説明

垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】 本発明は、同一の組成で形成される連続した2層間におけるパーティクルの付着を防止することにより、垂直磁気記録媒体の歩留まりの向上および記録再生特性の改善が可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ディスク基体110上に複数の層をスパッタリングによって成膜する垂直磁気記録媒体の製造方法において、複数の層のうち、少なくとも2つの連続する層を、同一チャンバーにおいて同一のターゲットを用いて1つのプロセスタイム内でスパッタ条件を異ならせて成膜することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径垂直磁気記録媒体にして、1枚あたり160GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり250Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式の垂直磁気記録媒体が提案されている。垂直磁気記録方式は、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は従来の面内記録方式に比べて、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
垂直磁気記録方式に用いる磁気記録媒体としては、高い熱安定性と良好な記録特性を示すことから、CoCrPt−SiO垂直磁気記録媒体(例えば、非特許文献1)が提案されている。これは磁気記録層において、柱状に連続して成長し、hcp構造(六方最密結晶格子)の結晶を形成した磁性粒子(Co粒子)の間に、非磁性のCrおよびSiOが偏析して粒界部を形成し、グラニュラー構造を構成する。これにより、磁性粒子の微細化と保磁力Hcの向上をあわせて図るものである。
【0005】
磁気記録層の結晶配向性を向上させるために、一般的に、下地層が設けられている。下地層にはTi、V、Zr、Hfなどが知られているが、現在ではRu(ルテニウム)が主流となっている(例えば、特許文献1)。Ruはhcp構造をとり、Co(コバルト)を主成分とする磁気記録層の磁化容易軸の垂直配向性を効果的に向上させ、保磁力Hcを高め、所定のS/N比及び分解能を確保した高記録密度化が図られることが知られているからである。
【0006】
下地層は、材質が同じであっても、成膜プロセスにおける雰囲気ガスの圧力によって、膜の機能が変動することが知られており、垂直磁性層の下地膜として、高圧アルゴン雰囲気で成膜されたルテニウムを含む層と、低圧アルゴン雰囲気で成膜されたルテニウムを含む層を有する構成が開示されている(例えば、特許文献2)。特許文献2においては、低圧アルゴン雰囲気(1Pa前後)で成膜されたルテニウムを含む層は磁性層が高配向となる効果を奏し、また高圧アルゴン雰囲気(6Pa〜10Pa程度)で成膜されたルテニウムを含む層は磁性層が微粒子となる効果を奏すると述べている。
【非特許文献1】T. Oikawa et. al., IEEE Trans. Magn, vol.38, 1976-1978(2002)
【特許文献1】特開平7−334832号公報
【特許文献2】特開2002−197630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した磁気記録媒体を構成する膜の大部分はスパッタリングによって成膜される。スパッタリングに用いられるスパッタ成膜装置は、複数のチャンバーが連結されており、各チャンバーには成膜させる膜の種類に応じた金属のターゲットが設置されている。磁気記録媒体の製造では、スパッタ成膜装置にガラス基板を導入し、複数のチャンバー内を移動させながら、ガラス基板上に複数の膜を成膜させている。
【0008】
ルテニウムを含む下地層(下地膜)もスパッタリングによって成膜されるが、当該下地層が連続的な2層で構成される場合、一方の下地層(先に成膜される下地層)を低圧アルゴン雰囲気下のチャンバーで成膜させた後に、他方の下地層を高圧アルゴン雰囲気下のチャンバーで成膜させるというように、2つのチャンバーを用いて成膜している。
【0009】
スパッタ成膜装置によるスパッタリングは、チャンバー内にターゲットを設置、およびガラス基板を導入し、真空状態としたチャンバー内に高電圧をかけ、プラズマ化させたAr(アルゴン)等の希ガス元素をターゲットに衝突させる。これにより、ターゲット表面の原子がチャンバー内に放出され、かかる原子がガラス基板に付着(到達)し、ガラス基板上に膜が成膜される。
【0010】
しかしながら、チャンバー内に放出されたターゲット表面の原子は、ガラス基板だけでなく、チャンバー内部およびチャンバー内部のターゲットやシールド等のガラス基板以外の箇所にも付着してしまう。上記のガラス基板以外の箇所に付着した原子は、堆積し続けると被膜となってしまう。かかる被膜は剥がれやすく、剥がれてしまうとパーティクルとなり、ガラス基板およびガラス基板上に成膜された膜に付着してしまう。これにより、磁気記録媒体の歩留まりの低下を引き起こす。このような現象は、上記の2層で構成される当該下地層のうち、高圧アルゴン雰囲気下で下地層を成膜するチャンバーにおいて特に多く発生する。
