説明

圧電駆動素子及び圧電駆動装置

【課題】印加する交流電界を上げて圧電駆動素子の振動速度を増加させても共振周波数の変動を抑えて、共振周波数及びその近傍の周波数で安定して駆動できる圧電駆動素子を提供する。
【解決手段】圧電駆動素子10は、振動速度が増加すると弾性定数が小さくなる柔らかいばね特性の第1の圧電体セラミックス18と、振動速度が増加すると弾性定数が大きくなる硬いばね特性の第2の圧電体セラミックス20とを複合した複合セラミックス12に、分極方向に直交する外部電極14,16を介して交流電界を印加する構成となっている。印加電界を上げて圧電駆動素子10の振動速度を増加させても、第1の圧電体セラミックス18の部分の弾性定数が低下し、第2の圧電体セラミックス20の部分の弾性定数が上昇するため、全体の弾性定数の変化が抑えられ、共振周波数の変動が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電駆動素子及び圧電駆動装置に関し、更に具体的には、共振周波数及びその近傍で使用される圧電駆動素子及び圧電駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
共振アクチュエータとしては、従来より、図7(A)に示すような構造が知られている。図7(A)に示す共振アクチュエータ200は、角棒形状に形成された圧電セラミック素体202の両端面に電極204a,204bが設けられた構成となっている。前記共振アクチュエータ200は、矢印a方向に分極されており、電極204a,204bに交流電界が印加されて、共振周波数又はその近傍周波数で駆動し、分極方向aと同一方向である矢印b方向の縦振動が得られるように構成されている。通常は、交流電源210に接続された導線208a,208bと、電極204a,204bとを、ばね端子206a,206bを介して接続し、あるいは、電極204a,204bを導線208a,208bに直接接続することによって、交流電界が電極204a,204bに印加される。
【0003】
また、前記ばね端子206a,206bや導線208a,208bが共振アクチュエータ200の振動を阻害することを考慮して、図7(B)に示す構造とすることも提案されている(下記特許文献1)。図7(B)に示す共振アクチュエータ250では、角棒形状の圧電セラミック素体252の両端面に設けられた電極254a,254bを、引出導体258a,258bによって、前記圧電セラミック素体252の側面の中間に引き出し、接続電極256a,256bをばね端子260a,260bによって押えることで、振動阻害を抑制する構造としたことが開示されている。
【0004】
この種の共振アクチュエータでは、振動方向の変位量は、通常、圧電定数dに比例すると考えられている。このため、共振アクチュエータ用のセラミック材料としては、従来より、大きな圧電定数を有するPb(Zr,Ti)O(チタン酸ジルコン酸鉛(以下「PZT」という))をベースとした圧電材料の研究・開発が盛んに行われている。例えば、下記非特許文献1では、圧電アクチュエータ等のパワーデバイスでは、圧電セラミックの大振幅弾性振動を利用していることから、圧電セラミックの大振幅特性について記載されている。当該非特許文献1には、振動速度(=振動振幅×周波数)は、理論的には印加電界Eに比例して変動するが、PZT系圧電セラミックを共振周波数で駆動させた場合、電界強度がある一定レベルを超えると振動速度が徐々に理論値を下回るようになると報告されている。
【0005】
また、下記非特許文献2には、PZT系圧電セラミックを共振周波数で駆動した場合、振動レベルがある一定値を超えると、共振周波数frや機械的品質係数が低下することが報告されている。また、従来のPZT系圧電セラミックを共振アクチュエータに使用した場合、振動速度が上昇するに従い、共振周波数や機械的品質係数は低下することが知られている。実際に、PZT系圧電セラミックスの共振アクチュエータに、0.05V,0.11V,0.14V,0.20V,0.26V,0.33Vの交流電圧を印加し、駆動周波数を共振周波数より上から下へ、そして上へと掃引すると、図7(C)に示すように、交流電界の振幅増加につれ最大振動速度を示す共振周波数が低周波側に移動した。そして、周波数を下げても振動速度が元に戻らずにヒステリシスを示した。
【0006】
従って、共振周波数frの変化に追随するためのフィードバック回路を設ける必要がある。圧電アクチュエータ等の分野では、高い振動レベルのハイパワー材料が求められていることから、圧電性の評価法やPZT系圧電セラミックの組成と振動レベル特性等のハイパワー特性との関係が報告されている。これを解決する方法として、振動速度∝(弾性定数)1/2×圧電定数×機械的品質係数×電界であるとし、機械的品質係数が高く、温度安定性の高い、ビスマス層状化合物を配向させたセラミックスによる共振アクチュエータが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/090758号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/083475号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高橋貞行著「圧電材料の新展開」、株式会社TIC、ニューセラミックスVOL.11,No.8(1988),p29-34
