説明

圧電振動子の保持装置

【課題】振動エネルギーの損失および振動特性の変化がなく、高効率で安定に出力の供給が可能な圧電振動子の保持装置を提供する。
【解決手段】圧電振動子の保持装置において、圧電振動子1を離隔して収容する枠形または箱形の支持部材11と、この支持部材11の側部と圧電振動子1との間に介在される板ばね構造体12とを有し、この板ばね構造体12は、支持部材11の片側部に固着された基端部から圧電振動子1の対向両側部を挟むように圧電振動子の側部をまたいで折り返されて該圧電振動子に固着された第1の板ばね部材13と、支持部材11の他方の片側部に固着された基端部から圧電振動子1の対向両側部を挟むように圧電振動子1の側部をまたいで折り返されて該圧電振動子に固着された第2の板ばね部材18とを有し、第1の板ばね部材13と第2の板ばね部材18が圧電振動子1との固着部分で一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を用いた超音波モータ、超音波アクチュエータ、あるいは超音波加工機などに利用される角柱形又は円柱形の形状その他の断面形状をもつ棒状圧電振動子の保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電磁モータに代わる駆動装置として圧電振動子を用いた超音波モータが開発されており、また、圧電振動子の出力端に加工手段を形成して各種の接触加工を行う超音波加工機も知られている。これらはいずれも振動子の振動エネルギーを駆動力や加工力とするものであり、この場合の圧電振動子は固有振動モードに応じた周波数の電圧を印加することで、共振状態を形成し、大きな振幅を得てこれに摩擦接触する相手部材に回転、直動などの駆動力や加工力を与えるものである。この原理を利用した超音波振動子や超音波モータについては特許文献1〜5などに詳述されている。
【0003】
このような圧電振動子は、実施化に際して何らかの手段で支持部材に機構的に支持することが必要となる。この場合、その支持手段としては、振動のエネルギー損失が少なく、かつ、振動特性の変化がないことが重要である。また、超音波モータや超音波加工機は、通常、振動子の先端を相手部材(移送体や被加工物)に加圧接触させて、振動子の振動エネルギーを相手部材に対して駆動力や加工力として与えるものであり、したがって、振動子を保持しつつ相手部材を加圧する加圧機構が必要となる。
【0004】
従来の圧電振動子の保持構造としては、例えば特許文献1に示すように、圧電振動子を枠形の案内ケース内に加圧方向に摺動可能に収容して支持し、前記案内ケースをばね手段で加圧方向に押圧することにより、圧電振動子を相手部材に圧接する構造とした超音波モータが開示されている。
【0005】
図11を参照して、この超音波モータの構造を説明すれば、案内ケース25内に収容された矩形状の圧電振動子1は、その節部の位置2箇所で前記ケース25の案内部25a,25bで支持するとともに、案内ケース25の内端面の突出部26を弾性部材27を介して圧電振動子1の出力端28と反対側の端部に接当させ、案内ケース25の側部を固定側の案内板29によって摺動可能に支持し、また、前記案内ケース25の端部をコイルばね30によって押圧し、これによって圧電振動子1の出力端28を駆動対象部材(被駆動体)31に圧接するようにしている。
【0006】
この構造で圧電振動子を所定周波数の電圧印加によって振動励起することにより、圧電振動子は同時に屈曲振動および伸縮振動を行い、その出力端が楕円振動して前記被駆動体に周期的に圧接し、両者間の摩擦力で前記被駆動体を回転あるいは直動などの動作を行わせる。
【0007】
【特許文献1】特開平11−346486号公報
【特許文献2】特許第3311446号公報
【特許文献3】特開2004−297951号公報
【特許文献4】特開2000−116162号公報
【特許文献5】特開2005−65358号公報
