説明

地中変位観測装置及び方法

【課題】傾斜地の状態に関わらず設置可能であり、また設置場所確保のため樹木の伐採を必要としない地中変位観測装置及び方法を提供することができる。
【解決手段】トンネル90内からこのトンネル90の周辺に存在する傾斜地95に向かって延在するボーリング孔92内の変位を測定することによって、地山の変動を観測する地中変位観測装置1であって、FRPロッド40と、地中変位観測装置1に沿って配置され、自身の傾きを検出する傾斜計20と、を備えている、ことを特徴とする地中変位観測装置1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの掘削によって生じる地中変位観測装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルの掘削に伴ってトンネル周辺の傾斜地に生じる地中の変位を観測する方法としては、下記特許文献1に示すように、傾斜地の表面に傾斜計や伸縮計などの地中変位観測装置を設置して観測するという方法が一般的に行われていた。
【特許文献1】特開2004−045158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、傾斜地の表面に地中変位観測装置を設置して観測するという方法では、地中変位観測装置が設置困難である傾斜地には適用できないという問題があった。また、地中変位観測装置を設置する際には設置場所周辺の樹木を伐採や整地をしなければならず、用地の交渉に手間が掛かってしまうという問題や、伐採や整地のための費用が嵩んでしまうだけでなく周囲の自然を破壊してしまうという問題があった。
そこで、本発明の主たる課題は、傾斜地の状態に関わらず設置可能であり、また設置場所確保のため樹木の伐採や整地を必要としない地中変位観測装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以下に、上記課題を解決するための手段とその作用効果を記述する。
〔請求項1に係る地中変位観測装置〕
本請求項に係る地中変位観測装置は、
トンネル内からこのトンネルの周辺に存在する傾斜地に向かって延在するボーリング孔内の変位を測定することによって、地山の変動を観測する地中変位観測装置であって、
棒状に延在し、自身の軸方向の変位を検出する変位ロッドと、
変位ロッドに沿って配置され、自身の傾きを検出する傾斜計と、を備えている、
ことを特徴とするものである。
【0005】
〔請求項1に係る地中変位観測装置の作用効果〕
本請求項に係る地中変位観測装置は、自身の軸方向の変位を検出可能とされた棒状の変位ロッドを備えることによって、変位ロッドをトンネル内からこのトンネルの周辺に存在する傾斜地に向かって延在するボーリング孔内に挿入することで、ボーリング孔周辺の地山の変動を観測することができる。つまり、本請求項に係る地中変位観測装置は、トンネル坑内に設置できるため、地中変位観測装置が設置困難である傾斜地であっても適用可能であり、また設置場所確保のため樹木の伐採や整地を必要としない。
【0006】
さらに、本請求項に係る地中変位観測装置は、変位ロッドに加えて、変位ロッドに沿って配置された傾斜計を備えている。そうすると、地滑りでボーリング孔内の変位が予想外に大きいことによって、変位ロッドが折れ曲がるなどして変位ロッドの測定可能範囲を超越したとしても、傾斜計によってボーリング孔内の変位を測定し続けることができる。
【0007】
〔請求項2に係る地中変位観測装置〕
本請求項に係る地中変位観測装置は、請求項1に係る地中変位観測装置と同様の構成を有しており、さらに、変位ロッドに沿い、且つ相互に離間して配置された複数のケースを備えており、傾斜計はそれぞれケース内に固定されている、という特徴を有するものである。
【0008】
〔請求項2に係る地中変位観測装置の作用効果〕
本請求項に係る地中変位観測装置は、請求項1に係る地中変位観測装置と同様の構成を有しているため、同様の作用を奏し、さらに、傾斜計がケース内に固定されているため、ボーリング孔内の変位から傾斜計を保護できる。
また、傾斜計が、変位ロッドに沿い、且つ相互に離間して配置された複数のケース内に固定されているため、ボーリング孔内の変位に伴うケースの変形によって、引き起こされる傾斜計の測定誤差を少なくすることが可能となる。というのは、一つのケース内に複数の傾斜計が固定されていると、ボーリング孔内の変位によってケースの一部が変形すると、つられるようにして変形部分の周辺も変形してしまう。そうすると、ボーリング孔内における実際には変位していない部分において、傾斜計による測定に誤差が生じてしまう。本請求項に係る地中変位観測装置は、このような問題を解決すべくして提案されたものである。