【非特許文献2】高橋貞行著「ハイパワー材料の評価」、株式会社TIC、ニューセラミックス(1995),No.6,p17-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ビスマス層状化合物は、圧電特性が低いため、共振アクチュエータに負荷が加わると、機械的品質係数が低く抑えられ駆動できないという課題を有している。そこで、ビスマス層状化合物よりも高い圧電特性を有する圧電セラミックスにおいて、交流電界の電界を上げて圧電駆動素子の振動速度を増加させたときでも、共振周波数の変動を抑制して、安定して共振周波数及び共振周波数近傍で駆動できることが望まれている。
【0010】
本発明は、以上の点に着目したもので、印加する交流電界を上げて圧電駆動素子の振動速度を増加させても共振周波数の変動を抑えて、共振周波数及び共振周波数の近傍の周波数で安定して駆動できる圧電駆動素子及び圧電駆動装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の圧電駆動素子は、振動速度が増加すると弾性定数が小さくなる柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックスと、振動速度が増加すると弾性定数が大きくなる硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックスとを複合した複合セラミックスと、該複合セラミックスを介して対向するように、該複合セラミックスの側面に設けられた外部電極と、からなり、前記外部電極に、共振周波数及び共振周波数近傍の交流電界を印加して駆動することを特徴とする。
【0012】
主要な形態の一つは、前記複合セラミックスは、前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスを混合した形態,あるいは、層状に重ねた形態であることを特徴とする。他の形態は、前記複合セラミックスが、前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスを、平面状,ロール状,同心円状のいずれかの形態で層状に重ねた形状であることを特徴とする。更に他の形態は、前記複合セラミックスの内部に、前記対向する外部電極のそれぞれに接続する複数の内部電極を設けて積層構造化したことを特徴とする。更に他の形態は、前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスの体積分率によって、前記複合セラミックスの弾性定数を調整し、振動速度の変化に対する共振周波数の変動を抑制することを特徴とする。
【0013】
更に他の形態は、前記第1の圧電体セラミックスが、PZTからなる鉛系圧電体セラミックス、BaTiO,(Ba1/2Na1/2)TiO,(Ba1/21/2)TiO、および{(K1−xNa1−yLi}(Nb1−z−wTaSb)O(0≦x≦1,0≦y≦0.2,0≦z≦0.4,0≦w≦0.2)、又はこれらの少なくとも2種類を含む固溶体セラミックスであり、前記第2の圧電体セラミックスが、Sr2−xCaNaNb15(0≦x≦2),SrNaNb15,CaNaNb15,SrKNb15,BaLiNb15,BaNaNb15,BaKNb15,KLiNb15,BaBi1/3Nb15,PbNaNb15,PbKNb15,又はこれらの少なくとも2種類を含むタングステンブロンズ型の固溶体セラミックスであることを特徴とする。
【0014】
本発明の圧電駆動装置は、前記いずれかに記載の圧電駆動素子を利用したことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、振動速度が増加すると弾性定数が小さくなる柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックスと、振動速度が増加すると弾性定数が大きくなる硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックスとを複合した複合セラミックスに、該複合セラミックスを介して対向するように設けられた外部電極を介して、交流電界を印加して駆動することとした。このため、交流電界の電界を上げて圧電駆動素子の振動速度を増加しても、第1の圧電体セラミックスの部分の弾性定数が低下し、第2の圧電体セラミックスの部分の弾性定数が上昇するため、複合セラミックス全体の弾性定数の変化が抑えられ、共振周波数の変動が抑制されるため、共振周波数及び共振周波数近傍で安定して駆動する圧電駆動素子及び圧電駆動装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1を示す図であり、(A)は圧電駆動素子の形態を示す主要断面図,(B)は前記(A)の複合セラミックスの一部拡大図,(C)は実験例1の振動速度と周波数特性の関係を示す図である。
【図2】前記実施例1における比較例の圧電駆動素子の振動速度と周波数特性の関係を示す図であり、(A)は柔らかいばね特性を有する圧電体セラミックスを用いた比較例1の特性を示し、(B)は硬いばね特性を有する圧電体セラミックスを用いた比較例2の特性を示す。
【図3】本発明の実施例2の圧電駆動素子の形態を示す主要断面図である。
【図4】本発明の実施例3の圧電駆動素子の積層形態を示す主要断面図である。
【図5】前記実施例3の他の形態の圧電駆動素子の積層形態を示す主要断面図である。
【図6】本発明の他の実施例の圧電駆動素子の形態を示す外観斜視図である。
【図7】背景技術を示す図であり、(A)及び(B)は従来の共振アクチュエータの構造を示す外観斜視図,(C)は典型的な圧電体(PZT)の電圧駆動時の振動速度と周波数特性の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
最初に、図1及び図2を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1(A)は本実施例の圧電駆動素子の形態を示す主要断面図,図1(B)は前記(A)の複合セラミックスの一部拡大図,図1(C)は実験例1の振動速度と周波数特性の関係を示す図である。図2は、比較例の圧電駆動素子の振動速度と周波数特性の関係を示す図であり、(A)は柔らかいばね特性を有する圧電体セラミックスを用いた比較例1の特性を示し、(B)は硬いばね特性を有する圧電体セラミックスを用いた比較例2の特性を示す。
【0019】
図1(A)に示すように、本実施例の圧電駆動素子10は、振動速度が増加すると弾性定数が小さくなる柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックス18と、振動速度が増加すると弾性定数が大きくなる硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックス20とを複合した略直方体状の複合セラミックス12の対向する側面に、分極方向(図1(A)の矢印Fa方向)に直交するように外部電極14,16を設けた構成となっている。本実施例では、前記複合セラミックス12は、前記第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20を粉体で混合した形態となっている(図1(B)の一部拡大図参照)。そして、前記外部電極14,16を介して、前記複合セラミックス12に、図示しない交流電源から、共振周波数及び共振周波数近傍の交流電界を印加することで、圧電駆動素子10が矢印Fbで示す方向に駆動される。
【0020】
前記第1の圧電体セラミックス18と、第2の圧電体セラミックス20の体積分率は1であってもよいが、振動速度(駆動電界)による弾性率の変化を抑制し、振動速度に対する共振周波数の変動を抑制するように、前記体積分率を設定するようにしてもよい。共振周波数の変動は、例えば、0.05%以下となるように調整することが望ましい。また、前記柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックス18としては、PZTからなる鉛系圧電体セラミックス、BaTiO,(Ba1/2Na1/2)TiO,(Ba1/21/2)TiO、および{(K1−xNa1−yLi}(Nb1−z−wTaSb)O(0≦x≦1,0≦y≦0.2,0≦z≦0.4,0≦w≦0.2)、あるいは、これらの少なくとも2種類を含む固溶体セラミックスなどから選択される。一方、硬いばね特性の第2の圧電体セラミックス20としては、Sr2−xCaNaNb15(0≦x≦2),SrNaNb15,CaNaNb15,SrKNb15,BaLiNb15,BaNaNb15,BaKNb15,KLiNb15,BaBi1/3Nb15,PbNaNb15,PbKNb15,あるいは、これらを少なくとも2種類を含むタングステンブロンズ型の固溶体セラミックスから選択される。また、前記外部電極14,16としては、公知の各種の電極材料、例えば、Agが用いられる。
【0021】
<実験例1>・・・次に、本実施例の具体例について更に説明する。前記柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックス18として、(K0.5,Na0.5)NbOの圧電体セラミックスを選定し、硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックス20として、Sr1.9CaO.1NaNb15の圧電体セラミックスを選定した。それぞれの圧電体セラミックスの粉体は、KCO,NaCO,Nb,SrCO,CaCOを化学量論組成に秤量、混合後、仮焼する固相合成法により作製した。作製したそれぞれの圧電体セラミックスには、機械的品質係数を高めるために、MnOを0.5wt%添加した。そして、これらの圧電体セラミックスの粉体を、それぞれ体積分率が同じになるように秤量、混合し、該混合物を1150℃でスパークプラズマ焼成して、大気中で900℃で熱処理し、複合セラミックスを作製した。