【特許文献6】特許第27722211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11に示す超音波モータでは、圧電振動子1の振動変位の最も小さい節の部分で加圧方向に垂直な2方向から圧電振動子を支持し、加圧方向以外の自由度を拘束し、かつ出力を取り出す出力端28に対して反対側の端部を案内ケース25の内壁の突出部26に接当させ、ケース自体を外部からコイルばね30によって押圧し、これによって加圧方向の変位を規制するという構造をとっている。しかし、この構造では、圧電振動子1の側部と案内ケース25の振動子案内部25a,25bとが接着固定されていないことから、この部位での僅かなすべりやガタのため圧電振動子1の振動特性が変化してしまう。そのため、安定した駆動出力を提供できないという問題が生じる。
【0009】
また、案内ケース25の突出部26と接当して押圧される圧電振動子1の端部は、振動の節部分ではなく、先端側の出力端28と同様の振動をしているため、すべり等によるエネルギー損失が発生する。さらに、この超音波モータの加圧機構には通常のコイルばね30を用いているので、前記出力端28と接触する被駆動体31の平面精度の関係で圧電振動子1と被駆動体31との距離が変化すると、コイルばね30によって発生する加圧力が変化してしまう。この加圧力(押圧力)は、超音波モータや超音波加工機では出力に大きな影響を与えるため、このような押圧力の変化は極力避けなければならないが、上述のようなコイルばねによる加圧力付与では難しいという問題がある。
【0010】
本発明は、振動エネルギーの損失および振動特性の変化がなく、高効率で安定に出力の供給が可能な圧電振動子の保持装置を提供することにある。
本発明はさらに、圧電振動子に一定の加圧力を付与することができ、より、低コストでコンパクトな構造を有し、かつ、安定した出力を維持できる圧電振動子の保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、圧電振動子の保持装置において、前記圧電振動子の側部に加圧方向に離隔した少なくとも2枚の板ばねの一端が固着され、前記板ばねの他端が支持部材に固定され、前記板ばねの板面が前記圧電振動子の加圧方向に向いていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に係る圧電振動子の保持装置は、請求項1の構成において、前記板ばねは、前記圧電振動子の振動変位の小さい節部分の位置で該圧電振動子に固着されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る圧電振動子の保持装置は、請求項1または2の構成において、前記板ばねは、各々その長さが互いに等しく、かつ互いに平行に配置されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る圧電振動子の保持装置は、請求項1〜3の構成において、前記支持部材が前記板ばねによって前記圧電振動子の加圧方向に向けて弾性的に押圧されていることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の請求項5に係る圧電振動子の保持装置は、請求項1〜4の構成において、前記圧電振動子の対向両側部にそれぞれ少なくとも2枚の板ばねが固着されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項6に係る圧電振動子の保持装置は、前記圧電振動子の対向両側部に、加圧方向に離隔した少なくとも2枚の板ばねの一端が固着され、前記板ばねの他端が支持部材に固定され、前記板ばねの板面は前記圧電振動子の前記両側部と直角な他方の側部を含む平面に対して垂直方向に向いており、前記圧電振動子の押し付け時に前記板ばねが座屈変形するように各々の前記板ばねの長さが、前記圧電振動子と前記支持部材との間の距離よりも長く形成されることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項7に係る圧電振動子の保持装置は、前記圧電振動子を離隔して収容する枠形または箱形の支持部材と、前記支持部材の側部と前記圧電振動子との間に介在される板ばね構造体とを有し、前記板ばね構造体は、前記支持部材の片側部に固着された基端部から前記圧電振動子の対向両側部を挟むように前記圧電振動子の前記側部をまたいで折り返されて該圧電振動子に固着された第1の板ばね部材と、前記支持部材の他方の片側部に固着された基端部から前記圧電振動子の前記対向両側部を挟むように前記圧電振動子の前記側部をまたいで折り返されて該圧電振動子に固着された第2の板ばね部材とを有し、前記第1の板ばね部材と前記