説明

坑道の支保方法

【課題】支保工間に板状部材を設置する作業を容易に行うことのできる坑道の支保方法を提供すること。
【解決手段】坑道壁面4に沿って並設された支保工5,5間に設置される板状部材10として、その坑道長手方向の全長を調節可能に構成したものを適用する。板状部材10の全長を隣り合う支保工5,5のフランジ5b,5b間の距離よりも短くした状態で、この板状部材10を、支保工5,5間において坑道内空側に位置するフランジ5bよりも坑道壁面側に配置した後、板状部材10の全長を長くすることによって、板状部材10の両端部を坑道内空側のフランジ5bの裏面5dに設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑道の支保方法に関するものであり、特に、坑道の壁面に沿って所定の間隔をあけて並設した支保工間に板状部材を設置する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地山に構築される坑道の壁面を支保する支保構造体の一例として、例えば特許文献1に示すものがある。図1は、特許文献1に示される坑道1及び支保構造体2を示す概略断面図であり、図12は、図1に示される坑道1における切羽1a近傍を側方から見た図である。なお、図12は建設途中の坑道1の状態を示している。また、図13は、図1及び図12に示される支保構造体2の一部を示した概略斜視図である。
【0003】
図1に示される坑道1は、硬質岩盤からなる地盤Gを掘削して形成した掘削坑道1bの坑道壁面4(以下、「坑道壁面4」という)に沿って、支保構造体2が構築された構成となっている。支保構造体2は、図12及び図13に示すように坑道長手方向に所定の間隔で並設される複数の支保工5と、隣り合う支保工5間に設置される板状部材100と、この板状部材100と坑道壁面4との間に充填される裏込め材料20とを備えている。なお、図1及び12では、図を見やすくするために裏込め材料20の図示を省略している。
【0004】
支保工5は、図13に示すように、ウェブ5aの両端にフランジ5b,5cを有したH形鋼から構成されるものである。支保工5は、図1に示すように、坑道壁面4に合致する形状に成形された2本の長尺のH形鋼をヒンジ6で結合することにより形成してある。
【0005】
板状部材100は、図13に示すようにリブ構造を有した平面視矩形状の鋼板から構成されるものである。板状部材100は、その坑道長手方向の長さが、隣り合う支保工5,5のフランジ5b,5b間の距離よりも大きく形成してあり、隣り合う支保工5,5における坑道内空側の各フランジ5bの裏面に架設されている。図1に示すように、板状部材100は坑道壁面4の全周に亘って設置され、支保工5,5間を閉塞する。
【0006】
裏込め材料20は、主に豆砂利状の砕石から構成されるものであり、図13に示すように板状部材100と坑道壁面4との間に充填されることによって、地山の変形を抑えるものである。
【0007】
上記構成を有する支保構造体2は、以下のようにして構築される。まず、図12に示すように、坑道1の切羽1aで支保工5の1スパン分相当の掘進をした後、切羽1a直近に、坑道壁面4に沿って支保工5−2を建て込む。次いで、切羽1a直近の支保工5−2とそれに隣接する支保工5−1との間を、図13に示すタイロッド7で固定し、支保工5−1,5−2間を所定の間隔に維持する。次いで、坑道壁面4と支保工5−2との間に図1に示すようにくさび4aを嵌挿することによって、坑道壁面4に対して支保工5−2を固定する。
【0008】
次に、隣り合う支保工5−1,5−2間に板状部材100を配置し、板状部材100の両端部を支保工5−1,5−2における坑道内空側のフランジ5bの裏面側に固定する。坑道1の床面3を除く坑道壁面4の全周に亘って板状部材100を設置し、支保工5−1,5−2間を閉塞する。この後、坑道壁面4と板状部材100との間の空間に裏込め材料20を充填することで、1スパン分の支保構造体2が構築される。さらに、上記工程を支保工5の1スパンごとに繰り返すことによって、坑道1が構築される。
【0009】
【特許文献1】特開2007−23656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、支保構造体2を構成する板状部材100は、上述したようにその坑道長手方向の長さが隣り合う支保工5,5のフランジ5b,5b間の距離よりも大きく形成してある。このため、図14に示すように、支保工5−2を建て込んだ後に板状部材100を支保工5−1,5−2間に設置する場合、この板状部材100を、支保工5−1,5−2間の各フランジ5bよりも坑道壁面4側に配置するのはかなり困難な作業になる。
【0011】
例えば、板状部材100の長辺が鉛直方向を向くように板状部材100を立てた状態で、支保工5−1,5−2間の各フランジ5bよりも坑道壁面4側の空間に配置した後、長辺を坑道壁面4に沿って回転させて水平にすることにより、板状部材100を各フランジ5bの裏側に設置する方法がある。しかしながら、この方法は、坑道壁面4が湾曲していない坑道下部の支保工間に板状部材100を設置する場合には適用可能であるが、坑道上部のように坑道壁面4が湾曲した部分では、板状部材100を回転させる際に坑道壁面4に接してしまい、支保工5−1,5−2間に設置するのが困難となる。
【0012】
また、図15に示すように、板状部材100を支保工5−1と支保工5−2との間の空間に収まるように保持しながら、支保工5−2の建て込み作業と板状部材100の設置作業とを同時に行う方法もある。しかし、図15に示すような方法では、板状部材100を保持した状態で支保工5−2の建て込み作業を行わなければならず、難易度が高く複雑な作業になるという問題がある。さらに、この方法では、坑道壁面4と支保工5−2との隙間にくさび4aを嵌挿する作業を切羽1a側からしか行うことができず、作業性に劣るという問題がある。
【0013】
本発明は、上記の点に鑑み、支保工間に板状部材を設置する作業を容易に行うことのできる坑道の支保方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に係る坑道の支保方法は、ウェブの両端にフランジを有した支保工を、一方のフランジを坑道壁面に対向させる態様で前記坑道壁面に沿って坑道長手方向に所定の間隔をあけて並設した後に、前記支保工間に板状部材を設置する坑道の支保方法であって、前記板状部材として、その坑道長手方向に沿った全長を調節可能に構成したものを適用し、前記板状部材の全長を隣り合う支保工のフランジ間の距離よりも短くした状態で、前記板状部材を、前記支保工間において坑道内空側に位置するフランジよりも坑道壁面側に配置した後、前記板状部材の全長を長くすることによって、前記板状部材の両端部を前記坑道内空側のフランジの裏面に設置することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2に係る坑道の支保方法は、上記請求項1において、前記板状部材として、2枚の板材で構成したものを適用し、前記2枚の板材の少なくとも一部同士を重ね合わせた状態で一方の板材に対して他方の板材をスライドさせることにより、前記板状部材の全長を長くすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に係る坑道の支保方法は、上記請求項2において、前記板状部材を前記支保工間において前記坑道内空側のフランジよりも坑道壁面側に配置した後、前記板状部材における一方の板材の端部を、一方の支保工における前記坑道内空側のフランジの裏面に設置し、この状態から他方の板材をスライドさせることによって、前記他方の板材の端部を、他方の支保工における前記坑道内空側のフランジ裏面に設置することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項4に係る坑道の支保方法は、上記請求項3において、前記板状部材を構成する2枚の板材の各端部を、前記各支保工における前記坑道内空側のフランジの裏面にそれぞれ設置した後、前記2枚の板材の重合部分を固定することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項5に係る坑道の支保方法は、上記請求項3において、前記板状部材を構成する2枚の板材の各端部を、前記各支保工における前記坑道内空側のフランジの裏面にそれぞれ設置した後、前記2枚の板材の重合部分に補強板を設置し、前記2枚の板材の重合部分と前記補強板とを固定することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項6に係る坑道の支保方法は、上記請求項1から5のいずれか一つにおいて、前記板状部材として、リブ構造を有する板状部材を適用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の坑道の支保方法によれば、坑道長手方向に沿った長さを調節可能に構成した板状部材を適用することで、支保工の建て込み作業が完了した後に坑道の内空側から板状部材を容易に設置することができるようになる。その結果、従来のように支保工の建て込み作業と板状部材の保持作業とを同時に行う場合と比べて、作業効率を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る坑道の支保方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態である坑道の支保方法の適用対象となる坑道1及び支保構造体2を示す概略断面図である。なお、本実施の形態で適用対象となる坑道1は、板状部材10を除いて先に説明した特許文献1における坑道1と同一であるため、同一の図を用いて説明する。また、図2は、建設途中の坑道1における切羽1a近傍を側方から見た図であり、図3は、図1及び図2に示した支保構造体2の一部を示した概略斜視図である。
【0023】
図1に示す坑道1は、硬質岩盤からなる地盤Gを掘削して形成した掘削坑道1bの坑道壁面4(以下、これを「掘削坑道4」という)に沿って、支保構造体2が構築された構成となっている。硬質岩盤からなる地盤Gの場合、地圧が比較的小さいので、軟質岩盤のように掘削坑道1bの壁面全周に亘って支保工構造体2を構築する必要はない。図1に示す坑道1では、床面3を除く坑道壁面4に沿って支保構造体2が構築されている。この坑道1は、例えば放射性廃棄物の埋設処分施設における廃棄物処分坑道に適用されるものである。
【0024】
支保構造体2は、図1〜図3に示すように、坑道長手方向に所定の間隔で並設される複数の支保工5と、隣り合う支保工5,5間に設置される板状部材10と、この板状部材10と坑道壁面4との間に充填される裏込め材料20とを備えている。なお、図1及び図2では、裏込め材料20の図示を省略している。
【0025】
支保工5は、図3に示すように、ウェブ5aの両端にフランジ5b,5cを有したH形鋼から構成されるものである。なお、支保工5はH型鋼に限定されるものではなく、I型鋼や溝型鋼等の他の鋼材を適用することも可能である。図1に示すように、支保工5は坑道壁面4に合致する形状に成形された2本の長尺のH形鋼を、天端においてヒンジ6で結合することにより形成されるものであり、一方のフランジ5cを坑道壁面4に対向させる態様で、坑道壁面4に沿って坑道長手方向に所定の間隔をあけて並設される。図3に示すように、隣り合う支保工5,5のウェブ5a間にはタイロッド7が架け渡され、固定具8によってウェブ5aに固定されている。
【0026】
板状部材10は、図3に示すように、平面視矩形状をなす板材であり、その両端部が隣り合う支保工5,5における坑道内空側の各フランジ5bの裏面5dに当接した状態で、支保工5,5間に架設されるものである。図1及び図2に示すように、この板状部材10は、床面3を除く坑道壁面4の全周に亘って設置され、隣り合う支保工5,5間を閉塞する。
【0027】
坑道壁面4と板状部材10との間に充填される裏込め材料20は、主に砕石から構成されるものである。充填される砕石としては、豆砂利状の砕石が好ましく、坑道1の掘削により発生した掘削ずりを利用することができる。さらに、坑道1の閉鎖時には、砕石10間の隙間にベントナイト系材料(図示せず)が充填される。ベントナイト系材料を充填することにより、長期に亘って坑道の遮水性を維持することができる。ベントナイト系材料としては、固相にベントナイト、液相にエタノールと水を配合したスラリー材であるエタノール・ベントナイトスラリーを使用することができる。
【0028】
本実施の形態である坑道の支保方法は、上記の支保構造体2を構成する板状部材10として、その全長を調節可能に構成したものを適用することにより、建て込みが完了した支保工5,5間に容易に板状部材10を設置できるようにしたことに特徴がある。
【0029】
以下、図3に示す板状部材10について詳しく説明する。図4−1は板状部材10の全長を短くした状態を示す斜視図、図4−2は板状部材10の全長を長くした状態を示す斜視図、図5は図4−1を矢印A方向から見た図である。また、図6は板状部材10を構成する板材の一例を示す斜視図であり、図7−1及び図7−2は、隣り合う支保工5,5間に配置された状態における板状部材10の横断面図であり、図8−1及び図8−2は、隣り合う支保工5,5間に配置された状態における板状部材10の斜視図である。
【0030】
図4−1及び図4−2に示すように、この板状部材10は、板材10aと、この板材10aに重ね合わされる板材10bとから構成されるものである。板状部材10は、2枚の板材10a,10bの少なくとも一部同士を重ね合わせた状態で、板材10a又は板材10bをスライドさせることにより、端辺S1の長さを調節可能に構成してある。なお、板状部材10の端辺S1は、板状部材10を支保工5,5間に設置した場合に坑道長手方向に沿う辺である。以下の説明では、この端辺S1の長さを、板状部材10の全長とよぶ。
【0031】
板状部材10を構成する各板材10a,10bは、図6に示すように、厚さ1mm程度の薄鋼板に折り曲げ加工や溶接加工を施すことによって、平坦部11a,11bと矩形の凸部21a,21bを交互に形成したものである。このようなリブ構造を有する鋼板としては、例えばキーストンプレートやデッキプレート等を適用することができる。なお、板材10aは、板材10bの上面に重ねることができるように板材10bよりも若干大きく形成してある。
【0032】
図4−1及び図4−2に示すように、板材10aの平坦部11aにおいて板材10bと重合する部位には、2本のボルト12,12が、板材10bに向けて突出する態様で固定してある。一方、板材10bの平坦部11bにおいて、板材10aと重合する部位には、ボルト12,12の軸部(図7−1を参照)を挿通・移動させるためのスリット13が形成してある。なお、板材10aには平坦部11aが5箇所形成されているが、図5に示すように、5箇所の平坦部11aのすべてにボルト12,12が設けてある。同様に、板材10bに形成した5箇所の平坦部11bのすべてにスリット13が形成してある。
【0033】
上記の板材10a及び板材10bは、図7−1に示すように、2本のボルト12,12の軸部12aをスリット13に挿通させ、板材10bの下面においてボルト12,12の軸部12aの先端をナット14,14で締結することにより、一体化された構造となる。また、各ナット14を緩めれば、板材10a,10bを相互にスライドさせることができ、板状部材10の全長を調節することが可能となる。
【0034】
上記のように構成した板状部材10を支保工5,5間へ設置する際には、予め、板状部材10の全長を隣り合う支保工5,5のフランジ5b,5b間の距離以下に縮めた状態にしておく。そして、図8−1に示すように、板材10aが坑道壁面4側、板材10bが坑道1の内空側となるように、板状部材10を支保工5,5間に配置し、図7−1に示すように支保工5の坑道内空側のフランジ5bの裏面5dに板材10bの端部(端辺S2)を設置する。この際、必要に応じて、ボルト締結や溶接等の手段によって板材10bの端部をフランジ5bに固定する。
【0035】
この後、ナット14を緩めて板材10aをスライドさせ、図8−2に示すように、板状部材10の全長を隣り合う支保工5,5のフランジ5b,5b間の距離以上に延ばした状態にする。そして、図7−2に示すように、隣接する支保工5の坑道内空側のフランジ5bの裏面5dに、嵩上プレート9(鋼製の平板)を介して板材10aの端部(端辺S2)を設置する。この際、上述した板材10bの端部と同様に、ボルト締結や溶接等の手段によって板材10aの端部をフランジ5bに固定してもよい。
【0036】
なお、図7−2に示すように、板材10aと板材10bとの重合部分には補強板15を取付けるのが好ましい。補強板15は、図には明示されていないが、その幅方向寸法を、板材10bの平坦部11bの幅方向寸法と同程度に形成した帯状の鋼板からなるものである。補強板15の長手方向寸法は、図7−2に示すように、板状部材10の全長を最大に延ばした場合の板材10aと板材10bの重合部分を覆う程度の寸法に形成してある。この補強板15は、板材10bの各平坦部11bごとに設けられるのが好ましい。
【0037】
図9−1〜図9−4は板状部材10を支保工5間へ設置する手順を示す図である。以下、図1〜図9−1〜図9−4を参照しながら、1スパン分の支保構造体2を構築する手順について説明する。なお、図9−1は、図2に示した坑道壁面4近傍を示した横断面図であり、支保工5−1まで支保構造体2の構築が完了した状態を示している。
【0038】
まず、坑道1の先端部の切羽1aで支保工5の1スパン分相当の掘進をした後、切羽1a直近に、坑道壁面4に沿って支保工5−2を建て込む(図2を参照)。次いで、切羽1a直近の支保工5−2とそれに隣接する支保工5−1との間を、タイロッド7(図3を参照)で固定し、支保工5−1,5−2間を所定の間隔に維持する。坑道壁面4と支保工5−2との間にはくさび4a(図1を参照)を嵌挿する。これにより、坑道壁面4に対して支保工5−2が固定される。
【0039】
この後、図9−2に示すように、隣り合う支保工5−1,5−2のフランジ5b,5b間の距離以下に縮めた状態にした板状部材10を、支保工5−1,5−2間においてフランジ5bよりも坑道壁面側の空間に配置する。そして、板材10bの端部(端辺S2)を、支保工5−1のフランジ5bの裏面5dに取付け固定する。
【0040】
次いで、ナット14(図7−1を参照)を緩めて、板状部材10の板材10aを切羽1a側にスライドさせることにより、板状部材10の全長を延ばし、板材10aの端部(端辺S2)を支保工5−2のフランジ5bの裏面5dに取り付け固定する。
【0041】
この後、板材10aと板材10bの重合部分を締結しているナット14(図7−1を参照)を一旦外して、板材10aと板材10bとの重合部分に補強板15(図7−2を参照)を設置し、補強板15のボルト孔にボルト12を挿通して板材10aと板材10bの重合部分に補強板16を取り付け、ナット14で締結する。
【0042】
上記の板状部材10の設置工程を繰り返し行い、坑道1の床面3を除く坑道壁面4全周に亘って複数枚の板状部材10を設置することにより、支保工5−1,5−2間を閉塞する。次いで、坑道壁面4と板状部材10との間の空間に裏込め材料20を充填することで、1スパン分の支保構造体2が構築される。そして、上記の工程を支保工5の1スパンごとに繰り返すことによって、坑道1が構築される。
【0043】
なお、板状部材10と坑道壁面4との間への裏込め材料の充填作業の方法としては、板状部材10あるいは支保工5の所定箇所に、裏込め材料20を充填するための開口を設け、坑道壁面4の全周に亘って複数の板状部材10を設置した後に、この開口から板状部材10と坑道壁面4との間の空間に裏込め材料20を充填する方法や、板状部材10を支保工5,5間に設置する作業と、設置した板状部材10と坑道壁面4との間に裏込め材20を充填する作業とを交互に繰り返し行っていく方法等があるが、いずれの方法を適用してもよい。
【0044】
また、上記の例では、断面形状が矩形の凹凸に形成された板材10a,10bを重ね合わせた板状部材10を適用したが、他のリブ構造を有する板状部材を適用することも可能である。例えば、図10に示すような板状部材10´を適用することもできる。この板状部材10´は、端部閉塞加工(エンドクローズ加工)が施された板材10´a,10´bから構成されるものである。板材10´a及び板材10´bは、図11−1及び図11−2に示すように、一方の面に所定の間隔で凸部21´a(21´b)が設けられる一方、裏面が平坦に形成されたものである。この板状部材10´の場合、図10に示すように、凸部21´a(21´b)が設けられている面の裏面同士を重ね合わせた状態で、板材10´a又は板材10´bをスライドさせることにより、全長を調節する。図示は省略するが、上述した板状部材10と同様にして、板材10´aの平坦部11´aにボルト12を設けるとともに、板材10´bの平坦部11´bにボルト12を挿通・移動させるためのスリット13を設ける。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態である坑道の支保方法によれば、板状部材10として、その坑道長手方向の全長を調節可能に構成したものを適用することにより、支保工5の建て込み作業が完了した後に坑道1の内空側から板状部材10を容易に設置することができるようになる。その結果、従来のように支保工5の建て込み・固定作業と同時に板状部材10を支保工5間に保持するといった難易度の高い複雑な作業を行う必要がなく、作業効率を著しく向上させることができる。
【0046】
また、従来のように支保工5の建て込み作業と板状部材10の設置作業とを同時に行う方法では、坑道壁面4と支保工5との隙間にくさび11を嵌挿する作業を切羽1a側からしか行うことができなかったが、本実施の形態の方法によれば、切羽側と坑口側の両方向から、支保工5と坑道壁面4との隙間にくさびを嵌挿する作業を行うことが可能となる。
【0047】
また、本実施の形態である坑道の支保方法によれば、板状部材10を、2枚の板材10a,10bを重ね合わせた簡易な構成とし、板材10a,10bを相互にスライドさせることによって板状部材10の全長を調節するようにしたので、板状部材10の全長の調節を極めて容易に行うことができる。
【0048】
また、本実施の形態である坑道の支保方法によれば、板状部材10を支保工5間において坑道内空側のフランジ5bよりも坑道壁面側に配置した後、板状部材10における一方の板材10bの端部を、一方の支保工5のフランジ5bの裏面に取り付け、この状態から他方の板材10aをスライドさせることによって、板材10aの端部を他方の支保工5のフランジ5bの裏面に取付けるようにしたので、作業の安全性を確保しながら効率よく作業を行うことができる。
【0049】
さらに、本実施の形態である坑道の支保方法によれば、板状部材10を構成する2枚の板材10a,10bの各端部を各支保工5のフランジ5bの裏面に取付けた後、2枚の板材10a,10bの重合部分に補強板15を設置し、2枚の板材10a,10bの重合部分と補強板15とを固定するようにしたことで、板状部材10の重合部分の強度を向上させることができる。
【0050】
加えて、本実施の形態である坑道の支保方法によれば、板状部材10として、リブ構造を有するものを適用したことで、さらに強度を向上させることができる。
【0051】
なお、上記実施の形態では、板状部材10における板材10aと板材10bの重合部分を固定する方法として、ボルトで締結する方法を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、溶接等によって重合部分を固定してもよい。
【0052】
また、上記実施の形態では、硬質岩盤を掘削して形成した掘削坑道1bの壁面4に支保構造体2を構築する場合について説明したが、軟質岩盤を掘削して形成した掘削坑道の壁面全周に亘って支保構造体2を構築する場合にも、本発明の方法を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施の形態の坑道の支保方法の適用対象となる坑道及び支保構造体を示す概略断面図である。
【図2】図1に示した坑道における切羽近傍を側方から見た図である。
【図3】図1に示した支保構造体の一部を示した概略斜視図である。
【図4−1】板状部材10の斜視図である。
【図4−2】板状部材10の斜視図である。
【図5】図4−1を矢印A方向から見た図である。
【図6】板状部材を構成する板材の一例を示す斜視図である。
【図7−1】支保工間に配置された状態における板状部材の横断面図である。
【図7−2】支保工間に配置された状態における板状部材の横断面図である。
【図8−1】支保工間に配置された状態における板状部材の概略斜視図である。
【図8−2】支保工間に配置された状態における板状部材の概略斜視図である。
【図9−1】板状部材を支保工間へ設置する手順を示す図である。
【図9−2】板状部材を支保工間へ設置する手順を示す図である。
【図9−3】板状部材を支保工間へ設置する手順を示す図である。
【図9−4】板状部材を支保工間へ設置する手順を示す図である。
【図10】板状部材の他の例を示す斜視図である。
【図11−1】図10に示した板状部材を構成する板材の一例を示す斜視図である。
【図11−2】図11−1のA−A´線断面図である。
【図12】従来の坑道における切羽近傍を側方から見た図である。
【図13】従来の支保構造体の一部を示した概略斜視図である。
【図14】従来の板状部材を支保工間へ設置する作業を説明するための図である。
【図15】従来の板状部材を支保工間へ設置する作業を説明するための図である。
【符号の説明】
【0054】
1 坑道
1a 切羽
1b 掘削坑道
2 支保構造体
3 床面
4 坑道壁面
5,5−1,5−2 支保工
5a ウェブ
5b (坑道内空側)フランジ
5c (坑道壁面側)フランジ
5d (フランジの)裏面
6 ヒンジ
7 タイロッド
8 固定具
9 嵩上げプレート
10,10´ 板状部材
10a,10b 板材
11a,11b,11´a,11´b 平坦部
12 ボルト
13 スリット
14 ナット
15 補強板
20 裏込め材料
21a,21b,21´a,21´b 凸部
S1,S2 端辺
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブの両端にフランジを有した支保工を、一方のフランジを坑道壁面に対向させる態様で前記坑道壁面に沿って坑道長手方向に所定の間隔をあけて並設した後に、前記支保工間に板状部材を設置する坑道の支保方法であって、
前記板状部材として、その坑道長手方向の全長を調節可能に構成したものを適用し、
前記板状部材の全長を隣り合う支保工のフランジ間の距離よりも短くした状態で、前記板状部材を、前記支保工間において坑道内空側に位置するフランジよりも坑道壁面側に配置した後、前記板状部材の全長を長くすることによって、前記板状部材の両端部を前記坑道内空側のフランジの裏面に設置することを特徴とする坑道の支保方法。
【請求項2】
前記板状部材として、2枚の板材で構成したものを適用し、
前記2枚の板材の少なくとも一部同士を重ね合わせた状態で一方の板材に対して他方の板材をスライドさせることにより、前記板状部材の全長を長くすることを特徴とする請求項1に記載の坑道の支保方法。
【請求項3】
前記板状部材を前記支保工間において前記坑道内空側のフランジよりも坑道壁面側に配置した後、前記板状部材における一方の板材の端部を、一方の支保工における前記坑道内空側のフランジの裏面に設置し、この状態から他方の板材をスライドさせることによって、前記他方の板材の端部を、他方の支保工における前記坑道内空側のフランジ裏面に設置することを特徴とする請求項2に記載の坑道の支保方法。
【請求項4】
前記板状部材を構成する2枚の板材の各端部を、前記各支保工における前記坑道内空側のフランジの裏面にそれぞれ設置した後、前記2枚の板材の重合部分を固定することを特徴とする請求項3に記載の坑道の支保方法。
【請求項5】
前記板状部材を構成する2枚の板材の各端部を、前記各支保工における前記坑道内空側のフランジの裏面にそれぞれ設置した後、前記2枚の板材の重合部分に補強板を設置し、前記2枚の板材の重合部分と前記補強板とを固定することを特徴とする請求項3に記載の坑道の支保方法。
【請求項6】
前記板状部材として、リブ構造を有する板状部材を適用することを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の坑道の支保方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−263938(P2009−263938A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113200(P2008−113200)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】