【0022】
そして、図1(A)に示すように、複合セラミックス12を角柱状に加工した後に、側面の電極14,16を形成し、100℃,4kV/mmで分極処理を行い、複合セラミックス12からなる圧電駆動素子10を形成した。前記電極14,16としては、Agを用いた。更に、比較例1として、(K0.5,Na0.5)NbOの圧電体セラミックス(柔らかいばね特性の圧電体セラミックス)だけで作製した圧電駆動素子を作製し、比較例2として、Sr1.9CaO.1NaNb15の圧電体セラミックス(硬いばね特性の圧電体セラミックス)だけで作製した圧電駆動素子を作製した。これら比較例1及び2の圧電体セラミックスの端面に設ける外部電極には、前記実施例1と同じ材料を使用した。前記実験例1,比較例1,比較例2について、共振周波数及びその近傍の周波数で圧電駆動素子を駆動し、特性の確認を行った。
【0023】
図2(A)には、前記比較例1の(K0.5,Na0.5)NbOの圧電体セラミックスからなる圧電駆動素子について、印加する交流電圧を0.05V,0.14V,0.21V,0.35V,0.42V,0.46Vとしたそれぞれの場合について、共振周波数よりも高い周波数から低い周波数へ減少させたときの振動速度と周波数の測定結果が示されている。図2(A)の結果から、比較例1の圧電駆動素子は、印加する交流電界を上げて圧電駆動素子の振動速度を上げる(振幅を増加させる)に伴い、共振周波数が下がり、柔らかいばね特性を示した。
【0024】
図2(B)には、前記比較例2のSr1.9CaO.1NaNb15の圧電体セラミックスからなる圧電駆動素子について、印加する交流電圧を0.06V,0.16V,0.23V,0.37V,0.43V,0.48Vとしたそれぞれの場合について、共振周波数よりも低い周波数から高い周波数へ上昇させたときの振動速度と周波数の測定結果が示されている。図2(B)の結果から、比較例2の圧電駆動素子は、印加する交流電界を上げて圧電駆動素子の振動速度を上げる(振幅を増加させる)に伴い、共振周波数が上がり、硬いばね特性を示した。
【0025】
一方、図1(C)には(K0.5,Na0.5)NbOの圧電体セラミックスとSr1.9CaO.1NaNb15の圧電体セラミックスを複合した実験例1の圧電駆動素子について、印加する交流電圧を0.05V,0.15V,0.20V,0.35V,0.40V,0.47Vとしたときのそれぞれの場合について、共振周波数及び共振周波数の近傍での振動速度の測定結果が示されている。図1(C)に示すように、実験例1では、印加する交流電界を上げて圧電駆動素子10の振動速度を上げても、柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックス18の部分の弾性定数が低下し、硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックス20の部分の弾性定数が上昇するため、複合セラミックス12の全体としての弾性定数の変化が抑えられる。その結果、共振周波数の変動が抑制され、安定して共振周波数及びその共振周波数近傍で駆動できることが確認できた。なお、前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスの粉体の混合物に樹脂を加えて硬化し、上記実験例1と同様に電極を形成して複合セラミックスからなる圧電駆動素子を作製した場合にも、同様の効果が得られた。従って、焼成しない複合セラミックスでも同様の効果が確認できた。
【0026】
なお、前記実験例1では、柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックス18として、(K0.5,Na0.5)NbOを使用し、硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックス20として、Sr1.9CaO.1NaNb15を使用したが、前記第1の圧電体セラミックス18として、PZTからなる鉛系圧電体セラミックス,BaTiO,(Ba1/2Na1/2)TiO,(Ba1/21/2)TiO,および{(K1−xNa1−yLi}(Nb1−z−wTaSb)O(0≦x≦1,0≦y≦0.2,0≦z≦0.4,0≦w≦0.2),あるいは、これらを少なくとも2種類を含む固溶体セラミックスを使用し、前記第2の圧電体セラミックス20として、Sr2−xCaNaNb15(0≦x≦2),SrNaNb15,CaNaNb15,SrKNb15,BaLiNb15,BaNaNb15,BaKNb15,KLiNb15,BaBi1/3Nb15,PbNaNb15,PbKNb15,あるいは、これらの少なくとも2種類を含む(Sr1.9CaO.1NaNb15は除く)タングステンブロンズ型の固溶体セラミックスを使用した場合にも、同様の結果が得られることが確認された。
【0027】
