説明

地盤改良体の造成方法

【課題】 改良対象となる地盤の地上付近に鉄道設備等が存在する場合に有用な高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を利用し、地盤改良体の造成から長時間が経過した後であっても、容易に芯材を挿入可能として、止水防護壁の機能を兼ね備えた仮土留め壁を容易かつ確実に造成する。
【解決手段】 高圧噴射併用型の機械攪拌杭施工装置10を用いて地盤改良体の造成を行う。固化材中に固化遅延剤を混入して、地盤改良体の固化を少なくとも20時間遅延させ、地盤改良体中にH型鋼を挿入する工程を含む。地盤改良体中に芯材を挿入する時点で、地盤改良体のテーブルフロー値が130mm以上となるように、固化遅延剤の添加量を調整し、振動工法を併用して芯材を地盤改良体中に挿入する。また、地盤改良体のテーブルフロー値が150mm以上となるように、固化遅延剤の添加量を調整し、芯材を地盤改良体中に自沈させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を用いて地盤改良体を造成し、この地盤改良体中に芯材をあと挿入することにより、止水性を確保した仮土留め壁を構築することが可能な地盤改良体の造成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
開削工法による鉄道線路下の横断工事では、一般的に線路横断方向に仮土留め壁を造成する必要がある。仮土留め壁の造成は、軌道内での作業となるため、レールや枕木に干渉が生じない親杭横矢板方式が採用されていた。また、地下水位が高い環境の場合には、土留め壁の背面に補助工法(例えば、薬液注入や地盤改良)による止水防護壁の造成が必要となり、工期が長期化するだけではなく、施工費用が増大化するという問題があった。
【0003】
従来、改良対象となる地盤の地上付近に鉄道設備等が存在する場合であっても、当該設備の側方から地盤改良体を形成することが可能な高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法が確立されている(特許文献1参照)。そこで、本願の発明者は、この高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を用いて地盤改良体を造成すると共に、地盤改良体中に芯材を挿入することにより、止水防護壁の機能を兼ね備えた仮土留め壁を構築するための研究を行った。
【0004】
ところで、線路下の横断工事等、工事可能な時間帯に制約がある場合には、地盤改良体の造成から、止水防護壁の機能を兼ね備えさせるための芯材(例えばH型鋼)の挿入までの間に、20時間以上の工事休止期間を設ける必要がある。例えば、都市部の鉄道の運転が終了するのは午前1時頃であり、運転が再開するのは午前5時頃である。したがって、鉄道の運転が休止している約4時間の間に、地盤改良体を造成して、芯材を挿入することは困難であり、地盤改良体を造成した後に、次の鉄道の運転休止期間までの間、工事を中断せざるを得ない。
【0005】
従来の高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法では、20時間以上の工事休止期間を設けた場合に、地盤改良体が固化してしまい、芯材を挿入することができなかった。なお、固化材に固化遅延剤を混入して、地盤改良体の固化を遅らせる技術は知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3630648号公報
【特許文献2】特開2004−43275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法は、地盤改良体を造成することを目的とした工法であり、これをそのまま、止水防護壁の機能を兼ね備えた仮土留め壁の造成工事に適用することはできない。すなわち、特許文献1に記載された技術は、地盤改良体中に芯材を挿入すること、及び地盤改良体の造成から芯材の挿入までに20時間以上の工事休止期間を設けなければならないことについては何ら考慮されていない。
【0008】
また、特許文献2に記載された技術は、遅延剤に対してアルカリ金属の酸化物等からなる遅延強化助剤を加えて、地盤改良体の固化を遅らせることを目的とした技術であり、地盤改良体の針貫入試験、ベーンせん断試験等の貫入抵抗試験を行って、遅延強化助剤の混入量を算出している。また、実験結果として、遅延強化助剤を加えない遅延剤だけでは3〜4時間程度の遅延効果があり、遅延剤に遅延強化助剤を加えた実施例では、6〜8時間程度の遅延効果があるとしている。すなわち、特許文献2に記載された技術では、せいぜい6〜8時間程度の遅延効果しか期待できず、20時間以上の工事休止期間を設けなければならない開削工法による線路下の横断工事等には、到底適用できるのものではない。さらに、特許文献2に記載された技術は、室内実験の結果に基づいて固化材の遅延時間を管理しているが、実際の工事現場の土質は多種多様であり、室内実験の結果のみで一律に固化材の遅延時間を決定できるものではない。このため、各工事現場の土質等に応じて、臨機応変な固化材の遅延時間管理が望まれている。また、鉄道の線路下横断工事において、仮土留め壁等を造成する際には破線作業が必要となり、工数が増えることにより、工事が長時間化していた。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、改良対象となる地盤の地上付近に鉄道設備等が存在する場合に有用な高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を利用し、地盤改良体の造成から長時間が経過した後であっても、容易に芯材を挿入可能として、止水防護壁の機能を兼ね備えた仮土留め壁を容易かつ確実に造成することが可能な地盤改良体の造成方法を提供することを目的とする。さらに、鉄道の線路下横断工事において、破線作業を必要とせずに、容易かつ短時間で工事を行うことが可能な地盤改良体の造成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る地盤改良体の造成方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の地盤改良体の造成方法は、攪拌羽根と、固化材の吐出口及び噴射ノズルと、を備えたロッドを回転させながら地盤中に貫入し、吐出口から固化材を低圧で吐出させると共に、噴射ノズルから固化材を高圧で噴射させ、攪拌羽根により地盤中を掘削攪拌すると共に、その外周地盤を固化材の高圧噴射により切削攪拌して、地盤中に改良体を形成する高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を用いた地盤改良体の造成方法であって、固化材中に固化遅延剤を混入して、地盤改良体の固化を少なくとも20時間遅延させ、地盤改良体中に芯材を挿入する工程を含んでいる。
【0011】
そして、地盤改良体中に芯材を挿入する時点で、地盤改良体のテーブルフロー値が130mm以上となるように、工事対象となる地盤の土質に応じて、固化遅延剤の添加量を調整し、振動工法を併用して芯材を地盤改良体中に挿入することを特徴とするものである。
【0012】
また、地盤改良体中に芯材を挿入する時点で、地盤改良体のテーブルフロー値が150mm以上となるように、工事対象となる地盤の土質に応じて、固化遅延剤の添加量を調整し、芯材を地盤改良体中に自沈させることが可能である。
【0013】
また、本発明により造成される地盤改良体は、止水性を有する仮土留め壁として利用することができる。さらに、本発明に係る地盤改良体の造成方法は、鉄道の線路下横断工事において、破線作業を行うことなく地盤改良体を造成する際に利用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る地盤改良体の造成方法によれば、高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を用いているため、小型機械による施工ができるので、鉄道軌道内や桁下等のように狭隘部や空頭制限下における施工が可能となる。
【0015】
また、固化材の噴射領域におけるラップ施工ができるので、止水性を確保した仮土留め壁を容易に構築することができ、止水性確保のために薬剤注入等の補助工が不要となる。
【0016】
また、地盤改良体に対して芯材をあと挿入することができるので、時間的な制約がある鉄道工事等において、容易かつ確実に止水防護壁の機能を兼ね備えた仮土留め壁を造成することが可能となる。
【0017】
また、地盤改良体中に芯材を挿入する時点における地盤改良体のテーブルフロー値を適切に管理することにより、地盤改良体の造成から芯材の挿入までに20時間以上の工事休止期間が存在する場合であっても、容易に地盤改良体中に芯材を挿入することができる。具体的には、工事対象となる地盤の土質に応じて固化遅延剤の添加量を調整し、150mm以上のテーブルフロー値を確保することができれば、芯材の自重により、地盤改良体中に芯材を挿入することができる。さらに、130mm以上のテーブルフロー値を確保することができれば、バイブロハンマー等を用いた振動工法を併用することにより、地盤改良体中に芯材を挿入することができる。
【0018】
特に、本発明に係る地盤改良体の造成方法は、止水性を有する仮土留め壁を造成する際に有効に利用することができる。また、本発明に係る地盤改良体の造成方法を鉄道の線路下横断工事に適用することにより、破線作業を行う必要がなくなり、容易かつ短時間で工事を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る地盤改良体の造成方法で使用する攪拌杭施工装置の模式図。
【図2】攪拌杭施工装置における先端ロッドの正面図(一部断面図)。
【図3】攪拌杭施工装置における分割ロッドの縦断面図。
【図4】直進性保持具の斜視図。
【図5】本発明の実施形態に係る地盤改良体の造成方法の工程(マシンセット工程、貫入/引き抜き造成工程)を示す説明図。
【図6】本発明の実施形態に係る地盤改良体の造成方法の工程(養生工程、H型鋼貫入工程)を示す説明図。
【図7】テーブルフロー値の経時変化を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る地盤改良体の造成方法の実施形態を説明する。
<発明の概要>
本発明の実施形態に係る地盤改良体の造成方法は、高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を用いたものである。この機械撹拌杭工法とは、攪拌羽根と、固化材の吐出口及び噴射ノズルと、を備えたロッドを回転させながら地盤中に貫入し、吐出口から固化材を低圧で吐出させると共に、噴射ノズルから固化材を高圧で噴射させ、攪拌羽根により地盤中を掘削攪拌すると共に、その外周地盤を固化材の高圧噴射により切削攪拌して、地盤中に改良体を形成する工法である。
【0021】
<攪拌杭施工装置>
まず初めに、本発明の実施形態で用いる攪拌杭施工装置について説明する。
図1は本発明の実施形態で用いる攪拌杭施工装置の説明図である。また、図2は先端ロッドの一部断面を示す正面図、図3は分割ロッドの縦断面図、図4は直進性保持具の斜視図である。
【0022】
この攪拌杭施工装置10は、図1に示すように、地盤中に改良体を造成するための装置であり、地盤に貫入するためのロッド20と、ロッド20の先端部に取り付けられた攪拌羽根21,22,23と、ロッド20の先端部から固化材を吐出するための吐出口24とを備えている。この攪拌杭施工装置10は、クローラ付車体100に取り付けられており、ロッド20を地盤中に貫入させるための装置として、ロッド20を長さ方向に移動させると共に所定位置で保持するためのロッドチャック41と、ロッド20を回転させるためのパワースイベル42と、ロッドチャック41を固定すると共にパワースイベル42をスライド可能に保持するスライドテーブル43と、パワースイベル42をスライドさせるための油圧シリンダ44とを備えている。
【0023】
また、詳細には図示しないが、この攪拌杭施工装置10は、ロッド20の貫入角度を調整するための貫入角度調整装置を備えており、鉛直方向に対するロッド20の貫入角度を10度〜60度程度の範囲で調整することができる。また、後に詳述するが、ロッド20には、直進性を保持するための直進性保持具を取り付けることが好ましい。
【0024】
ロッド20は、最先端部に位置する先端ロッド20aと、中間部に位置する複数の分割ロッド20bにより構成されている。すなわち、先端ロッド20aに接続するロッド20は、地盤改良体の造成位置の上方にある架線などの設備に接触しないように、複数の分割ロッド20b(図3参照)により構成されており、複数の分割ロッド20bを順次接続しながら地盤中へ貫入するようになっている。
【0025】
攪拌羽根21,22,23は、図2に示すように、先端ロッド20aの中間部及び上下の3箇所に取り付けられている。下側の攪拌羽根21には、複数のカッター25が設けられており、このカッター25で地盤50を掘削するようになっている。また、先端ロッド20aの攪拌羽根21より下側には、固化材を低圧吐出するための吐出口24が設けられている。さらに、攪拌羽根21の先端には、固化材を高圧で噴射するための噴射ノズル26が設けられている。噴射ノズル26は、全ての攪拌羽根21に設けてもよいが、施工対象となる地盤の状況等に応じて、取付位置を一部箇所にのみ限定してもよい。
