説明

地下圏モデル試験装置

【課題】地層を構成する粒子を充填した反応器の途中で水や微生物試料を自由にサンプリングでき、しかもサンプリングする部分が周囲と異なる環境にならないこと、また反応器をグローブボックスなどに入れなくても雰囲気制御できる地下圏モデル試験装置を提供する。
【解決手段】反応器10内に地層を構成する粒子12を充填すると共にその反応器10の一方から他方へ地下水wを流し、その反応器10内の地下水wをサンプリングするための地下圏モデル試験装置において、反応器10に側管13を付設し、その側管13に、外気と遮断して側管13内に気相11を形成する栓14を設け、その栓14を貫通する挿入管18を有すると共にその挿入管18を通して側管13内に浸み出した地下水wをサンプリングするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の埋め立て処分、放射性廃棄物の地層処分などによる地下圏の汚染可能性を模擬的な条件で試験するための地下圏モデル試験に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の埋め立て処分、放射性廃棄物の地層処分などにより地下圏で、汚染物質が漏洩した場合、地下水と共に汚染物質が拡散して行くが、土壌中には種々の微生物が存在し、特定の微生物が漏洩した汚染物質を分解するため、汚染の拡散を防ぐことができる。
【0003】
そこで地下圏での汚染の広がりを予め予測するには、その地下圏の汚染土壌を採取し、土壌中に地下水を流して汚染物質の分解速度などを模擬的な条件で試験することがなされている(特許文献1,2)。
【0004】
従来、このような試験のためにはいろいろな装置が用いられてきた。
【0005】
図5は、縦型の試験装置40で、嫌気性雰囲気41内にコレクションベッセル42を設け、そのコレクションベッセル42内に採取した砂43を充填し、ポンプ44から地下水をコレクションベッセル42の上部から流し、これを縦型のカラム45に流して流出水を集めて分析したり(非特許文献1)、あるいは図6に示す試験装置50のように、グローブボックス51内に、地層を構成する粒子等を充填した複数の反応器52に流体リザーバ53、ポンプ54にて水を流し、これをコレクションベッセル55に集めて分析する方法(非特許文献2)が行われている。
【0006】
この試験装置40,50は、水質等を測定できるのは流入水と流出水のみで、砂等を充填した反応器内を流れる途中の水や微生物のサンプリングは困難である。
【0007】
それを可能にするため、図7に示す試験装置60が提案された(非特許文献3)。
【0008】
この試験装置60は、嫌気性グローボックス61内に、砂層(反応器)62を設け、その砂層62の出入口に水槽63,65を設けると共に中間にも水槽64を設け、地下水貯槽66から入口側水槽63に地下水を供給して砂槽62と中間水槽64、出口側水槽65を介して流出水貯槽67に流し、その各水槽63,64,65内をモニタ機器68にてモニタすることで、砂層62の入口と中間位置と出口の水や微生物をモニタするようにしている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−245344号公報
【特許文献2】特開2006−116509号公報
【非特許文献1】Vandergraaf, T.T., Drew, D.J., Ticknor, K.V., Hamon, C,J. & Seddon, W.A. (2003) Radionuclide migration experiments in tuff blocks under unsaturated and saturated conditions at a scale of up to 1 metre. WM ’03 Conference, Tucson, AZ, USA, pp.23-27.(February, 23-27, 2003 at Tucson, AZ)
【非特許文献2】Hama, K., Bateman, K., Coombs, P., Hards, V.L., Milodowski, A.E., West, J.M., Wetton, P.D., Yoshida, H. & Aoki, K. (2001) Influence of bacteria on rock-water interaction and clay mineral formation in subsurface granitic environments. Clay Minerals, Vol.36, pp.599-613.(主催:The Mineralogical Society)