このように、実施例1によれば、振動速度が増加すると弾性定数が小さくなる柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックス18と、振動速度が増加すると弾性定数が大きくなる硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックス20とを複合した複合セラミックス12に、該複合セラミックス12を介して対向し、分極方向に直交するように外部電極14,16を設け、該外部電極14,16を介して交流電界を印加して圧電駆動素子10を駆動することとした。このため、印加する交流電界を上げて圧電駆動素子10の振動速度(なし振幅)を増加させても、第1の圧電体セラミックス18の部分の弾性定数が低下し、第2の圧電体セラミックス20の部分の弾性定数が上昇するため、複合セラミックス12の全体としての弾性定数の変化が抑えられ、共振周波数の変動が抑制される。そのため、共振周波数及び共振周波数近傍で圧電駆動素子10が安定して駆動するという効果が得られる。
【実施例2】
【0028】
次に、図3を参照しながら本発明の実施例2を説明する。なお、上述した実施例1と同一ないし対応する構成要素には同一の符号を用いることとする(以下の実施例についても同様)。図3は、本実施例の圧電駆動素子の形態を示す主要断面図である。本実施例の圧電駆動素子30は、複合セラミックス12の内部に、前記外部電極14に接続する複数の内部電極32と、前記外部電極16に接続する複数の内部電極34を、前記外部電極14,16と直交する方向に、交互に配置した内部電極の積層構造を有している。
【0029】
<実験例2>・・・次に、本実施例の具体例について更に説明する。前記柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミクス18として、(K0.5,Na0.5)NbOの圧電体セラミックスを選定し、硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックス20として、Sr1.9CaO.1NaNb15の圧電体セラミックスを選定し、上述した実施例1の実験例1と同様に、それぞれの圧電体セラミックスの粉体を作製して混合した。混合した粉体に、有機溶媒と有機バインダを混ぜてスラリーにし、それをドクターブレード法でシート状に成形した。そして、Ag−Pd内部電極を印刷後、焼成して、積層構造の複合圧電セラミックを作製し、角柱状に加工した後に、側面の電極14,16を形成し、上述した実験例1と同様にして分極処理を行い、圧電駆動素子30を形成した。
【0030】
このようにして得られた実験例2の圧電駆動素子30において、前記実験例1と同様に印加する交流電界を変化させて周波数と振動速度の測定を行ったところ、前記図1(C)と同様に、交流電界を上げて振動速度を増加させても、振動速度が最大値を示す共振周波数が変動しないことが確認された。また、前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスの粉体の混合物に樹脂を加えてシート化し、Agをフィラーとした導電性樹脂を内部電極として、前記図3に示す積層構造の圧電駆動素子30を作製した場合も、同様の効果が得られた。なお、本実施例においても、前記実施例1で示した通り、第1の圧電体セラミックス18,第2の圧電体セラミックス20として、上記実験例2で使用したもの以外の圧電体セラミックスを選択することができ、その場合にも、同様の効果が得られた。
【実施例3】
【0031】
次に、図4及び図5を参照しながら本発明の実施例3を説明する。前記実施例1及び実施例2では、第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20の粉体が混合した複合形態としたが、本実施例のように、それぞれシート状に形成した第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20を交互に積層した形態としてもよい。まず、図4(A)に示す例の圧電駆動素子50では、複合セラミックス52は、分極方向に第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20を交互に積層した構成となっており、これらセラミックス層と平行に前記外部電極14,16が形成されており、矢印Fb方向に駆動する。また、図4(B)に示す例の圧電駆動素子60では、分極方向と直交する方向に第1の圧電体セラミックス18の層と、第2の圧電体セラミックス20の層を交互に積層するとともに、これら第1及び第2の圧電体セラミックス層の間に、前記実施例2と同様に、外部電極14,16に接合する複数の内部電極32,34を交互に配置した構造となっており、矢印Fb方向に駆動する。図4(C)に示す圧電駆動素子70は、前記図4(B)に示す形態の変形例であり、複合セラミックス72は、第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20の積層体同士の間に、前記内部電極32,34を形成した構成となっており、矢印Fb方向に駆動する。これら図4(A)〜(C)に示す例は、いずれも、電界の印加方向に第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20を積層している。
【0032】
