説明

垂直磁気記録媒体

【課題】媒体基板が小径、薄板になっても、媒体ノイズを低減し、高記録密度化に適した垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基板10の主表面上に、少なくとも軟磁性層30と垂直磁気記録層とが順次形成された垂直磁気記録媒体であって、前記基板を上下に挟む軟磁性層30,30のそれぞれの磁化容易軸の方向が、膜面に平行で、且つ、前記基板を挟んで互いに略180°異なり、相互に磁気的に結合している。これにより、媒体基板が小径、薄板になっても、媒体ノイズを低減し、高記録密度化に適した垂直磁気記録媒体が安定した品質で得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)等に搭載され、高記録密度化が可能な垂直磁気記録ディスク等の垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化社会は急激な高度化を続けており、HDD(ハードディスクドライブ)に代表される磁気記録装置では、2.5インチ径の磁気ディスクにして、1枚辺り80Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきた。磁気ディスクにおいて、これらの所要に応えるためには1平方インチ当り133Gビット(133Gbit/inch)を越える情報記録密度を実現することが求められる。このような高記録密度で安定した記録再生を行なうには、磁気記録再生方式として垂直磁気記録方式を採用することが好ましいとされる。特に、垂直磁気記録方式は熱磁気余効による熱揺らぎ障害に対する耐性が高いので、高記録密度領域において特に好ましい。
磁気ディスクを垂直磁気記録方式に対応させるためには、現在普及している面内磁気記録方式用の磁気ディスクから大幅に異なる設計思想が要求される。
【0003】
垂直磁気記録ディスクにあっては、基板上に軟磁性体からなる軟磁性層と、硬磁性体からなる垂直磁気記録層を備える、いわゆる二層型垂直磁気記録媒体が好ましいとされる。この二層型垂直磁気記録媒体にあっては、磁気記録時に、磁気ヘッドと垂直磁気記録層と軟磁性層間に好適な磁気回路を形成することができ、垂直磁気記録層に磁気記録するのを軟磁性層が助ける働きをしている。
垂直磁気記録方式は、高い記録分解能が得られることから、次世代の高密度記録方式として早期の開発が望まれており、特に、10GB以上の高容量化が望まれている小径(1インチ、0.85インチなど)媒体への応用が強く要望されている。
【0004】
積層膜からなる垂直磁気記録媒体は、枚葉式という円盤状ターゲットの正面に基板を設置して、1枚毎に各層をマグネトロンスパッタ方式にて成膜し、複数のプロセス室に基板を搬送することを繰り返して、積層膜を形成する方式がとられている。図4に示すように、このようなスパッタ方法においては、ターゲット100の裏側に、ステージ80の平面上に図示するように設置された磁石(永久磁石)90を配置し、ステージ80をその回転軸81を中心に所定の方向(矢印82の方向)に回転させることで、磁石90をターゲット100に平行な面内において回転運動させることにより、ターゲット100表面の漏れ磁場91を時間と共に移動させることにより、漏れ磁場によってプラズマの発生効率を増大させ、成膜速度を高くして生産性を上げている。さらにこの漏れ磁場は、同時に軟磁性層の成膜時に基板表面への膜形成の印加磁場として、軟磁性層の磁化容易軸の向きを基板半径方向に揃える効果を兼ね備えている。
【0005】
上記のような構造の垂直磁気記録媒体においても媒体ノイズが問題となる。特にこの媒体ノイズのひとつであるスパイクノイズは、軟磁性層に形成された磁壁によるものであることが知られており、これを解決する手段も提案されている。例えば、垂直磁気記録媒体の低ノイズ化のためには、軟磁性層の磁壁形成を抑制する必要があるが、このために、非磁性金属層と軟磁性層とを交互に積層させた積層構造とし、非磁性金属層を上下に挟む軟磁性層のそれぞれの磁化方向が互いに180°異なるように膜面に平行な磁化方向をもたせて、相互に反強磁性的に結合させる技術がある(特許文献1)。
【0006】
また、特許文献2には、基板とその上の軟磁性層との間に、当該軟磁性層を磁気的及び結晶学的に配向する軟磁性配向膜を介在させることにより、軟磁性層の厚さを薄くして軟磁性層ノイズを減少させる技術が開示されている。また、特許文献3には、軟磁性下地層を反強磁性層を含む磁区制御層が第1及び第2の二つの軟磁性層の間に配置された三層構造とし、第1及び第2の軟磁性層の膜厚をそれぞれ所定に調整することで、軟磁性下地層の磁区を制御し磁壁移動を抑制する技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−79043号公報
【特許文献2】特開2004−63076号公報
【特許文献3】特開2004−348849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献に開示された技術により媒体ノイズを低減させるにしても、媒体基板が小径、薄板になるにしたがって、媒体表裏間の静磁気的な相互作用の影響が無視できなくなってきた。その様子を図3に示す。基板10を挟んでその表裏にそれぞれ付着層20,20及び軟磁性層30,30を備え、各軟磁性層は、上下の軟磁性層33,31の間にRu,Irなどの非磁性金属層32を挟む積層構造となっている。基板10を挟む表裏の各軟磁性層30においては、上記非磁性金属層32を上下に挟む軟磁性層33,31のそれぞれの磁化方向33a,31a(又は33b,31b)は反対であるが、基板10を挟んでその表裏の軟磁性層31,31の磁化方向31a,31bは同方向である。このため、媒体基板10が小径、薄板になるにしたがって、媒体表裏間の静磁気的な相互作用が大きくなり、基板10を挟んでその表裏の軟磁性層31,31からの反磁界(反磁界の方向30a)によって表裏の磁区に影響を与える。それによって、磁区の不安定性から、スパイクノイズを発生させるという問題があり、高密度記録が困難となっていた。
【0009】
この解決策として、軟磁性層を成膜後に、各小径基板それぞれに、基板の中心に対して点対象となるような外部磁化を印加しながら、基板を加熱し、磁化容易軸の向きを半径方向に揃えるという工程を設ける方法がある。しかし、基板加熱、特殊な磁場の印加など非常に複雑で時間を要するため、量産性が低下するという問題がある。
そこで、本発明は、上記従来の種々の問題点を解決し、媒体基板が小径、薄板になっても、媒体ノイズを低減し、高記録密度化に適した、熱揺らぎ障害耐性を備え、しかも安定した品質で得られるような垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意研究した結果、非磁性基板を挟む表裏の軟磁性層の磁化方向を反対にすることによって、静磁気的に互いの磁化を強めあうように軟磁性層を形成することで、量産性を損うことなく、小径、薄板基板であっても、媒体ノイズを好適に低減することができ、高記録密度化に好適であることを見い出し、得られた知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)非磁性基板の主表面上に、少なくとも軟磁性層と垂直磁気記録層とが順次形成された垂直磁気記録媒体であって、前記非磁性基板を上下に挟む前記軟磁性層のそれぞれの磁化容易軸の方向が、膜面に平行で、且つ、前記非磁性基板を挟んで互いに略180°異なり、相互に磁気的に結合していることを特徴とする垂直磁気記録媒体である。
(構成2)前記軟磁性層が、非磁性層を挟む複数の層からなることを特徴とする構成1に記載の垂直磁気記録媒体である。
(構成3)前記軟磁性層における前記非磁性層を上下に挟む各軟磁性層のそれぞれの磁化容易軸の方向が、前記非磁性層を挟んで互いに略180°異なり、相互に磁気的に結合していることを特徴とする構成2に記載の垂直磁気記録媒体である。
(構成4)前記非磁性基板はディスク状であって、前記軟磁性層の磁化容易軸の方向が前記基板の略半径方向であることを特徴とする構成1乃至3の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体である。
(構成5)前記非磁性基板はディスク状であって、前記軟磁性層の磁化容易軸の方向がランダムであることを特徴とする構成1乃至3の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体である。
(構成6)前記軟磁性層は、コバルト(Co)と鉄(Fe)の少なくとも一方の元素を含む非晶質合金材料からなることを特徴とする構成1乃至5の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体である。
(構成7)前記非磁性基板の厚みが、0.4mm以下であることを特徴とする構成1乃至6の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体である。