【0026】
図2及び図3に示すように、先端ロッド20a及び分割ロッド20bは中空となっており、中空内部には固化材を吐出口24及び噴射ノズル26に供給するための細管27が挿入されている。また、先端ロッド20aの基端側には接合凸部28が設けられており、その他の分割ロッド20bには、先端側に接合凹部29が設けられると共に、基端側に接合凸部30が設けられている。接合凹部29内に接合凸部28を嵌め込むことにより、先端ロッド20aと分割ロッド20bとを一連に接合することができる。また、一対の分割ロッド20bを対向させて、接合凹部29内に接合凸部30を嵌め込むことにより、複数の分割ロッド20bを一連に接合することができる。
【0027】
本実施形態で使用する固化材は、例えば、セメント系固化材であり、このセメント系固化材と水を所定の割合(例えば8対10)で混練してスラリーを生成し、吐出口24から低圧吐出すると共に、噴射ノズル26から高圧噴射する。なお、後に詳述するが、所定の養生期間が経過してH型鋼を挿入する際に、H型鋼を容易かつ確実に挿入するため、スラリー中に固化遅延剤を混入する。
【0028】
図2に示すように、先端ロッド20aの先端部には、その貫入方向に延出すると共に、先端が先細り状となったパイロットビット31が取り付けられている。このパイロットビット31を地盤中に突き刺すことにより、噴射ノズル26から固化材を高圧噴射した場合であっても、ロッド20が貫入方向からずれることを防止している。
【0029】
図4に示すように、直進性保持具60は、ロッド20の中間部及び上部に取り付けられている。この直進性保持具60は、ロッド20に嵌合する内筒61と、この内筒61と同心の外筒62と、内筒61及び外筒62との間に掛け渡された複数の結合板63とを備えている。なお、詳細には図示しないが、直進性保持具60は、内筒61及び外筒62の直径方向の切断面において2分割されている。そして、外筒62の一方の切断部分がヒンジ(図示せず)で結合されており、他方の切断部分がロック部材(図示せず)で結合可能となっている
【0030】
一方、ロッド20には、内筒61を嵌め込むための小径部(図示せず)が設けられており、この小径部に内筒61を嵌め込むことにより、ロッド20に対して直進性保持具60を取り付けることができる。このような構成では、ロッド20を地盤50に貫入させる際に、ロッド20は回転するが、直進性保持具60は結合板63に作用する土の抵抗が大きいため回転しない。
【0031】
また、直進性保持具60は、外筒62が緩んだ土の外側に存在する比較的固い土によって全周的に支持されているので、側方へ位置ずれすることがない。したがって、攪拌羽根21の噴射ノズル26から固化材を高圧噴射した場合であっても、外筒62の中心部にあるロッド20が側方に位置ずれするのを確実に防止することができる。
【0032】
<固化材/固化遅延剤>
本発明の実施形態に係る地盤改良体の造成方法では、固化材中に、混和剤として固化遅延剤を混入して、地盤改良体の固化を少なくとも20時間遅延させる。固化遅延剤の添加量は、地盤改良体中に芯材となるH型鋼を挿入する時点で、地盤改良体のテーブルフロー値が130mm以上となるように、工事対象となる地盤の土質に応じて調整する。さらに、固化遅延剤の添加量は、地盤改良体中に芯材となるH型鋼を挿入する時点で、地盤改良体のテーブルフロー値が150mm以上となるように、工事対象となる地盤の土質に応じて調整することが好ましい。なお、固化遅延剤の添加量は、改良対象となる現場の土質や固化材の添加量に応じて、適宜設定する。
【0033】
固化材としては、セメント系固化材(株式会社デイ・シイ社製のネオセラメントSS)、高炉セメント等を用いることができる。また、固化遅延剤としては、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(L−酒石酸ナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム等)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどの有機酸、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを含有した混和剤を用いることができる。