【非特許文献3】福永 栄、石井 浩介、宮坂 郁、栃木 善克、難波 謙二(2006)帯水層モデルによる微生物挙動予測のための数値取得,日本原子力学会2006年春の年会要旨集:B37.(2006年3月25日、at大洗、茨城県、日本、主催:日本原子力学会)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この試験装置60は、砂層62に水槽63,64,65を設けるため、水槽部分が砂層62と異なる環境となり、砂層62を完全に模擬していないという懸念も残した。
【0011】
また地層を構成する粒子等を充填した反応器の雰囲気をコントロールするため装置全体を雰囲気制御グローブボックス61に入れなければならない問題もある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、地層を構成する粒子を充填した反応器の途中で水や微生物試料を自由にサンプリングでき、しかもサンプリングする部分が周囲と異なる環境にならないこと、また反応器をグローブボックスなどに入れなくても雰囲気制御できる地下圏モデル試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、堆積物層などの地層中で起きている化学反応、微生物反応などの現象を模擬すべく、反応器内に地層を構成する粒子を充填すると共にその反応器の一方から他方へ地下水を流し、その反応器内の地下水をサンプリングするための地下圏モデル試験装置において、反応器に側管を付設し、その側管に、外気と遮断して側管内に気相を形成する栓を設け、その栓を貫通して使用できる挿入管を有すると共にその挿入管を通して側管内に浸み出した地下水をサンプリングするサンプリング装置を設けたことを特徴とする地下圏モデル試験装置である。
【0014】
請求項2の発明は、側管が反応器に沿って多数設けられる請求項1記載の地下圏モデル試験装置である。
【0015】
請求項3の発明は、反応器が横長の管からなり、側管が、その管の上部で上方に向くように設けられ、反応器内には砂、土、岩石等の粒子が充填され、反応器の両端は立ち上げて内部に水を貯留させ、立ち上げた部分の一方に地下水を供給することによって、水の流れる帯水層を模擬するようにした請求項1又は2記載の地下圏モデル試験装置である。
【0016】
請求項4の発明は、サンプリング装置は、栓を貫通する挿入管と、挿入管を通して側管内の気相を負圧にして地下水を浸み出させて地下水をサンプリングするシリンダ・ピストンとを有する請求項1〜3いずれかに記載の地下圏モデル試験装置である。
【0017】
請求項5の発明は、反応器が縦型の管からなり、側管が、その管の側面から水平に設けられ、その側管に反応器内の粒子が側管内に入り込むのを防止するスクリーンが設けられる請求項1又は2記載の地下圏モデル試験装置である。
【0018】
請求項6の発明は、縦型の管の下方から上方に向けて地下水が流される請求項5記載の地下圏モデル試験装置である。
【0019】
請求項7の発明は、側管内の気相を、側管の栓を貫通する2本の挿入管の1本から組成既知のガスを導入し、もう1本から気相内ガスを抜き出すことによって、置換し、気相の組成を制御するようにした請求項1〜6いずれかに記載の地下圏モデル試験装置である。
【発明の効果】
【0020】
堆積物層などの地層中で起きている化学反応、微生物反応などの現象を実験室規模で模擬するため、地層を構成する粒子等を充填した反応器から成る試験装置において、従来、流入水と流出水の分析しか出来ない、あるいは途中に水槽を作るなど環境の異なる部分を作らなければ反応器の途中からの水サンプリングができなかったものが、本発明により可能となった。また、雰囲気制御グローブボックスなどに反応器全体を収納することなく、反応器の雰囲気制御も可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0022】
本発明の第一の実施の形態を図1に示す。
【0023】
反応器10は、横型の管10aからなり、その管10aに、地層を構成する砂、土、岩石等の粒子12が充填され、図示の矢印のように地下水wが供給されて帯水層が模擬される。
【0024】
