説明

地中熱利用ハイブリッド空調システム

【課題】熱交換において効率の高さを規準として地中熱と外気熱の利用を使い分け、COPの高い空調システムを提供する。
【解決手段】地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、夏季の冷房利用では、地中温度が(外気温度−α;αは正の定数)よりも高い場合に、冬季の暖房利用では、地中温度が(外気温度+β;βは正の定数)よりも低い場合に、地中熱源側の循環を停止し、空気熱源ヒートポンプとして運転することを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中熱回収用杭を用いた地中熱回収システムに関し、特に地中熱利用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地中熱回収用杭と地中熱利用ヒートポンプとからなる地中熱回収システムは、従来より知られており、地中熱回収用杭を建物の基礎杭として地面に打ち込み、その杭から地中熱を回収する技術が多数提案されている(例えば、特許文献1〜10参照)。
【0003】
すなわち、地中熱は年間を通して15〜18℃で推移するため、夏季は冷熱源として、冬季は温熱源として利用することが可能である。そこで、杭のなかに地中熱回収用熱媒通路を設け、地中と熱媒の間で熱交換を行うことにより、冷房または暖房に利用するようにしたものである。
【特許文献1】特開平01−123951号公報
【特許文献2】特開2001−147056号公報
【特許文献3】特開2004−177012号公報
【特許文献4】特開2004−233031号公報
【特許文献5】特開2005−336815号公報
【特許文献6】特開2006−010098号公報
【特許文献7】特開2006−052588号公報
【特許文献8】特開2006−145059号公報
【特許文献9】特開2006−284065号公報
【特許文献10】特開2006−343004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜10のような従来の地中熱回収システムにおいて、上述のように地中熱との熱交換を行う場合、夏季は地中の高温化、冬季は地中の低温化が発生する。そのため、過度に熱交換を行うと、地中と熱媒との間の温度差が小さくなることにより効率が悪化し、COP(Coefficient Of Performance)が悪化する。このため、ある時点を境に、外気の空気熱源を利用するヒートポンプ(空気熱源ヒートポンプ)と比較して省エネにならなくなる。
【0005】
つまり、地中温度が(外気温度−α;αは正の定数)より高くなると、夏季の冷房利用をしても非効率である。地中温度が(外気温度+β;β正の定数)より低くなると、冬季の暖房利用をしても非効率である。ここで、α、βの設定が必要となるのは、地中熱を利用する場合は地中に熱媒を循環させるのにエネルギーを要するからである。したがって、地中と外気が同じ温度であれば外気熱を利用したほうが暖房・冷房システム(空調システム)全体で見た場合、省エネになり、有利となる。ちなみに、α、βは地中や杭の中の熱媒を循環させる効率に依存する。
【0006】
これに対して、従来の地中熱回収システムは地中と熱媒との間で熱交換することだけを目的としており、外気と熱媒との間の熱交換という選択肢を考慮していない。
【0007】
本発明では、上述のような問題点に鑑み、熱交換において効率の高さを規準として地中熱と外気熱の利用を使い分け、COPの高い空調システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、
夏季の冷房利用では、地中温度が(外気温度−α;αは正の定数)よりも高い場合に、
冬季の暖房利用では、地中温度が(外気温度+β;βは正の定数)よりも低い場合に、
地中熱源側の循環を停止し、空気熱源ヒートポンプとして運転することを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。
【0010】
[2]地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、
夏季の冷房利用では、地中温度が(外気温度−α;αは正の定数)よりも高い場合に、
冬季の暖房利用では、地中温度が(外気温度+β;βは正の定数)よりも低い場合に、
地中熱源側の循環を継続し地中温度の回復を図るとともに、空気熱源ヒートポンプとして運転することを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。
【0011】
[3]地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、
冬季の暖房利用で、地中温度が(外気温度+β;βは正の定数)よりも低い場合に、
日射熱取得が期待できる時間帯において、地中熱源からヒートポンプにいたる経路で地中熱回収用熱媒の循環用配管を分岐させ、浅層に埋設し、もしくは、日射熱を吸収可能な集熱器を経由する系を通して熱媒を加熱し、地中と循環させることによって地中温度を回復し、より暖房負荷の大きくなる夜間に大量の熱を取り出すことを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。
【0012】
[4]地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、
夏季の冷房停止時、または、冬季の暖房停止時に、前記空気熱交換器を用いた空気熱交換器空気熱源ヒートポンプを運転し、地中に蓄熱することを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、地中熱と外気とで有利なほうを選んで熱交換を行うようにしたので、COPの高い効率的な空調システムを実現できる。
【0014】
また、空気熱源ヒートポンプを利用して地中に蓄熱することにより、空調システムのCOPを高めることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態においては、図1のように、地中熱回収用杭10と、地中熱回収用熱媒(ここでは水)が循環する循環水配管11と、地中熱回収用熱媒を循環させるための循環ポンプ12と、地中熱回収用熱媒と空調用熱媒とを熱交換させる水熱交換器14と、空調用熱媒を圧縮するコンプレッサー15と、空調用熱媒の膨張弁16と、空調用熱媒が循環する空調用熱媒配管18と、室内機19とを供えた地中熱利用ヒートポンプ(地中熱利用空調システム)に、空調用熱媒と大気とを熱交換させる通常の空気熱交換器17を組み込んで、地中熱利用ヒートポンプと空気熱源ヒートポンプを複合した地中熱利用ハイブリッド空調システムとしている。なお、水熱交換器14とコンプレッサー15と膨張弁16と空気熱交換器17とで室外機13を構成している。
【0017】
そして、夏季の冷房利用では、地中温度が(外気温度−α)よりも高い場合に、冬季の暖房利用では、地中温度が(外気温度+β)よりも低い場合に、地中熱源側の循環(地中熱回収用熱媒の循環)を停止し、空調用熱媒と大気とを熱交換させる空気熱源ヒートポンプ(空気熱利用空調システム)としてとして運転する。すなわち、地中熱源側の循環に要するエネルギーを抑えながら、熱交換において地中熱よりも有利な空気熱源を利用する。
【0018】
つまり、この第1実施形態では、地中温度と外気温度をモニタリングしながら制御を行い、有利な方を選択し熱媒との熱交換を行う。
【0019】
冬季の暖房を例に取ると、以下のように制御する。
【0020】
(1)地中温度<(外気温度+β)の場合
図1のように、外気との熱交換のみを行い、地中熱利用は行わない。従って、地中に循環させている地中熱回収用熱媒の循環も停止しエネルギーの浪費を防ぐ。
【0021】
(2)地中温度≧(外気温度+β)の場合
図2のように、地中熱利用を行う。地中熱回収用熱媒を地中に循環させ熱交換を行う。このとき、外気との熱交換は行わず、エネルギーの浪費を防ぐ。
【0022】
なお、正の定数βの設定が必要となるが、本発明者の行った実験によると、β≒5℃となった。定数α、βの設定は、実際に構築する地中熱利用空調システムの構成に依存する。
定数α、βは、各々異なる正の定数値として設定しても良いし、同じ値、すなわち、α=βとしてもよい。
【0023】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態は、基本的構成は第1実施形態と同様であるが、夏季の冷房利用では、地中温度が(外気温度−α)よりも高い場合に、冬季の暖房利用では地中温度が(外気温度+β)よりも低い場合に、地中熱源側の循環を継続して地中温度の回復を図るとともに、空気熱源ヒートポンプとして運転する。すなわち、熱交換において地中熱よりも有利な空気熱源を利用しながらも、地中熱源側の循環を継続することによって地中の温度を回復させる。これにより、好ましい条件時に地中との熱交換を行う。
【0024】
つまり、第2実施形態においては、第1実施形態をもとに若干制御則を変更する。
【0025】
冬季の暖房を例に取ると、以下のように制御する。
【0026】
(1)地中温度<(外気温度+β)の場合
図3のように、外気との熱交換のみを行い、地中熱利用は行わない。しかし、地中に循環させている地中熱回収用熱媒の循環は継続し地中の温度回復を図る。これにより、その後、好ましい条件時に地中との熱交換を行う。
【0027】
(2)地中温度≧(外気温度+β)の場合
第1実施形態の場合と同様である。図2のように、地中熱利用を行う。地中熱回収用熱媒を地中に循環させ熱交換を行う。このとき、外気との熱交換は行わず、エネルギーの浪費を防ぐ。
【0028】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態は、基本的構成は第1実施形態と同様であるが、冬季の暖房利用で地中温度が(外気温度+β)よりも低い場合に、日射熱取得が期待できる時間帯において、地中熱源からヒートポンプ(水熱交換器14)にいたる経路で循環水配管11を分岐させ、浅層に埋設し、もしくは、日射熱を吸収可能な集熱器を経由する系を通して地中熱回収用熱媒を加熱し、地中と循環させることによって地中温度を回復し、より暖房負荷の大きくなる夜間に大量の熱を取り出す。
【0029】
具体的には、循環水配管11を分岐させて浅層に埋設させる方法では、図4のように、地表から1メートル以内の深さで循環水配管11の分岐配管11aを水平方向に展開する。分岐配管11aの材質は、樹脂管、金属管など任意に選択可能であり、日射によって暖められた地表近くの熱を採取するため、地中埋設部分の断熱は行わない。水平方向に展開した分岐配管11aは、水平投影面積を大きくするとよく、U字状に複数折り返す、あるいは、中空面状体、箱状体等に接続するなどして、採熱部の循環水量を多くするとより効果が高い。
【0030】
また、循環水配管11を分岐させて日射熱の吸収可能な集熱器を経由させる方法では、図5のように、循環水配管11の分岐配管11bに日射熱の吸収可能な集熱器20を設置する。集熱器20は、地表上あるいは構造物上部、屋根、外壁など屋外に設置され、若しくは屋根、外壁などの外装材に組み込まれ、日射を吸収し、循環水と熱交換を行う機構を有するものであれば、その形式は問わない。
【0031】
そして、循環水配管11と分岐配管11a、11bとの分岐部分にはバルブを設け(図示せず)、手動あるいは自動的に切り替える。切り替え制御は、地中温度(循環水温度を含む)と外気温をモニタリングして行うほか、前日に暖房負荷が大きかった場合、あるいは、建物の休刊日で空調運転が停止されるスケジュールのうち、日射によって地表面温度が上昇する時間帯を設定するなどの方法がある。
【0032】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態は、基本的構成は第1実施形態と同様であるが、夏季の冷房停止時、または、冬季の暖房停止時に空気熱源ヒートポンプを運転し、地中に蓄熱する。これにより、好ましい条件時に地中との熱交換を行う。
【0033】
すなわち、この第4実施形態では、図6に示すように、夏季の冷房停止時、または、冬季の暖房停止時に空気熱源ヒートポンプを運転し地中に蓄熱する。これにより、その後、好ましい条件時に地中との熱交換を行う。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態の説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態の説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態の説明図である。
【図4】本発明の第3実施形態(循環水配管の分岐配管を浅層に埋設)の説明図である。
【図5】本発明の第3実施形態(循環水配管の分岐配管に集熱器を設置)の説明図である。
【図6】本発明の第4実施形態の説明図である。
【符号の説明】
【0035】
10 地中熱回収用杭
11 循環水配管
11a 循環水配管の分岐配管
11b 循環水配管の分岐配管
12 循環ポンプ
13 室外機
14 水熱交換器
15 コンプレッサー
16 空調用熱媒の膨張弁
17 空気熱交換器
18 空調用熱媒配管
19 室内機
20 集熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、
夏季の冷房利用では、地中温度が(外気温度−α;αは正の定数)よりも高い場合に、
冬季の暖房利用では、地中温度が(外気温度+β;βは正の定数)よりも低い場合に、
地中熱源側の循環を停止し、空気熱源ヒートポンプとして運転することを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。
【請求項2】
地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、
夏季の冷房利用では、地中温度が(外気温度−α;αは正の定数)よりも高い場合に、
冬季の暖房利用では、地中温度が(外気温度+β;βは正の定数)よりも低い場合に、
地中熱源側の循環を継続し地中温度の回復を図るとともに、空気熱源ヒートポンプとして運転することを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。
【請求項3】
地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、
冬季の暖房利用で、地中温度が(外気温度+β;βは正の定数)よりも低い場合に、
日射熱取得が期待できる時間帯において、地中熱源からヒートポンプにいたる経路で地中熱回収用熱媒の循環用配管を分岐させ、浅層に埋設し、もしくは、日射熱を吸収可能な集熱器を経由する系を通して熱媒を加熱し、地中と循環させることによって地中温度を回復し、より暖房負荷の大きくなる夜間に大量の熱を取り出すことを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。
【請求項4】
地中熱利用ヒートポンプに空気熱交換器を組み込み、
夏季の冷房停止時、または、冬季の暖房停止時に、前記空気熱交換器を用いた空気熱交換器空気熱源ヒートポンプを運転し、地中に蓄熱することを特徴とする地中熱利用ハイブリッド空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−250555(P2009−250555A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101070(P2008−101070)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(505214124)JFE鋼管株式会社 (18)