【0009】
〔請求項3に係る地中変位観測装置〕
本請求項に係る地中変位観測装置は、請求項2に係る地中変位観測装置と同様の構成を有しており、さらに、傾斜計は、固定角度を可変とされた状態でケース内部に固定されている、という特徴を有するものである。
【0010】
〔請求項3に係る地中変位観測装置の作用効果〕
本請求項に係る地中変位観測装置は、請求項2に係る地中変位観測装置と同様の構成を有しているため、請求項2に係る地中変位観測装置と同様の作用を奏し、さらに、傾斜計が固定角度を可変とされた状態でケース内部に固定されているため、ボーリング孔が水平でなくとも傾斜計の固定角度を変えることによって、傾斜計での測定を行うことができるようになる。
【0011】
〔請求項4に係る地中変位観測装置〕
本請求項に係る地中変位観測装置は、請求項2または請求項3に係る地中変位観測装置と同様の構成を有しており、さらに、ケースをボーリング孔内に固定する固定部材を備えており、変位ロッドの一端がケースに固定されている、という特徴を有するものである。
【0012】
〔請求項4に係る地中変位観測装置の作用効果〕
本請求項に係る地中変位観測装置は、請求項2または請求項3に係る地中変位観測装置と同様の構成を有しているため、請求項2または請求項3に係る地中変位観測装置と同様の作用を奏し、さらに、ケースをボーリング孔内に固定する固定部材を備えており、変位ロッドの一端がケースに固定されているため、変位ロッドをボーリング孔内に容易に固定することができる。
【0013】
〔請求項5に係る地中変位観測方法〕
本請求項に係る地中変位観測方法は、
トンネル内からこのトンネルの周辺に存在する傾斜地に向かって延在するボーリング孔を地山に形成し、ボーリング孔内に生じる変位を測定することによって、地山の変動を検出する、ことを特徴とするものである。
【0014】
〔請求項5に係る地中変位観測方法の作用効果〕
本請求項に係る地中変位観測方法によれば、トンネル内からこのトンネルの周辺に存在する傾斜地に向かって延在するボーリング孔を地山に形成し、ボーリング孔内に生じる変位を測定することによって、地山の変動を検出するようになっているため、地中変位を行うための観測装置が設置困難である傾斜地であっても観測可能であり、また設置場所確保のため樹木の伐採や整地を必要としない。
【0015】
〔請求項6に係る地中変位観測方法〕
本請求項に係る地中変位観測方法は、請求項5に係る地中変位観測装置と同様の構成を有しており、さらに、請求項1〜請求項4に記載された地中変位観測装置を用いてボーリング孔内に生じる変位を測定する、という特徴を有するものである。
【0016】
〔請求項6に係る地中変位観測方法の作用効果〕
本請求項に係る地中変位観測方法は、請求項5に係る地中変位観測方法と同様の構成を有しているため、請求項5に係る地中変位観測方法と同様の作用を奏し、さらに、本請求項に係る地中変位観測方法によれば、請求項1〜請求項4に係る地中変位観測装置を用いているため、請求項1〜請求項4に係る地中変位装置が奏する作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上に示したように、本発明によれば、傾斜地の状態に関わらず設置可能であり、また設置場所確保のため樹木の伐採や整地を必要としない地中変位観測装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る地中変位観測装置の第1実施形態と、その使用方法とを説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る地中変位観測装置1は、基端側3から先端側5に向かって直列的に設置されている6つの計測ユニット10を備えており、図3に示すように、これらの計測ユニット10内にはそれぞれ傾斜計20が内蔵されている。6つの計測ユニット10は、それぞれ相互に離間するように配置されており、計測ユニット10相互の配置間隔は、図1に示すように、地中変位観測装置1の基端側3から先端側5に向かうに従って狭くなっている。
【0019】
6つの傾斜計20は、固定角度が可変タイプのものであり、変換方式が非接触ポテンショメータ、測定範囲が−20度〜+20度、定格出力が−1500mv〜+1500mv、分解能(変位換算)が0.24mm/m、非直線性が±1%RO以内、許容温度範囲が0℃〜+40℃、質量が0.1kg〜0.3kg、周囲との絶縁抵抗がDC50Vの環境下で100MΩ以上、であるものを用いる。
【0020】
図3に示すように、6つの傾斜計20は、それぞれ6つの4心ケーブル22の一端に接続されている。この一方、図4に示すように、これらの4心ケーブル22の他端は、基端側3に配置された金属製の筒である測定ヘッド30(図1に示される)の外部を通って基端側3に引き出され、傾斜計20による測定結果を記録する端末装置60に接続されている。また、6つの4心ケーブル22は、それぞれビニールによる被覆が成されて防水機能を奏するものであり、直径が3mm〜5mm、1心あたりの断面積が0.2mm2〜0.4mm2、であるものを用いる。
【0021】
この一方、図3に示すように、6つの傾斜計20は、それぞれ金属製のベース24に取り付けられている。これらのベース24は、凹部24aを有する角形を成しており、この凹部24aの内部には、軸心周りに回転自在な六角ボルト25がベース24を貫通するようにして取り付けられている。これらのボルトは、軸部25aの両端に六角形の頭部25bが設けられているタイプのものであり、一端側の頭部25bは、凹部24aの内部に位置するようにしてベース24に対して固定されている。
【0022】
また、図2及び図3に示すように、6つの傾斜計20は、それぞれ円筒状のケース15内に収められている。これら6つのケース15は金属製であり、その壁面には六角ボルト25が貫通するようにして取り付けられている。なお、このことにより、これらの六角ボルト25の他端側の頭部25bは、ケース15の外壁側に位置している。
傾斜計20、ケース15、ベース24、及び六角ボルト25が以上のような構成であることによって、六角ボルト25を軸心周りに回転させることによって、ベース24及び傾斜計20がケース15内部で回転するように動作することができるようになっている。
【0023】
図2及び図3に示すように、ケース15の外壁面には、ケース15をボーリング孔内に固定する為の固定部材である水圧式アンカー17が、それぞれ取り付けられている。これら6つの水圧式アンカー17は、断面がC字状である金属から構成されており、内部が中空の平板を湾曲させることで形成される。これらの水圧式アンカー17は、ケース15に対して巻き付けられるように取り付けられており、水圧式アンカー17の中央部分には、地中変位観測装置1の延在方向と平行に配置されたナイロン製の送圧チューブ18の一端がそれぞれ接続されている。これら6本の送圧チューブ18の他端には、送圧チューブ18内に水を送り込み可能とされた送圧器(図示しない)が接続されている。
なお、水圧式アンカー17の寸法は、図3に示される断面の直径Rが70mm〜80mm程度となっており、送圧チューブ18の外径は3.8mm〜4.2mm、内径は2.3mm〜2.7mm程度となっている。
【0024】
また、図2及び図3に示すように、6つの送圧チューブ18には、それぞれ水圧式アンカー逆止弁19が取り付けられており、これらの水圧式アンカー逆止弁19によって、送圧チューブ18から軸部17bに送られてくる水が逆流しないようになっている。
【0025】
上記のように構成されていることによって、図5(a)及び図5(b)に示すように、6つの水圧式アンカー17は、送圧器を稼働させ送圧チューブ18を通じて水を送り込まれることによって、一対の水圧式アンカー17が中央部分を軸として開閉するようになっている。そして、水圧式アンカー17がこのように動作することで、水圧式アンカー17はボーリング孔92内に押しつけられ、このことによって計測ユニット10はボーリング孔92内に固定されるようになっている。この場合、水圧式アンカー17のボーリング孔92内に対する定着力が、最大で3.0MPa程度となるように、水圧式アンカー17を構成することが好ましい。
【0026】
さらに、図1〜図3に示すように、地中変位観測装置1は、変位ロッドである6本のFRPロッド40と、地中変位観測装置1の基端側3に設置された6つの変位計50とを備えている。
6本のFRPロッド40は、棒状の繊維強化プラスチックから形成されたロッド部に、ナイロン製のチューブを被覆したものであり、それぞれの先端は、ケース15内部に固定金具41によって固定されている。この一方、6本のFRPロッド40の他端は、変位計50にそれぞれ固定されており、この変位計50は測定ヘッド30内に固定されている。これらの変位計50は、図4に示すように、変位計50の測定結果を記録する端末装置60に接続されている。
なお、ロッド部の断面の直径は6mm〜8mm、チューブの断面の外径は10mm〜12mm程度とされている。
【0027】
6つの変位計50は、いわゆる可変抵抗器の構造を成すポテンショメータであり、接続されたFRPロッド40が、ボーリング孔内の変位と共に軸心方向に動作することによって、ボーリング孔内の変位を測定するものである。なお、変位計50は、リニア型のポテンショメータから構成することが好ましい。
【0028】
図4に示すように、傾斜計20及び変位計50が接続された端末装置60は、無線又は有線にて、トンネル90坑外に設置された外部端末装置62に計測結果を転送可能であると共に、計測結果が予め設定された条件に達するとトンネル90坑内に設置された警報器(図示しない)を作動させるようになっている。
また、図4に示すように、トンネル90坑外に設置された外部端末装置62は公衆のネットワーク回線66に接続されており、端末装置60から転送された計測結果が予め設定された条件に達すると、公衆のネットワーク回線66を通じて携帯端末68などに警告情報を送信するようになっている。
【0029】
次に、地中変位観測装置を用いた地中変位観測方法について説明する。なお、図4中の符号90aで表される矢印は、トンネル90の掘削方向を示している。また、図4中の点線は、トンネル90の未掘削部分を示している。
図4に示すように、本地中変位観測方法においては、6つの4心ケーブル22が通されており、且つ変位計50が内部に固定されている測定ヘッド30は、モルタルなどによってボーリング孔92の入口に固定されている。
【0030】
図4に示すように、掘削中のトンネル90坑内から、測定を所望する傾斜地95に向かって孔径が86mm程度のボーリング孔92を削孔する。次に、ボーリング孔92内に事前調査用の傾斜計を挿入し、ボーリング孔92内の傾きを調査する。そして、ボーリング孔92内をリアルタイムで撮影可能とされたボアホールカメラをボーリング孔92内に挿入すると共に、地滑りの発生が予測される地滑り境界面94(堆積層理面)の位置を確認しつつ、地中変位観測装置1を、その先端が孔尻に向かうように、且つ地中変位観測装置1が地滑り境界面94を跨ぐようにボーリング孔92に挿入する。なお、ボーリング孔92は、地滑りの発生が予測される地滑り境界面94に対して略垂直に形成することが好ましい。
【0031】
次に、図5(a)及び図5(b)に示すように、送圧器(図示しない)を稼働させ送圧チューブ18を通じて軸部に対して水を送り込み、水圧式アンカー17をボーリング孔92内に押しつけ、地中変位観測装置1をボーリング孔内に固定する。そして、掘削作業を再開した後に生じるトンネル坑内90の変位を計測するため、以上の作業を完了させた後であって且つトンネル90の掘削を再開する前に、トンネル90坑内の測量を行う。
【0032】
次に、傾斜計20及び変位計50の初期状態を測定し、端末装置60に記録する。そして、トンネル90の掘削を再開し、ボーリング孔92内の変位の計測を傾斜計20及び変位計50によって行うと共に、計測結果を端末装置60に連続的に記録する。また、この記録作業と同時に、端末装置60から外部端末装置62に対してリアルタイムに記録結果を転送する。なお、この時の計測は、傾斜計20及び変位計50の両方を同時に用いる。そして、初期値と照らし合わせたボーリング孔92内の変位が、一定の値を超えた場合は、警報器を作動させる。
【0033】
次に、第1の実施の形態に係る地中変位観測装置1及びそれを利用した地中変位観測方法の作用効果を説明する。
本実施の形態に係る地中変位観測装置1及び地中観測方法によれば、傾斜地95に地滑りを観測する装置を設置しなくてもよくなるため、従来の地中変位観測装置が設置困難である傾斜地95において、地中の変位を容易に観測することができるようになる。また、傾斜地95に直截地滑りを観測する装置を設置しなくてもよいため、設置場所確保のための傾斜地95の樹木の伐採や整地を必要せず、その結果、設置コストを削減することができる。
【0034】
また、傾斜計20及びFRPロッド40が接続された変位計50の両方によって地中の変位を観測するため、万が一どちらか一方に不具合が生じても、地中の変位を継続して監視し続けることができる。
【0035】
次に、本実施の形態に係る地中変位観測装置1及びこれを用いた地中変位観測方法の作用効果を説明する。
本実施の形態に係る地中変位観測装置1は、FRPロッド40及び変位計50を備えることによって、地中変位観測装置1をトンネル90内からこのトンネル90の周辺に存在する傾斜地95に向かって延在するボーリング孔92内に挿入することで、ボーリング孔92周辺の地山の変動を観測することができる。つまり、本実施の形態に係る地中変位観測装置1は、トンネル90坑内に設置できるため、傾斜地92状態に関わらず設置可能であり、また、従来の地中変位観測装置のように設置場所確保のため樹木の伐採や整地を必要としない。
【0036】
地中変位観測装置1は、FRPロッド40及び変位計50に加えて、計測ユニット10内に搭載された傾斜計20を備えている。そうすると、地滑りでボーリング孔92内の変位が予想外に大きいことによって、FRPロッド40が折れ曲がるなどしてFRPロッド40の測定可能範囲を超越したとしても、傾斜計20によってボーリング孔92内の変位を測定し続けることができる。
【0037】
傾斜計20が、相互に離間して配置された複数のケース15内に固定されているため、ボーリング孔92内の変位に伴うケース15の変形によって引き起こされる傾斜計20の測定誤差を少なくすることが可能となる。
また、ケース15をボーリング孔92内に固定する固定部材である水圧式アンカー17を備えており、FRPロッド40の一端がケース15内に固定されているため、FRPロッド40をボーリング孔92内に容易に固定することができる。
【0038】
次に、本発明に係る地中変位観測装置及びそれを用いた地中変位観測方法の他の実施の形態を説明する。
計測ユニット10の数は、6つに限定されるわけではなく、所望する計測精度によって適宜変更することができる。例えば、地滑り境界面92が複数確認されるような傾斜地95を対象とするのであれば、計測ユニット10の数を増やすことが望ましい。
【0039】
計測ユニット10の相互間隔は、必ずしも地中変位観測装置1の基端側3から先端側5に向かうに従って狭くなっていなければならないわけではない。計測ユニット10の相互間隔は、変位が生じやすい地滑り境界面92近傍においては狭く、それ以外の位置においては広くすることが望ましい。また、本発明に係る地中変位観測装置は、同一傾斜地95に対して、複数設置することも提案される。複数設置する際に、特別な工程は必要なく、ボーリング孔92を追加して形成すれば良い。
【0040】
水圧式アンカー17を一つのケース15に対して複数取り付けることも提案され、この場合、ケース15の軸心方向に沿って並べて配置される。水圧式アンカー17が、一つのケース15に対して複数取り付けられていると、ボーリング孔92内に固定する際、ボーリング孔92の内部が歪な形状であっても、安定して計測ユニット10を固定することができる。
【0041】
〔他の参考形態〕
次に、本発明に係る地中変位観測装置の他の参考形態を、図6を参照しつつ説明する。
図6に示される地中変位観測装置101は、基端側103から先端側105に向かって直線的に延在する計測部140と、計測部140の基端側103に設置された測定ヘッド130と、計測部140の先端側105に設置されたケース115及びケース115に取り付けられた水圧式アンカー117と、を備えている。
【0042】
測定ヘッド130は、金属製の筒から構成されており、計測部140の基端側103の端部が挿入されている。この測定ヘッド130の内部には、後述する光ファイバーの受光器及び発光器が内蔵されており、受光器及び発光器は、地中変位観測装置の第1実施形態と同様に、トンネル内部に設置された端末装置(図示しない)に接続されるようになっている。
【0043】
ケース115は測定ヘッド130と同様に金属製の筒から構成されており、計測部140の先端側105の端部が挿入されている。このケース115は、地中変位観測装置の第1実施形態と同様に、断面がC字状である水圧式アンカー117が取り付けられている。
この水圧式アンカー117には、地中変位観測装置の第1実施形態と同様に、水圧式アンカー逆止弁119を備える送圧チューブ118の一端が接続されており、この送圧チューブ118の他端は、図示しない送圧器に接続されている。
【0044】
計測部140は、光ファイバーと、ボーリング孔への挿入時に地中変位観測装置101を誘導するための銅線と、セメントミルクをボーリング孔内へ注入する注入管と、ボーリング孔内のエアをトンネル側へ排出するためのエア抜き管と、から構成されており、これらは全て直線的に延在している。
【0045】
光ファイバーは、先端側105でU字状にターンしており、その両端は基端側103に位置してそれぞれ受光器及び発光器に接続されている。発光器は、端末装置の制御によって光ファイバー内部に光を送り込む。送り込まれた光は、光ファイバーを伝って受光器によって受光される。この受光器によって受光された光によって端末装置は、光ファイバーの曲げ損失を計測するようになっている。
【0046】
銅線は、両端がそれぞれ測定ヘッド130及びケース115に対して固定されており、本参考形態に係る地中変位観測装置101を支持可能な剛性を有している。この銅線が備えられていることにより、本参考形態に係る地中変位観測装置101を、ボーリング孔内に挿入する際に、計測部140が曲がって損失してしまうことを防止することができる。
【0047】
注入管は、壁面に複数のセメントミルクを排出する孔を備えるものであり、金属製の管から構成されている。この注入管の基端側103の一端には、セメントミルクを送り込むセメントミルク供給装置(図示しない)が接続されており、このセメントミルク供給装置を稼働させると、セメントミルクが注入管の孔から排出されるようになっている。
