説明

地中探査方法および地中探査装置

【課題】交流電気試験方法を用いた地中探査方法において、探査対象物質が存在する領域の直上に障害物が存在している場合に地中探査を行うことができない。
【解決手段】本発明の地中探査方法においては、2つの電圧印加電極を選択し、選択した2つの電圧印加電極に沿った通流方向に電流を通流させた状態での大地表面電位の電位差測定を行う。そうすると、大地表面の電位差がピークとなるピーク位置が探査対象物質が存在する領域の直上から通流方向に沿った位置に出現する。続いて、別の組合せで2つの電圧印加電極を選択し、別の通流方向に電流を通流させた状態で大地表面電位の電位差測定を行う。このように、電流の通流方向を変更するとピーク位置も回転するため、その回転中心を探査対象物質の位置として求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電気試験方法を用いて地中探査を行う地中探査方法および地中探査装置に関する。さらに詳細に言えば、探査対象物質の誘電率の周波数特性に基づいて互いに異なる第1および第2の周波数を選択し、探査領域となる大地の異なる2点を介して第1の周波数の交流電流を大地に通流させたときの大地表面電位と第2の周波数の交流電流を大地に通流させたときの大地表面電位との電位差をさらに別の2点で測定することによって、地中に埋設したあるいは地中に含有している探査対象物質を選択的に探査する地中探査方法および地中探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中探査方法として、探査領域である大地に交流電流を通流させる交流電気試験方法を用いて地中探査を行う方法が知られている。交流電気試験方法を用いた地中探査方法としては、特許文献1〜6が存在する。
【0003】
土壌構成物質や土壌に含有される化学物質は、界面分極、双極子分極等の物性に起因して、誘電率が周波数に依存するという特性を有している。そのため、最近は、交流電気試験方法として、探査対象物質の誘電率の周波数特性に着目した方法が検討されている。
【0004】
以下、探査対象物質の誘電率の周波数特性に着目した従来の地中探査方法について説明する。
【0005】
図7に示すように、土壌構成物質や土壌に含有される化学物質は様々な誘電率特性を有している。しかしながら、誘電率が5から40程度である土壌中に、誘電率数が1000以上であるチタン酸バリウムが含有されていても、その含有量がごく少量であれば、チタン酸バリウムの含有の有無によって土壌に大きなインピーダンスの変化が起こることはなく、ほぼ同一のインピーダンスとなる。すなわち、従来の交流電気試験方法を用いた地中探査方法では微量な埋蔵物質の探査を行うことはできないのである。
【0006】
ところで、誘電率は、物質内で発生する分極現象に起因した物理パラメータであり、図8に示すように、界面分極、双極子分極、イオン分極、電子分極等の各分極要因に対応した周波数で大きく変化する周波数特性を有している。これら分極要因のうち界面分極と双極子分極は、低い周波数領域において発生する現象である。
【0007】
図9(a)に示すように、界面分極とは、土壌に印加された電界によって、土壌に含有されている荷電粒子が移動することで引き起こされる現象である。従って、荷電粒子の質量、荷電量、土壌の質や媒質の粘性等によって分極速度が大きく影響を受ける。即ち、荷電粒子が重ければ重い程、分極追従限界周波数は低くなる。反対に、荷電粒子が軽ければ軽いほど分極追従限界周波数は高くなる。また、荷電粒子の荷電量が小さければ小さい程、クーロン力の影響を受け難くなるので、分極追従限界周波数は低くなる。反対に、荷電粒子の荷電量が大きければ大きい程、クーロン力の影響を受け易くなるので、分極追従限界周波数は高くなる。また、土壌が多孔性物質である場合や、土壌に含有されている荷電粒子が微細な粒子である場合には、界面流動性が極めて低いために分極追従限界周波数は低くなる。反対に、土壌に含有されている荷電粒子が大きな粒子である場合や、土壌に含有されている荷電粒子の界面における流動性が高い場合には、分極追従限界周波数は高くなる。このように、界面分極に対応した分極追従限界周波数は、土壌と荷電粒子に関する情報を含んでいる。
【0008】