第2の板ばね部材が前記圧電振動子との固着部分で一体化されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項8に係る圧電振動子の保持装置は、請求項7に構成において、前記圧電振動子は、該圧電振動子の加圧方向に離隔した少なくとも2体の前記板ばね構造体によって前記支持部材に保持されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項9に係る圧電振動子の保持装置は、請求項7または8の構成において、前記板ばね構造体は、前記圧電振動子の振動変位の小さい節部分の位置で該圧電振動子と前記支持部材との間に介在されることを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明の請求項10に係る圧電振動子の保持装置は、請求項7〜9の構成において、前記板ばね構造体は、全体として前記圧電振動子の加圧方向に向いた板面を有することを特徴とする。
また、本発明に係る圧電振動子は全体として棒状の形状を成し、かつその横断面が矩形状あるいは多角形状のもの、および横断面が円形状あるいは楕円形状のもの等いずれの形状のものにも適用可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、振動エネルギーの損失および振動特性の変化が無く、高効率で安定に出力の供給が可能な圧電振動子の保持装置が得られる。また、圧電振動子に一定の加圧力を付与することができ、よりコンパクトな構造で安定した出力を維持できる圧電振動子の保持装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【第1実施形態】
【0023】
図1は本発明の第1の実施形態による矩形状圧電振動子の保持装置を示した図であり、同図(a)はその側部断面図、同図(b)は図1(a)のA−A線断面図である。この実施形態による圧電振動子1は横断面が長方形を成した角柱状の振動子であり、その先端の出力面1aに被駆動体あるいは被加工物等の相手部材(図1には図示省略)に圧接する突部2が形成されている。なお、超音波加工機とする場合は、出力面1aの突部2は、加工形態に応じて、加工動作に適した突部に形成されるか、あるいは適切な加工具が連結される。なお、以下の実施形態では、いずれも圧電振動子の形状を横断面が矩形となった矩形状圧電振動子としたが、横断面が多角形状のもの、および円柱状あるいは楕円形状の圧電振動子の場合にも同様に適用可能である。また、以下の実施形態では全長にわたって太さの等しい棒状の圧電振動子を例示して説明するが、本発明は太さの異なる棒状の圧電振動子についても適用可能であり、本発明はこのような形態のものも範囲に含まれる。
【0024】
この矩形状圧電振動子1の側方に固定側となる支持部材3が配置され、この支持部材3と圧電振動子1の側部との間に一対の平行な板ばね5が設けられている。この場合、各板ばね5の両端部はそれぞれ圧電振動子1の側部と支持部材3の壁面に接着固定されている。各板ばね5は、圧電振動子1の加圧方向にその板面5aが向くように、つまり板ばね5の板厚方向が圧電振動子1の加圧方向(矢印F方向)と一致するように配置され、かつ一対の板ばね5の厚み、横幅および長さが等しくされている。なお、本発明においては、一対の板ばね5は必ずしもその厚み、横幅が等しいものでなくてもよく、互いに長さが等しく、かつ厚みや横幅が異なる一対の板ばねとしてもよい。
【0025】
圧電振動子1に対する各々の板ばね5の固着位置は、圧電振動子1の振動振幅の最も小さい節部に固着されるのが好ましい。これに関して、図3を参照し、圧電振動子1の振動の様子を模型的に説明すれば、矩形状の圧電振動子1は、固有振動モードに応じた周波数の電圧を印加することにより、振動子全体に屈曲と伸縮の剛性振動が生じ、前記相手部材に対して加圧荷重がかけられる出力端4では楕円振動が誘起される。
【0026】
ここで、圧電振動子1の長さ方向の所定位置で振動しない部位があり、この位置を振動の節と称している。このような節部6は振動モードにより1箇所または長さ方向複数箇所に生じるが、第1実施形態では、振動子1の各端部に近い2箇所の位置で生じた例を示す。一対の板ばねは、このような節部6を支持するように圧電振動子の側部2箇所に接着固定されている。
【0027】
第1実施形態では、予め前記相手部材に対して、圧電振動子の出力面の突部が所定の押圧力を有して圧接するように初期位置が設定される。なお、図1(a)は圧接前の状態の側部断面図であり、図1(c)は作動時、即ち圧電振動子1の突部2と相手部材7との圧接開始の状態を示している。
【0028】
この構成においては、板ばね5と圧電振動子1が接着固定されているため、両者の間にガタやすべりが発生せず、振動特性の変化がなく、安定した出力を発生させることができる。また、板ばね5の板面5aが加圧方向に向いているため、加圧方向に対して適度な柔軟性を有し、これによって振動子1の振動が抑制されず、エネルギー損失が少ない。さらに、加圧方向以外の剛性は、板ばね5の形態により十分高く、加圧方向には安定した加圧力を作用させることができるため、コイルばねなどによる付加的な加圧機構は必要とせず、低コストでコンパクトな保持装置を実現できる。
【0029】
なお、上記の実施形態では、圧電振動子1の片側面上で2枚の平行な板ばねで支持する形態を示したが、3枚あるいはそれ以上の板ばねで支持するようにしてもよい。この場合も各板ばねは振動子の節の部分に固着されるのがよい。
【0030】
(変形例1)
図2は第1実施形態の変形例1を示す側部断面図である。この例では、角柱状圧電振動子1の対向両側面にそれぞれ一対の平行な板ばね5,8が固着され、かつ、その固着位置は圧電振動子1の節部6(図3)の位置となっている。各々の板ばね5,8の圧電振動子1と反対側の板ばね端部5b,8bは支持部材3に接着固定される。4枚の板ばね5,8はともにその板面5a,8aが圧電振動子の加圧方向に向いており、また、これら4枚の板ばね5,8は互いに平行に配置されている。動作開始時に圧電振動子1の出力面1aの突部2を相手部材に圧接させるときは、図1(c)で説明した場合と同様に圧電振動子1が相手部材によって加圧方向と反対側へ若干押し込まれるように初期位置の設定がなされ、この位置で圧電振動子1の突部2と相手部材間に板ばね5,8のばね力による初期加圧力がかけられる。
【第2実施形態】
【0031】
図4(a)は本発明の第2実施形態の矩形状圧電振動子の保持装置の側部断面図であり、図4(b)は図4(a)のB−B線断面図である。また、図5は圧電振動子の出力面の突部が相手部材に圧接した作動時の側部断面図である。図4(a),(b)に示すように、角柱状圧電振動子1の対向両側面1b,1cにそれぞれ一対の平行な板ばね9,10の一端が接着固定され、また、板ばね9,10の各他端は固定側の支持部材3に接着固定されることは第1の実施形態の変形例1と同様であるが、第2実施形態では各板ばね9,10は、圧電振動子1と支持部材3との間の距離dよりも長く形成されている。そして、支持部材3との固着位置よりも圧電振動子1の側面との固着位置が圧電振動子1の出力面1a側に寄って取り付けられている。つまり、各板ばね9,10は、作動開始前の状態においては、圧電振動子1の出力面1aへ向って偏倚するように傾斜している。
【0032】
また、板ばね9,10の板面9a,10aは、概ね圧電振動子1の加圧方向に向いて形成されている。より正確には、板ばね9,10の板面9a,10a(図4(b))は、圧電振動子1の板ばね固着側の側面と直角関係にある他方の側面1hを含む平面に対して垂直な面上に存在するように形成されている。
【0033】
圧電振動子1の作動開始状態では、被駆動部材や被加工物など相手部材7に圧電振動子1の出力面1aの突部2を押し付けつつ、支持部材3を相手部材7側へ押動させる。これによって圧電振動子1を支持している板ばね9,10は図5に示すようにV状に座屈変形した形態となって圧電振動子1の突部2が相手部材7に所定の押圧力で圧接される形態となる。この状態で、圧電振動子1に所定振動モードによる周波数の電圧を印加し、出力面の突部2に振動出力を生じさせる。
【0034】
上述のように座屈変形した板ばねは非線形ばね特性を有する。図6(a)に非線形ばね特性を、同図(b)に通常のばね特性を示す。通常のばね特性では、ばねに加わる荷重とばね変位はフックの法則に従った比例関係を示すが、非線形ばね特性の場合は、図6の如く或る変位を超えると荷重の変化が略一定となる。したがって、初期設定で圧電振動子を相手部材へ向けて押し付けるように変位させる際には、この非線形ばね特性の荷重一定の変位部分(ΔX1)に設定する。
