説明

地盤改良工法および地盤改良機材

【課題】捨石等の地中障害物を容易にかわすことができ、また地中障害物の周囲でも改良不能域を出すことなく可及的に効率よく改良体を造成できる地盤改良工法を提供する。
【解決手段】硬化材注入管4の先端部にモニター機構8が取り付けられ、モニター機構8は単一の攪拌翼9を硬化材注入管4の管軸方向先端側に向けて閉じる姿勢と管半径方向へ突出する開き姿勢とにわたって支軸10回りに揺動可能に具備し、攪拌翼9は攪拌ロッド9bにカッター部材9cを遊転可能に外嵌している。改良体の造成に際しては硬化材注入管4を回転させながら地中から引抜くと同時に、該硬化材注入管4の回転に伴い一体的に回転する開姿勢の攪拌翼9により地山を掘削攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的軟弱な地盤中に硬化材を注入し、地盤と攪拌混合することにより改良体の造成を行う地盤改良工法およびそれに用いられる地盤改良機材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の地盤改良工法には、攪拌掘削軸に、掘削土壌を攪拌し硬化材を混合する攪拌翼を直交状に固定してなる機械攪拌工法(例えば、特許文献1参照)や、機械攪拌とジェット噴射(高圧噴射攪拌)とを併用する工法(例えば、特許文献2,3参照)などがある。
また、図6に示すように、攪拌翼が固定された方式とは異なり、任意の掘削深さで硬化材注入ロッド22を回転させながら該注入ロッド22の下端部に開閉可能に備えた一対の攪拌翼20,21を開き、この攪拌翼20,21で拡幅掘削・攪拌を行う拡幅式(開翼式)地盤改良工法がある(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−328554号公報(図1)
【特許文献2】特開2000−17650号公報
【特許文献3】特開2005−76211号公報(図3)
【特許文献4】特開平10−121459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1等に記載される機械攪拌工法では、地表面から改良地盤まで同じ改良径で掘削する必要があるため削孔等に多大な時間を要し、また、対象地盤中に削孔の障害物となる捨石、コンクリート塊、木杭などが存在する箇所は削孔できない等の問題があった。
また、特許文献2,3等に記載される機械攪拌と高圧噴射攪拌とを併用する工法においても、削孔径を大きくする必要があり削孔等に多大な時間を要し、また高圧噴射攪拌に伴い硬化材の混入した排泥が多く生じてくるので、産業廃棄物となりこの処理に要するコストが高くなる。かと言って、高圧噴射注入工法で、硬化材を地表面に噴出させないで施工すると、周辺地盤の地盤隆起が起こり、周辺家屋や地下埋設物に悪影響を及ぼすことになるといった課題がある。
特許文献4に記載された拡幅式地盤改良工法では、図6のように二個で一組となる攪拌翼20,21が注入ロッド22に対称的に取り付けてなるものであるため、図7のように造成途中で一方の攪拌翼20が対象地盤中の捨石等の障害物16に当たった場合、それ以上掘削・攪拌を続けることができない。この結果、障害物16の存在箇所のみならず、注入ロッド22に関して障害物16と反対側にも掘削・攪拌されない改良不能域15Qができてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、削孔径は小さくても改良径の大きい改良体を得ることができ、硬化材の混入した排泥量の削減を図ることのできる地盤改良工法およびそれに用いられる地盤改良機材を提供することにある。