図9(b)に示すように、双極子分極とは、土壌に含有される物質を構成する分子自身が分子構造上の理由で分極する現象であり、詳細には、外部からの電界によって分子が回転することによって向きを変える、即ち配向が変わることによって物質が分極する現象である。従って、分子の大きさ、モーメント、形状等によって分極速度が大きく影響を受ける。即ち、分子が大きければ大きい程、分極追従限界周波数は低くなり、反対に、分子が小さければ小さい程、分極追従限界周波数は高くなる。言い換えれば、外部電界によって分子配向が揃い難い程、分極追従限界周波数は低くなり、反対に、外部電界によって分子配向が揃い易い程、分極追従限界周波数は高くなる。このように、双極子分極に対応した分極追従限界周波数は、土壌に含有される物質の分子に関する情報を含んでいる。
【0009】
上述のように、界面分極および双極子分極に対応する分極追従限界周波数は、土壌の質や、土壌に含有される物質およびその物質の分子の物性に依存して決まる物理パラメータである。特に、双極子分極に対応する分極追従限界周波数は、土壌に含有される物質固有の物理パラメータである。それ故、界面分極あるいは双極子分極に対応する分極追従限界周波数を挟んだ2つの周波数、即ち分極追従限界周波数よりも低い周波数と高い周波数の2つの周波数を選択することにより探査対象物質を選択的に探査することが可能になるのである。
【0010】
図10(a)に示すように、探査領域となる大地の異なる2点に電流印加電極を設け、2点の電極を介して大地に交流電流を通流させる場合に、探査対象物質固有の分極追従限界周波数を挟んだ第1の周波数f1および第2の周波数f2(f1<f2)の交流電流をそれぞれ通流させる2つのケースを比較する。図10(a)において、土壌の導電率をσ1、誘電率をε1とし、また、探査対象物質が含有されている領域(図中斜線で示された領域。以下「斜線領域」と呼ぶ)の導電率をσ2、誘電率をε2とする。一般に導電率は周波数によって殆ど変化しないため、斜線領域においては、周波数f1と周波数f2とでは、導電率σ2は変化せず、誘電率ε2だけが変化すると考えられる。図10(a)の等価回路は図10(b)のように置き換えることができる。図10(b)において、土壌の抵抗値をR1、コンデンサをC1とし、斜線領域の抵抗値をR2、コンデンサをC2とする。周波数f1においては斜線領域の誘電率ε2が高いために、斜線領域に交流電流が流れ易くなる。一方、周波数f2においては誘電率ε2が低下するために、斜線領域に交流電流が流れ難くなる。その結果、斜線領域内を流れる電流密度は、図10(c)に示すように周波数f1では高くなり、図10(d)に示すように周波数f2では低くなる。
【0011】
図11(a)に、交流電流が周波数f1である場合の大地表面の等電位線図を示し、図11(b)に、交流電流が周波数f2である場合の大地表面の等電位線図を示す。図11(a)に示すように、周波数f1においては斜線領域内に電流は流れ易く、斜線領域の端部間に電位差は生じ難いのに対して、図11(b)に示すように、周波数f2においては周波数f1と比較して斜線領域内に電流は流れ難くなり、結果として斜線領域の端部間の電位差は大きくなる。
【0012】
図11(c)は、交流電流が周波数f1,f2であるときに図11(a)、(b)に示される大地表面の電位分布をそれぞれ計測しておき、両者の差分に基づき2次元補間処理を施して得られた電位差マップを示すものである。この電位差マップは、印加周波数の違いによって変動した電流密度の変動分に起因して発生する大地表面電位分布と等価である。従って、探査対象物質を含有した斜線領域が探査領域に局在している場合には、その斜線領域内に双極子電流源が存在している場合に発生するのと同じ大地表面電位分布が得られることになる。つまり、この場合の大地表面電位分布は1つの山と1つの谷を有するダイポール性の強いダイポールパターンとなる。
【0013】
図11(d)は、図11(c)に示される電位差マップの作成時に得られた2次元補間値に対して、電流印加電極の配置面を平面とみなして互いに直交する平面上の2軸xとyに対してそれぞれ軸方向の微分処理を行い、x方向微分値とy方向微分値を電界ベクトルの要素とみなした電界ベクトルマップを示すものである。電界ベクトルの絶対値の大きさに基づいてグラフ化や濃淡処理を行うと、印加周波数の違いによって電流密度が大きく変化した斜線領域の直上部位が最も大きな絶対値や濃い濃度を示すことになるのである。
【0014】
