説明

地下水の鉛直流速測定方法及び装置

【課題】トレーサ粒子と地下水との密度差の影響を受けにくい地下水の鉛直流速測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】地下水Gの測定域内に、平面上の直線又は曲線区間22を含む流路の両端にその平面と垂直な一対の開口24、26が反対向きに設けられた管路20を開口軸Aが鉛直向きとなるように配置し、管路20内にトレーサ粒子Sを流入させて直線又は曲線区間22中に浮遊するトレーサ粒子Sの水平流速Vh´を計測し、その水平流速Vh´の計測値から測定域内の鉛直流速Vpを算出する。好ましくは、両端の開口軸Aと垂直な一対の平行な平面上の直線区間22a、22bとその間の折り返し区間23とを含むU字形管路を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地下水の鉛直流速測定方法及び装置に関し、とくに低流速の地下水の鉛直流速を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物等を構築する場合に、その安全性や周囲への影響を予測・評価するため、構造物周辺の地下水の流速、流向その他の水理特性を把握することが求められる。例えば地下数百〜千m程度の安定した地盤又は岩盤(天然バリア)中に放射性廃棄物(放射性核種を含む)の埋設処分場(地層処分場)を構築する場合に、処分場から漏洩した放射性核種が地下水により移行するリスクを評価するため、処分場を覆う天然バリアを流れる地下深部の地下水の水理特性を把握することが求められる。
【0003】
従来から、地下深部の地下水中に塩、インク等の色素、薬品、又は放射性同位体等が含まれるトレーサ液を添加し、予め想定した範囲内でトレーサ液の伝播状態や伝播範囲を追跡調査して水理特性を把握する方法が開発されている(特許文献1及び2参照)。しかしトレーサ液を用いる方法は、トレーサ液自体が移流・拡散する性質を有するため、地下水の流速が小さくなるとトレーサ液自体の拡散速度の影響が無視できなくなり、地下水の流速(流向を含む。以下同じ)を精確に測定することが難しくなる。例えば放射性廃棄物の地層処分場等では、万年オーダーの長期間にわたる安全性評価が求められ、極めて低流速(例えば10−5〜10−10m/s程度)の地下水の流れ特性を高い精度で把握することが要求される。このような低流速の地下水の流速を精確に測定するためには、トレーサ液の拡散速度等に影響されない測定方法が必要である。
【0004】
これに対し、特許文献3及び4のように、地下水中に投入したトレーサ粒子の三次元位置を超音波センサ又は光学式撮像装置で追跡して地下水の流速を測定する方法が提案されている。例えば図4に示すように、ボーリング孔2内にパッカー11、12によって測定域3を形成し、その測定域3内に支持部材19によって超音波センサ又は光学式撮像装置が取り付けられた計測ユニット15を吊り下げ、支持部材19に組み込まれたトレーサ導入管18を介して測定域3の地下水G中にその地下水Gとほぼ同等の密度(比重)を有するトレーサ粒子Sを供給する。地下水Gの流れに沿って流動するトレーサ粒子Sの位置を計測ユニット15により検出し、その検出データを信号伝送ユニット16及び信号伝送ケーブル17を介して地上の計測装置7へ伝送する。計測装置7において検出データからトレーサ粒子Sの三次元的な連続移動位置を計測し、その計測結果に基づき地下水Gの三次元的な流速を測定する。このようなトレーサ粒子Sを用いる方法によれば、トレーサ液を用いた場合のように拡散速度の影響を受けることなく、低流速の地下水Gの流速を精確に測定することが期待できる。なお、図中の符号13はパッカー11、12及び計測ユニット15の吊り下げ装置13を示し、符号14はパッカー11、12の制御装置を示す。
【0005】
【特許文献1】特開平6−273538号公報
【特許文献2】特公平2−046904号公報
【特許文献3】特開2001−183471号公報
【特許文献4】特開2002−107370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のトレーサ粒子Sを用いて地下水Gの流速を測定する方法は、トレーサ粒子Sの密度を測定域3の地下水Gの密度と厳密に一致させることが難しいという問題点がある。トレーサ粒子Sの密度が地下水Gの密度と相違すると、地下水G中でトレーサ粒子Sが徐々に落下又は浮上し、地下水Gの鉛直方向の流速に測定誤差が発生する。一般に低流速の地下水Gの流動特性を測定するには2〜3日程度の測定期間が必要と考えられるので、トレーサ粒子Sを用いた地下水Gの流速測定の精度を高めるためには、トレーサ粒子Sの密度を地下水Gの密度と厳密に一致させ、測定期間におけるトレーサ粒子Sの落下又は浮上速度を小さく抑えることが必要である。ところが、トレーサ粒子Sは微小粒子(例えば粒径100〜200μm程度)であり、そのような微小粒子の密度を地下水Gの密度と厳密に一致させることは極めて困難である。
【0007】
更に、たとえトレーサ粒子Sの密度の調整が可能であるとしても、地下水Gの密度は深度毎に温度・圧力等の影響を受けて変化することから、測定対象の地下水Gの精確な密度を把握することが難しい問題点もある。測定対象の地下水Gの精確な密度を把握するためには、原位置の温度及び圧力状態に保持したまま地下水Gをボーリング孔2から採水して密度を測定する必要があるが、このような原位置の地下水Gの密度測定は作業が面倒であるだけでなく測定誤差を生じやすい。トレーサ粒子Sを用いて低流速の地下水の流速を精確に測定するためには、たとえトレーサ粒子Sと地下水Gとの間に多少密度差がある場合でも、その密度差の影響を受けにくい測定方法を開発する必要がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、トレーサ粒子と地下水との密度差の影響を受けにくい地下水の鉛直流速測定方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
図1から図3の実施例を参照するに、本発明による地下水の鉛直流速測定方法は、地下水Gの測定域3内に、平面上の直線又は曲線区間22を含む流路の両端にその平面と垂直な一対の開口24、26が反対向きに設けられた管路20(図2及び図3参照)を開口軸Aが鉛直向きとなるように配置し、管路20内にトレーサ粒子Sを流入させて直線又は曲線区間22中に浮遊するトレーサ粒子Sの水平流速Vh´を計測し、その水平流速Vh´の計測値から測定域3内の鉛直流速Vpを算出してなるものである。
【0010】
また図1のブロック図を参照するに、本発明による地下水の鉛直流速測定装置は、地中ボーリング孔2内の地下水深度に測定域3を形成するパッカー対11、12、平面上の直線又は曲線区間22を含む流路の両端にその平面と垂直な一対の開口24、26が反対向きに設けられ且つ測定域3内に開口軸Aが鉛直向きとなるように配置される管路20(図2及び図3参照)、管路20内にトレーサ粒子Sを流入させるトレーサ導入管18、管路20の直線又は曲線区間22中に浮遊するトレーサ粒子Sの水平流速Vh´を計測する計測装置7、及びその水平流速Vh´の計測値から測定域3内の鉛直流速Vpを算出する算出装置8を備えてなるものである。
【0011】
好ましくは図2に示すように、管路20を、両端の開口軸Aと垂直な一対の平行な平面上の直線区間22a、22bとその間の折り返し区間23とを含むU字形管路とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明による地下水の鉛直流速測定方法及び装置は、平面上の直線又は曲線区間22を含む流路の両端にその平面と垂直な一対の開口24、26が反対向きに設けられた管路20を地下水Gの測定域内に配置し、その管路20にトレーサ粒子Sを流入させて直線又は曲線区間22中に浮遊するトレーサ粒子Sの水平流速Vh´を計測し、その水平流速Vh´の計測値から測定域3内の鉛直流速Vpを算出するので、次の有利な効果を奏する。
【0013】
(イ)管路20の直線区間22に両端開口24、26の鉛直方向の速度ポテンシャル差に応じた水平流を形成し、測定域3の鉛直流速Vpを水平流速Vh´に変換して計測することにより、測定域3の水平流速Vhの如何に拘わらず鉛直流速Vpのみを取り出して精度よく測定することができる。
(ロ)トレーサ粒子Sと地下水Gとに密度差がある場合でも、管路20中に流入したトレーサ粒子Sの水平流速Vh´は密度差の影響を受けないので、その水平流速Vh´から地下水Gとの密度差による影響のない鉛直流速Vpの精確な測定が可能となる。
(ハ)地下水Gと密度差の大きなトレーサ粒子Sは管路20内を移動する間に断面上下部分に移動し、密度差の小さいトレーサ粒子Sだけが直線区間22の断面中央付近に浮遊するので、直線区間22に断面中央付近に浮遊するトレーサ粒子Sの水平流速Vh´を計測することで密度差の影響を更に小さく抑えることができる。
(ニ)また、管路20の断面周辺部では管路20の内面との摩擦の影響を受けうるが、断面中央付近を浮遊するトレーサ粒子Sの水平流速Vh´を計測することで摩擦の影響を避け、鉛直流速Vpの測定精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の鉛直流速測定装置を、例えば放射性廃棄物の地層処分場を構築する数百〜千m程度の地下地盤(岩盤)1における地下水Gの水理特性の測定に適用した実施例を示す。図示例の測定装置10は、地層処分場の周囲地盤1に掘削したボーリング孔2内の所要深度に測定域3を形成するパッカー対11、12と、その測定域3内に配置する管路20と、測定域3の管路20内にトレーサ粒子Sを流入させるトレーサ導入管18と、管路20内に進入したトレーサ粒子Sの水平流速Vh´を計測する計測装置7(計測ユニット15を含む)とを有している。パッカー対11、12は適当な結合部材(図示せず)によって所要の相互間隔に保持され、ボーリング孔2外の吊り下げ装置13及びパッカー制御装置14によってボーリング孔2内に吊り下げる。パッカー対11、12として、例えば液体(水等)又は気体(空気等)の注入・回収により拡張・収縮する遮水パッカー又はメカニカルパッカーを用いることができる。
【0015】
図示例のトレーサ導入管18は、測定域3の地下水Gとほぼ同等の密度(比重)を有する粒径100〜200μm程度のトレーサ粒子Sを、例えばその一端に接続した地上のトレーサ導入装置5から測定域3へ供給するものである。例えばトレーサ導入装置5に異なる密度のトレーサ粒子を流入液中に浮遊させて貯えるタンクと、そのタンク内の温度及び圧力を制御する加温・加圧装置とを設け、計測ユニット15により計測された測定域3の地下水Gの温度及び圧力に基づきタンク内の流入液の温度及び圧力を制御し、その温度及び圧力下で浮遊するトレーサ粒子Sを選択して測定域3へ流入させる。このように測定域3の地下水Gの温度及び圧力に応じてトレーサ粒子Sを選択することにより、測定域3に供給するトレーサ粒子Sと測定域3の地下水Gとの密度差を小さく抑えることができる。なお、図示例ではトレーサ導入装置5と計測装置7とを分離しているが、両者を一体的なものとしてもよい。
【0016】
測定域3内に配置する管路20の一例は、例えば図2及び図3に示すように、所定軸Aと垂直な平面上の直線又は曲線区間22を含む流路の両端に、その所定軸Aを開口軸とする一対の開口24、26が反対向きに設けられたものである。両開口24、26の開口軸Aが鉛直向きとなるように測定域3内に配置し、その配置により開口軸Aと垂直な平面上の直線又は曲線区間22を測定域3において水平とする。図2は、所定軸Aと垂直な一対の平行な平面上の直線区間22a、22bとその間の折り返し区間23とを含むU字形流路の両端に、その軸Aを開口軸とする一対の開口24、26が反対向きに設けられたU字形管路20aの断面図(開口軸Aを含む断面図)を示す。例えば、このU字形管路20aの一方の開口24(又は26)をトレーサ導入管18の下端に臨ませ、トレーサ導入管18を介して測定域3内に供給するトレーサ粒子Sの少なくとも一部を管路20a内に流入させる。管路20は、例えばパッカー対11、12に適当な支持部材を介して支持することができるが、図1に示すように計測ユニット15と一体的に支持してもよい。
【0017】
図2のU字形管路20aにおいて、一方の鉛直上向きの開口24から流入したトレーサ粒子Sは、他方の鉛直下向きの開口部26から放出される前に直線区間22a、22bにおいて水平方向に流れる。この水平方向の流れは、両端開口24、26の開口軸A上の鉛直方向の速度ポテンシャルの差Δpによって発生するものであり、その速度ポテンシャルの差Δpに応じて管内の水平方向の流速Vh´が増減する。トレーサ粒子Sと地下水Gとに密度差があると直線区間22a、22bにおいてトレーサ粒子Sが鉛直方向に落下又は浮上するが、トレーサ粒子Sの水平流速Vh´は密度差の影響を受けないので、その水平流速Vh´から測定域3の鉛直流速Vpを求めることにより、トレーサ粒子Sと地下水Gとの密度差の影響のない精確な鉛直流速Vpを求めることができる。
【0018】
例えば、管路20a内の摩擦や場の乱れを無視できる場合は、両端開口24、26の間の速度ポテンシャル差Δpと開口軸A方向の距離dとに基づき、管路20aを配置する前の開口軸A方向の鉛直流速Vpをダルシーの法則によりVp=k×Δp/d(kは等価透水係数)と表すことができる。これに対して両端開口24、26の間に直線区間22a、22bを含む所定長さLの流路が配置されているときは、その直線区間22a、22bの両端に速度ポテンシャル差Δpが加わるので、ダルシーの法則により直線区間22a、22bにおいて水平流速Vh´=k×Δp/Lとなる。すなわち、図示例のU字形管路20aを用いることにより、開口24、26間の測定域3の鉛直流速Vpを、直線区間22a、22bにおける水平流速Vh´とその流路の長さLと両開口24、26の開口軸A方向の距離dとからVp=Vh´×L/dとして算出することができる。
【0019】
ただし、管路20aの直線区間22a、22bの径φに対してその流路の長さLが十分に大きくない場合は、水平流速Vh´を計測する位置において管路20の内部の流れが水平に達しない可能性がある。図示例では、U字形管路20a内で十分な水平流が形成されるように、直線区間22a、22bの径φに対してその流路の長さLが十分に大きな管路20aとしている。管路20aの流路断面は摩擦等によるポテンシャルの損失を避けるためにできるだけ均一であることが望ましく、管路20aの断面周辺部に生じる摩擦の影響を避けるために流路の径φはあまり小さく(細く)ないことが望ましい。管路20aを形成する材質や対象とする流速にもよるが、例えば管路20の流路の径φを5〜10mm程度とし、両開口24、26の間の流路の長さLを50mm以上とすることが望ましい。
【0020】
また、図2では説明簡単化のために開口24、26及び折り返し区間23において流路に90°の曲がりを設けているが、曲がり部における摩擦等によるポテンシャルの損失を避けるため、例えば図3(A)の管路22bに示すように開口24、26及び折り返し区間23の曲がりを適当な曲率半径としてもよい。更に、図2のような直線区間22a、22bを有するU字形管路20aに代えて、図3(B)に示すように、所定軸Aと垂直な平面上の曲線区間22cを含む流路の両端にその軸Aを開口軸とする一対の開口24、26が反対向きに設けられた環状管路20cを用いることもできる。図3(A)及び(B)のような管路20b、20cを用いてポテンシャルの損失の影響を避けることにより、直線又は曲線区間22の水平流速Vh´から測定域3の鉛直流速Vpを精度よく算出することが期待できる。
【0021】
なお、図示例では測定域3内の鉛直流速Vpが下向きであることから一方の鉛直上向き開口24よりトレーサ粒子Sを流入させているが、測定域3内の鉛直流速Vpが上向きである場合は、トレーサ導入管18の下端を他方の鉛直下向き開口26に臨ませてトレーサ粒子Sを開口26より直線又は曲線区間22に流入させればよい。また、トレーサ導入管18の下端を管路20の適当な部分(例えば折り返し区間23又は直線区間22b、22aの中間位置等)と連通させて接続し、トレーサ導入管18からトレーサ粒子Sを管路20内に直接流入させる方法も考えられる。
【0022】
図1の計測ユニット15は、管路20の直線又は曲線区間22に流入したトレーサ粒子Sの三次元位置を継続的に検出し、その三次元位置の検出値を信号伝送ケーブル17経由でボーリング孔2外の計測装置7へ伝送する。例えば、従来技術に属する超音波センサ又は光学式撮像装置を計測ユニット15に設けてトレーサ粒子Sの三次元位置を検出することができる。管路20の直線又は曲線区間22内のトレーサ粒子Sの位置を管路20の外側の計測ユニット15で検出するため、管路20の一部分に適当な透明窓を設けるか、又は管路20の全体を透明材料製とすることができる。
【0023】
図1の測定装置10を用いて地下水Gの鉛直流速を測定する場合は、先ずパッカー11、12に管路20及び計測ユニット15とトレーサ導入管18及び信号伝送ケーブル17とを取り付けたうえで、収縮状態のパッカー11、12を吊り下げ装置13によりボーリング孔2内の所要深度まで吊り下げ、パッカー制御装置14によりパッカー11、12を拡張して隣接深度から仕切られた測定域3をボーリング孔2内に形成する。次いで、トレーサ導入管18を介してボーリング孔2内の測定域3にトレーサ粒子Sを送り込み、トレーサ粒子Sの少なくとも一部を測定域3に配置された管路20内に流入させる。
【0024】
トレーサ粒子Sを管路20内に流入させたのち、計測ユニット15により直線又は曲線区間22に浮遊するトレーサ粒子Sの三次元位置を継続的に検出し、三次元位置の検出信号を信号伝送ケーブル17経由でボーリング孔2外の計測装置7へ伝送する。計測装置7は、伝送されたトレーサ粒子Sの継続的な位置検出信号に基づき直線又は曲線区間22におけるトレーサ粒子Sの水平流速Vh´を求め、求めた水平流速Vh´を算出装置8に送る。算出装置8の一例は、メモリ等の記憶手段と、鉛直流速Vpの算出プログラムとを有するコンピュータである。例えば、管路20の直線又は曲線区間22の流路長さLと両端開口24、26の開口軸A方向の距離dとを記憶手段に記憶し、上述した算出式(Vp=Vh´×L/d)に水平流速Vh´の計測値を代入して鉛直流速Vpを算出する。
【0025】
好ましくは、管路20を用いて実施した校正試験又は管路20の材質・形状等に基づく数値解析により水平流速Vh´と鉛直流速Vpとの関係式Vp=f(Vh´)を事前に求めて記憶手段に記憶しておき、その関係式と水平流速Vh´の計測値とに基づき鉛直流速Vpを算出する。このような関係式を用いることにより、管路20内の摩擦及び場の乱れによる誤差を避けて鉛直流速Vpの測定精度を高めることが期待できる。なお、図示例では計測装置7と算出装置8とを分離して示しているが、計測装置7をトレーサ粒子Sの水平流速Vh´の算出プログラムとし、算出装置8のコンピュータに一体的に組み込むことも可能である。また、管路20の開口26(又は24)から排出されるトレーサ粒子Sは、必要に応じてトレーサ導入管18又は別に設けた回収管14を介して測定域3から回収することができる。
【0026】
本発明の測定方法及び装置によれば、トレーサ粒子Sと地下水Gとの密度差がある場合でも、管路20を用いて鉛直方向の速度ポテンシャルの差を水平方向の速度ポテンシャルの差に変換することにより、その密度差の影響を受けずに測定域3の鉛直流速Vpを測定することができる。また、管路20内に流入させたトレーサ粒子Sのうち、地下水Gと密度差の大きなトレーサ粒子Sは管路20内を移動する間に流路断面の上下部分に移動し、地下水Gとの密度差の小さいトレーサ粒子Sだけが断面中央付近に浮遊するので、流路断面の中央付近に浮遊するトレーサ粒子Sを優先的に計測することで地下水Gとの密度差の影響を小さく抑えることができる。更に、管路20の断面周辺部は管路20の内面との摩擦の影響を受けうるが、断面中央付近を浮遊するトレーサ粒子Sを計測することで摩擦の影響を避け、測定域3の鉛直流速Vpの測定精度の向上を図ることができる。
【0027】
こうして本発明の目的である「トレーサ粒子と地下水との密度差の影響を受けにくい地下水の鉛直流速測定方法及び装置」の提供を達成できる。
【0028】
以上説明したように、本発明によれば測定域3の鉛直流速Vpを精確に測定できるが、計測装置7により管路20の外側に浮遊するトレーサ粒子Sの三次元位置を継続的に検出することにより、本発明において測定域3の水平流速Vhを測定することも可能である。すなわち、従来のトレーサ粒子Sを用いた地下水Gの流速測定装置に本発明のような管路20を組み合わせることで、地下水Gの三次元な流速の測定精度を高めることができる。また、以上の説明では地下深部の地下水Gの鉛直流速の測定に本発明を適用しているが、本発明の適用範囲は地下深部の地下水Gに限定されるものではなく、トレーサ粒子Sを用いて鉛直流速を測定できる流体の流れ場に広く応用可能である。例えば、非常に軽い固体粒子を用いるレーザードップラー法や気体分子NOをトレーサとして用いる流速測定に本発明を適用し、気体の流れ場における精確な鉛直流速を測定することも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による地下水の流速測定装置の一実施例の説明図である。
【図2】本発明で用いる管路の一実施例の説明図である。
【図3】本発明で用いる管路の他の実施例の説明図である。
【図4】従来の地下水の流速測定装置の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1…地盤(岩盤) 2…ボーリング孔
3…測定域 5…トレーサ導入装置
7…計測装置(計測ユニット) 8…算出装置
10…測定装置 11…上部パッカー
12…下部パッカー 13…吊り下げ装置
14…パッカー制御装置 15…計測ユニット
16…信号伝送ユニット 17…信号伝送ケーブル
18…トレーサ導入管 19…支持部材
20…管路(層流形成管路)
22…直線区間 23…折り返し区間
24…開口 25…開口筒
26…開口 27…開口筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水の測定域内に、平面上の直線又は曲線区間を含む流路の両端に当該平面と垂直な一対の開口が反対向きに設けられた管路を開口軸が鉛直向きとなるように配置し、前記管路内にトレーサ粒子を流入させて直線又は曲線区間中に浮遊するトレーサ粒子の水平流速を計測し、前記水平流速の計測値から測定域内の鉛直流速を算出してなる地下水の鉛直流速測定方法。
【請求項2】
請求項1の測定方法において、前記管路を、前記両端の開口軸と垂直な一対の平行な平面上の直線区間とその間の折り返し区間とを含むU字形管路としてなる地下水の鉛直流速測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2の測定方法において、前記管路を用いた校正試験又は数値解析により水平流速と鉛直流速との関係式を予め求めて記憶し、その関係式と前記水平流速の計測値とから測定域内の鉛直流速を算出してなる地下水の鉛直流速測定方法。
【請求項4】
地中ボーリング孔内の地下水深度に測定域を形成するパッカー対、平面上の直線又は曲線区間を含む流路の両端に当該平面と垂直な一対の開口が反対向きに設けられ且つ前記測定域内に開口軸が鉛直向きとなるように配置される管路、前記管路内にトレーサ粒子を流入させるトレーサ導入管、前記管路の直線又は曲線区間中に浮遊するトレーサ粒子の水平流速を計測する計測装置、及び前記水平流速の計測値から測定域内の鉛直流速を算出する算出装置を備えてなる地下水の鉛直流速測定装置。
【請求項5】
請求項4の測定装置において、前記管路を、前記両端の開口軸と垂直な一対の平行な平面上の直線区間とその間の折り返し区間とを含むU字形管路としてなる地下水の鉛直流速測定装置。
【請求項6】
請求項4又は5の測定装置において、前記算出装置に前記管路を用いた校正試験又は数値解析により予め求めた水平流速と鉛直流速との関係式を記憶し、その関係式と前記水平流速の計測値とから測定域内の鉛直流速を算出してなる地下水の鉛直流速測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−101813(P2010−101813A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274983(P2008−274983)
【出願日】平成20年10月25日(2008.10.25)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)