説明

垂直磁気記録媒体、及び垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁化の飽和による書き込み時の問題を発生させることなく、軟磁性層間の交換結合磁界Hexを増大させる。
【解決手段】垂直磁気記録媒体100であって、基板110と、軟磁性裏打ち層114と、磁気記録層である主記録層124とを備え、軟磁性裏打ち層114は、少なくとも、第1軟磁性層202aと、第1非磁性層204aと、第2軟磁性層202bと、第2非磁性層204bと、第3軟磁性層202cとを有し、第2非磁性層204bは、第2非磁性層204bを挟んで対向する第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cを反強磁性的層間相互作用により磁気的に交換結合させる非磁性層であり、第1非磁性層204aは、第2軟磁性層202bとは異なる材料で形成される層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体、及び垂直磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に、磁気記録技術を用いたHDD(ハードディスクドライブ)の面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体である磁気ディスクにおいて、高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性粒子を微細化すると共に、その層厚を低減して行く必要がある。ところが、従来から商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性粒子の微細化が進展した結果、いわゆる熱揺らぎ現象が発生するようになった。熱揺らぎとは、超常磁性現象により記録信号の熱安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう減少である。そのため、従来、この熱揺らぎ現象が、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0004】
そして、近年、この阻害要因解決のために、垂直磁気記録方式で磁気記録を行う垂直磁気記録媒体が提案された。垂直磁気記録方式の場合、面内磁気記録方式とは異なり、例えば、磁気記録層を構成する主記録層の磁化容易軸が、基板の主表面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。この構成により、垂直磁気記録方式では、面内記録方式に比べて、熱揺らぎが現象を抑制できる。そのため、垂直磁気記録方式は、面内記録方式に比べて、高記録密度化に適している。
【0005】
また、垂直磁気記録媒体では、主記録層における磁性粒子の配向性を制御する配向制御層の下部に、軟磁性層と呼ばれる強磁性層が設けられている。軟磁性層を用いることにより、記録ヘッドからの磁束を収束させ、また、鏡像効果により、長手記録媒体に比べ、急峻で大きな磁界を発生させることが可能になる。そのため、軟磁性層は、垂直磁気記録媒体において、重要な層構造の一つである。
【0006】
しかし、同時に、軟磁性層は、信号再生時のノイズ源にもなり得る。その理由の一つは、軟磁性層が磁区を形成することにより、その磁壁からの漏洩磁束がノイズとして検出されるためである。そして、このノイズを低減するためには、軟磁性層の磁区制御が必要になる。
【0007】
従来、このノイズを低減する方法の一つとして、非磁性層を介して複数の軟磁性層をサンドイッチ状に積層する方法が知られている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照。)。この方法によれば、非磁性層を介した複数の軟磁性層間の反強磁性的層間相互作用により、人工的な積層フェリ磁性構造を作成できる。そして、この積層フェリ磁性構造では、上下の軟磁性層間に交換結合磁界Hexを発現させることにより、見かけ上、軟磁性層の磁化をゼロとすることができる。そのため、磁壁からの漏洩磁束を閉じ込めることができ、有効に軟磁性層の磁区制御を行うことができる。
【非特許文献1】IEEE Trans.Magn.vol.40、pp.2383(2004)
【特許文献1】特開2004−79043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、磁気ディスクの情報記録密度の更なる高記録密度化が要求されており、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクとして、1枚あたり160GBを越える情報記録容量が求められるようになって来ている。このような要請に応えるためには1平方インチあたり250GBビットを越える情報記録密度を実現する必要がある。そして、上記のような複数の軟磁性層を有する垂直磁気記録媒体において、このような高記録密度を可能にするためには、軟磁性層間の交換結合磁界Hexをより増大し、軟磁性層からのノイズをより低減する必要がある。
【0009】
ここで、交換結合磁界Hexを増大させるためには、非磁性層を挟む上下の軟磁性層の膜厚を低減する方法が考えられる。しかし、この方法を用いた場合、軟磁性層の膜厚が小さくなることにより、軟磁性層の飽和磁化も小さくなる。そのため、垂直磁気記録媒体に対する情報の書き込み時において、軟磁性層が飽和してしまい、記録ヘッドからの書き込み磁界の一部が軟磁性層を通らなくなるおそれがある。そして、その結果、垂直磁気記録媒体に対する書き込みを行えなくなる現象が発生するおそれがある。また、このような現象が発生すると、垂直磁気記録媒体の記録再生特性が劣化することとなる。そのため、従来、記録再生特性を劣化させることなく、複数の軟磁性層間の交換結合磁界Hexを増大させる方法が求められていた。
【0010】
尚、軟磁性層の飽和を防ぐためには、例えば、飽和磁化Msの大きい材料で軟磁性層を形成する方法も考えられる。しかし、一般に、飽和磁化Msの大きい材料には結晶材料が多く、このような材料はノイズも大きいであることが知られている。そのため、このような材料で形成した軟磁性層は、かえってノイズの原因となるおそれもある。
【0011】
また、結晶材料ではなく、アモルファス材料で軟磁性層を形成した場合、結晶材料を用いる場合と比べてノイズの低減は可能になるが、飽和磁化Msが小さくなってしまう。そのため、アモルファス材料で軟磁性層を形成しようとすれば、軟磁性層の膜厚を大きくすることが必要になり、交換結合磁界Hexを増大させることが困難になる。
【0012】
このように、従来、飽和磁化Msが大きく、かつノイズの小さい材料を見つけることは困難であった。そのため、記録再生特性を劣化させることなく、複数の軟磁性層間の交換結合磁界Hexを増大させることは困難であった。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる垂直磁気記録媒体、及び垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために発明者は、鋭意検討を行った。そして、反強磁性的層間相互作用により交換結合する上下の軟磁性層のそれぞれ、又は少なくとも一方を非磁性層で更に分断することにより、全ての軟磁性層の膜厚の合計を減らすことなく、分断された軟磁性層のうち、実質的に交換結合している軟磁性層の膜厚を低減できることを見出した。また、上層及び下層の軟磁性層を分断する非磁性層の形成方法や材料等についても検討し、更に研究を重ねることにより、本発明を完成することに至った。本発明は、以下の構成を有する。
【0014】
(構成1)垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体であって、基板と、非磁性層を挟んで積層された複数の軟磁性層を含み、基板の上方に形成される軟磁性裏打ち層と、軟磁性裏打ち層の上方に形成される磁気記録層とを備え、軟磁性裏打ち層は、少なくとも、基板の上方に形成される第1軟磁性層と、第1軟磁性層の上方に形成される第1非磁性層と、第1非磁性層の上方に形成される第2軟磁性層と、第2軟磁性層の上方に形成される第2非磁性層と、第2非磁性層の上方に形成される第3軟磁性層とを有し、第1非磁性層及び第2非磁性層のうちの一方の非磁性層は、第1軟磁性層、第2軟磁性層、及び第3軟磁性層のうちの、当該一方の非磁性層を挟んで対向する2層を反強磁性的層間相互作用により磁気的に交換結合させる非磁性層であり、第1非磁性層及び第2非磁性層のうちの他方の非磁性層は、一方の非磁性層とは異なる材料で形成される層である。第1非磁性層及び第2非磁性層は、例えば、上下の軟磁性層を分断するスペーサとなる。第1軟磁性層、第2軟磁性層、及び第3軟磁性層は、例えば、第1非磁性層及び第2非磁性層を間に挟んで、サンドイッチ状に積層される。
【0015】
このように構成すれば、上記一方の非磁性層を挟んで対向する上下の軟磁性層の反強磁性的層間相互作用により、人工的な積層フェリ磁性構造を適切に作成できる。これにより、軟磁性層に起因するノイズを低減できる。
【0016】
また、上記一方の非磁性層の上側又は下側の少なくとも一方においては、複数の軟磁性層が、上記他方の非磁性層により物理的に分断された構成となる。この場合、上記他方の非磁性層により分断された軟磁性層が交換結合することとなるため、反強磁性的層間相互作用により交換結合する軟磁性層の膜厚を低減できる。そのため、このように構成すれば、上記一方の非磁性層を挟んで対向する軟磁性層間に生じる交換結合磁界Hexを適切に高めることができる。
【0017】
また、このように構成した場合、一方の非磁性層を挟んで対向する2層の軟磁性層の他に、他方の非磁性層を挟んで、更に軟磁性層が存在することとなる。そのため、一方の非磁性層を挟んで対向する2層の軟磁性層の膜厚を低減したとしても、全ての軟磁性層の膜厚の合計を必ずしも減らす必要はない。そのため、このように構成すれば、例えば、全ての軟磁性層の膜厚の合計を減らすことなく、実質的に交換結合している軟磁性層の膜厚を低減できる。全ての軟磁性層の膜厚の合計は、例えば60nm以下とすることが好ましい。
【0018】
また、これにより、軟磁性層の膜厚の合計として必要な膜厚を確保できるため、例えば、情報の書き込み時における軟磁性層の飽和を適切に防ぐことができる。そのため、垂直磁気記録媒体に対する書き込み時の問題を発生させることなく、記録再生特性を劣化させずに、複数の軟磁性層間の交換結合磁界Hexを適切に増大させることができる。更には、交換結合磁界Hexを増大させることにより、軟磁性層に起因するノイズを低減し、記録密度を適切に高めることができる。
【0019】
また、上記他方の非磁性層には、上下の軟磁性層間に反強磁性的層間相互作用を生じさせる特性は必ずしも必要ではない。そのため、上記他方の非磁性層としては、例えば、上記一方の非磁性層と比べて低コストの材料の層を用いることもできる。このように構成すれば、垂直磁気記録層全体のコストを低減できる。
【0020】
上記他方の非磁性層としては、例えば、上記一方の非磁性層と比べ、上下の軟磁性層間に反強磁性的層間相互作用を生じさせる特性が小さな非磁性層を用いることができる。例えば、上記一方の非磁性層としてRu層を用いる場合、上記他方の非磁性層としては、例えば、Re、Os、Rh、Irのいずれかの非磁性金属の層を用いることができる。また、上記他方の非磁性層としては、上下の軟磁性層を静磁気的に結合させる非磁性層を用いることもできる。このような非磁性層としては、例えば、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Cu、Ag、Au、B、Al、C、Si、Pのいずれか、又はその合金から選んだ材料の層を用いることができる。
【0021】
また、上記他方の非磁性層として、その下の軟磁性層の表面処理により形成された層を用いてもよい。この場合、例えば、その軟磁性層が一度積層された段階で、その軟磁性層を反応ガスの雰囲気中に曝露する。そして、その後、次の軟磁性層を積層する。この場合、反応ガスとして、例えば、O、又はNのいずれかのガスや、これにAr又はKrを混合した混合ガス等を使用できる。反応ガス雰囲気中での曝露により、軟磁性層の表面に酸化膜又は窒素化膜が形成される。この場合、この酸化膜又は窒化膜が非磁性層となり、複数の軟磁性層間を分断する。
【0022】
また、軟磁性裏打ち層における各軟磁性層の材料としては、アモルファス材料を用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば結晶材料を用いる場合と比べ、ノイズを低減できる。各軟磁性層の材料としては、例えば、CoFe、CoNiFe、NiFe、FeCoB、FeAlSi、FeTaN、FeN、FeTaC、CoTaZr、及びCoZrNb合金で構成される郡から選択される一つの物質を用いることができる。また、軟磁性裏打ち層における全ての軟磁性層は、例えば、同じ材料で形成される。
【0023】
(構成2)軟磁性裏打ち層は、第3軟磁性層の上方に形成される第3非磁性層と、第3非磁性層の上方に形成される第4軟磁性層とを更に備え、一方の非磁性層は、第2非磁性層であり、第2軟磁性層と、第3軟磁性層とを、反強磁性的層間相互作用により磁気的に交換結合させ、他方の非磁性層は、第1非磁性層であり、第3非磁性層は、第1非磁性層と同じ材料で形成される。軟磁性裏打ち層は、第4軟磁性層の上方や第1軟磁性層の下方に、例えば、第1非磁性層又は第2非磁性層と同様の非磁性層を挟んで、更に他の軟磁性層を有してもよい。
【0024】
このように構成すれば、例えば、第2非磁性層をサンドイッチ状に挟んで対向する第2軟磁性層及び第3軟磁性層の膜厚を適切に低減できる。また、これにより、交換結合磁界Hexを適切に増大させることができる。
【0025】
また、第1非磁性層を挟んで第2軟磁性層の下側に第1軟磁性層が設けられ、第3軟磁性層を挟んで第3軟磁性層の上側に第4軟磁性層が設けられることにより、全ての軟磁性層の膜厚の合計を大きくできる。これにより、例えば、情報の書き込み時における軟磁性層の飽和を適切に防ぐことができる。
【0026】
(構成3)第2非磁性層は、Ru層であり、第1非磁性層及び第3非磁性層は、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Cu、Ag、Au、B、Al、C、Si、Pの中から選ばれる一の非磁性材料、又はこれらのうちの複数の非磁性材料を含む合金の材料で形成される。このように構成すれば、例えば、第2軟磁性層と第3軟磁性層との反強磁性的層間相互作用により、人工的な積層フェリ磁性構造を適切に作成できる。また、第1非磁性層及び第3非磁性層により、第1軟磁性層と第2軟磁性層との間、及び第3軟磁性層と第4軟磁性層との間を適切に分断できる。
【0027】
(構成4)第1非磁性層は、第1軟磁性層の表面を酸化した酸化膜、又は第1軟磁性層の表面を窒化した窒化膜であり、第3非磁性層は、第3軟磁性層の表面を酸化した酸化膜、又は第3軟磁性層の表面を窒化した窒化膜である。
【0028】
このように構成すれば、例えば、第1軟磁性層と第2軟磁性層との間、及び第3軟磁性層と第4軟磁性層との間を、適切に分断できる。また、この分断を行う第1非磁性層及び第2非磁性層と、低いコストで形成できる。尚、第1非磁性層及び第2非磁性層は、それぞれの下の軟磁性層の表面を酸化及び窒化した酸窒化膜であってもよい。
【0029】
(構成5)第1非磁性層は、第1軟磁性層と、第2軟磁性層とを静磁気的に結合させ、第3軟磁性層は、第3軟磁性層と、第4軟磁性層とを静磁気的に結合させる。このように構成すれば、例えば、第1軟磁性層と第2軟磁性層との間、及び第3軟磁性層と第4軟磁性層との間を、適切に分断できる。また、第1非磁性層及び第3非磁性層の材料として、例えば、第2非磁性層の材料より低コストの材料を適切に用いることができる。
【0030】
第1非磁性層及び第3非磁性層の膜厚は、例えば5nm以下、好ましくは3nm以下である。また、第1非磁性層及び第3非磁性層の膜厚は、0.5nm以上であることが好ましい。膜厚が5nmより厚くなると、上下の軟磁性層間の静磁気的な結合が弱くなる。また、膜厚が0.5nmより薄いと、非磁性層の膜の均一性の制御が難しくなり、均一な静磁気的な結合が形成できなくなる。
【0031】
(構成6)第3軟磁性層の膜厚は、第2軟磁性層と同じであり、第4軟磁性層の膜厚は、第1軟磁性層と同じである。このように構成した場合、第2非磁性層の上下の軟磁性層の膜厚が対称となり、反強磁性的層間相互作用に直接寄与する第2軟磁性層及び第3軟磁性層の膜厚が同じになる。また、これらの層を外側から挟む第1軟磁性層及び第4軟磁性層の膜厚が同じになる。そのため、このように構成すれば、反強磁性的な磁化の打ち消しがより適切に生じ、交換結合磁界Hexをより適切に増大させることができる。尚、軟磁性層の膜厚が同じであるとは、交換結合磁界Hexを増大させるという目的において必要な精度で、膜厚が同じであればよい。
【0032】
(構成7)第2軟磁性層及び第3軟磁性層の膜厚は、第1軟磁性層及び第4軟磁性層の膜厚よりも小さい。このように構成すれば、反強磁性的層間相互作用により交換結合する第2軟磁性層及び第3軟磁性層をより適切に低減できる。また、より膜厚が大きい第1軟磁性層及び第4軟磁性層を用いることにより、全ての軟磁性層の膜厚の合計を大きくできる。そのため、このように構成すれば、軟磁性層の磁化の飽和を防ぎつつ、交換結合磁界Hexをより適切に増大させることができる。
【0033】
(構成8)垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体の製造方法であって、基板を準備する準備工程と、非磁性層を挟んで積層された複数の軟磁性層を含む軟磁性裏打ち層を、基板の上方に形成する軟磁性裏打ち層形成工程と、軟磁性裏打ち層の上方に磁気記録層を形成する記録層形成工程とを備え、軟磁性裏打ち層形成工程は、少なくとも、基板の上方に第1軟磁性層を形成する第1軟磁性層形成段階と、第1軟磁性層の上方に第1非磁性層を形成する第1非磁性層形成段階と、第1非磁性層の上方に第2軟磁性層を形成する第2軟磁性層形成段階と、第2軟磁性層の上方に第2非磁性層を形成する第2非磁性層形成段階と、第2非磁性層の上方に第3軟磁性層を形成する第3軟磁性層形成段階とを有し、第1非磁性層及び第2非磁性層のうちの一方の非磁性層は、第1軟磁性層、第2軟磁性層、及び第3軟磁性層のうちの、当該一方の非磁性層を挟んで対向する2層を反強磁性的層間相互作用により磁気的に交換結合させる非磁性層であり、第1非磁性層及び第2非磁性層のうちの他方の非磁性層は、一方の非磁性層とは異なる材料で形成される層である。このようにすれば、例えば、構成1と同様の効果を得ることができる。
【0034】
(構成9)第1軟磁性層、第2軟磁性層、及び第3軟磁性層のうちの、他方の非磁性層の直下に形成される層の表面を酸化又は窒化することにより、他方の非磁性層を形成する。このようにすれば、上記他方の非磁性層を、低いコストで適切に形成できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、例えば、磁化の飽和による書き込み時の問題を発生させることなく、複数の軟磁性層間の交換結合磁界Hexを増大させることができる。また、これにより、例えば、軟磁性層に起因するノイズを適切に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る垂直磁気記録媒体100の構成の一例を示す。図1(a)は、垂直磁気記録媒体100の層構成の一例を示す垂直磁気記録媒体100の断面図である。図1(b)は、垂直磁気記録媒体100における軟磁性裏打ち層114の詳細な構成の一例を示す軟磁性裏打ち層114の断面図である。垂直磁気記録媒体100は、垂直磁気記録方式のHDDに用いられる磁気ディスクであり、基板110、付着層112、軟磁性裏打ち層114、配向制御層116、下地層118、第1オンセット層120、第2オンセット層122、主記録層124、連続層126、媒体保護層128、及び潤滑層130を、この順番で備える。
【0037】
基板110は、垂直磁気記録媒体100の基体(ディスク基体)である。基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラス等で形成されたガラスディスクであることが好ましい。アルミノシリケートガラスは、平滑かつ高剛性が得られるので、磁気的スペーシング、特に、記録ヘッド等の磁気ヘッドの浮上量をより安定して低減できる。また、アルミノシリケートガラスは化学強化により、高い剛性強度を得ることができる。
【0038】
付着層112から連続層126までの各層は、基板110上に、例えば、真空引きを行った成膜装置を用い、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて順次成膜される。また、媒体保護層128は、例えばCVD法により、連続層126上に形成される。潤滑層130は、ディップコート法により、媒体保護層128上に形成される。尚、上記の各層は、例えば、インライン型成膜方法を用いて成膜してもよい。このようにすれば、例えば、均一な成膜が可能となる。以下、各層の構成及び製造方法について更に詳しく説明する。
【0039】
付着層112は、基板110と軟磁性裏打ち層114との間の付着性を向上させることにより軟磁性裏打ち層114の剥離を防止する層である。付着層112の材料としては、例えばTi含有材料を用いることができる。また、実用上の観点から、付着層112の膜厚は、1nm〜50nmとするのが好ましい。本例において、付着層112は、例えば、10nmのTi合金層となるように、Ti合金ターゲットを用いて成膜する。
【0040】
軟磁性裏打ち層114は、磁気ヘッドとの間に磁気回路を構成する層である。本例において、軟磁性裏打ち層114は、第1軟磁性層202a、第1非磁性層204a、第2軟磁性層202b、第2非磁性層204b、第3軟磁性層202c、第3非磁性層204c、及び第4軟磁性層202dを、基板110上に、この順番で有する。
【0041】
この構成において、第2軟磁性層202bと第3軟磁性層202cとは、両者の間に設けられた第2非磁性層204bを介して、反強磁性的層間相互作用により反強磁性交換結合(AFC Antiferro−magnetic exchange coupling)する。また、第1軟磁性層202aと第2軟磁性層202bとは、両者の間に設けられた第1非磁性層204aを介して、静磁気的に結合する。同様に、第3軟磁性層202cと第4軟磁性層202dとは、両者の間に設けられた第3非磁性層204cを介して、静磁気的に結合する。
【0042】
このように構成すれば、例えば、反強磁性交換結合する第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cの膜厚を適切に低減できる。また、これにより、交換結合磁界Hexを適切に増大させることができる。また、第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cの他に第1軟磁性層202a及び第4軟磁性層202dを設けることにより、全ての軟磁性層の膜厚の合計を大きくできる。これにより、例えば、情報の書き込み時における磁化の飽和を適切に防ぐことができる。
【0043】
そのため、本例によれば、例えば、軟磁性裏打ち層114に含まれる各軟磁性層の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができる。また、これにより、磁化の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性裏打ち層114内の軟磁性層から生じるノイズを適切に低減できる。
【0044】
ここで、反強磁性交換結合する第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cの膜厚は、20nm以下(例えば5nm〜20nm)とすることが好ましい。また、第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cの膜厚は、第1軟磁性層202a及び第4軟磁性層202dより小さくすることが好ましい。第1軟磁性層202a及び第4軟磁性層202dの膜厚は、例えば5nm以上(例えば5〜25nm)であってよい。
【0045】
また、第3軟磁性層202cの膜厚は、第2軟磁性層202bの膜厚と同じにすることが好ましい。第4軟磁性層202dの膜厚は、第1軟磁性層202aの膜厚と同じにすることが好ましい。このように構成すれば、第2非磁性層204bの上下の軟磁性層の膜厚が対称となり、交換結合磁界Hexをより適切に増大させることができる。
【0046】
第1軟磁性層202a、第2軟磁性層202b、第3軟磁性層202c、及び第4軟磁性層202dは、例えばアモルファスの軟磁性材料で形成することが好ましい。アモルファスの軟磁性材料としては、例えばFeCoTaZrを用いることができる。
【0047】
また、第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cは、例えば、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Cu、Ag、Au、B、Al、C、Si、Pの中から選ばれる一の非磁性材料、又はこれらのうちの複数の非磁性材料を含む合金の材料で形成される。また、第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cは、その下の軟磁性層の表面を酸化又は窒化した酸化膜又は窒化膜で構成することもできる。
【0048】
第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cの膜厚は、例えば5nm以下、好ましくは3nm以下である。また、第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cの膜厚は、0.5nm以上であることが好ましい。膜厚が5nmより厚くなると、上下の軟磁性層間の静磁気的な結合が弱くなる。また、膜厚が0.5nmより薄いと、非磁性層の膜の均一性の制御が難しくなり、均一な静磁気的な結合が形成できなくなる。
【0049】
第2非磁性層204bとしては、例えばRu膜を用いることが好ましい。このように構成すれば、第2軟磁性層202bと第3軟磁性層202cとを適切に反強磁性交換結合させることができる。第2非磁性層204bの膜厚は、0.5nm〜5nmとすることが好ましい。
【0050】
配向制御層116は、軟磁性裏打ち層114を防護するとともに上層の下地層118における結晶粒の配向の整列を促進する層である。配向制御層116としては、例えばfcc構造を有するNiW又はNiCrの層を用いることができる。
【0051】
下地層118は、磁気記録層である主記録層124における磁性粒子の結晶配向性を向上させる層である。主記録層124の磁性粒子がhcp構造(六方細密充構造)を有する場合、磁化容易軸はC軸である。そのため、垂直磁気記録方式においては、このC軸を基板110の法線方向に配向させる必要がある。そして、このC軸の配向性を向上させるためには、主記録層124の下に、hcp構造を有する非磁性の下地層118を設けることが有効である。
【0052】
下地層118には、例えばTi、V、Zr、Hf、又はRuの層等を用いることができる。特に、Ru層を用いる場合、主記録層124の結晶配向性を効果的に向上させ、保磁力Hcを高めることができる。本例において、下地層118は、2層のRu層からなる構造となっている。この場合、上層側のRu層を形成する際のスパッタリングガスのガス圧を、下層側のRu層の形成時よりも高くすることが好ましい。このようにすれば、結晶配向性を改善する効果をより高めることができる。
【0053】
第1オンセット層120及び第2オンセット層122は、主記録層124における磁性粒子の微細化を促進する層である。本例において、第1オンセット層120及び第2オンセット層122は、下地層118のhcp結晶構造の上に順次形成される非磁性のグラニュラ構造の層である。このような第1オンセット層120及び第2オンセット層122の上に主記録層124を形成することにより、磁性のグラニュラ構造の層である主記録層124において、初期段階(立ち上がり)から磁性粒子間を分離させることができる。本例において、第1オンセット層120としては、例えば、非磁性のCoCr−SiO層を用いることができる。また、第2オンセット層122としては、例えば、非磁性のCoCrPt−Cr層を用いることができる。
【0054】
主記録層124は、磁気記録層の一例であり、磁性粒子(磁性グレイン)の間に非磁性物質(主に酸化物)を偏析させて粒界部を形成した磁性のグラニュラ構造を有する。垂直磁気記録方式では、例えば、磁気記録層をグラニュラ構造の層として磁性粒子を孤立微細化することにより、S/N比(Signal/Noise Ratio)及び保磁力Hcを向上させることができる。本例においては、主記録層124として、例えば、非磁性物質の例としての酸化珪素(SiO)又は酸化チタン(TiO)を含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いて、hcp結晶構造の磁性粒子を含むグラニュラ構造の層を形成する。
【0055】
主記録層124の膜厚は、例えば、7nm〜15nmの範囲で適宜設定できる。また、主記録層124を形成するためのターゲットの組成は、例えば、CoCrPtとSiO(又はTiO)とを約9:1(mol%)の比で含む組成とする。このようにすれば、例えば、非磁性物質が磁性物質の周囲に偏析して粒界を形成する。そして、磁性粒子が柱状となり、グラニュラ構造となる。更に、この磁性粒子は、第1オンセット層120及び第2オンセット層122におけるグラニュラ構造から継続してエピタキシャル成長する。これにより、グラニュラ構造の主記録層124を適切に形成できる。
【0056】
連続層126は、面方向に磁性が連続している層である。連続層126は、例えば、主記録層124と交換結合することにより、主記録層124による磁気記録の熱安定性を高める。本例において、連続層126は、CoCrPtB膜であり、例えば、スパッタリングガスであるArのガス圧を主記録層124の成膜時等と比べて小さくして形成される。連続層126の膜厚は10nm以下であることが好ましく、望ましくは5nm以下である。
【0057】
媒体保護層128は、磁気ヘッドの衝撃から主記録層124を防護する層である。媒体保護層128は、例えば、連続層126の成膜後に真空を保ったまま、CVD法によりカーボン膜を成膜して形成する。一般に、CVD法によって成膜されたカーボンは、スパッタリング法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上する。そのため、このようにすれば、磁気ヘッドからの衝撃に対して、より有効に主記録層124を防護できる。
【0058】
尚、媒体保護層128を構成するカーボン膜は、例えば炭化水素(水素化カーボン)の膜である。水素化カーボンを用いることにより、膜強度を適切に向上させることができる。また、これにより、磁気ヘッドからの衝撃に対して、主記録層124をより適切に防護できる。
【0059】
潤滑層130は、磁気ヘッドに対して垂直磁気記録媒体100の表面の潤滑性を高める層である。潤滑層130は、例えばPFPE(パーフロロポリエーテル)を用いて、ディップコート法により成膜する。PFPEは、直鎖構造を備えており、磁気ディスクに必要な適度な潤滑性能を発揮する。また、末端基に水酸基(OH)を備えることで、カーボン膜である媒体保護層128に対して高い密着性能を発揮する。潤滑層130の膜厚は、例えば約1nm(例えば0.5nm〜2nm)とすることが好ましい。
【0060】
尚、垂直磁気記録媒体100において、例えば軟磁性裏打ち層114以外の各層は、例えば各層に対応する公知の層と同一又は同様の工程で成膜してもよい。また、軟磁性裏打ち層114における各軟磁性層及び各非磁性層も、同様の構成を有する公知の層と同一又は同様の工程で成膜してもよい。
【0061】
以下、実施例及び比較例により、本発明について更に詳しく説明する。表1は、各実施例及び比較例における軟磁性裏打ち層114の構成と、評価結果とを示す。

【表1】

【0062】
(実施例1)
最初に、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作成した。そして、このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性ディスク基体である基板110を得た。基板110の直径は、65mm、内径は20mm、ディスク厚は0.635mmの2.5インチ型磁気ディスク用基板である。得られた基板110の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で観察したところ、Rmaxが2.18nm、Raが0.18nmの平滑な表面であることを確認した。尚、Rmax及びRaは、日本工業規格(JIS)に従う。
【0063】
次に、基板110上に、DCマグネトロンスパッタリングで順次、付着層112、軟磁性裏打ち層114、配向制御層116、下地層118、第1オンセット層120、第2オンセット層122、主記録層124、及び連続層126の成膜を行った。
【0064】
まず、付着層112として、10nmのCrTi層を成膜した。次に、軟磁性裏打ち層114の各層を順次成膜した。軟磁性裏打ち層114の成膜において、第1軟磁性層202a、第2軟磁性層202b、第3軟磁性層202c、第4軟磁性層202dとしては、15nmのアモルファスFeCoTaZr層を成膜した。第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cとしては、2nmのCr層を成膜した。また、第2非磁性層204bとしては、0.5nmのRu層を成膜した。
【0065】
続いて、軟磁性裏打ち層114上に、配向制御層116として、10nmのNiW層を成膜した。また、下地層118として、2層のRu層を成膜した。それぞれのRu層の膜厚は、10nmとした。尚、下層側のRu層の成膜時におけるスパッタリングガスのガス圧は、上層側のRu層の成膜時におけるスパッタリングガスのガス圧よりも小さくした。
【0066】
次に、第1オンセット層120として、1.0nmのCoCr−SiO層を成膜した。また、第2オンセット層122として、3nmのCoCrPt−Cr層を成膜した。
【0067】
また、主記録層124として、hcp結晶構造のCoCrPt−TiOからなる硬磁性体のターゲットを用いて、8nmのCoCrPt−TiO層を成膜した。次に、連続層126として、7.5nmのCoCrPtB膜を成膜した。
【0068】
そして、連続層126の成膜に続いて、CVD法により、炭化水素(水素化カーボン)からなる媒体保護層128を成膜した。媒体保護層128の膜厚は、5nmとした。そして、この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)からなる潤滑層130を、ディップコート法により形成した。潤滑層130の膜厚は1nmとした。以上のようにして、実施例1に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0069】
(比較例1)
第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cを設けず、軟磁性裏打ち層114における軟磁性層を第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cの2層のみにした。また、第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cの膜厚を30nmとした。上記以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る垂直磁気記録媒体を作成した。
【0070】
(実施例2〜7)
第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cとして、Mo、W、V、Nb、Ta、Tiの各層を形成した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜7に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0071】
(実施例8)
第1非磁性層204aとして、第1軟磁性層202aの表面を酸化した酸化膜を形成した。また、第3非磁性層204cとして、第3軟磁性層202cの表面を酸化した酸化膜を形成した。この酸化膜は、FeCoTaZrをOで酸化した酸化膜(FeCoTaZr+O)である。
【0072】
具体的には、第1軟磁性層202aの成膜後、Oを1%含むArとOの混合ガスを80sccmの流量で供給した雰囲気中に第1軟磁性層202aを1.4秒曝露し、表面に形成される酸化膜により、第1非磁性層204aを形成した。また、第1非磁性層204aの成膜後、第2軟磁性層202bから第3軟磁性層202cまでを形成し、第1非磁性層204aと同様にして、第3軟磁性層202c上に第3非磁性層204cを形成した。また、その後、第3非磁性層204c上に、第4軟磁性層202dを成膜した。上記以外は実施例1と同様にして、実施例8に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0073】
(実施例9〜12)
第1軟磁性層202a、第2軟磁性層202b、第3軟磁性層202c、及び第4軟磁性層202dの膜厚を表1に示すように変更した以外は実施例8と同様にして、実施例9〜12に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0074】
(実施例13)
第1非磁性層204aとして、第1軟磁性層202aの表面を窒化した窒化膜を形成した。また、第3非磁性層204cとして、第3軟磁性層202cの表面を窒化した窒化膜を形成した。この窒化膜は、FeCoTaZrをNで窒化した酸化膜(FeCoTaZr+N)である。
【0075】
具体的には、第1軟磁性層202aの成膜後、Nを10%含むArとNの混合ガスを80sccmの流量で供給した雰囲気中に第1軟磁性層202aを1.4秒曝露し、表面に形成される窒化膜により、第1非磁性層204aを形成した。また、第3軟磁性層202cの成膜後、第1非磁性層204aと同様にして、第3軟磁性層202c上に第3非磁性層204cを形成した。上記以外は実施例8と同様にして、実施例13に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0076】
(評価)
上記の各実施例及び比較例に対し、交換結合磁界Hexの測定を行った。この測定においては、まず、垂直磁気記録媒体の一部の領域を抜き取り、基板の半径方向の磁化曲線の測定を行った。そして、この磁化曲線において、磁化が0になっている最大の磁界の大きさを交換結合磁界Hexとした。尚、磁化曲線の測定は、例えば、各実施例及び比較例と同様にして、軟磁性裏打ち層までが形成された試料を作成して行ってもよい。
【0077】
表1からわかるように、実施例1〜13において、比較例1と比べて高い交換結合磁界Hexが得られた。これは、例えば実施例1〜9における全軟磁性層の膜厚の合計が比較例1と同じことを考えると、反強磁性的層間相互作用に直接関係する第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cの膜厚が小さいためであると考えられる。
【0078】
また、例えば実施例8と実施例9や、実施例11と実施例12との比較からわかるように、全軟磁性層の膜厚の合計が同じである場合、第2軟磁性層202b及び第3軟磁性層202cの膜厚が小さい方が高い交換結合磁界Hexを得られることがわかる。
【0079】
また、実施例8〜13により、軟磁性層の表面に形成した酸化膜又は窒化膜を第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cとして適切に用い得ることがわかる。酸化膜又は窒化膜の第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cは、第1軟磁性層202a及び第3軟磁性層202cのそれぞれを成膜後、スパッタリングチャンバ内でそのまま成膜できる。そのため、必要なチャンバ数を増やすことなく、交換結合磁界Hexを増大させることができる。従って、酸化膜又は窒化膜を第1非磁性層204a及び第3非磁性層204cとして用いる場合、経済的な価値は大きく、垂直磁気記録媒体100のコストを大きく低減できる。
【0080】
更には、例えば実施例9と実施例11の比較からわかるように、第2軟磁性層202bの膜厚、及び第3軟磁性層202cの膜厚同じ場合、全軟磁性層の膜厚の合計が小さい方が高い交換結合磁界Hexを得られることがわかる。但し、全軟磁性層の膜厚の合計を小さくしすぎると、磁化の飽和が生じ、垂直磁気記録媒体に対する書き込みを行えなくなる。
【0081】
全ての軟磁性層の膜厚の合計は、例えば60nm以下とすることが好ましい。そのため、例えば、各実施例から第1軟磁性層202a及び第4軟磁性層202dを無くしてしまうと、書き込みを行えなくなると考えられる。
【0082】
尚、垂直磁気記録媒体に対する書き込みが可能であることは、例えば記録再生特性の評価を行うことで確認できる。この評価は、例えば、R/Wアナライザーと、垂直磁気記録方式用磁気ヘッドとを用いて行うことができる。この場合、この磁気ヘッドとしては、例えば、記録側にSPT素子、再生側にGMR素子を備える磁気ヘッドを用いる。記録密度は、例えば1200kfciとする。また、磁気ヘッドの浮上量は10nmとする。
【0083】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、例えば垂直磁気記録媒体に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施形態に係る垂直磁気記録媒体100の構成の一例を示す図である。図1(a)は、垂直磁気記録媒体100の層構成の一例を示す垂直磁気記録媒体100の断面図である。図1(b)は、垂直磁気記録媒体100における軟磁性裏打ち層114の詳細な構成の一例を示す軟磁性裏打ち層114の断面図である。
【符号の説明】
【0086】
100・・・垂直磁気記録媒体、110・・・基板、112・・・付着層、114・・・軟磁性裏打ち層、116・・・配向制御層、118・・・下地層、120・・・第1オンセット層、122・・・第2オンセット層、124・・・主記録層(磁気記録層)、126・・・連続層、128・・・媒体保護層、130・・・潤滑層、202a・・・第1軟磁性層202a、202b・・・第2軟磁性層202b、202c・・・第3軟磁性層202c、202d・・・第4軟磁性層202d、204a・・・第1非磁性層204a、204b・・・第2非磁性層204b、204c・・・第3非磁性層204c

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体であって、
基板と、
非磁性層を挟んで積層された複数の軟磁性層を含み、前記基板の上方に形成される軟磁性裏打ち層と、
前記軟磁性裏打ち層の上方に形成される磁気記録層と
を備え、
前記軟磁性裏打ち層は、少なくとも、
前記基板の上方に形成される第1軟磁性層と、
前記第1軟磁性層の上方に形成される第1非磁性層と、
前記第1非磁性層の上方に形成される第2軟磁性層と、
前記第2軟磁性層の上方に形成される第2非磁性層と、
前記第2非磁性層の上方に形成される第3軟磁性層と
を有し、
前記第1非磁性層及び前記第2非磁性層のうちの一方の非磁性層は、前記第1軟磁性層、前記第2軟磁性層、及び前記第3軟磁性層のうちの、当該一方の非磁性層を挟んで対向する2層を反強磁性的層間相互作用により磁気的に交換結合させる非磁性層であり、
前記第1非磁性層及び前記第2非磁性層のうちの他方の非磁性層は、前記一方の非磁性層とは異なる材料で形成される層であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記軟磁性裏打ち層は、
前記第3軟磁性層の上方に形成される第3非磁性層と、
前記第3非磁性層の上方に形成される第4軟磁性層と
を更に備え、
前記一方の非磁性層は、前記第2非磁性層であり、前記第2軟磁性層と、前記第3軟磁性層とを、反強磁性的層間相互作用により磁気的に交換結合させ、
前記他方の非磁性層は、前記第1非磁性層であり、
前記第3非磁性層は、前記第1非磁性層と同じ材料で形成されることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第2非磁性層は、Ru層であり、
前記第1非磁性層及び前記第3非磁性層は、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Cu、Ag、Au、B、Al、C、Si、Pの中から選ばれる一の非磁性材料、又はこれらのうちの複数の非磁性材料を含む合金の材料で形成されることを特徴とする請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第1非磁性層は、前記第1軟磁性層の表面を酸化した酸化膜、又は前記第1軟磁性層の表面を窒化した窒化膜であり、
前記第3非磁性層は、前記第3軟磁性層の表面を酸化した酸化膜、又は前記第3軟磁性層の表面を窒化した窒化膜であることを特徴とする請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記第1非磁性層は、前記第1軟磁性層と、前記第2軟磁性層とを静磁気的に結合させ、
前記第3軟磁性層は、前記第3軟磁性層と、前記第4軟磁性層とを静磁気的に結合させることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記第3軟磁性層の膜厚は、前記第2軟磁性層と同じであり、
前記第4軟磁性層の膜厚は、前記第1軟磁性層と同じであることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記第2軟磁性層及び前記第3軟磁性層の膜厚は、前記第1軟磁性層及び前記第4軟磁性層の膜厚よりも小さいことを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
基板を準備する準備工程と、
非磁性層を挟んで積層された複数の軟磁性層を含む軟磁性裏打ち層を、前記基板の上方に形成する軟磁性裏打ち層形成工程と、
前記軟磁性裏打ち層の上方に磁気記録層を形成する記録層形成工程と
を備え、
前記軟磁性裏打ち層形成工程は、少なくとも、
前記基板の上方に第1軟磁性層を形成する第1軟磁性層形成段階と、
前記第1軟磁性層の上方に第1非磁性層を形成する第1非磁性層形成段階と、
前記第1非磁性層の上方に第2軟磁性層を形成する第2軟磁性層形成段階と、
前記第2軟磁性層の上方に第2非磁性層を形成する第2非磁性層形成段階と、
前記第2非磁性層の上方に第3軟磁性層を形成する第3軟磁性層形成段階と
を有し、
前記第1非磁性層及び前記第2非磁性層のうちの一方の非磁性層は、前記第1軟磁性層、前記第2軟磁性層、及び前記第3軟磁性層のうちの、当該一方の非磁性層を挟んで対向する2層を反強磁性的層間相互作用により磁気的に交換結合させる非磁性層であり、
前記第1非磁性層及び前記第2非磁性層のうちの他方の非磁性層は、前記一方の非磁性層とは異なる材料で形成される層であることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記第1軟磁性層、前記第2軟磁性層、及び前記第3軟磁性層のうちの、前記他方の非磁性層の直下に形成される層の表面を酸化又は窒化することにより、前記他方の非磁性層を形成することを特徴とする請求項8に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−80913(P2009−80913A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250674(P2007−250674)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】