説明

垂直磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】本発明は、簡易な工程で磁気記録層の配向分散性を向上させることができる。
【解決手段】本発明の垂直磁気記録媒体1は、基板2上に、銅、ニッケル、ハフニウム、ジルコニウムのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層3と、加えられる磁力線を基板の面方向に対して垂直に調整する軟磁性裏打ち層4と、結晶構造を整えるための下地層6と、磁極の向きに応じて情報を記録する磁気記録層7と、磁気記録層7を保護する保護膜8とを設けるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び垂直磁気記録媒体の製造方法に関し、例えば大容量の磁気記録再生装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、垂直磁気記録媒体などの磁気記録媒体としては、音楽コンテンツや映像コンテンツ等の各種コンテンツ、或いはコンピュータ用の各種データ等のような種々の情報を当該垂直磁気記録媒体に記録するようになされている。特に近年では、映像の高精細化や音楽の高音質化等により情報量が増大し、また1枚の磁気記録媒体に記録するコンテンツ数の増加が要求されているため、当該磁気記録媒体のさらなる大容量化が求められている。
【0003】
垂直磁気記録媒体における磁気記録層では、基板に対して垂直な方向に磁極を変化させるため、記録密度の向上に伴って反磁界が小さくなりその記録状態を安定化させ得ると共に、磁極当りの面積を低減して高密度化を達成するようになされている。
【0004】
この垂直磁気記録媒体では、情報を再生する際に再生信号に生じるノイズを低減するため、磁気記録層の配向分散を小さくする必要がある。垂直磁気記録媒体では、一般的に基板上に複数の層を介して磁気記録層を設けるようになされており、当該磁気記録層の下に磁気記録層の配向分散を小さくするための下地層を設けるようになされている。
【0005】
垂直磁気記録媒体の中には、下地層の材料の選定により磁気記録層の配向分散を小さくするようになされたものが提案されている。
【0006】
ここで基板上に形成される各層は、一般的にすぐ下の層の面粗さの影響を受けることが知られている。すなわち下地層としてどのような材料を選定した場合であっても、基板の表面粗さが磁気記録層に影響してしまう。すなわち基板の表面粗さが大きいと、磁気記録層の配向分散が悪化する原因となる。
【0007】
そこで垂直磁気記録媒体では、一般的に、基板を精密に研磨して基板の表面粗さを小さくするようになされている。
【特許文献1】特開2006−99951公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで基板を精密に研磨するのは、非常に煩雑な工程である。すなわち垂直磁気記録媒体では、磁気記録層の配向分散を小さくするために、非常に煩雑な工程を経なくてはならない問題があった。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、簡易な工程で磁気記録層の配向分散を小さくし得る垂直磁気記録媒体及び当該垂直磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置、並びに垂直磁気記録媒体の製造方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明の垂直磁気記録媒体においては、基板上に少なくとも軟磁性裏打ち層と、下地層と、磁気記録層と、保護層とが積層されてなり、基板と軟磁性裏打ち層との間に、Cu、Ni、Hf、Zrのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層を設けるようにした。
【0011】
これにより垂直磁気記録媒体は、基板の凹凸を初期平滑化層が埋めて当該初期平滑化層の表面を平滑化することができるため、当該基板の凹凸が磁気記録層の配向分散性に与える影響を抑制することができる。
【0012】
また本発明の磁気記録再生装置においては、基板上に少なくとも軟磁性裏打ち層と、下地層と、記録層と、保護層とが順次積層されてなり、基板と軟磁性裏打ち層との間に、Cu、Ni、Hf、Zrのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層を有する垂直磁気記録媒体と、垂直磁気記録媒体に対して情報を記録し、及び垂直磁気記録媒体に記録された情報を読み取る磁気ヘッドと、磁気ヘッドを駆動する駆動部とを設けるようにした。
【0013】
これにより磁気記録再生装置は、基板の凹凸を初期平滑化層が埋めて当該初期平滑化層の表面を平滑化することができるため、当該基板の凹凸が磁気記録層の配向分散性に与える影響を抑制することができる。
【0014】
さらに本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法においては、基板に対してCu、Ni、Hf、Zrのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層を形成する初期平滑化層形成ステップと、初期平滑化層に対して軟磁性裏打ち層を形成する軟磁性裏打ち層形成ステップと、軟磁性裏打ち層上に下地層を形成する下地層形成ステップと、下地層に対して磁気記録層を形成する磁気記録層形成ステップと、磁気記録層上に保護層を形成する保護層形成ステップとを設けるようにした。
【0015】
これにより垂直磁気記録媒体の製造方法は、基板の凹凸を初期平滑化層が埋めて当該初期平滑化層の表面を平滑化することができるため、当該基板の凹凸が磁気記録層の配向分散性に与える影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、垂直磁気記録媒体の製造方法は、基板の凹凸を初期平滑化層が埋めて当該初期平滑化層の表面を平滑化することができるため、簡易な工程で磁気記録層の配向分散を小さくし得る当該基板の凹凸が磁気記録層の配向分散性に与える影響を抑制することができ、かくして垂直磁気記録媒体及び当該垂直磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置、並びに垂直磁気記録媒体の製造方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0018】
(1)垂直磁気記録媒体の構成
図1において1は、本実施の形態における垂直磁気記録媒体の断面を示している。この垂直磁気記録媒体1は、基板2上に初期平滑化層3、軟磁性裏打ち層4、シード層5、下地層6、記録層7、及び保護層8が順次積層されることにより構成されている。
【0019】
基板2はその表面が平坦な円盤状の非磁性基板でなり、例えばプラスチック基板、結晶化ガラス基板、強化ガラス基板、Si基板、アルミニウム合金基板、セラミック基板などから構成される。
【0020】
基板2としては、その表面が研磨されたものが用いられる。一般的に基板の表面粗さRaを小さくするには煩雑な研磨工程を必要とする一方、基板の表面粗さRaが大きいと磁気記録層7の配向分散性が悪化することが知られている。この基板2の表面粗さRaは特に制限はなく、磁気記録層7の特性や要求される記録密度、量産性などの要因に応じて適宜選択される。
【0021】
初期平滑化層3は、Al−X(ただしXは金属)で表されるように、他の金属を含むアルミニウム合金である。このXとしては、Cu、Ni、Hf、Zrのうち少なくとも1種類以上が用いられることが好ましい。基板2上に初期平滑化層3を設けることにより、基板2が有する凹凸を埋めてその表面が平滑に形成されるため、結果として磁気記録層7の配向分散性を向上させ得るようになされている。
【0022】
また初期平滑化層3は、その膜厚が4[nm]以上であることが好ましい。初期平滑化層3は、その厚さが4[nm]未満であると、磁気記録層7の配向分散性が急激に悪化するため、当該初期化平滑層3の膜厚ばらつきが磁気記録層7の配向分散性のばらつきの原因となるからである。
【0023】
また初期平滑化層3は、その膜厚が15[nm]以下、より好ましくは12[nm]以下でなることが好ましい。初期平滑化層3は、膜厚が大きくなると当該初期平滑化層3の成膜に時間を要し、量産性が悪化するからである。
【0024】
軟磁性裏打ち層4は、例えば膜厚が20[nm]〜2[μm]でなり、Fe、Co、Ni、Al、Si、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Nb、C及びBから選択された少なくとも1種の元素を含む軟磁性材料によって形成されている。具体的に軟磁性裏打ち層4は、FeSi、FeAlSi、FeTaC、CoFeB、CoZrNb又はNiFeNbなどによって形成されている。
【0025】
シード層5は、例えば膜厚が1[nm]〜10[nm](好ましくは1[nm]〜5[nm])でなり、Ta、Ti、Mo、W、Re、Hf及びMgからなる群のうち少なくとも1種の非晶性の非磁性材料からなる。このシード層5は非晶性でなるため、当該シード層5上に形成される下地層6の結晶配向に影響を与えることなく、下地層6の結晶配向性を向上させ得るようになされている。
【0026】
下地層6は、hcp(六方最密充填)結晶構造を有する非磁性材料でなり、例えばRu、Pd、Pt、Ta及びRu合金からなる群のうちいずれか1種が選択され使用されることが好ましい。この下地層6は、hcp結晶構造を有しているため、当該下地層6上に形成されるhcp結晶構造でなる磁気記録層7をエピタキシャル的に成長させ、磁気記録層7の結晶の配向分散性を向上させ得るようになされている。因みに下地層6は、成膜条件を変更して同一の材料でなる層を2層形成しても良く、これにより磁気記録層7の結晶粒の分離と配向分散を低減させることができる。
【0027】
磁気記録層7は、少なくともCo及びPtを含む強磁性材料が好適に用いられる。この強磁性材料は、hcp結晶構造を有し、当該hcp結晶構造のc軸が膜面に対して垂直方向に配向している。
【0028】
具体的に磁気記録層7は、CoPt、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTaなどの合金材料、[Co/Pt]、[Co/Pd]などの多層積層膜、CoCrPt−TiO、CoCrPt−SiO、CoCrPtO、CoCrPt−Al、CoPt−AlN、CoCrPt−Siなどのグラニュラー材料が好適に用いられる。磁気記録層7は、量産性と高密度化の観点から、その厚さが例えば5〜50[nm]に形成されることが好ましい。また磁気記録層7を実際に情報が記録される記録層と、当該記録層の磁極を変化させ易くする記録補助層(キャプチャー層)とを設けても良い。
【0029】
保護膜8は、例えば膜厚が0.5[nm]〜15[nm]でなり、アモルファスカーボン、水素化カーボン、窒化カーボン又は酸化アルミニウムなどにより形成されている。なお、保護膜8上にパーフルオロポリエーテルなどによる潤滑層を設けるようにしても良い。
【0030】
この垂直磁気記録媒体1は、基板2上に軟磁性体裏打ち層3、シード層5、下地層6、磁気記録層7、記録補助層8の各層が上述した材料でなるスパッタターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、DC2極スパッタ法、RF2極スパッタ法などよって順次成膜されることにより形成される。
【0031】
スパッタ装置としては、10−7Paまで排気可能な超真空スパッタ装置を用いることが好ましい。スパッタ条件は各材料に適した条件が設定され、特に限定されない。例えばArガス雰囲気中に所定の圧力で成膜され、加熱することも可能である。
【0032】
保護膜8は、記録補助層8上に例えばスパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、FCA(Filtered Cathodic Arc)法などを用いて形成される。保護膜8上に潤滑層を設ける場合には、スピンコート法、引き上げ法などにより保護膜8上に潤滑剤が塗布される。
【0033】
(2)磁気記録再生装置及び記録ヘッド部の構成
図2に示すように、磁気記録再生装置1は、制御部21により全体を統括制御するようになされている。制御部21は、図示しないCPU(Central Processing Unit)を中心に構成されており、図示しないROM(Read Only Memory)から基本プログラムや情報記録プログラム等の各種プログラムを読み出し、これらを図示しないRAM(Random Access Memory)に展開することにより、情報記録処理及び情報再生処理等の各種処理を実行するようになされている。
【0034】
例えば制御部11は、図示しない外部機器等から情報記録命令、記録情報及び記録アドレス情報を受け付けると、駆動命令及び記録アドレス情報を駆動制御部12へ供給すると共に、記録情報を信号処理部13へ供給する。因みに記録アドレス情報は、垂直磁気記録媒体1の磁気記録層7のうち、記録情報が記録される1単位となる記録ビットのアドレスを示す情報である。
【0035】
駆動制御部12は、駆動命令に従い、スピンドルモータ14を駆動制御することにより垂直磁気記録媒体1を所定の回転速度で回転させると共に、アーム及びロータリアクチュエータでなる駆動部15を駆動制御することにより、磁気ヘッド20を垂直磁気記録媒体1における記録アドレス情報に対応した位置へ移動させる。
【0036】
信号処理部13は、供給された記録情報に対して所定の符号化処理や変調処理等の各種信号処理を施すことにより記録信号を生成し、これを磁気ヘッド20へ供給する。
【0037】
磁気ヘッド20は記録信号に応じて垂直磁気記録媒体1の磁気記録層7における記録アドレス情報により示される記録ビットに磁力を加えることにより、記録信号に応じて当該記録ビットの磁極を変化させ、磁気記録層7に情報を記録する。
【0038】
また制御部11は、例えば外部機器(図示せず)から情報再生命令及び当該記録情報のアドレスを示す再生アドレス情報を受け付けると、駆動制御部12に対して駆動命令及び再生アドレス情報を供給すると共に、再生処理命令を信号処理部13へ供給する。
【0039】
駆動制御部12は、情報を記録する場合と同様、スピンドルモータ14を駆動制御することにより垂直磁気記録媒体1を所定の回転速度で回転させると共に、駆動部15を駆動制御することにより磁気ヘッド20を再生アドレス情報に対応した位置へ移動させる。
【0040】
磁気ヘッド20は、駆動制御部12の制御に基づいて垂直磁気記録媒体1の磁気記録層7における再生アドレス情報により示される記録ビットの磁界を検出し、これを再生信号として信号処理部13へ供給するようになされている。
【0041】
図3に示すように、磁気ヘッド20は、情報記録処理に用いられる単磁極型磁気記録ヘッド21と情報再生処理に用いられるGMR(Giant Magnetic Resistance)素子25とを有している。磁気ヘッド20は、駆動部15(図2)によって駆動されることにより単磁極型磁気記録ヘッド21又はGMR素子25が磁気記録媒体1における所望の記録ビット上に配置された状態で、情報記録処理又は情報再生処理を実行するようになされている。
【0042】
情報記録処理の際、単磁極型磁気記録ヘッド21は、内部に有するコイルに電流を流すことにより、主磁極22の先端と補助極23の先端との間で磁力を発生させる。このとき軟磁性裏打ち層4は、磁気記録媒体1に対して垂直方向に磁力を導き、当該磁力が隣接する記録ビットへ広がるのを抑制する。
【0043】
これにより軟磁性裏打ち層4は、例えば主磁極22から発生した磁力を記録ビットに集中させると共に、当該磁力を軟磁性裏打ち層4自身に通過させて補助極23へ還流する閉磁気回路を形成し、磁気ヘッド機能の一部を分担するようになされている。なおこの磁力を磁力線24として図中に示している。
【0044】
単磁極型磁気記録ヘッド21は、コイルに流れる電流の向きによって磁力の方向を変化させることにより、記録する情報に応じて記録ビットの磁極を基板に対して垂直な一方向に変化させ、磁気記録層7に情報を記録するようになされている。
【0045】
このとき磁気記録層7は、上述したように見かけ上の保磁力が小さく記録感度が向上されているため、記録された情報に応じて記録ビットの磁極を適切に変化させることができる。
【0046】
またGMR素子25は、磁界の強さに比例して抵抗値を変化させるようになされている。情報再生処理の際、GMR素子25は、記録ビットに記録された情報に応じて抵抗値を変化させる。なおGMR素子25は、記録ビット以外の磁界の影響を極力受けることのないよう、磁力を遮るGMR用磁気シールド26の間に挟まれて配置されている。
【0047】
磁気ヘッド20は、図示しない抵抗値検出部によってGMR素子25の抵抗値の変化を検出し、これを再生信号として信号処理部13に供給する。
【0048】
信号処理部13(図2)は、供給された再生信号に対して所定の復調処理や復号化処理等の各種信号処理を施すことにより再生情報を生成し、この再生情報を制御部11へ供給する。これに応じて制御部11は、この再生情報を外部機器(図示せず)へ送出するようになされている。
【0049】
このとき磁気記録層7は、記録された情報に応じて記録ビットの磁極が適切に変化されているため、再生信号のノイズを減少させることができ、再生信号のSNR(Signal to Noise Ratio)を向上させ得るようになされている。
【0050】
このように磁気記録再生装置10は、制御部11によって磁気ヘッド20を制御することにより、垂直磁気記録媒体1の磁気記録層7における記録ビットに情報を記録し、また当該記録ビットから情報を再生するようになされている。
【0051】
(3)実施例
次に、実施例及び比較例について説明する。
【0052】
(3−1)比較例1
比較例1では、上述した初期平滑化層3を設けない場合において、基板の表面粗さRaが磁気記録層7の配向分散に与える影響について実験を行った。なお比較例1では、磁気記録層7の配向分散Δθ50を測定するために不必要であるため、保護膜8を形成していない。以下の実施例1及び2についても同様である。
【0053】
基板として、表面粗さRaの異なる3種類の基板A、B及びCを準備した。基板A,B及びCの表面粗さRaは、それぞれ0.1[nm]、0.3[nm]及び0.6[nm]であった。基板A、B及びCは、いずれもガラス基板でなり、研磨の度合いが異なることにより表面粗さRaを変化させている。すなわち基板A、B及びCの順で精巧に研磨が施されており、その研磨工程も煩雑となる。
【0054】
次に、基板Aに対してシード層、下地層及び磁気記録層を順次成膜することにより、比較用サンプルR1を作製した。なお実験の便宜上、本実施例1においては軟磁性裏打ち層を設けていない。
【0055】
具体的に、スパッタリング装置の真空チャンバ内に基板Aを配置し、スパッタリング装置のチャンバ内を所定の圧力(2×10−8[Torr])になるよう排気した後、基板Aを加熱することなくアルゴン雰囲気下で軟磁性裏打ち層、シード層、下地層及び磁気記録層を順次成膜し、垂直磁気記録媒体1としてのサンプルを作製した。
【0056】
すなわち、シード層として2[nm]のTa層を形成した。さらに下地層として10[nm]のRu膜を2層形成することにより20[nm]のRu膜を形成し、磁気記録層として12[nm]のCoCrPt−SiO膜を形成した。以下に、スパッタ条件の詳細を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
なお干渉色測定方式によって膜厚を測定する膜厚計で各層の実際の膜厚を測定したところ、±5%の誤差範囲内で各層の膜が成膜されていることが確認された。
【0059】
また基板B及びCについても同様にしてシード層、下地層及び磁気記録層を順次成膜することにより、比較用サンプルR2及びR3を作製した。
【0060】
次に、比較用サンプルR2及びR3について磁気記録層(CoCrPt−SiO膜)の配向分散Δθ50を測定した。
【0061】
具体的に、X線回折装置により磁気記録層におけるCo結晶粒の(0002)面のピークを検出すると共に、当該ピークの半値幅を配向分散Δθ50として測定した。以下に測定結果を示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表から分かるように、比較用サンプルR1、R2及びR3と基板の表面粗さRaが大きくなるにつれて、磁気記録層における配向分散Δθ50の値も2.88[deg]、4.03[deg]、4.52[deg]と大きくなることが確認された。このことから基板の表面粗さRa(すなわち表面の凹凸)がシード層及び下地層にそのまま影響し、さらに磁気記録層における配向分散Δθ50にも影響を及ぼすといえる。
【0064】
(3−2)実施例1
本実施例1では、基板と軟磁性裏打ち層との間に初期平滑化層としてモル比1:1でなるアルミニウムと銅の合金(以下、Al−Cuと表す)を設け、磁気記録層の配向分散Δθ50に与える影響を確認すると共に、当該Al−Cu膜の膜厚の影響についても併せて確認した。
【0065】
基板として、比較例1で用いた表面粗さRaが0.3[nm]でなる基板Bを準備した。この基板Bに対し、初期平滑化層、軟磁性裏打ち層を成膜した後、比較例1と同様にしてシード層、下地層及び磁気記録層を順次成膜した。
【0066】
すなわち基板B上に初期平滑化層として1.5[nm]のAl−Cu膜を形成した。軟磁性裏打ち層として50[nm]のCoZrNb膜を形成した。以下に、スパッタ条件の詳細を示す。
【0067】
【表3】

【0068】
さらに比較例1と同様にしてシード層として2[nm]のTa層、下地層として20[nm]のRu膜、磁気記録層として12[nm]のCoCrPt−SiO膜を形成し、サンプルS2とした。
【0069】
また初期平滑化層の膜厚が異なる(3.0[nm]、6.0[nm]、11.0[nm]、21.0[nm])以外はサンプルS2と同様にしてサンプルS3、S4、S5、S6をそれぞれ作製した。さらに初期平滑化層を設けない以外はサンプルS2と同様にしたサンプルS1を作製した。
【0070】
これらのサンプルS1〜S6について、比較例1と同様にして磁気記録層の配向分散Δθ50を測定した。以下に、測定結果を示している。
【0071】
【表4】

【0072】
表からわかるように、初期平滑化層を設けていないサンプルS1の配向分散Δθ50の値が3.8[deg]であるのに対し、初期平滑化層を設けたサンプルS2〜S6では、いずれも磁気記録層の配向分散Δθ50の値が3.66[deg]以下とサンプルS1よりも小さく、初期平滑化層の存在により磁気記録層の配向分散が改善されることがわかった。なお本実施例1では、軟磁性裏打ち層を設けたことにより、サンプルS1の配向分散Δθ50の値が同じ基板Bを用いた比較例1の比較サンプルR2の配向分散Δθ50の値(4.0.[deg])よりも小さい値を示している。
【0073】
また図4に、初期平滑化層の膜厚と磁気記録層の配向分散Δθ50との関係をグラフで示している。グラフからわかるように、Al−Cu膜が4[nm]未満になると配向分散Δθ50の値が急激に増大しており、磁気記録層の配向分散性を安定させるには、Al−Cu膜を4[nm]以上設ける必要があるといえる。
【0074】
またAl−Cu膜の膜厚が6.0[nm]及び11[nm]のときに配向分散Δθ50の値がほぼ最小値をとり、11.0[nm]を超えると配向分散Δθ50の値が徐々に増大している。ここで一般的に、成膜に要する時間は膜厚に比例するため、Al−Cu膜の膜厚が小さいほど量産性を向上させることができる。
【0075】
以上を勘案すると、Al−Cu膜の膜厚を15[nm]以下、より好ましくは12[nm]以下にすることにより、量産性を良好に保ちつつ磁気記録層の配向分散性を向上させ得るといえる。さらには、Al−Cu膜の膜厚を6.0[nm]以上11[nm]以下にすることにより、磁気記録層の配向分散性を一段と向上させ得るといえる。
【0076】
このように基板と軟磁性裏打ち層との間にAl−Cu膜を設けることにより、磁気記録層の配向分散性を向上させることが確認された。これは、当該アルミニウムに銅などの他金属を添加することにより結晶粒を小さくし得、さらにアルミニウムが金属として低い融点を有するため、基板B上の凹凸を表面に向けて反映し難く基板B上の凹凸を埋め得るといった特性によると考えられる。
【0077】
(3−3)実施例2
この実施例2においては、Al−Cu以外のアルミニウム合金(以下、Al−Xと表す、ただしXは金属)の膜を初期平滑化層として設け、その効果を確認した。
【0078】
初期平滑化層としてAl−Cu以外のアルミニウム合金による膜を形成すること以外は実施例1と同様にして、基板Bに対し、初期平滑化層、軟磁性裏打ち層を成膜した後、比較例1と同様にしてシード層、下地層及び磁気記録層を順次成膜した。
【0079】
すなわち基板B上に初期平滑化層として12[nm]のAl−X膜を形成した後、軟磁性裏打ち層として50[nm]のCoZrNb膜、シード層として2[nm]のTa層、下地層として20[nm]のRu膜、磁気記録層として12[nm]のCoCrPt−SiO膜を形成することにより、サンプルS11、S12、S13、S14、S15及びS16を作製した。Xとして使用された金属は、それぞれNi、Hf、Zr、Gd、Pd及びBiである。なおアルミニウムとXはモル比で約1:1のものを使用した。
【0080】
また初期平滑化層として12[nm]のAl膜を形成した以外はサンプルS11〜S16と同様にしてサンプルS17を作製した。
【0081】
そしてサンプル11〜S17について、実施例1と同様にして配向分散Δθ50の値を測定した。以下に、測定結果を示す。
【0082】
【表5】

【0083】
表からわかるように、XとしてNiを用いた場合には、配向分散Δθ50の値が3.1[deg]と、初期平滑層のないサンプルS1の3.8[deg](表4)と比較して小さい値を示している。このことから初期平滑層としてAl−Ni膜を設けることにより、磁気記録層の配向分散性を向上させ得るといえる。
【0084】
またXとしてHf及びZrを用いた場合も同様に、配向分散Δθ50の値が3.2[deg]と小さい値を示しており、初期平滑層としてAl−Hf膜、又はAl−Zr膜を設けることにより、磁気記録層の配向分散性を向上させ得るといえる。
【0085】
これに対して、XとしてGd及びPdを用いた場合には、配向分散Δθ50の値がそれぞれ4.1[deg]及び4.5[deg]と僅かに増大している。このことから初期平滑層としてAl−Gd膜、又はAl−Pd膜を設けることにより、磁気記録層の配向分散性を向上させ得ないことがわかった。
【0086】
またXとしてBiを用いた場合には、配向分散Δθ50の値が8[deg]超と大幅に増大している。このことから初期平滑層としてAl−Bi膜を設けることにより、磁気記録層の配向分散性を著しく悪化させることがわかった。同様に初期平滑層としてAl膜を設けた場合にも、配向分散Δθ50の値が8[deg]超と大幅に増大しており、磁気記録層の配向分散性を著しく悪化させることがわかった。
【0087】
このように基板と軟磁性裏打ち層との間に初期平滑化層としてAl−Cu膜以外にも、Al−Ni膜、Al−Hf膜、Al−Zr膜を設けることにより、Al−Cu膜と同様に磁気記録層の配向分散性を向上する効果が得られることが確認された。
【0088】
(4)動作及び効果
以上の構成において、垂直磁気記録媒体1は、基板2上に少なくとも軟磁性裏打ち層4と、下地層6と、磁気記録層7と、保護層8とが積層されてなり、Cu、Ni、Hf、Zrのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層3を有するようにした。
【0089】
これにより垂直磁気記録媒体1は、基板2が有する凹凸が初期平滑化層3よりも上に形成される層(すなわち軟磁性裏打ち層4、シード層5及び下地層6)に伝達されるのを抑制することができ、下地層6の上面(すなわち磁気記録層7との界面)を平滑にすることができる。この結果垂直磁気記録媒体1は、磁気記録層7の結晶粒を整然と配列させることができ、磁気記録層7の配向分散性を向上させ得るようになされている。
【0090】
この初期平滑化層3は、他の層と同様にスパッタ法などによる成膜によって形成することができる。このため垂直磁気記録媒体1は、簡易な工程で磁気記録層7の配向分散性を向上することが可能となる。
【0091】
換言すると垂直磁気記録媒体1は、基板2が有する凹凸を初期平滑化層3によって埋めることができるため、基板2として表面粗さRaの比較的大きいような基板2を用いることができる。
【0092】
また垂直記録媒体1は、同一の基板2を用いた場合、磁気記録層7の分散配向性を向上させて再生時のノイズを減少させることができるため、垂直記録媒体1としての記録密度を向上させることが可能となる。
【0093】
さらに垂直記録媒体1は、初期平滑化層3の膜厚を4[nm]以上にすることにより、膜厚の変動によって磁気記録層7の分散配向性に大きな影響を与えることがなく、分散配向性の安定した磁気記録層7を形成し得る。
【0094】
また垂直磁気記録媒体1は、初期平滑化層3の膜厚を15[nm]以下、より好ましくは12[nm]以下にすることにより、磁気記録層7の分散配向性を十分に低下し得る範囲で良好な量産性を確保することができる。
【0095】
以上の構成によれば、垂直磁気記録媒体1は、基板2上に、銅、ニッケル、ハフニウム、ジルコニウムのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層3と、加えられる磁力線を基板の面方向に対して垂直に調整する軟磁性裏打ち層4と、結晶構造を整えるための下地層6と、磁極の向きに応じて情報を記録する磁気記録層7と、磁気記録層7を保護する保護膜8とを設けることにより、基板2が有する凹凸が上の層に伝達されるのを初期平滑化層3によって抑制することができるため、平滑な下地層6上に磁気記録層7の結晶粒子を良好に配列させることができる。この結果垂直磁気記録媒体1は、簡易な工程で磁気記録層の配向分散を小さくし得る垂直磁気記録媒体及び当該垂直磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置、並びに垂直磁気記録媒体の製造方法を実現できる。
【0096】
(5)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、垂直磁気記録媒体1がシード層5を有するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば図5に示すように、シード層5を省略するようにしても良い。この場合、軟磁性裏打ち層4として非晶性材料を用いることにより、下地層6に軟磁性裏打ち層4の結晶構造の影響を与えずに済む。
【0097】
また上述の実施の形態においては、基板2と軟磁性裏打ち層5との間に初期平滑化層3を設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、シード層5を設ける場合には、軟磁性裏打ち層4とシード層5との間に設けるようにしても良い。
【0098】
さらに上述の実施の形態においては、初期平滑化層3においてAlとXとがモル比で1:1となるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、AlとXとの比率については特に制限はない。
【0099】
さらに上述の実施の形態においては、初期平滑化層3においてXが1種類の金属でなるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、XとしてCu、Ni、Hf、Zrのいずれかを含んでいれば良く、Xが2種類以上の金属であっても良い。この場合、XとしてCu、Ni、Hf、Zr以外の金属を含むこともできる。またCu、Ni、Hf、Zrのうち2種類以上の金属を含んでも良い。
【0100】
さらに上述の実施の形態においては、スパッタ法によって軟磁性裏打ち層4、シード層5、下地層6、磁気記録層7、保護膜8の各層を成膜するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、レーザやマイクロウェーブを用いることにより各層を成膜したり、層ごとに成膜方法を変更するようにしても良い。
【0101】
さらに上述の実施の形態においては、干渉色測定方式によって初期平滑化層3の膜厚を測定ようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、レーザや顕微鏡によって実測してもほぼ同一の値を得ることが可能である。
【0102】
さらに上述の実施の形態においては、基板としての基板2と、軟磁性裏打ち層としての軟磁性裏打ち層4と、磁気記録層としての磁気記録層7と、保護層としての保護膜8と、初期平滑化層としての初期平滑化層3とによって垂直磁気記録媒体としての垂直磁気記録媒体1を構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる基板と、軟磁性裏打ち層と、記録層と、保護層と、初期平滑化層によって本発明の垂直磁気記録媒体を構成するようにしても良い。
【0103】
さらに上述の実施の形態においては、垂直磁気記録媒体としての垂直磁気記録媒体1と、磁気ヘッドとしての磁気ヘッド20と、駆動部としての駆動部15とによって磁気記録再生装置としての磁気記録再生装置10を構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる垂直磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、駆動部とによって本発明の磁気記録再生装置を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、例えば種々の電子機器に搭載されるハードディスクドライブに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本実施の形態による垂直磁気記録媒体の構成を示す略線図である。
【図2】磁気記録再生装置の構成を示す略線図である。
【図3】磁気ヘッドの構成を示す略線図である。
【図4】初期平滑化層の厚さと配向分散との関係を示す略線図である。
【図5】他の実施の形態による垂直磁気記録媒体の構成を示す略線図である。
【符号の説明】
【0106】
1……垂直磁気記録媒体、2……基板、3……初期平滑化層、4……軟磁性裏打ち層、5……シード層、6……下地層、7……磁気記録層、8……保護層、10……磁気記録再生装置、11……制御部、12……駆動制御部、13……信号処理部、14……スピンドルモータ、15……駆動部、20……磁気ヘッド、22……主磁極、25……GMR素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも軟磁性裏打ち層と、下地層と、磁気記録層と、保護層とが積層されてなり、
Cu、Ni、Hf、Zrのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層
を有する垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
上記初期平滑化層は、
膜厚が4[nm]以上、15[nm]以下でなる
請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
上記初期平滑化層は、
膜厚が12[nm]以下でなる
請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
基板上に少なくとも軟磁性裏打ち層と、下地層と、記録層と、保護層とが順次積層されてなり、Cu、Ni、Hf、Zrのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層を有する垂直磁気記録媒体と、
上記垂直磁気記録媒体に対して情報を記録し、及び上記垂直磁気記録媒体に記録された上記情報を読み取る磁気ヘッドと、
上記磁気ヘッドを駆動する駆動部と
を有する磁気記録再生装置。
【請求項5】
基板に対してCu、Ni、Hf、Zrのいずれかを含むアルミニウム合金でなる初期平滑化層を形成する初期平滑化層形成ステップと、
上記初期平滑化層に対して軟磁性裏打ち層を形成する軟磁性裏打ち層形成ステップと、
上記軟磁性裏打ち層上に下地層を形成する下地層形成ステップと、
上記下地層に対して磁気記録層を形成する磁気記録層形成ステップと、
上記磁気記録層上に保護層を形成する保護層形成ステップと
を有する垂直磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−301611(P2009−301611A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152048(P2008−152048)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】