【0034】
150mm以上のテーブルフロー値を確保することにより、H型鋼の自重により地盤改良体中にH型鋼を挿入することができる。また、130mm以上のテーブルフロー値を確保することができれば、バイブロハンマー等を用いた振動工法を併用することにより、地盤改良体中にH型鋼を挿入することができる。
【0035】
<地盤改良体の造成方法>
次に、本発明の実施形態に係る地盤改良体の造成方法について説明する。
本発明の実施形態に係る地盤改良体の造成方法は、上述した攪拌杭施工装置10を用いて施工するものである。図5(a)はマシンセット工程を示す説明図、図5(b)は貫入/引き抜き造成工程を示す説明図、図6(a)は養生工程を示す説明図、図6(b)はH型鋼貫入工程を示す説明図である。
【0036】
<地盤改良体の造成手順>
本発明の実施形態に係る地盤改良体の造成方法では、図5(a)に示すように、地盤改良体を造成する部分の地上付近に存在する構築物や鉄道設備などの障害物を避けるようにして、障害物の側方の適宜な位置に攪拌杭施工装置10を設置する。
【0037】
続いて、図5(a),(b)に示すように、パワースイベル42に先端ロッド20aを接続して、油圧シリンダ44を駆動してパワースイベル42を下限位置に移動させる。そして、先端ロッド20aとパワースイベル42との接続を切り離し、油圧シリンダ44を駆動してパワースイベル42を上限位置に移動させる。この際、先端ロッド20aの下端部を地盤50により支持し、上端部をロッドチャック41により支持する。
【0038】
続いて、ロッドチャック41により先端ロッド20aが回転しないように保持して、パワースイベル42を上方に移動させ、先端ロッド20aとパワースイベル42との間に分割ロッド20bを接続する。
【0039】
続いて、パワースイベル42によりロッド20及び攪拌羽根21,22,23を回転させながら、油圧シリンダ44を駆動してパワースイベル42を下方に移動させることにより、ロッド20及び攪拌羽根21,22,23を地盤中に貫入する。この際、先端ロッド20aの吐出口24から固化材を低圧で吐出しながら、攪拌羽根21,22,23により固化材と周囲の緩んだ土とを攪拌する。
【0040】
このようにして、パワースイベル42が下限位置に達すると、残りの分割ロッド20bを順次接続して貫入する。所定深さまでは、吐出口24から固化材を低圧で吐出させることにより、小径区間を形成する。
【0041】
そして、小径区間におけるロッド20の貫入が完了すると、吐出口24から固化材を吐出させると共に、攪拌羽根21の先端に設けた噴射ノズル26から固化材を高圧で噴射することにより、大径区間を形成する。固化材の高圧噴射により、攪拌羽根21の回転直径よりも大きな直径の範囲で土が緩み、この緩んだ土と固化材とが、攪拌羽根21,22,23及び高圧噴射された固化材によって攪拌される。
【0042】
ロッド20を所定の深さまで貫入して固化材と緩んだ土とを攪拌した後、図5(b)に示すように、ロッド20を逆回転させながらパワースイベル42を上方にスライドさせ、パワースイベル42が上限位置までスライドしたら、最上部より2番目の分割ロッド20bをロッドチャック41によって固定し、その上部に位置する分割ロッド20bを切り離す。同様にして、残りの分割ロッド20bを引き上げて順次切り離すことによって、ロッド20を引き抜きながら地盤改良体70を造成する。
【0043】
<土留め壁の造成(H型鋼の挿入)>
その後、図6(a)に示すように、所定時間(例えば24時間)の養生を行う。そして養生期間が経過後に、図6(b)に示すように、H型鋼80の挿入を行う。具体的なH型鋼80の挿入工程では、油圧シャベル110にバイブロハンマー90を取り付け、1本あたり1.5m程度のH型鋼80を用いて、添接板継手を行いながら、所定深さまで挿入する。上述したように、150mm以上のテーブルフロー値が確保されている場合には、バイブロハンマー90を駆動せずに、H型鋼80を地盤改良体中に自沈させる。また、130mm以上のテーブルフロー値が確保されている場合には、バイブロハンマー90を駆動してH型鋼80に振動を付与することにより、H型鋼80を地盤改良体中に挿入する。
【0044】
<実験結果>
図7を参照して、本発明の地盤改良体の造成方法におけるテーブルフロー値の経時変化について説明する。図7はテーブルフロー値の経時変化を示す説明図である。固化遅延剤の添加量を調整して作成した試験体について、テーブルフロー値の経時変化を確認すると共に、試験体へのH型鋼の挿入状態を確認するための実験を行った。
【0045】
図7に示すように、材齢20時間では、1例を除いて150mm以上のテーブルフロー値を確保することができ、所定のテーブルフロー値を確保できた試験体においては、H型鋼80を自沈させることが可能であった。また、材齢24時間〜48時間では、1例を除いて130mm以上のテーブルフロー値を確保することができ、所定のテーブルフロー値を確保できた試験体においては、バイブロハンマー90等を用いた振動工法を併用することにより、地盤改良体中にH型鋼80を挿入することが可能であった。
【0046】
なお、本実験においては、φ500mmの攪拌羽根21を使用し、造成する地盤改良体の径はφ800mm程度であり、挿入するH型鋼80はH−400材を使用し、H型鋼80の挿入深さは10m程度を目標とした。
【符号の説明】
【0047】
10 攪拌杭施工装置
20 ロッド
20a 先端ロッド
20b 分割ロッド
21,22,23 撹拌羽根
24 吐出口
25 カッター
26 噴射ノズル
27 細管
28 接合凸部
29 接合凹部
30 接合凸部
31 パイロットビット
41 ロッドチャック
42 パワースイベル
43 スライドテーブル
44 油圧シリンダ
50 地盤
60 直進性保持具
61 内筒
62 外筒
63 結合板
70 地盤改良体
80 H型鋼
90 バイブロハンマー
100 クローラ付車体
110 油圧シャベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌羽根と、固化材の吐出口及び噴射ノズルと、を備えたロッドを回転させながら地盤中に貫入し、前記吐出口から固化材を低圧で吐出させると共に、前記噴射ノズルから固化材を高圧で噴射させ、前記攪拌羽根により前記地盤中を掘削攪拌すると共に、その外周地盤を前記固化材の高圧噴射により切削攪拌して、前記地盤中に改良体を形成する高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を用いた地盤改良体の造成方法において、
前記固化材中に固化遅延剤を混入して、前記地盤改良体の固化を少なくとも20時間遅延させ、前記地盤改良体中に芯材を挿入する工程を含み、
前記地盤改良体中に前記芯材を挿入する時点で、前記地盤改良体のテーブルフロー値が130mm以上となるように、工事対象となる前記地盤の土質に応じて、前記固化遅延剤の添加量を調整し、振動工法を併用して前記芯材を前記地盤改良体中に挿入することを特徴とする地盤改良体の造成方法。
【請求項2】
攪拌羽根と、固化材の吐出口及び噴射ノズルと、を備えたロッドを回転させながら地盤中に貫入し、前記吐出口から固化材を低圧で吐出させると共に、前記噴射ノズルから固化材を高圧で噴射させ、前記攪拌羽根により前記地盤中を掘削攪拌すると共に、その外周地盤を前記固化材の高圧噴射により切削攪拌して、前記地盤中に改良体を形成する高圧噴射併用型の機械攪拌杭工法を用いた地盤改良体の造成方法において、
前記固化材中に固化遅延剤を混入して、前記地盤改良体の固化を少なくとも20時間遅延させ、前記地盤改良体中に芯材を挿入する工程を含み、
前記地盤改良体中に前記芯材を挿入する時点で、前記地盤改良体のテーブルフロー値が150mm以上となるように、工事対象となる前記地盤の土質に応じて、前記固化遅延剤の添加量を調整して、前記芯材を前記地盤改良体中に自沈させることを特徴とする地盤改良体の造成方法。
【請求項3】
前記地盤改良体は、止水性を有する仮土留め壁として利用することを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤改良体の造成方法。
【請求項4】
鉄道の線路下横断工事において、破線作業を行うことなく前記地盤改良体を造成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の地盤改良体の造成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−153449(P2011−153449A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14983(P2010−14983)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(391000863)日本綜合防水株式会社 (3)
【Fターム(参考)】