説明

地絡発生バンク特定方法および地絡発生バンク特定装置

【課題】 多重接地式低圧交流配電線路においては複数のバンクに対して多重接地のままで地絡発生バンクを特定することのできる地絡発生バンク特定方法と特定装置。
【解決手段】 複数のバンクB1〜B5を備えた多重接地式低圧交流配電線路1において、いずれかの低圧交流配電線路で地絡が発生したとき、共同接地線5の隣接バンク間にある並列接続箇所12a〜12dに流れる地絡電流Ia〜Idを変流器CTで検出し、各電流の位相を基準時間信号CPに基づいて測定して、並列接続箇所12a〜12dに流れる地絡電流の方向を判別することで地絡発生バンクを特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧需要家に電力供給する複数のバンク(柱上変圧器)のB種接地線を共同接地線で並列に連系した多重接地式低圧交流配電線路などの配電系統における地絡発生バンク特定方法および特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のバンクそれぞれの変圧器B種接地線が単独接地されている場合、バンクの低圧交流配電線路から電力供給される住宅や工場、事務所等の低圧需要家のいずれかで地絡が発生すると、地絡発生の低圧需要家に電力供給するバンクのB種接地線にのみ地絡電流が流れる。複数あるバンクで低圧需要家に地絡が発生した場所のバンクの特定は、別の地絡発生の無いバンクには地絡電流が流れないので、地絡発生のバンクのみについて行い、漏電遮断器がある低圧需要家ではその動作確認で行い、また、漏電遮断器がない低圧需要家については引込線で地絡電流の大きさを測定し、地絡電流の有無で地絡が発生した低圧需要家を特定する。さらに、地絡発生が特定できた低圧需要家の低圧交流配電線路で地絡電流の大きさを測定し、地絡発生場所を特定することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−101352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バンクの変圧器二次側の中性線または1端子に施設するB種接地工事は、バンク個々について行う単独接地の他、複数の各バンクのB種接地線を並列に接続して多重化する多重接地がある。B種接地工事が行われる土地の状況によっては、単独接地では接地抵抗を規定の値に保つことが経済的に難しくなる場合がある。このような場合には、複数バンクのB種接地線を共同接地線で並列に連結して合成接地抵抗値を低くし、これを規定値に保つことが行われている。
【0004】
複数のバンクを多重接地した多重接地式(架空共同地線式)の低圧交流配電線路においては、任意の1つのバンクから電力供給される低圧需要家に地絡が発生して地絡電流が流れた場合、地絡発生バンクのB種接地線だけでなく共同接地線を通して連系される他の全てのバンクのB種接地線にもその接地抵抗値に応じた地絡電流が流れる。このため、地絡が発生した低圧需要家を電力供給するバンクの特定ができず、B種接地を共同接地している全てのバンクから電力供給される全ての低圧需要家の引込線や負荷回線で地絡電流を測定する必要があり、特定範囲が広がり過ぎて地絡発生バンクの特定とその作業が困難であった。
【0005】
また、複数の各バンクのB種接地を切り離して単独接地に戻すことで、地絡発生のバンクを特定することができる。この場合、複数のバンクでのB種接地の切離しの手間と、元の多重接地に戻す手間を要するのみならず、地絡発生が間欠的に行われる間欠地絡では、B種接地切離し後、次の地絡発生までB種接地抵抗値が規定値未満となる状態を招く不具合があり、信頼性に欠ける。
【0006】
本発明の目的は、地絡発生バンクの特定を作業工数少なく簡易に行うことのできる地絡発生バンク特定方法および特定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明方法は、複数のバンクの低圧交流配電線路を並列に接続した配電系統におけるいずれかの地絡発生低圧交流配電線路に対応するバンクを特定する方法であって、複数の低圧交流配電線路間の負荷電流が流れていない並列接続箇所それぞれで地絡電流を検出し、検出されたそれぞれの地絡電流の位相を共通の基準時間信号に基づいて測定して、隣接する並列接続箇所での地絡電流の位相が同相または逆相かの判定に基づいて地絡発生低圧交流配電線路に対応するバンクを特定することを特徴とする。