反応器10の側壁には上方に向けて側管13が付設され、その側管13にブチルゴムなどの栓14が設けられると共にその側管13に栓14を固定する開口16を有するキャップ15が設けられる。
【0025】
反応器10に充填された地層を構成する粒子12は重力により、側管13には入り込まず、側管13には空間すなわち気相11ができる。
【0026】
側管13には、側管13内に浸み出した地下水wをサンプリングするサンプリング装置17が設けられる。
【0027】
サンプリング装置17は、注射器などからなり、キャップ15の開口16を通して栓14を貫通する注射針など挿入管18と、挿入管18を通して側管13内に浸み出した地下水をサンプリングするシリンダ・ピストン19とからなる。
【0028】
このサンプリング装置17は、栓14に挿入管18を貫通させ、シリンダ・ピストン19にて、側管13内の気相11を負圧にすることによって、粒子12の層から地下水を浸み出させ、その浸み出した地下水wを吸引サンプリングできるようになっている。このサンプリング装置17は、2本用いて、一方で気相11を負圧にし、他方で地下水wをサンプリングするようにしてもよい。
【0029】
栓14は、サンプリング装置17の挿入管18が挿入でき、その挿入管18で内外の空間を流通できるが、挿入管18を外せば再び密閉状態にできるブチルゴムなどからなる。
【0030】
この反応器10には地下水wが通水され、地層を構成する粒子12の隙間に満たされるが、側管13の気相11内にはガスを満たしておくので、側管13には地下水wは入り込まず水溜りは通常できない。
【0031】
一方、サンプリング時には側管13の気相11内のガスを、サンプリング装置17によって抜き出して側管13内の気相11を負圧にすることによって、地層を構成する粒子12の層から地下水(微生物も含まれる)wを浸み出させ、この水wを注射器などのサンプリング装置17によって外部に抜き出すことによってサンプリングできる。
【0032】
サンプリング後、残った地下水wはサンプリング装置17によって完全に吸い出し、同じくサンプリング装置17によって側管13の気相11内にガスを充填して圧力を維持することにより、水溜まりの形成を防止する。
【0033】
側管13の気相11内に充填するガスは、微生物に対し不活性のアルゴン、ヘリウムなど組成を制御したものを用いる。このガスは、側管13の栓14にサンプリング装置17の挿入管18を2本刺し、その片方から供給し、もう一方から抜き出すことによって側管13内の気相11を置換できる。これによりサンプリングする部分が周囲と異なる環境にならない。
【0034】
次にこのサンプリング装置を組み込んだ試験装置全体を図2に示す。
【0035】
反応器10を構成する管10aは、フランジ20により複数本接続し、その両端を上向きに上げて、流入口21および流出口22としている。また側管13は、反応器10に沿って適宜箇所に設けておく。
【0036】
反応器10は恒温水槽23に浸漬され、側管13の栓14、流入口21および流出口22は水面上に出るものとする。
【0037】
この試験装置への地下水の供給方法は、地下水貯槽25から流入ポンプ26で流入口21に送り、流出口22より排水ポンプ24を介して排水して行う。また反応器10の上流側の側管13の一つを介して基質貯槽27から基質供給ポンプ28から微生物の餌となる糖や酢酸を供給する。また、地下水貯槽25から地下水を供給する代わりに基質貯槽27に地下水を混ぜて送ることもできる。
【0038】
側管13からは地下水wをサンプリングするが、反応器10で発生したガスのサンプリングもできる。また、側管13内に若干の水を浸み出させておいてpH電極などを浸漬し、計器でモニタリングすることもできる。
【0039】
また、図2には恒温水槽23の付属品としての温水ポンプ30とウォーターバス29にて恒温水槽23の温度を一定に保つようにする。
【0040】
以上において、反応器10の途中には、適宜箇所側管13が設けられ、その側管13に設けた栓14に、サンプリング装置17の挿入管18を挿入して微生物を含む地下水wをサンプリングすることができる。
【0041】
また反応器10を構成する管10aは、フランジ20にて適宜の長さにすることができるため、地層を模擬した種々の実験が行えると共に管10a毎に充填する粒子12も種々のものを選ぶことができる。
【0042】