(構成8)前記垂直磁気記録層は、グラニュラー構造を含有するコバルト(Co)系強磁性材料からなることを特徴とする構成1乃至7の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、媒体基板が小径、薄板になっても、媒体ノイズを低減し、高記録密度化に適した、熱揺らぎ障害耐性を備え、しかも安定した品質で得られるような垂直磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る媒体基板の表裏の軟磁性層の構成を示す断面図である。図2は、本発明の一実施の形態に係る垂直磁気記録ディスクの層構成を示す断面図である。
図1に示すように、基板10を挟んでその表裏にそれぞれ付着層20,20及び軟磁性層30,30を備え、各軟磁性層は、上下の軟磁性層33,31の間にRu,Irなどの非磁性金属層32を挟む積層構造となっている。
【0014】
ここで、基板10を挟んでその表裏の軟磁性層31,31のそれぞれの磁化容易軸の方向31a,31bが、膜面に平行で、且つ、基板10を挟んで互いに略180°異なり、相互に磁気的に結合している。すなわち、基板10を挟んでその表裏の軟磁性層31,31からの反磁界(反磁界の方向30a)と軟磁性層の磁化方向が同一方向のため、静磁気的に互いの磁化を強め合い、磁区制御が容易である。その結果、スパイクノイズ等の媒体ノイズの発生を抑制することができる。
このように、基板10を挟む表裏の軟磁性層の磁化容易軸の方向を略180°異なるようにするためには、例えば軟磁性層のスパッタ成膜中の磁界の向きを表裏で反平行にして成膜することにより実現できる。軟磁性層はスパッタリング法で成膜することが好ましい。特にDCマグネトロンスパッタリング法で成膜すると均一な成膜が可能となるので好ましい。
【0015】
なお、図5に示すように、ターゲット100に対して磁石90とは反対側に、基板ホルダ110の開口部111内に設置された4枚の小径の基板10を配置した場合、矢印92の磁場方向に沿って基板の一方の側の軟磁性層の磁化容易軸の方向を一半径方向となるように成膜することができる。
【0016】
基板10を挟む表裏の各軟磁性層30においては、上記非磁性金属層32を上下に挟む軟磁性層33,31のそれぞれの磁化方向33a,31a(又は33b,31b)は、上記非磁性金属層を挟んで互いに略180°異なり、相互に磁気的に結合している。これにより、基板10を挟む表裏の各軟磁性層30において、磁壁形成を抑制することができる。
上記基板10はディスク状の場合、軟磁性層の磁化容易軸の方向が基板の略半径方向であることが、本発明の作用を好適に得られるので好ましい。但し、本発明の作用が得られる限りにおいては、軟磁性層の磁化容易軸の方向がランダム、たとえば不規則な方向、半径方向以外の任意の方向でもよい。
【0017】
この軟磁性層は、軟磁性特性を備える軟磁性体により形成されていれば特に制限はないが、例えば保磁力(Hc)が0.01〜80エルステッド、好ましくは0.01〜50エルステッドの磁気特性であることが好ましい。また、飽和磁束密度(Bs)は500〜2000emu/ccの磁気特性であることが好ましい。このような軟磁性層の材料としては、非晶質のFe系合金材料、Co系合金材料が好ましく挙げられる。例えば、FeTaC系合金、FeTaN系合金、FeNi系合金、FeCoB系合金、FeCo系合金などのFe系軟磁性材料、CoZrTa系合金、CoNbZr系合金などのCo系軟磁性材料、或いはCoFeB系合金などのFeCo系軟磁性材料等を用いることができる。
【0018】
本発明において、軟磁性層の全膜厚は、10〜200nm、好ましくは25〜100nmであることが望ましい。膜厚が10nm未満では、磁気ヘッドと垂直磁気記録層と軟磁性層間に好適な磁気回路を形成することが困難となる場合がある。一方、膜厚が200nmを超えると、表面粗さが増加する場合がある。
上記軟磁性層は単層でもよいが、本実施の形態のように、非磁性層を挟む複数の層からなり、反強磁性結合構造とすることが特に好ましい。この場合の非磁性層としては、例えばRu,Ir,Rhなどの非磁性金属材料が好適な反強磁性結合構造が得られるので好ましい。非磁性層の膜厚は、5〜10Å程度が好ましい。
基板の厚みは、0.4mm以下であることが特に好ましい。小径で薄板の基板を用いる垂直磁気記録媒体において特に本発明の効果が好適に発揮されるからである。
【0019】
図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る垂直磁気記録ディスクは、ディスク状の基板10上に、順に、付着層20、軟磁性層30、下地層40、垂直磁気記録層50、保護層60、潤滑層70を積層して構成されている。なお、図2では、基板10の一方の主表面上の層構成を示し、他方の主表面上の図示は省略している。
本発明において、基板10は特に限定されないが、ガラス基板やアルミ合金等の金属基板を用いることができる。平滑性の高いガラス基板を用いると、磁気記録ヘッドの浮上量を低下させることができ、特に好適である。
また、本実施の形態のように、基板10に対する軟磁性層30の付着力を補強する作用を備えた付着層20を設けることが好ましい。軟磁性層30が例えばCo系合金からなる場合、付着層20の材料としては例えばCrTi系が好適である。付着層20を設ける場合の膜厚は、20nm以下とするのが好ましい。
軟磁性層30については前述したとおりであり、ここでは重複説明を省略する。
【0020】
下地層40は、垂直磁気記録層50の結晶配向を基板面に対して垂直方向に配向させるのを促進する作用と、垂直磁気記録層50の微細化を促進する作用を備える。下地層40は単層でもよいが、複数層で構成してもよい。例えば、基板側から第1の下地層と第2の下地層の二層構成とし、基板側に位置する第1の下地層は、軟磁性層30を防護する作用とともに、上層に位置する第2の下地層の微細化を促進する作用を備える層とし、第2の下地層は、上層の垂直磁気記録層の結晶配向、つまり垂直磁気記録層を構成する六方細密充填(hcp)結晶構造の結晶軸(c軸)を基板面に対して垂直方向に配向させるのを促進する作用を備える層とすることができる。
【0021】
下地層40を上述の二層構成とする場合、基板側に位置する第1の下地層としては、例えばコバルト(Co)とクロム(Cr)とタンタル(Ta)のいずれかを含む非晶質材料が挙げられる。具体的な材料としては、Co、Cr、Taのいずれか単体、或いはこれらの合金材料等が挙げられる。
また、第1の下地層上に形成される第2の下地層としては、六方細密充填(hcp)結晶構造を有する非磁性金属材料からなり、該第2の下地層の上に形成される垂直磁気記録層の垂直配向と微細化を促進する作用を備える。この第2の下地層の具体的な材料としては、例えばルテニウム(Ru)又はルテニウム(Ru)合金材料等が好ましく挙げられる。このようなRu又はRu合金の場合、hcp結晶構造を備える例えばCoPt系垂直磁気記録層の結晶軸(c軸)を垂直方向に配向するよう制御する作用が高く、hcp結晶構造が微細かつ均一に成長できるため好適である。
【0022】
このような非磁性下地層の膜厚は、第1の下地層については1〜10nm、第2の下地層については3〜30nmがそれぞれ好適である。また非磁性下地層の総膜厚としては、5〜30nmの範囲が好適である。非磁性下地層の総膜厚が5nm未満の場合、垂直磁気記録層の結晶配向と微細化を制御する作用が十分に得られない場合がある。また30nmを超えると、垂直磁気記録層を構成する磁性結晶粒子のサイズが増大し、ノイズを増大させ、出力が低くなるため好ましくない。
【0023】
本発明において、垂直磁気記録層50はCo系強磁性材料からなる垂直磁気記録層であることが好ましい。さらに、この垂直磁気記録層の結晶構造はhcp結晶構造であることが好ましい。垂直磁気記録層にhcp結晶構造からなるCo系磁性層を用いた場合、hcp結晶構造のc軸を基板面に対し垂直配向させることにより、垂直磁気記録層の磁化容易軸を垂直配向させることができるからである。
【0024】
本発明における垂直磁気記録層は、特にCoPt系垂直磁気記録層であることが好ましい。CoPt系垂直磁気記録層は保磁力Hcが高く、磁化反転核生成磁界Hnをゼロ未満の小さな値とすることができるので熱揺らぎに対する耐性を向上させることが出来るので好適である。
なお、本発明の垂直磁気記録層において、Ptの含有量は10at%〜25at%であることが好ましく、特に12at%〜20at%であることが望ましい。Ptの含有量が10at%未満では異方性磁界Hkが低くなり、熱揺らぎ耐性が低下するので好ましくなく、また、25at%を超えると非磁性下地層の結晶構造との積層欠陥が発生する場合があるので好ましくない。
【0025】
特に、B、Nb、Zr、Hfの少なくとも一種の元素を含有する場合においては、垂直磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化させる作用があるので高記録密度化に好適である。また、本発明の垂直磁気記録層において、B、Nb、Zr及びHfから選択された少なくとも一種の元素の含有量は、1at%〜20at%であることが好ましく、特に1at%〜10at%であることが望ましい。これらの元素の含有量が1at%未満では磁性結晶粒子を微細化させる作用が低下するため好ましくなく、また、20at%を越えると垂直磁気記録層の垂直配向性が低下する場合があるので好ましくない。
【0026】
また、本発明においては、垂直磁気記録層にCrを含有させることも好ましい。垂直磁気記録層にCrを含有させることにより、磁性結晶粒子の粒界部分にCrを偏析させることができるので、磁性粒子間に好適なCrによる粒界部分を形成せしめて、磁性結晶粒子間の磁気的相互作用を抑制して高記録密度化に資することができる。
垂直磁気記録層にCrを含有させる場合においては、その含有量は、10at%〜25at%とするのが好適であり、更には13at%〜22at%とするのが望ましい。Crの含有量が上記の範囲内であると、磁性結晶粒子間に好適な粒界を形成し易くなる。なお、Crの含有量が25at%を越えると、異方性磁界Hkの低下による熱揺らぎ耐性の低下が見られる場合があり、好ましくない。
【0027】
また、垂直磁気記録層にケイ素の酸化物(例えばSiOなど)を含有させることも好ましい。垂直磁気記録層にケイ素の酸化物を含有させることにより、所謂グラニュラー構造を含有する磁性層とすることができ、磁性粒子間に好適なケイ素酸化物による粒界部分を形成せしめて、磁性結晶粒子間の磁気的相互作用を遮断又は抑制して、S/N比を向上でき、高記録密度化に資することができる。尚、磁性結晶粒子間に好適な粒界を形成し易くする観点からは、ケイ素酸化物の含有量は、例えば1〜15mol%とするのが好適である。
【0028】
垂直磁気記録層50の上に保護層60を設けることが好適である。保護層を設けることにより、磁気ディスク上を浮上飛行する磁気記録ヘッドから磁気ディスク表面を保護することができる。保護層の材料としては、たとえば炭素系保護層が好適である。また、保護層の膜厚は3nm〜7nm程度が好適である。
上記保護層60上に、更に潤滑層70を設けることが好ましい。潤滑層を設けることにより、磁気記録ヘッドと磁気ディスク間の磨耗を抑止でき、磁気ディスクの耐久性を向上させることができる。潤滑層の材料としては、たとえばパーフロロポリエーテル系が好ましい。また、潤滑層の膜厚は0.5nm〜1.5nm程度が好適である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
(実施例1)
アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作成した。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のガラス基板を得た。このガラス基板の大きさは27.4mm(1インチディスク用)、板厚は0.381mmである。
このガラス基板の主表面の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定したところ、Rmaxが4.8nm、Raが0.42nmという平滑な表面形状であった。なお、Rmax及びRaは、日本工業規格(JIS)に従った。
得られたガラス基板上に、真空引きを行なった枚葉・静止対向型成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にて、アルゴン(Ar)雰囲気中で、付着層、軟磁性層を順次成膜した。
【0030】
付着層は20nmのCrTi(Cr:55at%、Ti:45at%)合金層となるように、CrTiターゲットを用いて成膜した。
また、軟磁性層は全厚50nmの非晶質のCoZrTa(Co:88at%、Zr:5at%、Ta:7at%)合金層となるように、CoZrTaターゲットを用いて成膜した。このCoZrTa合金は軟磁気特性を示す軟磁性体である。なお、軟磁性層成膜時の基板、ターゲット、磁石の位置関係は前述の図5に示すとおりとし、基板を挟む表裏の軟磁性層の磁化容易軸の方向を略180°異なるようにするため、軟磁性層のスパッタ成膜中の磁界の向きを表裏で反平行にして成膜した。
【0031】
このようにしてガラス基板上に軟磁性層までを成膜して得られたディスクの表面粗さをAFMで同様に測定したところ、Rmaxが5.1nm、Raが0.48nmという平滑な表面形状であった。
また、VSM(振動試料型磁化測定装置)で得られたディスクの磁気特性を測定したところ、保磁力(Hc)は2エルステッド(Oe)、飽和磁束密度は810emu/ccであり、好適な軟磁性特性を示していた。
上で得られたディスクを、引き続き真空引きを行なった成膜装置内で、DCマグネトロンスパッタリング法にて、Ar雰囲気中で、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層を順次成膜した。
【0032】
非磁性下地層は、先ず第1の下地層として、非晶質のTa層が8nmの厚さに形成されるように、Taターゲットを用いて成膜した。引続いて第2の下地層として、Ru層が25nmの厚さに形成されるように、Ruターゲットを用いて成膜した。
【0033】
次に、この非磁性下地層まで形成したディスク基板上に、SiOを含有するCoCrPt合金からなる硬磁性体のターゲットを用いて、20nmのhcp結晶構造からなる垂直磁気記録層が形成されるように成膜した。該垂直磁気記録層を形成するためのターゲットの組成は、Co:62at%、Cr:10at%、Pt:16at%、SiO:12at%の合金材料である。
次いで、Arに水素を30%含有させた混合ガスを用いて、カーボンターゲットをスパッタリングすることにより、水素化炭素からなる保護層6(膜厚5nm)を形成した。水素化炭素とすることにより、膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対して垂直磁気記録層を好適に防護することができる。
この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)からなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmである。
以上の製造工程により、本実施例の垂直磁気記録ディスクが得られた。
【0034】
得られた垂直磁気記録ディスクの垂直磁気記録層の結晶配向性をX線回折法にて分析したところ、hcp結晶構造を備え、また、結晶軸(c軸)が基板面に対して垂直方向に良好に配向していることを確認した。
また、得られた垂直磁気記録ディスクの垂直磁気記録層を透過型電子顕微鏡(TEM)で分析したところ、Coを含有するhcp結晶構造の結晶粒子の間にSiの酸化物からなる粒界部分が形成されたグラニュラー構造を備えていることがわかった。
【0035】
次に、得られた本実施例の垂直磁気記録ディスクの磁気特性をVSMで評価したところ、保磁力(Hc)は4200エルステッド、角型比(残留磁化(Mr)/飽和磁化(Ms))は1.0、磁化反転核生成磁界(Hn)は−1000エルステッドという、好適な磁気特性を示した。さらに、MH曲線の傾きは、1.2/4πという好適な磁気特性を示した。
なお、磁気特性としては、保磁力、角型比は数値が高ければ高い程好ましく、磁化反転核生成磁界は0未満のなるべく小さい値であるほど好ましい。また、MH曲線の傾きは、1.0/4πに近ければ近いほど好ましい。理論上、1.0/4πであれば、磁気的相互作用が抑制され実質的に作用していないと考えられるからである。
【0036】
さらに、得られた垂直磁気記録ディスクの電磁変換特性を測定したところ、S/N比は25.8dBであり、本実施例のような小径、薄板ディスクであっても、記録密度が100Gbit/inch以上の磁気ディスクにとって好適な結果が得られた。
なお、電磁変換特性は以下のようにして測定した。
R/Wアナライザー(GUZIK)と、記録側がSPT素子、再生側がGMR素子を備える垂直磁気記録方式用磁気ヘッドとを用いて、780kfciの記録密度で測定した。このとき、磁気ヘッドの浮上量は12nmであった。
また、熱揺らぎ測定についても行なったが、障害は確認されなかった。
【0037】
(比較例)
実施例1における軟磁性層成膜を、成膜中の磁界の向きが表裏で同じ向き且つ平行にして成膜した。その結果、基板を挟む表裏の軟磁性層の磁化容易軸の方向は同方向であった。
このように軟磁性層の成膜方法が異なる点以外は実施例1と同様の製造方法により垂直磁気記録ディスクを得た。
得られた垂直磁気記録ディスクについて実施例1と同様に分析評価した。
【0038】
得られた本比較例による垂直磁気記録ディスクの垂直磁気記録層の結晶配向性をX線回折法にて分析したところ、hcp結晶構造を備え、また、結晶軸(c軸)が基板面に対して垂直方向に配向していることを確認した。
また、得られた垂直磁気記録ディスクの垂直磁気記録層を透過型電子顕微鏡(TEM)で分析したところ、Coを含有するhcp結晶構造の結晶粒子の間にSiの酸化物からなる粒界部分が形成されたグラニュラー構造を備えていることがわかった。
【0039】
また、本比較例の垂直磁気記録ディスクの磁気特性をVSMで評価したところ、保磁力(Hc)は4100エルステッド、角型比(残留磁化(Mr)/飽和磁化(Ms))は1.0、磁化反転核生成磁界(Hn)は−950エルステッドという磁気特性を示した。さらに、MH曲線の傾きは、1.3/4πという磁気特性を示した。
さらに、垂直磁気記録ディスクの電磁変換特性を測定したところ、S/N比は21.5dBであり、小径、薄板ディスクにおいて、記録密度が100Gbit/inch以上の高記録密度化を実現するにはS/N比が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態に係る媒体基板の表裏の軟磁性層の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る垂直磁気記録ディスクの層構成を示す断面図である。
【図3】従来例に係る媒体基板の表裏の軟磁性層の構成を示す断面図である。
【図4】軟磁性層成膜時のターゲット、磁石の位置関係を示すもので、(a)は側面図、(b)は磁石の配置を示した正面図である。
【図5】軟磁性層成膜時の基板、ターゲット、磁石の位置関係を示すもので、(a)は側面図、(b)は基板の配置と磁場方向の関係を示した正面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 基板
20 付着層
30 軟磁性層
40 下地層
50 垂直磁気記録層
60 保護層
70 潤滑層
80 ステージ
90 磁石
100 ターゲット
110 基板ホルダー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板の主表面上に、少なくとも軟磁性層と垂直磁気記録層とが順次形成された垂直磁気記録媒体であって、
前記非磁性基板を上下に挟む前記軟磁性層のそれぞれの磁化容易軸の方向が、膜面に平行で、且つ、前記非磁性基板を挟んで互いに略180°異なり、相互に磁気的に結合していることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記軟磁性層が、非磁性層を挟む複数の層からなることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記軟磁性層における前記非磁性層を上下に挟む各軟磁性層のそれぞれの磁化容易軸の方向が、前記非磁性層を挟んで互いに略180°異なり、相互に磁気的に結合していることを特徴とする請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記非磁性基板はディスク状であって、前記軟磁性層の磁化容易軸の方向が前記基板の略半径方向であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記非磁性基板はディスク状であって、前記軟磁性層の磁化容易軸の方向がランダムであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記軟磁性層は、コバルト(Co)と鉄(Fe)の少なくとも一方の元素を含む非晶質合金材料からなることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記非磁性基板の厚みが、0.4mm以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記垂直磁気記録層は、グラニュラー構造を含有するコバルト(Co)系強磁性材料からなることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一に記載の垂直磁気記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−102833(P2007−102833A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287867(P2005−287867)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】