また本発明の目的は、上記のような、硬化材注入管の下端部に攪拌翼を開閉可能に備える開翼式の地盤改良工法において、攪拌翼の取付け本数や攪拌翼へのカッター部材の取付け構造に工夫を凝らすことにより捨石等の地中障害物を容易にかわすことができ、また地中障害物の周囲でも改良不能域を出すことなく可及的に効率よく改良体を造成できる地盤改良工法およびそれに用いられる地盤改良機材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の地盤改良工法は、先導管と、硬化材注入管と、この硬化材注入管の先端部に取り付けられ、単一の攪拌翼を硬化材注入管の管軸方向先端側に向けて閉じる姿勢と管半径方向へ突出する開き姿勢とにわたって支軸回りに揺動可能に具備したモニター機構とを用意し、前記先導管を地中の所定深さまで貫入して削孔する先行削孔工程と、先行削孔後、前記モニター機構が取り付けられた硬化材注入管を前記先導管に挿入する工程と、この硬化材注入管挿入後、前記先導管を地中から引抜く工程と、先導管引抜き後前記硬化材注入管を管軸回りに回転させながら前記攪拌翼を管半径方向へ突出させると同時に、前記硬化材注入管内に硬化材を圧送する工程と、前記硬化材注入管を管軸回りに回転させながら地中から引抜くと同時に、該硬化材注入管の回転に伴い一体的に回転する前記開姿勢の攪拌翼により地山を掘削しながら前記硬化材を前記硬化材注入管の先端側から地盤中に注入・攪拌し、改良体を地中に造成する工程と、を含むことに特徴を有するものである。
この場合において、前記攪拌翼は攪拌ロッドとこの攪拌ロッドに遊転可能に外嵌されたカッター部材とを備えたものとすることができる。
【0007】
本発明の地盤改良機材は、硬化材注入管と、この硬化材注入管の先端部に取り付けられたモニター機構とを備え、前記モニター機構が単一の攪拌翼を前記硬化材注入管の管軸方向先端側に向けて閉じる姿勢と管半径方向へ突出する開き姿勢とにわたって支軸回りに揺動可能に具備しており、前記攪拌翼が攪拌ロッドとこの攪拌ロッドに遊転可能に外嵌されたカッター部材とを備えていることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の地盤改良工法によれば、先導管により先行削孔を行うので、削孔径は小さく大深度削孔を可能にし、また先行削孔の任意の深さ位置で攪拌翼を開くことにより改良径の大きい地盤改良を達成できる。さらに攪拌翼で機械的に攪拌するので、高圧噴射攪拌によるような硬化材の混入した排泥量の発生はなく、排泥(産業廃棄物)処理の問題も解消できる。
【0009】
特に、本発明の地盤改良工法に用いる地盤改良機材の攪拌翼は硬化材注入管に1本だけ取り付けるので、地中障害物がある場合も、前述した従来の図6、図7に示すように二個で一組となる攪拌翼20,21が注入ロッド22に対称的に取り付けてなるもののごとき改良不能域15Qを出すことなく、効率良く改良体を造成することができる。また、攪拌翼のカッター部材は攪拌ロッド回りに遊転可能に取り付けているので、攪拌翼の先端が地中障害物に当たった場合も該障害物を抵抗少なくかわすことができる等、地中障害物の周囲でも改良体を効率良く造成できるという大きな利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好適な実施形態を図面に基づき説明する。図1(a)〜(f)は本発明の地盤改良工法による作業工程順を示す説明図、図2は本発明の地盤改良工法に使用する地盤改良機材のモニター機構の縦断面図である。
【0011】
本発明の地盤改良工法の一実施例を図1(a)〜(f)を参照して説明する。図1の(a)は先導管による先行削孔工程図、(b)硬化材注入管の建て込み工程図、(c)は攪拌翼の開き工程図、(d)は改良体の造成工程図、(e)は硬化材注入管の引抜き工程図である。以下、工程順に説明する。
【0012】
(1)先導管による先行削孔工程
図1(a)に示すように、地上にボーリングマシンMを設置し、先導管1による先行削孔3を水又は泥水を循環しながら目的の深度まで行う。即ち、先導管1の頭部に接続されたスイベル2の入口2aに水又は循環泥水を供給し、先導管1のメタルクラウン1aを装着した先端部先導管1bから前記水又は泥水を吐出させ、先導管1を管軸回りに回転させながらメタルクラウン1aで先行削孔することにより先導管1を地中の所定の深さまで貫入する。