このように本発明は、反応器10の途中で水や微生物試料をサンプリングできる。またサンプリング時には側管13内のガスを、サンプリング装置17によって抜き出して側管13内の気相11を負圧にすることによって、地層を構成する粒子等の層から水(微生物も含まれる)を浸み出させ、この水を挿入管18から抜き出すことによってサンプリングできるため、粒子12の層の雰囲気を、そのままに保った状態に維持できる。
【0043】
また、側管13の栓に注射針を2本刺し、片方からアルゴン、ヘリウムなど微生物に対し不活性のガスを供給し、もう一方から抜き出すことによって側管13内の気相11を、組成制御されたガスで置換することによって、反応器10内の雰囲気を制御できるため、反応器10をグローブボックスなどに入れなくても雰囲気制御できる。
【0044】
図3は本発明の他の実施の形態を示したものである。
【0045】
本実施の形態では、反応器10が縦型の管10bから構成され、その反応器10の下方から上方に向けて地下水wが流れるようにしたものであり、横型では流れが不均一になる恐れのある場合に用いる。
【0046】
原理は、ほぼ同じであるが、図1の横型では反応器10に充填された地層を構成する粒子12は重力により側管13には入り込まず、側管13には空間すなわち気相11ができるが、縦型ではそうならない。
【0047】
そこで、側管13内に、地層を構成する粒子12と側管13の気相11を仕切るスクリーン32を設置し、地層を構成する粒子12が側管13の気相11に入らないようにしている。
【0048】
本実施の形態では、地下水wが下方から上方に流れるようにされるため、反応器10内に、より均一な流れを作ることができる。
【0049】
また、この形態では、反応器10が縦型の他に、図4に示すように反応器10を横型の管10aとし、側管13を上面でなく側面に設置するときもそのまま利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1の全体図を示す図である。
【図3】本発明の他の実施の形態を示す図である
【図4】本発明の更に他の実施の形態を示す図である。
【図5】縦型の地層を模擬した従来例を示す図である。
【図6】横型の地層を模擬した従来例を示す図である。
【図7】横型の地層を模擬し、途中でサンプリングできる従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 反応管
11 気相
12 粒子
13 側管
14 栓
17 サンプリング装置
18 挿入管
w 地下水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積物層などの地層中で起きている化学反応、微生物反応などの現象を模擬すべく、反応器内に地層を構成する粒子を充填すると共にその反応器の一方から他方へ地下水を流し、その反応器内の地下水をサンプリングするための地下圏モデル試験装置において、反応器に側管を付設し、その側管に、外気と遮断して側管内に気相を形成する栓を設け、その栓を貫通して使用できる挿入管を有すると共にその挿入管を通して側管内に浸み出した地下水をサンプリングするサンプリング装置を設けたことを特徴とする地下圏モデル試験装置。
【請求項2】
側管が反応器に沿って多数設けられる請求項1記載の地下圏モデル試験装置。
【請求項3】
反応器が横長の管からなり、側管が、その管の上部で上方に向くように設けられ、反応器内には砂、土、岩石等の粒子が充填され、反応器の両端は立ち上げて内部に水を貯留させ、立ち上げた部分の一方に地下水を供給することによって、水の流れる帯水層を模擬するようにした請求項1又は2記載の地下圏モデル試験装置。
【請求項4】
サンプリング装置は、栓を貫通する挿入管と、挿入管を通して側管内の気相を負圧にして地下水を浸み出させて地下水をサンプリングするシリンダ・ピストンとを有する請求項1〜3いずれかに記載の地下圏モデル試験装置。
【請求項5】
反応器が縦型或いは横型の管からなり、側管が、その管の側面から水平に設けられ、その側管に反応器内の粒子が側管内に入り込むのを防止するスクリーンが設けられる請求項1又は2記載の地下圏モデル試験装置。
【請求項6】
縦型の管の下方から上方に向けて地下水が流される請求項5記載の地下圏モデル試験装置。
【請求項7】
側管内の気相を、側管の栓を貫通する2本の挿入管の1本から組成既知のガスを導入し、もう1本から気相内ガスを抜き出すことによって、置換し、気相の組成を制御するようにした請求項1〜6いずれかに記載の地下圏モデル試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate