説明

地山の地質構成予測方法

【課題】特殊な物理探査計測機器を必要とすることなく、また掘削作業と併行しながら、日常的な施工管理の一環として、簡単かつ高精度で地山の地質構成を正確に把握する。
【解決手段】地山の明かり掘削部の周辺領域に任意数の観測点を設定し、発破掘削の前後において前記観測点の変位を測定した結果から変位計測データを取得し、掘削進行状況を反映した3次元解析モデルにおいて、予め地質分布に基づきブロック割りを行い、各ブロック領域内において地盤定数は一定値であるとする条件の下で、前記変位計測データを与条件として逆解析を行うことにより、ブロック領域毎に地山の地盤定数を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山を掘削する過程で地山の地盤定数を同定する地山の地質構成予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ロックフィルダムの工事では、使用するロック材は現場近くの原石山から採取されるが、ダムの部位毎にロック材の岩級区分が異なるため、原石山から効率良く、必要とされる岩石を採取することが要求される。そのため、予め原石山のボーリング調査を行い、地山構成を概略的に把握した上で、要求される品質の岩石を効率よく採取するようにしている。
【0003】
しかしながら、事前に行われる前記ボーリング調査のみで地山の地質構成を精度良く把握することは困難で、掘削途中で想定していない岩級区分の岩石が採取されることによって、特定の岩級の岩石を採取し過ぎたり、必要な岩級の岩石が掘削し足りなかったりすることがあり、工程の遅れが生じることがあった。
【0004】
一方で、近年はボーリング調査に代わる手法として、各種の物理探査方法が提案され実用化されている。具体的には、表面波(レーリー波)、電磁波、反射波を用いる方法などが提案されている。
【0005】
前記表面波を用いる方法としては、例えば下記特許文献1に、トンネル切羽の略中央に取り付けた起振機により切羽面に加振してレーリー波を発生させ、起振機から放射方向に所定距離だけ離れて設置した2箇所の検出器により切羽面を伝播するレーリー波を検出し、レーリー波の伝播時間差を分析して断層破砕帯等の地盤状況を探査する方法が開示されている。
【0006】
また、電磁波を用いる方法としては、例えば下記特許文献2に、現在の地質の状況を表す反射データから電磁波の速度を決定して現在の地山の比誘電率を算定し、電磁波伝播により生じる振幅の減衰から伝播距離に対する距離減衰を推定し、これを補正することによって反射位相から本来の反射係数を算出して反射面以降に現出する地質の比誘電率を推定し、これにより反射面以降の地質を予測する方法が開示されている。
【0007】
反射波を用いる方法としては、例えば下記特許文献3,4に、既に掘削した坑内において、起振装置と受振装置とを設置し、岩盤中の速度境界において反射した反射波を観測することにより岩盤の断層や破砕帯などの位置を推定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−113097号公報
【特許文献2】特開2002−106291号公報
【特許文献3】特開2001−249186号公報
【特許文献4】特開2002−156459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記表面波(レーリー波)、電磁波、反射波等を用いる物理探査方法の場合には、これらの物理探査計測器機を掘削現場に持ち込んでの計測となるため、計器の取扱いに熟練した専門技術者が必要になるとともに、やはり一時的に掘削を中断しての作業となるため工程が遅延する原因ともなっていた。また、多くの段取りと手間とを必要とするため、日常的な施工管理の一環として行えるものではないなどの問題があった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、特殊な物理探査計測機器を必要とすることなく、また掘削作業と併行しながら、日常的な施工管理の一環として、簡単かつ高精度で地山の地質構成を正確に把握し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地山の明かり掘削部の周辺領域に任意数の観測点を設定し、発破掘削の前後において前記観測点の変位を測定した結果から変位計測データを取得し、掘削進行状況を反映した3次元解析モデルにおいて、予め地質分布に基づきブロック割りを行い、各ブロック領域内において地盤定数は一定値であるとする条件の下で、前記変位計測データを与条件として逆解析を行うことにより、ブロック領域毎に地山の地盤定数を同定することを特徴とする地山の地質構成予測方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の本発明においては、明かり掘削部の周辺領域で観測した変位計測データに基づいて、3次元解析モデルにより前記変位計測データを与条件とする逆解析によって地山の地盤定数(主としてヤング係数)を同定するようにした。従って、特殊な物理探査計測機器を必要とすることなく、また掘進作業と併行しながら日常的な施工管理の一環として行い得るものとなる。なお、前記逆解析の計算は、所定区間の掘削によって生じる観測点の計算変位と、観測点の実測変位との残差2乗和が最小となる地山物性値(ヤング係数)を最適化手法によって求めるものである。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記観測点は、掘削面の高さをDとした際の、掘削面上端を中心とする1.5D領域内および掘削面下端を中心とする1.5D領域内の地山表面に設置してある請求項1記載の地山の地質構成予測方法が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の本発明においては、変位計測データの観測点として、掘削面(斜面又は壁面)の高さをDとした際の、掘削面上端を中心とする1.5D領域内および掘削面下端を中心とする1.5D領域内の地山表面に設置するものである。この領域は、3次元解析の結果が信頼性をもって評価可能とされる領域でもある。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記観測点の変位計測データは、1〜3軸方向変位成分のいずれか又は組合せとする請求項1、2いずれかに記載の地山の地質構成予測方法が提供される。
【0015】
請求項4に係る本発明として、掘削の進行に伴い、掘削面の観察及び/又は前記3次元解析結果に基づき、逐次前記地質分布に基づくブロック割りを修正する請求項1〜3いずれかに記載の地山の地質予測方法が提供される。
【0016】
上記請求項4記載の本発明においては、掘削の進行に伴い、及び/又は前記3次元解析結果に基づき、逐次前記地質分布に基づくブロック割りを修正するものである。事前のボーリング調査等によって想定した地質分布にはボーリング点数の制約等により、ある程度の誤差を含むものと想定されるため、掘削の進行に伴って、掘削面の観察を行い、及び/又は3次元解析結果に基づいて、逐次ブロック割りを修正することにより、予測精度を向上させることができる。
【0017】
請求項5に係る本発明として、掘削部の周辺領域に任意数の観測点を設定し、発破時における前記観測点の時刻歴変位速度、時刻歴変位及び時刻歴加速度の内のいずれかを測定し、3次元解析モデルにおいて、前記時刻歴変位速度、時刻歴変位及び時刻歴加速度の内のいずれかの計測データを与条件として逆解析を行うことにより、地山の地盤定数を同定することを特徴とする地山の地質構成予測方法が提供される。この方法は、広く範囲に亘り、地質構成を知る事ができるため、好ましくは前記請求項1〜4いずれかに記載の地山の地質構成予測方法に先立って或いは途中段階で行うようにするのが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上詳説のとおり本発明によれば、特殊な物理探査計測機器を必要とすることなく、また掘削作業と併行しながら、日常的な施工管理の一環として、簡単かつ高精度で地山の地質構成を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態例について図面を参照しながら詳述する。図1は本発明に係る地山の地質構成予測方法のフロー図である。
【0020】
先ず、図1に示されるように、事前のボーリング等の地質調査に基づいて、地山をブロック割りし、各ブロックに岩級区分を設定する。岩級区分は例えば、「岩盤挙動の予測と実態」(土質基礎工学会ライブラリー33、土質工学会編、昭和63年、p29)に基づき、下表1のように区分することができる。また、地山形状を反映した3次元解析モデルを設定する。
【0021】
【表1】

