説明

地盤改良工法

【課題】施工品質を確保しつつ施工能率を向上することができる地盤改良工法を提供する。
【解決手段】攪拌羽根2を備えたロッド3を地盤中に回転しながら、かつ地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入し、ロッドを回転させて地盤改良材をロッドから注入しながら攪拌羽根で地盤を攪拌混合しつつ、ロッドを引き抜く地盤改良工法において、地盤改良材を注入しないロッド貫入時の攪拌羽根の羽根切り回数を、地盤改良材を注入するロッド引抜時の攪拌羽根の羽根切り回数に算入して調整羽根切り回数とし、調整羽根切り回数を、予め設定した地盤改良体強度変動係数と調整羽根切り回数との関係から、目標とする地盤改良体強度変動係数に基づいて設定し、設定された調整羽根切り回数を施工管理項目として地盤改良を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱な地盤を改良して地盤中にブロック状、壁状、格子状、杭状、層状等の固化体や改良地盤を造成する際に用いる地盤改良工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、石灰、セメント等の固化材をスラリー状に調製し、これらのスラリーを地盤内の土と攪拌・混合することにより、固化材スラリーの水和反応,この水和反応による水和生成物と粘土鉱物とのイオン交換作用,あるいはポゾラン反応などを主体とする化学的固結反応を利用して土を化学的に固化させて、地盤内に改良杭を造成することによって地盤を改良したり固化体を造成したりする地盤改良工法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような地盤改良工法では、図6に示すような、杭打ち機をベースとした地盤改良装置(処理機)1および施工管理システムが用いられている。処理機1は先端部に攪拌羽根2を備えたスクリューロッド3をベースマシン4により鉛直に支持し、駆動装置5によりスクリューロッド3を回転させて改良対象範囲の最深部まで貫入させた後、スクリューロッド3の先端部に設けてある吐出口から地盤改良材としてのセメントスラリーを地中に注入しつつ、かつ注入したセメントスラリーと土砂とを攪拌羽根2により攪拌混合しながらスクリューロッド3を引き抜くことで改良杭を形成するように構成されている。
【0004】
また、その処理機1により改良杭を形成する場合における施工管理システムは、スラリー流量計6、スクリューロッド3の軸回転計7、駆動装置5の電流検出計8、スクリューロッド3の深度計9および昇降速度計10を備え、それら各センサによる検出値を管理装置11に入力して、セメントスラリーの注入量、スクリューロッド3の回転数、到達深度、貫入速度および引き抜き速度を管理項目として監視するように構成されている。符号12はベースマシン4に設置されているオペレーションモニタ、13はデータ保存用のパソコンである。
【0005】
そして、このような処理機1を用いて地盤を改良するには、攪拌羽根2を備えたスクリューロッド3を地盤中に回転しながら、かつ、地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入し、そのスクリューロッド3を回転させて地盤改良材をスクリューロッド3の先端部から注入しながら攪拌羽根2で地盤を攪拌混合しつつスクリューロッド3を引き抜くことで、地盤内に円柱状に土を固化させた改良杭を造成する地盤改良工法が知られている。このような地盤改良工法においては、攪拌羽根2の地盤中における単位深度(1m)あたりの引抜時(地盤改良材注入時)における羽根切り回数が施工管理項目となっている。
【0006】
この羽根切り回数の多少は、地盤改良材と地盤との攪拌混合の程度に影響し、羽根切り回数を多くすれば、施工スピードは遅くなるが地盤改良材と地盤との混り具合がよくなる。地盤改良材と地盤とがよく混合されれば、生成される地盤改良体は全体的に良好に強度発現するようになるため、現場強度は設計強度に対して小さい割増しで済む。なお、この「現場強度」は、実際の施工における強度のバラツキを考慮して、設計強度に対して所定の割合で割増ししたものである。
【0007】
逆に、羽根切り回数を少なくすると、施工スピードは速くなる。しかし、地盤改良材と地盤との混合不足から強度発現しないものも出てくる虞があるため、このような場合、現場強度は設計強度に対して大きく割増しする必要がある。この割増しに関係するのが変動係数であり、変動係数と羽根切り回数とは所定の関係性を有している。
【0008】
ちなみに、地盤改良体の設計強度と現場強度と変動係数との関係式は以下の通りである。
Qf=Qd/(1−α・Vc/100) …(1)
なお、Qf:現場一軸圧縮強度(現場強度)、Qd:設計一軸圧縮強度(設計強度)、Vc:変動係数(%)、α:係数(不良発生率10%を考慮した場合α=1.3)
【0009】
上記(1)式によると、例えば、設計強度Qd=1000kN/mのとき、変動係数Vc=30%とすると、現場強度Qf=1640kN/mであり、変動係数Vc=15%とすると、現場強度Qf=1240kN/mとなる。
【0010】
現場強度Qfを大きくするには、水とセメントとからなる地盤改良材(セメントスラリー)の地盤中への注入量を増やす必要がある。地盤改良材の水とセメントとの重量比はほぼ同じであるため、このことはセメントの混入量を増やすことでもある。つまり、変動係数Vcの大小は施工コストに影響するのである。
【0011】
従来では、地盤改良材が注入された後の羽根切り回数と変動係数との関係を求め、施工管理においては、施工能率に関係する羽根切り回数と施工コストに関係する変動係数を勘案し、目標とする変動係数に対応する羽根切り回数を求め、この羽根切り回数と現場の羽根切り回数が同じになるように施工管理していた。
【0012】
上記の変動係数と羽根切り回数との関係であるが、スクリューロッド貫入時にスクリューロッドを回転しながら地盤改良材を地盤に注入して、地盤改良材と地盤とを攪拌混合する従来の地盤改良工法においては、図7のような関係図(片対数グラフ)に基づいて羽根切り回数を設定していた。なお、ここでの羽根切り回数は、地盤改良材を地盤中に注入し、地盤改良材と地盤とを攪拌混合するときの羽根切り回数である。
【0013】
一方、スクリューロッド貫入時に地盤改良材を注入せず、スクリューロッド引抜時にスクリューロッドを引き抜きながら地盤改良材を注入して、地盤改良材と地盤とを攪拌混合する地盤改良工法において、目標とする変動係数から地盤改良材を注入するスクリューロッド引抜時の羽根切り回数を設定する際にも、この関係図を利用していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3583307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、攪拌羽根による地盤改良工法においては、上述したように、羽根切り回数を多くすれば地盤改良材と地盤との混り具合がよくなるものの施工スピードは遅くなり、逆に、羽根切り回数を少なくすると、施工スピードは速くなるものの地盤改良体に所望の強度が発現しない虞があるという問題があった。
【0016】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、施工品質を確保しつつ施工能率を向上することができる地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、出願人は、施工能率に大きく関係する羽根切り回数に着目した。具体的には、スクリューロッド貫入時に地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入するときの羽根切り回数を評価することで本発明に至った。
具体的に、請求項1に記載した発明は、攪拌羽根を備えたロッドを地盤中に回転しながら、かつ地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入し、前記ロッドを回転させて前記地盤改良材を前記ロッドから注入しながら前記攪拌羽根で前記地盤を攪拌混合しつつ、前記ロッドを引き抜く地盤改良工法において、前記地盤改良材を注入しないロッド貫入時の前記攪拌羽根の羽根切り回数を、前記地盤改良材を注入するロッド引抜時の前記攪拌羽根の羽根切り回数に算入して調整羽根切り回数とし、該調整羽根切り回数を、予め設定した地盤改良体強度変動係数と調整羽根切り回数との関係から、目標とする地盤改良体強度変動係数に基づいて設定し、前記設定された調整羽根切り回数を施工管理項目として地盤改良を行うことを特徴としている。
【0018】
請求項1に係る地盤改良工法によれば、調整羽根切り回数に基づいて地盤改良することにより、地盤改良材を注入するロッド引抜時の羽根切り回数を従来より少なくしてもよくなるため、従来よりも羽根切り回数を減少させて施工能率を向上することができる。
また、このように構成することで、地盤改良の状況を管理する施工管理システムにおいて、直接的に調整羽根切り回数を用いて施工管理することができる。たとえば、地盤改良の施工管理システムとしてロッド貫入時の羽根切り回数とロッド引抜時の羽根切り回数を改良深度毎に合計して算出・表示できるようにして、調整羽根切り回数を施工管理項目として設定して施工管理することができる。
【0019】
また、請求項2に記載した発明は、攪拌羽根を備えたロッドを地盤中に回転しながら、かつ地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入し、前記ロッドを回転させて前記地盤改良材を前記ロッドから注入しながら前記攪拌羽根で前記地盤を攪拌混合しつつ、前記ロッドを引き抜く地盤改良工法において、前記地盤改良材を注入しないロッド貫入時の前記攪拌羽根の羽根切り回数を、前記地盤改良材を注入するロッド引抜時の前記攪拌羽根の羽根切り回数に算入して調整羽根切り回数とし、該調整羽根切り回数を、予め設定した地盤改良体強度変動係数と調整羽根切り回数との関係から、目標とする地盤改良体強度変動係数に基づいて設定し、前記設定された調整羽根切り回数からロッド貫入時の羽根切り回数を控除したロッド引抜時の羽根切り回数を施工管理項目として地盤改良を行うことを特徴としている。
【0020】
請求項2に係る地盤改良工法によれば、調整羽根切り回数に基づいて地盤改良することにより、地盤改良材を注入するロッド引抜時の羽根切り回数を従来より少なくしてもよくなるため、従来よりも羽根切り回数を減少させて施工能率を向上することができる。
また、このように構成することで、地盤改良の状況を管理する施工管理システムにおいて、ロッド貫入時とロッド引抜時の羽根切り回数をそれぞれ算出するのみで調整羽根切り回数の算出・表示ができるようになっておらず、ロッド貫入時の羽根切り回数が改良深度毎にほぼ一定にできるようなものであれば、ロッド引抜時羽根切り回数を基に施工管理をすることができる。
【0021】
また、請求項3に記載した発明は、攪拌羽根を備えたロッドを地盤中に回転しながら、かつ地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入し、前記ロッドを回転させて前記地盤改良材を前記ロッドから注入しながら前記攪拌羽根で前記地盤を攪拌混合しつつ、前記ロッドを引き抜く地盤改良工法において、前記地盤改良材を注入しないロッド貫入時の前記攪拌羽根の羽根切り回数を、前記地盤改良材を注入するロッド引抜時の前記攪拌羽根の羽根切り回数に算入して調整羽根切り回数とし、目標とする地盤改良体強度変動係数を、予め設定した調整羽根切り回数と地盤改良体強度変動係数との関係から、所定の調整羽根切り回数に基づいて設定し、前記設定された地盤改良体強度変動係数から前記地盤中への前記地盤改良材の注入量を設定し、該注入量を前記地盤中に注入することを特徴としている。
【0022】
請求項3に係る地盤改良工法によれば、調整羽根切り回数に基づいて地盤改良することにより、施工能率は従来のままであっても地盤改良材の注入量を減らしてコスト低減することができる。
【0023】
また、請求項4に記載した発明は、前記地盤中へのロッド貫入時に前記ロッドから注水することを特徴としている。
【0024】
請求項4に係る地盤改良工法によれば、地盤への注水で地盤を軟らかくすることができ、ロッドの貫入・回転がよりスムーズになって、地盤改良材吐出前の事前の羽根切りによるほぐし効果を高めることができる。
【0025】
また、請求項5に記載した発明は、前記注水の量は、改良対象地盤の液性限界から求めた水量に近似した量であることを特徴としている。
【0026】
請求項5に係る地盤改良工法によれば、地盤へ注入する量を適量とすることで、地盤への注水量が多くなりすぎて地盤改良体の強度が低下してしまうのを防止することができる。つまり、ロッドの貫入・回転がよりスムーズになって、地盤改良材吐出前の事前の羽根切りによるほぐし効果を高めることができるとともに、地盤改良体の強度を確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の地盤改良工法によれば、調整羽根切り回数に基づいて地盤改良することにより、地盤改良材を注入するロッド引抜時の羽根切り回数を従来より少なくしてもよくなるため、従来よりも羽根切り回数を減少させて施工能率を向上することができる。または、施工能率は従来のままにして地盤改良材の注入量を減らしてコスト低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態の地盤改良工法に用いる施工管理システムの概要を示す図である。
【図2】本実施形態の地盤改良工法における羽根切り回数と変動係数との関係を示すグラフ(1)である。
【図3】本実施形態の地盤改良工法における羽根切り回数と変動係数との関係を示すグラフ(1)である。
【図4】本実施形態の施工管理システムにおける管理データの一例を示す図である。
【図5】同システムにおける管理データの他の例を示す図である。
【図6】従来の深層混合処理工法における処理機と施工管理システムの概要を示す図である。
【図7】従来の地盤改良工法における羽根切り回数と変動係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の地盤改良工法の具体的な実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の地盤改良工法は、図6に示した改良機1による排土式の深層混合処理工法である。つまり、図6の改良機1において、攪拌羽根2を備えたスクリューロッド3を地盤中に回転しながら、かつ水とセメントからなるセメントスラリー(地盤改良材スラリー)を注入しないで所定の改良深度まで貫入到達させ、その後スクリューロッド3を回転させて最深部の着底改良を施し、そしてスクリューロッド3を回転させてスクリューロッド3の先端部のスラリー吐出口(図6においてはスラリー吐出口の図示はないが、スラリー吐出口は、図6のスクリューロッド3の下端位置と複数段の攪拌羽根2のうち最上段の攪拌羽根2の近傍位置に設けられている。着底改良時にはスクリューロッド下端のスラリー吐出口から地盤改良材スラリーを注入するが、スクリューロッド3引抜き時の地盤改良材スラリーの注入は、最上段の攪拌羽根2近傍のスラリー吐出口から行う。)から地盤改良材スラリーを注入しながら攪拌羽根2で地盤を攪拌混合しつつスクリューロッド3を引き抜く地盤改良工法において、地盤改良材スラリー注入量相当分の土砂を排出することで、地盤改良材スラリー注入に伴う地盤変位を低減させる工法である。本実施形態で用いられる施工管理システムは、図6に示した従来の施工管理システムを基本としつつ、その管理項目に従来とは算出方法を異ならせた「排土量」を付加して改良機1による排土量を監視し、それを適正に維持することで原地盤の変位(盛り上がりや周辺地盤への悪影響)を防止するように構成されている。さらに、本実施形態の施工管理システムではセメントスラリーと土砂との攪拌混合状態を定量的に把握してそれを適正に管理するべくスクリューロッド貫入時の羽根切り回数を加味した「羽根切り回数」を管理項目として付加している。
【0030】
すなわち、本実施形態で用いられる施工管理システムは、図1にその概要を示すように、品質管理上の管理項目として「材料」、「配合」、「混合(羽根切り回数)」を設定し、出来形管理上の管理項目として「打設位置」、「打設深度」、「着底」を設定し、地盤の変位管理上の管理項目として「排土量」を設定している。それら各管理項目のうち「材料」、「配合」、「打設位置」、「打設深度」、「着底」については図6に示した従来の施工管理システムと共通するものであり、「混合(羽根切り回数)」および「排土量」は本実施形態において従来とは内容を変えて付加した管理項目である。
【0031】
従来と共通する管理項目のうち、「材料」は地盤改良材としてのセメントスラリーの状態(セメント量や水量)を管理するもの、「配合」はスラリー流量計6により検出されるスラリー注入量(吐出量)と昇降速度計10により検出されるスクリューロッド3の昇降速度とにより単位深度当たりの注入量が適正であるか否かを管理するもの、「打設位置」はトランシット等による測量により改良杭の形成位置を管理するもの、「打設深度」は深度計9によりスクリューロッド3の位置を検出してそれを管理するもの、「着底」は電流計8により検出される駆動装置5の作動状態と昇降速度計10により検出される貫入速度とからスクリューロッド3の先端が改良対象範囲の最深部に達したか否かを管理するものである。
【0032】
また、本実施形態において付加した管理項目のうち、「排土量」は軸回転計7により検出されるスクリューロッド3の回転数と、スクリュー形状および排土係数とにより推定排土量を演算し、それがスラリー注入量と同等になるように管理するものである。
【0033】
本実施形態においては推定排土量の演算は次のようにして行う。推定排土量Vはスクリュー断面積SとスクリューピッチPと軸回転数Nの関数であり、その比例定数を排土係数Kとして、以下のように表される。
V=K・S・P・N …(2)
なお、V:推定排土量(m
K:排土係数
S:スクリュー断面積(m
P:スクリューピッチ(m)
N:軸回転数(回)
上記(2)式では、スクリュー断面積SとスクリューピッチPは改良機1の固有の定数であるから、排土係数Kの値が決まれば、あとは貫入から引き抜きまでの軸回転数Nを測定することのみで推定排土量Vを演算することができる。
【0034】
ここで、本願の発明者らは、排土係数Kと地盤改良材混入率xとの間に相関関係があるのではないかと考え、多数の工事実績(データ数n=99)に基づいて、排土係数Kと地盤改良材混入率xとの相関関係を調べた。その結果、下記の式(相関係数r=0.81)が得られた。
K=0.5116x+0.0066 …(3)
x:地盤改良材混入率
なお、上記(3)式は、地盤が粘性土の場合の式であり、同様の相関式は地盤の土質条件ごとに予め求めることができる。
【0035】
また、地盤改良材混入率xは、改良地盤に対する地盤改良材スラリーの注入量の容積比率のことであり、改良地盤の強度をどの程度にするかで決定されるものである。単位改良地盤(1m)に添加される地盤改良材の添加量(kg)は予め決めるが、例えば大よそ改良地盤1m当たりの添加量は100kg程度である。また、地盤改良材はセメントに水を加えた地盤改良材スラリー(セメントスラリー)として注入するものであり、セメント(C)に対する水(W)の添加比率W/Cも施工性を考慮して予め設定しておく。なお、W/C=100%程度に設定するのが一般的である。この場合、添加量100kgに相当する地盤改良材スラリーは約133リットル(セメントの比重を3とする)である。改良地盤1m中に133リットルの地盤改良材スラリーが注入・混入されている場合、地盤改良材混入率x=0.133(13.3%)となる。このように、地盤改良材混入率xは予め決めておく。そして、x=0.133を上記(3)式に代入して排土係数K=0.755を算出する。
【0036】
上記のようにして、地盤改良材混入率xに基づいて上記(3)式から予め求めておいた排土係数Kを算出設定する。あるいは、地盤改良材混入率xと排土係数Kの直交座標において上記(3)式を直線図表にしたものから地盤改良材混入率xに対応する排土係数Kを設定する。そして、設定された排土係数Kとスクリュー断面積S、スクリューピッチPとを管理装置11に入力しておけば、軸回転計7により検出した軸回転数Nを管理装置11に入力するだけで、上記(2)式により推定排土量Vが演算されて算出される。なお、軸回転計7からの軸回転数Nの出力を自動で管理装置11に入力するようにしておくのがよい。そのようにすれば、予め入力されたK,S,Pによりスクリューロッド3を引き抜いた後、すぐに推定排土量Vが演算されて算出される。そして、本実施形態の施工管理システムにおいては、1本の改良杭を施工するごとにその推定排土量Vを演算し、それをスラリー流量計6により検出されるスラリー注入量と比較して施工良否の判定を行うようにされている。なお、軸回転数Nを調節すれば推定排土量Vを増減することができるから、必要であれば推定排土量Vが適正になるように刻々と制御することも可能である。
【0037】
次に、本実施形態において付加した管理項目である「羽根切り回数」について説明する。羽根切り回数は、スクリューロッド3が単位長さ引き抜かれる際に各攪拌羽根2による羽根切りがなされた回数を示す値である。つまり、羽根切り回数T(回/m)=(スクリューロッド回転数n[回/分]×攪拌羽根枚数M[枚])/(スクリューロッド昇降速度v[m/分])で表される。この式における攪拌羽根の総枚数Mは改良機固有の定数であるから、軸回転計7により検出される回転数nと速度計9により検出される引き抜き速度vとにより羽根切り回数Tを求めることができる。
【0038】
実際の施工においてスクリューロッド3を引き抜きつつ地盤改良材をスラリーにして吐出し、地盤改良材と地盤とを攪拌混合したときの羽根切り回数T(回/m)と、そこから採取した改良体A〜Dの強度の変動係数Vc(%)との関係を表1に示す。また、これらの結果を従来の関係グラフ(図7)にプロットしたものが、図2の三角点A1〜D1である。
【0039】
【表1】

【0040】
この三角点A1〜D1の地盤改良材吐出後の羽根切り回数Tに基づく変動係数Vcの大きさは、従来の関係グラフから求めた変動係数Vcの大きさよりも小さい値になっている。つまり、地盤改良材吐出前のスクリューロッド貫入時の羽根切り回数が変動係数に貢献している、言い換えれば、地盤改良材を吐出しないで地盤を攪拌してほぐすことが、その後の地盤改良材を吐出しての地盤攪拌効果に良い影響を与える、と推察できる。
【0041】
そこで、地盤改良材吐出・注入前のスクリューロッド貫入時の羽根切り回数を、地盤改良材を吐出・注入してのスクリューロッド引抜時の羽根切り回数に算入して加えたものを合計羽根切り回数とし、この合計羽根切り回数と変動係数との関係を表にしたものを表2に示す。これを従来の関係グラフ(図7)にプロットしたものが、図3の丸点A2〜D2である。
【0042】
【表2】

【0043】
図3に示すように、丸点A2〜D2の方が、三角点A1〜D1よりも従来の関係グラフに接近している。つまり、合計羽根切り回数で評価してもよいと判断できる。
【0044】
図3の4つの丸点A2〜D2における検証範囲付近を回帰式で表したものが下式である。
Vc=−7.45ln(T)+64.221 r=0.9345 …(4)
Vc:変動係数(%)、T:合計羽根切り回数、r:相関係数、ln(T):自然対数
【0045】
本実施形態においては、目標とする変動係数Vcを上記(4)式に代入して合計羽根切り回数Tを算出設定し、この合計羽根切り回数Tで施工管理する。例えば、地盤改良の施工管理システムとしてスクリューロッド貫入時の羽根切り回数とスクリューロッド引抜時の羽根切り回数を改良深度ごとに合計して算出・表示できるようにすると、合計羽根切り回数Tを施工管理項目として設定して施工管理することができる。なお、上記(4)式を直交座標の図表にしてもよく、その場合は目標とする変動係数Vcをこの図表に当てはめてこれに対応する合計羽根切り回数Tを設定することでもよい。
【0046】
一方で、地盤の種別・硬軟により地盤改良材を吐出しない状態でのスクリューロッドの好ましい貫入速度やそのときの好ましいスクリューロッド回転数は経験上把握されていることから、スクリューロッド貫入時の羽根切り回数はほぼ決まってくると考えられる。
【0047】
そして、地盤改良の施工管理システムとしてはスクリューロッド貫入時と引抜時の羽根切り回数をそれぞれ算出するのみで合計羽根切り回数の算出・表示ができるようになっていない場合は、合計羽根切り回数Tからスクリューロッド貫入時の羽根切り回数を差し引く、つまり控除して、スクリューロッド引抜時羽根切り回数を基に施工管理をすることでもよい。いずれの方法でも施工管理することができる。
【0048】
例えば、地盤改良体強度の変動係数Vcを15%に設定した場合、上記(4)式によれば、合計羽根切り回数は740回となる。スクリューロッド貫入時の羽根切り回数を300回とする場合、スクリューロッド引抜時の羽根切り回数は440回となる。このスクリューロッド引抜時の羽根切り回数は、従来であれば1000回近い羽根切り回数となっていたが、それと比較すれば大幅な減少となる。このことにより、従来よりもスクリューロッド引抜速度を大きくすることができ、施工能率が向上する。
【0049】
実際の地盤改良においては、施工管理システムに表示される合計羽根切り回数またはスクリューロッド引抜時の羽根切り回数が、目標とする地盤改良体強度変動係数に基づいて上式(地盤改良体強度変動係数と合計羽根切り回数との関係式)から求めた合計羽根切り回数またはスクリューロッド引抜時の羽根切り回数の所定管理値から外れないように、スクリューロッド回転数やスクリューロッド引抜速度を調整するなどの施工管理をして地盤改良をすることになる。なお、地盤改良体強度変動係数と合計羽根切り回数との関係は上式に限定されず、今後の施工データの積み上げによって変わり得るものである。
【0050】
また、地盤改良材を注入しないスクリューロッド貫入時の攪拌羽根の羽根切り回数を、地盤改良材を注入するスクリューロッド引抜時の攪拌羽根の羽根切り回数に算入して加えたものを合計羽根切り回数とすることにおいて、上記実施形態のようにスクリューロッド貫入時の羽根切り回数を100%加算する場合の他に、スクリューロッド貫入時の羽根切り回数の一部(例えば、7割〜8割程度)を加算する場合や、スクリューロッド貫入時の羽根切り回数の加算に所定の上限値を設ける場合などのことが、土質条件などの相違によっては考えられる。本実施形態でのスクリューロッド貫入時の羽根切り回数の算入においては、所定係数を乗じて加算することや、所定値を上限として加算することや、地盤改良材を注入しないロッド貫入時の攪拌羽根の羽根切りによる地盤ほぐし効果を考慮して、地盤改良材を注入するロッド引き抜き時の攪拌羽根の羽根切り回数に所定係数を乗じることを含むものであり、単純な加算だけを意味するものではない。その意味で、本実施形態における合計羽根切り回数は、スクリューロッド貫入時の攪拌羽根の羽根切り回数を調整して算入することを含むものであるから、調整羽根切り回数ともいえる。なお、合計羽根切り回数から貫入時の羽根切り回数を控除して引抜時の羽根切り回数で施工管理する上記実施形態において、貫入時の羽根切り回数を調整した場合、控除する貫入時羽根切り回数は、調整した後の貫入時羽根切り回数である。
【0051】
上記の各管理項目は管理装置(コンピューター)11に入力されて評価すなわち施工の良否の判定がなされ、それに基づき必要に応じて修正施工がなされる。そしてパソコン13に施工データが保存され、必要に応じて適宜の管理データ、たとえば図4に示すような「施工結果表」や図5に示すような「杭打設日報」がプリントアウトされる。なお、図4の「施工結果表」においては、目標とする変動係数Vcや管理値としての合計羽根切り回数が表示されていないが、(4)式などを用いての別途の計算によって管理値としての合計羽根切り回数を算出設定し、この管理値を施工管理装置に入力するようになっている。または、変動係数Vcと合計羽根切り回数Tとの地盤ごとの回帰式を予めプログラムしておき、施工管理装置に目標とする変動係数Vcと地盤種別を入力することで管理値としての合計羽根切り回数Tを算出設定することでもよい。
【0052】
また、他方の観点としては、スクリューロッド引抜時の羽根切り回数を従来方法と同様な回数に設定した場合、従来よりも変動係数Vcを小さく設定することができる。変動係数Vcを小さく設定できるということは、地盤改良体の現場強度を従来よりも小さく設定することができる。つまり、地盤改良材の注入量を従来よりも少なくすることができる。このように構成すると、施工能率としては従来と変わりはないが、施工コストについては従来よりも低減させることができる。
【0053】
例えば、スクリューロッド引抜時における地盤改良材注入後の羽根切り回数を500回/mとする。従来の技術思想では、このときの地盤改良体強度変動係数は図7から20%となる。一方、本実施形態では、地盤改良材を注入しないスクリューロッド貫入時の羽根切り回数をカウントできるため、スクリューロッド貫入時の羽根切り回数を300回とすれば、合計羽根切り回数は800回となる。これを上記(4)式に代入すると、変動係数Vc=14.3%となる。
【0054】
設計強度1000kN/mとした場合、従来の現場強度設定は1350kN/mであるが、本実施形態での現場強度設定は1230kN/mとなる。室内配合強度に対して現場強度は0.5〜0.8の関係にあるから、これを0.5とすると、現場強度1350kN/mに対しては室内配合強度2700kN/mであり、現場強度1230kN/mに対しては室内配合強度2460kN/mとなる。
【0055】
セメント(地盤改良材)添加量と室内配合強度との関係は、室内強度試験をして設定するものであるが、室内配合強度2700kN/mに対しては165kg/m程度、室内配合強度2460kN/mに対しては150kg/m程度となる。地盤改良材スラリー(セメントスラリー)の水セメント比は100%とすることが多いため、これを100%とすると、添加量165kg/mに対しては、地盤改良材スラリー注入量165l/mとなり、添加量150kg/mに対しては、地盤改良材スラリー注入量150l/mとなる。
【0056】
施工においては、所定の合計羽根切り回数(調整羽根切り回数)に基づいて上式(地盤改良体強度変動係数と合計羽根切り回数との関係式)から目標とする地盤改良体強度変動係数を算出設定し、その設定した地盤改良体強度変動係数から、上記のように地盤改良材スラリー注入量を算出設定する。そして、実際の地盤改良材スラリー注入量が、上記で設定した地盤改良材スラリー量(150l/m)に対して所定範囲内におさまるように、地盤改良材スラリー注入量を制御しつつ管理して地盤改良を行う。本実施形態によれば、従来よりも地盤改良材スラリーを減らすことができ、施工コストを低減することができる。
【0057】
以上、本実施形態によれば、従来よりも羽根切り回数を減少させて施工能率をあげるようにすることができる。また、別の方法としては、施工能率は従来のままにして地盤改良材スラリー注入量を減らしてコスト低減することができる。いずれの方法を採用するかについては、実際の現場における優先度を考慮して決定すればよい。もちろん、羽根切り回数を程々に減少させるとともに、地盤改良材スラリー注入量を程々に減少させて、施工能率向上を程々にしつつ、程々のコスト低減効果を得るようにバランスよく調整することも可能である。
【0058】
また、本実施形態において、スクリューロッド貫入時にスクリューロッド先端部の地盤改良材スラリー吐出口(図6においてスクリューロッド3の下端位置にある。)から水を吐出・注入してもよい。このように構成すれば、地盤への加水で地盤が軟らかくなり、スクリューロッドの貫入・回転がよりスムーズになって、地盤改良材スラリー吐出前の事前の羽根切りによるほぐし効果が高まると推察される。その場合、変動係数と合計羽根切り回数の想定回帰線は図3に示すグラフにおいて上式によるものよりもさらに下方に位置することが考えられる。
【0059】
ただし、このスクリューロッド貫入時の加水もあまり多すぎると地盤改良体強度の低下に影響することが想定されるため、多くてもほぼ改良しようとする対象地盤の液性限界から算出した水量までであり、この液性限界から求めた水量に近似した量が好ましいといえる。このスクリューロッド貫入時の加水は、地下水位より上方の地盤に対しては特に効果がある他、本実施形態以外の、攪拌羽根で地盤改良材と地盤とを攪拌混合する従来の地盤改良工法にも適用できる。
【0060】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態における合計羽根切り回数(調整羽根切り回数)による施工管理方法は、地盤改良材注入量相当分の土砂の排出を行う排土式の深層混合処理工法でなくても適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1…改良機 2…攪拌羽根 3…スクリューロッド(ロッド) 6…スラリー流量計 7…軸回転計 8…電流検出計 9…深度計 10…速度計 11…管理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌羽根を備えたロッドを地盤中に回転しながら、かつ地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入し、
前記ロッドを回転させて前記地盤改良材を前記ロッドから注入しながら前記攪拌羽根で前記地盤を攪拌混合しつつ、前記ロッドを引き抜く地盤改良工法において、
前記地盤改良材を注入しないロッド貫入時の前記攪拌羽根の羽根切り回数を、前記地盤改良材を注入するロッド引抜時の前記攪拌羽根の羽根切り回数に算入して調整羽根切り回数とし、
該調整羽根切り回数を、予め設定した地盤改良体強度変動係数と調整羽根切り回数との関係から、目標とする地盤改良体強度変動係数に基づいて設定し、
前記設定された調整羽根切り回数を施工管理項目として地盤改良を行うことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
攪拌羽根を備えたロッドを地盤中に回転しながら、かつ地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入し、
前記ロッドを回転させて前記地盤改良材を前記ロッドから注入しながら前記攪拌羽根で前記地盤を攪拌混合しつつ、前記ロッドを引き抜く地盤改良工法において、
前記地盤改良材を注入しないロッド貫入時の前記攪拌羽根の羽根切り回数を、前記地盤改良材を注入するロッド引抜時の前記攪拌羽根の羽根切り回数に算入して調整羽根切り回数とし、
該調整羽根切り回数を、予め設定した地盤改良体強度変動係数と調整羽根切り回数との関係から、目標とする地盤改良体強度変動係数に基づいて設定し、
前記設定された調整羽根切り回数からロッド貫入時の羽根切り回数を控除したロッド引抜時の羽根切り回数を施工管理項目として地盤改良を行うことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項3】
攪拌羽根を備えたロッドを地盤中に回転しながら、かつ地盤改良材を注入しないで所定深度まで貫入し、
前記ロッドを回転させて前記地盤改良材を前記ロッドから注入しながら前記攪拌羽根で前記地盤を攪拌混合しつつ、前記ロッドを引き抜く地盤改良工法において、
前記地盤改良材を注入しないロッド貫入時の前記攪拌羽根の羽根切り回数を、前記地盤改良材を注入するロッド引抜時の前記攪拌羽根の羽根切り回数に算入して調整羽根切り回数とし、
目標とする地盤改良体強度変動係数を、予め設定した調整羽根切り回数と地盤改良体強度変動係数との関係から、所定の調整羽根切り回数に基づいて設定し、
前記設定された地盤改良体強度変動係数から前記地盤中への前記地盤改良材の注入量を設定し、該注入量を前記地盤中に注入することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項4】
前記地盤中へのロッド貫入時に前記ロッドから注水することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項5】
前記注水の量は、改良対象地盤の液性限界から求めた水量に近似した量であることを特徴とする請求項4に記載の地盤改良工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−246659(P2012−246659A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118235(P2011−118235)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【特許番号】特許第4885326号(P4885326)
【特許公報発行日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【出願人】(000133881)株式会社テノックス (62)
【出願人】(000172961)あおみ建設株式会社 (21)
【Fターム(参考)】