次に、図5(A)に示す圧電駆動素子80では、複合セラミックス82は、前記図4(A)〜(C)と異なり、印加電界に直交する方向に第1の圧電体セラミックス18の層と第2の圧電体セラミックス20の層を交互に積層した複合形態となっており、矢印Fb方向に駆動する。更に、図5(B)に示す圧電駆動素子90では、前記図4(A)と同様の方向に第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20を積層した複合セラミックス92中に、前記セラミックス層の積層方向と直交するように複数の内部電極32,34を形成することにより、印加電界に直交する方向に第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20が積層した構造となっている。
【0033】
<実験例3>・・・次に、本実施例の具体例について更に説明する。前記柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックス18として、(K0.5,Na0.5)NbOの圧電体セラミックスを選定し、硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックス20として、Sr1.9CaO.1NaNb15の圧電体セラミックスを選定し、上述した実施例1の実験例1と同様に、それぞれの圧電体セラミックスの粉体を作製して混合した。混合した粉体に、有機溶媒と有機バインダを混ぜてスラリーにし、それをドクターブレード法でシート状に成形した。そして、これらの圧電体セラミックスシートを用いて、積層,内部電極の印刷,外部電極形成などを適宜行い、前記図4(A)〜(C)及び図5(A)に示す積層構造の圧電駆動素子50,60,70,80を形成した。また、(K0.5,Na0.5)NbOのシートとSr1.9CaO.1NaNb15のシートを交互に積層した後、積層方向と直交方向に一定の間隔で切断し、その切断面に内部電極32,34を印刷して再度積層することで、前記図5(B)に示す構造の圧電駆動素子90を作製した。
【0034】
これらの積層型の圧電駆動素子50,60,70,80,90において、前記実験例1と同様に印加する交流電界を変化させて周波数と振動速度の測定を行ったところ、前記図1(C)と同様に、交流電界を上げて振動速度を増加させても、振動速度が最大値を示す共振周波数が変動しないことが確認された。また、前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスの粉体の混合物に樹脂を加えてシート化し、Agをフィラーとした導電性樹脂を内部電極として、前記図4(A)〜(C)及び図5(A),(B)に示す積層構造の圧電駆動素子30を作製した場合も、同様の効果が得られた。なお、本実施例においても、上述した実施例1で示した通り、前記(K0.5,Na0.5)NbO及びSr1.9CaO.1NaNb15以外の圧電体セラミックスを選択することができ、その場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例1〜3で示した形状,寸法は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。材料についても同様であり、第1の圧電体セラミックス18及び第2の圧電体セラミックス20については前記実施例で示した材料群から選択することが好ましいが、内部電極や外部電極については、公知の各種の電極材料を利用してよい。
(2)前記実施例3では、第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20を、それぞれ平面状のシートに形成して、それらを積層することとしたが、これも一例であり、積層構造には種々の形態が含まれる。例えば、図6に示す圧電駆動素子100の複合セラミックス102のように、シート状の第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20を重ねて渦巻き状(ないしロール状)に成形したもの利用し、外部電極14,16を端面に設けた構造としてもよい。この場合、前記複合セラミックス102の外形が略直方体状となるように形成すると、実装面で都合がよい。また、図6の例では、ロール状に積層したが、同心円状に積層する形態としてもよい。
【0036】
(3)前記実施例1では、粉体の第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20が混合した複合形態としたが、前記粉体の粒子形状は、不定形,球形,板状形,ファイバ形状にするなど、適宜変更可能である。
(4)前記実施例2及び3に示した内部電極32,34の積層数や、実施例3に示した第1の圧電体セラミックス18と第2の圧電体セラミックス20の積層数も一例であり、同様の効果を奏するように適宜増減してよい。
(5)前記実施例で示した圧電駆動素子の製造方法も一例であり、同様の効果を奏するように適宜変更してよい。