エア抜き管は、両端が開口している円筒状を成しており、一端がケース115内に固定されており、他端が、測定ヘッド130内に固定されている。
【0048】
次に、本参考形態に係る地中変位観測装置101の使用方法を説明する。
まず、本参考形態に係る地中変位観測装置101を、上述した第一実施形態に係る地中変位観測装置1と同様に、先端側105を奥側にしてボーリング孔に挿入する。次に、送圧器を稼働させ、送圧チューブ118を介して水圧式アンカー117に水を送り込むことによって、水圧式アンカー117の径を拡大させ、ボーリング孔内に地中変位観測装置101を固定する。続いて、セメントミルク供給装置を可動させ、注入管を介してボーリング孔内にセメントミルクを注入し、セメントミルクによって計測部140をボーリング孔内に固定する。次に、発光器及び受光器を動作させて、端末装置に光ファイバーの曲げ損失の初期状態を記録し、この後、トンネルの掘削に伴って発生すると予見されるボーリング孔内の変位を、光ファイバーの曲げ損失を計測することによって観測する。
【0049】
次に、本参考形態に係る地中変位観測装置101の作用効果を説明する。
本参考形態に係る地中変位観測装置101は、光ファイバーのみでボーリング孔内の変位を観測するようになっているため、部品点数が少なくて済む。また、光ファイバーの曲げ損失による観測は、設置角度によって左右されないため、本参考形態に係る地中変位観測装置101は、トンネル坑内から地滑り面に向かって斜めに掘削したボーリング孔であっても容易に設置することができる。また、第1実施形態に係る地中変位観測装置1と同様に、トンネル90坑内に設置できるため、トンネルが掘削される地山の傾斜地の状態に関わらず設置可能であり、また、従来の地中変位観測装置のように設置場所確保のため樹木の伐採や整地を必要としない。
【0050】
本参考形態に係る地中変位観測装置101では、ボーリング孔内の変位を観測する光ファイバーが、セメントミルクによって地山と一体となるため、より詳細にボーリング孔内の変位を観測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】地中変位観測装置の第1実施形態を示す図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】図1のA−A矢視を示す図である。
【図4】第1実施形態の地中変位観測装置の使用状態を示す図である。
【図5】(a)及び(b)は、図1のA−A矢視に対応する図であり、より詳細には、(a)は第1実施形態の地中変位観測装置をボーリング孔内に挿入した状態を示す図であり、(b)は水圧式アンカーを動作させた状態を示す図である。
【図6】地中変位観測装置の他の参考形態を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 地中変位観測装置
15 ケース
17 水圧式アンカー(固定部材)
20 傾斜計
40 FRPロッド(変位ロッド)
90 トンネル
92 ボーリング孔
95 傾斜地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内からこのトンネルの周辺に存在する傾斜地に向かって延在するボーリング孔内の変位を測定することによって、地山の変動を観測する地中変位観測装置であって、
棒状に延在し、自身の軸方向の変位を検出する変位ロッドと、
変位ロッドに沿って配置され、自身の傾きを検出する傾斜計と、を備えている、
ことを特徴とする地中変位観測装置。
【請求項2】
変位ロッドに沿い、且つ相互に離間して配置された複数のケースを備えており、傾斜計はそれぞれケース内に固定されている、請求項1に記載の地中変位観測装置。
【請求項3】
傾斜計は、固定角度を可変とされた状態でケース内部に固定されている、請求項2に記載の地中変位観測装置。
【請求項4】
ケースをボーリング孔内に固定する固定部材を備えており、変位ロッドの一端がケースに固定されている、請求項2又は請求項3に記載の地中変位観測装置。
【請求項5】
トンネル内からこのトンネルの周辺に存在する傾斜地に向かって延在するボーリング孔を地山に形成し、
ボーリング孔内に生じる変位を測定することによって、地山の変動を検出する、
ことを特徴とする地中変位観測方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項4に記載された地中変位観測装置を用いてボーリング孔内に生じる変位を測定する、請求項5に記載の地中変位観測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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