【0011】
また、上述した複数のチャンバーを備えるスパッタ成膜装置では、チャンバー間にパーティクルが存在する。このため、ガラス基板がチャンバー間を移動する際に、かかるパーティクルがガラス基板およびガラス基板上に成膜された膜に付着するおそれがある。このことも、磁気記録媒体の歩留まりの低下の原因となる。
【0012】
特に、下地層が連続的な2層で構成される場合、かかる下地層間にパーティクルが混入すると、下地層の2層間のエピタキシャル成長が阻害されてしまう。すると上層側の下地層の結晶配向性が低下するため、磁気記録層の結晶配向性および微細化に悪影響を及ぼし、記録再生特性の低下が低下してしまう。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑み、同一の組成で形成される連続した2層間におけるパーティクルの付着を防止することにより、垂直磁気記録媒体の歩留まりの向上および記録再生特性の改善が可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の製造方法の代表的な構成は、ディスク基体上に複数の層をスパッタリングによって成膜する垂直磁気記録媒体の製造方法において、複数の層のうち、少なくとも2つの連続する層を、同一チャンバーにおいて同一のターゲットを用いて1つのプロセスタイム内でスパッタ条件を異ならせて成膜することを特徴とする。
【0015】
上記の構成により、同一のターゲットを用いて複数の膜を成膜させる場合にはチャンバー間を移動せず、同一チャンバーにおいて成膜させることができる。したがって、チャンバー間の移動に伴う、ガラス基板およびガラス基板上に成膜された膜へのパーティクルの付着を低減し、磁気記録媒体の歩留まりを向上することが可能となる。
【0016】
また、従来は同一のターゲットであっても異なるチャンバーを用いていたが、同一のチャンバーで複数の膜を成膜させることにより、使用するチャンバーを削減することができる。したがって、設備やそのメンテナンスにかかるコストを低減することができる。また、残余したチャンバーで他の工程を導入することも可能である。
【0017】
上記の少なくとも2つの連続する層は、磁気記録層よりもディスク基体側に成膜される複数の下地層であって、複数の下地層を、キャリアガスの流量をそれぞれ異ならせて成膜するとよい。また、かかる複数の下地層のうち、ディスク基体側の第1下地層を成膜するときのキャリアガスの流量をAm/min、第1下地層の次に第2下地層を成膜するときのキャリアガスの流量をBm/minとしたとき、B/Aが1.5以上であるとよい。
【0018】
スパッタ装置においては一定の速度でガスを引くことによって内部の真空を保っており、キャリアガスの流量を異ならせることで雰囲気ガスのガス圧を調節している。そこでプロセスタイム中にキャリアガスの流量を変更することにより、スパッタ条件の異なる複数の下地層を同一チャンバーにおいて成膜することが可能となる。なお、ガス流量(ガス圧)を変更するタイミングで一時的に成膜を停止することにより、ガス圧が安定した状態で成膜することができる。これにより、下地層が複数の下地層、すなわち連続的な2層で構成される場合の、下地層間へのパーティクルの混入を低減し、下地層のエピタキシャル成長を促進することができる。したがって、磁気記録層の結晶配向性の向上および微細化を促進し、記録再生特性を向上することが可能となる。
【0019】
また、上記の構成により、同一のターゲットを用いて成膜した複数の膜、すなわち第1下地層と第2下地層とを、それぞれ異なる性質を備える膜とすることができる。従来の製造方法においては、第1下地層を低圧アルゴン雰囲気(例えば1Pa前後)で成膜し、第1下地層に磁性層を高配向とさせる効果を備えさせ、次に異なるチャンバーを用いて第2下地層を高圧アルゴン雰囲気(6Pa〜10Pa程度)で成膜し、第2下地層に磁性層を微細化させる効果を備えさせていた。本発明によれば、従来の製造方法における複数のチャンバーを使用した2つの工程によることなく、第1下地層と第2下地層に同様の効果を備えさせることが可能となる。
【0020】
更に、従来は第2下地層を成膜するチャンバーは、高圧アルゴン雰囲気で稼動し続けていたため、チャンバー内に放出されたターゲット表面の原子がチャンバー内部およびそのターゲットやシールド等のガラス基板以外の箇所に大量に付着し、堆積し続けた結果、剥がれやすい被膜となっていた。しかしながら、本発明によれば、同一のチャンバーで第1下地層と第2下地層を成膜するため、当該チャンバーが高圧アルゴン雰囲気で稼動し続けることはない。したがって、かかる被膜の発生を抑制し、剥がれた被膜によるパーティクルの発生を低減できるため、磁気記録媒体の歩留まりを向上することが可能となる。
【0021】
上記のキャリアガスは、Arガスであるとよい。
【0022】
スパッタリングにおいては、キャリアガスの原子をイオン化し、ターゲット表面に衝突させることにより、ターゲット表面の原子をチャンバー内に放出させている。したがって、キャリアガスは原子量が大きい原子が好ましく、一般的には希ガス元素が用いられている。その中でも、Ar(アルゴン)ガスは原子量も比較的大きく、安価であることから、好適に用いることができる。Ar以外のキャリアガスとしては、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)、Rn(ラドン)を用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、同一の組成で形成される連続した2層間におけるパーティクルの付着を防止することにより、垂直磁気記録媒体の歩留まりの向上および記録再生特性の改善が可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
(実施形態)
本発明にかかる垂直磁気記録媒体の製造方法の実施形態について説明する。図1は本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、基体としてのディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122b、連続層124、媒体保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとはあわせて磁気記録層122を構成する。
【0026】
以下に説明するように、本実施形態に示す垂直磁気記録媒体100は、磁気記録層122の第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bのいずれかまたは両方に複数の種類の酸化物(以下、「複合酸化物」という。)を含有させることにより、非磁性の粒界に複合酸化物を偏析させている。
【0027】
ディスク基体110は、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
【0028】
ディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層112から連続層124まで順次成膜を行い、媒体保護層126はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層128をディップコート法により形成することができる。なお、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、各層の構成および製造方法について説明する。
【0029】
付着層112は非晶質の下地層であって、ディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファスの合金膜とすることが好ましい。
【0030】
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCoW系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
【0031】
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeBなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
【0032】
前下地層116は非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方細密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面、または体心立方構造(bcc構造)の(110)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Ta、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばfcc構造としてはNiW、CuW、CuCr、bcc構造としてはTaを好適に選択することができる。
【0033】
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層22の配向性を向上させることができる。下地層の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層を良好に配向させることができる。
【0034】
下地層118をRuとした場合において、スパッタ条件を異ならせることにより、同一チャンバーにおいて同一のターゲットを用いて1つのプロセスタイム内で複数成膜することが可能であり、かかる下地層118をRuからなる、第1下地層118aと第2下地層118bとの2層構造とすることができる。これにより、同一のターゲットを用いる場合には、チャンバー間を移動せず、同一チャンバーにおいて成膜させることができる。したがって、チャンバー間の移動に伴うパーティクルの付着を低減し、磁気記録媒体の歩留まりを向上することが可能となる。また、同一のチャンバーで複数の膜を成膜させるため、使用するチャンバーを削減でき、設備やそのメンテナンスにかかるコストを低減することができる。
【0035】
更に、第1下地層118aと第2下地層118bの成膜時にチャンバー間を移動しないため、第1下地層118aおよび第2下地層118b間へのチャンバー移動時のパーティクルの混入を低減することができる。したがって、第1下地層118aおよび第2下地層118bの連続性が失われず、下地層同士のエピタキシャル成長を促進することができる。その結果、第2下地層118bの結晶配向性が向上し、磁気記録層122の結晶配向性の向上および微細化も促進するため、記録再生特性を向上することが可能となる。
【0036】
具体的には、ディスク基体側の第1下地層118aを成膜するときのキャリアガス(Arガス)の流量をAm/min、第1下地層118aの次に第2下地層118bを成膜するときのキャリアガス(Arガス)の流量をBm/minとしたとき、B/Aが1.5以上となるようにキャリアガス(Arガス)の流量を調節する。ここで、AとBの関係は「A<B」である。
【0037】
例えば、ガス流量を増量するとガス圧が増大する。その結果、スパッタリングされるプラズマイオンの平均自由工程が短くなるため、成膜速度が遅くなり、結晶配向性を改善することができる。また高圧にすることにより、結晶格子の大きさが小さくなる。Ruの結晶格子の大きさはCoの結晶格子よりも大きいため、Ruの結晶格子を小さくすればCoのそれに近づき、Coのグラニュラー層の結晶配向性をさらに向上させることができる。
【0038】
したがって、キャリアガス(Arガス)の流量を上記のように設定することにより、第1下地層118aは磁性層を高配向とさせる効果を備え、第2下地層118bは磁性層を微細化させる効果を備えるというように、それぞれ異なる性質を備える膜とすることができる。
【0039】
また、同一のチャンバーで第1下地層118aと第2下地層118bを成膜するため、当該チャンバーが高圧アルゴン雰囲気で稼動し続けることはない。したがって、チャンバー内に放出されたターゲット表面の原子の付着および堆積による被膜の発生を抑制し、剥がれた被膜によるパーティクルの発生を低減できる。その結果、磁気記録媒体の歩留まりを向上することが可能となる。
【0040】
非磁性グラニュラー層120は非磁性のグラニュラー層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第1磁気記録層122aのグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。非磁性グラニュラー層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラー構造とすることができる。特にCoCr−SiO、CoCrRu−SiOを好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。
【0041】
また非磁性物質とは、磁性粒(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)を例示できる。
【0042】
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラー構造を有している。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層120を設けることにより、そのグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長することができる。磁気記録層122は単層でもよいが、本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと、第2磁気記録層122bとから構成されている。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bは、いずれも非磁性物質としてはSiO、Cr、TiO、B、Fe等の酸化物や、BN等の窒化物、B等の炭化物を好適に用いることができる。
【0043】
さらに本実施形態では、第1磁気記録層122aまたは第2磁気記録層122bのいずれかまたは両方において2以上の非磁性物質を複合して用いる。このとき含有する非磁性物質の種類には限定がないが、特にSiOおよびTiOを含むことが好ましく、次にいずれかに代えて/加えてCrを好適に用いることができる。例えば第1磁気記録層122aは、粒界部に複合酸化物(複数の種類の酸化物)の例としてCrとSiOを含有し、CoCrPt−Cr−SiOのhcp結晶構造を形成することができる。また例えば第2磁気記録層122bは、粒界部に複合酸化物の例としてSiOとTiOを含有し、CoCrPt−SiO−TiOのhcp結晶構造を形成することができる。
【0044】
連続層124はグラニュラー構造を有する磁気記録層122の上に、面内方向に磁気的に連続した層(連続層とも呼ばれる)である。連続層124は必ずしも必要ではないが、これを設けることにより磁気記録層122の高密度記録性と低ノイズ性に加えて、逆磁区核形成磁界Hnの向上、耐熱揺らぎ特性の改善、オーバーライト特性(OW特性)の改善を図ることができる。
【0045】
なお連続層124として、単一の層ではなく、高い垂直磁気異方性かつ高い飽和磁化MSを示す薄膜(連続層)を形成するCGC構造(Coupled Granular Continuous)としてもよい。なおCGC構造は、グラニュラー構造を有する磁気記録層と、PdやPtなどの非磁性物質からなる薄膜のカップリング制御層と、CoBとPdとの薄膜を積層した交互積層膜からなる交換エネルギー制御層とから構成することができる。
【0046】
媒体保護層126は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。媒体保護層126は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録層を防護するための保護層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録層を防護することができる。
【0047】
潤滑層128は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、媒体保護層126表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層128の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、媒体保護層126の損傷や欠損を防止することができる。
【0048】
以上の製造工程により、垂直磁気記録媒体100を得た。以下に、実施例と比較例を用いて本発明の有効性について説明する。
【0049】
(評価)
図2は、実施例および比較例における下地層の成膜プロセスの詳細を説明する図である。実施例は、本実施形態に基づき、第1下地層118aおよび第2下地層118bを同一のチャンバー(チャンバー1)にて成膜する際の成膜プロセスである。比較例は、従来の製造方法であり、第1下地層118aをチャンバー1、第2下地層118bをチャンバー2というように、異なるチャンバーで成膜する際の成膜プロセスである。
【0050】
なお図2中、ガス流量とは、キャリアガスであるArガスの流量であり、当該ガス流量を調節することにより、チャンバー内のガス圧を制御することができる。プロセスタイムとは1つのチャンバーにディスクが滞留する作業時間であり、各プロセス1〜5は1つのプロセスタイム内の作業(分割された作業時間)である。また電力(F2)とは、例えばディスクの両主表面の一方を表面、他方を裏面としたとき、表面に対面する位置(Front position)に設置されているターゲットに供給する電力であり、電力(R2)とは、上記の裏面に対面する位置(Rear position)に設置されているターゲットに供給する電力である。
【0051】
図2に示すように、実施例においては、まずチャンバー1に前下地層116までを成膜したガラス基板を導入する。そして、チャンバー1内にArガスを0.5sec間、70m/minの流量で送入する(プロセス1)。次に、ガス流量70m/minのまま、1.9sec間、ターゲットに700Wの電力(F2)および電力(R2)をかけることにより、第1下地層118aを成膜する(プロセス2)。
【0052】
その後、ターゲットへの電力供給を停止し、ガス流量を800m/minに増量し、0.5sec間運転する(プロセス3)。次に、ガス流量を600m/minに変更し、0.1sec間運転することによりガス圧を安定させる(プロセス4)。そして、ガス流量を500m/minに変更し、2.0sec間、ターゲットに800Wの電力(F2)および電力(R2)をかけることにより、第2下地層118bを成膜する(プロセス5)。以上のプロセスにより、実施例にかかる垂直磁気記録媒体100を得た。
【0053】
また、比較例においては、まずチャンバー1に前下地層116までを成膜したガラス基板を導入する。そして、チャンバー1内にArガスを0.5sec間、100m/minの流量で送入する(プロセス1)。次に、ガス流量100m/minのまま、4.5sec間、ターゲットに500Wの電力(F2)および電力(R2)をかけることにより、第1下地層118aを成膜する(プロセス2)。
【0054】
上記のプロセスにより第1下地層118aを成膜したガラス基板を移動し、チャンバー2に導入する。まず、チャンバー2内にArガスを0.5sec間、400m/minの流量で送入する(プロセス1)。次に、ガス流量を250m/minに変更し、0.2sec間運転する(プロセス2)。そして、ガス流量を200m/minに変更し、4.3sec間、ターゲットに800Wの電力(F2)および電力(R2)をかけることにより、第2下地層118bを成膜する(プロセス3)。以上のプロセスにより、比較例にかかる垂直磁気記録媒体100を得た。
【0055】
図3は、実施例および比較例における下地層の性能評価の詳細を説明する図である。図3中、Δθ50(Ru)とは、X線回折装置を用いたロッキングカーブ法により測定した、Ru結晶の結晶配向性であり、Δθ50(Co)とは、同様に測定したCo結晶の結晶配向性である。この値は、結晶子の配向のバラつきの大きさを表す配向分散(c軸分散角)であり、小さいほど配向性に優れていることを示す。
【0056】
Hcとは保磁力であり、静磁気特性の一種である。磁気記録層のHcが向上するにつれ、磁気記録層の磁化が反転しにくくなり、垂直磁気記録媒体の信頼性が向上する。また、Hcは、高記録密度化に伴って狭隘化するトラック幅でもデータ保持を可能とするために必要である。Hnとは逆磁区核形成磁界であり、Hnの絶対値が小さいほど、熱揺らぎ現象に対する耐性が高い。
【0057】
MWWとは記録トラック幅(Magnetic Write Width)であり、かかる値が小さいほどトラック幅を狭くすることができるため、垂直磁気記録媒体を高記録密度化することが可能である。SNRとはシグナルノイズ比(Signal Noise Ratio)であり、電磁変換特性の一種である。SNRは信号とノイズの強度比を表しており、面積の小さな記録ビットにおいても正確に且つ高速に読み書きするために重要である。bERとはビットエラーレート(bit Error Rate)であり、単位時間あたりのビットエラーの数と、総ビット数との比率である。図3中では、かかるbERの常用対数を表記している。
【0058】
図3に示すように、実施例において、Δθ50(Ru)およびΔθ50(Co)の値が比較例よりも低下していることから、下地層118のRu(ルテニウム)の結晶配向性が向上し、これに伴い磁気記録層122のCo(コバルト)の結晶配向性も向上していることが理解できる。このことから、第1下地層118aおよび第2下地層118bの2層から構成される下地層118を同一のチャンバーで成膜することにより、第1下地層118aおよび第2下地層118b間のエピタキシャル成長を促進し、更には磁気記録層122のエピタキシャル成長も促進可能であることがわかる。
【0059】
そして、磁気記録層122のCo(コバルト)の結晶配向性、すなわち磁気記録層122の磁化容易軸の垂直配向性が向上したことにより、Hcが増大し、垂直磁気記録媒体100の信頼性が向上している。また、Hnの絶対値が、実施例においての比較例より増大していることから、実施例のほうが熱揺らぎ現象に対する耐性が高いことがわかる。
【0060】
更に、MWWにおいても、実施例の値が比較例よりも低いことから、実施例にかかる垂直磁気記録媒体100はトラック幅の狭小化が可能であり、更なる高記録密度化が測れることがわかる。
【0061】
また、SNRおよびbERにおいても、実施例は比較例よりも優れた結果を示している。SNRが向上していることから、実施例にかかる垂直磁気記録媒体100は再生時のノイズが低減され、記録再生特性が向上していることがわかる。また、bERが向上していることから、実施例はビットエラーの発生が低減されていることがわかる。
【0062】
上記説明した如く、本発明によれば、下地層118を構成する第1下地層118aおよび第2下地層118bを同一チャンバーで1つのプロセスタイム内で成膜させることにより、第1下地層118aおよび第2下地層118b間へのパーティクルの付着を防止し、下地層118および磁気記録層122のエピタキシャル成長を促進することができる。これにより、垂直磁気記録媒体の歩留まりの向上および記録再生特性の改善が可能である。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態にかかる磁気記録媒体の構成を説明する図である。
【図2】実施例および比較例における下地層の成膜プロセスの詳細を説明する図である。
【図3】実施例および比較例における下地層の性能評価の詳細を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
100…垂直磁気記録媒体、110…ディスク基体、112…付着層、114…軟磁性層、114a…第1軟磁性層、114b…スペーサ層、114c…第2軟磁性層、116…前下地層、118…下地層、118a…第1下地層、118b…第2下地層、120…非磁性グラニュラー層、122…磁気記録層、122a…第1磁気記録層、122b…第2磁気記録層、124…連続層、126…媒体保護層、128…潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク基体上に複数の層をスパッタリングによって成膜する垂直磁気記録媒体の製造方法において、
前記複数の層のうち、少なくとも2つの連続する層を、同一チャンバーにおいて同一のターゲットを用いて1つのプロセスタイム内でスパッタ条件を異ならせて成膜することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つの連続する層は、磁気記録層よりも前記ディスク基体側に成膜される複数の下地層であって、
前記複数の下地層を、キャリアガスの流量をそれぞれ異ならせて成膜することを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記複数の下地層のうち、前記ディスク基体側の第1下地層を成膜するときの前記キャリアガスの流量をAm/min、前記第1下地層の次に第2下地層を成膜するときの前記キャリアガスの流量をBm/minとしたとき、
B/Aが1.5以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記キャリアガスは、Arガスであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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