【0013】
(2)硬化材注入管の建て込み工程
先行削孔後、図1(b)に示すように、地盤改良機材の一構成部材である硬化材注入管4を先導管1内に所定の深さまで建て込み、しかる後先導管1を引抜く。
【0014】
ここで使用される地盤改良機材の硬化材注入管4、モニター機構8、及び単一の攪拌翼9の一例を説明すると、硬化材注入管4は二重管ロッドからなり、図1(c)に示すように、その頭部には硬化材入口5、送り油導入口6及び戻り油導出口(図示せず)を有するスイベル7が接続され、先端部にはモニター機構8が接続される。硬化材入口5は硬化材供給装置(図示せず)と接続され、送り油導入口6及び戻り油導出口は油圧源(図示せず)と接続される。
モニター機構8は、図2に示すように、硬化材注入管4の先端部に攪拌翼9を支軸10回りに揺動可能に軸支する。攪拌翼9は攪拌ロッド9bに超硬合金製のカッター部材9cを攪拌ロッド9b回りに遊転可能に外嵌しているものである。一方、攪拌翼9の上方に対応する硬化材注入管4の内部にはシリンダ11を縦向きに固定し、このシリンダ11内にピストン12を往復運動するよう設けている。攪拌翼9の支軸10より後方の揺動基端部9aとピストン12とは連杆13を以って連結している。
送り油導入口6から送られてくる作動油14の油圧でピストン12が下降し、作動油14が戻されることによりピストン12が上昇する。このピストン12の下降、上昇により連杆13を介して攪拌翼9が仮想線Aで示すごとく硬化材注入管4の管軸方向先端側に向けて閉じる姿勢と実線で示すごとく管半径方向へ突出する開き姿勢(rは改良半径)とにわたって支軸10回りに揺動するように構成されている。攪拌翼9の揺動角θは、0°≦θ≦90°である。
なお、先導管1内には硬化材注入管4が攪拌翼9を閉じた姿勢で建て込まれる。
【0015】
(3)攪拌翼の開き工程
硬化材注入管4の建て込み後は、図1(c)に示すように、硬化材注入管4のスイベル7の硬化材入口5に硬化材を圧送し、送り油導入口6に作動油を送り込む。そして、ボーリングマシンMで硬化材注入管4を管軸回りに回転下降させながら油圧を高めていってモニター機構8の攪拌翼9を開いて行く。この時、硬化材は低吐出圧に調整しながら硬化材注入管4内に圧送する。
【0016】
(4)改良体の造成工程
攪拌翼9が開くと(図2参照)、図1(d)に示すように、硬化材注入管4を回転させながら引抜いて行き、これと同時に、硬化材注入管4の回転(正転または逆転)に伴い一体的に回転する開姿勢の攪拌翼9により地山を掘削しながら硬化材を硬化材注入管4の先端側から低圧、中圧、または高圧にて地盤中に注入・攪拌し、改良体15を地中に造成する。この造成によれば、小口径の先行削孔3でも、改良範囲H(図1(e)参照)だけの区間で攪拌翼9を開くことでよいため、削孔時間および工期が短縮できる。
【0017】
改良体の造成工程において、造成途上で捨石等の地中障害物が無い通常の地盤であれば、滞りなく断面円形(円柱状)の改良体15を造成することができる。
図3に示すように、攪拌翼9が捨石等の地中障害物16に当たった場合でも、その攪拌翼9は1本であるため、図7に示す二個で一組となる攪拌翼20,21のように地中障害物16に当たるとそれ以上掘削・攪拌を続けることができず、注入ロッド22に関して障害物16と反対側に掘削・攪拌されない改良不能域15Qができてしまうという不具合な事態が生じることなく、図3のように障害物16以外の箇所には改良不能域を出すことなく断面欠円形状(欠円柱状)の改良体15を造成でき、改良性能を向上できる。
また、図4に示すように、攪拌翼9の先端が障害物16に当たった場合でも、ピストン12の背面側に送る作動油14の油圧を圧力調節することと、カッター部材9cが攪拌ロッド9b回りに遊転することにより、障害物16を抵抗少なくかわすことができる。