【0035】
同じ変位部分でも通常のばね特性をもつ支持ばねの場合は、変位の変化量ΔX1に対する荷重の変化量ΔF1が大きく、超音波モータなどに適用した場合、押し付け量の変動で圧電振動子の相手部材に対する加圧力は比例関係で変化するため、加圧力の変動が大きく、安定した作動が得られなくなるが、図4,図5に示すような座屈状態の板ばね9,10で支持した場合、圧電振動子1の出力面1aの位置が変化しても一定荷重での加圧が可能になる。これによって、例えば、超音波モータで相手部材を直動させる場合、圧電振動子1と接触する相手部材7の平面精度を緩和させることができ、また、それだけ相手部材7の移動距離を大きくでき、また移動速度も安定化し得る。
【0036】
(変形例2)
上述の第2実施形態では、圧電振動子の1つの対向両側面に板ばねを固着した例を示したが、第2実施形態の変形例として圧電振動子の2つの対向両側面、即ち、4側面に同様の押し付け設定時に座屈状態となる板ばねを取り付けた構造とすることもできる。そして非線形ばね特性の荷重一定部分を利用することにより、被移動体や被加工物となる相手部材と圧電振動子との距離(振動子の加圧方向の接触位置)が或る領域で変化しても、加圧力を一定で作用させることができる。したがって、本発明の超音波モータや超音波加工機においては、相手部材に安定した摩擦力や加工力の作用を与えることができる。
【第3実施形態】
【0037】
図7は本発明の第3実施形態に係る矩形状圧電振動子の保持装置の縦断面図であり、図8はその斜視図である。なお、図8では明瞭化のため、後述する板ばね構造体を固着する固定側の支持部材は図示省略してある。図9は第3実施形態における板ばね構造体の拡大斜視図である。また、図10は図9に示した第3実施形態に係る板ばね構造体の側面図である。これらの図を参照すれば、この第3実施形態の保持装置は、矩形状の圧電振動子1を離隔状態に収容する箱形の支持部材11を有している。支持部材11の一端部に貫通孔11aが形成され、この貫通孔11aから圧電振動子1の出力面1aに形成した突部2が部分的に突出している。圧電振動子1の前述した節部に対応する部位2箇所で圧電振動子1はそれぞれ板ばね構造体12によって箱形支持部材11の内壁11b,11cに支持され、この板ばね構造体12のばね力によって圧電振動子1の突部2に押し込み外力がかかったときに弾性的な反力を生じるようになっている。なお、この板ばね構造体12の板面12aは全体として圧電振動子1の加圧方向に向いている。
【0038】
板ばね構造体12は、互いに一体に結合された第1、第2の板ばね部材13,18で構成されている。
第1の板ばね部材13は、支持部材11の一方の側壁11bに固着される幅広の基端部14を有する。この基端部14から圧電振動子1の対向両側部1dを挟むように一対の帯状部15が該側部1dをまたぐように伸長し、基端部14と反対側の圧電振動子1の側部位置でわん曲状に折り返えされてから、圧電振動子1の該両側部1dに固着されている。なお、この実施形態では一対の帯状部15の折り返えし部16が基端部14の反対側の圧電振動子1の側部1eに接して互いに一体に連結され、この部分(符号17の部分)でも前記側部1eに接着固定されている。
【0039】
第2の板ばね部材18は、支持部材11の他方の側壁11c、即ち、第1の板ばね部材13の基端部14が固着される側と反対側の支持部材11の側壁11cに接着固定される幅広の基端部19を有する。この基端部19から圧電振動子1の対向両側部1dを間に挟むように一対の帯状部20が該側部1dをまたぐように伸長し、前記第2の板ばね部材18の基端部19と反対側の圧電振動子1の側部1f位置でわん曲状に折り返えされてから、圧電振動子1に固着されている。なお、第2の板ばね部材18の帯状部20は、図8に示すように、第1の板ばね部材13の帯状部15の外側に伸長して圧電振動子1の側部1dをまたいでいる。
【0040】
第2の板ばね部材18の一対の帯状部20の折り返えし部21も、第1の板ばね部材13と同様に、該第2の板ばね部材18の基端部19と反対側の圧電振動子側部1dに接して互いに一体に連結され(符号22の部分)、かつ、この部分で前記側部1d,1fに固着されている。また、第1,第2の板ばね部材13,18の帯状部15,20がまたいでいる圧電振動子1の両側部1dの位置で第1、第2の板ばね部材13,18の折り返えし部16,21から該側部1dに沿って伸びる部分は両者一体化されて該側部1dに固着されている。なお、各板ばね部材13,18について、一対の折り返えし部16,21を一体に連結した部分17,22には、圧電振動子1の側面1e,1fに密着する平板部23が形成され、この平板部23の部分でも圧電振動子1の側面1e,1fに接着固定され、これによって各板ばね部材13,18と圧電振動子1との固着がより確実になされる。
【0041】
支持部材11に対する圧電振動子1の加圧方向の押し付け弾性力は、圧電振動子1を囲む板ばね構造体12の4本(対向両側面の各片側に2本づつ、合計4本)の帯状部15,20のばね性によってもたらされる。この弾性力の強さは前記帯状部15,20の長さにも依存する。一般に、加圧方向の柔軟性をより増加させる場合、板ばねの長さを長くする必要があるが、本発明の構造では、帯状部15,20は圧電振動子1の側部1dに沿って伸長し、しかも基端部14,19側と反対側の圧電振動子1の側部1f,1eで折り返えす構成としているので、全体のコンパクト化を図りながら、加圧方向の柔軟性を確保できる。
【0042】
板ばね構造体12の支持部材11に固着される基端部14,19の位置は、圧電振動子1との固着位置よりも加圧方向の出力面1aと反対側に寄った位置で固着されており、したがって帯状部15,20は加圧方向に向けて傾斜状態に伸長する構成となっている。また、図示のように、第1、第2の板ばね部材13,18の帯状部15,20の傾斜方向は逆向きであって、圧電振動子1の側部1dで交差している。このような構成により、板ばね構造体12は圧電振動子1の出力面の突部2から加わる押し付け荷重に対し、図6(a)で説明したような非線形ばね特性を有し、圧電振動子1の初期位置設定を押し付け荷重の変動(ΔF2)の小さい部分の変位範囲(ΔX1)に設定することにより、相手部材に対する出力面の突部の加圧力を安定化させることができる。これにより相手部材との接触位置が変動する条件下においても、概ね一定荷重で圧電振動子を押し付けることができ、摩擦駆動を行う超音波モータや超音波加工機で安定した摩擦力、加工力をもたらすことができる。例えば、被移動体の平面部に圧電振動子を圧接させて被移動体を送り動作させる場合にも、被移動体の平面精度を緩和でき、それだけ長い距離を移動動作させることができる。
【0043】
また、押し付け方向以外の方向には剛性が高く、押し付け方向には柔軟性があり、かつ荷重の調整も、板ばね構造体の帯状部の長さを変えることで容易に調整可能である。さらに、圧電振動子と支持部材間にはガタがなく、圧電振動子の位置決めの安定性が良く、従来のようなコイルばねを用いたものと比べて振動エネルギーの損失が少ない。
なお、第3実施形態においても、板ばね構造体は2個に限定されるものではなく、圧電振動子の大きさ、容量などにより、3個あるいはそれ以上の個数を設けてもよいことは勿論である。板ばね構造体も平板のプレス打抜き・折曲げ加工で容易に製作でき、小形、低コストの保持装置を実現できるなど、従来の構造では得られない種々の効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態による矩形状圧電振動子の保持装置を示した図である。
【図2】第1実施形態の変形例1を示す側部断面図である。
【図3】楕円振動超音波アクチュエータに用いられる圧電振動子の振動形態を模型的に示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る矩形状圧電振動子の保持装置を示した図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る矩形状圧電振動子の保持装置の作動時の状態を示す側部断面図である。
【図6】本発明に係る保持装置における板ばね部材の非線形ばね特性および通常のばねによる変位−荷重特性を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る矩形状圧電振動子の保持装置の縦断面図である。
【図8】図7に示す矩形状圧電振動子の保持装置の支持部材を除いた状態の斜視図である。
【図9】本発明に係る板ばね構造体の拡大斜視図である。
【図10】図9の側面図である。
【図11】従来の圧電振動子の保持手段を用いた超音波モータの側面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 圧電振動子
1a 出力面
3,11 支持部材
5,8,9,10 板ばね
6 圧電振動子の節部
7 相手部材
12 板ばね構造体
13 第1の板ばね部材
14,19 基端部
15,20 帯状部
16,21 折り返えし部
18 第2の板ばね部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子の保持装置において、前記圧電振動子の側部に加圧方向に離隔した少なくとも2枚の板ばねの一端が固着され、前記板ばねの他端が支持部材に固定され、前記板ばねの板面が前記圧電振動子の加圧方向に向いていることを特徴とする圧電振動子の保持装置。
【請求項2】
前記板ばねは、前記圧電振動子の振動変位の小さい節部分の位置で該圧電振動子に固着されることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動子の保持装置。
【請求項3】
前記板ばねは、各々の長さが互いに等しく、かつ互いに平行に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電振動子の保持装置。
【請求項4】
前記支持部材が前記板ばねによって前記圧電振動子の加圧方向に向けて弾性的に押圧されていることを特徴とする請求項1〜3に記載の圧電振動子の保持装置。
【請求項5】
前記圧電振動子の対向両側部にそれぞれ少なくとも2枚の板ばねが固着されることを特徴とする請求項1〜4に記載の圧電振動子の保持装置。
【請求項6】
圧電振動子の保持装置において、前記圧電振動子の対向両側部に、加圧方向に離隔した少なくとも2枚の板ばねの一端が固着され、前記板ばねの他端が支持部材に固定され、前記板ばねの板面は前記圧電振動子の前記両側部と直角な他方の側部を含む平面に対して垂直方向に向いており、前記圧電振動子の押し付け時に前記板ばねが座屈変形するように各々の前記板ばねの長さが、前記圧電振動子と前記支持部材との間の距離よりも長く形成されることを特徴とする圧電振動子の保持装置。
【請求項7】
圧電振動子の保持装置において、前記圧電振動子を離隔して収容する枠形または箱形の支持部材と、前記支持部材の側部と前記圧電振動子との間に介在される板ばね構造体とを有し、
前記板ばね構造体は、前記支持部材の片側部に固着された基端部から前記圧電振動子の対向両側部を挟むように前記圧電振動子の前記側部をまたいで折り返されて該圧電振動子に固着された第1の板ばね部材と、前記支持部材の他方の片側部に固着された基端部から前記圧電振動子の前記対向両側部を挟むように前記圧電振動子の前記側部をまたいで折り返されて該圧電振動子に固着された第2の板ばね部材とを有し、前記第1の板ばね部材と前記第2の板ばね部材が前記圧電振動子との固着部分で一体化されていることを特徴とする圧電振動子の保持装置。
【請求項8】
前記圧電振動子は、該圧電振動子の加圧方向に離隔した少なくとも2体の前記板ばね構造体によって前記支持部材に保持されることを特徴とする請求項7に記載の圧電振動子の保持装置。
【請求項9】
前記板ばね構造体は、前記圧電振動子の振動変位の小さい節部分の位置で該圧電振動子と前記支持部材との間に介在されることを特徴とする請求項7または8に記載の圧電振動子の保持装置。
【請求項10】
前記板ばね構造体は、全体として前記圧電振動子の加圧方向に向いた板面を有することを特徴とする請求項7〜9に記載の圧電振動子の保持装置。
【請求項11】
前記圧電振動子は横断面が矩形ないし多角形となった棒状圧電振動子であることを特徴とする請求項1〜10に記載の圧電振動子の保持装置。
【請求項12】
前記圧電振動子は横断面が円形ないし楕円形となった棒状圧電振動子であることを特徴とする請求項1〜10に記載の圧電振動子の保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−41777(P2010−41777A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199643(P2008−199643)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】