このように、探査対象物質の誘電率の周波数特性に着目した従来の地中探査方法では、探査対象物質固有の分極追従限界周波数を挟んだ2つの周波数を選択し、印加周波数ごとに電気探査を行って大地表面電位分布を計測しておき、その差分をとることによって選択的に物質の地中探査が行われている。
【0015】
図12に、上述した従来の地中探査方法を実行するための地中探査装置の一構成例を示す。なお、この地中探査装置は、揮発性有機溶媒(VOC)で汚染された汚染領域を探査することが可能である。
【0016】
図12に示す地中探査装置は、発振器21、電圧電流変換器22、電流印加電極23a,23b、測定部24、保持部25、演算部26、電圧測定電極27a〜27e、電極切換部28、表示処理部29、および表示部30からなる。
【0017】
発振器21は、2以上の基本発振周波数を選択可能であり、選択した1の周波数の周波数信号の電圧波形を発生し、電圧電流変換器22は、発振器21で発生した電圧波形を交流電流に変換する。
【0018】
電流印加電極23a,23bは、大地の2点に設けられ、電圧電流変換器22から供給された交流電流を大地に通流させる電極であり、電圧測定電極27a〜27eは、電流印加電極23a,23bとは異なる位置に設けられた電極である。
【0019】
電極切換部28は、電圧測定電極27a〜27eの中から2つの電圧測定電極を任意に選択して、選択した電極間の電圧を測定部24に供給する。
【0020】
測定部24は、電極切換部28から供給された電圧を増幅器で増幅し、乗算器で印加周波数と乗算し、低域ろ過器を通過させる。
【0021】
保持部25は、大地表面の表面電位に相当する測定部24の出力データをAD変換して、印加周波数ごとに保持する。
【0022】
演算部26は、保持部25で保持された印加周波数ごとの大地表面の表面電位に基づいて、印加周波数を変更したことによって生じた表面電位分布の差分を演算する。
【0023】
表示処理部29は、演算部26で演算されたデータを表示部30に表示するための表示処理を行う。
【0024】
このように、図12に示す地中探査装置は、同一時刻には単一周波数での探査しか行えない構造になっている。すなわち、保持部25に印加周波数ごとの表面電位の測定結果を保持しておき、演算部26において表面電位分布の差分を演算しているのである。
【特許文献1】特開平07−012766号公報
【特許文献2】特開平09−127253号公報
【特許文献3】特開平10−293181号公報
【特許文献4】特開2000−028743号公報
【特許文献5】特開2001−074850号公報
【特許文献6】特開2002−156460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上述のような従来の地中探査方法においては、探査対象物質の存在する領域の直上に建物等の障害物が存在する場合には表面電位の計測が物理的に行えない場合がある。このような場合には、障害物が存在する部分の電界ベクトルマップを作成することができないため、探査対象物質の地中探査を行うことができないという課題がある。
【0026】
そこで本発明の目的は、探査対象物質の存在する領域の直上に障害物がある場合においても、探査対象物質を探査することができる地中探査方法および地中探査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために本発明は、大地を探査領域として探査対象物質を探査する地中探査方法において、前記探査対象物質の誘電率の周波数特性に基づいて互いに異なる第1および第2の周波数を選択する第1のステップと、大地表面において予め決められた条件を満たす2点を電流印加位置として選択する第2のステップと、前記第2のステップで選択された2点の電流印加位置間に前記第1の周波数の周波数信号と前記第2の周波数信号とを加算した信号を印加する第3のステップと、大地表面において予め決められた条件を満たしかつ前記電流印加位置以外の2点を電圧測定位置として選択する第4のステップと、前記第4のステップで選択された前記2点の電圧測定位置間の電圧を増幅した信号に、前記第1の周波数の周波数信号から前記第2の周波数の周波数信号を減算した信号を乗算することで交流電圧信号を得る第5のステップと、予め決められた条件を満たす前記2点の電圧測定位置の全組合せについて前記交流電圧信号が得られるまで、前記第4および第5のステップを繰り返させる第6のステップと、予め決められた条件を満たす前記2点の電流印加位置の全組合せについて前記交流電圧信号が得られるまで、前記第2〜第5のステップを繰り返させる第7のステップと、前記2点の電流印加位置の組合せごとに、前記第4のステップで得られた交流電圧信号に基づいて、前記第1および第2の周波数の周波数信号をそれぞれ単独で印加した時の大地表面電位の差分に相当する2次元分布を作成する第8のステップと、前記2点の電流印加位置の組合せごとに、前記第8のステップで作成された2次元分布において、該2次元分布上の任意点を基準値とした時に電位差が正方向および負方向にそれぞれピークとなる2つのピーク位置を検出する第9のステップと、前記2点の電流印加位置の組合せに応じて大地中の交流電流の通流方向が変化することに伴って回転移動する前記2つのピーク位置の回転中心を、前記探査対象物質の位置として求める第10のステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
上記のように構成された本発明によれば、2つの電圧印加位置を選択し、選択した2つの電圧印加位置に沿って電流を通流させた状態での大地表面電位の電位差測定を行う。そうすると、大地表面の電位差がピークとなるピーク位置が、探査対象物質が存在する領域の直上から通流方向に沿った位置に出現するため、ピークの位置情報に基づいて、探査対象物質の位置および深度を特定することができる。それにより、障害物の直下に探査対象物質が存在している場合でも地中探査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、以下で参照する図面において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は繰り返さないこととする。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態による地中探査方法の手順を説明するフローチャートである。
【0031】
まず、探査対象物質の誘電率の周波数特性に基づいて、互いに異なる第1の周波数f1および第2の周波数f2(f1<f2)を選択する(ステップ1)。第1の周波数f1および第2の周波数f2は、探査対象物質の双極子分極に対応する分極追従限界周波数を挟んだ値、即ち一方の周波数が分極追従限界周波数よりも低く、他方の周波数が分極追従限界周波数よりも高くなるような値とし、かつ他の探査対象物質を探査する場合の第1および第2の周波数を挟まないような値とする。
【0032】
次に、探査領域である大地表面上において、予め決められた条件を満たす2点を電流印加位置として選択する(ステップ2)。ここでの条件としては、例えば、探査対象物質の存在する領域から電流印加位置をできる限り離すために、2点の電流印加位置の各々が探査領域の辺縁部に配置されている条件が挙げられる。この場合、探査領域の辺縁部に等間隔に予め2つ以上の電流印加位置を選定し、その中から2つの電流印加位置を選択するのが好ましい。また、これ以外の条件としては、2点の電流印加位置が探査領域中心を挟み込むように配置されている条件が挙げられる。
【0033】
次に、ステップ1で選択した第1の周波数f1の正弦波と第2の周波数f2の正弦波とを加算した交流電圧信号sin2πf1t+sin2πf2tを、ステップ2で選択した2つの電流印加位置にそれぞれ配置された2つの電流印加電極間に印加する(ステップ3)。なお、精密な計測を行うためには、各周波数の電流振幅が等しくなるように交流電圧信号の電圧振幅を制御して、交流電圧信号を印加することが好ましい。この処理は周波数毎に定電流駆動することと等価な処理である。本実施形態では、各周波数の正弦波を周波数信号として用いるが、本発明は正弦波に限定されず、別の波形を用いても良い。
【0034】
次に、探査領域である大地表面上において、ステップ2で選択した2つの電流印加位置とは異なり、かつ予め決められた条件を満たす条件を満たす2点を電圧測定位置として選択する(ステップ4)。ここでの条件としては、例えば、大地表面電位を計測可能な領域(即ち、障害物が存在していて大地表面電位を計測することが不可能な場所を除く領域)において、予め選定された電圧測定位置の中から2つの電圧測定位置が選択される条件が挙げられる。この場合、大地表面電位を計測可能な領域において可能な限り網状に均等な密度で予め2点以上の電圧測定位置を選定し、その中から2つの電圧測定位置を選択するのが好ましい。そうすることにより、後述のように、電位差のピーク値となる山と谷の位置を正確に検出することができるようになる。また、これ以外の条件としては、2つの電圧測定位置間の距離が予め決められている距離の範囲内にある条件が挙げられる。
【0035】
次に、ステップ4で選択された2点の電圧測定位置にそれぞれ配置されている2つの電圧測定電極間の電圧を測定し、さらに、測定した電圧を増幅した交流電圧信号と乗算用の交流電圧信号sin2πf1t−sin2πf2tとを乗算し、それにより得られた交流電圧信号を保持する(ステップ5)。ここで得られた交流電圧信号は、第1の周波数f1の正弦波を単独で印加したときの表面電位と、第2の周波数f2の正弦波を単独で印加したときの表面電位との差分である電位差に相当する。
【0036】
従来の地中探査方法のように、第1の周波数f1と第2の周波数f2とを個別に処理する場合、大地表面には微弱な電位変化しか現れず、その電位差をAD変換する時に桁落ちが発生するおそれがあるとともに、地中探査装置の回路上での誤算が発生するおそれがある。これに対して、本実施形態では、第1の周波数f1と第2の周波数f2とを同時に処理する同期検波処理を行うことにより、上述した桁落ちや地中探査装置の回路上の誤算といった問題を回避することができる。
【0037】
次に、予め決められた条件を満たす2点の電圧測定位置の全組合せについて、ステップ4,5の処理を実施したか否かを判定する(ステップ6)。全組合せについて実施している場合はステップ7に進むが、実施していない場合はステップ4,5の処理を繰り返す。即ち、予め決められた条件を満たす2点の電圧測定位置の全組合せについて、同期検波処理によるデータ収集が行えるまで処理を続行する。
【0038】
次に、予め決められた条件を満たす2点の電流印加位置の全組合せについて、ステップ2〜5の処理を実施したか否かを判定する(ステップ7)。全組合せについて実施している場合はステップ8に進むが、実施していない場合はステップ2〜5の処理を繰り返す。これは、ある通流方向での大地表面電位の電位差測定を終えたら、通流方向を変えて表面電位の電位差測定をやり直すことを意味する。なお、表面電位の電位差測定は、電流印加位置の少なくとも2以上の組合せで行うものとする。
【0039】
次に、2点の電流印加位置の組合せごとに、ステップ5で得られた交流電圧信号に基づき、第1の周波数f1の正弦波を単独で印加したときの表面電位と第2の周波数f2の正弦波を単独で印加したときの表面電位との差分に相当する図2に示すような2次元分布(大地表面の電位差分布)を作成する(ステップ8)。
【0040】
次に、2点の電流印加位置の組合せごとに、ステップ8で求めた2次元分布において、2次元分布上の任意点を基準値“0”とした時に、電位差が正方向にピークとなる山の位置と、負方向にピークとなる谷の位置とを検出する(ステップ9)。
【0041】
次に、2点の電流印加位置の組合せに応じて交流電流の通流方向が変化することに伴って回転移動する山と谷の出現位置の回転中心を、探査対象物質の位置(x方向とy方向)として求める(ステップ10)。
【0042】
その後、2次元分布上の山と谷との間の距離を示すピーク間隔に基づき探査対象物質の深度(z方向)を求める(ステップ11)。なお、上記のピーク間隔は、2点の電流印加位置の組合せに関わらず共通である。ピーク間隔と探査対象物質の存在する領域の深度には、図3に示すような関係がある。即ち、ピーク間隔が40m程度以下の範囲では、ピーク間隔が19mの時に探査対象物質の存在する領域の深度が12mであることから、ピーク間隔の1/2〜2/3が深度に相当することがわかる。
【0043】
ここで、本実施形態の地中探査方法により、障害物の直下にある探査対象物質をも探査が可能になる原理について図4および図5を用いて説明する。
【0044】
本実施形態の地中探査方法では、2つの周波数f1,f2の正弦波を同時に印加しながら、2つの周波数f1,f2の正弦波の差信号を用いた同期検波処理を行っている。このように、2つの周波数f1,f2の正弦波を同時に印加すると、印加周波数が変わったことにより探査対象物質の存在する領域のインピーダンスがわずかに変化し、探査対象物質の存在する領域とその周囲の領域とで電流密度が変化する。その電流密度の変化成分のみをプロットすると、図4に示すような電流分布が得られる。言い換えれば、上述の同期検波処理を行うことは、図4に示すような電流分布の変化に起因して発生する表面電位分布を測定するのと等価な値を計測することになる。
【0045】
即ち、探査対象物質の誘電率が第1の周波数f1よりも第2の周波数f2の方が低下すれば、探査対象物質が存在する領域内の電流密度は第2の周波数f2の方が第1の周波数f1に比べて低下することを意味する。探査対象物質が存在する領域内の電流密度が低下するということは、図4に示すように探査対象物質が存在している周囲の領域の電流密度がその分増加することを意味する。
【0046】
その結果、探査領域において、探査対象物質が存在する領域が局在する場合には、探査対象物質が存在する領域内に電流印加方向とほぼ等しい方向ベクトルの双極子電流源を置いた場合の電流分布が発生することになる。それ故、探査対象物質が存在する領域の直上の大地表面から離れた位置でかつ通流方向に沿った位置に、電位差が正方向にピークとなり交流電流の湧き出し点となる山と、電位差が負方向にピークとなり交流電流の吸い込み点となる谷とが生じることになる。
【0047】
このため、上述の同期検波処理を行うことにより、大地表面には山と谷の2つのピークを有する電位分布が発生したのと等価の、図2に示したような2次元分布(大地表面の電位差分布)を得ることができるのである。
【0048】
また、本実施形態の地中探査方法では、2点の電流印加位置の組合せで同期検波処理を繰り返し行っている。このように、2点の電流印加位置の組合せを変更すれば、図5に示すように、通流方向に依存して山と谷の出現位置も探査対象物質が存在する領域を中心として回転することになる。それ故、探査対象物質が存在する領域の直上に障害物がある場合でも、山と谷の検出に成功すれば、探査対象物質が存在する領域の位置や深度を求めることができるのである。
【0049】
図6に、上述した本実施形態の地中探査方法を実行するための地中探査装置の一構成例を示す。この地中探査装置は、図12と同様に、揮発性有機溶媒(VOC)で汚染された汚染領域を探査することが可能である。
【0050】
図6に示す地中探査装置は、発振器61a,61b、加算部62、電圧電流変換器63、電流供給選択部64、電流印加電極65a〜65f、電圧測定電極66a〜66e、電極切換部67、減算部68、測定部69、保持部70、演算部71、表示処理部72、および表示部73からなる。
【0051】
発振器61a,61bは、2以上の基本発振周波数を選択可能であり、一方が第1の周波数f1の正弦波の電圧波形を発生し、他方が第2の周波数f1の正弦波の電圧波形を発生する。
【0052】
加算部62は、第1の周波数f1の正弦波と第2の周波数f1の正弦波とを加算し、減算部68は、第1の周波数f1の正弦波から第2の周波数f1の正弦波を減算する。
【0053】
電圧電流変換器63は、加算部62で加算された交流電圧信号の電圧波形を交流電流に変換する。
【0054】
電流印加電極65a〜65fは、交流電流を大地に通流させるために設けられた電極である。
【0055】
電流供給選択部64は、電流印加電極65a〜65fの中から予め決められた条件を満たす2つの電圧測定電極を選択して、電圧電流変換器63から供給された交流電流を、選択した電極を介して大地に通流させる。
【0056】
電圧測定電極66a〜66eは、電流印加電極65a〜65fとは異なる位置に設けられた電極である。
【0057】
電極切換部67は、電圧測定電極66a〜66eの中から予め決められた条件を満たす2つの電圧測定電極を選択して、選択した電極間の電圧を測定部69に供給する。
【0058】
測定部69は、電極切換部67から供給された電圧を増幅器で増幅し、乗算器で減算部68の出力データと乗算し、低域ろ過器を通過させて交流電圧信号を得る。
【0059】
保持部25は、第1の周波数f1の正弦波を単独で印加したときの表面電位と第2の周波数f2の正弦波を単独で印加したときの表面電位との電位差に相当する測定部69の出力データをAD変換して保持する。
【0060】
演算部71は、予め決められた条件を満たす2つの電圧測定電極の全組合せについて、予め決められた条件を満たす2つの電圧測定電極の全組合せで測定部69の測定が終了した後、2つの電圧測定電極の組合せごとに、測定部69にて測定された交流電圧信号に基づいて、第1の周波数f1の正弦波を単独で印加したときの表面電位と第2の周波数f2の正弦波を単独で印加したときの表面電位との差分に相当する2次元分布(大地表面の電位差分布)を作成する。そして、2次元分布上の任意点を基準値“0”とした時に、電位差が正方向にピークとなる山の位置と、負方向にピークとなる谷の位置とを検出し、さらに、2点の電流印加位置の組合せに応じて交流電流の通流方向が変化することに伴って回転移動する山と谷の出現位置の回転中心を、探査対象物質の位置として求める。
【0061】
さらに、演算部71は、山の位置と谷の位置との間の距離を示すピーク間隔を求め、求めたピーク間隔に基づき探査対象物質の深度を求める。
【0062】
表示処理部72は、演算部71で演算されたデータを表示部30に表示するための表示処理を行う。
【0063】
なお、上記で開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、大地表面から交流電流を通流させて表面電位を計測する非侵襲的な地中探査方法であるため、地中に存在している可能性がある特定の汚染物質により低濃度で汚染された領域の存在を選択的に探査し、汚染物質を特定することや、その汚染物質の位置および深度を求めることが可能になる。即ち、調査に長時間を要する侵襲的な掘削調査を行わなくても済むので、短時間かつ低価格で堀削調査を行うことが可能になる。
【0065】
さらに、掘削調査方法の場合、調査可能なのは掘削した部分に限られるため、掘削部分は汚染されていなくても、未掘削部分が汚染されていない保障は無かった。即ち、掘削部の間の領域や掘削深度より深い領域が汚染されている可能性は残っており、汚染源を捜すことができない探査漏れが発生する場合が存在した。これに対して、本発明によれば、上述の探査漏れは発生し難い。直上に建物が建っており掘削のできない位置に探査対象物質が存在する領域があっても、本発明によればその領域を探査することが可能となる。
【0066】
また、本発明によれば、汚染領域の汚染源となる揮発性有機溶媒(VOC)、重金属、油脂等の物質の特定や、その汚染領域の位置および深度の特定に利用できるのみならず、資源探査や、水道導管からの漏水検出、地下構造物の探査、対人地雷の探査等の様々な分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態による地中探査方法を説明するフローチャートである。
【図2】探査対象物質が存在する領域付近の大地表面電位の電位差分布を示す2次元分布を説明する図である。
【図3】2次元分布において電位差が正方向および負方向に最大となる2つのピーク位置の間隔と、探査対象物質が存在する領域の深度との関係を説明する図である。
【図4】探査対象物質が存在する領域付近の電流分布を説明する図である。
【図5】電流印加位置を変更した時に2つのピーク位置が回転移動する現象を説明する図である。
【図6】本実施形態の地中探査方法を実行するための地中探査装置の一構成例を示す図である。
【図7】土壌物質や化学物質の比誘電率を示す図表である。
【図8】誘電率の周波数依存性とその要因について説明する図である。
【図9】界面分極と双極子分極の原理について説明する図である。
【図10】印加周波数による誘電率の変化に起因して大地の深部地質の部分的差異によって通流経路や電流密度が変わることを説明する図である。
【図11】印加周波数による誘電率の変化に起因して大地表面の電位分布が変化し、選択的に地中に含有する物質の探査が行えることを説明する図である。
【図12】従来の地中探査方法を実行するための地中探査装置の一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1〜11 ステップ
61a,61b 発振器
62 加算部
63 電圧電流変換器
64 電流供給選択部
65a〜65f 電流印加電極
66a〜66e 電圧測定電極
67 電極切換部
68 減算部
69 測定部
70 保持部
71 演算部
72 表示処理部
73 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大地を探査領域として探査対象物質を探査する地中探査方法において、
前記探査対象物質の誘電率の周波数特性に基づいて互いに異なる第1および第2の周波数を選択する第1のステップと、
大地表面において予め決められた条件を満たす2点を電流印加位置として選択する第2のステップと、
前記第2のステップで選択された2点の電流印加位置間に前記第1の周波数の周波数信号と前記第2の周波数信号とを加算した信号を印加する第3のステップと、
大地表面において予め決められた条件を満たしかつ前記電流印加位置以外の2点を電圧測定位置として選択する第4のステップと、
前記第4のステップで選択された前記2点の電圧測定位置間の電圧を増幅した信号に、前記第1の周波数の周波数信号から前記第2の周波数の周波数信号を減算した信号を乗算することで交流電圧信号を得る第5のステップと、
予め決められた条件を満たす前記2点の電圧測定位置の全組合せについて前記交流電圧信号が得られるまで、前記第4および第5のステップを繰り返させる第6のステップと、
予め決められた条件を満たす前記2点の電流印加位置の全組合せについて前記交流電圧信号が得られるまで、前記第2〜第5のステップを繰り返させる第7のステップと、
前記2点の電流印加位置の組合せごとに、前記第4のステップで得られた交流電圧信号に基づいて、前記第1および第2の周波数の周波数信号をそれぞれ単独で印加した時の大地表面電位の差分に相当する2次元分布を作成する第8のステップと、
前記2点の電流印加位置の組合せごとに、前記第8のステップで作成された2次元分布において、該2次元分布上の任意点を基準値とした時に電位差が正方向および負方向にそれぞれピークとなる2つのピーク位置を検出する第9のステップと、
前記2点の電流印加位置の組合せに応じて大地中の交流電流の通流方向が変化することに伴って回転移動する前記2つのピーク位置の回転中心を、前記探査対象物質の位置として求める第10のステップとを有する、地中探査方法。
【請求項2】
前記2次元分布上の前記2つのピーク位置の間の間隔に基づいて、前記探査対象物質の深度を求める第11のステップをさらに有する、請求項1に記載の地中探査方法。
【請求項3】
大地を探査領域として探査対象物質を探査する地中探査装置において、
互いに異なる第1および第2の周波数の周波数信号をそれぞれ発生する第1および第2の発振器と、
前記第1の周波数の周波数信号と前記第2の周波数信号とを加算した電圧信号を電流に変換する電圧電流変換器と、
大地に電流を通流させるために設けられた複数の電流印加電極と、
前記複数の電流印加電極の中から予め決められた条件を満たす2つの電流印加電極を選択し、選択した2つの電流印加電極を介して、前記電圧電流変換器が供給する電流を大地に通流させる電流供給選択部と、
前記複数の電流印加電極とは異なる位置に設けられた複数の電圧測定電極と、
前記複数の電圧測定電極の中から予め決められた条件を満たす2つの電圧測定電極を選択し、選択した2つの電圧測定電極間の電圧を出力する電極切換部と、
前記2つの電圧測定電極間の電圧を増幅した信号に、前記第1の周波数の周波数信号から前記第2の周波数の周波数信号を減算した信号を乗算することで交流電圧信号を得る測定部と、
予め決められた条件を満たす前記2つの電圧測定電極の全組合せについて、予め決められた条件を満たす前記2つの電流印加電極の全組合せで前記交流電圧信号が得られた後、前記2つの電流印加電極の組合せごとに、前記交流電圧信号に基づいて前記第1および第2の周波数の電流をそれぞれ単独で通流させた時の大地表面電位の差分に相当する2次元分布を作成し、該2次元分布上の任意点を基準値とした時に電位差が正方向および負方向にそれぞれピークとなる2つのピーク位置を検出し、前記2つの電流印加電極の組合せに応じて交流電流の通流方向が変化することに伴って回転移動する前記2つのピーク位置の回転中心を、前記探査対象物質の位置として求める演算部とを有する、地中探査装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記2次元分布上の前記2つのピーク位置の間の間隔に基づいて、前記探査対象物質の深度を求める、請求項3に記載の地中探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−126117(P2006−126117A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317802(P2004−317802)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】