【0022】
地山掘削(明かり掘削)は、例えば高さ方向にリフト割りされ、各リフト毎に発破掘削され、要求されるロック材の岩級に従い、所要の部位が掘削される。
【0023】
その際に、掘削部の周辺領域に任意数の観測点を設定し、発破掘削の前後において前記観測点の変位を測定した結果から変位計測データを取得し、各ブロック領域内において地盤定数は一定値であるとする条件の下で、前記変位計測データを与条件として逆解析を行うことにより、ブロック毎に地山の地盤定数を同定するものである。
【0024】
また、本地質構成の予測方法は、当初に設定した地層構成が漸次修正されることにより、採石精度を向上させるものであるため、掘削後に掘削面の観察を行い、必要ならば地質構成を変更するとともに、3次元解析モデルのブロック割りを変更する。また、3次元解析結果に基づいて必要ならば、地質構成を変更するとともに、3次元解析モデルのブロック割りを変更する。そして、最終的に次回の掘削計画を立案する。
【0025】
以下、例を挙げ具体的に詳述すると、
図2に示される地山に対して、水平ボーリング等の地質調査を行い、この調査結果に基づいて、地山を複数の領域に、図示例では7つの領域にブロック割りする。各ブロック割り領域には、土質試験に基づいて岩級区分が設定される。図示例では、ブロック1、3、7が岩級区分CLに設定され、ブロック2,4,5,6が岩級区分CMに設定されている。
【0026】
図3は掘削途中の状態を示したものであるが、掘削ゾーン(傾斜面)に対して、その周辺領域、具体的には掘削斜面の高さをDとした際の、掘削斜面上端を中心とする1.5D領域内および掘削斜面下端を中心とする1.5D領域内の地山表面に観測点が設置される。この観測点は解析精度を上げるために複数、好ましくは5〜10点程度設けるのが望ましい。
【0027】
なお、観測点を上記範囲に設けるようにした理由は、図7に3次元解析モデルにおいて、地盤定数は一定の条件の下で、メッシュ2つ分(2m分に相当)を掘削した際の、掘削後における鉛直変位成分をベクトル解析した結果において、掘削斜面の高さをDとした場合、掘削斜面上端を中心とする1.5D領域内および掘削斜面下端を中心とする1.5D領域内において、鉛直変位成分が他の領域よりも卓越していることが判明したためである。この領域は、観測点の設置ゾーンとして設定されるものであるが、3次元解析の結果が信頼性をもって評価可能とされる領域でもある。
【0028】
観測点を掘削ゾーンの周辺に設置したならば、発破掘削の前に前記観測点をトータルステーション(3次元変位計測機器)等の測量機器を用いるか、GPSなどを用いて3次元座標を測定した後、掘削を行い、掘削後に再び観測点の3次元座標計測を行い、掘削前後の座標計測から変位計測データを取得する。
【0029】
そして、前記掘削進行状況を反映した3次元解析モデルにおいて、各ブロック領域内において地盤定数は一定値であるとする条件の下で、前記変位計測データを与条件として逆解析を行うことにより、ブロック毎に地山の地盤定数を同定する。
【0030】
その結果、前記3次元解析による各ブロックのヤング係数を同定した結果が図4に示されるように、ブロック3,4が岩級区分が曖昧であるような場合は、図6に示されるように、掘削断面の観察によりブロック3,4の境界線を修正する。そして、次回掘削時に、修正された3次元解析モデルにおいて、発破掘削前後の変位計測データを与条件として逆解析を行い、ブロック毎のヤング係数を同定する。その結果、図6に示されるように、ブロック3,4が明確に区分されたならば、このブロック割りに従って次回の掘削計画を立案する。
【0031】
以下、3次元解析モデルによるヤング係数の同定解析について詳述する。
《地山の地盤定数予測》
(3次元有限要素法解析モデルによる解析)
前記トータルステーションなどの測量機器によって計測された変位計測データは、現場事務所に設置されたコンピュータに入力され、3次元解析モデルにおいて、前記変位計測データを与条件として逆解析を行うことにより、ブロック毎に地山の地盤定数を同定される。すなわち、地山物性値(ヤング係数)を逆解析の対象とし、所定区間の掘削によって生じる観測点の計算変位と、観測点の実測変位との残差2乗和が最小となる地山定数(ヤング係数)を最適化手法によって求めることにより、各ブロックごとに地盤定数(ヤング係数)を同定する。なお、地盤定数としては、本形態例では変形係数を未知パラメータとするが、ポアソン比、粘着力や側圧係数などを対象とすることもできる。
【0032】
前記ヤング係数を同定する逆解析において、すべての要素が任意のヤング係数を取り得るものとして解析を行う場合には、多くの変位計測データを要するとともに、計算に長時間を要するようになるため、各ブロック領域内において地盤定数は一定値であるとする条件で逆解析を行うようにする。
【0033】
以下、ヤング係数を対象とする逆解析について手順に従いながら詳述する。
《逆解析の定式化》
1.順解析
同定計算の基本となる3次元線形弾性体の有限要素方程式は、下式(1)となる。
【0034】
【数1】