【0018】
(5)硬化材注入管の引抜き工程
造成完了後は、硬化材、作動油の供給を停止し、攪拌翼9を閉じて、図1(e)に示すように、硬化材注入管4を引抜く。硬化材注入管4の引抜き後は、硬化材注入管4の引抜きにより改良体15の上方に残る先行削孔3を排泥やモルタル等で穴埋めを行う。
なお、引抜かれた硬化材注入管4は管内を清水で洗浄したうえで、次の施工位置に移動させる。
【0019】
硬化材注入管4に対し攪拌翼9が1本のみ取り付けられている為、図5に示すように、障害物16が山留め壁等連続壁状である場合は、連続壁状の障害物16に沿って所定間隔置きに断面半円形(半円柱状)の改良体15を造成することができ、隣接する改良体15,15同士は密着させることができる。
【0020】
なお、上記実施形態では、単一の攪拌翼9を閉じ姿勢と開き姿勢とにわたって支軸10回りに揺動させる機構としてはピストン12と連杆13とからなるものについて例示したが、これに限られず、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
なお、本発明の地盤改良工法は水平の地盤改良にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)〜(d)は本発明の地盤改良工法による作業工程順を示す説明図である。
【図2】本発明の地盤改良工法に使用する地盤改良機材のモニター機構の縦断面図である。
【図3】地中障害物があった場合の改良体の造成状態図である。
【図4】攪拌翼が地中障害物をかわす状態図である。
【図5】連続壁状の障害物に沿った改良体の造成状態図である。
【図6】(A)(B)(C)は従来例の地盤改良工法に用いられる注入ロッド及び攪拌翼の使用状況を示す外観斜視図である。
【図7】図6の従来例の攪拌翼による改良体の不具合な造成状態図である。
【符号の説明】
【0023】
1 先導管
3 先行削孔
4 硬化材注入管
8 モニター機構
9 攪拌翼
9b 攪拌ロッド
9c カッター部材
10 支軸
15 改良体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先導管と、硬化材注入管と、この硬化材注入管の先端部に取り付けられ、単一の攪拌翼を硬化材注入管の管軸方向先端側に向けて閉じる姿勢と管半径方向へ突出する開き姿勢とにわたって支軸回りに揺動可能に具備したモニター機構とを用意し、前記先導管を地中の所定深さまで貫入して削孔する先行削孔工程と、先行削孔後、前記モニター機構が取り付けられた硬化材注入管を前記先導管に挿入する工程と、この硬化材注入管挿入後、前記先導管を地中から引抜く工程と、先導管引抜き後前記硬化材注入管を管軸回りに回転させながら前記攪拌翼を管半径方向へ突出させると同時に、前記硬化材注入管内に硬化材を圧送する工程と、前記硬化材注入管を管軸回りに回転させながら地中から引抜くと同時に、該硬化材注入管の回転に伴い一体的に回転する前記開姿勢の攪拌翼により地山を掘削しながら前記硬化材を前記硬化材注入管の先端側から地盤中に注入・攪拌し、改良体を地中に造成する工程と、を含むことを特徴とする、地盤改良工法。
【請求項2】
前記攪拌翼が攪拌ロッドとこの攪拌ロッドに遊転可能に外嵌されたカッター部材とを備えている、請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項3】
硬化材注入管と、この硬化材注入管の先端部に取り付けられたモニター機構とを備え、前記モニター機構が単一の攪拌翼を前記硬化材注入管の管軸方向先端側に向けて閉じる姿勢と管半径方向へ突出する開き姿勢とにわたって支軸回りに揺動可能に具備しており、前記攪拌翼が攪拌ロッドとこの攪拌ロッドに遊転可能に外嵌されたカッター部材とを備えていることを特徴とする、地盤改良機材。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate