培養容器用スペーサ、該スペーサを備えた培養装置、該培養装置を用いた観察方法
【課題】特別な装置を使用することなく、一般の蓋体付きのマルチウエルプレートのような培養容器に適用するだけで、気相に含まれる対象物質が生体試料に与える影響をリアルタイムで観察して、信頼性よく評価でき、しかも対象物質の種類が限定されることのない培養容器用スペーサと、該スペーサを備えた培養装置、該培養装置を用いた観察方法の提供。
【解決手段】培養装置の培養容器本体21と、該培養容器本体21に被せられる蓋体22との間に装着され、培養容器本体21と蓋体22とを離間させつつ、気密に接続する培養容器用スペーサ10A。この培養容器用スペーサ10Aを備えた培養装置によれば、生体試料を培養しながら、培養装置内の気相に含まれる物質が生体試料に及ぼす影響をリアルタイムで観察できる。
【解決手段】培養装置の培養容器本体21と、該培養容器本体21に被せられる蓋体22との間に装着され、培養容器本体21と蓋体22とを離間させつつ、気密に接続する培養容器用スペーサ10A。この培養容器用スペーサ10Aを備えた培養装置によれば、生体試料を培養しながら、培養装置内の気相に含まれる物質が生体試料に及ぼす影響をリアルタイムで観察できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料の培養容器に装着される培養容器用スペーサ、該スペーサを備えた培養装置、該培養装置を用いた観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気化した有機溶媒、窒素酸化物、浮遊微粒子など、大気に含まれる物質が動物の呼吸器系などに影響を与え、病気を引き起こす可能性があることが指摘されている。一方、アロマテラピーや森林浴のように、精油などの揮発性物質や樹木が発散する物質を積極的に利用することにより、健康を増進しようとすることも広く行なわれている。
このように気相に含まれる物質は、生物に対して大きな影響を与える。そのため、このような物質(以下、対象物質という場合もある。)による影響をインビトロで観察し、評価する方法について検討されている。
【0003】
例えば、細胞を培養皿で培養する際に、対象物質を溶解させた培養液を添加することにより、通常のインビトロ法と同様に、対象物質の影響を観察したり、評価したりする方法がある。しかしながら、このような方法では、対象物質は液相に含まれた状態で添加され、気相に含まれた状態で添加されるものではないため、その対象物質が気相に含まれる場合の影響については、正確には評価できない。さらに、気相に存在する複数の対象物質を気相中と同じ濃度で培養液に溶解させ得るとは限らないため、この点でも、これらの対象物質が気相に含まれる場合の影響について、正確に観察して評価することは困難であった。
【0004】
そこで、対象物質が含まれる気相を実際に細胞に接触させることにより、対象物質が気相に含まれる場合の影響について、正確に観察し評価しようとすることも検討されている。
例えば、培養液を入れた培養皿を気相中で上下左右に動かすことで培養液から細胞を露出させ、それにより細胞と気相とを接触させ、その際の細胞の様子を観察して評価する方法が検討されている。ところが、液体は表面張力を有しているために、細胞を露出させた場合でも液が細胞上に残存しており、やはり正確な評価は困難であった。
また、培養液を取り除いた培養細胞を対象物質が含まれる気相中に置き、観察、評価する方法も検討されている。ところが、この方法では、培養液が除去された後、細胞の活性が持続する時間は限られるため、正確な評価は難しいという問題があった。
さらに、気体は透過し、液体は透過しない膜の上で細胞を培養することで、気相に含まれる対象物質の影響を観察、評価しようとする方法も検討されているが、このような特殊な膜の上では、培養自体が難しかった。
【0005】
そこで、細胞を培養しながら、対象物質が含まれる気相をその細胞に接触させることにより、気相に含まれる物質が細胞に与える影響をリアルタイムに観察して評価する方法が検討され、例えば特許文献1には特別な装置を用いる方法が開示されている。
また、細胞を培養しながら、対象物質が含まれる気相をその細胞に接触させることのできる装置も市販されている(例えば、柴田科学株式会社、細胞ばく露実験装置「SIS−CUL」)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−101897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、細胞を支持する支持体、細胞に培養液を供給するための培養液収容槽、対象物質を含む気体収容部、水貯留部などを具備した特別な装置を使用する必要があり、簡便に観察や評価を行えるものではなかった。
また、先に例示した市販の細胞ばく露実験装置は、上部には不透明な蓋体が被せられた構成であり、さらには、下部にウォーターバスが設けられ、顕微鏡のレンズから細胞までの距離がレンズのワーキングディスタンスと比較してはるかに長いことから、リアルタイムでの顕微鏡観察は困難であった。
【0008】
また、例えば図17に示すような蓋体51付きのマルチウエルプレート50を応用する方法も考えられる。このマルチウエルプレート50は、6つのウエル(2×3)が形成されている6穴タイプの市販のものであって、透明プラスチック製である。
具体的には、生体試料60をウエルW内の培地61上に配置した後、マルチウエルプレート50に蓋体51を被せる。ここで蓋体51には、気体を供給するための気体供給口52と気体を排出するための気体排出口53とをあらかじめ形成しておく。そして、この蓋体51をマルチウエルプレート50に被せた後、対象物質を含む気体を気体供給口52からマルチウエルプレート50内に供給し、気体排出口53から排出する。そして、その際の生体試料60の様子について、顕微鏡などで観察し評価する。
このような方法によれば、供給された気体によりマルチウエルプレート50内の空間が置換され、生体試料60と気体とが接触し、気体に含まれる対象物質が生体試料60に与える影響をインビトロでリアルタイムに観察し、評価できるものと期待される。
【0009】
ところが、このような一般の蓋体51付きのマルチウエルプレート50では、蓋体51を被せた場合には、図17(b)に示すように、マルチウエルプレート50と蓋体51との間には、ほとんど隙間は形成されない。
よって、マルチウエルプレート50内に気体供給口52から気体を供給したとしても、ウエルW間の気体の移動が困難なため、供給された気体は各ウエルW内の空間を十分には置換することなく、主にマルチウエルプレート50の周囲における、マルチウエルプレート50と蓋体51との間のわずかな隙間から漏出してしまう。また、このような隙間からの気体の漏出を防ぐために、マルチウエルプレート50と蓋体51との間をパッキンなどで密封したとしても、マルチウエルプレート50と蓋体51との間に隙間が無い状態には変わりがないため、ウエルW間の気体の移動はやはり困難であった。そのため、気体の供給速度を上げると容器内圧が上昇し、容器内の温度、湿度が変化してしまうという問題や、このような気圧変化が生体試料60に影響してしまうという問題があった。また、気体供給口52に減圧手段を接続して、吸引法によりマルチウエルプレート50内の空気を置換する方法でも、気体の吸引速度を上げると容器内圧が低下し、やはり同様の問題が生じた。
【0010】
すなわち、このような市販の蓋体51付きのマルチウエルプレート50を単に応用した方法では、マルチウエルプレート50内に気体を短時間で効率よく拡散させ、置換することはできない。そのため、各ウエルW内の空間を十分に置換し、ウエルWに配置された生体試料60に気体を接触させるまでには、気体の供給を開始した時点から長時間を要し、気体に含まれる対象物質の影響をリアルタイムで観察することは難しい。また、ウエルW内の空間が十分に置換されるのに要する時間は、各ウエルWごとに異なってくるため、たとえ評価を行ったとしても、ウエルW間で得られるデータのばらつきは大きく、信頼性の高い評価はできない。
また、市販の蓋体51付きのマルチウエルプレート50では、上述したように、供給された気体は蓋体51とマルチウエルプレート50との隙間から大気中に漏洩してしまう。したがって、供給可能な気体の種類は限定され、例えば毒性のある物質を含む気体などを供給することは困難である。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、特別な装置を使用することなく、一般の蓋体付きのマルチウエルプレートのような培養容器に適用するだけで、気相に含まれる対象物質が生体試料に与える影響をリアルタイムで観察して、信頼性よく評価でき、しかも対象物質の種類が限定されることのない培養容器用スペーサと、該スペーサを備えた培養装置、該培養装置を用いた観察方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の培養容器用スペーサは、培養装置の培養容器本体と、該培養容器本体に被せられる蓋体との間に装着され、前記培養容器本体と前記蓋体とを離間させるとともに、気密に接続することを特徴とする。
培養装置の内側と外側とを連通する開口部が少なくとも1つ形成されていることが好ましい。
本発明の培養容器用スペーサとしては、複数のウエルが形成された培養容器本体に対して装着される形態が挙げられる。
その場合、前記培養容器用スペーサは、各ウエルに対応する複数の孔が形成された中板部を備え、前記装着の際には、各孔の周縁部と各ウエルの開口周縁部とが密着するものである形態が好ましい。
また、ウエル同士を隔てる隔離手段を備えたものである形態も好ましい。
本発明の培養装置は、前記培養容器本体と、前記蓋体と、前記培養容器本体と前記蓋体との間に装着された前記培養容器用スペーサとを備えたことを特徴とする。
本発明の生体試料の観察方法は、前記培養装置で生体試料を培養しながら、前記培養装置内の気相に含まれる物質が前記生体試料に及ぼす影響を観察することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特別な装置を使用することなく、一般の蓋体付きのマルチウエルプレートのような培養容器に適用するだけで、気相に含まれる対象物質が生体試料に与える影響をリアルタイムで観察して、信頼性よく評価でき、しかも対象物質の種類が限定されることのない培養容器用スペーサと、該スペーサを備えた培養装置、該培養装置を用いた観察方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態例の培養容器用スペーサを示す部分破断斜視図である。
【図2】図1の培養容器用スペーサのI−I’線に沿う断面図である。
【図3】図1の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図4】図1の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す分解斜視図である。
【図5】図1の培養容器用スペーサを備えた培養装置を示す概略構成図である。
【図6】培養容器用スペーサに形成される気体供給口および気体排出口の配置例を示す概略平面図であって、(a)気体供給口および気体排出口を三組形成した例と、(b)気体供給口および気体排出口を四組形成した例である。
【図7】培養容器用スペーサに形成される気体供給口および気体排出口の配置例を示す(a)概略平面図と、(b)側面図と、(c)気体供給口側から見た正面図である。
【図8】第2実施形態例の培養容器用スペーサを示す(a)斜視図と、(b)(a)の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図9】第3実施形態例の培養容器用スペーサを示す(a)斜視図と、(b)(a)の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図10】第4実施形態例の培養容器用スペーサを示す(a)斜視図と、(b)(a)の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図11】図10の培養容器用スペーサを用いて、培養装置内の空間の分割例を示す概略図であって、(a)分割なしの例と、(b)2分割の例と、(c)3分割の例である。
【図12】第5実施形態例の円形の培養容器用スペーサに形成される気体供給口および気体排出口の配置例を示す概略平面図であって、(a)気体供給口および気体排出口を一組形成した例と、(b)気体供給口および気体排出口を二組形成した例である。
【図13】第5実施形態例の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図14】試験例1において、曝露時間と繊毛運動周波数(CBF)との関係を示すグラフである。
【図15】試験例2で使用した培養装置の構成を示す概略構成図である。
【図16】試験例2において、曝露時間と繊毛運動周波数(CBF)との関係を示すグラフである。
【図17】市販の蓋体付きマルチウエルプレートにおいて、生体試料を培養しながら気相に含まれる物質が生体試料に及ぼす影響を観察する方法を概略的に示す(a)分解斜視図と、(b)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[第1実施形態例]
図1および図2は、第1実施形態例の培養容器用スペーサ10Aを示す部分破断斜視図および断面図である。図3および図4は、培養装置30を示す断面図および分解斜視図であって、この培養装置30は、細胞などの生体試料を培養する培養容器20と、この培養装置20に装着された図1および図2の培養容器用スペーサ10Aとを具備して構成されている。
【0016】
この例の培養容器用スペーサ(以下、単にスペーサという。)10Aは、図示のように市販の培養容器20に装着されるものであって、図中上下が開口した四角形の枠状のものでる。ここでは、市販の培養容器20として、6つのウエル(2×3)W1〜W6が形成されている6穴タイプの四角形のマルチウエルプレートからなる培養容器本体21と、これに被せられる蓋体22とを具備するものを例示している。この例のマルチウエルプレートと蓋体22は、いずれも透明プラスチック製であり、顕微鏡観察や滅菌が可能なものである。
【0017】
スペーサ10Aは、図示のように、培養容器本体21と蓋体22との間に装着されることによって、培養容器本体21と蓋体22とを離間して、これらの間に、培養容器本体21の上端から蓋体22に到る高さhのスペースSを形成するとともに、培養容器本体21と蓋体22とを気密に接続するものである。
この例のスペーサ10Aは、蓋体22と嵌合する四角形の枠状の上枠11と、培養容器本体21と嵌合する四角形の枠状の下枠12とを具備して構成され、上枠11は蓋体22の内側に嵌められ、下枠12は培養容器本体12の外側に嵌められるようになっている。そのため、上枠11は下枠12よりも小さく形成されているとともに、上枠11では外周側に、下枠12では内周側に、それぞれ全周にわたって天然ゴム、シリコーンゴムなどからなるゴム製のパッキン13が設けられ、スペーサ10Aを培養容器20に装着した際には、上枠11は蓋体22と気密に接続し、下枠12は培養容器本体21と気密に接続するようになっている。
【0018】
また、この例では、スペーサ10Aの下枠12を形成している一対の短辺のほぼ中央に、このスペーサ10Aを備えた培養装置30の内側と外側とを連通する開口部がそれぞれ1つずつ形成されている。このうちの一方の開口部は、培養装置30内に気体を供給する図示略の気体供給手段が接続される気体供給口14である。他方の開口部は、培養装置30内から気体が排出される気体排出口15であって、必要に応じて、排出された気体が大気中に漏洩しないように回収する袋、容器などの気体回収手段が接続される。気体供給口14と気体供給手段との間や、気体排出口15と気体回収手段との間には、気体の逆流を防止するための逆流防止弁を設けてもよい。また、気体回収手段には吸引ポンプなどの減圧手段を接続して、気体を吸引できるようにしてもよい。
【0019】
また、この例では、下枠12の気体供給口14が形成されている側の短辺に、開口部としてセンサ差込口16が形成され、培養装置30内の温度、湿度、ガス組成などを測定するための図示略のセンサ類を外側から内側に差し込めるようになっている。
【0020】
ここでスペーサ10Aの高さHは、気体供給口14から培養装置30内に供給された気体が、短時間で効率よく培養装置30内に均一に拡散し、かつ、培養装置30ごと顕微鏡観察に供した場合に、培養装置30と顕微鏡のコンデンサとが干渉しないような範囲に決定される。また、図示例のようにスペーサ10Aに気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16が形成される場合には、これらが適切な位置に形成されるように、その点も勘案して、高さHが決定される。
【0021】
具体的には、培養容器30に形成されているウエルW1〜W6の数や大きさ(容積)や、培養容器20の高さなどによるが、一般的な蓋体付きマルチウエルプレートを培養容器20として使用し、スペーサに気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16が形成されない場合には、スペースSの高さhが3〜30mmとなる範囲に決定されることが好ましい。より好ましくはスペースSの高さhが5〜20mmとなる範囲である。この範囲内であると、培養装置30内に気体を短時間で効率よく均一に拡散させることができる。また、培養装置30全体としての高さが大きくなりすぎて、培養装置30ごとの顕微鏡観察に支障をきたしたり、培養装置30内の容積が大きくなりすぎて気体の置換効率が低下したり、気体を無駄に消費したりすることもない。
図示例のようにスペーサ10Aに気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16が形成される場合には、スペースSの高さhは10〜30mmとなる範囲に決定されることが好ましく、より好ましくは15〜20mmとなる範囲に決定される。
【0022】
スペーサ10Aの材質は、供給される気体により腐食するなどの不都合を生じず、生体試料に対して毒性が低く、また、滅菌処理可能なものであればよく、気体の種類に応じて、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック、ステンレスなどの金属などを使用でき、公知の成形方法により製造できる。
滅菌処理としては、ガンマ線照射法、乾熱滅菌法、オートクレーブを用いた方法、70%エタノール噴霧などが挙げられる。
【0023】
このような培養装置30内に生体試料を配置して培養しながら、培養装置30内の気相に対象物質を存在させて、対象物質が生体試料に及ぼす影響を観察し、評価する具体的な方法について、一例を挙げて以下に説明する。
図5に示すように、まず、培養容器本体21であるマルチウエルプレートのウエルW5に培地31を設けた後、このウエルW5内に、底部がメンブレンからなるセル状のカルチャーインサート32を配置する。そして、メンブレンを介して培地31と接触するように生体試料33を載置し、培養する。このようにすれば、生体試料33の下側は培地31と接し、上側は後に供給される気体と接する、いわゆる気液界面培養が可能となる。また、この際、培地31よりも上方におけるカルチャーインサート32の外周とウエルW5の内周との間に、天然ゴム、シリコーンゴムなどからなるゴム製のパッキン34を図示のように挿入配置して、後に気体供給口14から培養装置30内に供給される気体が培地31に接触し、培地31が悪影響を受けるのを防ぐようにすることが好ましい。
なお、図5では、6穴タイプのマルチウエルプレートを培養容器本体21として使用しているが、ウエルW5以外のウエル内の詳細については図示は略している。
【0024】
ついで、スペーサ10Aの下枠12をマルチウエルプレートに嵌合し、上枠11を蓋体22に嵌合して、スペーサ10Aを培養容器本体21と蓋体22との間に装着する。
このように装着することによって、マルチウエルプレートと蓋体22とを離間させ、これらの間にスペースSを形成するとともに、スペーサ10Aのパッキン13の作用によりマルチウエルプレートと蓋体22とを気密に接続する。
ついで、培養装置30の気体排出口15に、排出された気体を集めるための袋(気体回収手段)35を接続し、図5では図示略のセンサ差込口に必要なセンサ類を差し込む。そして、培養装置30ごと、図示略の顕微鏡のステージに載置する。なお、この際必要に応じて、顕微鏡での観察の妨げにならない範囲で、培養装置30を断熱シートで覆ってもよい。図中符号Mは、顕微鏡のコンデンサである。
【0025】
ついで、対象物質を含む気体が入った注射筒(気体供給手段)36を用意し、この注射筒36をチューブ37を介して気体供給口14に接続する。そして、注射筒36のピストンを押し込んで、気体を培養装置30内に供給するとともに、顕微鏡に接続された図示略のデジタルカメラにより生体試料33を連続的に撮影するなどして観察する。
そして、このような観察で得られたデータを解析するなどして、気体に含まれる対象物質が生体試料33に及ぼす影響について評価する。
使用したスペーサ10Aは、適宜洗浄、滅菌して、繰り返し使用できる。また、パッキン13をスペーサ10Aから着脱自在に設けておき、パッキン13のみを取り外して洗浄、滅菌して繰り返し使用してもよいし、パッキン13のみをその都度交換してもよい。
【0026】
このような培養装置30を用いた場合には、培養容器本体21であるマルチウエルプレートと蓋体22との間に、これらを離間させるスペーサ10Aが配置され、スペースSが形成されているため、気体供給口14から培養装置30内に供給された気体は、マルチウエルプレート内に短時間で効率よく均一に拡散し、各ウエルW1〜W6内の空間も十分に置換され、その中に配置された生体試料33に気体を接触させるまでに長時間を要しない。よって、気体に含まれる対象物質の影響をリアルタイムで観察し、評価することができる。また、ウエルW1〜W6内の空間が十分に置換されるのに要する時間がウエルごとに異なってくることもないため、ウエル間でデータがばらつくこともなく、信頼性の高い評価を行うことができる。