【0035】
ここで、Kはヤング係数およびポアソン比で表される剛性マトリクス、uは変位ベクトル、Γは荷重ベクトルを表す。
【0036】
順解析では、下式(2)に示すように、解析領域と境界条件、ヤング係数とポアソン比、荷重を与えて変位を計算する。
【0037】
【数2】

【0038】
2.パラメータの同定解析
地盤定数のうち、ヤング係数を未知パラメータとした場合の同定解析について述べる。
【0039】
ヤング係数の同定解析では、解析領域と境界条件、ポアソン比、荷重を与え、さらに有限個の変位(計測などによって既知になっている変位)をもとにヤング係数を計算する。
【0040】
同定計算法には色々あるがここでは最小化問題として取り扱う。そのために、下式(3)に示す評価関数を定める。
【0041】
【数3】

【0042】
ここで、u;有限要素法によって計算された変位、u*;観測データを表わす。
【0043】
評価関数Jは計算で求めた変位と観測データの差の二乗和であらわす。評価関数Jは正のスカラーである。ヤング係数は正しく決められれば評価関数Jはゼロに近づく。すなわち、評価関数Jを最小にするヤング係数が見つけられれば同定計算が完了する。ヤング係数の同定計算は評価関数Jを最小化する問題である。
【0044】
評価関数Jを最小化するヤング係数を求める最小化問題を解く方法のうち、ここでは共役勾配法を用いる。本例では共役勾配法の一種であるFletcher−Reeves Method (フレッチャー・リーブス法)を採用した。この方法は計算アルゴリズムが簡単で繰り返し計算の収束性が良い(計算が安定)と言われている。
【0045】
次に、計算のための定式化を以下に述べる。
(1)評価関数の勾配の計算
評価関数の未知パラメータであるヤング係数Eに関する評価関数の勾配dを計算する。上式(3)の評価関数Jは変位の汎関数である。また、変位は有限要素方程式(1)式で示すように、ヤング係数を未知パラメータとしている。そこで、勾配dは、下式(4)であらわされる。
【0046】
【数4】

【0047】
上記感度行列とは、パラメータ(ヤング係数)が変位に与える影響の度合いを表わすものである。
(2)感度行列の計算
3次元線形弾性体の有限要素方程式は、前述したように、(1)式であらわされる。
上記(1)式をm番目の未知パラメータEmについて偏微分すると、下式(5)となる。
【0048】
【数5】

【0049】
また、上式(5)を展開すると、下式(6)となる。
【0050】
【数6】

【0051】
これを未知パラメータの数だけ計算して行列で表わすと、下式(7)となる。
【0052】
【数7】

【0053】
この時、変位を与える境界では変位量が変化しないので、下式(8)が成立する。
【0054】
【数8】

【0055】
したがって、上式(8)を用いた未知パラメータ(ヤング係数)Eに関する感度行列はパラメータごとに計算で求めることができる。
3.ステップ幅αの計算
収束計算のために、収束のステップ幅αを計算する。ステップ幅は上式(3)の評価関数Jを一次項までテーラー展開し、さらにαで偏微分して求める。
【0056】
評価関数Jの一次項までのテーラ展開は、下式(9)となる。
【0057】
【数9】

【0058】
上式(9)をαで偏微分すると、下式(10)となる。
【0059】
【数10】

【0060】
上式(10)式よりαを求めるには、下式(11)を計算する。
【0061】
【数11】

【0062】
このαの決定により、下式(12)に示されるように、全てのパラメータの更新が行なわれる。
【0063】
【数12】

【0064】
次に、2回目以降の勾配については、Fletcher-Reeves Method (フレッチャー・リーブス法)により下式(13)で計算することができる。
【0065】
【数13】

【0066】
ここで、βは、下式(14)で計算する。
【0067】
【数14】

【0068】
4.未知パラメータ(ヤング係数E)の同定計算アルゴリズム
[step0]:パラメータE(0)の初期値および、評価関数がこの数値以下になった時に収束したとみなす数値である収束判定の値εJを定める。
[step1]:繰り返し回数 i=0 をセットする。
[step2]:(3)式の{u}(i)を下式(15)に示すように計算する。
【0069】
【数15】

【0070】
[step3]:(3)式により、(i)回の評価関数J(i)を下式(16)に示すように計算する。
【0071】
【数16】

【0072】
[step4]:(7)式により、感度行列{∂u/∂E}(i)を下式(17)に示すように計算する。
【0073】
【数17】

【0074】
[step5]:(4)式により、評価関数の初期勾配{d}(i)を下式(18)に示すように計算する。
【0075】
【数18】

【0076】
[step6]:(11)式により、ステップ幅αを下式(19)に示すように計算する。
【0077】
【数19】

【0078】
[step7]:パラメータ(ヤング係数)を、下式(20)に示すように勾配とステップ幅で修正する。
【0079】
【数20】

【0080】
[step8]:(2)式により、修正したパラメータ{E}(i+1)をもとに変位を下式(21)により計算する。
【0081】
【数21】

【0082】
[step9]:(3)式により求めた修正変位u(i+1)から評価関数を下式(22)に示すように計算する。
【0083】
【数22】

【0084】
[step10]:新しい感度行列{∂u/∂E}(i+1)を下式(23)により計算する。
【0085】
【数23】

【0086】
[step11]:βを下式(24)に示すように計算する。
【0087】
【数24】

【0088】
[step12]:評価関数の勾配を下式(25)に示すように修正する。
【0089】
【数25】

【0090】
[step13(収束判定)]:
【0091】
【数26】

【0092】
上式(26)を満たすならば、{E}(i+1)が求めるパラメータ(ヤング係数)である。
[Step14(収束判定)]:
【0093】
【数27】

【0094】
上式(27)ならば、i= i+1として[Step 6]」へ戻る。
〔第2解析手法〕
本第2解析手法は、前記地山の地質構成予測方法に先立って或いは途中段階で行われるもので、地山の明かり掘削又はトンネル坑内掘削において、任意数の観測点を設定し、発破時における前記観測点の時刻歴変位速度、時刻歴変位及び時刻歴加速度の内のいずれかを測定し、3次元解析モデルにおいて、前記時刻歴変位速度、時刻歴変位及び時刻歴加速度の内のいずれかの計測データを与条件として与えた逆解析を、繰り返し行うことによって、地山の地盤定数(主として、ヤング係数)を同定するものである。前述した解析手法を静的解析手法とすれば、本第2解析手法は地山の地盤定数の同定を動的解析によって行う手法である。
【0095】
なお、本第2解析手法では、観測点の設置領域は発破による衝撃が伝播される範囲であればよく、広範に設定することが可能である。また、その計測は、直接的に速度センサ、変位計又は加速度計を用いることができる。
【0096】
例えば、図15に示されるように、トンネル掘削や地下空洞掘削時に、坑内に設置した観測点B1,B2及び/又は坑外に設置した観測点A1,A2で、時刻歴挙動を観測し、3次元の振動解析によりヤング係数などの同定解析を行い、ヤング係数等から切羽前方の地質状況を予測する。そして、切羽前方に弱い地盤層が存在していることが確認されたならば、事前に支保工を準備することにより、工事を効率的に進めることができるようになる。
【0097】
(他の実施形態例)
(1)上記形態例では、3次元解析モデルを有限要素法解析モデルとしたが、解析方法としては、有限要素法以外に、写像関数を使用した解析解を用いる方法、有限差分法、境界要素法(グリーン関数法)、個別要素法、有限体積法、RBSM等およびこれらの組合せからなる解析手法を用いても良い。
(2)上記形態例では、ロック材採取のための地山掘削を例に採ったが、ダム堤体の基礎構築工事においては、堅岩部まで掘削したことを確かめる必要があるが、本方法は、根切り掘削の支持層同定などに対しても適用が可能である。
【実施例】
【0098】
(1)実施例1
本実施例1では簡単な解析モデルを設定し、本解析手法の妥当性を検証した。検証解析は、先ず順解析を行って観測点の変位を計算し、これを観測データと仮定した。そして、逆解析による同定解析において、前記観測データを与条件として与えて地盤の定数を同定し、その結果が順解析で設定した地盤定数となるかを検証した。
(1)順解析による変位計算
具体的には、図8に示される解析モデルを想定した。また、順解析に用いた地盤定数は、下表2のように設定した。
【0099】
【表2】

【0100】
そして、図9(A)に示される3次元解析モデル(X=9まで掘削)から、メッシュ1目盛り分の掘削を行った図9(B)に示される状態となった際の、観測点での変位を演算により求めた。
【0101】
(2)逆解析による同定計算
逆解析は、図10に示されるように、ブロック数を4とした解析モデルとし、観測点に上記順解析による変位量を変位計測データとして与えた。
【0102】
解析は、初期値としてすべてのブロックのヤング係数初期値を10000(tf/m2)として、各ブロックのヤング係数を繰り返し計算により求めた。各繰り返し計算により計算値が収束していく状況を図11に示す。同図11より、ブロック1、3,4は、ヤング係数が45000〜55000(tf/m2)に収束し、ブロック2はヤング係数が5000(tf/m2)に収束しており、本解析手法の妥当性が検証できた。
【0103】
(2)実施例2
本実施例2では、上記第2解析手法について、簡単な解析モデルを設定しその妥当性を検証した。検証解析は、先ず順解析を行って観測点の時刻歴変位速度を計算し、これを逆解析による同定計算において、観測データとして与えて地盤の定数を同定し、その結果が順解析で設定した地盤定数となるかを検証を行った。
【0104】
(1)順解析による時刻歴変位速度計算
具体的には、図12に示される解析モデルを設定し、解析領域の左側面全体に1000(kN/m2)の等分布荷重を時間t=0.01(s)だけ作用させた場合の観測点(A〜C)の時刻歴変位速度を動的順解析により求めた。なお、順解析に用いた地盤定数は、領域全体のヤング係数E=10000(tf/m2)、地盤密度ρ=2.0(kN/m3)、ポアソン比μ=0.3とした。上記順解析による観測点A〜Cの時刻歴変位速度は図13のようになった。
【0105】
(2)逆解析による同定計算
以上の結果に基づき、今度は逆解析により、図13に示される時刻歴変位速度を与条件として与えるとともに、ヤング係数初期値を5000(tf/m2)とし、ヤング係数を繰り返し計算により求めた。図14にその同定計算結果を示す。同図14より、40回の繰り返し計算で、正解のヤング係数10000(tf/m2)の数値が得られ、本第2解析手法の妥当性が検証できた。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明に係る地山の地質構成予測方法のフロー図である。
【図2】地山のブロック割り例を示す図である。
【図3】地山のブロック割り及び掘削状況を示す縦断面図である。
【図4】その地山地盤定数の同定計算結果を示す図である。
【図5】次ステップ時における地山のブロック割り及び掘削状況を示す縦断面図である。
【図6】その地山地盤定数の同定計算結果を示す図である。
【図7】掘削による鉛直変位ベクトル図である。
【図8】実施例1における解析モデルである。
【図9】解析モデルにおける掘削による状態変化図である。
【図10】解析モデル図である。
【図11】ヤング係数の同定計算結果を示す図である。
【図12】実施例2における解析モデル図である。
【図13】順解析により得た観測点A〜Cの時刻歴変位速度図である。
【図14】逆解析による同定計算結果を示す図である。
【図15】第2解析手法による同定解析例の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山の明かり掘削部の周辺領域に任意数の観測点を設定し、発破掘削の前後において前記観測点の変位を測定した結果から変位計測データを取得し、掘削進行状況を反映した3次元解析モデルにおいて、予め地質分布に基づきブロック割りを行い、各ブロック領域内において地盤定数は一定値であるとする条件の下で、前記変位計測データを与条件として逆解析を行うことにより、ブロック領域毎に地山の地盤定数を同定することを特徴とする地山の地質構成予測方法。
【請求項2】
前記観測点は、掘削面の高さをDとした際の、掘削面上端を中心とする1.5D領域内および掘削面下端を中心とする1.5D領域内の地山表面に設置してある請求項1記載の地山の地質構成予測方法。
【請求項3】
前記観測点の変位計測データは、1〜3軸方向変位成分のいずれか又は組合せとする請求項1、2いずれかに記載の地山の地質構成予測方法。
【請求項4】
掘削の進行に伴い、掘削面の観察及び/又は前記3次元解析結果に基づき、逐次前記地質分布に基づくブロック割りを修正する請求項1〜3いずれかに記載の地山の地質予測方法。
【請求項5】
掘削部の周辺領域に任意数の観測点を設定し、発破時における前記観測点の時刻歴変位速度、時刻歴変位及び時刻歴加速度の内のいずれかを測定し、3次元解析モデルにおいて、前記時刻歴変位速度、時刻歴変位及び時刻歴加速度の内のいずれかの計測データを与条件として逆解析を行うことにより、地山の地盤定数を同定することを特徴とする地山の地質構成予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−188854(P2006−188854A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−675(P2005−675)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(595013690)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】