請求項3】
前記B層の膜厚が、2nm以上70nm以下である請求項1又は請求項2に記載の圧電性積層体。
【請求項4】
更に、前記B層の他方の面に接するC層を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の圧電性積層体。
【請求項5】
前記不飽和カルボン酸重合体がアクリル酸重合体である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の圧電性積層体。
【請求項6】
前記B層が、前記A層の前記表面に対して、不飽和カルボン酸を含む不活性ガスを用いて大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行うことにより形成された層である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の圧電性積層体。
【請求項7】
前記C層が、酸化金属化合物を含む請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の圧電性積層体。
【請求項8】
前記酸化金属化合物が、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、及び酸化インジウム亜鉛(IZO)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項7に記載の圧電性積層体。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の圧電性積層体を製造する方法であって、
ポリ乳酸系樹脂を含むA層を準備する工程と、
前記A層の表面に対し、不飽和カルボン酸を含んだ不活性ガスを用いて大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行うことにより、前記A層表面に不飽和カルボン酸重合体を含むB層を形成する工程と、
形成されたB層を溶媒を用いて洗浄する工程と、
を有する圧電性積層体の製造方法。
【請求項10】
更に、B層を洗浄する工程の後、該洗浄後のB層上に蒸着により酸化金属化合物を含むC層を形成する工程を有する請求項9に記載の圧電性積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−56239(P2012−56239A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203142(P2010−203142)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】