また、このスペーサ10Aは、蓋体22とマルチウエルプレートとを気密に接続するものであるため、供給された気体は蓋体22とマルチウエルプレートとの間から漏洩することがない。よって、供給可能な気体の種類は限定されず、例えば毒性のある物質を含む気体なども供給可能である。
【0027】
なお、この例のスペーサ10Aには、スペーサ10Aの内側と外側を連通する開口部として、気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16が下枠12に形成されているが、これらが形成される数や位置には特に制限はなく、上枠11に形成されてもよい。また、例えば、図6および7に12穴タイプのマルチウエルプレートを例示するように、マルチウエルプレートの各ウエルW1〜W12に対してばらつきなく気体を供給できるように、ウエルの数、配置などに応じて、気体供給口14や気体排出口15などをスペーサの適当な位置に各々複数形成できる。
【0028】
また、気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16は、必ずしも形成されていなくてもよい。例えば、揮発性物質を対象物質とし、その影響を観察、評価する場合には、生体試料が載置されたウエルとは異なるウエルに揮発性物質を入れた後、直ちにマルチウエルプレートに蓋体とスペーサとを装着する方法でも、揮発性物質を気相中に供給することができる。
また、気体供給口や気体排出口が形成された蓋体を用いて、ここから気体の供給と排出を行うようにすれば、スペーサには気体供給口や気体排出口が形成されていなくてもよい。
【0029】
なお、液体状の揮発性物質を対象物質とする場合であっても、気体供給口14が形成されているスペーサ10Aを用いて、揮発性物質を気体供給口14から供給することもできる。その場合には、揮発性物質が入れられた注射筒を気体供給口14から挿入し、生体試料が載置されたウエルとは異なるウエルに、揮発性物質を滴下する方法が好適である。
また、気体供給口14、気体排出口15に接続される気体供給手段、気体回収手段の種類にも特に制限はない。
【0030】
また、この例のスペーサ10Aは、6穴タイプの四角形の蓋体付きマルチウエルプレートに対して使用されるものであるので、蓋体22と嵌合する四角形の枠状の上枠11と、培養容器本体21と嵌合する四角形の枠状の下枠12とを具備して構成されているが、その形状は、培養容器20の形状などに応じて適宜決定できる。例えば、市販のマルチウエルプレートには、培養中の各ウエルの順序を取り違えないために、4つの角のうちの2つの角を丸めるなど、その形状の一部を変えたものなどもある。そのようなマルチウエルプレートに対応するように、スペーサの形状も適宜設計することができる。また、この例では、上枠11は蓋体22の内側に嵌められ、下枠12は培養容器本体21の外側に嵌められるようになっているが、反対に、上枠が蓋体の外側に嵌められ、下枠が培養容器本体の内側に嵌められる形態でもよい。
培養容器としても、例えば12穴タイプ(3×4)、24穴タイプ(4×6)などの他のウエル数のものを使用してもよいし、後述するように、マルチウエルではない一般の円形のシャーレなどを使用してもよい。
【0031】
[第2実施形態例]
図8(a)は、第2実施形態例のスペーサ10Bを示す斜視図であり、図8(b)は、このスペーサ10Bを市販の培養容器20に装着した状態を示す断面図である。ここでは、市販の培養容器20として、図4に示したものと同じく、6つのウエル(2×3)W1〜W6が形成されている6穴タイプの四角形のマルチウエルプレートからなる培養容器本体21と、これに被せられる蓋体22とを具備するものを例示している。
この例のスペーサ10Bは、下枠12の内周側に平板が掛け渡され固定された水平な中板部17を有している点で、第1実施形態例のスペーサ10Bとは相違している。この例の中板部17には、培養容器本体21に形成されている6つの各ウエルに対応するように、6つの孔17a〜17fが形成されており、図8(b)のようにこの例のスペーサ10Bを培養容器20に装着した際には、各孔17a〜17fの周縁部と各ウエルW1〜W6上端の開口周縁部とがそれぞれ密着するようになっている。
【0032】
このような第2実施形態例のスペーサ10Bによれば、スペーサ10Bを培養容器20に図示のように装着することによって、各ウエル間に形成されている空隙部Pを中板部17で上方から覆って塞ぐことができる。このように空隙部Pを塞ぐと、気体供給口14から培養装置30内に供給された気体により、培養装置30内の空間(各ウエルW1〜W6内の空間やその上方の空間)を短時間で効率よく、十分に置換することができる。これは、このように空隙部Pを塞ぐと、空隙部Pを気体で置換する必要はなくなり、しかも、置換時の気流の乱れが軽減されるためである。
さらに、図示は略すが、このような中板部17の孔17a〜17fのうちのいずれか1つ以上を透明フィルムまたはシートなどの透明板で塞ぐことによって、その孔に対応するウエル内への気体の供給を遮断してもよい。このように気体の供給が遮断されたウエルは、気体の影響を受けない対照実験用の対照ウエルとすることができる。また、このように遮断することは、培養装置30内の余分な空間を減らすことにもなり、置換時の気流の乱れを防ぐことにもつながる。
【0033】
[第3実施形態例]
図9(a)は、第3実施形態例のスペーサ10Cを示す斜視図であり、図9(b)は、このスペーサ10Cを市販の培養容器20に装着した状態を示す断面図である。ここでも、市販の培養容器20として、図4に示したものと同じく、6つのウエル(2×3)W1〜W6が形成されている6穴タイプの四角形のマルチウエルプレートからなる培養容器本体21と、これに被せられる蓋体22とを具備するものを例示している。
この例のスペーサ10Cは、第2実施形態例と同様の構成の中板部17を備え、さらに、スペーサ10Cを形成している一対の長辺間を掛け渡すように、中板部17から鉛直方向に立設した2枚の仕切板18a、18bを備えている。各仕切板18a、18bは、その上端が蓋体22に到達する高さに形成されており、スペーサ10Cを装着することによって、培養装置30内の空間を3つのゾーンに分割できるように構成されている。そして、分割された3つの各ゾーンには、それぞれ独立して気体を供給および排出できるように、一対の気体供給口14および気体排出口15が下枠12に設けられている。
【0034】
このように第3実施形態例のスペーサ10Cは、孔17a〜17fが形成された中板部17と、この中板部17から鉛直方向に立設した2枚の仕切板18a、18bとからなる隔離手段を備えており、そのため、ウエル同士を隔て、培養装置30内の空間を3つのゾーンに分割できるようになっている。
そのため、この例のスペーサ10Cによれば、スペーサ10Cを培養容器20に図示のように装着することによって、仕切板18a、18bにより分割された各ゾーンごとに独立して異なる種類の気体を供給および排出でき、複数の気体による影響を同時に観察するなど、複数系統の実験をすることが可能となる。
また、この例においても、必要があれば、中板部17の孔17a〜17fのうちのいずれか1つ以上を透明板で塞ぎ、その孔に対応するウエル内への気体の供給を遮断してもよい。
なお、この例では、6つのウエルW1〜W6を2つずつ3分割して3ゾーンを形成しているが、複数に分割するかぎり、分割の仕方や分割数には制限はない。
【0035】
[第4実施形態例]
図10(a)は、第4実施形態例のスペーサ10Dを示す斜視図であり、図10(b)は、このスペーサ10Dを市販の培養容器20に装着した状態を示す断面図である。ここでも、市販の培養容器20として、図4に示したものと同じく、6つのウエル(2×3)W1〜W6が形成されている6穴タイプの四角形のマルチウエルプレートからなる培養容器本体21と、これに被せられる蓋体22とを具備するものを例示している。
この例のスペーサ10Dは、培養容器本体21に形成されている6つの各ウエルに対応するように、鉛直方向に立設し、両端が開口した6つの筒体19a〜19fを具備しており、図10(b)のようにこの例のスペーサ10Dを培養容器20に装着した際には、各筒体19a〜19fの下端周縁部と各ウエル上端の開口周縁部とがそれぞれ密着し、各筒体19a〜19fの上端周縁部と蓋体22とが密着するようになっている。また、この例のスペーサ10Dは、図11にも示すように、隣合う筒体19a〜19f同士を連通する7つの筒体連通管41a〜41gと、各筒体19a〜19fとスペーサ10Dの外部とを連通する10の外部連通管42a〜42jとを備えている。この例では、各筒体連通管41a〜41gおよび各外部連通管42a〜42jは、各筒体19a〜19fをスペーサ10Dの下枠12に固定する固定手段としての役割も果たしている。さらに、各筒体連通管41a〜41gおよび各外部連通管42a〜42jは、いずれもゴムなどからなる栓体により容易に閉塞可能とされている。
【0036】
このように第4実施形態例のスペーサ10Dは、培養容器本体21に形成されている6つの各ウエルに対応するように、鉛直方向に立設し、両端が開口した6つの筒体19a〜19fからなる隔離手段を備えており、ウエル同士を隔てることができるようになっている。そして、さらに7つの筒体連通管41a〜41gと、10の外部連通管42a〜42jとを備えていて、これらは栓体により容易に閉塞できるようになっている。
そのため、この例のスペーサ10Dによれば、スペーサ10Dを培養容器20に図示のように装着し、適宜、任意の筒体連通管41a〜41gおよび外部連通管42a〜42jを閉塞することによって、図11(b)および(c)に示すように、培養装置30内の空間を複数のゾーンに分割することができる。図11(b)および(c)中、「CLOSE」とされている部分は、栓体により閉塞されている部分である。
よって、分割された各ゾーンごとに独立して異なる種類の気体を供給および排出でき、複数の気体による影響を同時に観察するなど、複数系統の実験をすることが可能となる。
なお、図11(b)の例では、6つのウエルW1〜W6を3つずつ2分割して2ゾーンを形成し、図11(c)の例では、6つのウエルW1〜W6を2つずつ3分割して3ゾーンを形成しているが、複数に分割できるかぎり、分割の仕方や分割数には制限はない。
【0037】
[第5実施形態例]
以上説明した第1〜4実施形態例では、市販の培養容器の培養容器本体として、複数のウエルが形成されているマルチウエルプレートを例示した。以下の本実施形態例では、市販の培養容器として、円形のシャーレ本体とこれを塞ぐ蓋体とからなる市販のシャーレを使用した場合について説明する。
円形のシャーレを使用する場合には、図12に示すように、シャーレに対応する形状に形成された円形のスペーサ10Eを採用し、そのスペーサ10Eに気体供給口14および気体排出口15を一組設けたり(図12(a))、二組設けたりできる(図12(b))。
【0038】
さらに、図13に示すように、円形のシャーレ本体61とこれを塞ぐ蓋体62とからなる市販の円形のシャーレ60に使用されるスペーサ10Eには、その内側に、カルチャーインサート32を係止可能な係止孔23aが1つ形成された水平な係止板23を設け、カルチャーインサート32の底部がシャーレ本体61の底部に接触しないように、カルチャーインサート32を適切な高さに維持しながら、スペーサ10Eに係止できる形態とすることも好適である。具体的には、カルチャーインサート32の底部とシャーレ本体61の底部との隙間が0.8〜1mm程度となるようにすることが好ましい。また、係止孔23aの周縁には、パッキン24を全周にわたって形成して、カルチャーインサート32と係止孔23aとが気密に接続されるようにする。
この場合、スペーサ10Eにより形成されるスペースの高さh’としては、第1の実施形態において説明した高さが好適であり、そのような高さが確保されるように、スペーサ10Eの高さも設計することが好ましい。また、上枠11は蓋体62と、下枠12はシャーレ本体61と嵌合できる高さとされ、上枠の高さは3〜27mm、下枠の高さは3〜25mm程度が好ましい。
【0039】
このようにすると、生体試料33の下側は培地31と接し、上側は供給される気体と接する、いわゆる気液界面培養が可能となり、気相に存在する対象物質が生体試料33に及ぼす影響について、シャーレ60とこれに係止されたカルチャーインサート32とを用いて観察、評価することができる。
なお、この例では、係止孔23aは1つとしたが、複数設けてもよい。そのようにすると、カルチャーインサート32を複数係止することができ、マルチウエルタイプとして使用することも可能となる。
【0040】
以上説明した各形態において、生体試料に対する影響が観察、評価される対象物質としては、各種の気体の他、気相に含まれる液体、固体、揮発性物質などであってもよい。例えば、自動車などから排出される粒子状物質、粉塵、花粉などの固体微粒子;トルエン、ベンゼン、フロン類、ジクロロメタン、アルコール類、アルデヒド類などの揮発性の有機物;などでもよく、空気などの気体に同伴させて、培養装置内に供給できるものであれば、制限はない。また、これら対象物質は、1種単独で供給しても、2種以上を供給してもよい。また、培養環境を維持するために適した気体(湿度100%、37℃、空気95vol%、二酸化炭素5vol%)とともに、対象物質を供給してもよい。
【0041】
生体試料としては、動物、植物由来の細胞、組織片、器官、微生物などが挙げられる。特に細胞としては、気相中に存在する物質の影響を受けやすい呼吸器系に存在する細胞(肺気道や肺胞由来の細胞、気管由来の細胞、鼻腔由来の細胞など。)、皮膚細胞、角膜を構成する細胞、毛髪の細胞、植物のカルス、線虫、菌糸などが挙げられる。
【0042】
また、観察中において、培養装置30内の各種条件を適切に維持するために、種々の手法を採用することができる。
例えば、湿度制御のために、生体試料33が載置されていないウエルやウエル同士の間に、水を入れておくことができる。また、その際、蓋体22の内側に親水性物質をコーティングするなどの処理により結露を防止し、外部からの観察がしやすくなるようにしてもよい。具体的には、例えばアラビアゴムなどの親水性高分子の溶液を少量塗布し乾燥する方法、界面活性剤水溶液(台所洗剤希釈液)を塗布し乾燥する方法、特開平5−15362号公報に記載されているように、セルロース系樹脂をケン化して得られる防曇フィルムを貼る方法などが挙げられる。
【0043】
温度制御のためには、上述した断熱シートを用いる方法の他、顕微鏡観察する場合において保温機能付きのステージを具備した顕微鏡や、保温加湿チャンバー付きの顕微鏡を使用する方法なども採用できる。さらに、蓋体やスペーサに発熱機能を持たせる方法も有効である。例えば蓋体やスペーサの少なくとも一部に、温度調節機能が接続された導電膜を設け、この導電膜に電流を流して発熱させるようにする方法などを例示できる。
【実施例】
【0044】
以下、培養装置内で生体試料を培養しながら、培養装置内の気相に含まれる物質が生体試料に及ぼす影響を観察し、評価する方法について、具体的に説明する。
[評価例1]
ウサギ(日本SCC(株):ニュージーランドホワイト種、16週齢(オス))由来気管を滅菌生理食塩水でタテ半分に切断し、気管内腔面の粘膜層を外側の軟骨などを含む組織から剥離した。粘膜層をメスで細片化し、粘膜片を得た。
一方、図5に示すように、培養装置30を構成した。すなわち、まず、培養容器20として、2×3の6穴タイプの蓋体付きのマルチウエルプレート(SUMILON MS−80060、ポリスチレン製、外寸127.6mm(L)×85.8mm(W)、本体の高さ20.2mm、ウエルの深さ17.0mm、ウエルの直径35.6mm、培養面積9.2cm2/ウエル、ウエル容量16mL)を用意し、ウエルW5に培地31を入れた後、このウエルW5内に、底部がメンブレンからなるセル状のカルチャーインサート32を配置した。そして、メンブレンを介して培地31と接触するように、先に細片化した粘膜片を生体試料33として載置し、培養した。培地31には、ペニシリン−ストレプトマイシン添加、ダルベッコMEM、10%牛胎児血清を0.5mL用いた。また、培地31よりも上方におけるカルチャーインサート32の外周とウエルW5の内周との間には、ゴム製のパッキン34を挿入配置した。そして、マルチウエルプレートと蓋体22との間に図1および図2に示したスペーサ10Aを装着した。これにより形成されるスペースSの高さhを17mmとした。ついで、図5では図示略のセンサ差込口にセンサ類(温度センサ、湿度センサを差し込んで、これらの条件をモニタリングできるようにした。その後、培養装置30ごと、図示略の保温ステージ付倒立微分干渉顕微鏡(オリンパスIX70、対物レンズ20倍)の保温ステージに載置した。
ついで、二酸化硫黄ガス(対象物質として二酸化硫黄を濃度100ppmで含む空気)が入った注射筒36を用意し、この注射筒36をチューブ37を介してスペーサ10の気体供給口14に接続し、注射筒36のピストンを押し込んで、この気体を培養装置30内に供給した。一方、スペーサ10の気体排出口15には気体回収手段として袋35をあらかじめ装着しておき、気体が供給されたことにより過剰となった気体を回収し、培養装置30内の圧力を一定に保てるようにした。
そして、顕微鏡に接続した図示略のデジタルカメラ(アクアコスモス:浜松ホトニクス製)を用いて、サブアレイ64×64ピクセル、バースト取り込みにより、連続的に約70回/秒の頻度で、粘膜表面の繊毛部分の画像を1024枚取り込んで観察し、繊毛部分の各25箇所のエリアそれぞれについて、輝度の経時変化をフーリエ変換し、繊毛運動周波数(CBF)を算出し、二酸化硫黄ガスが粘膜片に与える影響について評価した。
結果を図14に示す。
グラフ中、横軸は曝露時間(min)、縦軸はCBF(Hz)であり、暴露時間0minとは、注射筒36から二酸化硫黄ガスを供給開始した時点である。
図14に示すように、二酸化硫黄ガスの供給を開始した直後に、CBFが低下し、すなわち、繊毛運動が低下することが明らかとなり、リアルタイムでの観察、評価を行うことができた。
【0045】
[評価例2]
評価例1で使用したものと同じ粘膜片を用意した。
一方、図15に示す培養装置30を構成した。すなわち、培養容器20として、評価例1で使用したものと同じ蓋体付きのマルチウエルプレートを用意し、ウエルW5に評価例1と同様に培地31を入れ、カルチャーインサート32を配置し、生体試料33として粘膜片を載置し、培養した。また、カルチャーインサート32の外周とウエルW5の内周との間に、評価例1と同様にして、ゴム製のパッキン34を挿入配置した。そして、マルチウエルプレートと蓋体22との間に、評価例1で使用したものと同じスペーサ10を装着し、同様の高さhのスペースSを形成した。ただし、スペーサ10の気体供給口15には、1mの長さのチューブ37を介して三方コック38を接続した。三方コック38の残りの二方のうちの一方には、温度37℃、湿度100%の空気が供給されるように調整された空気ボックス39と接続し、他方は温度25℃、湿度40%の室内に開放し、空気ボックス39中の空気か、室内の空気のいずれかを選択して、培養装置30に供給できるようにした。一方、スペーサ10の気体排出口15には、脈動を防ぐためのトラップ40を介して、吸引ポンプ41を接続し作動させ、空気ボックス39中の空気を培養装置30内に連続的に取り込んだ。そして、図示略のセンサ差込口に評価例1と同様のセンサ類を差し込んで、培養装置30ごと、評価例1で使用したものと同じ図示略の保温ステージ付倒立微分干渉顕微鏡の保温ステージに載置した。
そして、顕微鏡に接続したデジタルカメラ(アクアコスモス:浜松ホトニクス製)により、評価例1と同様にして連続的に粘膜表面の繊毛部分の画像を取り込んで観察し、同様の手法で繊毛運動周波数(CBF)を算出し、湿度(水分)が粘膜片に与える影響について評価した。
結果を図16に示す。
グラフ中、横軸は曝露時間(min)、縦軸はCBF(Hz)であり、暴露時間0minとは、空気を供給開始した時点である。
図16に示すように、温度37℃、湿度100%の空気を供給した場合には、供給の前後でCBFは変化しなかったが、温度25℃、湿度40%の空気を供給した場合には、供給開始の直後からCBFが徐々に低下し、空気の乾燥により、繊毛運動が低下することが明らかとなった。このように本例によれば、リアルタイムでの観察、評価を行うことができた
【符号の説明】
【0046】
10A〜10E スペーサ
20、60 培養容器
21、61 培養容器本体
22、62 蓋体
30 培養装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料の培養容器に装着される培養容器用スペーサ、該スペーサを備えた培養装置、該培養装置を用いた観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気化した有機溶媒、窒素酸化物、浮遊微粒子など、大気に含まれる物質が動物の呼吸器系などに影響を与え、病気を引き起こす可能性があることが指摘されている。一方、アロマテラピーや森林浴のように、精油などの揮発性物質や樹木が発散する物質を積極的に利用することにより、健康を増進しようとすることも広く行なわれている。
このように気相に含まれる物質は、生物に対して大きな影響を与える。そのため、このような物質(以下、対象物質という場合もある。)による影響をインビトロで観察し、評価する方法について検討されている。
【0003】
例えば、細胞を培養皿で培養する際に、対象物質を溶解させた培養液を添加することにより、通常のインビトロ法と同様に、対象物質の影響を観察したり、評価したりする方法がある。しかしながら、このような方法では、対象物質は液相に含まれた状態で添加され、気相に含まれた状態で添加されるものではないため、その対象物質が気相に含まれる場合の影響については、正確には評価できない。さらに、気相に存在する複数の対象物質を気相中と同じ濃度で培養液に溶解させ得るとは限らないため、この点でも、これらの対象物質が気相に含まれる場合の影響について、正確に観察して評価することは困難であった。
【0004】
そこで、対象物質が含まれる気相を実際に細胞に接触させることにより、対象物質が気相に含まれる場合の影響について、正確に観察し評価しようとすることも検討されている。
例えば、培養液を入れた培養皿を気相中で上下左右に動かすことで培養液から細胞を露出させ、それにより細胞と気相とを接触させ、その際の細胞の様子を観察して評価する方法が検討されている。ところが、液体は表面張力を有しているために、細胞を露出させた場合でも液が細胞上に残存しており、やはり正確な評価は困難であった。
また、培養液を取り除いた培養細胞を対象物質が含まれる気相中に置き、観察、評価する方法も検討されている。ところが、この方法では、培養液が除去された後、細胞の活性が持続する時間は限られるため、正確な評価は難しいという問題があった。
さらに、気体は透過し、液体は透過しない膜の上で細胞を培養することで、気相に含まれる対象物質の影響を観察、評価しようとする方法も検討されているが、このような特殊な膜の上では、培養自体が難しかった。
【0005】
そこで、細胞を培養しながら、対象物質が含まれる気相をその細胞に接触させることにより、気相に含まれる物質が細胞に与える影響をリアルタイムに観察して評価する方法が検討され、例えば特許文献1には特別な装置を用いる方法が開示されている。
また、細胞を培養しながら、対象物質が含まれる気相をその細胞に接触させることのできる装置も市販されている(例えば、柴田科学株式会社、細胞ばく露実験装置「SIS−CUL」)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−101897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、細胞を支持する支持体、細胞に培養液を供給するための培養液収容槽、対象物質を含む気体収容部、水貯留部などを具備した特別な装置を使用する必要があり、簡便に観察や評価を行えるものではなかった。
また、先に例示した市販の細胞ばく露実験装置は、上部には不透明な蓋体が被せられた構成であり、さらには、下部にウォーターバスが設けられ、顕微鏡のレンズから細胞までの距離がレンズのワーキングディスタンスと比較してはるかに長いことから、リアルタイムでの顕微鏡観察は困難であった。
【0008】
また、例えば図17に示すような蓋体51付きのマルチウエルプレート50を応用する方法も考えられる。このマルチウエルプレート50は、6つのウエル(2×3)が形成されている6穴タイプの市販のものであって、透明プラスチック製である。
具体的には、生体試料60をウエルW内の培地61上に配置した後、マルチウエルプレート50に蓋体51を被せる。ここで蓋体51には、気体を供給するための気体供給口52と気体を排出するための気体排出口53とをあらかじめ形成しておく。そして、この蓋体51をマルチウエルプレート50に被せた後、対象物質を含む気体を気体供給口52からマルチウエルプレート50内に供給し、気体排出口53から排出する。そして、その際の生体試料60の様子について、顕微鏡などで観察し評価する。
このような方法によれば、供給された気体によりマルチウエルプレート50内の空間が置換され、生体試料60と気体とが接触し、気体に含まれる対象物質が生体試料60に与える影響をインビトロでリアルタイムに観察し、評価できるものと期待される。
【0009】
ところが、このような一般の蓋体51付きのマルチウエルプレート50では、蓋体51を被せた場合には、図17(b)に示すように、マルチウエルプレート50と蓋体51との間には、ほとんど隙間は形成されない。
よって、マルチウエルプレート50内に気体供給口52から気体を供給したとしても、ウエルW間の気体の移動が困難なため、供給された気体は各ウエルW内の空間を十分には置換することなく、主にマルチウエルプレート50の周囲における、マルチウエルプレート50と蓋体51との間のわずかな隙間から漏出してしまう。また、このような隙間からの気体の漏出を防ぐために、マルチウエルプレート50と蓋体51との間をパッキンなどで密封したとしても、マルチウエルプレート50と蓋体51との間に隙間が無い状態には変わりがないため、ウエルW間の気体の移動はやはり困難であった。そのため、気体の供給速度を上げると容器内圧が上昇し、容器内の温度、湿度が変化してしまうという問題や、このような気圧変化が生体試料60に影響してしまうという問題があった。また、気体供給口52に減圧手段を接続して、吸引法によりマルチウエルプレート50内の空気を置換する方法でも、気体の吸引速度を上げると容器内圧が低下し、やはり同様の問題が生じた。
【0010】
すなわち、このような市販の蓋体51付きのマルチウエルプレート50を単に応用した方法では、マルチウエルプレート50内に気体を短時間で効率よく拡散させ、置換することはできない。そのため、各ウエルW内の空間を十分に置換し、ウエルWに配置された生体試料60に気体を接触させるまでには、気体の供給を開始した時点から長時間を要し、気体に含まれる対象物質の影響をリアルタイムで観察することは難しい。また、ウエルW内の空間が十分に置換されるのに要する時間は、各ウエルWごとに異なってくるため、たとえ評価を行ったとしても、ウエルW間で得られるデータのばらつきは大きく、信頼性の高い評価はできない。
また、市販の蓋体51付きのマルチウエルプレート50では、上述したように、供給された気体は蓋体51とマルチウエルプレート50との隙間から大気中に漏洩してしまう。したがって、供給可能な気体の種類は限定され、例えば毒性のある物質を含む気体などを供給することは困難である。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、特別な装置を使用することなく、一般の蓋体付きのマルチウエルプレートのような培養容器に適用するだけで、気相に含まれる対象物質が生体試料に与える影響をリアルタイムで観察して、信頼性よく評価でき、しかも対象物質の種類が限定されることのない培養容器用スペーサと、該スペーサを備えた培養装置、該培養装置を用いた観察方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の培養容器用スペーサは、培養装置の培養容器本体と、該培養容器本体に被せられる蓋体との間に装着され、前記培養容器本体と前記蓋体とを離間させるとともに、気密に接続することを特徴とする。
培養装置の内側と外側とを連通する開口部が少なくとも1つ形成されていることが好ましい。
本発明の培養容器用スペーサとしては、複数のウエルが形成された培養容器本体に対して装着される形態が挙げられる。
その場合、前記培養容器用スペーサは、各ウエルに対応する複数の孔が形成された中板部を備え、前記装着の際には、各孔の周縁部と各ウエルの開口周縁部とが密着するものである形態が好ましい。
また、ウエル同士を隔てる隔離手段を備えたものである形態も好ましい。
本発明の培養装置は、前記培養容器本体と、前記蓋体と、前記培養容器本体と前記蓋体との間に装着された前記培養容器用スペーサとを備えたことを特徴とする。
本発明の生体試料の観察方法は、前記培養装置で生体試料を培養しながら、前記培養装置内の気相に含まれる物質が前記生体試料に及ぼす影響を観察することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特別な装置を使用することなく、一般の蓋体付きのマルチウエルプレートのような培養容器に適用するだけで、気相に含まれる対象物質が生体試料に与える影響をリアルタイムで観察して、信頼性よく評価でき、しかも対象物質の種類が限定されることのない培養容器用スペーサと、該スペーサを備えた培養装置、該培養装置を用いた観察方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態例の培養容器用スペーサを示す部分破断斜視図である。
【図2】図1の培養容器用スペーサのI−I’線に沿う断面図である。
【図3】図1の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図4】図1の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す分解斜視図である。
【図5】図1の培養容器用スペーサを備えた培養装置を示す概略構成図である。
【図6】培養容器用スペーサに形成される気体供給口および気体排出口の配置例を示す概略平面図であって、(a)気体供給口および気体排出口を三組形成した例と、(b)気体供給口および気体排出口を四組形成した例である。
【図7】培養容器用スペーサに形成される気体供給口および気体排出口の配置例を示す(a)概略平面図と、(b)側面図と、(c)気体供給口側から見た正面図である。
【図8】第2実施形態例の培養容器用スペーサを示す(a)斜視図と、(b)(a)の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図9】第3実施形態例の培養容器用スペーサを示す(a)斜視図と、(b)(a)の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図10】第4実施形態例の培養容器用スペーサを示す(a)斜視図と、(b)(a)の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図11】図10の培養容器用スペーサを用いて、培養装置内の空間の分割例を示す概略図であって、(a)分割なしの例と、(b)2分割の例と、(c)3分割の例である。
【図12】第5実施形態例の円形の培養容器用スペーサに形成される気体供給口および気体排出口の配置例を示す概略平面図であって、(a)気体供給口および気体排出口を一組形成した例と、(b)気体供給口および気体排出口を二組形成した例である。
【図13】第5実施形態例の培養容器用スペーサを培養容器に装着した様子を示す断面図である。
【図14】試験例1において、曝露時間と繊毛運動周波数(CBF)との関係を示すグラフである。
【図15】試験例2で使用した培養装置の構成を示す概略構成図である。
【図16】試験例2において、曝露時間と繊毛運動周波数(CBF)との関係を示すグラフである。
【図17】市販の蓋体付きマルチウエルプレートにおいて、生体試料を培養しながら気相に含まれる物質が生体試料に及ぼす影響を観察する方法を概略的に示す(a)分解斜視図と、(b)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[第1実施形態例]
図1および図2は、第1実施形態例の培養容器用スペーサ10Aを示す部分破断斜視図および断面図である。図3および図4は、培養装置30を示す断面図および分解斜視図であって、この培養装置30は、細胞などの生体試料を培養する培養容器20と、この培養装置20に装着された図1および図2の培養容器用スペーサ10Aとを具備して構成されている。
【0016】
この例の培養容器用スペーサ(以下、単にスペーサという。)10Aは、図示のように市販の培養容器20に装着されるものであって、図中上下が開口した四角形の枠状のものでる。ここでは、市販の培養容器20として、6つのウエル(2×3)W1〜W6が形成されている6穴タイプの四角形のマルチウエルプレートからなる培養容器本体21と、これに被せられる蓋体22とを具備するものを例示している。この例のマルチウエルプレートと蓋体22は、いずれも透明プラスチック製であり、顕微鏡観察や滅菌が可能なものである。
【0017】
スペーサ10Aは、図示のように、培養容器本体21と蓋体22との間に装着されることによって、培養容器本体21と蓋体22とを離間して、これらの間に、培養容器本体21の上端から蓋体22に到る高さhのスペースSを形成するとともに、培養容器本体21と蓋体22とを気密に接続するものである。
この例のスペーサ10Aは、蓋体22と嵌合する四角形の枠状の上枠11と、培養容器本体21と嵌合する四角形の枠状の下枠12とを具備して構成され、上枠11は蓋体22の内側に嵌められ、下枠12は培養容器本体12の外側に嵌められるようになっている。そのため、上枠11は下枠12よりも小さく形成されているとともに、上枠11では外周側に、下枠12では内周側に、それぞれ全周にわたって天然ゴム、シリコーンゴムなどからなるゴム製のパッキン13が設けられ、スペーサ10Aを培養容器20に装着した際には、上枠11は蓋体22と気密に接続し、下枠12は培養容器本体21と気密に接続するようになっている。
【0018】
また、この例では、スペーサ10Aの下枠12を形成している一対の短辺のほぼ中央に、このスペーサ10Aを備えた培養装置30の内側と外側とを連通する開口部がそれぞれ1つずつ形成されている。このうちの一方の開口部は、培養装置30内に気体を供給する図示略の気体供給手段が接続される気体供給口14である。他方の開口部は、培養装置30内から気体が排出される気体排出口15であって、必要に応じて、排出された気体が大気中に漏洩しないように回収する袋、容器などの気体回収手段が接続される。気体供給口14と気体供給手段との間や、気体排出口15と気体回収手段との間には、気体の逆流を防止するための逆流防止弁を設けてもよい。また、気体回収手段には吸引ポンプなどの減圧手段を接続して、気体を吸引できるようにしてもよい。
【0019】
また、この例では、下枠12の気体供給口14が形成されている側の短辺に、開口部としてセンサ差込口16が形成され、培養装置30内の温度、湿度、ガス組成などを測定するための図示略のセンサ類を外側から内側に差し込めるようになっている。
【0020】
ここでスペーサ10Aの高さHは、気体供給口14から培養装置30内に供給された気体が、短時間で効率よく培養装置30内に均一に拡散し、かつ、培養装置30ごと顕微鏡観察に供した場合に、培養装置30と顕微鏡のコンデンサとが干渉しないような範囲に決定される。また、図示例のようにスペーサ10Aに気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16が形成される場合には、これらが適切な位置に形成されるように、その点も勘案して、高さHが決定される。
【0021】
具体的には、培養容器30に形成されているウエルW1〜W6の数や大きさ(容積)や、培養容器20の高さなどによるが、一般的な蓋体付きマルチウエルプレートを培養容器20として使用し、スペーサに気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16が形成されない場合には、スペースSの高さhが3〜30mmとなる範囲に決定されることが好ましい。より好ましくはスペースSの高さhが5〜20mmとなる範囲である。この範囲内であると、培養装置30内に気体を短時間で効率よく均一に拡散させることができる。また、培養装置30全体としての高さが大きくなりすぎて、培養装置30ごとの顕微鏡観察に支障をきたしたり、培養装置30内の容積が大きくなりすぎて気体の置換効率が低下したり、気体を無駄に消費したりすることもない。
図示例のようにスペーサ10Aに気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16が形成される場合には、スペースSの高さhは10〜30mmとなる範囲に決定されることが好ましく、より好ましくは15〜20mmとなる範囲に決定される。
【0022】
スペーサ10Aの材質は、供給される気体により腐食するなどの不都合を生じず、生体試料に対して毒性が低く、また、滅菌処理可能なものであればよく、気体の種類に応じて、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック、ステンレスなどの金属などを使用でき、公知の成形方法により製造できる。
滅菌処理としては、ガンマ線照射法、乾熱滅菌法、オートクレーブを用いた方法、70%エタノール噴霧などが挙げられる。
【0023】
このような培養装置30内に生体試料を配置して培養しながら、培養装置30内の気相に対象物質を存在させて、対象物質が生体試料に及ぼす影響を観察し、評価する具体的な方法について、一例を挙げて以下に説明する。
図5に示すように、まず、培養容器本体21であるマルチウエルプレートのウエルW5に培地31を設けた後、このウエルW5内に、底部がメンブレンからなるセル状のカルチャーインサート32を配置する。そして、メンブレンを介して培地31と接触するように生体試料33を載置し、培養する。このようにすれば、生体試料33の下側は培地31と接し、上側は後に供給される気体と接する、いわゆる気液界面培養が可能となる。また、この際、培地31よりも上方におけるカルチャーインサート32の外周とウエルW5の内周との間に、天然ゴム、シリコーンゴムなどからなるゴム製のパッキン34を図示のように挿入配置して、後に気体供給口14から培養装置30内に供給される気体が培地31に接触し、培地31が悪影響を受けるのを防ぐようにすることが好ましい。
なお、図5では、6穴タイプのマルチウエルプレートを培養容器本体21として使用しているが、ウエルW5以外のウエル内の詳細については図示は略している。
【0024】
ついで、スペーサ10Aの下枠12をマルチウエルプレートに嵌合し、上枠11を蓋体22に嵌合して、スペーサ10Aを培養容器本体21と蓋体22との間に装着する。
このように装着することによって、マルチウエルプレートと蓋体22とを離間させ、これらの間にスペースSを形成するとともに、スペーサ10Aのパッキン13の作用によりマルチウエルプレートと蓋体22とを気密に接続する。
ついで、培養装置30の気体排出口15に、排出された気体を集めるための袋(気体回収手段)35を接続し、図5では図示略のセンサ差込口に必要なセンサ類を差し込む。そして、培養装置30ごと、図示略の顕微鏡のステージに載置する。なお、この際必要に応じて、顕微鏡での観察の妨げにならない範囲で、培養装置30を断熱シートで覆ってもよい。図中符号Mは、顕微鏡のコンデンサである。
【0025】
ついで、対象物質を含む気体が入った注射筒(気体供給手段)36を用意し、この注射筒36をチューブ37を介して気体供給口14に接続する。そして、注射筒36のピストンを押し込んで、気体を培養装置30内に供給するとともに、顕微鏡に接続された図示略のデジタルカメラにより生体試料33を連続的に撮影するなどして観察する。
そして、このような観察で得られたデータを解析するなどして、気体に含まれる対象物質が生体試料33に及ぼす影響について評価する。
使用したスペーサ10Aは、適宜洗浄、滅菌して、繰り返し使用できる。また、パッキン13をスペーサ10Aから着脱自在に設けておき、パッキン13のみを取り外して洗浄、滅菌して繰り返し使用してもよいし、パッキン13のみをその都度交換してもよい。
【0026】
このような培養装置30を用いた場合には、培養容器本体21であるマルチウエルプレートと蓋体22との間に、これらを離間させるスペーサ10Aが配置され、スペースSが形成されているため、気体供給口14から培養装置30内に供給された気体は、マルチウエルプレート内に短時間で効率よく均一に拡散し、各ウエルW1〜W6内の空間も十分に置換され、その中に配置された生体試料33に気体を接触させるまでに長時間を要しない。よって、気体に含まれる対象物質の影響をリアルタイムで観察し、評価することができる。また、ウエルW1〜W6内の空間が十分に置換されるのに要する時間がウエルごとに異なってくることもないため、ウエル間でデータがばらつくこともなく、信頼性の高い評価を行うことができる。
また、このスペーサ10Aは、蓋体22とマルチウエルプレートとを気密に接続するものであるため、供給された気体は蓋体22とマルチウエルプレートとの間から漏洩することがない。よって、供給可能な気体の種類は限定されず、例えば毒性のある物質を含む気体なども供給可能である。
【0027】
なお、この例のスペーサ10Aには、スペーサ10Aの内側と外側を連通する開口部として、気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16が下枠12に形成されているが、これらが形成される数や位置には特に制限はなく、上枠11に形成されてもよい。また、例えば、図6および7に12穴タイプのマルチウエルプレートを例示するように、マルチウエルプレートの各ウエルW1〜W12に対してばらつきなく気体を供給できるように、ウエルの数、配置などに応じて、気体供給口14や気体排出口15などをスペーサの適当な位置に各々複数形成できる。
【0028】
また、気体供給口14、気体排出口15、センサ差込口16は、必ずしも形成されていなくてもよい。例えば、揮発性物質を対象物質とし、その影響を観察、評価する場合には、生体試料が載置されたウエルとは異なるウエルに揮発性物質を入れた後、直ちにマルチウエルプレートに蓋体とスペーサとを装着する方法でも、揮発性物質を気相中に供給することができる。
また、気体供給口や気体排出口が形成された蓋体を用いて、ここから気体の供給と排出を行うようにすれば、スペーサには気体供給口や気体排出口が形成されていなくてもよい。
【0029】
なお、液体状の揮発性物質を対象物質とする場合であっても、気体供給口14が形成されているスペーサ10Aを用いて、揮発性物質を気体供給口14から供給することもできる。その場合には、揮発性物質が入れられた注射筒を気体供給口14から挿入し、生体試料が載置されたウエルとは異なるウエルに、揮発性物質を滴下する方法が好適である。
また、気体供給口14、気体排出口15に接続される気体供給手段、気体回収手段の種類にも特に制限はない。
【0030】
また、この例のスペーサ10Aは、6穴タイプの四角形の蓋体付きマルチウエルプレートに対して使用されるものであるので、蓋体22と嵌合する四角形の枠状の上枠11と、培養容器本体21と嵌合する四角形の枠状の下枠12とを具備して構成されているが、その形状は、培養容器20の形状などに応じて適宜決定できる。例えば、市販のマルチウエルプレートには、培養中の各ウエルの順序を取り違えないために、4つの角のうちの2つの角を丸めるなど、その形状の一部を変えたものなどもある。そのようなマルチウエルプレートに対応するように、スペーサの形状も適宜設計することができる。また、この例では、上枠11は蓋体22の内側に嵌められ、下枠12は培養容器本体21の外側に嵌められるようになっているが、反対に、上枠が蓋体の外側に嵌められ、下枠が培養容器本体の内側に嵌められる形態でもよい。
培養容器としても、例えば12穴タイプ(3×4)、24穴タイプ(4×6)などの他のウエル数のものを使用してもよいし、後述するように、マルチウエルではない一般の円形のシャーレなどを使用してもよい。
【0031】
[第2実施形態例]
図8(a)は、第2実施形態例のスペーサ10Bを示す斜視図であり、図8(b)は、このスペーサ10Bを市販の培養容器20に装着した状態を示す断面図である。ここでは、市販の培養容器20として、図4に示したものと同じく、6つのウエル(2×3)W1〜W6が形成されている6穴タイプの四角形のマルチウエルプレートからなる培養容器本体21と、これに被せられる蓋体22とを具備するものを例示している。
この例のスペーサ10Bは、下枠12の内周側に平板が掛け渡され固定された水平な中板部17を有している点で、第1実施形態例のスペーサ10Bとは相違している。この例の中板部17には、培養容器本体21に形成されている6つの各ウエルに対応するように、6つの孔17a〜17fが形成されており、図8(b)のようにこの例のスペーサ10Bを培養容器20に装着した際には、各孔17a〜17fの周縁部と各ウエルW1〜W6上端の開口周縁部とがそれぞれ密着するようになっている。
【0032】
このような第2実施形態例のスペーサ10Bによれば、スペーサ10Bを培養容器20に図示のように装着することによって、各ウエル間に形成されている空隙部Pを中板部17で上方から覆って塞ぐことができる。このように空隙部Pを塞ぐと、気体供給口14から培養装置30内に供給された気体により、培養装置30内の空間(各ウエルW1〜W6内の空間やその上方の空間)を短時間で効率よく、十分に置換することができる。これは、このように空隙部Pを塞ぐと、空隙部Pを気体で置換する必要はなくなり、しかも、置換時の気流の乱れが軽減されるためである。
さらに、図示は略すが、このような中板部17の孔17a〜17fのうちのいずれか1つ以上を透明フィルムまたはシートなどの透明板で塞ぐことによって、その孔に対応するウエル内への気体の供給を遮断してもよい。このように気体の供給が遮断されたウエルは、気体の影響を受けない対照実験用の対照ウエルとすることができる。また、このように遮断することは、培養装置30内の余分な空間を減らすことにもなり、置換時の気流の乱れを防ぐことにもつながる。
【0033】
[第3実施形態例]
図9(a)は、第3実施形態例のスペーサ10Cを示す斜視図であり、図9(b)は、このスペーサ10Cを市販の培養容器20に装着した状態を示す断面図である。ここでも、市販の培養容器20として、図4に示したものと同じく、6つのウエル(2×3)W1〜W6が形成されている6穴タイプの四角形のマルチウエルプレートからなる培養容器本体21と、これに被せられる蓋体22とを具備するものを例示している。
この例のスペーサ10Cは、第2実施形態例と同様の構成の中板部17を備え、さらに、スペーサ10Cを形成している一対の長辺間を掛け渡すように、中板部17から鉛直方向に立設した2枚の仕切板18a、18bを備えている。各仕切板18a、18bは、その上端が蓋体22に到達する高さに形成されており、スペーサ10Cを装着することによって、培養装置30内の空間を3つのゾーンに分割できるように構成されている。そして、分割された3つの各ゾーンには、それぞれ独立して気体を供給および排出できるように、一対の気体供給口14および気体排出口15が下枠12に設けられている。
【0034】
このように第3実施形態例のスペーサ10Cは、孔17a〜17fが形成された中板部17と、この中板部17から鉛直方向に立設した2枚の仕切板18a、18bとからなる隔離手段を備えており、そのため、ウエル同士を隔て、培養装置30内の空間を3つのゾーンに分割できるようになっている。
そのため、この例のスペーサ10Cによれば、スペーサ10Cを培養容器20に図示のように装着することによって、仕切板18a、18bにより分割された各ゾーンごとに独立して異なる種類の気体を供給および排出でき、複数の気体による影響を同時に観察するなど、複数系統の実験をすることが可能となる。
また、この例においても、必要があれば、中板部17の孔17a〜17fのうちのいずれか1つ以上を透明板で塞ぎ、その孔に対応するウエル内への気体の供給を遮断してもよい。
なお、この例では、6つのウエルW1〜W6を2つずつ3分割して3ゾーンを形成しているが、複数に分割するかぎり、分割の仕方や分割数には制限はない。
【0035】
[第4実施形態例]
図10(a)は、第4実施形態例のスペーサ10Dを示す斜視図であり、図10(b)は、このスペーサ10Dを市販の培養容器20に装着した状態を示す断面図である。ここでも、市販の培養容器20として、図4に示したものと同じく、6つのウエル(2×3)W1〜W6が形成されている6穴タイプの四角形のマルチウエルプレートからなる培養容器本体21と、これに被せられる蓋体22とを具備するものを例示している。
この例のスペーサ10Dは、培養容器本体21に形成されている6つの各ウエルに対応するように、鉛直方向に立設し、両端が開口した6つの筒体19a〜19fを具備しており、図10(b)のようにこの例のスペーサ10Dを培養容器20に装着した際には、各筒体19a〜19fの下端周縁部と各ウエル上端の開口周縁部とがそれぞれ密着し、各筒体19a〜19fの上端周縁部と蓋体22とが密着するようになっている。また、この例のスペーサ10Dは、図11にも示すように、隣合う筒体19a〜19f同士を連通する7つの筒体連通管41a〜41gと、各筒体19a〜19fとスペーサ10Dの外部とを連通する10の外部連通管42a〜42jとを備えている。この例では、各筒体連通管41a〜41gおよび各外部連通管42a〜42jは、各筒体19a〜19fをスペーサ10Dの下枠12に固定する固定手段としての役割も果たしている。さらに、各筒体連通管41a〜41gおよび各外部連通管42a〜42jは、いずれもゴムなどからなる栓体により容易に閉塞可能とされている。
【0036】
このように第4実施形態例のスペーサ10Dは、培養容器本体21に形成されている6つの各ウエルに対応するように、鉛直方向に立設し、両端が開口した6つの筒体19a〜19fからなる隔離手段を備えており、ウエル同士を隔てることができるようになっている。そして、さらに7つの筒体連通管41a〜41gと、10の外部連通管42a〜42jとを備えていて、これらは栓体により容易に閉塞できるようになっている。
そのため、この例のスペーサ10Dによれば、スペーサ10Dを培養容器20に図示のように装着し、適宜、任意の筒体連通管41a〜41gおよび外部連通管42a〜42jを閉塞することによって、図11(b)および(c)に示すように、培養装置30内の空間を複数のゾーンに分割することができる。図11(b)および(c)中、「CLOSE」とされている部分は、栓体により閉塞されている部分である。
よって、分割された各ゾーンごとに独立して異なる種類の気体を供給および排出でき、複数の気体による影響を同時に観察するなど、複数系統の実験をすることが可能となる。
なお、図11(b)の例では、6つのウエルW1〜W6を3つずつ2分割して2ゾーンを形成し、図11(c)の例では、6つのウエルW1〜W6を2つずつ3分割して3ゾーンを形成しているが、複数に分割できるかぎり、分割の仕方や分割数には制限はない。
【0037】
[第5実施形態例]
以上説明した第1〜4実施形態例では、市販の培養容器の培養容器本体として、複数のウエルが形成されているマルチウエルプレートを例示した。以下の本実施形態例では、市販の培養容器として、円形のシャーレ本体とこれを塞ぐ蓋体とからなる市販のシャーレを使用した場合について説明する。
円形のシャーレを使用する場合には、図12に示すように、シャーレに対応する形状に形成された円形のスペーサ10Eを採用し、そのスペーサ10Eに気体供給口14および気体排出口15を一組設けたり(図12(a))、二組設けたりできる(図12(b))。
【0038】
さらに、図13に示すように、円形のシャーレ本体61とこれを塞ぐ蓋体62とからなる市販の円形のシャーレ60に使用されるスペーサ10Eには、その内側に、カルチャーインサート32を係止可能な係止孔23aが1つ形成された水平な係止板23を設け、カルチャーインサート32の底部がシャーレ本体61の底部に接触しないように、カルチャーインサート32を適切な高さに維持しながら、スペーサ10Eに係止できる形態とすることも好適である。具体的には、カルチャーインサート32の底部とシャーレ本体61の底部との隙間が0.8〜1mm程度となるようにすることが好ましい。また、係止孔23aの周縁には、パッキン24を全周にわたって形成して、カルチャーインサート32と係止孔23aとが気密に接続されるようにする。
この場合、スペーサ10Eにより形成されるスペースの高さh’としては、第1の実施形態において説明した高さが好適であり、そのような高さが確保されるように、スペーサ10Eの高さも設計することが好ましい。また、上枠11は蓋体62と、下枠12はシャーレ本体61と嵌合できる高さとされ、上枠の高さは3〜27mm、下枠の高さは3〜25mm程度が好ましい。
【0039】
このようにすると、生体試料33の下側は培地31と接し、上側は供給される気体と接する、いわゆる気液界面培養が可能となり、気相に存在する対象物質が生体試料33に及ぼす影響について、シャーレ60とこれに係止されたカルチャーインサート32とを用いて観察、評価することができる。
なお、この例では、係止孔23aは1つとしたが、複数設けてもよい。そのようにすると、カルチャーインサート32を複数係止することができ、マルチウエルタイプとして使用することも可能となる。
【0040】
以上説明した各形態において、生体試料に対する影響が観察、評価される対象物質としては、各種の気体の他、気相に含まれる液体、固体、揮発性物質などであってもよい。例えば、自動車などから排出される粒子状物質、粉塵、花粉などの固体微粒子;トルエン、ベンゼン、フロン類、ジクロロメタン、アルコール類、アルデヒド類などの揮発性の有機物;などでもよく、空気などの気体に同伴させて、培養装置内に供給できるものであれば、制限はない。また、これら対象物質は、1種単独で供給しても、2種以上を供給してもよい。また、培養環境を維持するために適した気体(湿度100%、37℃、空気95vol%、二酸化炭素5vol%)とともに、対象物質を供給してもよい。
【0041】
生体試料としては、動物、植物由来の細胞、組織片、器官、微生物などが挙げられる。特に細胞としては、気相中に存在する物質の影響を受けやすい呼吸器系に存在する細胞(肺気道や肺胞由来の細胞、気管由来の細胞、鼻腔由来の細胞など。)、皮膚細胞、角膜を構成する細胞、毛髪の細胞、植物のカルス、線虫、菌糸などが挙げられる。
【0042】
また、観察中において、培養装置30内の各種条件を適切に維持するために、種々の手法を採用することができる。
例えば、湿度制御のために、生体試料33が載置されていないウエルやウエル同士の間に、水を入れておくことができる。また、その際、蓋体22の内側に親水性物質をコーティングするなどの処理により結露を防止し、外部からの観察がしやすくなるようにしてもよい。具体的には、例えばアラビアゴムなどの親水性高分子の溶液を少量塗布し乾燥する方法、界面活性剤水溶液(台所洗剤希釈液)を塗布し乾燥する方法、特開平5−15362号公報に記載されているように、セルロース系樹脂をケン化して得られる防曇フィルムを貼る方法などが挙げられる。
【0043】
温度制御のためには、上述した断熱シートを用いる方法の他、顕微鏡観察する場合において保温機能付きのステージを具備した顕微鏡や、保温加湿チャンバー付きの顕微鏡を使用する方法なども採用できる。さらに、蓋体やスペーサに発熱機能を持たせる方法も有効である。例えば蓋体やスペーサの少なくとも一部に、温度調節機能が接続された導電膜を設け、この導電膜に電流を流して発熱させるようにする方法などを例示できる。
【実施例】
【0044】
以下、培養装置内で生体試料を培養しながら、培養装置内の気相に含まれる物質が生体試料に及ぼす影響を観察し、評価する方法について、具体的に説明する。
[評価例1]
ウサギ(日本SCC(株):ニュージーランドホワイト種、16週齢(オス))由来気管を滅菌生理食塩水でタテ半分に切断し、気管内腔面の粘膜層を外側の軟骨などを含む組織から剥離した。粘膜層をメスで細片化し、粘膜片を得た。
一方、図5に示すように、培養装置30を構成した。すなわち、まず、培養容器20として、2×3の6穴タイプの蓋体付きのマルチウエルプレート(SUMILON MS−80060、ポリスチレン製、外寸127.6mm(L)×85.8mm(W)、本体の高さ20.2mm、ウエルの深さ17.0mm、ウエルの直径35.6mm、培養面積9.2cm2/ウエル、ウエル容量16mL)を用意し、ウエルW5に培地31を入れた後、このウエルW5内に、底部がメンブレンからなるセル状のカルチャーインサート32を配置した。そして、メンブレンを介して培地31と接触するように、先に細片化した粘膜片を生体試料33として載置し、培養した。培地31には、ペニシリン−ストレプトマイシン添加、ダルベッコMEM、10%牛胎児血清を0.5mL用いた。また、培地31よりも上方におけるカルチャーインサート32の外周とウエルW5の内周との間には、ゴム製のパッキン34を挿入配置した。そして、マルチウエルプレートと蓋体22との間に図1および図2に示したスペーサ10Aを装着した。これにより形成されるスペースSの高さhを17mmとした。ついで、図5では図示略のセンサ差込口にセンサ類(温度センサ、湿度センサを差し込んで、これらの条件をモニタリングできるようにした。その後、培養装置30ごと、図示略の保温ステージ付倒立微分干渉顕微鏡(オリンパスIX70、対物レンズ20倍)の保温ステージに載置した。
ついで、二酸化硫黄ガス(対象物質として二酸化硫黄を濃度100ppmで含む空気)が入った注射筒36を用意し、この注射筒36をチューブ37を介してスペーサ10の気体供給口14に接続し、注射筒36のピストンを押し込んで、この気体を培養装置30内に供給した。一方、スペーサ10の気体排出口15には気体回収手段として袋35をあらかじめ装着しておき、気体が供給されたことにより過剰となった気体を回収し、培養装置30内の圧力を一定に保てるようにした。
そして、顕微鏡に接続した図示略のデジタルカメラ(アクアコスモス:浜松ホトニクス製)を用いて、サブアレイ64×64ピクセル、バースト取り込みにより、連続的に約70回/秒の頻度で、粘膜表面の繊毛部分の画像を1024枚取り込んで観察し、繊毛部分の各25箇所のエリアそれぞれについて、輝度の経時変化をフーリエ変換し、繊毛運動周波数(CBF)を算出し、二酸化硫黄ガスが粘膜片に与える影響について評価した。
結果を図14に示す。
グラフ中、横軸は曝露時間(min)、縦軸はCBF(Hz)であり、暴露時間0minとは、注射筒36から二酸化硫黄ガスを供給開始した時点である。
図14に示すように、二酸化硫黄ガスの供給を開始した直後に、CBFが低下し、すなわち、繊毛運動が低下することが明らかとなり、リアルタイムでの観察、評価を行うことができた。
【0045】
[評価例2]
評価例1で使用したものと同じ粘膜片を用意した。
一方、図15に示す培養装置30を構成した。すなわち、培養容器20として、評価例1で使用したものと同じ蓋体付きのマルチウエルプレートを用意し、ウエルW5に評価例1と同様に培地31を入れ、カルチャーインサート32を配置し、生体試料33として粘膜片を載置し、培養した。また、カルチャーインサート32の外周とウエルW5の内周との間に、評価例1と同様にして、ゴム製のパッキン34を挿入配置した。そして、マルチウエルプレートと蓋体22との間に、評価例1で使用したものと同じスペーサ10を装着し、同様の高さhのスペースSを形成した。ただし、スペーサ10の気体供給口15には、1mの長さのチューブ37を介して三方コック38を接続した。三方コック38の残りの二方のうちの一方には、温度37℃、湿度100%の空気が供給されるように調整された空気ボックス39と接続し、他方は温度25℃、湿度40%の室内に開放し、空気ボックス39中の空気か、室内の空気のいずれかを選択して、培養装置30に供給できるようにした。一方、スペーサ10の気体排出口15には、脈動を防ぐためのトラップ40を介して、吸引ポンプ41を接続し作動させ、空気ボックス39中の空気を培養装置30内に連続的に取り込んだ。そして、図示略のセンサ差込口に評価例1と同様のセンサ類を差し込んで、培養装置30ごと、評価例1で使用したものと同じ図示略の保温ステージ付倒立微分干渉顕微鏡の保温ステージに載置した。
そして、顕微鏡に接続したデジタルカメラ(アクアコスモス:浜松ホトニクス製)により、評価例1と同様にして連続的に粘膜表面の繊毛部分の画像を取り込んで観察し、同様の手法で繊毛運動周波数(CBF)を算出し、湿度(水分)が粘膜片に与える影響について評価した。
結果を図16に示す。
グラフ中、横軸は曝露時間(min)、縦軸はCBF(Hz)であり、暴露時間0minとは、空気を供給開始した時点である。
図16に示すように、温度37℃、湿度100%の空気を供給した場合には、供給の前後でCBFは変化しなかったが、温度25℃、湿度40%の空気を供給した場合には、供給開始の直後からCBFが徐々に低下し、空気の乾燥により、繊毛運動が低下することが明らかとなった。このように本例によれば、リアルタイムでの観察、評価を行うことができた
【符号の説明】
【0046】
10A〜10E スペーサ
20、60 培養容器
21、61 培養容器本体
22、62 蓋体
30 培養装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養装置の培養容器本体と、該培養容器本体に被せられる蓋体との間に装着され、前記培養容器本体と前記蓋体とを離間させつつ、気密に接続することを特徴とする培養容器用スペーサ。
【請求項2】
培養装置の内側と外側とを連通する開口部が少なくとも1つ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の培養容器用スペーサ。
【請求項3】
複数のウエルが形成された培養容器本体に対して装着されることを特徴とする請求項1または2に記載の培養容器用スペーサ。
【請求項4】
各ウエルに対応する複数の孔が形成された中板部を備え、
前記装着の際には、各孔の周縁部と各ウエルの開口周縁部とが密着することを特徴とする請求項3に記載の培養容器用スペーサ。
【請求項5】
ウエル同士を隔てる隔離手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の培養容器用スペーサ。
【請求項6】
前記培養容器本体と、前記蓋体と、前記培養容器本体と前記蓋体との間に装着された請求項1ないし5のいずれかに記載の培養容器用スペーサとを備えたことを特徴とする培養装置。
【請求項7】
請求項6に記載された培養装置で生体試料を培養しながら、前記培養装置内の気相に含まれる物質が前記生体試料に及ぼす影響を観察することを特徴とする生体試料の観察方法。
【請求項1】
培養装置の培養容器本体と、該培養容器本体に被せられる蓋体との間に装着され、前記培養容器本体と前記蓋体とを離間させつつ、気密に接続することを特徴とする培養容器用スペーサ。
【請求項2】
培養装置の内側と外側とを連通する開口部が少なくとも1つ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の培養容器用スペーサ。
【請求項3】
複数のウエルが形成された培養容器本体に対して装着されることを特徴とする請求項1または2に記載の培養容器用スペーサ。
【請求項4】
各ウエルに対応する複数の孔が形成された中板部を備え、
前記装着の際には、各孔の周縁部と各ウエルの開口周縁部とが密着することを特徴とする請求項3に記載の培養容器用スペーサ。
【請求項5】
ウエル同士を隔てる隔離手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の培養容器用スペーサ。
【請求項6】
前記培養容器本体と、前記蓋体と、前記培養容器本体と前記蓋体との間に装着された請求項1ないし5のいずれかに記載の培養容器用スペーサとを備えたことを特徴とする培養装置。
【請求項7】
請求項6に記載された培養装置で生体試料を培養しながら、前記培養装置内の気相に含まれる物質が前記生体試料に及ぼす影響を観察することを特徴とする生体試料の観察方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−239916(P2010−239916A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93877(P2009−93877)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】
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