説明

垂直記録ディスクリートトラックメディアおよびそのサーボパターン磁化方法

【課題】サーボ信号再生時の強度変更および波形整形の必要性の排除、ヘッド位置決めの精度の向上、ならびにトラック記録密度の向上を達成するための、両振幅のサーボ信号を有するサーボパターン磁化方法の提供。
【解決手段】マスターディスクを用いる垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボパターン磁化方法であって、マスターディスクにサーボパターンに対応する位置に設けられた軟磁性層からの漏れ磁界によって、サーボ領域に、基板に垂直で、かつ反対向きの2種の磁化の組からなるサーボ信号を転写する工程を含むことを特徴とするサーボパターン磁化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直記録ディスクリートトラックメディアおよびそのサーボパターン磁化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1997年以降、HDDの記録密度は年率60〜100%の割合で急速に増加してきた。このような著しい成長の結果、これまで用いられてきた面内記録方式が高密度化の限界に近づこうとしている。このような状況から、近年、高密度化が可能な垂直記録方式が注目を浴び、盛んにその研究開発がなされてきた。そしていよいよ2005年より、一部の機種で垂直記録方式を採用したHDDの製品化が始まっている。
【0003】
垂直磁気記録媒体は、主に、硬質磁性材料の磁気記録層と、磁気記録層を目的の方向に配向させるための下地層、磁気記録層の表面を保護する保護膜、および磁気記録層への記録に用いられる磁気ヘッドが発生する磁束を集中させる役割を担う軟磁性層から構成される。
【0004】
垂直磁気記録媒体のさらなる記録密度向上を目的として、複数の記録トラックを磁気的に分離したディスクリートトラックメディアの研究開発がなされてきている。図6(a)に、従来技術のディスクリートトラックメディアの模式的上面図を示す。ディスクリートトラックメディア500は、データを記録するための複数の記録トラックを有する記録領域510と、該各トラックの幅方向位置を検出するためのサーボパターンを有するサーボ領域520とからなるセクタ530が、ディスク状の基板上にその円周方向を分割して複数形成されてなる。図6(b)は、ディスクリートトラックメディアのセクタ530の一部の領域540を拡大および直線状に伸ばし、記録領域510およびサーボ領域520の構造を例示する図である。記録領域510内の複数の記録トラック512、ならびにサーボ領域520において各トラックの位置情報を担持する複数のサーボブロック522のそれぞれは、物理的凹凸として形成されている。ここで、複数のトラック512および複数のサーボブロック522は、リソグラフィ技術を用いて磁気記録層をエッチングすることによって形成されている。複数のトラック512のそれぞれは、メディア中心から等距離に位置するトラック512が一緒になって、同心円状のトラック514を形成している。複数のトラック512のそれぞれは、隣接するトラック512との間に存在する物理的凹凸によって、隣接するトラック512と磁気的に分離されており、それらの間の磁気的干渉が緩和されている。
【0005】
従来技術のディスクリートトラックメディアに対するサーボパターン磁化方法の例を図7に示す。ディスクリートトラックメディアは、一般に、非磁性基板610、軟磁性層620および複数の部分に分割された磁気記録層630を少なくとも含む構造を有する。サーボパターンの磁化は、図7(a)に示すように、基板垂直方向の磁界を付与する単磁極ヘッド550(ここで、S極がディスクリートトラックメディアに対向する例を示した)を、ディスクリートトラックメディアの磁気記録層630の近傍に配置し、周方向(トラック方向)に移動させる。この工程によって得られる磁化を図7(b)に示す。磁気記録層630s(サーボブロック522)および630r(トラック512)の両方に、基板垂直方向の一方(ここでは上向き)の磁化が付与される。
【0006】
次いで、ディスクリートトラックメディアに対する情報記録の工程は、図7(c)に示すように、単磁極ヘッド560を用いて情報に応じた垂直方向磁化(上向きおよび下向きの両方向)を磁気記録層630r(トラック512)に付与することによって実施される。次いで、再生用ヘッドを用いて、磁気記録層630の磁化を読み出した際の信号を図7(d)に示す。図7(d)に明確に示されるように、記録領域510のデータ信号が両振幅であるのに対して、サーボ領域520のサーボ信号は片振幅となる。
【0007】
サーボ信号が片振幅である場合、信号強度が半分以下となる。その結果として、ヘッド位置決めの精度が劣化し、トラック記録密度を高めることが困難となる。また、データ信号が両振幅であるため、サーボ信号を読み出す場合およびデータ信号を読み出す場合に応じて信号強度の変更および/または波形整形を行う必要がある。
【0008】
この問題に対して、サーボゾーン内に配置するサーボパターン(位置検出マーク)を、複数ビット分を記録することができる磁気記録ブロック領域から構成し、該磁気記録ブロック領域に両振幅のサーボ信号(磁化反転信号)を記録する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、サーボ信号領域に、保磁力の異なる2種の領域を有する垂直磁気記録層を用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では、最初に充分な強度の垂直磁界を印加して垂直磁気記録層内の2種の領域を一方向に磁化する。次いで、2種の領域の一方の磁化のみを反転させる程度の強度の反対方向の垂直磁界を印加して、2種の領域の一方の磁化のみを反転させ、両振幅のサーボ信号を記録したサーボ信号領域を形成している。
【0009】
また、2層の磁気記録層を有する長手方向磁気記録媒体において、サーボパターン(位置検出マーク)に相当する部分に軟磁性層を有するマスターディスクを用い、軟磁性層への磁束集中による長手方向の磁界強度の変化により、2層の磁気記録層のそれぞれに対する転写によるサーボパターンの形成が提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2004−110896号公報
【特許文献2】特開2003−016623号公報
【特許文献3】特開2003−162815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、より簡便な工程を用いて、両振幅のサーボ信号を含むサーボパターンの磁化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアは、
複数の記録トラックを有する記録領域と、該各トラックの幅方向位置を検出するためのサーボ信号を記録する複数のサーボ領域とを備え、
該複数のトラックのそれぞれは、基板上に他のトラックから分離して形成された軟磁性層と、軟磁性層上に他のトラックから分離して形成され、基板表面と垂直方向の磁化容易軸を有する磁気記録層とを含み、
該サーボ領域は、基板上に一体の連続層として形成されている軟磁性層と、軟磁性層上に一体の連続層として形成され、基板表面と垂直方向の磁化容易軸を有する磁気記録層とを含み、
該サーボ領域に、基板に垂直で、かつ反対向きの2種の磁化を有する複数の組からなるサーボ信号が記録されることを特徴とする。
【0013】
本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボパターン磁化方法は、
複数の記録トラックを有する記録領域と、各トラックの幅方向位置を検出するためのサーボ信号を記録するサーボ領域とを備える垂直記録ディスクリートトラックメディアであって、該複数のトラックのそれぞれは、基板上に他のトラックから分離して形成された軟磁性層と、軟磁性層上に他のトラックから分離して形成され、基板表面と垂直方向の磁化容易軸を有する磁気記録層とを含み、該サーボ領域は、基板上に一体の連続層として形成されている軟磁性層と、軟磁性層上に一体の連続層として形成され、基板表面と垂直方向の磁化容易軸を有する磁気記録層とを含む垂直記録ディスクリートトラックメディアを準備する工程と、
支持体と、支持体に軟磁性層からなるサーボパターンが埋め込まれたサーボパターン埋め込み領域を有するマスターディスクであって、該サーボパターン埋め込み領域は、垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボ領域に対応する位置に形成され、かつサーボ信号を記録すべき位置において支持体にサーボパターンに形成されて埋め込まれた軟磁性層を含むマスターディスクを準備する工程と、
マスターディスクの上から磁界を印加して、軟磁性層からの漏れ磁界によって垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボ領域にサーボパターンを転写することによりサーボ信号を記録する工程と
を含み、サーボ信号は、基板に垂直で、かつ反対向きの2種の磁化を有する複数の組からなることを特徴とする。ここで、印加する磁界は、トラックの延びる方向への一様磁界であることが望ましい。また、サーボパターン埋め込み領域は、対応する位置のサーボ領域の幅の80%以上の幅を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上のような構成において、マスターディスクのサーボパターン埋め込み領域の軟磁性層のパターンを、垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボ領域に転写することによって、サーボ領域に両振幅のサーボ信号を記録することが可能となる。これによって、サーボ信号を再生する際の強度変更および波形整形の必要を排除することが可能となる。また、本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアは、ヘッド位置決めの精度の向上、ならびにトラック記録密度の向上というさらなる効果を奏するものである。さらに、サーボパターンの転写、すなわち両振幅のサーボ信号の記録を、円周方向の一様磁界を印加する単一の工程で効率的に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1(a)に、本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアの模式的上面図を示す。本発明の実施形態の垂直記録ディスクリートトラックメディア100は、複数の記録トラックを有する記録領域120と、該各トラックの幅方向位置を検出するためのサーボ信号を記録するサーボ領域110とからなるセクタ130が、ディスク状の基板上にその円周方向を分割して複数形成されてなる。図1(b)は、セクタ130の一部の領域140を拡大し、かつ直線状に伸ばして、記録領域120およびサーボ領域110の構造を例示する図である。本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアの断面構造を、図2に示す。図2(a)は1つのトラックに相当する位置の円周に沿った断面図であり、図2(b)は切断線2b−2bにおける断面図であり、および図2(c)は切断線2c−2cにおける断面図である。
【0016】
本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアの複数の記録領域120のそれぞれは、複数のトラック122を含む。メディア中心から等距離に位置する複数のトラック122が一緒になって、同心円状のトラック114を形成している。複数のトラック122のそれぞれは、基板10上に他のトラックから独立して形成される軟磁性層20rおよび他のトラックから独立して形成される磁気記録層30rから構成される。すなわち、1つのトラック122を構成する軟磁性層20rおよび磁気記録層30rは、同一記録領域内の隣接するセクタ122の磁気記録層とは分離して形成され、かつ隣接する記録領域内の同一トラックを形成するトラック122とはサーボ領域110によって離間されている。
【0017】
本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアの複数のサーボ領域110のそれぞれは、基板10上に一体の連続層として形成される軟磁性層20s、および一体の連続層として形成される磁気記録層30sから構成される。すなわち、複数のサーボ領域110のそれぞれは、基板に垂直で、かつ反対向きの2種の方向の磁化の組から構成される複数のサーボ信号を記録する。
【0018】
基板10は、非磁性であり、かつ平坦な表面を有する。基板10は、当該技術において知られている任意の材料を用いて形成することができる。たとえば、磁気記録媒体用に用いられる、NiPメッキを施したAl合金または強化ガラス、結晶化ガラスを用いて、基板10を形成することができる。
【0019】
軟磁性層20(r,s)は、FeTaC、センダスト(FeSiAl)合金などの結晶性材料;FeTaC、CoFeNi、CoNiPなどの微結晶性材料;またはCoZrNb、CoTaZrなどのCo合金を含む非晶質材料を用いて形成することができる。軟磁性層20(r,s)の膜厚は、記録に使用する磁気ヘッドの構造や特性によって最適値が変化するが、おおむね10nm以上500nm以下程度であることが、生産性との兼ね合いから望ましい。軟磁性層20(r,s)と基板との間に、Ti、またはTiCr合金のようなCrを含む非磁性材料を用いて形成される非磁性下地層を設けてもよい。
【0020】
磁気記録層30(r,s)は、好適には、少なくともCoとPtを含む合金の強磁性材料を用いて形成することができる。また、垂直磁気記録を行うためのディスクリートトラックメディアを得るためには、磁気記録層30(r,s)の材料の磁化容易軸(六方最密充填(hcp)構造のc軸)が基板10表面に垂直方向に配向していることが必要である。磁気記録層30(r,s)は、たとえばCoPt、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTaなどの合金材料を用いて形成することができる。磁気記録層30(r,s)の膜厚は、特に限定されるものではない。しかしながら、生産性および記録密度向上の観点から、磁気記録層30(r,s)は、好ましくは30nm以下、より好ましくは15nm以下の膜厚を有する。
【0021】
また、任意選択的に、軟磁性層20と磁気記録層30(r,s)との間にシード層を設けて、磁気記録層材料の結晶配向性を向上させてもよい。シード層は、NiFeAl、NiFeSi、NiFeNb、NiFeB、NiFeNbB、NiFeMo、NiFeCrなどのようなパーマロイ系材料;CoNiFe、CoNiFeSi、CoNiFeB、CoNiFeNbなどのようなパーマロイ系材料にCoをさらに添加した材料;Co;あるいはCoB,CoSi,CoNi,CoFeなどのCo基合金を用いて形成することができる。シード層は、磁気記録層30(r,s)の結晶構造を制御するのに充分な膜厚を有することが望ましく、通常の場合、3nm以上50nm以下の膜厚を有することが望ましい。
【0022】
軟磁性層20、磁気記録層30(r,s)、ならびに任意選択的な非磁性下地層およびシード層の形成は、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法など当該技術において知られている任意の方法を用いて実施することができる。
【0023】
複数のトラック122を形成するためのパターニングは、フォトリソグラフィ法を利用して実施することができる。たとえば、レジストを用いて所要のパターンを有するマスクを形成し、湿式エッチング、スパッタエッチング、プラズマエッチング、反応性イオンエッチングなど当該技術において知られている任意の手段を用いて、軟磁性層20、磁気記録層30(r,s)、ならびに任意選択的な非磁性下地層およびシード層をエッチングしてもよい。エッチングの終了後、溶媒による洗浄、プラズマアッシングなどによってマスクを除去して、複数のセクタ122を得ることができる。
【0024】
任意選択的に、磁気記録層30(r,s)の上に保護層および/または液体潤滑剤層を設けてもよい。保護層は、磁気記録層30(r,s)以下の各構成層を保護するための層であり、たとえば、カーボンを主成分とする薄膜を用いることができる。その他にも、当該技術において磁気記録媒体保護膜用の材料として知られている種々の薄膜材料を使用して、保護層を形成してもよい。保護層は、一般的にスパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法、CVD法などを用いて形成することができる。また、液体潤滑剤層は、記録/読み出し用ヘッドが垂直記録ディスクリートトラックメディアに接触している際の潤滑を付与するための層であり、たとえば、パーフルオロポリエーテル系の液体潤滑剤、または当該技術において知られている種々の液体潤滑剤材料を使用して形成することができる。液体潤滑剤層は、ディップコート法、スピンコート法などの当該技術において知られている任意の塗布方法を用いて形成することができる。
【0025】
次に、本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアの複数のサーボ領域110に記録領域120内のトラック122の位置情報(たとえば、トラック122の属するセクタ130を示す情報、該セクタ130内でのトラック122の位置を示す情報など)を示すためのサーボ信号を記録する際に用いる、マスターディスク200を説明する。図3(a)に示すように実施形態のマスターディスク200は、ディスクリートトラックメディア100の複数のサーボ領域110に相当する位置の複数のサーボパターン埋め込み領域210と、該複数のサーボパターン埋め込み領域210を離間する空き領域220とを有する。すなわち、マスターディスクは、ディスクリートトラックメディア100の複数のサーボ領域110の数と同数のサーボパターン埋め込み領域210を有する。本発明において、複数のサーボパターン埋め込み領域210のそれぞれは、対応するサーボ領域110より狭い幅を有することが望ましい。好ましくは、サーボパターン埋め込み領域210の幅は、対応するサーボ領域110の幅の80%以上であることが望ましい。振幅倍増により、サーボ帯域が約25%増加するので、その分有効サンプリングレートも25%増加可能となる。したがって上記ロス領域が20%あっても、従来方式以上のサーボ信号密度を維持できる。
【0026】
図3(b)に示すように、複数のサーボパターン埋め込み領域210のそれぞれは、複数のサーボ信号を記録すべき位置に配置されたサーボパターン212を有する。
【0027】
図3(c)は、図3(b)の切断線3c−3cにおける断面図を示す。マスターディスク200は、支持体40と、支持体40に埋め込まれた複数の軟磁性層42とで構成される。複数の軟磁性層42は、サーボパターン埋め込み領域内に存在して、サーボパターン212を構成する。空き領域220には軟磁性層42は存在しない。
【0028】
支持体40は、任意の非磁性材料(たとえばSi(単結晶Siを含む)、Al合金、ガラス類(強化ガラス、結晶化ガラスを含む)など)を用いて形成することができる。複数の軟磁性層42のそれぞれは、CoZrNb、CoTaZrなどのCo合金を含む非晶質材料;FeTaC、センダスト(FeSiAl)合金などの結晶性材料;またはFeTaC、CoFeNi、CoNiPなどの微結晶性材料などの軟磁性材料を用いて形成することができる。
【0029】
マスターディスク200は、当該技術において知られている任意の手段を用いて作製することができる。たとえば、支持体40の上にサーボパターン212に対応する開口部を有するレジストマスクを形成する工程と、支持体をエッチングして、サーボパターン212に対応する位置に凹部を形成する工程と、軟磁性材料を堆積させる工程と、レジストマスクを除去して、該凹部のみに軟磁性材料を残す工程とを含む方法を用いてマスターディスク200を作製してもよい。
【0030】
次に、マスターディスク200を用いて、垂直記録ディスクリートトラックメディア100のサーボ領域110にサーボ信号を記録する、本発明のサーボパターン磁化方法を説明する。最初に、図4(a)に示すように、垂直記録ディスクリートトラックメディア100を、マスターディスク200と対向させて配置する。この際に、マスターディスク200の対応する複数のサーボパターン埋め込み領域210のそれぞれが、垂直記録ディスクリートトラックメディア100の対応するサーボ領域110の範囲内に収まるように、サーボパターン埋め込み領域210とサーボ領域110とを対向させて配置する。この際に記録領域120は空き領域220と対向して配置される。
【0031】
次に、マスターディスク200の直上に、メディア円周方向(すなわち、トラック122の延びる方向)の磁界を発生させるリング磁石50を配置し、リング磁石50をメディアに対して相対的に移動させる。ここで、リング磁石50を固定してメディアを回転させてもよいし、あるいはメディアを固定して、リング磁石50を円周方向に移動させてもよい。サーボパターン埋め込み領域210(サーボ領域110)において軟磁性層42が不連続に存在するため、軟磁性層42が存在する部分において、リング磁石50の発生する磁束52は、高い透磁率を有する軟磁性層42に集中する。その際に、軟磁性層42の両エッジ部近傍の磁気記録層において、磁束の集中によって垂直成分を有する漏れ磁界が発生する。図4(a)では、リング磁石50によって右向きの磁界を発生させたため、軟磁性層42の左エッジ近傍の磁気記録層30s中に下方向の漏れ磁界が発生し、右エッジ近傍に上方向の漏れ磁界が発生する。この漏れ磁界によって、図4(b)に示すように、磁気記録層30s中に、基板に垂直で、かつ反対向きの2種の方向の磁化の組から構成される複数のサーボ信号が記録され、サーボパターンが形成される。なお、空き領域220には軟磁性層42が存在しないので、記録領域120内の複数のトラック122には信号が記録されない。サーボパターン形成後、マスターディスクは、垂直記録ディスクリートトラックメディア100から除去される。
【0032】
前述のようにサーボパターンを記録した垂直記録ディスクリートトラックメディアの記録/再生を、図5を用いて説明する。図5(a)に示すように、単磁極ヘッド60を用いて、記録すべき情報にしたがって、記録領域120内のトラック122の磁気記録層30rに上向きおよび下向きの磁化を記録する。次いで、再生用ヘッド(GMRヘッドなど、不図示)によって再生されるサーボ領域110および記録領域120の信号を、図5(b)に示す。図5(b)から明らかなように、サーボ領域110および記録領域120の両方に両方向(上向きおよび下向き)の磁化が記録されているので、サーボ領域110からは両振幅のサーボ信号が得られ、記録領域120からは両振幅のデータ信号が得られる。両領域から両振幅の信号が得られることから、サーボ信号再生時およびデータ信号再生時において、強度変更および波形整形を実施する必要を排除することができる。したがって、本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアを用いることによって、ヘッド位置決めの精度を向上させること、およびトラック記録密度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の垂直記録ディスクリートトラックメディアの実施形態を示す図であり、(a)は上面図であり、(b)は記録領域およびサーボ領域を示す拡大図である。
【図2】本発明の図1に示す実施形態の垂直記録ディスクリートトラックメディアを示す断面図であり、(a)は円周に沿った断面図であり、(b)は切断線2b−2bで切断した断面図であり、(c)は切断線2c−2cで切断した断面図である。
【図3】本発明の図1に示す実施形態の垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボパターン磁化方法に使用されるマスターディスクを示す図であり、(a)は上面図であり、(b)は領域240を拡大および伸長した上面図であり、(c)は切断線3c−3cで切断した断面図である。
【図4】本発明の図1に示す実施形態の垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボパターン磁化方法の過程を示す図であり、(a)は磁化工程を示す図であり、(b)は得られるサーボパターンを示す図である。
【図5】本発明の図1に示す実施形態の垂直記録ディスクリートトラックメディアの記録/再生の過程を示す図であり、(a)は記録時を示す図であり、(b)は再生時を示す図である。
【図6】従来の垂直記録ディスクリートトラックメディアを示す図であり、(a)は上面図であり、(b)は記録領域およびサーボ領域を示す拡大図である。
【図7】従来の垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボパターン磁化方法の過程を示す図であり、(a)は磁化工程を示す図であり、(b)は得られるサーボパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10 基板
20(r,s)、42 軟磁性層
30(r,s) 磁気記録層
40 支持体
50 リング磁石
52 磁束
60 単磁極ヘッド
100 垂直記録ディスクリートトラックメディア
110 サーボ領域
114 同心円状のトラック
120 記録領域
122 各セクタの記録トラック
130 セクタ
200 マスターディスク
210 サーボパターン埋め込み領域
220 空き領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録トラックを有する記録領域と、該各トラックの幅方向位置を検出するためのサーボ信号を記録するサーボ領域とを備える垂直記録ディスクリートトラックメディアであって、
該複数のトラックのそれぞれは、基板上に他のトラックから分離して形成された軟磁性層と、軟磁性層上に他のトラックから分離して形成され、基板表面と垂直方向の磁化容易軸を有する磁気記録層とを含み、
該サーボ領域は、基板上に一体の連続層として形成されている軟磁性層と、軟磁性層上に一体の連続層として形成され、基板表面と垂直方向の磁化容易軸を有する磁気記録層とを含み、
該サーボ領域に、基板に垂直で、かつ反対向きの2種の磁化を有する複数の組からなるサーボ信号が記録されることを特徴とする垂直記録ディスクリートトラックメディア。
【請求項2】
複数の記録トラックを有する記録領域と、該各トラックの幅方向位置を検出するためのサーボ信号を記録する複数のサーボ領域とを備える垂直記録ディスクリートトラックメディアであって、該複数のトラックのそれぞれは、基板上に他のトラックから分離して形成された軟磁性層と、軟磁性層上に他のトラックから分離して形成され、基板表面と垂直方向の磁化容易軸を有する磁気記録層とを含み、該サーボ領域は、基板上に一体の連続層として形成されている軟磁性層と、軟磁性層上に一体の連続層として形成され、基板表面と垂直方向の磁化容易軸を有する磁気記録層とを含む垂直記録ディスクリートトラックメディアを準備する工程と、
支持体と、支持体に軟磁性層からなるサーボパターンが埋め込まれたサーボパターン埋め込み領域を有するマスターディスクであって、該サーボパターン埋め込み領域は、垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボ領域に対応する位置に形成され、かつサーボ信号を記録すべき位置において支持体にサーボパターンに形成されて埋め込まれた軟磁性層を含むマスターディスクを準備する工程と、
マスターディスクの上から磁界を印加して、軟磁性層からの漏れ磁界によって垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボ領域にサーボパターンを転写することによりサーボ信号を記録する工程と
を含み、サーボ信号は、基板に垂直で、かつ反対向きの2種の磁化を有する複数の組からなることを特徴とする垂直記録ディスクリートトラックメディアのサーボパターン磁化方法。
【請求項3】
印加する磁界は、トラックの延びる方向への一様磁界であることを特徴とする請求項2に記載のサーボパターン磁化方法。
【請求項4】
サーボパターン埋め込み領域は、対応する位置のサーボ領域の幅の80%以上の幅を有することを特徴とする請求項2に記載のサーボパターン磁化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−171490(P2008−171490A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2452(P2007−2452)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】