【0008】
ここで、複数のバンクの低圧交流配電線路は、いずれかの地絡発生の低圧交流配電線路に地絡電流が流れると、この地絡電流が地絡発生していない他の低圧交流配電線路にも流れるように並列に接続された複数の低圧交流配電線路から成る配電系統である。並列に接続された複数の低圧交流配電線路は、単相交流式または三相交流式の低圧配電線路が適用できる。隣接する低圧交流配電線路間の並列接続箇所は、負荷電流が流れない箇所であり、複数の並列接続箇所のいずれか1箇所に地絡発生により地絡電流が流れると、この地絡電流は大地を介して他の地絡発生していない低圧交流配電線路にも流れる。複数の各並列接続箇所それぞれに地絡電流が、地絡発生バンクとの位置関係で決まる大きさ、方向で流れる。この各並列接続箇所における地絡電流の方向を、各並列接続箇所で検出されたそれぞれの地絡電流の位相を共通の基準時間信号に基づいて測定することで検知する。隣接する各並列接続箇所での地絡電流の位相が同相の場合は、各並列接続箇所に流れる地絡電流が同じ方向であると判定できる。また、隣接する各並列接続箇所での地絡電流の位相が逆相の場合は、各並列接続箇所に流れる地絡電流が180°逆方向であると判定でき、隣接する並列接続箇所で挟まれたバンクが地絡発生バンクであると判定できる。各並列接続箇所の地絡電流の方向は、地絡電流と低圧交流配電線路の線間電圧の位相差や、地絡電流と対地電圧の位相差からも検出することができるが、地絡電流検出時の基準時間信号を基準に測定することで、地絡電流検出の作業のみで地絡発生バンクの特定ができ、地絡発生バンク特定の作業性がよくなる。
【0009】
本発明においては、基準時間信号を、低圧交流配電線路の商用電源と同期したパルス信号に基づいて生成することができる。また、基準時間信号を、低圧交流配電線路の商用周波数を整数で除した周波数でパルス信号を発振するパルス発振回路からのパルス信号に基づいて生成することができる。さらに、基準時間信号を、全地球測位システムのGPS信号に基づいて生成することができる。
【0010】
上述の低圧交流配電線路の商用電源と同期したパルス信号に基づいて生成した基準時間信号は、低圧交流配電線路の商用電源に微少な周波数変動が生じても、この変動に応じて基準時間信号や地絡電流の周波数が変動するので、常に高精度に地絡電流位相測定ができる。また、基準時間信号を、低圧交流配電線路の商用周波数を整数nで除した1/nの周波数のパルス信号を発振するパルス発振回路からのパルス信号に基づいて生成する場合、整数nは1、2、4のいずれかが高精度な地絡電流位相測定をする上で望ましい。また、全地球測位システム(GPS)のGPS信号に同期させて生成した基準時間信号は、誤差のない絶対的な基準時間信号として使用できて、この場合も常に高精度に地絡電流位相測定ができる。
【0011】
また、低圧交流配電線路は、複数のバンクのB種接地線を共同接地線で並列に接続した多重接地式低圧交流配電線路で、共同接地線のB種接地線が接続された並列接続箇所両側の各並列接続箇所それぞれで地絡電流を検出して地絡発生バンクを特定することができる。
【0012】
この場合の低圧交流配電線路は、高圧配電線路に柱上変圧器であるバンクで連系される単相交流式または三相交流式の低圧配電線路が適用できる。この低圧交流配電線路における複数のバンクは、住宅や工場などの低圧需要家に電力供給する柱上変圧器系で、各バンクの変圧器B種接地線が共通の共同接地線で連結されて多重接地される。1つのバンクで漏電による地絡が発生すると、地絡発生のバンクを含む全てのバンクのB種接地線、共同接地線に地絡電流が流れる。各バンクでの地絡電流は交流で、その電流方向は地絡発生のバンクに流入する方向と、地絡発生のバンクから流出する方向の繰り返しである。各バンクでの地絡電流方向を、基準時間信号に基づいて測定することで、地絡発生バンクが特定できる。この場合、複数のバンクの全てにおいて地絡電流方向を検知することが望ましいが、地絡発生バンクの位置によっては少数バンクで地絡電流方向を検知すれば地絡発生のバンクが特定できる。このような地絡発生バンクの特定は、多重接地式低圧交流配電線路を多重接地にしたままの状態で行うことができる。従って、地絡発生バンクの特定が、B種単独接地の場合とほとんど変わらない程度の労力と時間で行うことができる。
【0013】
また、多重接地式低圧交流配電線路の複数の各バンク間の共同接地線である並列接続箇所それぞれに地絡電流を検出する変流器を常設して、複数の並列接続箇所で同時に地絡電流を検出し、検出した地絡電流の位相(方向)を基準時間信号に基づいて測定することができる。更には、複数の並列接続箇所での地絡電流の検出と基準時間信号に基づいた位相(方向)測定を順次に行うことができる。この後者の場合、地絡電流を検出する1台の変流器で各並列接続箇所の地絡電流を順に検出し、地絡電流検出毎に位相(方向)のデータを記憶し、必要に応じて表示器に表示させ、遠隔地に送信することができる。
【0014】
本発明装置は、複数のバンクの低圧交流配電線路を並列に接続した配電系統におけるいずれかの地絡発生低圧交流配電線路に対応するバンクを特定する装置であって、低圧交流配電線路間の並列接続箇所それぞれで当該並列接続箇所を流れる地絡電流を検出する地絡電流検出部と、並列接続箇所で検出されたそれぞれの地絡電流の位相を測定するための基準となる共通の基準時間信号を生成する基準時間信号生成部と、隣接する並列接続箇所の地絡電流の位相が同相または互いに逆相かを判別し、逆相と判別された隣接する並列接続箇所に挟まれたバンクを地絡発生バンクと判定する地絡バンク判定部とを具備する。
【0015】
ここでの基準時間信号生成部は、低圧交流配電線路の商用電源と同期した高周波パルス電流を並列接続箇所に重畳する重畳変流器を有する構造とすることができる。
【0016】
本発明装置における地絡電流検出部は、低圧交流配電線路間の複数の並列接続箇所に順次に移動して電流検出をする変流器、または、複数の並列接続箇所の全てに1台ずつ常設的に設置される複数の変流器を有する構成にすることができる。また、基準時間信号生成部は、低圧交流配電線路の商用電源電圧の例えばゼロクロスを検出するゼロクロス検出回路、商用電圧のゼロクロスの立ち上がり点に同期したパルスを発生させるパルス発生回路、発生させたパルスを低圧交流配電線路の複数ある並列接続箇所のいずれかに重畳させる重畳変流器で構成することができる。さらに、基準時間信号生成部は、GPS受信機能を備えたものや、専用のパルス発振回路を備えたものが適用できる。また、地絡バンク判定部は、複数の各並列接続箇所での地絡電流の位相と、隣接する二並列接続箇所の地絡電流位相が同相または逆相かを記憶し、表示して、逆相の場合に地絡発生バンクであることを音声表示する機能を備えたものが適用できる。更には、これら記憶し表示するデータを、電力会社などの遠隔地に送信する機能を備えたものが適用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低圧交流配電線路間の並列接続箇所それぞれで検出した地絡電流の位相、方向を各並列接続箇所に共通の基準時間信号に基づいて測定して、各並列接続箇所での地絡電流の位相が同相または互いに逆相かを判定するようにしたので、低圧交流配電線路の線間電圧や対地電圧を測定することなく簡単な作業で、かつ、常に高精度に地絡発生バンクの特定ができるようになる。特に、多重接地式低圧交流配電線路の複数バンクのいずれかに地絡が発生して、複数のバンクに地絡電流が流れても、多重接地のままで地絡発生したバンクが特定できるようになり、多重接地式低圧交流配電線路のバンク地絡対策が作業性よく、常に正確にできるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図5を参照して説明する。
【0019】
図1は、複数のバンクBのB種接地線4を共同接地線5で並列に連結した単相三線式の多重接地式低圧交流配電線路1に適用したものである。高圧交流配電線路に接続された各バンクBのB種接地線4は、低圧柱の変圧器二次側に低圧線がある場合は低圧線中性線に、低圧線がない場合は直接柱上変圧器中性線に接続される。図1に示すバンクBの数は5で、図1で左からバンクB1、B2、B3、B4、B5と称する。各バンクB1〜B5における接地抵抗値は、5つのバンクB1〜B5の接地抵抗を並列接続したときの合成接地抵抗値になる。共同接地線5には負荷電流が流れず、いずれかのバンクの低圧需要家に地絡が発生したときに、5つの各バンクB1〜B5に地絡発生バンクとの位置関係で決まる大きさの地絡電流が流れる。
【0020】
地絡発生による地絡電流は、各バンクB1〜B5の定期的な接地抵抗測定の際、或いは住宅、工場、事務所等からの漏電申し出によりに検知されて、地絡発生バンクの特定作業が行われる。図1に示される地絡発生バンク特定装置10は、地絡電流検出部20と、基準時間信号生成部30と、地絡バンク判定部40を備える。地絡発生バンク特定装置10の説明の前に、地絡バンク発生時に各バンクB1〜B5で地絡電流がどのように流れるかを説明する。
【0021】
図1は、5つのバンクB1〜B5の内の図1で左から3番目のバンクB3から供給する低圧需要家に漏電による地絡が発生して地絡電流Igが流れた場合を示す。この地絡電流Igは商用交流で、地絡発生バンクから大地に流れ出し、地絡発生バンクB3のB種接地線4を通り、大地から地絡発生バンクB3に地絡電流Ig3が戻る。また、地絡電流Igは、地絡発生をしていない他のバンクB1、B2、B4、B5それぞれのB種接地線4を通り、それぞれに電流Ig1、Ig2、Ig4、Ig5が大地から戻る。この各電流Ig1、Ig2、Ig4、Ig5は、共同接地線5を通り地絡発生のバンクB3に戻る。
【0022】
共同接地線5と各バンクB1〜B5のB種接地線4との接続箇所11が5箇所あり、3つの各バンクB2、B3、B4の接続箇所11の両側線路を並列接続箇所12a、12b、12c、12dとする。4線路の各並列接続箇所12a〜12dに、後述の地絡電流Ia、Ib、Ic、Idが流れる。この各地絡電流Ia〜Idは、その流れる方向と大きさが地絡発生バンクと地絡が発生していないバンクの位置関係によって決まる。
【0023】
なお、地絡発生バンクB3から大地に流出する地絡電流Igは、共同接地線5で連結された5つの各バンクB1〜B5のすべてのB種接地線4を通って大地から戻り、それぞれの電流Ig1〜Ig5の向きは同じであることから、B種接地線4を流れる地絡電流Ig1〜Ig5を検知しても地絡発生バンクは分からない。
【0024】
図1で左端から1番目のバンクB1と2番目のバンクB2の間の並列接続箇所12aに流れる地絡電流Iaは、地絡発生のバンクB3に戻るため図1の左から右の方向に流れる。図1で左端から2番目のバンクB2と3番目のバンクB3の間の並列接続箇所12bに流れる地絡電流Ibは、地絡発生のバンクB3に戻るため図1の左から右の方向に流れる。この地絡電流Ibは、並列接続箇所12aからの地絡電流Iaが合流した電流であり、地絡電流Iaより大きい。さらに、図1で左端から3番目のバンクB3と4番目のバンクB4の間の並列接続箇所12cに流れる地絡電流Icは、地絡発生のバンクB3に戻るため図1の右から左の方向に流れる。また、図1で左端から4番目のバンクB4と5番目のバンクB5の間の並列接続箇所12dに流れる地絡電流Idは、地絡発生のバンクB3に戻るため図1の右から左の方向に流れて地絡電流Icに合流する。即ち、地絡発生のバンクB3を挟む並列接続箇所12b、12cの地絡電流方向が180°逆であり、位相が180°逆相である。このことから隣接バンクから地絡電流が流れ込むばかりのバンクが、地絡発生バンクであると判定できる。また、地絡が発生していないバンクでは、隣接するバンクとの共同接地線を流れる地絡電流の向きが同じで、位相が同相である。
【0025】
図1の地絡発生バンク特定装置10は、任意の隣接する並列接続箇所12での地絡電流を検出して、各々の流れる方向が同じか逆かを位相が同相か逆相かで判定することで、地絡発生バンクを特定する。地絡電流検出部20で並列接続箇所12a〜12dに流れる地絡電流を検出する。並列接続箇所12a〜12dで検出されたそれぞれの地絡電流の位相を測定するための基準となる共通の基準時間信号CPを基準時間信号生成部30で生成して、地絡バンク判定部40で隣接する並列接続箇所12a〜12dでの地絡電流の位相が同相または互いに逆相かを判別し、逆相と判別された隣接する二並列接続箇所で挟まれたバンクを地絡発生バンクと判定する。
【0026】
地絡電流検出部20は、並列接続箇所12a〜12dに流れる地絡電流を検出する変流器CTを備える。使用する変流器CTの数は、単数または複数と任意であり、単数の場合は4線路区間の各並列接続箇所12a〜12dに順次に設置して使用する。図1には、本発明方法の説明上に4台の変流器CT1〜CT4を示しているが、数は任意である。以下、必要に応じて4台の変流器CT1〜CT4を検出CT1〜CT4と称する。
【0027】
図1に示す基準時間信号生成部30は、低圧交流配電線路であるバンクBの商用電源と同期したパルス信号に基づいて基準時間信号CPを生成する。この基準時間信号生成部30は、いずれか1つのバンクBの低圧交流配電線路の商用電源に同期させるため、例えば正弦波の商用電源電圧のゼロクロスを検出するゼロクロス検出回路31と、商用電圧のゼロクロスの立ち上がり点に同期したパルスを発生させるパルス発生回路32と、発生させたパルスを共同接地線5のいずれか1箇所に重畳する重畳変流器33を備える。以下、必要に応じて重畳変流器33を重畳CTと称する。
【0028】
図2に重畳CTで重畳されるパルス波形と、検出CT1〜CT4で検出した地絡電流波形を示す。重畳CTは、商用低圧線間電圧を検出し、ゼロクロスの立ち上がり点に同期したパルスを基準時間信号CPとして生成し、共同接地線5に重畳する。一方で共同接地線5の、例えば並列接続箇所12aに設置した検出CT1で地絡電流Iaを検出する。ここで検出された電流は商用周波数の正弦波で、重畳パルスがノイズとして入るので、バンドパスフィルター等でノイズ成分を除いて地絡電流Iaを検出する。地絡バンク判定部40で、基準時間信号CPを基準とした地絡電流Iaの立ち上がり時間を測定し、基準に対する電流位相θ°を算出する。
【0029】
また、並列接続箇所12bに設置した検出CT2で地絡電流Ibを検出し、地絡バンク判定部40で基準時間信号CPを基準とした地絡電流Ibの立ち上がり時間を測定して、基準に対する電流位相θ°を算出する。2つの地絡電流Ia、Ibは同方向に流れる電流ゆえに同じ電流位相θ°であり、大きさが相違する。地絡バンク判定部40は、2箇所の地絡電流Ia、Ibが同相と判別すると、バンクB2からバンクB3のある外側に流れる地絡電流と判別し、バンクB1とB2が地絡発生バンクでないと判別する。なお、図1では検出CT1、CT2で検出した地絡電流Ia、Ibを有線で地絡バンク判定部40に送信するようにしているが、無線で検出電流の送信を行うようにしてもよい。このことは、他の検出CT3、CT4においても同様である。
【0030】
また、別の並列接続箇所12cに設置した検出CT3で地絡電流Icを検出し、地絡バンク判定部40で基準時間信号CPを基準とした地絡電流Icの立ち上がり時間を測定して、基準に対する電流位相を算出する。地絡電流Icは、地絡電流Ia、Ibと逆方向に流れる電流であるから、測定される電流位相は180°ずれた(θ°+180°)である。地絡バンク判定部40は、バンクB3を挟む2箇所の地絡電流Ib、Icが逆相であると判別すると、地絡電流Ib及びIcがバンクB3に隣接するバンクB2とバンクB4の両方から流れ込む電流と判別し、バンクB3が地絡発生バンクと特定する。
【0031】
また、並列接続箇所12dに設置した検出CT4で地絡電流Idを検出し、地絡バンク判定部40で基準時間信号CPを基準とした地絡電流Idの立ち上がり時間を測定して、基準に対する電流位相を算出する。ここでの地絡電流Idは、地絡電流Icと同方向に流れる電流であるから、測定される電流位相は(θ°+180°)である。地絡バンク判定部40は、バンクB4における2つの地絡電流Ic、Idが同相と判別して、バンクB4さらにはバンクB5が地絡発生バンクでないと判別する。
【0032】
4箇所の並列接続箇所12a〜12cにおける地絡電流検出は、同時或いは順次に行うことができる。同時に行う場合は、各並列接続箇所12a〜12cに検出CT1〜CT4を設置して行い、各線路で電流位相が同相と逆相かを判定して地絡発生バンクを特定する。順次に行う場合は、例えば1台の検出CT1のみ使用して行うことができる。また、2台の検出CT1、CT2を同時に使用して、バンクB2が地絡発生バンクかどうかの判別をし、地絡発生バンクでないと判別すると、この2台を別のバンクBへと移動させることも有効である。また、5つのバンクB1〜B5における地絡電流検出と位相測定の順番は上記例に限らず、任意である。仮に、最初に地絡発生のバンクB3で地絡電流検出と位相測定して、2つの地絡電流Ib、Icが逆相であり、地絡発生バンクであると判定されると、他のバンクでの地絡電流検出と位相測定は必ずしも必要としない。この場合、より高い正確性を期するため、他のバンクでの地絡電流検出と位相測定を行うことが望ましい。
【0033】
図1に示す基準時間信号生成部30は、低圧交流配電線路であるバンクBの商用電源周波数と共同接地線5を流れる地絡電流の周波数に同じ微少な変動が生じても、この変動に対応して商用電源と同期した基準時間信号CPの周波数が変動する。そのため、各バンクB1〜B5での地絡電流検出と位相測定の順番が時間的に相違しても、常に高精度で地絡電流の位相測定、同相か逆相かの判別ができる。
【0034】
基準時間信号生成部30は、図1のパルス重畳式のもの以外に、例えば、図3に示すGPS受信器35を使用したものや、図5に示すパルス発振回路37を使用したものが適用できる。
【0035】
図3に示す基準時間信号生成部30は、全地球測位システム(GPS)のGPS衛星から送信されるGPS信号をアンテナ36を通してGPS受信器35で受信する。受信したGPS信号から同期した基準時間信号CPを生成して、地絡バンク判定部40に送信する。地絡バンク判定部40は、GPS信号から生成された基準時間信号CPを絶対的な時間として地絡電流位相の測定に使用する。
【0036】
図3のGPS基準時間方式の場合、同時刻で2箇所以上を同時に地絡電流の位相を測定する。例えば、図3に示すように、並列接続箇所12aに検出CT1を設置し、この検出CT1に地絡バンク判定部40と位相データ受信器41、受信アンテナ42を付設する。別の並列接続箇所12dに検出CT4を設置し、この検出CT4に位相データ送信器43と送信アンテナ44を付設する。並列接続箇所12aと並列接続箇所12dそれぞれのGPS受信器35で同時刻の基準時間信号CPを生成する。例えば、図4に示すように、12時00分00秒の基準時間信号CP1を基準とした検出CT1の地絡電流Iaの立ち上がり時間を測定し、基準に対する電流位相θ1°を算出し、その位相データを地絡バンク判定部40に有線で送信する。同様に12時00分00秒の基準時間信号CP1を基準とした検出CT4の地絡電流Idの立ち上がり時間を測定し、基準に対する電流位相(θ1°+180°)を算出して、その位相データを送信器43、送信アンテナ44から地絡バンク判定部40の受信アンテナ42、受信器41に無線送信し、受信器1から地絡バンク判定部40に有線送信する。この場合、地絡バンク判定部40は、2箇所の並列接続箇所12aと12dの地絡電流が逆相と判別し、バンクB1とバンクB5が地絡発生バンクでないと判別し、バンクB1とバンクB5の内側に地絡発生バンクがあると判定する。また、同様にして例えば12時00分01秒の基準時間信号CP2を基準とした検出CT1の地絡電流Iaの電流位相(θ2°+180°)を算出し、同じ12時00分01秒の基準時間信号CP2を基準とした検出CT4の地絡電流Idの電流位相θ2°を算出する。この場合も地絡バンク判定部40は、2箇所の並列接続箇所12aと12dの地絡電流が逆相と判別し、バンクB1とバンクB5の内側に地絡発生バンクがあると判定する。なお、図3では1台の地絡バンク判定部40で2箇所の並列接続箇所の地絡電流が同相か逆相かを判定しているが、2箇所の各並列接続箇所に1台ずつ地絡バンク判定部を設置して、互いにデータ交信させてそれぞれの地絡バンク判定部で2箇所の地絡電流が同相か逆相かの判別をしてもよい。
【0037】
図5に示す基準時間信号生成部30は、単独の高周波パルス発振回路37で低圧交流配電線路の商用周波数を整数nで除した1/nの周波数のパルス信号を発振させ、このパルス信号に同期させた基準時間信号CPを地絡バンク判定部40で使用する。この場合、n=1またはn=2にして、商用電圧のゼロクロスでパルス信号を発信させるのが、精度的かつ実用上に望ましい。
【0038】
以上の実施の形態は、住宅や工場等の低圧需要家に電力供給する複数のバンクのB種接地線を共同接地線で並列に連系した多重接地式低圧交流配電線路に適用した地絡バンク特定方法、地絡バンク特定装置である。本発明は、多重接地式低圧交流配電線路に限らず適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る地絡発生バンク特定装置の実施の形態を示す低圧交流配電線路の概要を示す回路図である。
【図2】図1の地絡発生バンク特定装置による地絡電流位相測定方法を説明するための電圧・電流波形図である。
【図3】他の実施の形態を示す低圧交流配電線路の概要を示す回路図である。
【図4】図3の地絡発生バンク特定装置による地絡電流位相測定方法を説明するための地絡電流波形図である。
【図5】他の実施の形態を示す低圧交流配電線路の概要を示す回路図である。
【符号の説明】
【0040】
1 低圧交流配電線路
4 接地線
5 共同接地線
B バンク(柱上変圧器)
Ia〜Id 地絡電流
10 地絡発生バンク特定装置
12a〜12d 並列接続箇所
20 地絡電流検出部
30 基準時間信号生成部
31 ゼロクロス検出回路
32 パルス発生回路
33 重畳変流器
35 GPS受信器
36 アンテナ
37 発信回路
40 地絡バンク判定部
CP 基準時間信号
CT 変流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバンクの低圧交流配電線路を並列に接続した配電系統におけるいずれかの地絡発生低圧交流配電線路に対応するバンクを特定する方法であって、
複数の前記低圧交流配電線路間の負荷電流が流れていない並列接続箇所それぞれで地絡電流を検出し、検出されたそれぞれの地絡電流の位相を共通の基準時間信号に基づいて測定して、隣接する前記並列接続箇所での地絡電流の位相が同相または逆相かの判定に基づいて地絡発生低圧交流配電線路に対応するバンクを特定することを特徴とする地絡発生バンク特定方法。
【請求項2】
前記基準時間信号を、前記低圧交流配電線路の商用電源と同期したパルス信号に基づいて生成することを特徴とする請求項1に記載の地絡発生バンク特定方法。
【請求項3】
前記パルス信号を複数の前記並列接続箇所に重畳したことを特徴とする請求項2に記載の地絡発生バンク特定方法。
【請求項4】
前記基準時間信号を、前記低圧交流配電線路の商用周波数を整数で除した周波数でパルス信号を発振するパルス発振回路からのパルス信号に基づいて生成することを特徴とする請求項1に記載の地絡発生バンク特定方法。
【請求項5】
前記基準時間信号を、全地球測位システムのGPS信号に基づいて生成することを特徴とする請求項1に記載の地絡発生バンク特定方法。
【請求項6】
複数のバンクの低圧交流配電線路を並列に接続した配電系統におけるいずれかの地絡発生低圧交流配電線路に対応するバンクを特定する装置であって、
前記低圧交流配電線路間の前記並列接続箇所それぞれで当該並列接続箇所を流れる地絡電流を検出する地絡電流検出部と、前記並列接続箇所で検出されたそれぞれの地絡電流の位相を測定するための基準となる共通の基準時間信号を生成する基準時間信号生成部と、隣接する前記並列接続箇所の地絡電流の位相が同相または互いに逆相かを判別し、逆相と判別された隣接する並列接続箇所に挟まれたバンクを地絡発生バンクと判定する地絡バンク判定部とを具備したことを特徴とする地絡発生バンク特定装置。
【請求項7】
前記基準時間信号生成部は、前記低圧交流配電線路の商用電源と同期した高周波パルス電流を前記並列接続箇所に重畳する重畳変流器を有することを特徴とする請求項6に記載の地絡発生バンク特定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−92417(P2009−92417A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261027(P2007−261027)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000214560)長谷川電機工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】