(6)本発明の圧電駆動素子は、例えば、圧電アクチュエータなどが好適な利用例であるが、他の公知の各種の駆動部を有する装置(例えば、カメラの撮影レンズやオーバーヘッドプロジェクタなどの投影レンズ,双眼鏡のレンズ,複写機のレンズなど、光学装置におけるレンズの駆動のほか、プロッタやX−Y駆動テーブルのような装置)など、駆動部を有する装置一般に用いる圧電駆動装置に適用可能である。特に、共振周波数及びその近傍の周波数での安定した駆動が必要とされる装置に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、振動速度が増加すると弾性定数が小さくなる柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックスと、振動速度が増加すると弾性定数が大きくなる硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックスとを複合した複合セラミックスに、該複合セラミックスを介して対向するように設けられた外部電極を介して、交流電界を印加して駆動することとした。このため、交流電界の電界を上げて圧電駆動素子の振動速度を増加しても、第1の圧電体セラミックスの部分の弾性定数が低下し、第2の圧電体セラミックスの部分の弾性定数が上昇するため、複合セラミックスの全体としての弾性定数の変化が抑えられ、共振周波数の変動が抑制されるため、共振周波数及び共振周波数近傍での安定した駆動が必要とされる圧電駆動素子や圧電駆動装置に用途に適用できる。特に、超音波モータに好適である。
【符号の説明】
【0038】
10:圧電駆動素子
12:複合セラミックス
14,16:外部電極
18:第1の圧電体セラミックス
20:第2の圧電体セラミックス
30,50,60,70,80,90,100:圧電駆動素子
32,34:内部電極
52,62,72,82,92,102:複合セラミックス
200:共振アクチュエータ
202:圧電セラミック素体
204a,204b:電極
206a,206b:ばね端子
208a,208b:導線
210:交流電源
250:共振アクチュエータ
252:圧電セラミック素体
254a,254b:電極
256a,256b:接続電極
258a,258b:引出導体
260a,260b:ばね端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動速度が増加すると弾性定数が小さくなる柔らかいばね特性を有する第1の圧電体セラミックスと、振動速度が増加すると弾性定数が大きくなる硬いばね特性を有する第2の圧電体セラミックスとを複合した複合セラミックスと、
該複合セラミックスを介して対向するように、該複合セラミックスの側面に設けられた外部電極と、
からなり、
前記外部電極に、共振周波数及び共振周波数近傍の交流電界を印加して駆動することを特徴とする圧電駆動素子。
【請求項2】
前記複合セラミックスは、前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスを混合した形態,あるいは、層状に重ねた形態であることを特徴とする請求項1記載の圧電駆動素子。
【請求項3】
前記複合セラミックスが、前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスを、平面状,ロール状,同心円状のいずれかの形態で層状に重ねた形状であることを特徴とする請求項2記載の圧電駆動素子。
【請求項4】
前記複合セラミックスの内部に、前記対向する外部電極のそれぞれに接続する複数の内部電極を設けて積層構造化したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧電駆動素子。
【請求項5】
前記第1の圧電体セラミックスと第2の圧電体セラミックスの体積分率によって、前記複合セラミックスの弾性定数を調整し、振動速度の変化に対する共振周波数の変動を抑制することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の圧電駆動素子。
【請求項6】
前記第1の圧電体セラミックスが、PZTからなる鉛系圧電体セラミックス、BaTiO,(Ba1/2Na1/2)TiO,(Ba1/21/2)TiO、および{(K1−xNa1−yLi}(Nb1−z−wTaSb)O(0≦x≦1,0≦y≦0.2,0≦z≦0.4,0≦w≦0.2)、又はこれらの少なくとも2種類を含む固溶体セラミックスであり、前記第2の圧電体セラミックスが、Sr2−xCaNaNb15(0≦x≦2),SrNaNb15,CaNaNb15,SrKNb15,BaLiNb15,BaNaNb15,BaKNb15,KLiNb15,BaBi1/3Nb15,PbNaNb15,PbKNb15,又はこれらの少なくとも2種類を含むタングステンブロンズ型の固溶体セラミックスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の圧電駆動素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の圧電駆動素子を利用したことを特徴とする圧電駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate