説明

均一電着性に優れた電着塗料組成物、水性電着塗料、電着塗装方法および電着塗装製品

【課題】 電子機器筺体分野の非常に厳しい外観要求に対しても満足できる外観均一性を与える電着塗料組成物、水性電着塗料、電着塗装方法および電着塗装製品を提供する。
【解決手段】 非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したアニオン電着性を有する重量平均分子量1000〜40000の(メタ)アクリル樹脂(A)30〜80重量%と、アミノ樹脂(B)10〜60重量%、および4塩化オキシビスマス(C)1〜30重量%を含む電着塗料組成物を、アミン系中和剤を加えて水に分散させてなる水性電着塗料、を用いて電着塗装を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一電着性に優れた電着塗料組成物および水性電着塗料に関する。詳しくは4塩化オキシビスマスを光輝顔料として含む電着塗料組成物、水性電着塗料、電着塗装方法および電着塗装製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯型パーソナルコンピュータ、モバイル機器、携帯電話器、ビデオカメラ、電子手帳、デジタルカメラなどの携帯可能な電子機器には、金属製または合成樹脂製の筺体が多用される。そして、筺体の少なくとも外周面には、防食性、意匠性などを向上させ、製品寿命を延長させるために表面改質が施される。表面改質としては、たとえば、陽極酸化、染色、めっき、塗装などが挙げられる。たとえば、外周面にめっき被膜および塗装被膜が順次形成される筺体は、防食性、耐食性、質感をも含めた意匠性、表面平滑性などに優れ、高い商品価値を有する。
【0003】
塗装には、たとえば、電着塗装法が利用される。電着塗装によれば、電荷を付与した被膜形成成分を含む浴中に、表面にめっき被膜を形成した筺体を浸漬させ、浴内において通電し、筺体のめっき被膜表面に被膜成形成分を析出させ、焼付け処理を施して保護用の塗装被膜を形成する。このとき、被膜形成成分に顔料などの着色剤を含有させれば、筺体の多色化も容易である。電着塗装法によって形成される被膜は、膜厚が均一で、高い透明性を有し、めっき被膜との密着性に優れる樹脂被膜である。また、電着塗装法には、筺体の形状、筺体表面の凹凸などに左右されず均一な膜厚に塗装でき、定量的に膜厚を管理でき、塗料損失が少なく、限外ろ過により塗料を容易に回収ができるという利点がある。さらに火災の心配がなく衛生的である。また、筺体の表面に光輝性のある特殊な外観をもたせるためにアルミニウム顔料などの光輝顔料を用いたメタリック電着塗装が行われている。しかしながら、従来の光輝顔料を含む電着塗装方法は水系塗料であるため、水中安定性に劣り、塗料中で沈降しハードケーキ状になり、再分散が難しかった。図1に従来の電着塗料における顔料の非分散状態を説明する概念図を記載した。この図に示すように、塗料中で顔料が沈降すると電着膜は均一な外観とならず、塗装外観上問題があった。すなわち、筺体1を塗料液中に浸漬して電着を行うと、塗料液の上部2は顔料が沈降するため筺体1の上側は顔料成分が高い状態になり、逆に塗料液の下部3は電着樹脂中に顔料成分が少なくほとんど顔料成分が電着樹脂と共析されないため、筺体1の下側は顔料成分が低い状態になる。筺体1の上側、下側が側面と同様の外観を得ることができず、その結果、筺体1の上下で均一な外観を得ることが難しく、電子機器筺体などの外観の非常に厳しい要求に対しては十分答えられていなかった。
【0004】
このような外観を改善するという課題に対して、カルボキシル基含有樹脂と架橋剤に対して、平均粒子径が5〜30μmで且つ平均厚みが0.01〜0.2μmのリーフィング性を付与したアルミニウム顔料が配合された電着塗料が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−138089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、リーフィング性を付与したアルミニウム顔料として、リーフィング性を付与した蒸着アルミニウム顔料が用いられている。しかしながら、このようなアルミニウム顔料を用いた電着塗料でも、電子機器筺体分野における筺体の非常に厳しい外観要求は、十分クリヤーできていない。
【0007】
本発明の目的は、筺体の上側、下側が側面と同様の外観を得ることにより、電子機器筺体分野の非常に厳しい外観要求に対しても満足できる外観均一性を与える電着塗料組成物、水性電着塗料、電着塗装方法および電着塗装製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したカチオン電着性を有する重量平均分子量1000〜40000の(メタ)アクリル樹脂(A)30〜80重量%と、アミノ樹脂(B)10〜60重量%、および4塩化オキシビスマス(C)1〜30重量%を含む電着塗料組成物である。
【0009】
また本発明は、上記の電着塗料組成物、アミン中和剤および水を含むことを特徴とする水性電着塗料である。
【0010】
また本発明は、上記の水性電着塗料を用いることを特徴とする電着塗装方法である。
また本発明は、上記の電着塗装方法を用いて塗装され加熱硬化されてなる被膜を有する電着塗装製品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重量平均分子量1000〜40000のアニオン電着性(メタ)アクリル樹脂(A)が非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で合成され、この樹脂に、硬化剤としてアミノ樹脂(B)、および光輝顔料として4塩化オキシビスマス(C)が配合された電着塗料組成物であるので、水性電着塗料として用いたとき、塗料中で4塩化オキシビスマスを含む顔料の沈降が抑制される。したがって、塗料の底にハードケーキが生じにくく、塗料中の上下の顔料の濃度が一定化され、電着によって筺体の上下で均一な外観が得られる。その結果、この筺体の外観は電子機器筺体分野の非常に厳しい外観要求に対しても満足できるものとなる。
【0012】
また本発明によれば、上記の電着塗料組成物、アミン中和剤および水を含むので、電着塗料組成物が水に良好に分散し、非プロトン性極性溶剤を含むアニオン電着性(メタ)アクリル樹脂が水中で安定化されて、4塩化オキシビスマスを含む顔料の沈降が抑制された水性電着塗料となる。したがって、塗料の底にハードケーキが生じにくく、塗料中の上下の顔料の濃度が一定化され、電着によって筺体の上下で均一な外観が得られる。その結果、水性電着塗料で電着した筺体の外観は電子機器筺体分野の非常に厳しい外観要求に対しても満足できるものとなる。
【0013】
また本発明によれば、上記の水性電着塗料を用いるので、塗料中で4塩化オキシビスマスを含む顔料の沈降が抑制され塗料の底にハードケーキが生じにくくなり、塗料中の上下の顔料の濃度が一定化される。その結果、筺体の上下で均一な外観が得られる。
【0014】
また本発明によれば、上記の電着塗装方法を用いて塗装するので、塗料中で4塩化オキシビスマスを含む顔料の沈降が抑制され塗料の底にハードケーキが生じにくくなり、塗料中の上下の顔料の濃度が一定化され、筺体の上下で均一な外観が得られる。したがって、この電着被膜を加熱硬化すると筺体の上下で均一な外観を有する電着塗装製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の電着塗料における顔料の非分散状態を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電着塗料組成物において使用されるアニオン電着性を有する重量平均分子量1000〜40000の(メタ)アクリル樹脂(以下単に「アニオン性(メタ)アクリル樹脂」という)は、モノマー成分として、(a)カルボキシル基含有モノマー、(b)ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、(c)その他の単官能性モノマーを含む共重合体である。ここで(メタ)アクリル樹脂とは、アクリル樹脂、メタクリル樹脂の両方を言うものとし、(メタ)アクリレートなどのモノマーについても同様である。
【0017】
(a)カルボキシル基含有モノマー
カルボキシル基含有モノマーとしては公知のものを使用でき、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの、分子内にカルボキシル基および重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。カルボキシル基含有モノマーは1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。
【0018】
(b)ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては公知のものを使用でき、ヒドロキシ基アルキル(メタ)アクリレート、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステルなどが挙げられる。カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステルは、カプロラクトンに(メタ)アクリル酸が付加されたものであり、市販品が使用できる。たとえば、プラクセルFM1、プラクセルFM2、プラクセルFM3、プラクセルFA1、プラクセルFA2、プラクセルFA3(登録商標、ダイセル化学工業株式会社製)などが挙げられる。ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートは1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。これらの内で、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0019】
(c)その他の単官能性モノマー
その他の単官能性モノマーとしては特に限定はないが、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニルモノマー;ボロニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリレート;酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの1種または2種以上を併用できる。
【0020】
アニオン性(メタ)アクリル樹脂は、非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で公知の方法に従って製造できる。たとえば、重合開始剤の存在下および加熱下に、上記(a)〜(c)のモノマー化合物のそれぞれ1種または2種以上を重合させることによって、アニオン性(メタ)アクリル樹脂が得られる。非プロトン性極性溶剤は、塗料中で4塩化オキシビスマスを含む顔料の沈降を抑制するための必須成分である。非プロトン性極性溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、またはこれらの混合物などが挙げられる。これらの内で好ましいのは優れた外観均一性の電着塗膜を与えるN−メチルピロリドンである。これらの溶剤にその他の溶剤を混合して用いることができる。その他の溶剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノールなどのアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテートなどのセロソルブ、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトンなどが挙げられる。これらの内で好ましいのはイソプロピルアルコールである。非プロトン性極性溶剤とその他の溶剤を併用する場合は、N−メチルピロリドンとイソプロピルアルコールの併用が、アクリル樹脂の製造面、電着時における優れた外観均一性の点で好ましい。なお、これらのその他の溶剤のみを用いてアニオン性(メタ)アクリル樹脂を合成し、塗料化の際に非プロトン性極性溶剤を添加した場合は、該アクリル樹脂と非プロトン性極性溶剤との相溶性が悪く、樹脂や顔料の沈降などの問題が発生する。したがって、重合時に非プロトン性極性溶剤を加えておく必要がある。
【0021】
これらの溶剤の合計量は、アニオン性(メタ)アクリル樹脂溶液100重量%に対して30〜60重量%であるのが好ましい。30重量%以上であるとアクリル樹脂の製造が十分に行われ、60重量%以下であると塗料組成物にしたときにアクリル樹脂の固形分が確保できる。非プロトン性極性溶剤とその他の溶剤の混合比は特に限定しないが、好ましくは非プロトン性極性溶剤の量はアニオン性(メタ)アクリル樹脂100重量%に対して25重量%以上、75重量%以下である。25重量%以上であると塗料組成物である水分散またはエマルジョンの安定性が良好であり、その結果電着塗膜の外観均一性が良好となり、75重量%以下であると経済的である。
【0022】
重合開始剤としては公知のものを使用でき、たとえば、アゾ化合物、パーオキサイド化合物、ジスルフィド化合物、スルフィド化合物、スルフィン化合物、ニトロソ化合物などが挙げられる。これらの中でも、アゾ化合物、パーオキサイド化合物が好ましい。アゾ化合物の具体例としては、たとえば、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)など、パーオキサイド化合物としては過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。これらの重合開始剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。重合開始剤の使用量は特に制限されず、モノマーの種類、重合開始剤自体の種類、使用量などに応じて、重合反応が円滑に進行し且つ目的の重量平均分子量のアニオン性(メタ)アクリル樹脂を得ることが出来る量を適宜選択すればよいが、好ましくはモノマーの合計量100重量部に対して0.01〜3重量部である。重合開始剤は、重合反応の進行状況に応じ、時間の間隔を空けて数回程度に分割して重合反応系に添加してもよい。重合反応は、好ましくは溶剤の還流温度下に行われ、3〜20時間程度、好ましくは3〜8時間程度で終了する。
【0023】
アニオン性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は1000〜40000、好ましくは2000〜30000である。1000未満では、水中への分散性が不良であり、電着塗料自体の沈降を生じるおそれがある。40000を超えると、ゆず肌等の塗装の不良現象が発生し均一な外観が得られないおそれがある。なお、アニオン性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量Mwはゲルパーミエーション(GPC)法で測定できる。たとえば、次のようにして測定した。GPC装置(商品名:HLC−8220GPC、東ソー株式会社製)において、温度40℃に設定したカラムを用い、試料溶液100mlを注入して測定した。試料溶液としては、アニオン性(メタ)アクリル樹脂(乾燥品)の0.25%テトラヒドロフラン溶液を一晩放置して溶解したものを用いた。分子量校正曲線は標準ポリスチレン(単分散ポリスチレン)を用いて作成した。
【0024】
アミノ樹脂(B)は、従来から公知の化合物を使用することができ、たとえば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミドなどのアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂、および該メチロール化アミノ樹脂のアルキルエーテル化物があげられる。
【0025】
上記メチロール化アミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂が好適であり、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基の一部もしくは全部がメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコールなどの1種もしくは2種以上の1価アルコールで変性されたメラミン樹脂を使用することができる。
【0026】
上記のメラミン樹脂の市販品としては、例えば、ユーバン20SE−60、ユーバン225(以上、いずれも三井化学株式会社製、商品名)、スーパーベッカミンG840、スーパーベッカミンG821(以上、いずれも大日本インキ化学工業株式会社製、商品名)などのブチルエーテル化メラミン樹脂;スミマールM−100、スミマールM−40S、スミマールM−55(以上、いずれも住友化学株式会社製、商品名)、サイメル232、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370(以上、いずれも日本サイテックインダストリーズ株式会社製、商品名)、ニカラックMS17、ニカラックMX15、ニカラックMX45、ニカラックMX430、ニカラックMX600、(以上、いずれも株式会社三和ケミカル製、商品名)、レジミン741(モンサント社製、商品名)などのメチルエーテル化メラミン樹脂;サイメル235、サイメル202、サイメル238、サイメル254、サイメル272、サイメル1130(以上、いずれも株式会社三井サイテック製、商品名)、スマミールM66B(住友化学株式会社製、商品名)などのメチル化とイソブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂;サイメルXV805(株式会社三井サイテック製、商品名)、ニカラックMS95(株式会社三和ケミカル製、商品名)などのメチル化とn−ブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0027】
4塩化オキシビスマス(BiOCl)(C)は、銀色の金属感を発現できる顔料であり、粒子の形状は粒状、特に真円状粒子が好ましく用いられる。市販品としては、「バイフレア84」(登録商標、メルク社製)、「Mearlite Ultra Bright USD」、「Mearlite Ultra Bright UTL」、「Mearlite Radiant Pearl STL」、「Mearlite Radiant Pearl SUQ」、「Mearlite Ultra Bright UDQ」、「Mearlite Ultra Bright UF」(いずれもENGELHARD社製)などが使用できる。4塩化オキシビスマス(BiOCl)(C)は塗料中での分散安定性が良好であり、電着塗膜に優れた外観均一性を与えるのに有効な顔料である。
【0028】
[水性電着塗料組成物]
本発明の電着塗料組成物は、電着塗料組成物を100重量%としたとき、非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したアニオン電着性を有する重量平均分子量1000〜40000の(メタ)アクリル樹脂(A)を30〜80重量%、アミノ樹脂(B)を10〜60重量%、および4塩化オキシビスマス(C)を1〜30重量%を有効成分として含む。本発明の電着塗料組成物は、たとえば、上記の各成分の所定量を混合して製造できる。
【0029】
(メタ)アクリル樹脂(A)の量が30重量%未満であると、水分散性が悪くなり、塗料安定性が低下し、80重量%を超えると塗膜にピンホール・ゆず肌などの不具合が生じる。好ましくは55〜75重量%である。この範囲内であると塗料液が安定であり、塗装外観も良好である。アミノ樹脂(B)の量が10重量%未満であると硬化塗膜の硬度・耐溶剤性が極端に低下し、60重量%を超えると樹脂・顔料の水分散性が悪く沈降の原因となる。好ましくは25〜45重量%である。この範囲内であると塗料液は安定であり、塗装外観も良好である。4塩化オキシビスマス(C)の量が1重量%未満であると、光輝感が無く、顔料の分散性も悪くなり、塗膜のブツ・はじきなどの不良の原因となり、30重量%を超えると光輝顔料の沈降が発生しやすくなる。好ましくは5〜20重量%である。この範囲内であると安定な塗装外観が得られる。
【0030】
本発明の電着塗料組成物は、さらに4塩化オキシビスマス(BiOCl)(C)以外の着色剤を含むことができる。着色剤としては、たとえば、無機顔料、有機顔料などがある。無機顔料の具体例としては、たとえば、チタンホワイト(酸化チタン)、カーボンブラック、ベンガラなどの着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカなどの体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛などの防錆顔料などが挙げられる。これら以外にも、特開2000−290542号公報、特開2000−230151号公報、特開平11−106687号公報などに記載のビスマス化合物、特開平6−220371号公報などに記載の酸化タングステン、特開平9−241546号公報などの亜リン酸化合物なども使用できる。有機顔料の具体例としては、たとえば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、ベンズイミダゾロンエロー、キナクリドンレッド、モノアゾレッド、ボリアゾレッド、またはベリレンレッドなどが挙げられる。顔料は1種を単独で使用できまたは2種以上を使用できる。シリカまたはカオリンを用いると、電着塗膜のハジキ防止性、耐チッピング性、塗膜硬度、耐候性、付着性、防錆性などを向上させ得る。また、リン酸アルミニウムまたはモリブデン酸カルシウムを用いると、電着塗料組成物の沈降安定性がさらに向上するとともに、電着塗膜の防錆性が向上する。本発明の電着塗料組成物における4塩化オキシビスマス(BiOCl)(C)を含む着色剤の含有量は、好ましくは該組成物の全固形分の1〜60重量%、さらに好ましくは1〜40重量%である。さらに本発明の電着塗料組成物は、たとえば、顔料分散剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの一般的な電着塗料用添加剤の適量を含むことができる。
【0031】
[水性電着塗料]
本発明の電着塗料は、本発明の電着塗料組成物、アミン系中和剤および水を含む。本発明の電着塗料は、本発明の電着塗料組成物にアミン系中和剤を加えて混合した後水に投入して分散して製造してもよいし、アミン系中和剤を水に溶解した後本発明の電着塗料組成物を投入して分散して製造してもよい。好ましくは前者である。水性電着塗料における電着塗料組成物の含有量は、固形分(塗膜形成成分)として、水性電着塗料全量の5〜20重量%、好ましくは8〜15重量%である。5重量%未満または20重量%を超えると、塗料中での各成分の分散状態が不安定になり、凝集・沈殿が発生し、均一な塗膜外観が得られないなどの不具合が発生するおそれがある。
【0032】
アミン系中和剤としては、公知のアミン化合物が使用でき、たとえば、第1〜3級の脂肪族アミン(炭素数1〜22の飽和または不飽和アミン)、第1〜3級のアルカノールアミン(炭素数3〜22の飽和または不飽和アミン)、第1〜3級の脂環式アミン(炭素数5〜22の飽和または不飽和アミン)、第1〜3級の芳香族アミン(炭素数6〜30の第1級もしくは第2級アミン)、第1〜3級の芳香脂肪族アミン(炭素数6〜30のアミン)、およびこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。具体的には、脂肪族アミン(メチルアミン、エチルアミン、n−およびi−プロピルアミン、n−、i−、sec−およびt−ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ドデシルアミンなどの第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミンなどの第2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンなどの第3級アミン;エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミンなどの2価アミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの3価〜5価またはそれ以上の脂肪族多価アミン);アルカノールアミン(モノエタノールアミンなどの第1級、ジエタノールアミンなどの第2級、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノエタノールなどの第3級アミン);第1〜3級の脂環式アミン(シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなど);第1〜3級の芳香族アミン(アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミンなどの第1級アミン、N−メチルアニリンなどの第2級アミン、N−エチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ピリジンなどの第3級アミン;3−および/または1,4−フェニレンジアミン、2,4−および/または2,6−トリレンジアミン、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジアミンなどの2価アミン、および3価〜5価またはそれ以上のポリアミン);第1〜3級の芳香脂肪族アミン(ベンジルアミンなど)などが挙げられる。これらのアミン化合物は1種単独または2種以上を併用できる。これらの内で好ましいのは、第3級アミンであり、より好ましいのは第3級脂肪族アミン、アルカノールアミンであり、特に好ましいのは、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N−エチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N、N−ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミンであり、最も好ましいのはトリエチルアミン、N、N−ジメチルアミノエタノールである。
【0033】
アミン系中和剤は、(メタ)アクリル樹脂中の酸成分を中和するものであり、その含有量は特に制限されないが、樹脂中の酸成分以上に用いることはしない。酸中和剤は、好ましくは水性電着塗料の0.1〜7重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。0.1重量%以上であると、各(メタ)アクリル樹脂の水溶性化が十分であり、各(メタ)アクリル樹脂が水中で均一に分散する。5重量%以下であると、酸中和剤が不純物として残存しにくく、電着塗装ひいては電着塗装後の加熱による硬化塗膜に悪影響を及ぼすおそれがない。なお、酸中和剤は各(メタ)アクリル樹脂との反応によって消失するが、各(メタ)アクリル樹脂と反応する前における、水への添加量を含有量と規定する。
【0034】
本発明の水性電着塗料を適用する対象基材は、電着塗装ができれば限定はないが、ステンレススチール(SUS304)、アルミニウムもしくはアルマイトを施したアルミニウム素材、めっき素材またはめっきを施した物品、ダイカストなどに適用でき、特に本発明の水性電着塗料は、外観が均一となるので電子機器筺体分野の筺体に特に好適に適用できる。
【0035】
めっき素材としては、この分野で常用されるものをいずれも使用でき、たとえば、純鉄、炭素鋼、高抗張力鋼(低合金鋼、マルエージング鋼)、磁性鋼、非磁性鋼、高マンガン鋼、ステンレス鋼(マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、オーステナイト・フェライト系ステンレス、析出硬化型ステンレスなど)、超合金鋼などの鉄系金属、銅および銅合金(無酸素銅、りん青銅、タフピッチ銅、アルミ青銅、ベリリウム銅、高力黄銅、丹銅、洋白、黄銅、快削黄銅、ネバール黄銅など)、鉄・ニッケル合金、ニッケル・クロム合金、ニッケル、クロム、アルミニウムおよびアルミニウム合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびこれらの合金、モリブデン、タングステンおよびこれらの合金、ニオブ、タンタルおよびこれらの合金、セラミックス類(アルミナ、ジルコアなど)などが挙げられる。めっき素材表面に施されるめっきの種類は特に制限されず、この分野で常用されるめっきをいずれも採用できる。たとえば、銅・ニッケル・クロムめっき、ニッケル・ボロン・タングステンめっき、ニッケル・ボロンめっき、黄銅めっき、ブロンズめっきなどの各種合金めっき、金めっき、銀めっき、銅めっき、錫めっき、ロジウムめっき、パラジウムめっき、白金めっき、カドミウムめっき、ニッケルめっき、クロムめっき、黒色クロムめっき、亜鉛めっき、黒色ニッケルめっき、黒色ロジウムめっき、亜鉛めっき、工業用(硬質)クロムめっきなどが挙げられる。また、ダイカストとしては、亜鉛ダイカスト、アルミニウムダイカスト、マグネシウムダイカスト、焼結合金ダイカストなどが挙げられる。
【0036】
本発明の水性電着塗料を用いる電着塗装は、従来のアニオン電着塗装と同様にして実施できる。たとえば、被処理品に必要に応じて脱脂処理、酸洗処理などを施した後、本発明の水性電着塗料に被処理品を浸漬し、通電を行うことによって、被処理品表面に未硬化の電着塗膜が形成される。この未硬化の電着塗膜が形成された被処理品を加熱処理することによって、被処理品表面に硬化した電着塗膜が形成される。脱脂処理は、たとえば、被処理品の表面にアルカリ水溶液を供給することにより行われる。アルカリ水溶液の供給は、たとえば、被処理品にアルカリ水溶液を噴霧するかまたは被処理品をアルカリ水溶液に浸漬させることにより行われる。アルカリとしては金属の脱脂に常用されるものを使用でき、たとえば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩などが挙げられる。アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、たとえば、処理する金属の種類、被処理金属の汚れの度合いなどに応じて適宜決定される。さらにアルカリ水溶液には、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤の適量が含まれていてもよい。脱脂は、20〜50℃程度の温度下(アルカリ水溶液の液温)に行われ、1〜5分程度で終了する。脱脂後、被処理品は水洗され、次の酸洗工程に供される。その他、酸性浴に浸漬する脱脂、気泡性浸漬脱脂、電解脱脂などを適宜組み合わせて実施することもできる。酸洗処理は、たとえば、被処理品の表面に酸水溶液を供給することにより行われる。酸水溶液の供給は、脱脂処理におけるアルカリ水溶液の供給と同様に、被処理品への酸水溶液の噴霧、被処理品の酸水溶液への浸漬などにより行われる。酸としては金属の酸洗に常用されるものを使用でき、たとえば、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。酸水溶液中の酸濃度は、たとえば、被処理金属の種類などに応じて適宜決定される。酸洗処理は、20〜30℃程度の温度下(酸水溶液の液温)に行われ、15〜60秒程度で終了する。脱脂処理および酸洗処理のほかに、スケール除去処理、下地処理、防錆処理などを施してもよい。
【0037】
電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、本発明の水性電着塗料を満たした通電槽中に被処理品を完全にまたは部分的に浸漬して陽極とし、通電することにより実施される。電着塗装条件も特に制限されず、被処理品である金属の種類、電着塗料の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られる塗装被処理物の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(電着塗料温度)10〜50℃程度、印加電圧10〜450V程度、電圧印加時間1〜10分程度、水性電着塗料の液温10〜45℃とすればよい。電着塗装が施された被処理品は、通電槽から取り出され、加熱処理が施される。加熱処理は、予備乾燥と硬化加熱とを含む。予備乾燥後に硬化加熱が行われる。予備乾燥は、60〜140℃程度の加熱下に行われ、3〜30分程度で終了する。硬化加熱は、150〜220℃程度の加熱下に行われ、10〜60分程度で終了する。このようにして、本発明の水性電着塗料による電着塗膜が得られる。
【実施例】
【0038】
以下に合成例、実施例、比較例および試験例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(合成例1)
[電着用アニオン性アクリル樹脂(A−1)の合成]
攪拌機、冷却器、温度計および滴下管を備える反応器にN−メチルピロリドン50g、イソプロピルアルコール(IPA)50gを入れ、熱媒体油として「PEG#400」(ポリエチレングリコール:ライオン株式会社製)を用いるオイルバスで加熱し、溶剤を還流状態にした。これと同時に、アクリル酸10g、ヒドロキシエチルメタクリレート20g、メチルメタクリレート30g、スチレン10gおよび2−エチルヘキシルアクリレート30gとアゾビスブチロニトリル(AIBN、ラジカル重合開始剤)2.4gを混合攪拌し、AIBNが均一に溶解したことを確認した後、この混合液を反応器内に3時間かけて滴下した。滴下終了後、N−メチルピロリドン5gで滴下管の残存モノマーを洗い流し、滴下終了30分後、AIBNを0.3g秤量して反応器に投入し、以後、30分おきにAIBNを0.3gずつ合計3回投入した。3回の投入終了後3時間還流し、反応を終了した。反応器を冷却し30℃以下になった時点で反応物を取り出し、電着用アニオン性アクリル樹脂(A−1)を得た。固型分48.5重量%、アクリル樹脂に対するN−メチルピロリドンの重量は55%であった。
【0039】
(合成例2)
[電着用アニオン性アクリル樹脂(A−2)の合成]
合成例1で用いたと同じ反応器に、N,N−ジメチルホルムアミド50g、IPA50gを入れ、熱媒体油として「PEG#400」(ポリエチレングリコール:ライオン株式会社製)を用いるオイルバスで加熱し、溶剤を還流状態にした。これと同時に、アクリル酸10g、ヒドロキシエチルメタクリレート20g、メチルメタクリレート30g、スチレン10gおよび2−エチルヘキシルアクリレート30gとAIBN2.2gを混合攪拌し、AIBNが均一に溶解したことを確認した後、この混合液を反応器内に3時間かけて滴下した。滴下終了後、IPA5gで滴下管の残存モノマーを洗い流し、滴下終了30分後、AIBNを0.3g秤量して反応器に投入し、以後、30分おきにAIBNを0.3gずつ合計3回投入した。3回の投入終了後3時間還流し、反応を終了した。反応器を冷却し30℃以下になった時点で反応物を取り出し、電着用アニオン性アクリル樹脂(A−2)を得た。固型分48.5重量%、アクリル樹脂に対するN,N−ジメチルホルムアミドの重量は50%であった。
【0040】
(比較合成例1)
[比較の電着用アニオン性アクリル樹脂(A−3)の合成]
合成例1において、N−メチルピロリドンに替えてキシレンを用いる以外は、合成例1と同様にして、比較の電着用アニオン性アクリル樹脂(A−3)を得た。固型分48.5重量%であった。
【0041】
(実施例1)
攪拌装置の付いた2リットルの容器に入れた、合成例1で得られた電着用アニオン性アクリル樹脂(A−1)100g、「ニカラックMX45」(登録商標、メラミン樹脂、株式会社三和ケミカル製)40g、「バイフレア84」(登録商標、4塩化オキシビスマス、メルク社製、固型分:66重量%)10gからなる電着組成物に、トリエチルアミン2.6gを加えて均一になるまで攪拌した後、攪拌しながらイオン交換水を徐々に加えて全量を1リットルとし、実施例1の水性電着塗料(B−1)を製造した。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同じ容器に入れた、合成例2で得られた電着用アニオン性アクリル樹脂(A−2)100g、「ニカラックMX45」40g、「バイフレア84」10gからなる電着組成物に、トリエチルアミン2.6gを加えて均一になるまで攪拌した後、攪拌しながらイオン交換水を徐々に加えて全量を1リットルとし、実施例2の水性電着塗料(B−2)を製造した。
【0043】
(比較例1)
比較合成例1で得られ比較の電着用アニオン性アクリル樹脂(A−3)100g、「ニカラックMX45」40g、「バイフレア84」10gからなる電着組成物に、トリエチルアミン2.6gを加えて均一になるまで攪拌した後、攪拌しながらイオン交換水を徐々に加えて全量を1リットルとし、比較例1の水性電着塗料(B−3)を製造した。
【0044】
(比較例2)
合成例1で得られ電着用アニオン性アクリル樹脂(A−1)100g、「ニカラックMX45」40g、「アルミニウムペースト CR」(アルミニウム顔料、旭化成ケミカルズ株式会社製)10gからなる電着組成物に、トリエチルアミン2.6gを加えて均一になるまで攪拌した後、攪拌しながらイオン交換水を徐々に加えて全量を1リットルとし、比較例2の水性電着塗料(B−4)を製造した。
【0045】
(性能試験)
SUS304テストピース(ステンレス鋼製,寸法100mm×70mm×1mm)の表面に、上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−4)を用い、液温25℃、塗装時間1分、通電方式:全没通電、電圧50V、塗料撹拌:3サイクル/時間の条件で電着塗装を行って膜厚15〜25μmの被膜を形成した。次に110℃で10分間の予備乾燥し、さらに180℃で30分間加熱して、テストピース表面に硬化被膜を形成した。電着塗装の際、テストピースの長辺方向の一方の端を上にして吊り下げて塗装液に浸漬した。
【0046】
[外観]
(目視)上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−4)を用いてテストピース表面に形成された硬化被膜の外観の状態を目視により観察した。(Lab値)硬化被膜が形成されたテストピースの長辺方向の両端からそれぞれ1cmの中心のところについて、スガ試験機製の多光源・分光測色計を用いて、Lab表示法に基づいて色調を計測した。
【0047】
[密着性試験]
上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−4)の硬化被膜について、テープを用いた付着性測定のための標準試験方法(Test methods for measuring adhesion by tape test、ASTM D3359−1993)に準拠して碁盤目剥離試験(剥離にはクロスカットテープを使用)を行い、その剥離残渣面積に基づいて10点法で評価をした。10点は全く剥がれていない状態、0点は全部剥がれた状態を指す。密着性は室内で試験を実施した結果である。
【0048】
[耐擦り傷性(引っかき硬度)]
上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−4)の硬化被膜について、引っかき硬度試験(鉛筆法、JISK5600−5−4)に基づいて、硬化被膜表面に傷跡が発生しない最も硬い鉛筆硬度(引っかき硬度)を測定した。鉛筆を硬化被膜表面に対して45°の角度で当接させ、鉛筆に750±10gの荷重を負荷しながら鉛筆を直線移動させて行った。
【0049】
[耐アセトン性試験(アセトンラビング)]
直径10mmの円形に切り取ったガーゼを4枚重ね合わせ、これにアセトンを含浸させて試験布を作成した。この試験布によって、1kgの荷重下に、上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−4)の硬化被膜の表面を擦り、テストピースの素地が露出して傷が付かない擦り回数、すなわち硬化被膜表面に変化がない回数を求めた。
【0050】
【表1】

【0051】
Lab値(上)は電着塗料中においてテストピースの上部に位置した部分の値、Lab値(下)は電着塗料中においてテストピースの下部に位置した部分の値を示す。
【0052】
表1から、本発明の水性電着塗料によって形成される電着塗装塗膜は、テストピースの上下で均一な外観が得られることがわかる。従来の水性電着塗料で電着した筺体の外観は電子機器筺体分野の非常に厳しい外観要求に対しても満足できなかったが、本発明の水性電着塗料を用いれば満足できるものとなる。また、従来の密着性、引っかき硬度、耐アセトン性といった諸特性も高水準で満足することが明らかである。また、上記結果から、非プロトン性極性溶剤と4塩化オキシビスマスの両方を満たして初めてテストピースの上下で均一な外観が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の電着塗料組成物、水性電着塗料は電着被膜の外観が均一となるので、電子機器筺体の電着塗装に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0054】
1 筺体
2 塗料液の上部
3 塗料液の下部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したアニオン電着性を有する重量平均分子量1000〜40000の(メタ)アクリル樹脂(A)30〜80重量%と、アミノ樹脂(B)10〜60重量%、および4塩化オキシビスマス(C)1〜30重量%を含む電着塗料組成物。
【請求項2】
請求項1記載の電着塗料組成物、アミン系中和剤および水を含むことを特徴とする水性電着塗料。
【請求項3】
請求項2記載の水性電着塗料を用いることを特徴とする電着塗装方法。
【請求項4】
請求項3記載の電着塗装方法を用いて塗装され加熱硬化されてなる被膜を有する電着塗装製品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−26451(P2011−26451A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173708(P2009−173708)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(390035219)株式会社シミズ (14)
【Fターム(参考)】